(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6234488
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】無鉛はんだ
(51)【国際特許分類】
B23K 35/26 20060101AFI20171113BHJP
C22C 13/00 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
B23K35/26 310A
C22C13/00
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-20578(P2016-20578)
(22)【出願日】2016年2月5日
(65)【公開番号】特開2017-136629(P2017-136629A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2016年2月5日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515206469
【氏名又は名称】株式会社リソー技研
(74)【代理人】
【識別番号】110000866
【氏名又は名称】特許業務法人三澤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橘 忠晴
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 賢
【審査官】
市川 篤
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−149365(JP,A)
【文献】
特開2006−289493(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/090776(WO,A1)
【文献】
国際公開第99/048639(WO,A1)
【文献】
特開2012−121047(JP,A)
【文献】
特開2011−177719(JP,A)
【文献】
特開平11−077366(JP,A)
【文献】
特開昭62−230493(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/00−35/40
C22C 13/00、13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波振動によるキャビテーションを発生させる超音波はんだ付け装置によって用いられる無鉛はんだであって、
ゲルマニウムを、はんだの重量に対して0.010重量%以上0.100重量%以下の量含有し、
ニッケルを、はんだの重量に対して0.030重量%以上0.080重量%以下の量含有し、
残部が錫及び不可避不純物であることを特徴とする無鉛はんだ。
【請求項2】
超音波振動によるキャビテーションを発生させる超音波はんだ付け装置によって用いられる無鉛はんだであって、
ゲルマニウムを、はんだの重量に対して0.005重量%以上0.100重量%以下の量含有し、
ニッケルを、はんだの重量に対して0.050重量%以上0.080重量%以下の量含有し、
残部が錫及び不可避不純物であることを特徴とする無鉛はんだ。
【請求項3】
前記ゲルマニウムの含有量は、前記ニッケルの含有量よりも多く、はんだの重量に対して0.100重量%であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の無鉛はんだ。
【請求項4】
超音波振動によるキャビテーションを発生させる超音波はんだ付け装置によって用いられる無鉛はんだであって、
ゲルマニウムを、はんだの重量に対して0.010重量%以上0.100重量%以下の量含有し、
ニッケルを、はんだの重量に対して0.030重量%以上0.080重量%以下の量含有し、
亜鉛を、はんだの重量に対して0.500重量%の量含有し、
アンチモンを、はんだの重量に対して0.500重量%の量含有し、
残部が錫及び不可避不純物であることを特徴とする無鉛はんだ。
【請求項5】
超音波振動によるキャビテーションを発生させる超音波はんだ付け装置によって用いられる無鉛はんだであって、
ゲルマニウムを、はんだの重量に対して0.005重量%以上0.100重量%以下の量含有し、
ニッケルを、はんだの重量に対して0.050重量%以上0.080重量%以下の量含有し、
亜鉛を、はんだの重量に対して0.500重量%の量含有し、
アンチモンを、はんだの重量に対して0.500重量%の量含有し、
残部が錫及び不可避不純物であることを特徴とする無鉛はんだ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、無鉛はんだに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、錫や鉛を主成分とするはんだ、あるいは、環境に配慮した無鉛はんだ(鉛フリーはんだ)は、易はんだ付け性金属同士を接合するものであり、ガラスやセラミックス、難はんだ付け性金属などを接合することは難しい。ガラスやセラミックスの接合に用いる無鉛はんだとしては、亜鉛を主成分とする無鉛はんだが提案されているが、その接着強度は600gf/mm
2(=5.88N/mm
2)程度である。また、ビスマス及びガリウムを主成分とする無鉛はんだも提案されているが、その融点は低温(例えば120℃〜200℃)であり、環境温度が200℃を超えるところでは用いることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3664308号公報
【特許文献2】特許第4627458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、接着強度の向上及び高温環境下での使用を実現することができる無鉛はんだを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の請求項1に係る無鉛はんだは、超音波振動によるキャビテーションを発生させる超音波はんだ付け装置によって用いられる無鉛はんだであって、
ゲルマニウムを、はんだの重量に対して0.010重量%以上0.100重量%以下の量含有し、ニッケルを、はんだの重量に対して0.030重量%以上0.080重量%以下の量含有し、残部が錫及び不可避不純物であることを特徴とする。
【0006】
本発明の請求項2に係る無鉛はんだは、超音波振動によるキャビテーションを発生させる超音波はんだ付け装置によって用いられる無鉛はんだであって、
ゲルマニウムを、はんだの重量に対して0.005重量%以上0.100重量%以下の量含有し、ニッケルを、はんだの重量に対して0.050重量%以上0.080重量%以下の量含有し、残部が錫及び不可避不純物であることを特徴とする。
【0007】
本発明の請求項3に係る無鉛はんだは、請求項
1又は請求項2に記載の無鉛はんだにおいて、
前記ゲルマニウムの含有量は、前記ニッケルの含有量よりも多く、はんだの重量に対して0.100重量%であることを特徴とする。
【0008】
本発明の請求項4に係る無鉛はんだは、
超音波振動によるキャビテーションを発生させる超音波はんだ付け装置によって用いられる無鉛はんだであって、ゲルマニウムを、はんだの重量に対して0.010重量%以上0.100重量%以下の量含有し、ニッケルを、はんだの重量に対して0.030重量%以上0.080重量%以下の量含有し、亜鉛を、はんだの重量に対して0.500重量%の量含有し、アンチモンを、はんだの重量に対して0.500重量%の量含有し、残部が錫及び不可避不純物であることを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項5に係る無鉛はんだは、
超音波振動によるキャビテーションを発生させる超音波はんだ付け装置によって用いられる無鉛はんだであって、ゲルマニウムを、はんだの重量に対して0.005重量%以上0.100重量%以下の量含有し、ニッケルを、はんだの重量に対して0.050重量%以上0.080重量%以下の量含有し、亜鉛を、はんだの重量に対して0.500重量%の量含有し、アンチモンを、はんだの重量に対して0.500重量%の量含有し、残部が錫及び不可避不純物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、無鉛はんだの接着強度の向上及び高温環境下での使用を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の一形態に係る所定のニッケル含有量におけるゲルマニウム含有量と接着強度との関係を示すグラフである。
【
図2】本発明の実施の一形態に係る所定のゲルマニウム含有量におけるニッケル含有量と接着強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の一形態について説明する。
【0014】
本発明の実施の一形態に係る無鉛はんだは、錫(Sn)を主成分とし、ゲルマニウム(Ge)を含有するはんだ組成物(はんだ合金)である。この無鉛はんだは、ガラスやセラミックス及び難はんだ付け性金属において、異なる材料の接合や同じ材料同士の接合に用いられる。例えば、超音波はんだ付け装置を使用し、本実施形態に係る無鉛はんだを用いて、ガラスやセラミックスに金属を接合したり、ガラス同士やセラミックス同士を接合したりすることが可能である。このとき、超音波振動によるキャビテーションが確実に発生するため、ガラスやセラミックスと金属との接合、あるいは、ガラス同士の接合やセラミックス同士の接合を行うことができる。
【0015】
本実施形態に係る無鉛はんだは、ゲルマニウムを含むことから、ガラスやセラミックス、難はんだ付け性金属に固着することが可能であり、従来の亜鉛系のはんだと同等、あるいは、それ以上の接着強度を得ることができる。例えば、無鉛はんだが一度ガラスに接合されると、その無鉛はんだとガラスとの界面を溶かさなければ、無鉛はんだがガラスから剥がれることはない。さらに、本実施形態に係る無鉛はんだの融点は、例えば200℃よりも高く、環境温度が200℃を超えるところでも、無鉛はんだを用いることができる。このようにして、無鉛はんだの接着強度の向上及び高温環境下での使用を実現することができる。
【0016】
また、本実施形態に係る無鉛はんだは、錫を主成分とするはんだであるため、無鉛はんだをガラスやセラミックス以外の金属の接合、例えば銅線や銅箔の接合にも用いることができる。さらに、無鉛はんだは鉛を含有していないため、環境や人体への悪影響を抑えることができる。加えて、無鉛はんだは、湿気に弱い亜鉛も含有していないため、無鉛はんだの耐湿性を向上させることができる。
【0017】
ここで、前述の無鉛はんだの粘度を向上させるためには、錫及びゲルマニウムに加え、ニッケル(Ni)を添加することが望ましい。この場合、無鉛はんだは、錫及びゲルマニウムに加え、ニッケルを含有することになる。ニッケルは、無鉛はんだの粘度を向上させることが可能な材料である。
【0018】
さらに、錫、ゲルマニウム及びニッケルに加え、亜鉛(Zn)及びアンチモン(Sb)を添加するようにしても良い。この場合、無鉛はんだは、錫、ゲルマニウム及びニッケルに加え、亜鉛及びアンチモンを含有することになる。亜鉛は、超音波振動によるキャビテーションの発生効率を向上させることが可能な材料である。また、アンチモンは、湿気に弱い亜鉛の耐湿性を向上させることが可能な材料である。ただし、亜鉛含有量は非常に少なくて良く、それに応じてアンチモン含有量も少なくなる。このため、アンチモンの含有量増加によって無鉛はんだが脆くなることを抑えることができる。
【実施例】
【0019】
無鉛はんだの接着強度の評価結果を下記の表1に示す。評価方法としては、超音波はんだゴテにより、錫を主成分とする無鉛はんだを種類ごとにスライドガラスに塗布する。スライドガラスに塗布された無鉛はんだに幅2mmの銅線(平角線)を接合し、その銅線にフォースゲージを取り付けて垂直に引っ張る。このときのフォースゲージの数値を測定し、単位体積当たりの力を接着強度(接合強度)として記録する。この評価結果が下記の表1に示されている。
【0020】
【表1】
【0021】
この表1では、錫を主成分とする無鉛はんだにおいて、ゲルマニウム(Ge)の含有量(wt%)やニッケル(Ni)の含有量(wt%)が変えられ、Ge及びNiの含有量が異なる数種の無鉛はんだごとに接着強度(gf/mm
2)が示されている。なお、wt%は、無鉛はんだの総重量(はんだの重量)に対する重量割合を示す重量%である。
【0022】
表1に示すように、ニッケルを含まず、ゲルマニウムを0.100wt%含む無鉛はんだの接着強度は、649gf/mm
2となる。これにより、亜鉛系のはんだと同等の接着強度が得られる。この無鉛はんだにニッケルが0.05wt%添加されると、無鉛はんだの接着強度は1021gf/mm
2となり、前述の649gf/mm
2に比べて約57%向上する。
【0023】
次に、ニッケル含有量が0.05wt%であるとき、ゲルマニウム含有量が0.001〜0.500の範囲内で調整されると、0.010wt%で接着強度が1151gf/mm
2となり、ニッケル含有量が0.05wt%である場合において最大となる。
【0024】
また、ゲルマニウム含有量が0.010wt%であるとき、ニッケル含有量が0.01〜0.10の範囲内で調整されると、0.03wt%で接着強度が1212gf/mm
2となり、ゲルマニウム含有量が0.010wt%である場合において最大となる。
【0025】
また、ゲルマニウム含有量が0.005wt%であるとき、ニッケル含有量が0.03〜0.08の範囲内で調整されると、0.08wt%で接着強度が1220gf/mm
2となり、ゲルマニウム含有量が0.005wt%である場合において最大となる。
【0026】
また、ゲルマニウム含有量が0.100wt%であるとき、ニッケル含有量が0.03〜0.08の範囲内で調整されると、0.03wt%で接着強度が1219gf/mm
2となり、ゲルマニウム含有量が0.100wt%である場合において最大となる。
【0027】
このような結果を示す表1から、例えば、接着強度を1000gf/mm
2以上とするためには、ゲルマニウム含有量が0.010重量%以上0.100重量%以下であり、ニッケル含有量が0.03重量%以上0.08重量%以下であることが望ましい。あるいは、ゲルマニウム含有量が0.005重量%以上0.100重量%以下であり、ニッケル含有量が0.05重量%以上0.08重量%以下であることが望ましい。
【0028】
また、前述の表1に基づいて、
図1には、ニッケル含有量が0.05wt%である場合のゲルマニウム含有量と接着強度との関係が示されており、
図2には、ゲルマニウム含有量が0.010wt%である場合のニッケル含有量と接着強度との関係が示されている。これらの
図1及び
図2に示されるグラフからも、必要とする接着強度以上の接着強度を得るため、ゲルマニウムやニッケルの含有量の範囲を決定することが可能である。
【0029】
ここで、亜鉛及びアンチモンが同量、例えば0.50wt%程度、前述の無鉛はんだに添加されると、亜鉛及びアンチモンが無い場合に比べ、接着強度は約10%向上する。したがって、接着強度の向上のためには、亜鉛の含有量が0.50wt%であり、アンチモンの含有量が0.50wt%であることが望ましい。
【0030】
なお、接合に直接的に寄与する主材料はゲルマニウムであるが、粘性やキャビテーションの条件を最適化するため、前述のように、ニッケル、亜鉛及びアンチモンを添加することが可能である。ただし、無鉛はんだの成分は、主成分の錫とゲルマニウムのみであっても良い。
【0031】
以上、本発明は、前述の実施形態に限るものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。例えば、前述の実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除しても良い。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合わせても良い。