【実施例】
【0046】
実施例1:抗新生物薬の細胞傷害評価および機構評価
タウロリジンは、インビトロでの様々なヒト腫瘍細胞株の増殖阻害に活性であることが見出された。抗腫瘍活性の機構を調べるために、PA-1およびSKOV-3ヒト卵巣腫瘍細胞株ならびにNIH-3T3マウス線維芽細胞を使用した。この研究から、タウロリジンの効果はDNA構造、細胞膜成分、およびタンパク質切断の変化に関連しており、これらの変化は腫瘍細胞に特異的なアポトーシスの誘導と一致することが明らかになった。ヒト卵巣腫瘍の腹腔内異種移植片を有するヌードマウスにおけるタウロリジンの抗新生物評価から、この薬剤はインビボで腫瘍の発達および増殖を著しく阻害することが証明された。
【0047】
新生物活性を研究するために、タウロリジンを、5%コリドン(Kollidon)17PFに溶解した2%溶液として製剤化した。標準的な細胞培養増殖培地(例えば、高グルコースDMEM、RPMI 1640、McCoy's 5A、およびF12K)、トリプシン、ウシ胎児血清(FBS)は全て、ギブコ/ライフテクノロジーズ(GIBCO/Life Technologies)(Grand Island、NY)から購入した。細胞によるホスホチジルセリン外面化は、クロンテック(Clontech)(Palo Alto、CA)から購入したアポアラート(ApoAlert)(商標)アネキシンV/FITCアッセイキットを用いて評価した。SDS-PAGE用試薬は、バイオラッドラボラトリーズ(BioRad Laboratories)(Richmond、CA)から購入した。ヒトPARPに対するマウスモノクローナル抗体(クローンC-2-10)は、ザイメッドラボラトリーズ(Zymed Laboratories)(San Francisco、CA)から購入した。他の全ての化学試薬はシグマ(Sigma)(St.Louis、MO)から購入した。
【0048】
ヒト充実性腫瘍細胞株のパネルならびにNIH-3T3マウス線維芽細胞を用いて、タウロリジンの細胞傷害活性を評価する研究を行った。腫瘍細胞株パネルには、卵巣腫瘍細胞(PA-1およびSKOV-3)、結腸腫瘍細胞(HCT-8、HCT-15、およびHT-29)、肺腫瘍細胞(H-157、A-549、およびH-596)、前立腺腫瘍細胞(DU-145)、神経膠腫細胞(U-251)、ならびに黒色腫(MNT-1)が含まれた。マウス黒色腫B16F10細胞株もまた試験した。これらの細胞株は、例えば、アメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)(ATCC)から容易に入手することができる。細胞を、加湿インキュベーター内で、適切な増殖培地中、37℃、5%CO
2の雰囲気で培養した。これらの増殖条件下で、全ての細胞株の倍加時間は20時間〜28時間であった。
【0049】
ハルラン(Harlan)(Indianapolis、IN)から入手した6週齢〜12週齢の雌同型接合無胸腺(Hsd:無胸腺ヌードnu/nu)マウスにおいてインビボでの毒性および治療有効性を評価する研究を行った。
【0050】
細胞増殖の阻害を評価するために、適切な細胞株のサブコンフルエント培養物をトリプシン処理によって回収し、1〜5×10
4細胞/mlの細胞密度で培地に再懸濁した。適切な培地+血清3mlを含む12ウェル細胞培養プレートの各ウェルに、この細胞懸濁液1mlを添加した。24時間後、0.1μM〜200μMの最終濃度を達成するように、40μlの体積のタウロリジンを各ウェルに添加した。対照細胞には40μlの5%コリドン17PFのみを与えた。72時間後、全ての細胞をトリプシン処理によって回収し、細胞増殖阻害を評価するために、Coulter Model Z1粒子計数器(Coulter Corp.、Miami、FL)を用いて細胞数を電子的に測定した。各実験は二通り行い、最低3回繰り返した。
【0051】
フローサイトメトリー研究のために、血清を含む適切な培地中で1×10
6個のPA-1、SKOV-3、またはNIH-3T3細胞を24時間インキュベートした。24時間後、25μM、50μM、または100μMの最終濃度を達成するように、40μlの体積のタウロリジンを添加した。各細胞株の対照培養物を、40μlの5%コリドン17PFのみを含む培地中でインキュベートした。48時間後、全ての細胞をトリプシン処理により回収し、細胞蛍光分析のために標準的な方法によって調製した。例えば、回収された細胞は、2×10
6細胞/mlの最終細胞密度で氷冷リン酸緩衝食塩水に再懸濁された。次いで、細胞を、0.05mg/mlヨウ化プロピジウム、0.6%イゲパール(Igepal)、および1%クエン酸ナトリウムの溶液を用いて、暗所、室温で30分間染色した。フローサイトメトリーは、ModFit LTプログラム(Becton Dickinson)を使用するFACScan(Becton Dickinson、Plymouth、England)によって行った。統計解析は、クラスカルワリス(Kruskal Wallis)ノンパラメトリックANOVA検定を用いて行い、その次に、インスタット(Instat)を用いてダン(Dunn)の多重比較を行った。
【0052】
アポアラート(ApoAlert)(登録商標)アネキシンV/FITCアッセイキットを使用したフローサイトメトリー法によって、潜在的なアポトーシス誘導を表すものとして細胞膜ホスホチジルセリン外面化を評価した。簡単に述べると、血清を含む細胞培養培地中で1×10
6個の細胞を24時間インキュベートした。その後、25μM、50μM、または100μMの最終濃度を達成するようにタウロリジンを添加した。対照培養物には5%コリドン17PFのみを与えた。24時間後、全ての細胞をトリプシン処理により回収した。回収された細胞を200μlの結合緩衝液に再懸濁し、次いで、1μg/mlのアネキシンV/FITCを含む溶液中で、暗所、室温で5分間〜15分間インキュベートした。次いで、アネキシンV結合を定量するために、ModFit LTプログラムを使用するFACScanを利用した細胞蛍光技法と前記の統計解析によって細胞を分析した。
【0053】
PARP切断を評価するためにウエスタンブロット分析を使用した。組織培養培地+血清20mlを含む別々の75cm
2組織培養フラスコに、2×10
6個の細胞を播種した。24時間後、タウロリジンを50μMまたは100μMの濃度で添加した。タウロリジン添加の24時間後、細胞を回収した。細胞数を測定し、各曝露条件から同じ細胞数を含むアリコートを作成した。これらのアリコートから作成した全細胞溶解産物からの総タンパク質をSDS-PAGEにより分離し、ニトロセルロースフィルターに電気転写した。次いで、フィルターを処理して、クローンC-2-10マウスモノクローナル抗PARPタンパク質(Zymed Laboratories、San Francisco、CA)を使用することにより無傷のPARPタンパク質および切断断片を検出した。得られたタンパク質-抗体複合体を標準的な化学発光技法により可視化した。
【0054】
タウロリジンにより誘導される毒性を評価するために、マウスを5匹〜8匹の動物からなる群に分けた。その後、全てのマウスの体重を測定し、3日連続したタウロリジンの単回腹腔内ボーラス注射からなる治療を開始した。評価されたタウロリジン用量は5mg/マウス/注射、10mg/マウス/注射、15mg/マウス/注射、20mg/マウス/注射、25mg/マウス/注射、および30mg/マウス/注射であり、25mg/マウス(1.25ml)および30mg/マウス(1.5ml)の注射以外は、1mlの体積で投与された。注射用タウロリジンは、5%コリドン17PFを添加して2%タウロリジン溶液から希釈された。対照動物には5%コリドン17PFのみを1ml注射した。毎日、動物を検査し、週2回、体重を記録した。10%を超える体重の減少が有意であるとみなされた。最大耐量(MTD)は、約10%の死亡率を生じる用量であるとみなされた。
【0055】
治療有効性を評価するために、マウスに0.5mlの体積で5×10
6個のSKOV-3細胞の単回腹腔内注射を与えた。その直後に、マウスを7匹の動物からなる治療群に無作為に分けた。3日連続したタウロリジン20mg単回腹腔内ボーラス注射からなるタウロリジン治療を、腫瘍細胞接種の直後、または腫瘍細胞接種後の選択された時間間隔(5日以内)で開始した。対照動物には5%コリドン17PFのみの1ml注射を与えた。毎日、動物を検査し、週2回、体重を記録した。最後のタウロリジン注射の14日後、全ての群のマウスをCO
2窒息によって屠殺した。全ての腹腔内腫瘍巣を取り出し、腫瘍の重量を測定した。各治療群の平均腫瘍重量を計算し、治療群間の平均腫瘍重量の差の統計解析はスチューデントt検定を使用した。0.05以下のp値が有意であるとみなされた。
【0056】
タウロリジンは腫瘍細胞増殖を阻害する
タウロリジンが細胞増殖を阻害する能力を、6種類の異なる腫瘍型を示す13種類の異なる株からなるヒトおよびマウス新生物細胞株のパネルにおいて評価した。この調査の結果から、タウロリジンへの3日曝露は、調べられた各細胞株の細胞増殖を阻害することが明らかになった(表5)。
【0057】
選択されたヒトおよびマウス新生物細胞株の増殖に対するタウロリジンのIC
50を以下のように評価した。細胞を、1〜5×10
4個の細胞密度で6ウェル組織培養フラスコの各ウェルに播種した。24時間後、1μM〜100μMの濃度のタウロリジンを添加した。3日後、細胞をトリプシン処理により回収し、細胞数を電子的に測定した。タウロリジンに曝露されていない対照培養物と比較することにより細胞増殖阻害を測定した。IC
50は、細胞数を50%阻害するのに必要とされる濃度として計算した。それぞれのIC
50値は4回〜8回の測定の平均±SEを示す。
【0058】
【表5】
【0059】
驚くべきことに、各細胞株に関して観察されたIC
50は非常に似ており、〜10μM(PA-1、DU-145、HCT-8、HCT-15、B16F10、およびNIH-3T3)から〜35μM(H-596)の比較的狭い範囲にわたって変化した。
【0060】
この研究は、腫瘍細胞増殖に及ぼすタウロリジンの効果を評価した。増殖阻害は、増殖停止または細胞死のいずれかを反映している可能性がある。従って、次に、タウロリジンが細胞増殖の阻害を誘導する機構を特定する研究に焦点を当てた。これらの研究は、ヒト卵巣腫瘍細胞株PA-1およびSKOV-3ならびにNIH-3T3マウス線維芽細胞において行った。従来のフローサイトメトリー技法を使用した研究により、PA-1およびSKOV-3ヒト卵巣腫瘍細胞株における細胞周期分布に及ぼすタウロリジンへの48時間曝露の影響が評価された。これらの研究の結果から、この薬剤への曝露は、細胞周期変化の一致したパターンを誘導しないことが明らかになった。
【0061】
ヒト卵巣腫瘍細胞(PA-1およびSKOV-3)ならびにマウス線維芽細胞(NIH-3T3)における細胞周期分布に及ぼす選択された濃度のタウロリジンへの48時間曝露の影響は以下のように行った。3×10
5個の細胞をプラスチック組織培養フラスコに播種した。24時間後、25μM、50μM、または100μMの最終濃度を達成するようにタウロリジンを添加した。対照培養物には適量のコリジン17P(Kollidine-17P)のみを与えた。さらに48時間後、細胞を回収し、ヨウ化プロピジウムで染色し、細胞蛍光技法を用いて細胞周期分布を評価した。それぞれの値は、指示された細胞周期にある細胞の割合を示し、3回の測定の平均±SEMである。
【0062】
【表6】
【0063】
詳細に述べると、PA-1細胞では、100μMまでのタウロリジンへの48時間曝露は細胞周期分布にほとんど影響を及ぼさなかった。実際に、タウロリジン曝露にもかかわらず、G
0/G
1期、S期、およびG
2/M期にある細胞の割合は本質的に変わらなかった。または、SKOV-3細胞では、タウロリジン曝露は、G
0/G
1にある細胞の割合の濃度依存的な減少をもたらしたが、S期およびG
2/Mにある細胞の割合を増加させた。重要なことには、PA-1およびSKOV-3細胞株の両方において、タウロリジン曝露はまたサブG
0/G
1領域でのDNA破片の出現をももたらし、これはタウロリジン濃度依存的な影響であった(
図2)。SKOV-3細胞株と同様に、タウロリジンへのNIH-3T3細胞の曝露はG
0/G
1にある細胞の割合を減少させ、濃度依存的にSにある細胞の割合を増加させた。しかしながら、評価されたヒト卵巣腫瘍細胞とは異なり、NIH-3T3細胞におけるタウロリジン曝露は、サブG
0/G
1領域におけるDNA破片の出現に有意に影響を及ぼさなかった(
図2)。
【0064】
別々の断片へのDNAの切断はアポトーシス過程の最後の事象である。タウロリジン曝露の48時間後のサブG
0/G
1領域におけるDNA破片の出現は、アポトーシスに関連したDNA断片化を表している可能性がある。この可能性を評価するために、次に、研究は、アポトーシス過程の初期に起こる事象である細胞膜上のホスホチジルセリン外面化を増大させるタウロリジンの能力を評価した。これらの研究はフルオロサイトメトリー(fluorocytometry)に基づいており、ホスホチジルセリン外面化を評価するために蛍光抗体結合アッセイ法(アネキシンV)を使用した。研究の結果(
図3に示す)から、PA-1およびSKOV-3のヒト卵巣腫瘍細胞株でのタウロリジンへの24時間曝露は、有意でタウロリジン濃度依存的な、それぞれ4倍および3倍のアネキシンV結合増加を誘導することが明らかになった。対照的に、NIH-3T3細胞では、タウロリジン曝露は抗体結合の有意でない増加(約5%)をもたらした。これらのデータは、細胞周期研究からの結果、ならびにタウロリジン曝露がPA-1およびSKOV-3細胞においてアポトーシスを誘導したが、NIH-3T3細胞では誘導しなかったという観察を裏付けた。これらの結果は、タウロリジンが、非腫瘍細胞と比較して優先的に腫瘍細胞においてアポトーシス(およびアポトーシス死)を誘導することを示している。
【0065】
タウロリジンによるアポトーシス誘導をさらに確かめるために、タウロリジン曝露とPARP切断との関係を評価した。PARPは、一本鎖DNA切断および二本鎖DNA切断の認識および修復に重要な役割を果たす核タンパク質である。さらに、アポトーシス過程における重要な事象は、このタンパク質の、カスパーゼ3およびカスパーゼ9により媒介される切断および結果として起こる触媒失活である。タウロリジン曝露が卵巣腫瘍細胞においてPARP切断をもたらすかどうか確かめるために、50μMまたは100μMのタウロリジンへの24時間曝露後に、PA-1、SKOV-3、およびNIH-3T3細胞の全細胞抽出物に対してウエスタンブロット分析を行った。
図4に含まれる代表的なウエスタンブロットに示された、この分析の結果から、PA-1およびSKOV-3細胞での50μMまたは100μMタウロリジンへの曝露はPARP切断をもたらすことが明らかになった。対照的に、NIH-3T3細胞では、タウロリジンへの曝露後、このタンパク質分解事象の形跡がほとんどなかった。これらのデータは、タウロリジンが腫瘍細胞においてアポトーシスを誘導するが、非腫瘍細胞では誘導しないことを裏付けている。
【0066】
正常な非新生物細胞と比較して腫瘍細胞における優先的なアポトーシス死の誘導を考えて、抗新生物活性をさらに評価するために、腫瘍を有する動物にタウロリジンを投与した。腹腔内ヒト卵巣腫瘍異種移植片を有するヌードマウスにおいてタウロリジンの抗新生物活性を評価する研究を開始した。雌ヌードマウスにおけるタウロリジンの最大耐量(MTD)摂生を特定するために、および毒性を評価するために、インビボ研究を設計した。毒性は、3日腹腔内ボーラス注射摂生後の体重変化および死亡率を測定することにより評価した。毎日1mlの注射により、5mg/マウス/日〜30mg/マウス/日の用量が送達された。これらの研究の結果から、毎日15mg/マウス(〜650mg/kg)以下の用量でのタウロリジンは十分に許容されることが明らかになった(表7)。
【0067】
無胸腺(ヌード)雌マウスにおけるタウロリジンにより誘導される毒性は以下のように評価した。5匹〜10匹のマウスからなる群に3日連続してタウロリジンを注射した。評価されたタウロリジン用量は5mg/マウス/注射〜30mg/マウス/注射であり、(限られた溶解度のために、それぞれ1.25mlおよび1.5mlの体積で送達された25mgおよび30mgの用量以外は)1mlの体積で腹腔内に送達された。この注射摂生間、およびその後30日間毎日、マウスの体重を測定し、検査した。実験を最低3回繰り返し、死亡率および体重減少のデータをプールした。
【0068】
【表7】
【0069】
この投与計画の結果としての最大体重減少は7%であり、体重は、注射摂生の完了後7日以内で注射前のレベルに戻った。20mg/マウス以上の用量を使用した摂生では、より著しい毒性が観察された(表7)。詳細に述べると、マウスあたり20mg、25mg、または30mgを使用した摂生の体重減少最下点は、それぞれ、-12%、-16%、および-25%であった。さらに、これらのタウロリジン投与計画は、それぞれ、15%、43%、および100%の死亡率をもたらした。
【0070】
毒性研究に基づいて、20mg/マウスの用量で3日間毎日1mlのタウロリジン腹腔内注射がMTDであると選択された。次に、研究は、SKOV-3細胞株から得られた腹腔内ヒト卵巣腫瘍異種移植片を有するマウスにおいて、この摂生の抗新生物活性を評価した。マウスに5×10
6個のSKOV-3細胞を腹腔内注射した。3日20mg/マウスの投与計画を用いるタウロリジン治療は腫瘍細胞注射の5日後までに開始した。タウロリジン治療終了の14日後、マウスを屠殺し、全ての腹腔内腫瘍を取り出し、その重量を測定した。
図5および
図6にまとめられた、この研究の結果から、腫瘍細胞注射時に開始した場合、タウロリジン治療は非常に効果的であり、腫瘍形成(
図5)、腹水発達、および増殖(
図6)を阻害することが明らかになった。
【0071】
SKOV-3ヒト卵巣腫瘍細胞の腹腔内異種移植片を有するマウスの肉眼的外観(gross appearance)に及ぼすタウロリジン単回3日腹腔内ボーラス注射摂生(20mg/マウス/注射、腫瘍細胞注射時に開始)の効果を評価した。腫瘍細胞注射の19日後、対照マウス(タウロリジンなし)の平均腫瘍重量は約1.7gmであった。さらに、対照動物は、7mlまでの腹水を含むことが見出された。タウロリジン治療群(タウロリジンの単回摂生)の平均腫瘍重量は50mg未満であり、腹水生成の形跡はなかった。これらのタウロリジン治療動物のかなりの数に腫瘍が無いことも見出された。
【0072】
腫瘍細胞注射の日に治療を開始した場合、治療マウスの〜80%では屠殺時に疾患の形跡がなかった。さらに、腫瘍を有する治療マウスにおける平均腫瘍大きさは対照(賦形剤治療)マウスより約1/40小さかった。タウロリジン治療が腫瘍細胞注射の3日後まで遅れても、マウスの約10%には屠殺時に腫瘍が無く、これもまた、治療マウスの平均腫瘍大きさは対照より有意に小さかった。腫瘍細胞注射の5日後の(確立した腹腔内卵巣腫瘍を有するマウスでの)、この単回タウロリジン治療サイクルの開始はなお腫瘍増殖を有意に阻害することができた。
【0073】
本明細書に示したデータは、タウロリジンにより例示される化合物の種類が、腫瘍細胞増殖を選択的に阻害することにより強力な抗新生物活性を有し、腫瘍細胞においてアポトーシスを特異的に誘導することを示している。驚くべきことに、タウロリジンの細胞傷害IC
50は10μM〜50μMの範囲内であり、抗生物質効果に必要とされるIC
50より約1/100少ないことが見出された。この有効濃度の差は、タウロリジンの観察された低い臨床的毒性と合わせて考えると、この種類の化合物が安全で臨床的に十分に許容される抗新生物薬として有用であることを示している。
【0074】
前記のデータから、タウロリジンへの曝露は、充実性腫瘍細胞株の広範なパネルにおいて評価された全ての腫瘍細胞株の増殖および生存能力を効果的に阻害することが明らかになった。タウロリジンは新生物細胞においてアポトーシスを誘導した。このことから、タウロリジンの作用機構は、単に、細胞表面付着の成分または過程の阻害ではないことが分かる。非付着癌細胞モデルにおいて行われた研究の結果は前記の発見を裏付けており、HL-60ヒト前骨髄細胞株での90分という短いタウロリジンへの曝露がアポトーシスを誘導することを示している。タウロリジンへの曝露は、カスパーゼ3、カスパーゼ8、およびカスパーゼ9の活性化、ミトコンドリア膜の完全な状態の破壊(これらの細胞小器官からのチトクロムC流出が伴う)、およびPARPタンパク質の切断をもたらす。
【0075】
アポトーシス誘導に耐えるように遺伝子操作されたヒト白血病HL-60細胞が、シグナル伝達カスケードのbcl-2/bax(抗死遺伝子(anti-death gene))ポイントとは無関係に(bcl-2/baxポイントの下流で)アポトーシスになるように誘導された。驚くべきことに、Bcl2過剰発現HL-60細胞でのタウロリジン曝露は、開始は遅れるがアポトーシスを誘導できることが見出された。これらのデータは、活性なタウロリジン分解産物が、細胞内シグナル伝達過程に影響を及ぼし、アポトーシス過程を開始する膜成分と反応することができることを示している。
【0076】
タウロリジンがアポトーシスを誘導する能力は腫瘍細胞に特異的であることが見出された。この観察は、腫瘍の無いことが分かっている動物から得られた正常な(非腫瘍)初代細胞を用いて確かめられた。正常なマウス骨髄培養物ならびに活性化ヒトT細胞培養物においてタウロリジンの細胞傷害活性およびアポトーシス活性を評価した。両方の正常細胞モデルにおいて、タウロリジンは高μM範囲では細胞傷害性でなく、アポトーシス誘導と一致する細胞変化を生じなかった。正常マウス骨髄において、細胞増殖を阻害するのにmM範囲の濃度が必要とされた。これらの発見は、タウロリジン(またはその代謝産物の1つ)が、腫瘍細胞アポトーシスを誘導することができる腫瘍細胞特異的な標的に近づくことを示している。
【0077】
実施例2:臨床的使用
再発性卵巣腫瘍を除去する手術の直後の腹腔内洗浄によってタウロリジンを投与した。膠芽腫を有する患者にはタウロリジンを全身投与した。現在まで、タウロリジンはこれらの患者において十分に許容されている。
【0078】
進行した再発性多形性膠芽腫と診断された4人の患者をタウロリジンで治療した。この患者群の予後は約8週間の生存であると決定された。各患者は、タウロリジン20gが週2回6時間にわたって腕に静脈内注入される少なくとも1回の5週摂生を受けた。治療された4人の患者のうち3人で腫瘍塊が縮小したか、または同じままであった。1症例においてわずかな増大が見られた。治療開始の14週間後、どの患者も生存しており、8週間の予後を超えた。タウロリジンの全身投与によって、これらの脳腫瘍患者で有益な臨床効果が達成された。このことから、タウロリジンまたはタウロリジンの代謝産物は血液脳関門を首尾よく通過して脳の腫瘍に接近したことが分かる。
【0079】
これらのデータは、タウロリジンおよびその誘導体または代謝産物が、腫瘍増殖を阻害または阻止するのに、および腫瘍患者の平均余命を延ばすのに有用であることを示している。
【0080】
他の態様は添付の特許請求の範囲内である。