(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6234479
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】高圧機器用絶縁装置
(51)【国際特許分類】
H02K 3/30 20060101AFI20171113BHJP
H02K 3/40 20060101ALI20171113BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20171113BHJP
H01B 3/40 20060101ALI20171113BHJP
H01B 17/60 20060101ALI20171113BHJP
H01B 3/12 20060101ALN20171113BHJP
H01B 3/04 20060101ALN20171113BHJP
【FI】
H02K3/30
H02K3/40
H01B7/02 A
H01B3/40 M
H01B17/60 J
!H01B3/12 313N
!H01B3/04
【請求項の数】15
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-554093(P2015-554093)
(86)(22)【出願日】2014年1月3日
(65)【公表番号】特表2016-513443(P2016-513443A)
(43)【公表日】2016年5月12日
(86)【国際出願番号】EP2014050039
(87)【国際公開番号】WO2014114472
(87)【国際公開日】20140731
【審査請求日】2015年7月22日
(31)【優先権主張番号】102013201053.2
(32)【優先日】2013年1月23日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390039413
【氏名又は名称】シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】フローリアン エーダー
(72)【発明者】
【氏名】シュテフェン ラング
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル プライビシュ
【審査官】
津久井 道夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−058314(JP,A)
【文献】
特開2003−009446(JP,A)
【文献】
特開平10−174333(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/30− 3/52
H01B 3/00− 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の層(14,15)を含んだ主絶縁体(6)を有する巻線バー(5)を備えた高圧機器(1)用絶縁装置(4)であって、
前記第1の層(14)は小板状の雲母粒子を含み、前記第2の層(15)は小板状のアルミナ粒子(16)を含んでおり、
前記主絶縁体(6)は、少なくとも2つの前記第1の層(14)を含み、該少なくとも2つの第1の層(14)の間に少なくとも1つの前記第2の層(15)が配置されており、
前記巻線バー(5)に最も近い前記主絶縁体(6)の層は、前記第1の層(14)である、
ことを特徴とする絶縁装置。
【請求項2】
前記第2の層(15)は、熱を前記巻線バー(5)の軸方向(17)に輸送するように構成されている、請求項1記載の絶縁装置。
【請求項3】
前記小板状のアルミナ粒子(16)は、10乃至100のアスペクト比を有している、請求項1又は2記載の絶縁装置。
【請求項4】
前記小板状のアルミナ粒子(16)は、前記第2の層(15)の内部で平に置かれるように配向され、かつ、相互に接触している、請求項1から3いずれか1項記載の絶縁装置。
【請求項5】
隣接する前記小板状のアルミナ粒子(16)は、軸方向(17)で相互に当接するか、又は、少なくとも部分的に重なっている、請求項1から4いずれか1項記載の絶縁装置。
【請求項6】
前記第2の層(15)内の前記小板状のアルミナ粒子(16)は、複数の層(19)に配置されている、請求項1から5いずれか1項記載の絶縁装置。
【請求項7】
前記小板状のアルミナ粒子(16)は、隣接する前記複数の層(19)内で相互にオフセットされて配置されている、請求項6記載の絶縁装置。
【請求項8】
前記第2の層(15)は、体積で20%超となるように、マトリックスに包含された前記小板状のアルミナ粒子(16)を有している、請求項1から7いずれか1項記載の絶縁装置。
【請求項9】
前記第1の層(14)の数は、前記第2の層(15)よりも5乃至50倍多い、請求項1から8いずれか1項記載の絶縁装置。
【請求項10】
前記第2の層(15)は、前記主絶縁体(6)内において軸方向に及び周面方向に延在している、請求項1から9いずれか1項記載の絶縁装置。
【請求項11】
前記第2の層(15)は、前記主絶縁体(6)内において中央に配置されている、及び/又は前記主絶縁体(6)の周面側に対してオフセットされて配置されている、請求項1から10いずれか1項記載の絶縁装置。
【請求項12】
前記小板状のアルミナ粒子(16)は、前記巻線バー(5)を巻回する支持体テープ(27)上に設けられている、請求項1から11いずれか1項記載の絶縁装置。
【請求項13】
請求項1から12いずれか1項記載の絶縁装置(4)を具備していることを特徴とする発電機。
【請求項14】
巻線バー(5)を備えた高圧機器(1)用絶縁装置(4)を製造する方法であって、
巻線バー(5)と、小板状の雲母粒子を含む少なくとも1つの第1の層(14)と、小板状のアルミナ粒子(16)を含む少なくとも1つの第2の層(15)とを提供するステップと、
前記第1及び第2の層(14,15)を適用して、前記巻線バー(5)上に主絶縁体(6)を形成するステップとを含んでおり、
前記主絶縁体(6)は、少なくとも2つの前記第1の層(14)を含み、該少なくとも2つの第1の層(14)の間に少なくとも1つの前記第2の層(15)を配置し、
前記巻線バー(5)に最も近い前記主絶縁体(6)の層は、前記第1の層(14)である、
ことを特徴とする方法。
【請求項15】
前記小板状の雲母粒子と前記小板状のアルミナ粒子(16)とを支持体ストリップ(27)上に設け、かつ、前記巻線バー(5)の周りに巻回することによって前記第1及び第2の層(14,15)を形成する、請求項14記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1及び第2の層を含む主絶縁体を有している巻線バーを備えた高圧機器用絶縁装置に関する。また本発明は、当該絶縁装置を備えた発電機並びに当該絶縁装置の製造方法にも関している。
【背景技術】
【0002】
電気エネルギーを生成するために、典型的には発電機の形態の高圧機器が使用される。欧州特許出願公開第1981150号明細書には、回転可能なロータと、該ロータの周囲に配置されたステータとを備えた発電機が記載されている。このステータは、回転対称に構成された積層コアを有しており、この積層コア内で導電性の巻線バーが回転している。前記積層コアの両側には巻線ヘッドが接続しており、この巻線ヘッドは、閉鎖された巻線を形成するために、接続ウェブを介して巻線バーに接続している。
【0003】
500MVA以上の電力出力を有する高圧機器の動作では、10kVを超える定格電圧が達成可能である。ここでの構成要素は、相当に高い機械的、熱的及び電気的ストレスにさらされている。とりわけ積層コア内で回転している巻線バーは、そのために電気絶縁性を備えており、これは電気的な部分放電による侵食とそれによって発生するトリーイングチャネルを防止するためのものである。
【0004】
米国特許出願公開第2007/0141324号明細書には、例えば少なくとも50のアスペクト比を備えた小板状雲母粒子を含んだ主絶縁体が記載されている。すなわちより具体的には一方の側の長さ及び幅と他方の側の厚さとのアスペクト比が少なくとも50である。そのような主絶縁体は電気的及び熱的絶縁作用を及ぼす。
【0005】
高圧機器の動作中は巻線バーのロータ内に熱が発生し、この熱は主絶縁体の低い熱伝導率(典型的には<0.25W/mK)に起因して排出することができない。その結果、熱が蓄積され、特にこの熱の蓄積は積層コア内で顕著となる。さらに主絶縁体における不均一性や欠陥に基づく局所的な部分放電に起因する温度上昇(ホットスポット)が発生し、これは主絶縁体の構成要素を経年劣化させる。この経年劣化が進んだ場合には、ロータの接地事故がおきかねず、このことは高圧機器の完全故障につながる恐れがある。
【0006】
それ故に、発電機、特に巻線バーの冷却に寄与する手段を設ける必要性がある。これには、電力出力クラスに応じて発電機を、空気、水素、または水で冷却することが公知である。
【0007】
主絶縁体の熱伝導率をさらに向上させるために、米国特許出願公開第2007/0141324号明細書からは、さらに、真空加圧含浸法(VPI)の範囲内で主絶縁体内部に熱伝導性粒子を含浸させることが公知である。このVPIプロセスの場合、多孔質ストリップが巻線バーに巻回される。この巻線バーは、個別に(シングルVPI)若しくは一緒に(グローバルVPI)真空条件下で樹脂に含浸され、加圧され、次いで硬化される。
【0008】
その他の方法は、レジンリッチ技術に基づいている。ここではポリマー絶縁材料を含んだ多孔質ストリップがBステージで個々の巻線バーに被着される。ここでの絶縁材料は、完全には架橋結合されておらず、再加熱、プレス、硬化が可能である。米国特許第777,639,2号明細書には、熱伝導性成分を含んだ複合絶縁ストリップが記載されており、ここではそれがレジン混合物に添加され、複合ストリップに浸透している。
【0009】
本発明の課題は、電気絶縁性の他に熱伝導性も有している、巻線バーを備えた絶縁装置を提供することにある。またこの絶縁装置の製造は簡単かつ安価にすべきであり、さらに既存の製造プロセスにもたやすく統合可能にすべきである。
【0010】
本発明によれば、第1及び第2の層を含んだ主絶縁体を有する巻線バーを備えた高圧装置用の絶縁装置が提案されている。この装置では、前記第1の層が小板状の雲母粒子を含み、前記第2の層が小板状のアルミナ粒子を含んでいる。
【0011】
さらに本発明によれば、巻線バーを備えた高圧機器用絶縁装置を製造する方法が提案され、この方法は以下のステップ、すなわち
巻線バーと、小板状の雲母粒子を含む少なくとも1つの第1の層と、小板状のアルミナ粒子を含む少なくとも1つの第2の層とを提供するステップと、
前記巻線バーに主絶縁体を形成するために、前記第1及び第2の層を適用するステップとを含んでいる。
【0012】
小板状のアルミナ粒子を含む第2の層を主絶縁体に導入することによって、熱を輸送する層が絶縁装置内に統合される。これにより、高電機器の動作中に改善された熱分布が達成され、この熱分布は、雲母粒子だけをベースにした絶縁装置よりも均一となる。絶縁耐力、透過性または部分放電抵抗などの特性も残されたまま維持される。そのため、電気的な絶縁特性の他にも所望の熱伝導特性を有する絶縁装置が提供される。
【0013】
さらに前記提案された巻線バーを備えた絶縁装置は、簡単かつ安価に製造することができる。特に前記第1および第2の層の形成は、手間をかけることなく既存の製造プロセスに統合することが可能である。なぜなら第2の層の統合は、ほんの僅かな変更しか必要としないからである。
【0014】
なお本願明細書との関係において高圧機器とは、例えば50MVA超の電力を備えたターボ発電機のような発電機であることを理解されたい。好適な発電機は500MVA超の電力出力を備え、定格電圧は、1kV超、好ましくは10kV超である。
【0015】
前記高圧機器に対して前記巻線バーは、複数の電気的導体路からなる複合材を含み、これは数10kAの電流を誘導することが可能である。この電気的導体路として、例えば銅線が使用されてもよい。
【0016】
巻線バーの絶縁は、サブ導体路間の、すなわち個々の電気的導体路間の部分絶縁体として実現されてもよいし、または複数の電気的導体路の複合体と、アース電位におかれた積層コア及び巻線ヘッドを有する領域との間の主絶縁体として実現されてもよい。さらに前記主絶縁体は巻線バーを完全に取り囲んでいてもよい。この場合の主絶縁体は、巻線バーの周りにリングを形成し、これは外周面側と内周面側とを有する。主絶縁体リングの厚さは、高圧機器の定格電圧ならびに製造条件及び動作条件に依存する。
【0017】
前記巻線バーはさらに前記主絶縁体の他に、高圧機器の動作中に主絶縁体内部の電位を低減する内的及び外的電位制御部を有していてもよい。この場合の内的電位制御部は、巻線バーと主絶縁体の間に配置される。そのため内的電位制御部は、主絶縁体リングの内周面側に配置される。外的電位制御部はアース電位側で主絶縁体を取り囲む。そのためこの外的電位制御部は、主絶縁体リングの外周面側に配置される。
【0018】
また複数の第1及び/又は第2の層が設けられてもよい。
【0019】
なお本明細書において「軸方向」及び「径方向」とは、常に巻線バーの中心軸に係るものである。
【0020】
一実施態様によれば、前記第2の層は、巻線バーの軸方向に熱輸送するように構成されている。そのため主絶縁体においては異方性の熱伝導が実現され、熱は径方向ではなく、実質的に軸方向に伝導する。高圧機器の動作中、熱伝導は巻線バーに沿って軸方向に伝わり中心で最強となるので、この熱は、第2の層を通って巻線バーの中心から軸方向で端部まで輸送される。
【0021】
別の実施態様によれば、小板状アルミナ粒子は、10乃至100のアスペクト比、好ましくは40乃至80のアスペクト比を有している。ここでのアスペクト比とは、厚さに対するそれぞれの長さと幅の比に係わっている。アルミナ粒子は、この場合化学式Al
2O
3の酸化アルミニウムに基づいて形成されている。
【0022】
前記小板状アルミナ粒子は、好ましくは第2の層に平坦に配列されている。それにより主絶縁体における部分放電に起因する侵食と特にトリーイングチャネルの形成とが低減される。絶縁耐力の増加の他に、さらに平に置かれるような配向により第2の層の機械的な強度も高まる。
【0023】
さらに別の実施態様によれば、小板状アルミナ粒子が相互に接触している。このようなアルミナ粒子間の接触は、個々のアルミナ粒子間の良好な熱輸送をもたらし、それと共に第2の層の熱伝導率も向上させる。
【0024】
隣接する小板状アルミナ粒子は、軸方向において相互に当接しているか又は少なくとも部分的に重なり合っている。これにより軸方向において、前記小板状アルミナ粒子間の接触が得られ、それによって第2の層の軸方向の熱伝導率も増加する。
【0025】
第2の層における侵食チャネル若しくはトリーイングチャネルの形成を防止するために、小板状アルミナ粒子は、第2の層の内部において複数の層に配置されてもよい。その際に前記小板状アルミナ粒子は、隣接する層において互いにずれて配置されていてもよい。
【0026】
更に別の実施態様によれば、前記小板状アルミナ粒子はマトリックス内に存在する。このマトリックスは、特にポリマーマトリックス、例えばポリシラザン系、ポリエステル系又はポリエーテル系として含まれていてもよい。
【0027】
さらに別の実施態様によれば、前記第2の層は、40Vol.%超の小板状アルミナ粒子をマトリックス内に包含していてもよい。ここでの体積%は、第2の層の総体積に関連する。アルミナ粒子の高い体積比率は、粒子同士の接触の可能性を表し、相応の熱伝導パスが形成されることを意味する。それにより、熱伝導率は飽和状態まで高まる。アルミナ粒子の割合は、好ましくは超粒子領域におかれる。すなわち熱伝導率が飽和状態である。それにより当該絶縁装置の軸方向において2W/mK超、好ましくは3W/mK超の熱伝導率を達成することが可能になる。
【0028】
別の実施態様によれば、主絶縁体は少なくとも2つの第1の層を含み、該第1の層の間に少なくとも1つの第2の層が配置される。特に主絶縁体では、第1の層の数は、第2の層よりも5乃至50倍、好ましくは10乃至25倍多い。それにより主絶縁体の熱伝導率は、既に少数の第2の層でも大幅に改善される。このことは材料コストを低減させ、節約効果を高める。
【0029】
さらなる実施形態では、第2の層は主絶縁体の軸方向および周面方向に延在する。第1及び第2の層は、巻線バーを好ましくは完全に取り囲む。それにより、一方では巻線バーの完全な絶縁が保証され、他方では主絶縁体の内部において均一な熱伝導が保証される。
【0030】
さらに別の実施態様では、第2の層は、主絶縁体の中心に配置され、及び/又は主絶縁体の周面側に対してオフセットされて配置される。それにより第2の層は、絶縁装置内において厚さ方向で主絶縁体内部の中央に位置する。そのため軸方向で主絶縁内部における熱分布の均一化が達成される。付加的に若しくは代替的に、前記第2の層は、当該絶縁装置内において、主絶縁体の中心から巻線バーまで厚さ方向に配置されてもよいし、又は主絶縁体のアース電位側に対してオフセットされて配置されてもよい。主絶縁体内部における第2の層のオフセット配置によって、電気的導体路を有する巻線バー又は積層コアに対する冷却効果が達成される。
【0031】
小板状アルミナ粒子は、巻線バーを巻回する支持体テープ上に存在していてもよい。この支持体テープとして、例えばポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はガラスから形成される繊維が適している。絶縁テープを形成するために、マトリックスに包含される小板状アルミナ粒子は、例えば支持体テープ上に接着されてもよい。それにより個々の層の含浸性が提供され、VPIプロセスやレジンリッチ技法に基づく既存の製造プロセスが利用できる。
【0032】
小板状雲母粒子は、10乃至100、好ましくは40乃至80のアスペクト比を有していてもよい。前記雲母粒子は、層状珪酸塩に基づいて形成されている。これらの雲母粒子は、好ましくマトリックス、特にポリマーマトリックス、例えばポリシラザン系、ポリエステル系またはポリエーテル系のマトリックスに含まれる。
【0033】
さらに前記小板状雲母粒子は、第1の層内で平に置かれるように配向されてもよく、また複数の層内で重畳するように配置されてもよい。前記雲母粒子自身はその小板形態によって相互に配向されるようになる。この場合表面との相互作用によって、隣接する雲母粒子の接触面に直接影響する結合力がもたらされる。このことはとりわけファンデルヴァールス力または水素結合による雲母粒子の熱力学的相互作用に基づいて生じる。その結果当該絶縁装置の絶縁耐力と機械的強度とが高められる。
【0034】
マトリックス内の雲母粒子は、巻線バーの周りに巻回させられるような機械的な耐性のある雲母紙を形成し、これは反応性樹脂による含浸が可能であり、トリーイングチャネルに対する良好なバリア性を有する。同時に、高圧機器の動作中に発生する部分放電に対する高い耐性も実現される。
【0035】
雲母紙は、機械的強度をさらに改善するために、例えばガラス又はポリエステル繊維からなる支持体テープ上に被着される。続いて構成要素は複合材料に変換することができる。このことは、雲母紙にVPIプロセスを用いて液状の反応性ポリマーを含浸させ、後続のステップにおいて硬化させることで達成される。代替的に、レジンリッチ技術を用いることも可能である。支持テープとしてガラス繊維若しくはポリエステル繊維にエポキシ樹脂を含浸させた雲母紙の熱伝導率は、例えば室温で0.2乃至0.25W/mKであり得る。
【0036】
さらに別の実施態様によれば、雲母粒子とアルミナ粒子は、支持体テープ上に設けられており、第1及び第2の層は巻線バーの巻回によって生成される。これにより巻回された巻線バーはVPIプロセスの範囲内で若しくはレジンリッチ技法に基づいて継続処理され得る。それにより第2の層の設置は、追加の手間なしで既存の製造プロセスに容易に統合される。
【0037】
さらに、上述したような巻線バーを含む発電機が提案される。この巻線バーは、発電機の積層コアを通って誘導されてもよいし、巻線ヘッドにおいて導体路ループを形成するために偏向される突出した端部を両側に有していてもよい。
【0038】
発電機の中央若しくは積層コア内部において、強力な熱の蓄積が発生すると、これは絶縁装置の第2の導電層によって均一化される。そのためこの第2の層は、発電機の動作中に熱を効率良く巻線ヘッドに伝導する。それにより当該絶縁装置内で平均的に発生する温度も最大温度も低減することが可能になる。この効果は、主絶縁体の老化を遅らせ、絶縁耐力を向上させる。
【0039】
さらに付加的な増加コストも僅かに抑えられる。なぜなら既に1つ若しくは少数の第2の層のみで、この効果を達成するのに十分だからである。それに伴い発電機の冷却も小規模な設計仕様が可能である。例えば本来は小型の電力レベルの発電機用に規定された冷却能力で十分となる。そのため場合によって絶縁装置に対する材料コストが増加しても、総費用は抑えられる。なぜなら冷却のための周辺コストが低減するからである。
【0040】
以下では本発明の実施例を添付の概略図面に基づき詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】積層コアと絶縁装置とを備えた発電機ステータの詳細縦断面図
【
図2】例示的な主絶縁体を備えた絶縁装置の縦断面図
【
図3】
図2の絶縁装置内の小板状のアルミナ粒子を含んだ第2の層の詳細拡大図
【
図4】
図2の主絶縁体の軸方向温度プロファイルを示した図
【
図5】別の例示的な主絶縁体を備えた絶縁装置の縦断面図
【
図6】さらに別の例示的な主絶縁体を備えた絶縁装置の縦断面図
【
図7】本発明による絶縁装置を製造する方法のフローチャート
【0042】
実施例
図1には、発電機1の断面が示されている。この発電機1は、積層コア3と絶縁装置4とを備えた発電機ステータ2を含み、前記絶縁装置4は巻線バー5を有している。
【0043】
絶縁装置4は、巻線バー5と一緒に積層コア3を通って引き出されている。この絶縁装置4の端部は、積層コア3から突出している。巻線バー5は、導体路ループを形成するために巻線ヘッド(図示せず)において偏向されている。
図1に示す構成は、典型的には、積層コア3の両側において巻線バー端部5と対称に構成されている。
【0044】
巻線バー5は、主絶縁体6によって取り囲まれている。発電機ステータ2の構成要素間の部分放電を回避するために、主絶縁体6はさらに複数の層7,8で取り囲まれている。
【0045】
そのため巻線バー5と主絶縁体6との間には、層7が内部電位制御部として配置されている。さらに前記積層コア3と主絶縁体6との間には、さらなる層8が配置されており、このさらなる層8は、コロナシールド層8として構成されている。このコロナシールド層8は、第1区分10に端部コロナシールド層9を含み、第2区分12には外部コロナシールド層11を含んでいる。この外部コロナシールド層11は、グランド13に接続されている。外部コロナシールド層11は、積層コア3内で主絶縁体6を取り囲み、巻線バー5が積層コア3から飛び出した後は、部分長さ12に亘って導かれている。前記端部コロナシールド層9はこの外部コロナシールド層11に直接続いている。前記複数の層7,8により、前記主絶縁体6の内部における電解は、内部電位制御部7から始まってコロナシールド層8まで低減される。積層コア3の両側から突出する巻線バー5の端部には、端部コロナシールド層9が設けられており、この端部コロナシールド層9は、外部コロナシールド11から始まる電位を低減している。
【0046】
出願人にとって内部で公知の構成によれば、前記主絶縁体6は、エポキシ樹脂のようなポリエーテルポリオールベースのマトリックス内で小板状雲母粒子によって形成されている。このような雲母紙は、さらにガラス繊維やポリエステル繊維のような支持体テープ上に設けられ、それが主絶縁体6として前記絶縁装置4の巻線バー5の周りに巻回される。
【0047】
このような構成における主絶縁体6の熱伝導率は、室温で約0.2乃至0.25W/mKである。それ故特に積層コア3内で蓄熱が発生し、これは主絶縁体6の経年劣化プロセスを加速させる。さらに主絶縁体6における不均一性や欠陥に基づいて局所的な部分放電に起因する温度上昇(ホットスポット)が発生し、これは主絶縁体6の構成要素を経年劣化させる。そのような経年劣化が進んだ場合には、巻線バー5の地絡が起きる可能性があり、このことは発電機1の完全な故障につながりかねない。
【0048】
図2には、巻線バー5と主絶縁体6とを備えた絶縁装置4の縦断面が示されている。
【0049】
主絶縁体6は、小板状雲母粒子を有する2つの第1の層14と小板状アルミナ粒子を有する1つの第2の層15とを備える。この場合アルミナ粒子は、雲母粒子よりも良好な熱伝導率を有している。但し電気的な特性は似ている。そのため第2の層15の導入により熱伝導層は主絶縁体6に統合され、主絶縁体6内部の熱を輸送することができる。
【0050】
複数の層14,15を備えた主絶縁体6は巻線バー5を完全に取り囲む。そのため断面で見て巻線バー5の周りに、内周面側と外周面側とを有する主絶縁体リングが形成される。図示の実施態様では、第2の層15は、主絶縁体リングの厚さ方向でその内部の中央にて2つの第2の層14の間に配置されている。そのため軸方向で主絶縁体6内部における熱分布の均一化が達成される。
【0051】
第2の層15はこの場合主絶縁体6の前記2つの第1の層14の間で軸方向に及び周面方向に延在している。主絶縁体6の他の実施態様では、第1の層14の数と、第2の層15の数との間の比率が5乃至50の範囲に、好ましくは10乃至25の範囲にある。例えば主絶縁体6は、全部で22の第1の層14と、1つ又は2つの第2の層15を有していてもよい。それにより当該絶縁装置4の熱伝導率は、既に少数の第2の層で大幅に改善され、このことは材料コストを大幅に削減されることを意味する。
【0052】
図3には、
図2に示された、絶縁装置4の主絶縁体6における小板状アルミナ粒子16を含んだ第2の層15の部分Aの拡大断面図が示されている。
【0053】
小板状アルミナ粒子16は、10乃至100のアスペクト比を有し、エポキシ樹脂のようなポリエーテルポリオールベースの繊維のポリマーマトリックスに含まれている。この小板状アルミナ粒子16は、第2の層15の機械的強度及び絶縁耐力を高めるために、第2の層15に平らに置かれるように配向されている。さらに小板状アルミナ粒子16は相互に接触している。この場合隣接する小板状アルミナ粒子16は軸方向17で相互に当接し、あるいは少なくともその一部が重なり合っている。それにより、軸方向17で個々のアルミナ粒子16間の良好な熱伝導が達成され、さらに第2の層15内では高い熱伝導率が達成される。
【0054】
第2の層15内の、特に巻線バー5に対して径方向20の侵食チャネルまたはトリーイングチャネル18の形成を防止するために、前記小板状アルミナ粒子16は、第2の層15内で複数の層19に配置されている。隣接する層19内では、前記アルミナ粒子16は、相互にオフセットされて配置されている。
【0055】
第2の層15の熱伝導性のパッケージングを実現するために、第2の層は、50乃至75体積%の小板状アルミナ粒子16を包含する。というのもアルミナ粒子16は、所定の体積成分から熱伝導率が飽和するからである。そのため主絶縁体6の軸方向で2W/mK超の熱伝導率が達成でき、好適には3W/mK超の熱伝導率が達成できる。
【0056】
図4には、主絶縁体6内の軸方向での
図2による第2の層15無しの場合の温度経過曲線21と、有りの場合の温度経過曲線22とが示されている。
【0057】
つまり
図4には、主絶縁体6の内部に第2の層15が設けられているケースと設けられていないケースの温度経過曲線21,22が示されており、ここでは温度Tが、巻線バー5に沿った軸方向位置lに対してプロットされている。これらの温度経過曲線においては、発電機1の動作中の熱蓄積が巻線バー5の中央領域24において最も強くなることが示されている。温度経過曲線21は、巻線バー5の端部領域23から中央領域24に向かって上昇し、そこで自身の最大値25に達している。
【0058】
主絶縁体6内に第2の層15が設けられている場合の温度経過曲線22では、熱分布の均一化が生じ、当該温度経過曲線22の最大値26の方が、前記温度経過曲線21の最大値よりも小さいことが示されている。これは、発電機1の動作中の熱が軸方向18で巻線バー5の中央領域24から巻線バー5の端部領域23へ輸送されていることを示している。従って主絶縁体6内部の熱伝導は異方性である。なぜなら熱は主に径方向ではなく軸方向に伝導しているからでる。
【0059】
図5には、巻線バー5とさらなる例示的な主絶縁体6とを備えた絶縁装置4の縦断面が示されている。
【0060】
図5に示されている巻線バー5と主絶縁体6とを備えた絶縁装置の実施態様は、実質的に
図2に示した実施態様に相当する。
図2との違いは、
図5の第2の層15が主絶縁体リングの中心から径方向20にオフセットされて配置されていることである。発電機1が設置された状態でこのことは、第2の層15が巻線バー5に近づいて配置されていることを意味する。この主絶縁体6内部の第2の層15のオフセット配置によれば、動作中に巻線バー5に対する冷却効果が得られるようになる。
【0061】
図6には、巻線バー5とさらに別の例示的な主絶縁体6とを備えた絶縁装置4の縦断面が示されている。
【0062】
図6に示す、巻線バー5と主絶縁体6とを備えた実施態様も、実質的には
図2のものに相当している。ここでの
図2との違いは、
図6の第2の層15が主絶縁体リングの中心から径方向20にオフセットされて配置されていることである。発電機1が設置された状態でこのことは、第2の層15が積層コア3に近づいて配置されていることを意味する。この主絶縁体6内部の第2の層15のオフセット配置によれば、動作中に積層コア3に対する冷却効果が得られるようになる。
【0063】
図7には、本発明による絶縁装置4を製造する方法がフローチャートの形態で示されている。
【0064】
第1のステップS1では、巻線バー5と、小板状雲母粒子を含んだ少なくとも第1の層14と、小板状アルミナ粒子16を含んだ少なくとも1つの第2の層15とが提供される。前記小板状アルミナ粒子16は、巻線バー5に巻回される支持体テープ上に設けられている。支持体テープとして、ポリエステル、PETまたはガラス繊維が適している。それにより、個々の層の含浸性がさらに付与され、VPIプロセスに基づく既存の製造プロセスが利用可能となる。さらに雲母粒子も、支持体テープ上に設けられる。
【0065】
第2のステップS2では、主絶縁体6を形成するために第1及び第2の層14,15の連続体が巻線バー5の周りに設けられる。それにより、例えば10個の第1の層14が重なり合って巻回され、その上に1個の第2の層15が巻回され、その上に再び10個の第1の層14が巻回されるようにしてもよい。ここでは第1および第2の層14,15による巻線バー5の連続した巻回が生成される。そのためこの製造プロセスは容易に実現することができ、第2の層15を設けることによって、すぐに既存の製造プロセスに統合することが可能である。
【0066】
本明細書では様々な実施態様に基づいて本発明を説明しているが、本発明はそれらの態様に限定されるものではなく、多岐に亘る変更が可能であることを最後に述べておく。