(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記筋力パラメータは、被検者の前記段差への登攀の際の、荷重の最大値、荷重の増加率、および、測定開始から所定時間までの荷重の時間積分値の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の下肢筋力評価装置。
前記評価項目は、タイムドアップアンドゴーテスト(Timed Up and Go Test:TUG)、開眼片脚起立時間、足腰指数、および転倒率の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の下肢筋力評価装置。
前記制御装置は、前記荷重の時間的変化として、前記第1の荷重検出部から前記第2の荷重検出部への登攀の際の、前記第1および第2の荷重検出部の荷重差の時間的変化を用いて前記被検者の下肢筋力を評価する、請求項8に記載の下肢筋力評価装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
運動器不安定症(MADS)は、筋力の低下に伴う移動歩行能力の悪化が主な要因である。この移動歩行能力は、骨盤帯周囲筋を含めた下肢筋の包括的発揮筋力によってもたらされる。しかしながら、上記の特許文献2〜4に示された筋力測定は、装置に身体を固定し単一動作を行なった場合の筋力を測定するものであり、必ずしも包括的発揮筋力を測定するものではなかった。
【0012】
また、運動器不安定症(MADS)は、一般的に、運動機能低下をきたす特定の疾患の既往があるかまたは罹患しているか否か、ならびに、日常生活自立度および運動機能の評価により診断される。このうち、運動機能の評価基準としては、「開眼片脚起立時間」および「タイムドアップアンドゴーテスト(Timed Up and Go Test:TUG)」が一般的に用いられる。しかしながら、診断においてはこれらの複数のテストを行なう必要がある。
【0013】
特開2008−92979号公報(特許文献1)においては、被検者がしゃがみ姿勢から立ち姿勢へ移行した場合の荷重のピークに基づいて、下肢筋力を評価しているが、移動歩行能力に必要な筋力を評価するものではなく、その評価において、運動器不安定症(MADS)に運動機能評価として用いられる「開眼片脚起立時間」および「TUG」との関連については考慮されていなかった。
【0014】
本発明は、このような課題を解決するためのものであって、その目的は、簡便な手法を用いて被検者の移動歩行能力に必要な下肢筋力の評価を行なうことである。より具体的には、運動器不安定症(MADS)の診断に用いられる運動機能の評価テストに関連する評価値を簡便に取得するための装置および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明による下肢筋力評価装置は、被検者が段差上へ登攀したときの荷重に関する情報を受ける入力部と、入力部で受信された情報から取得される荷重の時間的変化に基づいて、被検者の下肢筋力を評価する判定部とを備える。
【0016】
好ましくは、判定部は、荷重の時間的変化から、下肢筋力に関連する筋力パラメータを演算し、筋力パラメータと下肢筋力の評価項目との間の関係についての予め定められたマップを用いて、被検者の下肢筋力を評価する。
【0017】
好ましくは、筋力パラメータは、被検者の段差への登攀の際の、荷重の最大値、荷重の増加率、および、測定開始から所定時間までの荷重の時間積分値の少なくとも1つを含む。
【0018】
好ましくは、評価項目は、タイムドアップアンドゴーテスト(Timed Up and Go Test:TUG)、開眼片脚起立時間、足腰指数、および転倒率の少なくとも1つを含む。
【0019】
好ましくは、段差上に設けられ、荷重を検出するための荷重検出部をさらに備える。
好ましくは、段差の高さを変更するための、段差調整部をさらに備える。
【0020】
好ましくは、段差調整部は、段差の高さを10cm〜40cmの間で変更できるように構成される。
【0021】
好ましくは、判定部による評価結果を表示するための表示部をさらに備える。
本発明の他の局面においては、下肢筋力評価装置は、段差の下に設けられた第1の荷重検出部と、段差上に設けられた第2の荷重検出部と、被検者が第1の荷重検出部と第2の荷重検出部との間を移動したときに、第1および第2の荷重検出部で検出された荷重の時間的変化に基づいて、被検者の下肢筋力を評価するように構成された制御装置とを備える。
【0022】
好ましくは、制御装置は、第1の荷重検出部から第2の荷重検出部への登攀の際の、第1および第2の荷重検出部の荷重差に基づいて被検者の下肢筋力を評価する。
【0023】
本発明のさらに他の局面においては、下肢筋力評価装置は、段差の下に設けられ第1の荷重検出部と第2の荷重検出部とを有する第1の荷重検出装置と、段差上に設けられ第3の荷重検出部と第4の荷重検出部とを有する第2の荷重検出装置と、被検者が第1の荷重検出装置と第2の荷重検出装置との間を移動したときに、第1から第4の荷重検出部で検出された荷重の時間的変化に基づいて、前記者の下肢筋力を評価するように構成された制御装置とを備える。
【0024】
好ましくは、第1の荷重検出部および第3の荷重検出部は、被験者の左脚の荷重変化を検出する。第2の荷重検出部および第4の荷重検出部は、被験者の右脚の荷重変化を検出する。
【0025】
本発明による下肢筋力評価装置の制御方法は、被検者が段差を登攀したときの段差にかかる荷重を測定するステップと、測定された荷重の時間的変化に基づいて、下肢筋力に関連する筋力パラメータを演算するステップと、筋力パラメータと下肢筋力の評価項目との間の関係についての予め定められたマップと、測定された筋力パラメータとを比較して、被検者の下肢筋力を評価するステップとを備える。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、簡便な手法を用いて被検者の下肢筋力の評価を行なうことができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下において、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0029】
図1は、本発明の実施の形態に従う下肢筋力評価装置100の概要を説明するための全体ブロック図である。
【0030】
図1を参照して、下肢筋力評価装置100は、荷重検出部110と、段差調整部120と、スイッチ150と、制御装置160とを備える。制御装置160は、たとえば、汎用のパーソナルコンピュータをベースとする機器であり、表示部130と、操作部140と、制御部300とを含む。なお、制御装置160は、表示部130、操作部140および制御部300が一体的に形成された専用の機器であってもよい。
【0031】
荷重検出部110は、たとえば、体重計やフォースプレートのように、ロードセルあるいは圧電素子などを用いて、機器上に載せられた物体あるいは被検者の荷重(床反力)に対応した信号を生成する。荷重検出部110は、検出された荷重についての情報LOADを制御装置160へ出力する。
【0032】
荷重検出部110は、段差調整部120上に配置される。段差調整部120は、床面から荷重検出部110までの高さHGTを調整するための機器である。段差調整部120は、たとえば、電動、油圧・空圧、または機械式に動作可能なジャッキであり、操作者によるハンドルなどの手動操作や制御装置160からの駆動指令によるアクチュエータの動作により高さの調整が可能である。
【0033】
段差調整部120で変化することのできる段差の高さHGTは、たとえば、限定はされないが10cm〜40cmであり得る。また、段差の高さHGTは、階段等の公共施設で用いられる10cm〜20cmとし、高齢者でも躓きにくいものとすることがより好ましい。
【0034】
なお、段差の高さHGTは、連続的に変化できるようにしてもよいし、たとえば、5cmごとのような特定のピッチで変化できるようにしてもよい。また、段差調整部120は、固定寸法のスペーサであってもよい。
【0035】
スイッチ150は、下肢筋力評価装置100における測定の開始および停止を指示するためのスイッチである。スイッチ150は、操作者または被検者により操作され、スタート信号SRTおよび終了信号ENDを制御装置160へ出力する。
【0036】
なお、スイッチ150は必ずしも必須な構成ではなく、制御装置160に含まれる操作部140の操作によって測定が開始されるようにしてもよい。あるいは、荷重検出部110による荷重の検出に基づいて、自動的に測定が開始されるようにしてもよい。
【0037】
操作部140は、たとえばキーボードやマウスに代表されるデータ入力用の操作機器である。操作部140はユーザにより操作され、たとえば、被検者に関する情報(ID番号、年齢、性別、身長など)が入力される。操作部140は、入力された情報INPを制御部300に出力する。
【0038】
表示部130は、操作者に対して、さまざまな情報を視覚的に通知するための表示機器である。表示部130としては、CRTやLCDのような表示パネルが用いられる。表示部130は、制御部300からの制御信号DSPに従って、操作部140によって入力されたデータや後述する評価値の演算結果などを表示する。また、表示部130は、システムの状態や異常に関する情報も表示する。
【0039】
なお、表示部130がタッチパネル式のような操作機能を兼ね備えたものである場合には、表示部130と操作部140とが一体に形成される。
【0040】
制御部300は、いずれも
図1には図示しないがCPU(Central Processing Unit)、記憶装置および入出力バッファを含み、各機器からの信号の入力や各機器への制御信号の出力を行なう。また、制御部300は、後述するように、荷重検出部110からの荷重情報LOADに基づいて、被検者の下肢筋力に関連するパラメータ(以下、「筋力パラメータ」とも称する。)を演算するとともに、予め記憶された情報に基づいて、被検者の下肢筋力の評価値を演算する。なお、これらの制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)で処理することも可能である。
【0041】
上述のように、運動器不安定症(MADS)は、下肢筋力の低下に伴う移動歩行能力の悪化によって引き起こされる。一般的には、下肢筋力が低下すると、長い時間の歩行が困難になったり、階段などの段差の昇降が困難になったりする。
【0042】
運動器不安定症(MADS)を診断するためには、被検者の有する下肢筋力を測定・評価することが必要とされる。先行技術として挙げた文献のように、下肢筋力の測定するためのいくつかの手法および装置が提案されている。しかしながら、これら提案されている下肢筋力測定手法の多くは、単一の動作による特定の部分の筋力を測定するものであった。日常生活における動作は、通常、下肢全体の筋力を用いて行なわれるので、このような特定の筋力の測定結果は、必ずしも下肢全体の筋力を表わすものではない。また、上記の提案されている手法のうちの特定の手法においては、比較的大規模かつ高価な装置が必要となるので、小規模の病院への導入が困難である場合があった。
【0043】
現在の運動器不安定症(MADS)の評価には、上述のように「TUG」および「開眼片脚起立時間」が用いられており、その関連性については、これまで多くの文献等によりその有効性が示されている。
【0044】
「TUG」は、肘掛付きの椅子に腰かけた状態から立ち上がり、3mを心地よい速さで歩き、折り返してから再び着座するまでの所要時間によって移動歩行能力を評価するものである。また、「開眼片脚起立時間」は、下肢筋力をバランス能力として評価するものであり、眼を開き、片脚を床から5cm程度あげた状態で、バランスを崩さずに継続して立っている時間を測定する手法である。
【0045】
一方で、上述の「TUG」および「開眼片脚起立時間」などの評価手法と踏み台昇降能力との関連性が、たとえば、「運動器不安定症の評価方法」、北ら、日本整形外科学会雑誌83(5),361−368,2009年5月(非特許文献1)において示されている。
【0046】
運動器不安定症(MADS)によって生じる高齢者の転倒やそれに起因する骨折などは、日常生活における階段等の昇降時やちょっとした段差についての躓きが大きな要因であることが知られている。そのため、移動歩行能力の基盤となる段差登攀時の下肢筋力を評価することによって、運動器不安定症(MADS)の診断の精度を向上させることが期待できる。
【0047】
そこで、本実施の形態においては、
図1に示す下肢筋力評価装置100を用いて、段差登攀時における床反力の時間的変化により被検者の下肢筋力を評価し、「運動器不安定症(MADS)」および「運動器症候群」の診断を行なう手法を説明する。
【0048】
なお、本明細書において「登攀」の語句は、手すり等を介さずに昇段する場合に加えて、たとえば高齢者などが手すりや杖などの補助具を用いて昇段する場合、および、介助者の援助を伴って昇段する場合を含むことを意味するものとする。
【0049】
図2は、
図1の下肢筋力評価装置100における、測定の際の被検者の動作を説明するための図である。
【0050】
被検者は、まず、
図1に示した荷重検出部110の近傍において、両足で床面に起立姿勢をとる。そして、測定開始の合図を受けると、被検者は
図2の左図のように、段差上の荷重検出部110にゆっくりと片脚を載せ、その後荷重検出部110の上面を踏み込みながら体重移動をして、荷重検出部110の段差を登攀する。そして、被検者は、
図2の右図のように荷重検出部110上で再び起立姿勢をとって静止する。荷重検出部110で検出される荷重LOADが整定したことに応じて測定が終了する。
【0051】
このような段差登攀動作を、数回(たとえば、2〜3回)繰り返し、各登攀動作時の荷重の時間変化を記録する。また、必要に応じて、段差調整部120によって段差高さを変化させて、同様の測定を実行する。
【0052】
図3は、
図2のような被検者の段差登攀動作時に、荷重検出部110で測定される荷重(床反力)の一例を示す図である。
【0053】
図1および
図3を参照して、まず、測定における一般的な荷重の変化を説明する。時刻t10において測定の開始が合図されると、被検者は床面から荷重検出部110への登攀を開始する。そして、時刻t11から荷重検出部110で検出される床反力が増加し始める。
【0054】
その後、時刻t13にて、床面から段差上へと体重が移動し、床反力が最大値を示す。このとき、段差上へ登攀するための踏込み力によって、ピーク圧は、被検者の体重よりも大きくなる。そして、被検者が静止姿勢をとることによって、床反力が被検者の体重に向かって徐々に整定する。
【0055】
このような段差登攀時の荷重変動において、下肢筋力の低下は、以下のような影響をおよぼし得る。
【0056】
高齢者のように下肢筋力が低下すると、すばやい動作が徐々に困難になる傾向がある。そのため、下肢筋力が低下している場合、測定開始から実際に登攀が開始されるまでの反応時間T1や、登攀が完了しピーク圧に到達するまでの時間T3が、下肢筋力が低下していない場合に比べて長くなり得る。
【0057】
また、下肢筋力が低下している場合には、バランスを保つことが困難になる場合があるので、段差の登攀完了後の静止姿勢をすぐにとることができず、測定される床反力が整定するまでの時間T4が長くなり得る。
【0058】
さらに、段差の登攀に要する時間が長くなることから、床反力の増加率(すなわち、荷重の微分値)が低くなる。すなわち、たとえば、床反力が被検者の体重の80%に到達するまでの立ち上がり時間T2が長くなり得る。
【0059】
荷重の大きさについては、下肢筋力が低下している場合には、登攀時に段差を踏み込む力が弱くなるため、測定される床反力のピーク圧は低くなる。
【0060】
したがって、
図3に示された上述のような時間や荷重、およびそれらを適宜組み合わせたものを「筋力パラメータ」として定義することで、この筋力パラメータの大きさによって下肢筋力の大きさを表わすことが可能である。すなわち、「筋力パラメータ」とは、下肢筋力を評価する際に用いる基準となる変数である。
【0061】
また、筋力パラメータとして、
図3においてハッチングで示されるように、測定開始から所定の時間までの、時間にわたる荷重の積分値を用いることも可能である。この所定の時間については、着目する被検者の動作に応じて適宜選択可能であり、たとえば、
図3のように床反力が被検者の体重に整定するまでの時間T4としてもよいし、ピーク圧が生じるまでの時間T3としてもよい。
【0062】
あるいは、
図3において、測定開始時(時刻t10)の床反力(=0)と、測定完了時(時刻t14)における床反力(体重)とを結んだ直線L10よりも大きくなる床反力を積分したものを筋力パラメータとして採用してもよい。この直線L10は、測定開始から測定完了までの時間内に、一定の割合で床反力が変化するように段差上へ移動したような仮想的な場合を表わす線であり、言い換えれば、直線L10より下方の床反力の積分値は、段差を登攀する際に最低限必要となる下肢筋力を表わす指標であると考えることもできる。そのため、この直線L10を上回る床反力の積分値を筋力パラメータとして採用することで、被検者の有する下肢筋力の評価が可能となる。
【0063】
上記のような筋力パラメータを用いて下肢筋力を評価するための評価値としては、たとえば、運動器不安定症(MADS)の診断に用いられる「TUG」(
図4)および「開眼片脚起立時間」(
図5)、ならびに、「足腰指数」(
図6)や「転倒率」(
図7)のうちの少なくとも1つが含まれる。
【0064】
「TUG」は、上述のように、肘掛付きの椅子に腰かけた状態から立ち上がり、3mを心地よい速さで歩き、折り返してから再び着座するまでの所要時間によって移動歩行能力を評価するものである。そのため、
図4の曲線W30に示されるように、下肢筋力が大きくなる方向に筋力パラメータが変化するにつれて所要時間は短くなり、下肢筋力が低下すると所要時間が長くなる傾向になる。
【0065】
多数の被検者に対してTUGを行なった結果に基づいて、この
図4に示されるような筋力パラメータとの関係を示すマップを予め作成しておくことによって、実際にTUGを実施しなくても、所定の段差を登攀する際の床反力の時間的変化の測定から演算される筋力パラメータを用いて、被検者の下肢筋力を評価することが可能になる。
【0066】
「開眼片脚起立時間」は、眼を開き、片脚を床から5cm程度あげた状態で、バランスを崩さずに継続して立っている時間を測定し、下肢筋力をバランス能力として評価するものである。したがって、
図5の曲線W40のように、起立時間は、下肢筋力が低下するにつれて短くなる傾向になる。
【0067】
「足腰指数」は、運動器症候群を診断するために用いられる評価指数であり、被検者による所定の質問票に記載された各質問に対する回答を点数化し、全質問についての点数の加算結果によって運動器症候群の重症度を評価するものである。足腰指数の点数が大きいほど症状が重くなる。そのため、
図6の曲線W50に示されるように、下肢筋力が低下するにつれて点数が高くなる傾向になる。
【0068】
「転倒率」は、たとえば、ある母集団における過去1年間の転倒回数を、その母集団の人数で除算したものとして定義される。下肢筋力が低下すると、自身の体を支える力が弱まってしまう。そのため、転倒率と下肢筋力との関係は、
図7の曲線W60のように、下肢筋力が低下するにつれて転倒率が増加する傾向になる。
【0069】
「開眼片脚起立時間」、「足腰指数」および「転倒率」についても、多くの被検者のデータに基づいて、
図5〜
図7のようなマップを予め作成しておくことによって、
図1に示したようなシステムを用いて取得した段差登攀動作時の筋力パラメータを用いて、運動器不安定症(MADS)および運動器症候群の診断を容易にすることが可能となる。なお、上記の各マップは、段差の高さに応じて異なるマップが設定される。
【0070】
上述の非特許文献1において示されているように、各評価値と踏み台昇降能力との間には有意な関連性がある。そのため、筋力パラメータを適切に設定することによって、所定の段差を登攀する単純な動作に基づいて、被検者の下肢筋力を評価することができる。
【0071】
なお、下肢筋力を評価する評価項目としては、上述の「TUG」、「開眼片脚起立時間」、「足腰指数」および「転倒率」には限られず、たとえば「要介護度」のような他の評価項目を採用することもできる。この場合にも、
図4〜
図7に示されるような筋力パラメータと評価指標との相関関係を、事前に実験等によって設定しておくことで、段差登攀動作に基づいて、下肢筋力を評価することができる。
【0072】
図8は、本実施の形態において、制御部300で実行される制御を説明するための機能ブロック図である。
図8の機能ブロック図に記載された各機能ブロックは、制御部300によるハードウェア的あるいはソフトウェア的な処理によって実現される。
【0073】
図8を参照して、制御部300は、入力部310と、タイマー部320と、演算/判定部330と、記憶部340と、表示制御部350とを含む。
【0074】
入力部310は、スイッチ150からの開始信号STRTおよび終了信号END、荷重検出部110からの荷重情報LOAD、および操作部140において入力された入力情報INPを受ける。入力部310は、受信したこれらの情報を、タイマー部320および演算/判定部330へ出力する。
【0075】
タイマー部320は、開始信号STRTに基づいて、測定開始からの時間を管理する。タイマー部320は、演算/判定部330からの要求に応じて、
図3で説明したような反応時間T1等の時間情報TIMを演算/判定部330へ出力する。また、タイマー部320は、測定開始から整定完了までの荷重の積分におけるサンプリングのタイミングを、演算/判定部330へ提供する。
【0076】
演算/判定部330は、入力部310からの情報、およびタイマー部320からの時間情報TIMに基づいて、
図3で説明したような被検者についての筋力パラメータを演算する。そして、演算/判定部330は、
図4〜
図7で説明したような、記憶部340に予め記憶された下肢筋力を評価するための評価値のマップと、演算により求めた被検者の筋力パラメータとを比較して、被検者についての下肢筋力の評価値を決定する。
【0077】
演算/判定部330は、当該被検者に関する情報とともに、演算結果RSLTを記憶部340へ記憶する。そして、演算/判定部330は、演算結果RSLTを表示制御部350へ出力する。なお、このとき、当該被検者についての過去の演算結果が記憶部340に記憶されている場合には、演算/判定部330は、被検者の過去の結果についても表示制御部350へ出力するようにして、被検者についての経時的な変化を表示させてもよい。
【0078】
表示制御部350は、被検者に関する情報および決定された被検者の下肢筋力評価値を含む演算結果RSLTを、演算/判定部330から受ける。表示制御部350は、これらの情報に基づいて制御信号DSPを生成し、表示部130へ所定のデータを表示させる。
【0079】
図9は、制御部300で実行される処理の詳細を説明するためのフローチャートである。
図9に示すフローチャート中の各ステップについては、制御部300に予め格納されたプログラムが所定周期でメインルーチンから呼び出されて実行されることによって実現される。あるいは、一部のステップについては、専用のハードウェア(電子回路)を構築して処理を実現することも可能である。
【0080】
図1および
図9を参照して、制御部300は、システムが起動されると、ステップ(以下、ステップをSと略す。)100において、初期化処理を実行する。この初期化処理には、制御処理における変数等を初期状態に設定することだけでなく、たとえば、操作者によって入力された被検者に関する情報に基づいた記憶部340(
図8)に記憶された被検者の過去の測定記録の表示や、段差調整部120の段差の高さHGTに応じた評価値のマップの選択などが含まれる。
【0081】
その後、制御部300は、S110にて、たとえば、スイッチ150からの開始信号STRTによって、測定が開始されたか否かを判定する。測定が開始されていない場合(S110にてNO)は、処理がS110に戻されて、制御部300は測定が開始されるのを待つ。
【0082】
測定が開始された場合(S110にてYES)は、S120へ処理が進められ、制御部300は、被検者の荷重検出部110への登攀動作中における荷重検出部110からの荷重情報LOADによって床反力を測定する。測定された床反力のデータは、制御部300の一時バッファ(図示せず)に記憶される。
【0083】
そして、制御部300は、S130にて、測定された床反力が整定したか否かを判定する。床反力が整定したか否かは、荷重の時間変動が所定の範囲内となる状態が一定時間継続したことによって判断される。
【0084】
床反力が整定していない場合(S130にてNO)は、処理がS120に戻され、測定データが整定するまで床反力の測定を継続する。
【0085】
床反力が整定した場合(S130にてYES)は、処理がS140に進められて、制御部300は、一時バッファに蓄えられている測定データを、
図8で示した記憶部340へ記憶させる。そして、制御部300は、S150にて測定回数をカウントアップする。
【0086】
その後、制御部300は、S160にて、カウントした測定回数が予め定められた所定回数に到達したか否か、すなわち、所定回数の測定が完了したか否かを判定する。
【0087】
所定回数の測定が完了していない場合(S160にてNO)は、処理がS110に戻されて、上述したS110からS150までの処理を繰り返す。なお、この所定回数は、必ずしも複数回であることは必要ではなく1回の測定とすることも可能であるが、被検者の動作状態によっては不適切な測定データとなってしまうおそれがある。そのため、たとえば、2〜3回程度の測定を実行し、得られた測定データを平均化したり、あるいは、異常と推定されるデータを含む測定データを排除したりすることによって、取得したデータの精度を向上させることが望ましい。また、測定については、左右の脚について個別に実行する。すなわち、段差の登攀を開始する際に最初に段差上に配置する脚が右の場合と、左の場合について測定を実行する。
【0088】
所定回数の測定が完了した場合(S160にてYES)は、処理がS170に進められる。なお、任意的に、操作者による指示によって、所定回数の測定が完了していない場合であっても測定を完了させてS170へ進めるようにしてもよい。
【0089】
S170では、制御部300は、測定されたデータに基づいて、
図3で説明したような筋力パラメータを演算する。そして、制御部300は、演算により求めた筋力パラメータに基づいて、上述の
図4〜
図7に示したマップを用いて各評価値を算出する。
【0090】
そして、制御部300は、S180にて、S170で演算した評価値を、当該被検者の過去の評価結果等とともに表示部130へ表示する。
【0091】
以上のような処理に従って制御を行なうことによって、段差を登攀するという、被検者の簡便な動作によって被検者の下肢筋力の評価を行なうことができる。特に、従来から行なわれている運動器不安定症(MADS)の診断手法の結果と関連付けられたマップを用いて評価することによって、段差登攀動作時の荷重変化の測定結果を用いて、従来手法による診断結果を容易に推定することが可能となる。
【0092】
そして、このような比較的シンプルな構成の装置を用いて、簡便な手法で下肢筋力の評価が実行できるので、小規模の病院においても導入が容易となり、また高齢者でも容易に被検者となることができる。これによって、より多くの人についての下肢筋力の状態を把握することができるので、適切なリハビリを早期に行なうことができ、下肢筋力低下に伴う転倒や骨折などを予防することが可能となる。
【0093】
[変形例1]
図10は、本実施の形態に従う下肢筋力評価装置の他の例を説明するための全体ブロック図である。
図10における下肢筋力評価装置100Aは、
図1に示した下肢筋力評価装置100と比べて、2つの荷重検出部110A,110Bが設けられる点が異なっている。なお、
図10において、
図1と重複する要素の説明は繰り返さない。
【0094】
図10を参照して、荷重検出部110Aは床面に設置される。また、荷重検出部110Bは、床面に設けられた段差調整部120上に設置される。荷重検出部110A,110Bは、
図1の荷重検出部110と同様に、機器上に載せられた物体あるいは被検者の荷重を検出し、検出した荷重情報LOAD1,LOAD2をそれぞれ制御部300へ出力する。
【0095】
この変形例においては、被検者は、まず荷重検出部110Aの上で静止し、その後、段差が設けられた荷重検出部110Bへと登攀動作を行なう。そして、制御部300は、被検者の登攀動作中の、荷重検出部110A,110Bによる荷重変化を測定する。
【0096】
図11に、
図10に示される下肢筋力評価装置100Aにおける、2つの荷重検出部110A,110Bで検出される荷重の時間的変化を示す。
図11において、破線の曲線W10は荷重検出部110Aの荷重変化を示し、実線の曲線W20は荷重検出部110Bの荷重変化を示す。
【0097】
このように、2つの荷重検出部を用いて、段差登攀時の、段差の下段にかかる荷重と段差の上段にかかる荷重とを測定することによって、被検者の体重移動についての情報をさらに取得して筋力パラメータとして選択することができる。
【0098】
たとえば、段差上段における荷重LOAD2と段差下段における荷重LOAD1との差Δや、段差上段における荷重LOAD2と段差下段における荷重LOAD1との大小関係が逆転する点(
図11中の点P1)に到達するまでの時間T5、または段差上段における荷重LOAD2と段差下段における荷重LOAD1との和(合力)などを、筋力パラメータとして採用することができる。
【0099】
また、
図10に示した下肢筋力評価装置100Aにおいては、段差の上段(荷重検出部110B)から下段(荷重検出部110A)に降りる動作の際の床反力の変化を測定することも可能である。段差を登るときと降りるときでは、筋力を発揮する部位が必ずしも同じではないため、段差昇降の両方の場合の床反力を用いることで、より広範な下肢筋力の評価を可能とすることができる。
【0100】
[変形例2]
図12は、本実施の形態に従う下肢筋力評価装置のさらに他の例を説明するための全体ブロック図である。
図12における下肢筋力評価装置100Bは、
図10に示した下肢筋力評価装置100Aにおける2つの荷重検出部において、左脚および右脚の荷重変化を個別に測定することができる構成となっている点が異なっている。なお、
図12において、
図1,10と重複する要素の説明は繰り返さない。
【0101】
図12を参照して、荷重検出装置110Cは床面に設置される。また、荷重検出装置110Dは、床面に設けられた段差調整部120上に設置される。荷重検出装置110Cは2つの荷重検出部111,112を含んで構成され、一方、荷重検出装置110Dは2つの荷重検出部113,114を含んで構成される。
【0102】
たとえば、被験者が床面のレベルから段差上に登攀する場合には、荷重検出部111,113は被験者の左脚の荷重変化を検出し、荷重検出部112,114は被験者の右脚の荷重変化を検出する。検出された荷重情報LOAD1,LOAD2は、それぞれ制御部300へ出力される。
【0103】
段差上への登攀動作を行なう場合、上記の変形例1で述べたような登攀動作中の各脚の荷重変化に加えて、登攀動作前および登攀動作後においても、左右の各脚にかかる荷重のバランスが変化し得る。たとえば、高齢者や骨折等の治療を行なった患者などのように下肢筋力の低下が生じている場合には、十分な下肢筋力を有している場合に比べて、段差上の脚での体重の支持、または段差下の脚での蹴り上げのような片脚で発揮できる筋力の大きさが小さくなったり、筋力を維持できる時間が短くなったりする可能性がある。そのため、
図12のように床面レベルおよび段差上レベルの各々に複数の荷重検出部を備えて、登攀動作前から登攀動作が終了するまでの右脚および左脚の荷重変化を個別に測定することによって、被験者の下肢筋力をより精度よく評価することが可能となる。
【0104】
なお、図には示していないが、上述した各実施の形態において、たとえば直交する2軸の荷重を検出することが可能な荷重検出部を採用して、荷重検出部上で片脚立ちした状態における重心変動の大きさを測定し、その測定結果を考慮して下肢筋力の評価をさらに行なうようにしてもよい。
【0105】
また、水平2軸,鉛直1軸のような三次元的に荷重を検出可能な荷重検出部を採用することも可能である。この場合にも、筋力パラメータを適宜選択し、選択された筋力パラメータと上述したような評価項目との間の予め定められた相関関係を用いることによって、段差昇降動作時の荷重変動から下肢筋力を評価することが可能である。
【0106】
上記の実施の形態においては、段差上への登攀動作時に、床面から段差上へゆっくりと体重移動を行なう場合を例として説明したが、登攀動作の手法はこれに限定されず、対象とする被験者に応じて変更してもよい。たとえば、健常者やスポーツ選手の下肢筋力を評価する場合のように登攀動作に対して被験者が十分な余力を有している場合や、特定の運動形態(跳躍時、ダッシュ時など)における下肢筋力の評価を行なう場合には、ゆっくりとした登攀動作ではなく、被験者の出力可能な筋力を用いて勢いよく登攀するようにしてもよい。このような状態で下肢筋力を評価する場合には、「TUG」、「開眼片脚起立時間」、「足腰指数」および「転倒率」などの運動器不安定症(MADS)の評価項目に代えてあるいは加えて、年齢別の平均下肢筋力との比較や、特定の運動形態(運動種目)において必要とされる下肢筋力との比較による潜在的運動能力の評価項目を使用するようにしてもよい。
【0107】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。