特許第6234086号(P6234086)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6234086
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】制振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20171113BHJP
   B23Q 11/00 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   F16F15/02 S
   F16F15/02 R
   B23Q11/00 A
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-140476(P2013-140476)
(22)【出願日】2013年7月4日
(65)【公開番号】特開2015-14312(P2015-14312A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2016年5月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】311006238
【氏名又は名称】株式会社カワタテック
(74)【代理人】
【識別番号】100104662
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智司
(72)【発明者】
【氏名】栗田 裕
(72)【発明者】
【氏名】中川 平三郎
(72)【発明者】
【氏名】田邉 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】大浦 靖典
(72)【発明者】
【氏名】小川 圭二
(72)【発明者】
【氏名】川田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】酒谷 保至
(72)【発明者】
【氏名】松本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】川井 恵
【審査官】 熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−162284(JP,A)
【文献】 特開2010−151298(JP,A)
【文献】 特開平08−105123(JP,A)
【文献】 特開2012−219570(JP,A)
【文献】 特開平08−109947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00−15/36
B23Q 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空形状を有する円筒部材の外周に装着されて、該円筒部材の振動を制振する制振装置であって、
それぞれ可撓性を有し、積層された状態で前記円筒部材の外周に巻回される帯状をした複数の減衰板と、
同じく可撓性を有し、前記複数の減衰板の外周に巻回される帯状の部材であって、前記複数の減衰板を結束する結束バンドと
前記結束バンドの締め付け状態を調整する締め付け具とを備えていることを特徴とする制振装置。
【請求項2】
前記結束バンドは、その一端側に、長手方向が該結束バンドの幅方向に沿うように穿孔された複数のスリット状の係合孔が、該結束バンドの長手方向に沿って一定間隔で形成されてなり、
前記締め付け具は、前記結束バンドの他端が係着される本体部と、この本体部に回転自在に保持され、歯部が前記結束バンドの一端側に形成された係合孔に係合するウォームギヤとから構成されることを特徴とする請求項記載の制振装置。
【請求項3】
少なくとも前記複数の減衰板表面の一部分に、粒状物を含む皮膜を形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の制振装置。
【請求項4】
少なくとも前記複数の減衰板表面の一部分に、粗面化加工を施したことを特徴とする請求項1又は2記載の制振装置。
【請求項5】
少なくとも前記複数の減衰板間の一部分に、粘着剤を介在させたことを特徴とする請求項1又は2記載の制振装置。
【請求項6】
中空形状を有する円筒部材の外周に装着されて、該円筒部材の振動を制振する制振装置であって、
それぞれ可撓性を有し、積層された状態で前記円筒部材の外周に巻回される帯状をした複数の減衰板と、
同じく可撓性を有し、前記複数の減衰板の外周に巻回される帯状の部材であって、前記複数の減衰板を結束する結束バンドとを備えており、
前記複数の減衰板のうち、最下層の減衰板は、その幅方向両外側に向けて延設される少なくとも一対の保持片を備え、該各保持片は前記減衰板の積層方向に屈曲され、且つ上端部が結束バンドの上方側に折り返されて、前記複数の減衰板及び結束バンドを一体的に保つように構成されていることを特徴とする制振装置。
【請求項7】
中空形状を有する円筒部材の外周に装着されて、該円筒部材の振動を制振する制振装置であって、
それぞれ可撓性を有し、積層された状態で前記円筒部材の外周に巻回される帯状をした複数の減衰板と、
同じく可撓性を有し、前記複数の減衰板の外周に巻回される帯状の部材であって、前記複数の減衰板を結束する結束バンドとを備えており、
前記複数の減衰板のうち、最下層の減衰板は、打ち抜き形成され、且つ積層方向に屈曲された突出片を備えるとともに、最下層より上層の減衰板は、前記突出片に対応する位置に、前記突出片が挿入される貫通孔が穿孔されてなり、
前記突出片は、前記上層の減衰板に形成された貫通孔に挿入された状態で、その上端部が折り返されて、前記複数の減衰板を一体的に保つように構成されていることを特徴とする制振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空且つ円筒状をした部材を旋削する際に、当該円筒部材の振動を制振する制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
中空且つ円筒状をした部材(ワーク)を旋削する場合、切削抵抗によってワークにビビリ振動を生じるという問題が、従来から広く知られており、特に、薄肉のワークを旋削する場合には、ビビリ振動を生じ易い。そこで、従来、このようなワークを旋削する際に、このビビリ振動を抑えることができるチャック装置として、特開2012−187688号公報(特許文献1)に開示されたチャック装置が提案されている。
【0003】
上記特許文献1に開示されたチャック装置は、テーブルと、このテーブル上に放射状に配設された複数の挟持手段とを備え、各挟持手段は、相互に対向するように配設された第1接触手段及び第2接触手段と、これらを連結する連結部とから構成される。また、第1接触手段は、ワークに接触するパッドと、このパッドをワークに対して進退させるボルトとを備えている。
【0004】
このチャック装置によれば、まず、中空円筒状のワークを、各挟持手段の第1接触手段と第2接触手段との間に挿入した後、各挟持手段をテーブルの径方向外側に移動させて、前記第2接触手段をワークの内面に接触させる。ついで、第1接触手段のボルトを回転させて、同パッドをワークの外面に軽く接触させた後、ワークの芯出しを行い、芯出し後、更に、ボルトを回転させて、パッド及び第2接触手段によってワークを挟持する。そして、このようにしてワークを挟持した後、各挟持手段をテーブル上に固定する。
【0005】
斯くして、このチャック装置によれば、第1接触手段と第2接触手段とによりワークの肉厚部分を挟持し、且つ各挟持手段をテーブルの上面に押し付けるように固定しているので、ワークに生じる応力及び歪を最小限に抑えることができ、ビビリ振動が生じるのを防止することができるとのことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−187688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記従来のチャック装置は、中空且つ円筒状をしたワークの内、比較的短尺のワークについては、当該ワークに生じるビビリ振動を抑えることができるかもしれないが、長尺のワークについては、その構造上、十分な制振作用を発揮し得ないものであった。
【0008】
即ち、上記従来のチャック装置は、ワークの端部を把持する構造であるため、長尺のワークの場合には、その解放端側の自由度が高く、このため、自励振動を生じ易い、即ち、ビビリ振動を生じ易いのである。
【0009】
本発明は、以上の実情に鑑みなされたものであって、中空且つ円筒状をした部材を旋削する際に、部材の長さを問わず、ビビリ振動の発生を効果的に抑えることができる制振装置の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、
中空形状を有する円筒部材の外周に装着されて、該円筒部材の振動を制振する制振装置であって、
それぞれ可撓性を有し、積層された状態で前記円筒部材の外周に巻回される帯状をした複数の減衰板と、
同じく可撓性を有し、前記複数の減衰板の外周に巻回される帯状の部材であって、前記複数の減衰板を結束する結束バンドとを備えた制振装置に係る。
【0011】
この制振装置によれば、可撓性を有する複数の減衰板を円筒部材の外周に巻回させるとともに、この減衰板を結束バンドによって結束しているので、前記円筒部材に旋削を施す際に、仮に、当該円筒部材に振動が発生すると、この振動が前記複数の減衰板に伝播されて当該減衰板が振動し、この振動に伴う減衰板間の摩擦によって、伝播された振動エネルギーが吸収され、これにより円筒部材の振動が減衰され、制振される。
【0012】
円筒状部材が振動するという現象は、当該円筒状部材が半径方向への曲げ変形を繰り返すという現象であり、この曲げ変形に伴って、当該円筒状部材の外周に巻回された複数の減衰板が同様にそれぞれ半径方向への曲げ変形を繰り返す。そして、積層されている複数の減衰板間には、曲げ変形の違いによる滑りが生じるとともに、この滑りによって各減衰板間に摩擦を生じ、前記振動に係るエネルギーがこの摩擦によって生じる熱エネルギーに変換され、当該振動が減衰されるのである。このように、本発明に係る制振装置によれば、減衰板間の摩擦によって円筒部材の振動が制振される。
【0013】
また、上記のように、可撓性を有する複数の減衰板を円筒部材の外周に巻回させた構造であるので、これを円筒部材の長手方向に沿って任意の最適な位置に配置することができる。したがって、長尺の円筒部材や、加工条件に応じて振動状態が異なる円筒部材に対し、その配置位置を調整することで、最適な状態での制振を実現することができ、ビビリ振動を抑制するための最適化を図ることができる。また、長尺の円筒部材に対しては、複数の制振装置を配設することで、より適切に制振することが可能である。
【0014】
なお、前記減衰板を結束バンドによって結束し、当該減衰板を円筒部材の外周面に押し付けるようにしても、円筒部材の外周面には、減衰板による一様な押圧力が作用するので、円筒部材に生じる歪は最小限に抑えられる。
【0015】
上記制振装置は、更に、前記結束バンドの締め付け状態を調整する締め付け具を備えている。上述したように、円筒状部材に生じる振動は、各減衰板間に生じる摩擦によって減衰され、この減衰板間に生じる摩擦は、減衰板を結束する結束バンドの締め付け力によって変動する。したがって、前記締め付け具により結束バンドの締め付け状態を調整することで、前記減衰板間の摩擦抵抗を調整することができ、このように減衰板間の摩擦抵抗を調整することで、ビビリ振動の大きさやその周波数に応じた最適な制振を実現することができる。
【0016】
また、上記制振装置において、前記結束バンドは、その一端側に、長手方向が該結束バンドの幅方向に沿うように穿孔された複数のスリット状の係合孔が、該結束バンドの長手方向に沿って一定間隔で形成されてなり、前記締め付け具は、前記結束バンドの他端が係着される本体部と、この本体部に回転自在に保持され、歯部が前記結束バンドの一端側に形成された係合孔に係合するウォームギヤとから構成されていても良い。このように構成された制振装置では、ウォームギヤを回転させることで、これに係合する結束バンドの一端側がその長手方向に移動し、この結果、当該結束バンドの締め付け状態が調整される。また、減衰板に大きな締め付け力を作用させることができ、このような大きな締め付け力を作用させることで、当該制振装置の振動減衰機能を高めることができるとともに、円筒部材の見かけ上の剛性も向上させることができることから、制振のための相乗的な効果が奏される。
【0017】
また、上記制振装置において、少なくとも前記複数の減衰板表面の一部分に、粒状物を含む皮膜を形成する、或いは、少なくとも前記複数の減衰板表面の一部分に、粗面化加工を施すようにしても良い。このようにすれば、減衰板表面の摩擦抵抗をより大きくすることができ、当該制振装置の振動減衰機能をより高めることができる。
【0018】
また、上記制振装置において、少なくとも前記複数の減衰板間の一部分に、粘着剤を介在させても良い。このようにすれば、前記複数の減衰板が分散されるのを、この粘着剤の粘着性によって防止することができる。
【0019】
また、上記制振装置において、前記複数の減衰板のうち、最下層の減衰板は、その幅方向両外側に向けて延設される少なくとも一対の保持片を備え、該各保持片は前記減衰板の積層方向に屈曲され、且つ上端部が結束バンドの上方側に折り返されて、前記複数の減衰板及び結束バンドを一体的に保つように構成されていてもよい。このように構成しても、減衰板の分散が防止される。
【0020】
また、上記制振装置において、前記複数の減衰板のうち、最下層の減衰板は、打ち抜き形成され、且つ積層方向に屈曲された突出片を備えるとともに、最下層より上層の減衰板は、前記突出片に対応する位置に、前記突出片が挿入される貫通孔が穿孔されてなり、前記突出片は、前記上層の減衰板に形成された貫通孔に挿入された状態で、その上端部が折り返されて、前記複数の減衰板を一体的に保つように構成されていても良い。このように構成しても、減衰板の分散が防止される。
【発明の効果】
【0021】
以上詳述したように、本発明によれば、可撓性を有する複数の減衰板を円筒部材の外周に巻回させているので、この円筒部材に旋削を施す際に、仮に、当該円筒部材に振動が発生すると、この振動が減衰板間の摩擦によって吸収され、即ち、減衰され、制振される。また、円筒部材の長手方向に沿って任意の最適な位置に配置することができるので、最適な状態での制振を実現することができ、ビビリ振動を抑制するための最適化を図ることができる。また、制振のより最適化を図るために、複数の制振装置を配設することも可能である。
【0022】
また、締め付け具により結束バンドの締め付け状態を調整するようにすれば、減衰板間の摩擦抵抗を調整することができ、ビビリ振動の大きさやその周波数に応じた最適な制振を実現することができる。また、大きな締め付け力を作用させることで、当該制振装置の振動減衰機能を高めることができるとともに、円筒部材の見かけ上の剛性も向上させることができることから、制振のための相乗的な効果が奏される。
【0023】
また、減衰板表面に粒状物を含む皮膜を形成する、或いは、減衰板表面に粗面化加工を施すことで、減衰板表面の摩擦抵抗を大きくすることができ、振動減衰機能をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係る制振装置、ワーク及びワーク保持装置を示した斜視図である。
図2】本実施形態に係る制振装置を示した斜視図である。
図3】本実施形態に係る制振装置の主に締め付け具を示した拡大斜視図である。
図4図2に示した矢視A−A方向の断面図である。
図5図2に示した矢視B−B方向の断面図である。
図6】本発明の他の実施形態に係る減衰板を示した平面図である。
図7図6に示した矢視C−C方向の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の具体的な実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0026】
まず、本例の制振装置の使用態様について、その概略を説明する。図1に示すように、本例の制振装置1は、中空且つ円筒状をしたワークWの外周部に装着され、ワークWは、保持装置100に保持された状態で、例えば、立形旋盤の主軸に装着され、旋削が施される。
【0027】
尚、保持装置100は、面板101と、この面板101上に、その中心部を中心として放射状に、且つ周方向に等間隔に設けられた複数のクランプ102とから構成される。また、本例のワークWは、上端部及び下端部にフランジ部を有し、前記面板101上に載置された状態で、その下端側のフランジ部上面が前記クランプ102によってクランプされる。これにより、ワークWはクランプ歪を生じることなく、面板101上に保持される。
【0028】
次に、本例の制振装置1の詳細について説明する。図2図5に示すように、本例の制振装置1は、それぞれ可撓性を有し、積層された状態で前記ワークWの外周に巻回される帯状をした複数の減衰板10と、同じく可撓性を有し、前記積層状態にある減衰板10の外周に巻回される帯状の部材であって、前記複数の減衰板10を結束する結束バンド20と、この結束バンド20の締め付け状態を調整する締め付け具30とから構成される。
【0029】
前記複数の減衰板10は、それぞれ薄肉の鋼板から構成され、図2図3及び図5に示すように、積層された減衰板10うち、最下層の減衰板10は、その幅方向の両外側に向けて延設される一対の保持片11,11を、当該減衰板10の長手方向に沿って、所定間隔でその複数対(図2に示した例では6対)を備えている。この各保持片11,11は減衰板10の積層方向に屈曲され、且つ上端部が結束バンド20の上方側に折り返されて、該複数の減衰板10及び結束バンド20を一体的に保つようにこれらを束ねる。
【0030】
尚、図4に示すように、前記最下層の減衰板10は、これより上層の減衰板10よりも長さが長く、その両端部12,13は減衰板10の積層方向に折り返されており、前記上層の減衰板10がこの両端部12,13間に配置されている。
【0031】
前記結束バンド20は、前記減衰板10と同様に、薄肉の鋼板から構成され、図2図4に示すように、その一端21に、長手方向が当該結束バンド20の幅方向に沿うように穿孔された複数のスリット状の係合孔23が、該結束バンド20の長手方向に沿って一定間隔で形成されている。
【0032】
前記締め付け具30は、図3に示すように、相互に揺動して開閉するように連結ピン35によって一端同士が連結された下本体32及び上本体33からなる本体31と、上本体33の前記下本体32との対向面に開口するように形成された凹部33a内に、回転自在に収納,保持されたウォームギヤ34とから構成される。前記上本体33の前記下本体32との対向面にはピン36が突設され、一方、前記下本体32の前記上本体33との対向面には前記ピン36が嵌挿される係合穴32aが穿設されており、前記上本体33が下本体32側に揺動して閉じたとき、ピン36が係合穴32aに嵌挿されて、この閉じた状態が維持される。また、前記ウォームギヤ34の端部には6角の頭部が形成されており、この頭部をスパナ等を用いて軸中心に回すことで、当該ウォームギヤ34を回転させることができる。
【0033】
また、図4に示すように、前記下本体32の下面には、前記結束バンド20の他端22が固着されており、当該結束バンド20による結束時には、前記積層状態にある減衰板10の外周に巻回された結束バンド20の前記一端21が前記下本体32と上本体33との間に位置し、図4に示すように、これらによって挟み込まれた状態となる。そして、この状態で、ウォームギヤ34の歯部が結束バンド20の一端21に形成された係合孔23に係合する。
【0034】
以上の構成を備えた本例の制振装置1によれば、まず、前記締め付け具30の下本体32と上本体33とを開いた状態、即ち、ループを解いた状態で、当該制振装置1をワークWの外周部に巻き付ける。そして、結束バンド20の一端21を下本体32と上本体33との間に配置して、当該制振装置1をループ状に形成した後、下本体32と上本体33とを閉じる。
【0035】
ついで、ウォームギヤ34を回転させると、当該ウォームギヤ34の歯部と結束バンド20に形成した係合孔23との係合関係から、結束バンド20の一端21がその長手方向に移動し、ウォームギヤ34を結束バンド20のループを絞る方向に回転させることで、結束バンド20によって減衰板10が締め付けられ、ワークWの外周部に圧着される。尚、この結束バンド20による締め付け力は、ウォームギヤ34の回転を調整することによって適宜調整する。
【0036】
以上のようにして、制振装置1をワークWの外周部に装着する。尚、この制振装置1のワークWへの装着は、ワークWを前記保持装置100によって保持した後でも、保持する前でもいずれでも良い。そして、このようにして、制振装置1をワークWに装着し、且つワークWを保持装置100に保持した状態で、適宜旋盤に搬入して、当該ワークWに対して旋削加工を行う。
【0037】
その際、ワークWに振動が発生すると、この振動が前記複数の減衰板10に伝播されて当該減衰板10が振動し、この振動に伴う減衰板10間の摩擦によって、伝播された振動エネルギーが吸収され、即ち、振動エネルギーが摩擦によって生じる熱エネルギーに変換され、これによりワークWの振動が減衰され、制振される。
【0038】
ワークWが振動するという現象は、当該ワークWが半径方向への曲げ変形を繰り返すという現象であり、この曲げ変形に伴って、当該ワークWの外周に巻回された複数の減衰板10が同様にそれぞれ半径方向への変形を繰り返す。そして、積層されている複数の減衰板10間には、例えば、或る減衰板10に引張力が作用してこれが伸長し、その上方の減衰板10に圧縮力が作用してこれが収縮するというように、曲げ変形に違いを生じ、この変形の違いによって、各減衰板10間に滑り摩擦を生じる。斯くして、前記振動に係るエネルギーは、この滑り摩擦によって生じる熱エネルギーに変換され、当該振動が減衰される。このように、本例の制振装置1によれば、減衰板10間の摩擦によってワークWの振動が制振され、ビビリ振動が生じるのが防止される。
【0039】
また、本例の制振装置1は、ワークWの外周に巻き付けるように構成されているので、これをワークWの長手方向に沿って任意の最適な位置に配置することができる。したがって、長尺のワークWや、加工条件に応じて振動状態が異なるワークWに対しても、その配置位置を調整することで、最適な状態での制振を実現することができ、ビビリ振動を抑制するための最適化を図ることができる。また、長尺のワークWに対しては、複数の制振装置1を巻き付けることで、より適切に制振することが可能である。
【0040】
また、本例の制振装置1によれば、前記締め付け具30により、結束バンド20の締め付け状態を調整することができる、言い換えれば、前記減衰板10間の圧着状態、即ち、摩擦抵抗を調整することができるので、このような調整を行うことで、ビビリ振動の大きさやその周波数に応じた最適な制振を実現することができる。尚、締め付け具30によって結束バンド20を締め付けても、ワークWは、巻回された減衰板10を介して締め付けられるので、その外周面には均一な力(一様な力)が作用し、当該締め付けによってワークWに生じる歪は最小限に抑えられる。
【0041】
一方、締め付け具30により、減衰板10に大きな締め付け力を作用させるようにしても良い。このような大きな締め付け力を減衰板10に作用させることで、当該制振装置1の振動減衰機能を高めることができるとともに、ワークWの見かけ上の剛性を向上させることができ、これらの作用によって、制振のための相乗的な効果が奏される。
【0042】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明が採り得る具体的な態様は、何らこれに限定されるものではない。
【0043】
例えば、上例では、最下層の減衰板10の両外側に延設される保持片11,11によって、複数の減衰板10を一体的に保つようにしたが、複数の減衰板10を一体的に保つ態様としては、これに限られるものではなく、図6及び図7に示すような態様によって、これらを一体的に保つようにしても良い。
【0044】
即ち、図6及び図7に示した例では、最下層の減衰板10’に、積層方向に屈曲された突出片10a’を形成するとともに、最下層より上層の減衰板10’には、前記突出片10a’に対応する位置に、当該突出片10a’が挿入される貫通孔10b’を穿孔し、前記突出片10a’を、その上層の減衰板10’に形成された貫通孔10b’に挿入した状態で、その上端部を折り返して、この突出片10a’によって、複数の減衰板10’を一体的に保持するようにしている。このように構成しても、複数の減衰板10’の分散が防止される。尚、この突出片10a’は、減衰板10’を打ち抜き成形することによって形成することができる。
【0045】
また、上例の制振装置1において、少なくとも前記減衰板10の表面の一部分に、粒状物を含む皮膜を形成する、或いは、少なくとも前記減衰板10の表面の一部分に、粗面化加工を施すようにしても良い。このようにすれば、減衰板10の表面の摩擦抵抗を大きくすることができ、当該制振装置1の振動減衰機能をより高めることができる。
【0046】
尚、粒状物を含む皮膜を形成する際の粒状物の具体例としては、セラミック粒子や金属粒子を挙げることができ、皮膜の成膜方法としてはコーティングを挙げることができる。或いは、前記皮膜はDLC(ダイヤモンドライクカーボン)の皮膜であっても良い。また、粗面化加工としては、ショットピーニングやサンドブラストを挙げることができる。
【0047】
また、上例の制振装置1において、少なくとも減衰板10間の一部分に、粘着剤を介在させても良い。このようにすれば、複数の減衰板10が分散されるのを、この粘着剤の粘着性によって防止することができる。
【0048】
また、前記結束バンド20に薄肉の鋼板を用いたが、これに限られるものではなく、減衰板10をワークWに対して押し付けることができるものであれば、どのようなものでも良く、例えば、ゴムチューブのようなものでも良い。また、この場合に、結束バンド20の締め付け力を調整する必要がない場合には、上例の締め付け具30は、特にこれを設ける必要はない。
【0049】
また、上例では、締め付け具30として、ウォームギヤ34を用いた構成のものを例示したが、当然に、この構成に限られるものではなく、結束バンド20の締め付け力を調整することができものであれば、どのような構成のものでも良い。例えば、結束バンド20の両端部を折り返して立ち上げ、この対向する立ち上がり部分にボルト穴を穿設し、当該ボルト穴にボルトを挿通してナットを螺合せしめ、このナットをねじ込んで、前記立ち上がり部分を相互に接近させることにより、結束バンド20の締め付け力を増強するように構成されたものであっても良い。
【0050】
また、結束バンド20として、上記のゴムチューブを用いる場合、これを無端状に形成して、その内部に流体(気体や作動油)を注入し、注入する流体の圧力を調整することで、結束バンド20の締め付け力を調整することができるように構成されたものでも良い。
【符号の説明】
【0051】
1 制振装置
10 減衰板
11 保持片
20 結束バンド
21 一端
22 他端
23 係合孔
30 締め付け具
31 本体
32 下本体
33 上本体
34 ウォームギヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7