【実施例1】
【0017】
<MRI装置のブロック図>
以下、添付図面に従って本発明のMRI装置の好ましい実施例について詳説する。なお、発明の実施例を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0018】
最初に、本発明に係るMRI装置を
図1に基づいて説明する。
図1は、本発明に係るMRI装置の一実施例の全体構成を示すブロック図である。
【0019】
このMRI装置は、NMR現象を利用して被検体101の断層画像を得るもので、
図1に示すように、静磁場発生磁石102と、傾斜磁場コイル103及び傾斜磁場電源109と、RF送信コイル104及びRF送信部110と、RF受信コイル105及び信号処理部107と、計測制御部111と、全体制御部112と、表示・操作部118と、被検体101を搭載する天板を静磁場発生磁石102の内部に出し入れするベッド106と、を備えて構成される。
【0020】
静磁場発生磁石102は、垂直磁場方式であれば被検体101の体軸と直交する方向に、水平磁場方式であれば体軸方向に、それぞれ均一な静磁場を発生させるもので、被検体101の周りに永久磁石方式、常電導方式あるいは超電導方式の静磁場発生源が配置されている。
【0021】
傾斜磁場コイル103は、MRI装置の実空間座標系(静止座標系)であるX、Y、Zの3軸方向に巻かれたコイルであり、それぞれの傾斜磁場コイルは、それを駆動する傾斜磁場電源109に接続され電流が供給される。具体的には、各傾斜磁場コイルの傾斜磁場電源109は、それぞれ後述の計測制御部111からの命令に従って駆動されて、それぞれの傾斜磁場コイルに電流を供給する。これにより、X、Y、Zの3軸方向に傾斜磁場Gx、Gy、Gzが発生する。この傾斜磁場コイル103と傾斜磁場電源109とを含めて傾斜磁場発生部となる。
【0022】
2次元スライス面の撮像時には、スライス面(撮像断面)に直交する方向にスライス傾斜磁場パルス(Gs)が印加されて被検体101に対するスライス面が設定され、そのスライス面に直交して且つ互いに直交する残りの2つの方向に位相エンコード傾斜磁場パルス(Gp)と周波数エンコード(読み出し)傾斜磁場パルス(Gf)が印加されて、核磁気共鳴信号(エコー信号)にそれぞれの方向の位置情報がエンコードされる。
【0023】
RF送信コイル104は、被検体101にRFパルスを照射するコイルであり、RF送信部110に接続され高周波パルス電流が供給される。これにより、被検体101の生体組織を構成する原子のスピンにNMR現象が誘起される。具体的には、RF送信部110が、後述の計測制御部111からの命令に従って駆動されて、高周波パルスを振幅変調し、増幅した後に被検体101に近接して配置されたRF送信コイル104に供給することにより、RFパルスが被検体101に照射される。このRF送信コイル104とRF送信部110とを含めてRFパルス発生部となる。
【0024】
RF受信コイル105は、被検体101の生体組織を構成するスピンのNMR現象により放出されるエコー信号を受信するコイルであり、信号処理部107に接続されて受信したエコー信号が信号処理部107に送られる。
【0025】
信号処理部107は、RF受信コイル105で受信されたエコー信号の検出処理を行う。具体的には、後述の計測制御部111からの命令に従って、信号処理部107が、受信されたエコー信号を増幅し、直交位相検波により直交する二系統の信号に分割し、それぞれを所定数(例えば、128、256、512等)サンプリングし、各サンプリング信号をA/D変換してディジタル量に変換する。従って、エコー信号は所定数のサンプリングデータからなる時系列のデジタルデータ(以下、エコーデータという)として得られる。そして、信号処理部107は、エコーデータに対して各種処理を行い、処理したエコーデータを計測制御部111に送る。
【0026】
計測制御部111は、被検体101の断層画像の再構成に必要なエコーデータ収集のための種々の命令を、主に、傾斜磁場電源109と、RF送信部110と、信号処理部107に送信してこれらを制御する制御部である。具体的には、計測制御部111は、後述する全体制御部112の制御で動作し、ある所定のパルスシーケンスの制御データに基づいて、傾斜磁場電源109、RF送信部110及び信号処理部107を制御して、被検体101へのRFパルスの照射及び傾斜磁場パルスの印加と、被検体101からのエコー信号の検出と、を繰り返し実行し、被検体101の撮像領域についての画像の再構成に必要なエコーデータの収集を制御する。繰り返しの際には、2次元撮像の場合には位相エンコード傾斜磁場の印加量を、3次元撮像の場合には更にスライスエンコード傾斜磁場の印加量も、変えて行なう。位相エンコードの数は通常1枚の画像あたり128、256、512等の値が選ばれ、スライスエンコードの数は、通常16、32、64等の値が選ばれる。これらの制御により信号処理部107からのエコーデータを全体制御部112に出力する。
【0027】
全体制御部112は、計測制御部111の制御、及び、各種データ処理と処理結果の表示及び保存等の制御を行うものであって、演算処理部(CPU)114と、メモリー113と、磁気ディスク等の内部記憶部115と、外部ネットワークとのインターフェースを行うネットワークIF116と、を有して成る。また、全体制御部112には、光ディスク等の外部記憶部117が接続されていても良い。
【0028】
具体的には、計測制御部111に撮像シーケンスの実行によりエコーデータを収集させ、計測制御部111からのエコーデータが入力されると、演算処理部114がそのエコーデータに印加されたエンコード情報に基づいて、メモリー113内のk空間に相当する領域に記憶させる。以下、エコーデータをk空間に配置する旨の記載は、エコーデータをメモリー113内のk空間に相当する領域に記憶させることを意味する。また、メモリー113内のk空間に相当する領域に記憶されたエコーデータ群をk空間データともいう。
【0029】
演算処理部114は、このk空間データに対して信号処理やフーリエ変換による画像再構成等の処理を実行し、その結果である被検体101の画像を、後述の表示・操作部118に表示させ、内部記憶部115や外部記憶部117に記録させたり、ネットワークIF116を介して外部装置に転送したりする。
【0030】
表示・操作部118は、再構成された被検体101の画像を表示する表示部と、MRI装置の各種制御情報や上記全体制御部112で行う処理の制御情報を入力するトラックボール又はマウス及びキーボード等の操作部と、から成る。この操作部は表示部に近接して配置され、操作者が表示部を見ながら操作部を介してインタラクティブにMRI装置の各種処理を制御する。
【0031】
現在MRI装置の撮像対象核種は、臨床で普及しているものとしては、被検体の主たる構成物質である水素原子核(プロトン)である。プロトン密度の空間分布や、励起状態の緩和時間の空間分布に関する情報を画像化することで、人体頭部、腹部、四肢等の形態または、機能を2次元もしくは3次元的に撮像する。
【0032】
図2に、本発明の対象とする複数のエコー信号を取得するFSE(Fast Spin Echo)法のパルスシーケンスを示す。
本図において、RF、Gs、Gp、Gr、Signalはそれぞれ、RFパルスの印加、スライス選択傾斜磁場パルスの印加、位相エンコード傾斜磁場パルスの印加、周波数エンコード傾斜磁場パルスの印加、エコー信号の取得を示す軸を表す。また、ここでは、一例として、1回の90°励起RFパルス308について、エコー信号322群を取得するFSEシーケンスを示す。
【0033】
FSEシーケンスでは、まず、撮影面内のスピンに高周波磁場を与える90°励起RFパルス308とともに、スライス選択傾斜磁場パルス309を印加する。その後、スピンをスライス面内で反転するための180°反転RFパルス314を繰り返し印加する。上述のように、1回の90°励起RFパルス308についてエコー信号322群を取得するため、180°反転RFパルス314を複数回印加する。そのため、Shot毎の再収束RFパルスの照射位相を反転させることで、それぞれの再収束RFパルスから生じるFID信号に対し、180度反転した位相情報を付与できる。
【0034】
FSEシーケンスは、1回のRFパルスによる励起後に複数のエコーデータを計測し、1つのk空間中にそのエコーデータを配置するシーケンスである。計測されたエコーデータはエコー番号ごとに、計測されたエコー順と同じ順序でk空間に配置され充填される。
【0035】
<磁場歪みによるアーチファクトの発生位置と撮影FOVから折り返し位置を特定>
ショートガントリ型MRIは、静磁場均一空間、及び、傾斜磁場線形領域が狭まることで、磁場歪みによるアーチファクトが生じやすくなる問題がある。
【0036】
今、仮にZ軸方向(被検体の体軸方向)にFOV中心から250mmの位置に磁場歪みによる画像歪みが生じる領域がある事を想定すると、400mm程度のFOVサイズを使用するSpine撮影などでは150%程度FOVを内部的に拡張する折り返し除去機能で、磁場歪み領域を十分に拡張FOV内に収める事ができるため、課題となるアーチファクトは問題にならない。
【0037】
しかし、KneeやAnkleなどの関節部撮影では、FOVサイズは200mm以下となる事が多く、磁場歪み領域を含むように拡張FOVを広げるようとすると300〜400倍と大幅に広げる必要があるため、現実的な方法ではない。
【0038】
図3(a)は、FOV150mmのKnee SAG撮影において、Body側Z=250mmの位置に画像歪みによって高輝度化して輝点となったアーチファクトが発生する例を示している。
【0039】
内部的に200%に拡張させる折り返し除去を使用することを想定すると、FOVは300mmとなり、画像歪みはZ=250mmの位置にあることから、この輝点アーチファクトは、
図3(b)に示したようにFOV中心から−50mmの位置に折り返しが生じる事になる。
【0040】
折り返し位置が表示FOV内に表示されるかが否かを判定する必要があるため、判定方法について次に説明する。
撮影FOV内のアーチファクトの発生位置[mm]をZ
alias、内部的に拡張した後のFOVサイズ[mm]をFOV、Z
aliasをFOVで割った小数点以下の剰余をR
alias、FOV中心のZ座標[mm]をZ
FOVとして、(Z
FOV+ FOV/2)をFOVで割った小数点以下の剰余をR
FOVとし、判定値dを(式1)と定義する。
d = R
alias − R
FOV ………(式1)
拡張率は200%固定とするが、撮影におけるアーチファクトの発生位置が、拡張FOV内か、表示FOV内か以下の判定式から判断できる。
拡張FOV内: 0 < d < 0.25、 もしくは 0.75 < d < 1.0 ………(式2)
表示FOV内: 0.25 ≦ d ≦ 0.75 ………(式3)
【0041】
図3(a)の例では、Z
alias=250、Z
FOV=0、FOV=300であるため、R
alias=0.833、R
FOV=0.5、d=0.333となるため、表示FOV内に発生する事になる。FOVをZ方向75mmの位置にオフセンターさせた撮影の場合には、Z
FOV =75、R
alias=0.833、R
FOV=0.75、d=0.083となるため、拡張FOV内にアーチファクトが発生する事になる。
【0042】
表示FOV内にアーチファクトが発生する場合に、関心領域にアーチファクトが重畳されて、診断の妨げとなる場合があるため、この状態を回避するためにアーチファクトの位置をFOV/2だけ移動して、拡張FOV内に来る状態の説明図を
図3(c)に示す。
この図から、
図3(b)で折り返し位置に現われるアーチファクトが、
図3(c)では、矢印で示すように、上方に移動して拡張FOV内に来ることが分かる。
【0043】
尚、磁場歪み(画像歪み)の位置は、装置据付時に十分に大きなファントムと折り返しの生じない十分に大きな500mm以上のFOVサイズで事前計測を行い、磁場歪みの座標情報をシステム情報として記憶しておく。事前計測はFast Spin Echoシーケンスを用いるのが望ましいが、その限りではない。
【0044】
<折り返しアーチファクトの移動>
FIDによる折り返しアーチファクトの位置をFOV/2だけ移動するためには、k空間上でky(位相エンコード方向) 1step毎に、180度の反転位相を付与する必要がある(
図4)。
図4は、k空間上のFID信号の位相を示し、step毎に交互に位相が反転した状態を示している。
【0045】
k空間の充填方法は2つに分類され、上側から順に(もしくは下側から順に)充填していくSequential計測と、中心から上側に向かって充填後、中心から下側に充填(もしくは、中心から下側に充填後、中心から上側に充填)していくCentric計測がある。各充填方法では、Segment分割数(Shot数)に応じて、再収束RFパルスの照射位相を最適化させる必要がある。
【0046】
図5にSequential計測時のk空間上のエコー配列を示す。本図(a)は、Shot数が奇数(例、Shot数3、Echo数4)の場合を示し、(b)は、Shot数が偶数(例、Shot数2、Echo数6)の場合を示す。本図では、エコー配列は、下側から順に充填される場合を図示している。このエコー配列において、ky 1step毎にFID信号に反転位相を付与するためのRF照射位相情報の詳細は、
図9に示す。
【0047】
図9に示す表において、励起RFパルスの照射位相は、
図2で示すパルス308の条件を示し、再収束RFパルスの照射位相は、
図2で示すパルス314の条件を示す。また、表中のx,yはそれぞれx方向へのパルス印加、y方向へのパルス印加を示す。
図10に示す表も同様である。
【0048】
総Shot数が偶数個の場合は、偶数番目のShotの再収束RFパルスは常に照射位相を反転させる。一方で、総Shot数が奇数個の場合、再収束RFパルスの照射位相はパルス毎に反転させ、かつ、偶数番目のShotは、奇数番目のShotに対して180度反転するように設定する。
【0049】
次に、Centric計測時のk空間上のエコー配列を
図6に示す。本図(a)は、Shot数/2が奇数(例、Shot数6、Echo数2)の場合を示し、(b)は、Shot数/2が偶数(例、Shot数4、Echo数3)の場合を示す。本図では、k空間を半分にして、計測前半に上側半分を充填した後、下側半分を充填する配列を示している。このエコー配列において、ky 1step毎にFID信号の位相を反転させるためのRF照射位相情報は、
図10に示す。
【0050】
総Shot数を2で割った商が偶数の場合、k空間の上側を充填する前半Shot群は、偶数番目のShotにおける再収束RFパルスの照射位相を反転させ、後半の下側半分を充填するShot群では、奇数番目のShotにおける再収束RFパルスの照射位相を反転させる。
【0051】
一方で、総Shot数を2で割った商が奇数の場合は、k空間の上側を充填する前半のShot群は、再収束RFパルスの照射位相をパルス毎に反転させ、かつ、奇数番目のShotと偶数番目のShotでは照射位相が反転するようにする。更に、後半の下側半分を充填するShot群では、前半のShot群の照射位相を全反転したものになる。
【0052】
このように再収束RFパルスの照射位相を変化させる事で、FID信号によるアーチファクトの位置をFOV/2だけ移動させる事ができる。
【0053】
<偶数回加算撮影によるアーチファクトの信号抑制>
また、偶数回の加算撮影を行う場合、前記全てのエコー配列に共通して、偶数加算目の撮影ではRF照射位相が、奇数加算目のRF照射位相に対して180度反転させる事でアーチファクト自体を消失させることができる。
図7に示したようにk空間の同一kyラインにおいて、FIDの位相が奇数加算目と偶数加算目の撮影で位相反転した状態になるため、複素加算することで、アーチファクトを発生させる信号を消失させる事ができる。
【0054】
本実施例によれば、従来技術では判断できなかった磁場歪により発生するアーチファクトとなる輝点の位置の判断が可能となる。特に、マルチエコーを発生させるFast Spin Echoなどでは、輝点の輝度がより高くなるので、精度のよい画像が取得できる。
【実施例2】
【0055】
図8に、アーチファクト回避のためのRF照射位相計算のフローチャートを示す。本フローチャートは、アーチファクトの発生位置を自動判定する処理の場合を示す。
【0056】
まず、磁場歪みの位置、FOVの位置、およびFOVのサイズから式1を用いて判定値dを算出する(801)。
ここで、磁場歪みの位置は、事前に計測を行い、その計測結果は、例えば、メモリー113に保管しておく。FOVの位置、およびFOVのサイズはユーザーが随時設定する。
【0057】
次に、判定値dが、0 < d < 0.25 、もしくは0.75 < d < 1.0のいずれかの範囲に入っているか判定する(802)。この範囲にあれば、ステップ803へ進み、範囲内になければ、RF照射位相計算は終了する。
【0058】
次に、Sequential計測か否かを判定(803)し、YESならば、Shot数が奇数か否か判定し(804)、
図9(a)RF照射位相(805a)、又は
図9(b)RF照射位相(805b)の設定処理を行う。
NOならば、Shot数/2が奇数か否か判定し(808)、
図10(a)RF照射位相(805c)、又は
図10(b)RF照射位相805d)の設定処理を行う。
【0059】
次に、ステップ805a〜805dのいずれかの処理において、偶数番目の加算か否か判定(806)し、YESならば、再収束RFのRF照射位相を全反転(807)し、NOならばRF照射位相計算は終了する。
なお、上記の自動判定の処理は、演算処理装置(CPU)114で実行される。
【0060】
上記RF照射位相計算では、アーチファクトの発生位置を自動判定で処理する場合を示したが、ユーザー判断ですることも可能である。例えば、アーチファクトが関心領域に重なって診断の妨げとなる場合に、撮影条件上でアーチファクト移動処理を発動するパラメータを選択する事も可能である。
【0061】
すなわち、本RF照射位相計算のフローチャートは、ステップ802の判定値dによる判定を自動で設定する手順を示しているが、手動設定することも可能である。その場合、上記フローチャートにおいてステップ802の処理後に判定値dを表示するステップ(表示せず)を設け、表示部(例えば、
図1の118など)に判定値を表示する。ユーザーは表示部に表示された判定値と撮像画像上の関心領域とを参照しながら、フローチャートの流れをYESのフローにするかNOのフローにするかを入力部に設けた設定ボタンを操作することで決定することが可能となる。
【0062】
本実施例によれば、アーチファクトの発生位置を自動で判定でき、効率良く画像を取得可能である。また、手動モードを用いることにより、アーチファクトが関心領域にあるか判断しながら、現場の状況に応じた処理が可能となる。