(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して説明する。
【0012】
(第1実施の形態)
図1は、本発明の第1実施の形態に係る計測システム10の概略構成を示す図である。本実施の形態に係る計測システム10は、音響機器装着部20と、測定部200とを備える。音響機器装着部20は、基台30に支持された耳型部50と、測定対象の音響機器1を保持する保持部70とを備える。音響機器1は、振動体を備え、該振動体を人体の耳介に接触させて音をユーザに伝える。例えば音響機器1は補聴器や、あるいは矩形状の筐体の表面に、人の耳よりも大きい矩形状のパネルを有するスマートフォン等の携帯電話で、パネルが振動体として振動する。
【0013】
図2は、本発明における音響機器1及び音の伝達を示す概略図である。
図2においては、音響機器1が補聴器1である例について図示している。音響機器1が補聴器1である場合、音響機器1は振動体10aに加えてマイク部20aを備える。マイク部20aは、音源からの音を集音し、振動体10aは、マイク部20aが集音した音を増幅してユーザに音を振動により伝える。
【0014】
図2に示すように、音源からの音は、振動体10aにより覆われていない部分から外耳道を通って、直接鼓膜に到来する(経路I)。また振動体10aの振動による気導音が、外耳道を通って鼓膜に到来する(経路II)。また振動体10aの振動により少なくとも外耳道内壁が振動し、当該外耳道の振動による気導音(外耳道放射音)が鼓膜に到来する(経路III)。さらに振動体10aの振動により振動音が、鼓膜を介さずに聴覚神経に直接到来する(経路IV)。なお振動体10aから生じた一部の気導音は、外界へ逃げる(経路V)。
【0015】
次に、音響機器1が装着される音響機器装着部20の構成について説明する。耳型部50は、人体の耳を模したもので、人工耳介51と、該人工耳介51に結合された人工外耳道部52とを備える。人工外耳道部52は、人工耳介51を覆う大きさを有し、中央部に人工外耳道53が形成されている。耳型部50は、人工外耳道部52の周縁部において、支持部材54を介して基台30に支持されている。
【0016】
耳型部50は、例えば人体模型のHATS(Head And Torso Simulator)やKEMAR(ノウルズ社の音響研究用の電子マネキン名)等に使用される平均的な人工耳介の素材と同様の素材、例えば、IEC60318―7に準拠した素材からなる。この素材は、例えば硬度35から55のゴム等の素材で形成することができる。なお、ゴムの硬さは、例えばJIS K 6253やISO 48などに準拠した国際ゴム硬さ(IRHD・M 法)に準拠して測定されるとよい。また、硬さ計測システムとしては、株式会社テクロック社製 全自動タイプIRHD・M法マイクロサイズ 国際ゴム硬さ計GS680が好適に使用される。なお、耳型部50は、年齢による耳の硬さのばらつきを考慮して、大まかに、2から3種類程度、硬さの異なるものを準備し、これらを付け替えて使用するとよい。
【0017】
人工外耳道部52の厚さ、つまり人工外耳道53の長さは、人の鼓膜(蝸牛)までの長さに相当するもので、例えば20mmから40mmの範囲で適宜設定される。本実施の形態では、人工外耳道53の長さを、ほぼ30mmとしている。
【0018】
耳型部50には、人工外耳道部52の人工耳介51側とは反対側の端面において、人工外耳道53の開口周辺部に位置するように振動音計測部55が配置されている。振動音計測部55は、音響機器1の振動体を耳型部50に当てた際に人工外耳道部52を経て伝わる振動量を検出する。つまり、振動音計測部55は、音響機器1の振動体を人体の耳に押し当てた際に、音響機器1の振動体の振動が直接内耳を揺らし、鼓膜を経由しないで聴く振動音成分に相当する振動量を検出する。ここで振動音とは、振動する物体に接触する利用者の体の一部(例えば外耳の軟骨)を介して利用者の聴覚神経に伝わる音である。振動音計測部55は、例えば、音響機器1の測定周波数範囲(例えば、0.1kHz〜30kHz)においてフラットな出力特性を有し、軽量で微細な振動でも正確に計測できる振動検出素子56により構成される。このような振動検出素子56は、例えば、圧電式加速度ピックアップ等の振動ピックアップ、例えばリオン社製の振動ピックアップPV−08A等が使用可能である。
【0019】
図3(a)は、耳型部50を基台30側から見た平面図である。
図3(a)では、人工外耳道53の開口周辺部を取り囲むようにリング状の振動検出素子56を配置した場合を例示しているが、振動検出素子56は、1個だけでなく、複数個であってもよい。複数個の振動検出素子56を配置する場合は、人工外耳道53の周辺部に適時の間隔で配置してもよいし、人工外耳道53の開口周辺部を取り囲むように円弧状の2個の振動検出素子56を配置してもよい。なお、
図3(a)において、人工外耳道部52は矩形状を成しているが、人工外耳道部52は任意の形状とすることができる。
【0020】
さらに、耳型部50には、気導音計測部60が配置されている。気導音計測部60は、人工外耳道53を経て伝播される音の音圧を測定する。つまり、気導音計測部60は、音響機器1の振動体を人体の耳に押し当てた際に、音響機器1の振動体の振動により空気が振動して直接鼓膜を経由して聴く気導音に相当する音圧、及び、音響機器1の振動体の振動により外耳道内部が振動して耳自体で発生した音を鼓膜経由で聴く気導音に相当する音圧を測定する。なお気導音とは、物体の振動に起因する空気の振動が外耳道を通って鼓膜に伝わり、鼓膜が振動することによって利用者の聴覚神経に伝わる音である。さらに気導音計測部60は、音響機器1とは別の音源が存在する場合、当該音源からの直接音の音圧も測定する。
【0021】
気導音計測部60は、
図3(b)に
図3(a)のb−b線断面図を示すように、人工外耳道53の外壁(穴の周壁)から、リング状の振動検出素子56の開口部を通して延在するチューブ部材61に保持されたマイク部62を備える。マイク部62は、例えば、音響機器1の測定周波数範囲においてフラットな出力特性を有し、自己雑音レベルの低い計測用コンデンサマイクにより構成される。このようなマイク部62は、例えばリオン社製のコンデンサマイクロホンUC−53A等が使用可能である。マイク部62は、音圧検出面が人工外耳道部52の端面にほぼ一致するように配置される。なお、マイク部62は、例えば、人工外耳道部52や基台30に支持して、人工外耳道53の外壁からフローティング状態で配置してもよい。
【0022】
次に、保持部70について説明する。保持部70は、音響機器1を支持する支持部71を備える。支持部71は、音響機器1(
図1では、音響機器1のパネル10aだけを模式的に示している。)を耳型部50に対して押圧する方向に、y軸と平行な軸y1を中心に回動調整可能にアーム部72の一端部に取り付けられている。アーム部72の他端部は、基台30に設けられた移動調整部73に結合されている。移動調整部73は、アーム部72を、y軸と直交するx軸と平行な方向で、支持部71に支持される音響機器1の上下方向x1と、y軸及びx軸と直交するz軸と平行な方向で、音響機器1を耳型部50に対して押圧する方向z1とに移動調整可能に構成されている。
【0023】
これにより、支持部71に支持された音響機器1は、軸y1を中心に支持部71を回動調整することで、又は、アーム部72をz1方向に移動調整することで、振動体の耳型部50に対する押圧力が調整される。本実施の形態では、0Nから10Nの範囲で押圧力が調整される。もちろん軸y1に加え、他の軸を中心に支持部71を回動自在に構成されてもよい。
【0024】
なお、0Nの場合として、例えば耳型部50に接触しているが押し当てていない場合のみならず、耳型部50から1cmきざみで離間させて保持でき、それぞれの離間距離において測定ができるようにしてもよい。これにより、気導音の距離による減衰の度合いもマイク部62による測定により可能となり、計測システムとしての利便性が向上する。
【0025】
また、アーム部72をx1方向に移動調整することで、耳型部50に対する音響機器1の接触姿勢が、例えば、振動体が耳型部50のほぼ全体を覆う姿勢や、
図1に示されるように、振動体が耳型部50の一部を覆う姿勢に調整される。なお、アーム部72を、y軸と平行な方向に移動調整可能に構成したり、x軸やz軸と平行な軸回りに回動調整可能に構成したりして、耳型部50に対して音響機器1を種々の接触姿勢に調整可能に構成してもよい。なお、振動体は、パネルのような耳を幅広く覆うものに限られず、耳型部50の一部、例えば耳珠の部位だけに対して振動を伝達させるような突起や角部を有する音響機器であっても本発明の測定対象となりうる。
【0026】
次に、
図1の測定部200の構成について説明する。
図4は、測定部200の要部の構成を示す機能ブロック図である。本実施の形態では、測定対象の音響機器1の振動によって耳型部50を介して伝わる振動量と音圧、つまり振動音と気導音とが合成された体感音圧を測定するもので、感度調整部300、信号処理部400、PC(パーソナルコンピュータ)500及びプリンタ600、試験音呈示部700を備える。
【0027】
振動検出素子56及びマイク部62の出力は、感度調整部300に供給される。感度調整部300は、振動検出素子56の出力の振幅を調整する可変利得増幅回路301と、マイク部62の出力の振幅を調整する可変利得増幅回路302とを備える。そして、それぞれの回路に対応するアナログの入力信号の振幅を、手動又は自動により所要の振幅に独立して調整する。これにより、振動検出素子56の感度及びマイク部62の感度の誤差を補正する。なお、可変利得増幅回路301,302は、入力信号の振幅を例えば±50dBの範囲で調整可能に構成される。
【0028】
感度調整部300の出力は、信号処理部400に入力される。信号処理部400は、A/D変換部410、周波数特性調整部420、位相調整部430、出力合成部440、周波数解析部450、記憶部460、及び、信号処理制御部470を備える。A/D変換部410は、可変利得増幅回路301の出力をデジタル信号に変換するA/D変換回路(A/D)411と、可変利得増幅回路302の出力をデジタル信号に変換するA/D変換回路(A/D)412とを備える。そして、それぞれの回路に対応するアナログの入力信号をデジタル信号に変換する。なお、A/D変換回路411,412は、例えば16ビット以上、ダイナミックレンジ換算で96dB以上に対応できる。またA/D変換回路411,412は、ダイナミックレンジが変更可能に構成することができる。
【0029】
A/D変換部410の出力は、周波数特性調整部420に供給される。周波数特性調整部420は、A/D変換回路411の出力である振動検出素子56による検出信号の周波数特性を調整するイコライザ(EQ)421と、A/D変換回路412の出力であるマイク部62による検出信号の周波数特性を調整するイコライザ(EQ)422とを備える。そして、それぞれの入力信号の周波数特性を、手動又は自動により人体の聴感に近い周波数特性に独立して調整する。なお、イコライザ421,422は、例えば複数バンドのグラフィカルイコライザ、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ等から構成される。尚、イコライザ(EQ)とA/D変換回路とは配列順序が逆であってもよい。
【0030】
周波数特性調整部420の出力は、位相調整部430に供給される。位相調整部430は、イコライザ421の出力である振動検出素子56による検出信号の位相を調整する可変遅延回路431を備える。すなわち、耳型部50の材質を伝わる音速と人体の肉や骨を伝わる音速とは全く同じではないので、振動検出素子56の出力とマイク部62の出力との位相関係が、特に高い周波数で人体の耳とのずれが大きくなることが想定される。
【0031】
このように、振動検出素子56の出力とマイク部62の出力との位相関係が大きくずれると、後述する出力合成部440での両出力の合成時に、実際とは異なる値において振幅のピークやディップが現れたり、合成出力が増減したりする場合がある。例えば、振動検出素子56で検出される振動の伝達速度に対して、マイク部62で検出される音の伝達速度が0.2ms遅れる場合、2kHzの正弦波振動による両者の合成出力は、
図5(a)に示すようになる。これに対し、両者の伝達速度にずれがない場合の合成出力は、
図5(b)に示すようになり、本来起こらないタイミングで振幅のピークやディップが現れることになる。なお、
図5(a),(b)において、太線は振動検出素子56での振動検出波形を示し、細線はマイク部62での音圧検出波形を示し、破線は合成出力波形を示している。
【0032】
そのため、本実施の形態では、測定対象の音響機器1の測定周波数範囲に応じて、イコライザ421の出力である振動検出素子56による検出信号の位相を、可変遅延回路431により所定の範囲で調整する。例えば、音響機器1の測定周波数範囲が100Hz〜10kHzの場合、可変遅延回路431により±10ms(±100Hz相当)程度の範囲で、少なくとも0.1ms(10kHz相当)より小さい単位で振動検出素子56による検出信号の位相を調整する。なお、人体の耳の場合でも、振動音と気導音との位相ずれは生じるので、可変遅延回路431による位相調整は、振動検出素子56及びマイク部62の両者の検出信号の位相を合わせるという意味ではなく、両者の位相を耳による実際の聴感に合わせるという意味である。
【0033】
位相調整部430の出力は、出力合成部440に供給される。出力合成部440は、可変遅延回路431により位相調整された振動検出素子56による検出信号と、位相調整部430を通過したマイク部62による検出信号とを合成する。これにより、測定対象の音響機器1の振動によって伝わる振動量と音圧、つまり振動音と気導音とが合成された体感音圧を人体に近似させて得ることが可能となる。
【0034】
出力合成部440の合成出力は、周波数解析部450に入力される。周波数解析部450は、出力合成部440からの合成出力を周波数解析するFFT(高速フーリエ変換)451を備える。これにより、FFT451から、振動音(vib)と気導音(air)とが合成された体感音圧(air+vib)、すなわち合成音に相当するパワースペクトルデータが得られる。
【0035】
さらに、本実施の形態において、周波数解析部450は、出力合成部440で合成される前の信号、すなわち、位相調整部430を経た振動検出素子56による検出信号とマイク部62による検出信号とをそれぞれ周波数解析するFFT452,453を備える。これにより、FFT452から、振動音(vib)に相当するパワースペクトルデータが得られ、FFT453から、気導音(air)に相当するパワースペクトルデータが得られる。
【0036】
なお、FFT451〜453は、音響機器1の測定周波数範囲に応じて周波数成分(パワースペクトル)の解析ポイントが設定される。例えば、音響機器1の測定周波数範囲が100Hz〜10kHzの場合は、測定周波数範囲の対数グラフにおける間隔を100〜2000等分した各ポイントの周波数成分を解析するように設定される。
【0037】
FFT451〜453の出力は、記憶部460に記憶される。記憶部460は、FFT451〜453による解析データ(パワースペクトルデータ)をそれぞれ複数保持できるダブルバッファ以上の容量を有する。そして、後述するPC500からのデータ送信要求タイミングで、常に最新データを送信できるように構成することができる。
【0038】
信号処理制御部470は、例えば、USB,RS−232C,SCSI、PCカード等のインターフェース用の接続ケーブル510を介してPC500に接続される。そして、PC500からのコマンドに基づいて、信号処理部400の各部の動作を制御する。なお、信号処理部400は、CPU(中央処理装置)等の任意の好適なプロセッサ上で実行されるソフトウェアとして構成したり、DSP(デジタルシグナルプロセッサ)によって構成したりすることができる。
【0039】
PC500は、計測システム10による音響機器1の装用効果を提示する評価アプリケーションを有する。評価アプリケーションは、例えば、CD−ROMやネットワーク等を介してダウンロードされ、記憶部520に記憶される。またPC500は、制御部530により当該評価アプリケーションを実行する。そしてPC500は、例えば評価アプリケーションに基づくアプリケーション画面を表示部540に表示する。また、該アプリケーション画面を介して入力される情報に基づいて信号処理部400にコマンドを送信する。また、PC500は、信号処理部400からのコマンド応答やデータを受信し、受信したデータに基づいて所定の処理を施して、アプリケーション画面に測定結果を表示する。また、必要に応じて測定結果をプリンタ600に出力して印刷する。
【0040】
なお、
図4において、感度調整部300及び信号処理部400は、例えば音響機器装着部20の基台30上に搭載し、PC500及びプリンタ600は、基台30から離れて設置して、信号処理部400とPC500とを接続ケーブル510を介して接続することができる。
【0041】
試験音呈示部700は、図示しない試験信号生成部により、単一周波数のサイン波信号(純音)や純音スイープ信号やマルチサイン波、或いは震音(ウォーブルトーン)、帯域雑音(バンドノイズ)等を生成でき、当該試験音をスピーカ機能により呈示できる。或いは、試験音をスピーカ機能ではなく、音響機器1の外部端子に接続可能であり、音響機器1への入力信号として入力することができるようになっている。
【0042】
図6は表示部540に表示される測定結果画面の一例を示す図である。測定結果画面には、気導音計測部60により計測した気導音(air)と振動音計測部55により計測した振動音(vib)とが表示される。さらに測定結果画面には、ユーザが音響機器1を装用したときの目標(装用効果目標)となる、気導音に係る特性値(“air特性値”)及び振動音に係る特性値(“vib特性値”)が表示される。音響機器1が発する気導音及び振動音は、それぞれair特性値及びvib特性値に近接する程、ユーザにとって快適に聞こえる音となる。当該特性値を下回る程、ユーザが感じる音が小さくなり過ぎて聞こえ難く、また当該特性値を上回る程、ユーザが感じる音が大きくなり過ぎて聞こえ難くなる。
【0043】
好適には気導音に係る特性値及び振動音に係る特性値は、ユーザの耳に対して所定の気導音圧(例えば50dB)を目標として設定したときに、予め聴力検査により得られたデータを参照して決定される。
図7に、聴力検査により得られた、
図6の特性値に対応するデータを示す。好適には当該データは、PC500の記憶部520に記憶される。
図7における“AIR”は、聴力検査により得られた気導音に係るデータ(気導受話器による各周波数の気導閾値)を示す。ここで気導閾値未満の音は、当該ユーザには聞こえない。また
図7における“BONE”は、聴力検査により得られた振動音に係るデータ(骨導受話器による各周波数の骨導閾値)を示す。ここで骨道閾値未満の音は、当該ユーザには聞こえない。
【0044】
ここで
図7に示す“AIR”は、250Hz、500Hz、1000Hz(1kHz)、2000Hz(2kHz)、4000Hz(4kHz)、8000Hz(8kHz)に対してそれぞれ気導閾値が50dBである。すなわち気導音に関しては、当該ユーザは各周波数において50dB以上でなければ聞こえない。一方で振動音に係るデータは、250Hz、500Hz、1000Hz、2000Hz、4000Hz、8000Hzに対してそれぞれ骨導閾値が10dBである。すなわち振動音については、当該ユーザは各周波数においてほぼ正常な大きさで聞こえている。したがって
図7に示す聴力検査の結果により、当該ユーザは外耳〜中耳の間に聴力低下の要因があり、伝音難聴であることがわかる。聴力検査により得られた
図7に示すデータに基づく特性値の計算方式は、複数の方式が提唱されており、
図6ではそのうちFIG6(フィグシックス)という計算方式により計算した結果を示している。
【0045】
図6に示すように、本発明における計測システム10によれば、振動体を人体の耳介に接触させて音をユーザに伝える音響機器1の装用効果を定量的に提示可能である。そして提示された装用効果に基づき、音響機器1が発する気導音及び振動音の音圧を総合的に調整することができる。当該調整は、例えば音響機器1に設けられた複数のトリマーにより行う。複数のトリマーにより周波数毎の音響利得(ゲイン)を調整して音圧を変更することにより、音響機器1をユーザの聴力レベルに適合させることができる。例えば
図6の例では、低域(100Hz〜1000Hz)においては、振動音が特性値(vib特性値)に近接するように調整されている。また高域(2000Hz〜10000Hz)においては、気導音が特性値(air特性値)に近接するように調整されている。
【0046】
なお音響機器1が発する気導音及び振動音は、音響機器1の振動体と耳への当てつけ構造により決定される。具体的には当該当てつけ構造により、音響機器1が発する気導音及び振動音との比率は、周波数毎にα:β等と決まっている。そのため気導音又は振動音のいずれか一方のみの音圧を大きくする等の調整は不可能である。そこで本発明における計測システム10により提示される装用効果に基づき、振動音又は気導音のうち、音圧を0から次第に大きくしていった場合に、ユーザに先に聞こえる方の特性値(air特性値又はvib特性値)に近接するように調整する。このように調整することで、気導音又は振動音のいずれかが必要以上の大きさになってしまうことを防止することができ、ユーザにとって快適な調整を容易に行うことができる。
【0047】
図8は、本発明の測定システムによる音響機器1の調整の一例を示すフローチャートである。以下音響機器1の調整は、PC500の制御部530が行うものとして説明する。
【0048】
初めにPC500の制御部530は、聴力検査により得られたデータを記憶部520から取得する(ステップS1)。ここでは周波数250Hz、500Hz、1000Hz、2000Hz、4000Hz、及び8000Hzにおけるデータを取得するものとして説明する。
【0049】
次に制御部530は、取得した聴力検査のデータに基づき、気導音及び振動音に係る特性値を計算する(ステップS2)。当該計算は例えばFIG6(フィグシックス)により行う。
【0050】
続いて制御部530は、音響機器1の250Hzの気導音及び振動音の出力音圧のいずれかが、それぞれ気導音又は振動音に係る特性値に近接するように、250Hzにおける音響機器1の音圧を0から次第に大きくして調整する(ステップS3)。
【0051】
続いて制御部530は、音響機器1の500Hzの気導音及び振動音の出力音圧のいずれかが、それぞれ気導音又は振動音に係る特性値に近接するように、500Hzにおける音響機器1の音圧を0から次第に大きくして調整する(ステップS4)。
【0052】
続いて制御部530は、音響機器1の1000Hzの気導音及び振動音の出力音圧のいずれかが、それぞれ気導音又は振動音に係る特性値に近接するように、1000Hzにおける音響機器1の音圧を0から次第に大きくして調整する(ステップS5)。
【0053】
続いて制御部530は、音響機器1の2000Hzの気導音及び振動音の出力音圧のいずれかが、それぞれ気導音又は振動音に係る特性値に近接するように、2000Hzにおける音響機器1の音圧を0から次第に大きくして調整する(ステップS6)。
【0054】
続いて制御部530は、音響機器1の4000Hzの気導音及び振動音の出力音圧のいずれかが、それぞれ気導音又は振動音に係る特性値に近接するように、4000Hzにおける音響機器1の音圧を0から次第に大きくして調整する(ステップS7)。
【0055】
続いて制御部530は、音響機器1の8000Hzの気導音及び振動音の出力音圧のいずれかが、それぞれ気導音又は振動音に係る特性値に近接するように、8000Hzにおける音響機器1の音圧を0から次第に大きくして調整する(ステップS8)。そして調整処理が終了する。
【0056】
以上のように調整することで、気導音又は振動音のいずれか一方が必要以上の大きさになってしまうことを防止することができ、ユーザにとって快適な調整を容易に行うことができる。なお上記の音響機器1の調整においては、周波数250Hz、500Hz、1000Hz、2000Hz、4000Hz、及び8000Hzにおける音圧を調整したがこれに限られず、他の周波数において調整を行ってもよい。なお上記の例ではPC500の制御部530が音響機器1の調整を行うものとしたがこれに限られない。例えば作業者が、測定結果画面を画面上で見ながら、音響機器1の各周波数における気導音及び振動音の出力音圧がいずれかの特性値に近接するように手作業で調整するようにしてもよい。
【0057】
なお上記の実施形態では、音響機器1が発する気導音及び振動音のみを考慮していたが、これに限られず、音源からの直接音、すなわち
図2における経路Iの音を加味してもよい。
図9に音源からの直接音のパワースペクトルデータを示す。
図9に示す音源からの直接音も加味することで、より現実の使用態様に適合した音響機器1の調整を行うことが可能となる。
【0058】
なお、
図6に示す測定結果画面においては、気導音、振動音、及び特性値のデータを周波数帯域に対応したグラフ等の曲線として図示したがこれに限られない。例えばこれらのデータを、特定の周波数に対応した数値として表示されるようにしてもよい。
【0059】
なお、本実施の形態においては、測定結果画面には、気導音と、振動音と、気導音に係る特性値と、振動音に係る特性値とが表示されるようにしたがこれに限られず、気導音と気導音に係る特性値のみが表示されるようにしてもよい。あるいは振動音と振動音に係る特性値のみが表示されるようにしてもよい。またこのような表示の切り替えは、PC500の評価ソフトウェアの機能により必要な表示のみを行い、不必要なものを非表示にすることにより行うようにする。
【0060】
なお、本実施の形態においては、気導音及び振動音を分けて提示するようにしたが合成音を提示するようにしてもよい。
図10では、気導音及び振動音及び音源からの直接音を合成した合成音を出力した場合の測定結果画面を示す。この場合、気導音、振動音、及び直接音の合成音と、ユーザが音響機器1を装用したときの目標となる、気導音及び振動音の合成音に係る特性値が表示されるようにする。
【0061】
(第2実施の形態)
以下、本発明の第2実施の形態について説明する。第2実施の形態は第1実施の形態と比較して、計測システム110の構成が相違する。その他の構成は第1実施の形態と同一である。第1実施の形態と同一の構成については同一の符号を付し、説明は省略する。
【0062】
図11は、本発明の第2実施の形態に係る計測システム110の要部の概略構成を示す図である。本実施の形態に係る計測システム110は、音響機器装着部120の構成が第1実施の形態における音響機器装着部20と異なるもので、その他の構成は第1実施の形態と同様である。したがって、
図11においては、第1実施の形態で示した測定部200の図示を省略してある。音響機器装着部120は、人体の頭部模型130と、測定対象の音響機器1を保持する保持部150とを備える。頭部模型130は、例えばHATSやKEMAR等からなる。頭部模型130の人工耳131は、頭部模型130に対して着脱自在である。
【0063】
人工耳131は、耳型部を構成するもので、
図12(a)に頭部模型130から取り外した側面図を示すように、第1実施の形態の耳型部50と同様の人工耳介132と、該人工耳介132に結合され、人工外耳道133が形成された人工外耳道部134とを備える。人工外耳道部134には、人工外耳道133の開口周辺部に、第1実施の形態の耳型部50と同様に、振動検出素子を備える振動音計測部55が配置されている。また、頭部模型130の人工耳131の装着部には、
図12(b)に人工耳131を取り外した側面図を示すように、中央部にマイクを備える気導音測定部136が配置されている。気導音測定部136は、頭部模型130に人工耳131が装着されると、人工耳131の人工外耳道133を経て伝播される音の音圧を測定するように配置されている。なお、気導音測定部136は、第1実施の形態の耳型部50と同様に、人工耳131側に配置してもよい。振動音計測部55を構成する振動検出素子及び気導音測定部136を構成するマイクは、第1実施の形態と同様に測定部に接続される。
【0064】
保持部150は、頭部模型130に着脱自在に取り付けられるもので、頭部模型130への頭部固定部151と、測定対象の音響機器1を支持する支持部152と、頭部固定部151及び支持部152を連結する多関節アーム部153と、を備える。保持部150は、多関節アーム部153を介して、支持部152に支持された音響機器1の人工耳131に対する押圧力及び接触姿勢を、第1実施の形態の保持部70と同様に調整可能に構成されている。
【0065】
本実施の形態に係る計測システム110によると、第1実施の形態の計測システム10と同様の測定結果が得られる。特に、本実施の形態では、人体の頭部模型130に、振動検出用の人工耳131を着脱自在に装着して音響機器1を評価するので、頭部の影響が考慮された実際の使用態様により即した評価が可能となる。
【0066】
本発明を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各手段、各部材、各ステップ等に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段や部材等を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。