(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6234413
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】カルシウム強化醤油調味料
(51)【国際特許分類】
A23L 27/50 20160101AFI20171113BHJP
【FI】
A23L27/50 A
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-181344(P2015-181344)
(22)【出願日】2015年9月15日
(65)【公開番号】特開2016-123411(P2016-123411A)
(43)【公開日】2016年7月11日
【審査請求日】2016年5月19日
(31)【優先権主張番号】特願2014-266853(P2014-266853)
(32)【優先日】2014年12月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006770
【氏名又は名称】ヤマサ醤油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】土平 洋彰
(72)【発明者】
【氏名】向山 信
【審査官】
小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭60−041440(JP,A)
【文献】
特開昭62−186762(JP,A)
【文献】
特開昭58−020171(JP,A)
【文献】
特開平02−227042(JP,A)
【文献】
ダイオネクス アプリケーション レポート,2001年,AR034KY-0101
【文献】
五訂 日本食品標準成分表,2004年,p. 288
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00 − 27/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンゴ酸およびカルシウムを含有し、リンゴ酸濃度が10000〜50000ppmであり、カルシウム濃度が2000〜15000ppmである醤油。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシウム強化醤油調味料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カルシウムは重要な役割を担う栄養素であり、食事におけるカルシウムの摂取不足は骨粗しょう症等の骨の健康障害や高血圧、動脈硬化など様々な疾患の要因となりうることが知られている。
【0003】
そこで、食品においてもカルシウムを添加するなどして栄養強化し、摂取不足を補うための試みが従来なされている。醤油におけるカルシウム強化法としては、たとえば生醤油のpHを4.3〜4.6に調整する前もしくは調整した後に乳酸カルシウム、クエン酸カルシウム等を添加する方法(特許文献1)、食塩濃度が18g/100mLより低い生醤油のpHを4.3〜4.6に調製したのち乳酸カルシウムなどを添加する方法(特許文献2)、醤油をカルシウム型強酸性カチオン交換樹脂と接触させてカルシウムを強化する方法(特許文献3)、カルシウム塩を添加する前後に調味料を膜処理及び/または脱リン処理する方法(特許文献4)などが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−101661
【特許文献2】特開昭62−143666
【特許文献3】特開昭60−98961
【特許文献4】特開2001−161312
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カルシウムを強化した醤油を製造しようとするとき、醤油中の成分とカルシウムが反応し、保存時に沈殿・濁質を生じてしまうことは、カルシウム強化醤油を製造するうえでの大きな課題のひとつである。
【0006】
特許文献4には、沈殿の発生が生じにくいカルシウム強化醤油を製造したことが記載されているが、この方法は、膜処理工程や脱リン剤との接触工程が必要となるなど、製造において多大なコストを要するものであった。また、醤油中のカルシウムの含有量が多くなるほど沈殿・濁質が発生しやすくなることから、従来の方法では、保存中に沈殿・濁質を発生させずに添加することが可能なカルシウムの添加量には上限があり、実際に醤油中のカルシウム濃度としても500ppm程度のものが多数であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで発明者は鋭意検討を行った結果、火入れ後の醤油に対してリンゴ酸またはアスコルビン酸とカルシウムを添加することにより、従来達成できなかったような高濃度のカルシウムを含有するにもかかわらず、保存時に沈殿・濁質を生じないカルシウム強化醤油調味料を製造できることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0008】
本発明のカルシウム強化醤油調味料は、2000ppm以上という従来達成できなかったような高濃度のカルシウムを含有するものであり、従来のカルシウム強化醤油に比べてカルシウム摂取補助効果がきわめて高い。一方、カルシウム濃度が高いにもかかわらず、保存時にカルシウム由来の沈殿を生じることがない。
【0009】
また、本発明のカルシウム強化醤油調味料はリンゴ酸またはアスコルビン酸とカルシウムを添加するというきわめて簡便な方法によって製造することが可能なものであり、製造時の時間・費用コストの面においてもすぐれたものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のカルシウム強化醤油調味料は、火入れ後の醤油にリンゴ酸またはアスコルビン酸およびカルシウムを添加することによって製造できる。
【0011】
原料として用いる醤油には、濃口醤油、淡口醤油、たまり醤油、再仕込み醤油、白醤油など、各種の醤油を用いることができる。
【0012】
醤油へのリンゴ酸またはアスコルビン酸の添加量は、沈殿発生抑制効果と、酸の添加による酸味の増加とのバランスを考慮し、1.0〜10.0%の範囲とすることが好ましい。また、とくにアスコルビン酸を添加するときには3.0〜5.0%の範囲とすることがさらに好ましく、リンゴ酸を添加するときには1.0〜5.0%の範囲とすることがさらに好ましい。酸の添加量がこれより少ないと、望むような沈殿発生抑制効果が得られず、逆に多すぎると酸味が強くなり過ぎるなど風味上の問題が生じるおそれがある。なお、本明細書における濃度の表示は、いずれもw/vである。
【0013】
醤油に添加するカルシウムは、食用として利用可能な無機塩の形で添加することができ、たとえば塩化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、乳酸カルシウム、酢酸カルシウム、クエン酸カルシウム等が挙げられる。添加量は、製造した醤油中のカルシウム濃度として2000〜15000ppmとすればよく、とくに5000〜10000ppmとすることが好ましい。
【0014】
なお本発明のカルシウム強化醤油調味料は、醤油、リンゴ酸またはアスコルビン酸、カルシウムのほかに、調味成分としてたんぱく加水分解物、砂糖、液糖、アミノ酸、核酸、甘味料、酸味料等を適宜含有せしめてもよい。
【0015】
本発明のカルシウム強化醤油を製造するには、まず水にカルシウム塩と、リンゴ酸またはアスコルビン酸を添加して溶解させ、次に、これを火入れ醤油と混合することが好ましい。火入れ後の醤油に対してリンゴ酸またはアスコルビン酸とカルシウムを同時に添加したり、リンゴ酸またはアスコルビン酸をカルシウムより後に添加してしまうと、沈殿を生じやすくなってしまい品質上好ましくない。
【実施例】
【0016】
以下、実施例をあげて具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0017】
(参考例)乳酸およびクエン酸の添加による沈殿・濁質発生抑制効果の試験
火入れ後の醤油に対して、乳酸またはクエン酸と、塩化カルシウムの混合物を水に溶解した水溶液を投入し、調製後の醤油中における乳酸またはクエン酸濃度3.0%、総窒素分1.5%、塩分濃度12%、アルコール濃度3.8%、カルシウム濃度8500ppmとなるように調整した。
【0018】
これらのカルシウム強化醤油を70℃に加温した後、室温に静置したところ、大量の沈殿・濁質が発生してしまい、実用に用いるには全く適さないものであった。
【0019】
(実施例1)アスコルビン酸の添加による沈殿・濁質発生抑制効果の試験
火入れ後の醤油に対してアスコルビン酸と塩化カルシウムの混合物を水で溶解した溶液を投入した。アスコルビン酸の添加量として調製後の醤油中アスコルビン酸濃度0%、2.0%、3.0%の3試験区を用意し、0%添加群では水に溶解した塩化カルシウムのみを投入した。すべての試験区で、混合後の醤油は総窒素分1.5%、塩分濃度12%、アルコール濃度3.8%、カルシウム濃度8500ppmとなるように調整した。
【0020】
上記の試験区について醤油を70℃まで加温した後、室温で24時間静置し、白色沈殿および濁質の発生を目視にて検証した。下記基準に基づき沈殿・濁質の発生について点数評価を実施した。
【0021】
【表1】
【0022】
結果、下記表4に示すように、アスコルビン酸を事前にカルシウム塩と混合し、醤油に添加することで、沈殿・濁質の発生が抑制されることが明らかになった。とくに、カルシウム醤油の沈殿抑制効果を十分に得るためには8500ppmのカルシウムに対してアスコルビン酸を3%程度添加することが望ましいと示唆された。
【0023】
【表2】
【0024】
(実施例2)リンゴ酸の添加による沈殿・濁質発生抑制効果の試験(1)
火入れ醤油に対して、リンゴ酸と塩化カルシウムの混合物を水で溶解した水溶液を投入した。リンゴ酸の添加量として、調製後の醤油中リンゴ酸濃度0%、3.0%、4.0%、5.0%の4試験区を用意し、0%添加群では水に溶解した塩化カルシウムのみを投入した。すべての試験区で、混合後の醤油は総窒素分1.5%、塩分濃度12%、アルコール濃度3.8%、カルシウム濃度8500ppmとなるように調整した。
【0025】
実施例1と同様の方法で、沈殿・濁質の発生度合いを評価した。
【0026】
結果、下記表5に示すように、リンゴ酸においても、アスコルビン酸と同様にカルシウム塩による沈殿・濁質の発生を抑制していることが示唆された。また8500ppmのカルシウム濃度に対してリンゴ酸を3%以上添加すると、カルシウムによる沈殿・濁質の生成が顕著に抑制されていた。
【0027】
【表3】
【0028】
(実施例3)リンゴ酸の添加による沈殿・濁質発生抑制効果の試験(2)
リンゴ酸の添加量を実施例2よりもさらに低い範囲に設定し、検討を実施した。
実施例2と同様に、火入れ醤油に対して、リンゴ酸と塩化カルシウムの混合物を水で溶解した水溶液を投入した。調製後の醤油中リンゴ酸濃度0%、0.5%、1.0%、1.5%または2.0%の5試験区を用意し、0%添加群では水に溶解した塩化カルシウムのみを投入した。すべての試験区で、混合後の醤油は総窒素分1.5%、塩分濃度12%、アルコール濃度3.8%、カルシウム濃度8500ppmとなるように調整した。
実施例1および2と同様の方法で、沈殿・濁質の発生度合いを評価した。
【0029】
結果、下記表6に示すように、8500ppmのカルシウム濃度に対してリンゴ酸を1.0%以上添加したときに、カルシウムによる沈殿・濁質の生成が顕著に抑制されていた。
【0030】
【表4】
【0031】
以上のことから、醤油中にリンゴ酸またはアスコルビン酸を添加することによって、8500ppmという多量のカルシウムを添加しても沈殿・濁質を発生させず、きわめてカルシウム摂取補助効果がきわめて高いカルシウム強化醤油を得ることができることが明らかになった。