【実施例1】
【0035】
図6は、本実施例に係る2光子励起顕微鏡装置100の構成を示す図である。2光子励起顕微鏡装置100は、瞳充足率を観察深さと標本の光学特性とに応じた適切な値に制御して良好な標本画像を得るものである。
【0036】
まず、
図6を参照しながら、2光子励起顕微鏡装置100の構成について説明する。2光子励起顕微鏡装置100は、
図6に示すように、チタンサファイアレーザ11を備える2光子励起顕微鏡10と、制御装置30と、表示装置40と、入力装置50と、記憶装置60と、を備える非線形光学顕微鏡装置である。
【0037】
2光子励起顕微鏡10は、チタンサファイアレーザ11から標本Sまでのレーザ光の光路上に、ビーム径可変光学系12と、ガルバノミラー13と、瞳投影リレーレンズ14と、ミラー15と、結像レンズ16と、ミラー17と、ダイクロイックミラー18と、フォーカス移動部19と、レーザ光を標本Sに照射する対物レンズ1を備えている。なお、2光子励起顕微鏡10は、図示しないレボルバを備えていて、レボルバは対物レンズ1を含む複数の対物レンズを交換自在に保持している。
【0038】
2光子励起顕微鏡10は、さらに、標本Sからの蛍光を反射するダイクロイックミラー18の反射光路(検出光路)上に、レンズ20と、赤外線カットフィルタ(以降、IRカットフィルタと記す)21と、レンズ22と、光電子増倍管23(PMT:Photomultiplier、以降、PMTと記す)を備えている。
【0039】
チタンサファイアレーザ11は、赤外域のレーザ光を出射する2光子励起用のレーザであり、ピコ秒オーダーのパルス幅を有するパルス光を出射する。チタンサファイアレーザ11は、制御装置30の制御下で、出射するレーザ光の強度や波長を変更する。
【0040】
ビーム径可変光学系12は、ビーム径可変光学系12を構成するレンズが光軸方向に移動することによってビーム径を可変させる光学系であり、対物レンズ1に入射するレーザ光のビーム径を変更するビーム径変更部である。ビーム径可変光学系12は、制御装置30の制御下で、レーザ光のビーム径を変更する。
【0041】
ガルバノミラー13は、レーザ光で標本Sを走査するための走査手段である。ガルバノミラー13は、対物レンズ1の瞳位置と光学的に共役な位置に配置されている。つまり、2光子励起顕微鏡10では、瞳投影リレーレンズ14及び結像レンズ16により、ガルバノミラー13の像が対物レンズ1の瞳位置に形成される。このため、ガルバノミラー13が入射光を偏向することで、標本Sでの集光位置を光軸と直交する方向であるXY方向に移動させることができる。
【0042】
ダイクロイックミラー18は、照明光路と検出光路とを分岐させる光路分岐手段であり、チタンサファイアレーザ11からのレーザ光を透過させ、且つ、標本12から生じる蛍光を反射する特性を有する。
【0043】
フォーカス移動部19は、標本Sと対物レンズ1との間の距離を変化させる手段であり、例えば、対物レンズ1を光軸方向に移動させる駆動装置や、標本Sを配置するステージを光軸方向に移動させる駆動装置である。フォーカス移動部19は、制御装置30の制御下で、標本Sとレーザ光の集光位置との位置関係を光軸方向に変化させる。
IRカットフィルタ21は、赤外域のレーザ光を遮断してPMT23にレーザ光が入射することを防止するためのフィルタである。
【0044】
PMT23は、非線形応答光である蛍光を検出する光検出器であり、対物レンズ1の瞳位置と光学的に共役な位置近傍に配置されている。つまり、2光子励起顕微鏡10では、レンズ20及びレンズ22により、対物レンズ1の瞳がPMT23近傍に投影される。このため、標本Sの任意の領域から生じ得る蛍光を検出することができる。
【0045】
制御装置30は、2光子励起顕微鏡装置100全体を制御する制御部であり、例えば、パーソナルコンピュータである。制御装置30は、入力装置50から入力される情報である標本Sの光学特性に基づいて、より望ましくは、標本S中の観察面の深さと標本Sの光学特性とに基づいて、瞳充足率を決定し、決定された瞳充足率になるようにビーム径可変光学系12を制御するように構成されている。なお、瞳充足率は、さらに望ましくは、観察深さと標本Sの光学特性とレーザ光の波長に基づいて決定される。
【0046】
また、制御装置30は、入力装置50から入力される情報に基づいて、チタンサファイアレーザ11、フォーカス移動部19及びPMT23を制御して、レーザ光の強度や波長、観察深さ、PMT23への印加電圧などを変更する。制御装置30は、さらに、入力装置50から入力される情報に基づいて、対物レンズ1を保持する図示しないレボルバやガルバノミラー13を制御して、使用する対物レンズ、スキャンスピードなどを変更してもよい。
【0047】
表示装置40は、標本画像や2光子励起顕微鏡装置100を操作するためのGUI(Graphical User Interface)画面を表示する表示部であり、例えば、液晶ディスプレイ装置や有機EL(Electroluminescence)ディスプレイ装置である。入力装置50は、利用者が2光子励起顕微鏡装置100へ情報を入力するための入力部であり、入力された情報は制御装置30へ出力される。入力装置50は、例えば、マウス、キーボード、表示装置40のディスプレイに重ねて配置されたタッチパネルなどである。
【0048】
記憶装置60は、2光子励起顕微鏡装置100の制御プログラムや制御プログラムで用いられる各種情報が格納される記憶部であり、例えば、ハードディスク装置である。記憶装置60には、制御装置30が入力装置50からの入力に基づいて瞳充足率を決定するための情報として、観察深さ、標本の光学特性、レーザ光の波長及び瞳充足率を関連付けた情報が格納されている。なお、記憶装置60は、制御装置30内に設けられても良い。
【0049】
図7は、2光子励起顕微鏡装置100の設定手順を示すフローチャートである。
図7を参照しながら、2光子励起顕微鏡装置100で良好な標本画像を得るための設定手順について説明する。
【0050】
まず、ステージに標本Sが設置されると、2光子励起顕微鏡装置100は、標本Sの明視野観察画像を取得して、表示装置40に取得した明視野観察画像を表示する(ステップS1)。2光子励起顕微鏡装置100の利用者は、明視野観察画像を見ながら観察すべき部位(観察部位と記す)が視野内に位置するようにステージを移動させる。なお、2光子励起顕微鏡装置100は、
図6には図示しないが、標本Sを面照明する照明手段と標本面と光学的に共役な位置に配置された撮像素子を有していて、明視野観察画像はこれらを用いて取得される。
【0051】
ステップS1の後、利用者が2光子励起顕微鏡装置100の動作モードを、標本Sの2光子励起蛍光画像を取得するためのモード(以降、LSMモードと記す)に切り替えると、2光子励起顕微鏡装置100は、LSMモードの各種設定情報を入力するための画面(以降、設定画面と記す)を表示装置40に表示させる(ステップS2)。
【0052】
図8は、設定画面上に表示されるGUI部品を例示した図である。
図8に示すように、ステップS2で表示される設定画面には、観察深さを設定するためのテキストボックスを含むGUI部品41と、標本Sの散乱特性を設定するためのラジオボタンを含むGUI部品42と、標本S中の発光体の大きさを設定するためのラジオボタンを含むGUI部品43が表示される。
【0053】
利用者はGUI部品41のテキストボックスに観察深さを示す値を入力することで、観察深さの設定を変更することができる。2光子励起顕微鏡装置100は、テキストボックスへ入力された値を取得して、観察深さが取得した値が示す深さになるようにフォーカス移動部19を制御する。これにより、標本S中の観察面の深さをテキストボックスで設定した観察深さに一致させることができる。なお、フォーカス移動部19がテキストボックスに入力された値に基づいて自動的に観察深さを変更する例を示したが、フォーカス移動部19は利用者の操作に基づいて観察深さを変更するように構成されてもよい。
【0054】
利用者はGUI部品42のラジオボタンを選択することで、標本Sの散乱特性を設定することができる。例えば、標本Sが例えば脳などの散乱しやすい標本である場合には「強」を、標本Sが透明に近い散乱しにくい標本である場合には「弱」を、標本Sでの散乱の程度がその中間くらいの場合には「中」を選択する。なお、GUI部品42の代わりに、
図9Aに示すスライダーを含むGUI部品42aにより標本の散乱特性を設定しても良い。
【0055】
利用者はGUI部品43のラジオボタンを選択することで、標本S中の発光体の大きさを設定することができる。例えば、標本S中の発光体の大きさがスポット径よりも大きい場合には「大」を、標本S中の発光体の大きさがスポット径と同程度の場合には「中」を、標本S中の発光体の大きさがスポット径よりも小さい場合には「小」を選択する。なお、GUI部品43の代わりに、
図9Bに示すスライダーを含むGUI部品43aにより標本中の発光体の大きさを設定しても良い。
【0056】
設定画面から入力する設定情報としては、
図8には図示していないが、上記の設定情報の他に、レーザ光の強度や波長などのチタンサファイアレーザ11に関する設定情報、印加電圧などのPMT23に関する設定情報、スキャンスピードなどのガルバノミラー13に関する設定情報、フィルタやミラーの選定を含む光学光路に関する設定情報、使用する対物レンズ(倍率と開口数)に関する設定情報などがある。
【0057】
ステップS2の後、2光子励起顕微鏡装置100は、LSMモード設定を変更する(ステップS3)。ここでは、設定画面から入力された設定情報を取得して各部の設定を変更する。ビーム径可変光学系12の設定の変更について具体的に説明する。
【0058】
まず、2光子励起顕微鏡装置100(制御装置30)は、記憶装置60に設けられている瞳充足率の推奨値が格納された推奨瞳充足率テーブルを参照して、上記の設定情報のうちのレーザ光の波長、観察深さ、標本Sの散乱特性、発光体の大きさの情報に基づいて瞳充足率を決定する。
【0059】
例えば、レーザ光の波長が900nm、観察深さが1000μm、標本Sの散乱特性が「強」、発光体の大きさが「大」であれば、2光子励起顕微鏡装置100は、
図10Aに示す励起波長900nm用の推奨瞳充足率テーブルから瞳充足率の推奨値「0.35」を取得し、設定する瞳充足率を取得した推奨値「0.35」に決定する。
【0060】
記憶装置60には、レーザ光の波長(励起波長)毎に推奨瞳充足率テーブルが設けられている。
図10Aは励起波長900nm用の推奨瞳充足率テーブルであり、
図10Bは励起波長1000nm用の推奨瞳充足率テーブルである。推奨瞳充足率テーブルは、各条件において最も明るい画像が得られる瞳充足率の推奨値が格納されたテーブルであり、後述する推奨瞳充足率テーブル作成処理によって予め作成されている。推奨瞳充足率テーブルに格納された瞳充足率の推奨値は、
図10A及び
図10Bに示すように、標本の光学特性が同じ場合には、観察深さが深いほど小さく、また、観察深さが同じ場合には、標本の散乱特性が強いほど、標本中の発光体の大きさが大きいほど、小さな値である。さらに、観察深さと標本の光学特性が同じ場合には、レーザ光の波長(励起波長)が短いほど小さな値である。
【0061】
なお、散乱による2光子励起効率の減衰値は、観察深さをd、散乱係数をμs(λ)、波長をλとするとき、exp(−μs(λ)・d)・2で表される。例えば、この式によって算出される励起波長900nmでの減衰率に対する励起波長1000nmでの減衰率の比率(つまり、励起波長1000nmでの減衰率/励起波長900nmでの減衰率)が1/2であれば、励起波長1000nmでは900nmに比べて2倍減衰しにくいと判断することができる。このため、
図10Bに示すように、励起波長1000nm用の推奨瞳充足率テーブルは、
図10Aに示す励起波長900nm用の推奨瞳充足率テーブルの観察深さを2倍にしたものとなる。このように、特定の波長用の推奨瞳充足率テーブルが存在するのであれば、他の波長用の推奨瞳充足率テーブルは、波長間の減衰値の比を用いて容易に作成することが可能である。従って、波長間の減衰比が既知である場合には、記憶装置60に予め特定の波長用の推奨瞳充足率テーブルのみを作成しておけばよく、その後、必要に応じて必要な波長用の推奨瞳充足率テーブルを作成してもよい。
【0062】
瞳充足率が決定されると、2光子励起顕微鏡装置100(制御装置30)は、瞳充足率が決定した値になるようにビーム径可変光学系12を制御する。これにより、ビーム径可変光学系12の設定が変更される。
【0063】
ステップS3でビーム径可変光学系12の設定を含むLSMモード設定が変更された後、利用者が2光子励起蛍光画像の取得指示を入力すると、2光子励起顕微鏡装置100は標本Sの2光子励起蛍光画像を取得して表示装置40に表示する(ステップS4)。利用者は、表示装置40に表示された2光子励起蛍光画像を見ながら、瞳充足率の調整の要否を判断する。
【0064】
2光子励起顕微鏡装置100は、利用者による調整の指示の有無を判定する(ステップS5)。指示があると判定した場合には、ユーザの入力に従って瞳充足率を変更する(ステップS6)。一方、指示がないと判定した場合には、
図7に示す設定処理を終了する。
【0065】
ステップS6では、ユーザが瞳充足率を直接的に調整するための
図11に示すスライダーを含むGUI部品44が設定画面上に表示される。そして、2光子励起顕微鏡装置100は、GUI部品44のスライダーの位置に応じてビーム径可変光学系12を制御して瞳充足率を変更する。より詳細には、2光子励起顕微鏡装置100は、ユーザがGUI部品44のスライダーを深部優先側に移動させるほど対物レンズ1の実効NAが小さくなるように、つまり、瞳充足率が小さくなるように、ビーム径可変光学系12を制御する。また、2光子励起顕微鏡装置100は、ユーザがGUI部品44のスライダーを浅部優先側に移動させるほど対物レンズ1の実効NAが大きくなるように、つまり、瞳充足率が大きくなるように、ビーム径可変光学系12を制御する。このため、利用者はGUI部品44のスライダーを移動させることにより、瞳充足率の設定を直接的に調整することができる。
【0066】
なお、設定画面に表示されるGUI部品44のスライダーの初期位置は、現在の瞳充足率に対応する位置であることが望ましい。初期位置を現在の瞳充足率と対応させることで、ステップS4で表示された2光子励起蛍光画像の分解能が十分ではないと判断した場合には、ユーザはGUI部品44のスライダーを浅部優先側に移動させればよく、調整が極めて容易になるからである。
【0067】
ステップS6で瞳充足率が変更された後、2光子励起顕微鏡装置100は、変更後の瞳充足率をユーザ設定として記憶する(ステップS7)。ここでは、2光子励起顕微鏡装置100は、記憶装置60に設けられたユーザ設定テーブルに、変更後の瞳充足率を観察深さ、標本の光学特性、レーザ光の波長等と関連付けて格納する。なお、ユーザ設定テーブルは、ユーザから指示がある場合には、ステップS2において、推奨瞳充足率テーブルの代わりに参照されてもよい。
【0068】
記憶装置60には、標本毎にユーザ設定テーブルが設けられている。
図12は、標本S用のユーザ設定テーブルである。なお、ユーザ設定テーブルの“深さ”、“散乱”、“標本大きさ”の欄には、それぞれ
図8のGUI部品41、GUI部品42、GUI部品43の設定値が格納される。“波長”の欄には、チタンサファイアレーザ11から出射されるレーザ光の波長が格納される。“最適実効NA”の欄には、ステップS3で推奨瞳充足率テーブルを参照して決定した瞳充足率と対物レンズ1の開口数の積(例えば、瞳充足率の推奨値が0.35で対物レンズ1の開口数が1であれば、0.35)が格納される。“対物レンズ種類”の欄には、対物レンズ1の開口数が格納される。“スライダー位置”の欄には、GUI部品44のスライダーの位置が格納される。なお、スライダーが深部優先側の端部に位置するときが0であり、浅部優先側の端部に位置するときが100である。“設定実効NA”の欄には、対物レンズ1の開口数とスライダー位置の値の積を100で割った値(例えば、対物レンズ1の開口数が1でスライダー位置の値が40であれば、0.4)が格納される。“瞳充足率”の欄には、スライダー位置の値を100で割った値が格納される。
【0069】
ステップS7のユーザ設定テーブルの更新処理が完了すると、2光子励起顕微鏡装置100は、ステップS4に戻って、利用者が調整不要である旨を指示するまで、上述した処理を返す。
【0070】
図13は、2光子励起顕微鏡装置100の推奨瞳充足率テーブル作成処理の手順を示すフローチャートである。
図13を参照しながら、推奨瞳充足率テーブル作成処理の手順について説明する。なお、
図13に示す推奨瞳充足率テーブル作成処理は、例えば、散乱特性の強、中、弱と発光体の大きさの大、中、小との組み合わせである計9種類の異なる光学特性を有する標本を用意し、それらの標本毎に実行される。
【0071】
図13に示す推奨瞳充足率テーブル作成処理が開始されると、2光子励起顕微鏡装置100は、まず、ステージに配置された標本の光学特性とチタンサファイアレーザ11から出射されるレーザ光の波長を取得する(ステップS11)。ここでは、2光子励起顕微鏡装置100は、利用者が入力装置50を用いて入力する標本Sの光学特性(例えば、散乱特性が強、発光体の大きさが大)及びレーザ光の波長(例えば、900nm)を取得する。
【0072】
ステップS11の後、2光子励起顕微鏡装置100は、観察深さの範囲と深さ方向のピッチを取得する(ステップS12)。ここでは、2光子励起顕微鏡装置100は、利用者が入力装置50を用いて入力する観察深さの範囲(例えば、0μmから1200μm)と深さ方向のピッチ(例えば、100μm)を取得する。
【0073】
ステップS12の後、2光子励起顕微鏡装置100は、観察深さを最小値に設定する(ステップS13)。ここでは、2光子励起顕微鏡装置100は、観察深さがステップS12で取得した観察範囲の最小値(例えば、0μm)が示す深さになるように、フォーカス移動部19を制御する。
【0074】
ステップS13の後、2光子励起顕微鏡装置100は、瞳充足率毎に2光子励起蛍光画像を取得する(ステップS14)。ここでは、2光子励起顕微鏡装置100は、ビーム径可変光学系12を制御して、瞳充足率毎にPMT23からの信号及びガルバノミラー13の走査位置情報に基づいて2光子励起蛍光画像を取得する。より具体的には、2光子励起顕微鏡装置100は、瞳充足率を、例えば、0.3から1.0まで0.05単位で変更して、それぞれの瞳充足率で2光子励起蛍光画像を取得する。
【0075】
ステップS14の後、2光子励起顕微鏡装置100は、ステップS14で取得した複数の2光子励起蛍光画像を所定の指標に基づいて比較して、最も評価が高い一の2光子励起蛍光画像を決定する(ステップS15)。ここでは、2光子励起顕微鏡装置100は、例えば、画像の明るさを指標にして比較する。即ち、画像の輝度情報に基づいて最も明るい2光子励起蛍光画像を決定する。
【0076】
ステップS15の後、2光子励起顕微鏡装置100は、推奨瞳充足率テーブルを更新する(ステップS16)。ここでは、2光子励起顕微鏡装置100は、ステップS15で決定した2光子励起蛍光画像を取得したときの瞳充足率(例えば、0.6)を、現在の観察深さ(例えば、0μm)と、ステップS11で取得した標本の光学特性(例えば、散乱特性が強、発光体の大きさが大)及びレーザ波長(例えば、900nm)とに関連付けて推奨瞳充足率テーブルに記憶させる。換言すると、2光子励起顕微鏡装置100は、ステップS15で決定した2光子励起蛍光画像を取得したときの瞳充足率をその2光子励起蛍光画像を取得したときの標本の光学特性、観察深さ、及びレーザ光の波長と関連付けて推奨瞳充足率テーブルに記憶させる。
【0077】
ステップS16の後、2光子励起顕微鏡装置100は、観察深さを変更する(ステップS17)。ここで、2光子励起顕微鏡装置100は、ステップS12で決定したピッチだけ観察深さが深くなるように、フォーカス移動部19を制御する。
【0078】
ステップS17の後、2光子励起顕微鏡装置100は、現在の観察深さがステップS12で決定した観察深さの範囲内であるか否かを判定する(ステップS18)。範囲内であると判定した場合には、ステップS14に戻って上記の処理を繰り返す。一方、範囲外であると判定した場合には、
図13に示す処理を終了する。
【0079】
図13の処理を予め用意した標本毎に行うことで、
図10Aに示す推奨瞳充足率テーブルが作成される。なお、異なるレーザ波長の推奨瞳充足率テーブルは、レーザ波長を変更して
図13の処理を再度行うことで作成されてもよく、上述したように、
図13の処理を再度行うことなく波長間の減衰比に基づいて作成されてもよい。
【0080】
本実施例に係る2光子励起顕微鏡装置100では、標本の光学特性に基づいて、より望ましくは観察深さと標本の光学特性とに基づいて、瞳充足率が決定される。より詳細には、制御装置30によって、観察深さが深いほど、標本の散乱特性が強いほど、発光体の大きさが大きいほど、瞳充足率が小さな値に決定される。このため、2光子励起顕微鏡装置100によれば、任意の標本を深部まで明るく観察することができる。
【0081】
また、2光子励起顕微鏡装置100では、利用者が観察深さと標本の光学特性を指定するだけで、明るい画像を得るのに適した瞳充足率の推奨値が自動的に算出され、設定すべき瞳充足率が決定される。このため、2光子励起顕微鏡装置100によれば、顕微鏡に関する専門的な知識を有しない利用者であっても、容易に標本Sを深部まで明るく観察することができる。
【0082】
また、2光子励起顕微鏡装置100では、簡単な操作で瞳充足率を推奨値から変更することができる。このため、2光子励起顕微鏡装置100によれば、画質の微調整も容易に行うことができる。
【0083】
本実施例では、標本の光学特性として、散乱特性及び発光体の大きさを考慮して瞳充足率を決定する例を示したが、標本の光学特性はこれらに限られず、例えば、屈折率の均一性を考慮してもよい。この場合、推奨瞳充足率テーブルに屈折率の均一性の情報を追加した上で、標本の光学特性として散乱特性と発光体の大きさと標本の屈折率の均一性から、瞳充足率を決定しても良い。なお、屈折率の均一性が低いほど大きなNAの光線において収差が発生するため、推奨瞳充足率テーブルに格納される瞳充足率の推奨値は、観察深さが同じ場合には、標本の散乱特性が強いほど、標本中の発光体の大きさほど、標本の屈折率の均一性が低いほど、小さな値となる。
【0084】
また、本実施例では、
図13に示す推奨瞳充足率テーブル作成処理のステップS15において、2光子励起顕微鏡装置100が複数の2光子励起蛍光画像を比較し、画像の輝度情報に基づいて最も明るい画像を決定する例を示したが、2光子励起蛍光画像の決定方法は、この方法に限られない。
【0085】
2光子励起顕微鏡装置100は、瞳充足率毎に取得した複数の2光子励起蛍光画像を表示装置40に表示させてもよい。そして、入力装置50を用いてその複数の2光子励起蛍光画像から利用者が選択した画像をステップS15で決定すべき一の2光子励起蛍光画像として決定してもよい。一般に、コンピュータによる画像の分解能の評価は画像の明るさの評価に比べて難しい。従って、利用者に画像を選択させることで、ステップS15で明るさと分解能を両立した画像を決定することができる。
【0086】
また、2光子励起顕微鏡装置100は、画像の輝度情報と画像取得時の瞳充足率に基づいて画像を決定してもよい。例えば、まず、画像の輝度情報に基づいて、最も明るい画像と最も明るい画像との明るさの差が所定範囲内の画像とを特定する。そして、画像取得時の瞳充足率に基づいて、これらの特定された画像から最も大きな瞳充足率で取得された画像をステップS15で決定すべき一の2光子励起蛍光画像として決定してもよい。これにより、明るさを重視しながら分解能が良好な画像を決定することができる。
【0087】
また、
図6には図示していないが、対物レンズ1は観察深さの変動により生じる球面収差を補正する補正環を備えていても良い。その上で、
図13に示す推奨瞳充足率テーブル作成処理において、観察深さが変更される度に利用者が補正環を操作して観察深さの変動に起因する球面収差が補正されてもよく、記憶装置60が観察深さに関連付けて補正環の設定を記憶してもよい。なお、補正環の設定は、ステップS16で観察深さや瞳充足率などの情報とともに推奨瞳充足率テーブルに格納されてもよい。
【実施例2】
【0088】
本実施例に係る2光子励起顕微鏡装置は、標本の光学特性に基づいてまたは観察深さと標本の光学特性とに基づいて瞳充足率の推奨値を決定する代わりに、標本の光学特性に基づいて瞳充足率の推奨範囲を利用者に提供して利用者が瞳充足率を決定する点が、実施例1に係る2光子励起顕微鏡装置100と異なっている。なお、本実施例に係る2光子励起顕微鏡装置の構成は、
図6に示す実施例1に係る2光子励起顕微鏡装置100と同様である。
【0089】
以下、
図7及び
図14を参照しながら、本実施例に係る2光子励起顕微鏡装置で良好な標本画像を得るための設定手順について、実施例1に係る2光子励起顕微鏡装置100の設定手順と異なる点を説明する。なお、
図14は、本実施例に係る2光子励起顕微鏡装置の設定画面上に表示されるGUI部品を例示した図である。
【0090】
本実施例に係る2光子励起顕微鏡装置100では、ステップS2において、
図14に示すように、標本Sの散乱特性を設定するためのラジオボタンを含むGUI部品45と、標本S中の発光体の大きさを設定するためのラジオボタンを含むGUI部品46と、瞳充足率を設定するためのスライダーを含むGUI部品47とが、設定画面に表示される。
【0091】
利用者はGUI部品45のラジオボタンを選択することで、標本Sの散乱特性を設定することができる。例えば、標本Sが例えば脳などの散乱しやすい標本である場合には「強」を、標本Sが透明に近い散乱しにくい標本である場合には「弱」を、標本Sでの散乱の程度がその中間くらいの場合には「中」を選択する。
【0092】
利用者はGUI部品46のラジオボタンを選択することで、標本S中の発光体の大きさを設定することができる。例えば、標本S中の発光体の大きさがスポット径よりも大きい場合には「大」を、標本S中の発光体の大きさがスポット径と同程度の場合には「中」を、標本S中の発光体の大きさがスポット径よりも小さい場合には「小」を選択する。
【0093】
設定画面から入力する設定情報としては、
図14には図示していないが、上記の設定情報の他に、レーザ光の強度や波長などのチタンサファイアレーザ11に関する設定情報、印加電圧などのPMT23に関する設定情報、スキャンスピードなどのガルバノミラー13に関する設定情報、フィルタやミラーの選定を含む光学光路に関する設定情報、使用する対物レンズ(倍率と開口数)に関する設定情報などがある。
【0094】
利用者がGUI部品45及びGUI部品46を用いて標本の光学特性を指定すると、2光子励起顕微鏡装置の制御装置30は、記憶装置60に設けられている推奨瞳充足率テーブルを参照して、レーザ光の波長、標本Sの散乱特性、発光体の大きさの情報に基づいて瞳充足率の推奨範囲を決定する。そして、瞳充足率の推奨範囲をGUI部品46のスライダー上に表示する。
【0095】
例えば、レーザ光の波長が900nmであり、標本Sの散乱特性が強であり、発光体の大きさが大である場合であれば、これらの条件に合致する瞳充足率の推奨値は、
図10Aに示すように0.3から0.6の範囲内である。従って、2光子励起顕微鏡装置100は、瞳充足率の推奨範囲を0.3から0.6の範囲に決定する。
図14では、スライダー上の網掛け部分は、瞳充足率の推奨範囲を示している。
【0096】
利用者は、スライダー上に表示された瞳充足率の推奨範囲を参考にして、GUI部品46のスライダーを移動させる。また、利用者は、スライダーを移動させる代わりに、GUI部品46のテキストボックスに値を入力してもよい。制御装置30は、その後、利用者が指定した瞳充足率になるように、ビーム径可変光学系12を制御する。
【0097】
2光子励起顕微鏡装置のその他の処理は、実施例1に係る2光子励起顕微鏡装置100の場合と同様である。
【0098】
以上のように、本実施例に係る2光子励起顕微鏡装置では、標本の光学特性に基づいて、瞳充足率の推奨範囲が決定される。より詳細には、標本の散乱特性が強いほど、発光体の大きさが大きいほど、瞳充足率の範囲が小さな値を含む範囲に決定される。そして、決定された推奨範囲は表示装置40に表示されるため、利用者は、表示された推奨範囲を参考にしながら適切な瞳充足率を指定することができる。従って、本実施例に係る2光子励起顕微鏡装置によっても、実施例1に係る2光子励起顕微鏡装置100と同様に、簡単な操作で任意の標本を深部まで明るく観察することができる。
【実施例3】
【0099】
図15は、本実施例に係る2光子励起顕微鏡装置200の構成を示す図である。2光子励起顕微鏡装置200は、瞳充足率を、標本の光学特性に応じた、より望ましくは、標本の光学特性と観察深さに応じた、適切な値に制御して良好な標本画像を得るものであり、2光子励起顕微鏡10の代わりに2光子励起顕微鏡201を備える点が、
図6に示す実施例1に係る2光子励起顕微鏡装置100と異なっている。
【0100】
2光子励起顕微鏡201は、第2の照明手段を備える点と、対物レンズ1の代わりに補正環211を備える対物レンズ210を含む点が、2光子励起顕微鏡10と異なっている。その他の点は、2光子励起顕微鏡10と同様である。
【0101】
第2の照明手段は、フェムト秒パルスレーザ202と、プリズム型ミラー203と、反射型LCOS(商標)(Liquid Crystal On Silicon)204と、ビーム径可変光学系205と、ミラー206とを備えている。第2の照明手段からのレーザ光は、ダイクロイックミラー207により、第1の照明手段(チタンサファイアレーザ11、ビーム径可変光学系12)からのレーザ光と同一の光路に導かれる。
【0102】
フェムト秒パルスレーザ202は、チタンサファイアレーザ11とは異なる波長域のレーザ光を出射するレーザであり、フェムト秒オーダーのパルス幅を有するパルス光を出射する。フェムト秒パルスレーザ202は、制御装置30の制御下で、出射するレーザ光の強度や波長を変更する。
【0103】
プリズム型ミラー203は、フェムト秒パルスレーザ202からのレーザ光を反射型LCOS204に向けて反射させ、反射型LCOS204からのレーザ光をミラー206に向けて反射させるように配置されている。
【0104】
反射型LCOS204は、2次元のピクセル構造を有する位相変調型の空間光変調器であり、対物レンズ210の瞳共役位置に配置されている。反射型LCOS204は、制御装置30からの制御信号に従ってレーザ光の位相をピクセル毎に変調するように構成されている。
【0105】
ビーム径可変光学系205は、ビーム径可変光学系205を構成するレンズが光軸方向に移動することによってビーム径を可変させる光学系であり、対物レンズ210に入射するレーザ光のビーム径を変更するビーム径変更部である。ビーム径可変光学系205は、制御装置30の制御下で、レーザ光のビーム径を変更する。
【0106】
ダイクロイックミラー207は、チタンサファイアレーザ11からのレーザ光の光路とフェムト秒パルスレーザ202からのレーザ光の光路を合成する光路合成手段であり、チタンサファイアレーザ11からのレーザ光を透過させ、フェムト秒パルスレーザ202からのレーザ光を反射する特性を有する。
【0107】
対物レンズ210は、インデックスミスマッチや観察深さの変動などにより生じる球面収差を補正する補正環211を備えた対物レンズである。対物レンズ210は、補正環211を回転させることで、対物レンズ210を構成するレンズの一部が光軸に移動するように構成されている。
【0108】
以上のように構成された2光子励起顕微鏡装置200では、実施例1に係る2光子励起顕微鏡装置100と同様に、対物レンズ210の瞳径に対する対物レンズ210に入射するチタンサファイアレーザ11からのレーザ光のビーム径の比率(以降、第1の瞳充足率と記す)が第1の照明手段を用いて観察すべき観察面の深さ(つまり、観察深さ)と標本Sの光学特性に基づいて決定した値になるように、制御装置30がビーム径可変光学系12を制御する。このため、2光子励起顕微鏡装置200によれば、第1の照明手段を用いて任意の標本を深部まで明るく観察することができる。
【0109】
また、2光子励起顕微鏡装置200では、対物レンズ210の瞳径に対する対物レンズ210に入射するフェムト秒パルスレーザ202からのレーザ光のビーム径の比率(以降、第2の瞳充足率と記す)が第2の照明手段を用いて観察すべき観察面の深さ(つまり、観察深さ)と標本Sの光学特性に基づいて決定した値になるように、制御装置30がビーム径可変光学系205を制御する。このため、2光子励起顕微鏡装置200によれば、第2の照明手段を用いて任意の標本を深部まで明るく観察することができる。
【0110】
また、2光子励起顕微鏡装置200では、ビーム径可変光学系12とビーム径可変光学系205を制御することで、第1の瞳充足率と第2の瞳充足率を別々に調整することができる。このため、異なる波長のレーザ光を出射する第1の照明手段と第2の照明手段を用いて、標本Sの異なる深さの部位を同時に明るく観察することができる。また、標本Sの同じ深さの部位を異なる波長で同時に明るく観察することもできる。
【0111】
さらに、2光子励起顕微鏡装置200の対物レンズ210は、補正環211を備えているため、観察深さに応じて補正環211を操作または制御することで観察深さの変動に起因する球面収差を補正することができる。なお、補正環211による球面収差の補正は、第1の照明手段を用いた観察と第2の照明手段を用いた観察のいずれに適用してもよい。
【0112】
また、2光子励起顕微鏡装置200第1の照明手段を用いた観察と第2の照明手段を用いた観察を同時に行う場合には、第1の照明手段を用いた観察で生じる球面収差を補正環211により補正し、第2の照明手段を用いた観察で生じる球面収差を反射型LCOS204により補正しても良い。なお、対物レンズ210の瞳共役位置に配置された位相変調型の空間光変調器により球面収差を補正する技術は、既知であるので詳細な説明は省略する。
【0113】
上述した実施例は、発明の理解を容易にするために具体例を示したものであり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。非線形光学顕微鏡装置は、特許請求の範囲により規定される本発明の思想を逸脱しない範囲において、さまざまな変形、変更が可能である。例えば、実施例1から3では、非線形光学顕微鏡装置として2光子励起顕微鏡装置を例示したが、3光子励起顕微鏡装置、SHG(Second Harmonic Generation)顕微鏡装置、THG(Third Harmonic Generation)顕微鏡装置、CARS(Coherent Anti-Stokes Raman Scattering)顕微鏡装置などであってもよい。
【0114】
なお、本願発明は、標本の光学特性を考慮して、より望ましくは観察深さ及び標本の光学特性を考慮して瞳充足率を決定するものであるが、本願発明者は、これらを考慮した場合には、従来考えられているよりも小さな瞳充足率が好ましいことがあるということを見出した。具体的には、標本の光学特性に応じて、または、観察深さ及び標本の光学特性に応じて、瞳充足率は0.3以上1以下の値とすることが望ましい。