【実施例】
【0029】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0030】
本実施例は、河川や海などに架けられた橋の橋脚1が損傷を生じた場合に行われる、橋脚1の補修・補強工事に用いる仮締切り構造体2の設置工法に関するものである。尚、図面は円柱形の橋脚1を図示しているが、この形の橋脚1への設置工法に限定されるものではなく、橋脚1の形状に応じて仮締切り構造体2の形状等は適宜設計変更可能である。
【0031】
以下、設置手順を説明する。
【0032】
先ず、
図1に示すように、橋脚1の上方の非水没箇所に吊り足場18を設置する。
【0033】
具体的には、この吊り足場18は、橋脚1の上方部の全周囲を囲うようにして設置されていると共に、橋脚1の周囲に配設する例えば平面視リング形の作業用底部19(作業床)を備えていて、橋脚1上方部、即ち水上での作業者の作業スペースを確保している。
【0034】
次いで、この吊り足場18に、底部に橋脚1を貫通配設する貫通孔部3が設けられ橋脚1の外周を囲むように設置される仮締切り構造体2を構築する。
【0035】
具体的には、この仮締切り構造体2は、中心部に前記貫通孔部3が設けられている底板材20の外周縁に、複数の分割壁材21が前記橋脚1の周方向および高さ方向に組み合せ連結されて有底円筒状に構成されている。
【0036】
また、この仮締切り構造体2は、先ず、吊り足場18で橋脚1の周囲に平面視リング状の前記底板材20を構築する。
【0037】
この底板材20は、平面視リング状且つ板状の床板22の内縁部に、リング状の金属製内フレーム23が付設されると共に、床板22の外縁部にリング状の金属製外フレーム24が付設されて板状体に構成されている。
【0038】
また、この底板材20は、
図8,
図9に示すように、その周方向に略等間隔を置いた四箇所に上面が一段低くなる凹所25が設けられ、この各凹所25には、その内側位置と外側位置とに後述する滑車(案内ローラー)14が設けられている(各凹所25に滑車14が二個ずつ設けられている。)。
【0039】
この底板材20を吊り足場18の作業用底部19上に置き、次いで、この底板材20の外周縁部上に前記分割壁材21としての湾曲板状のライナープレート21を、前記橋脚1の周方向および高さ方向に複数組み合せ連結して所要高さの円筒状囲い壁26を形成することにより、底板材20が底部となる有底円筒状の前記仮締切り構造体2を構築する(
図2参照)。
【0040】
また、底板材20と分割壁材21との連結構造は、前記外フレーム24が断面H形に構成されていて、この外フレーム24の上溝部に分割壁材21が嵌合連結されている(
図8参照)。
【0041】
次いで、橋脚1の上方に平衡保持用天秤27を設置し、この平衡保持用天秤27の数箇所に設けられた降下索28を前記仮締切り構造体2に連結する。
【0042】
具体的には、平衡保持用天秤27は、
図6に示すように、平面視正方形状の枠体で構成されていて、その四隅部(四箇所の角部)が前記橋脚1の幅広上部の四箇所に固定された吊り索29に連結されることによって、中央の空間部に前記橋脚1を貫通配設しつつ橋脚1の上方に水平吊り下げ状態で設置されており、さらに、この平衡保持用天秤27の四箇所の角部とこの各角部に対面する前記橋脚1の四箇所の外周面との間にパイプサポート30を架設して突っ張ることにより、平衡保持用天秤27が橋脚1に対して揺動不能状態に設置されている。
【0043】
また、この平衡保持用天秤27は、その対角間距離が、前記仮締切り構造体2の囲い壁26の直径幅寸法と同等の距離寸法に設定構成されており、この平衡保持用天秤27の四隅部に前記降下索28が設けられ、この四隅部の降下索28が前記仮締切り構造体2の周方向に等間隔を置いた四箇所に連結されている。
【0044】
また、この四箇所の各降下索28は、チェーンブロックなどの昇降装置(図示省略)によって昇降駆動可能に構成されており、昇降装置の制御により平衡保持用天秤27に対し仮締切り構造体2を降下移動し得るように設けられていると共に、この際、降下索28を介して連結されている平衡保持用天秤27が揺動不能な水平状態に固定されていることにより、仮締切り構造体2が傾くことなく略平衡状態に保たれて安定的に降下可能となるように構成されている。
【0045】
次いで、昇降装置により仮締切り構造体2を少し上昇させ、後述する止水手段31を前記仮締切り構造体2の底部に設置した後、橋脚1と仮締切り構造体2とに降下用ガイド32を設置する(
図2参照)。
【0046】
具体的には、前記降下用ガイド32は、前記橋脚1外周面の少なくとも対向部に設置される上下方向に長さを有する降下用レール33と、前記仮締切り構造体2内の少なくとも対向部に前記橋脚1に向けて内向きに突設され突出先端に前記降下用レール33に嵌合して滑走可能な滑走部材35としてのボールベアリング35を有する滑走支持アーム34とで構成されている。
【0047】
降下用レール33は、断面溝形(コ字形)の金属製長尺材(チャンネル材)で構成されており、その溝底部を前記橋脚1の外周面に沿わせて橋脚1に固定されている。
【0048】
また、この降下用レール33は、橋脚1の外周面に、その周方向に等間隔を置いた四箇所(橋脚1の平面視中心に対し角度0度,90度,180度,270度の各位置の外周面)に固定されている(
図7参照)。
【0049】
一方、滑走支持アーム34は、詳しく図示していないが断面H字形の金属製長尺材で構成されており、前記仮締切り構造体2の囲い壁26の内周面に、その周方向に等間隔を置いた四箇所(仮締切り構造体2の平面視中心に対し角度0度,90度,180度,270度の各位置の内周面)に、中心に向けて水平突設するように構築し、この四箇所の滑走支持アーム34の先端の前記ボールベアリング35を、橋脚1に固定されている四箇所の前記降下用レール33に滑走可能に嵌合する(
図7参照)。図中符号36は滑走支持アーム34の水平突設状態を補強すると共に、仮締切り構造体2の保形強度向上にも寄与する補強枠である。
【0050】
また、このボールベアリング35付の滑走支持アーム34は、仮締切り構造体2内で上下二段に設けられている。
【0051】
従って、四本(四箇所)の降下用レール33を合計八個のボールベアリング35が滑走することにより、橋脚1に対し仮締切り構造体2が姿勢を保持したままスムーズに降下移動可能となるように構成されている。
【0052】
次いで、前記吊り足場18の作業用底部19を除去し、前記昇降装置により平衡保持用天秤27から前記降下索28を介して仮締切り構造体2を降下させ、前記降下用ガイド32を介して橋脚1に対し仮締切り構造体2を降下させることにより、仮締切り構造体2を略平衡状態に維持したまま橋下の水中に降下させ、その後、仮締切り構造体2の囲い壁26の上縁部より上方に浮上防止用ブラケット37を配して橋脚1に固定し、この浮上防止用ブラケット37が仮締切り構造体2の囲い壁26の上縁部(後述する天端フレーム40)に接することによって、浮力により上昇しようとする仮締切り構造体2を水中に止める。図中符号38は、仮締切り構造体2の底板材20の上面と囲い壁26の内面との間の複数箇所に架け渡し状態に固定されることで底板材20と囲い壁26との連結強度を増強して、浮力を受ける底板材20が囲い壁26に対して浮上しようとすることを阻止する補強部材である。
【0053】
尚、図面は、仮締切り構造体2を橋脚1の基礎(フーチング)まで到達させずに橋脚1の途中の位置に固定した場合を示している。
【0054】
次いで、この仮締切り構造体2底部の前記貫通孔部3と前記橋脚1の外周との間の隙間を前記止水手段31で止水する。
【0055】
本実施例の要部である、止水手段31を用いた仮締切り構造体2の止水工法について説明する。
【0056】
本実施例の止水手段31は、前記仮締切り構造体2の底部を覆うようにして止水シート4が設けられていると共に、この止水シート4は、前記貫通孔部3と連通する中央孔部5を備えて、この中央孔部5の上側に折り返した孔縁シート部6が仮締切り構造体2の前記貫通孔部3と前記橋脚1との間の間隙部7に、橋脚1を囲繞するようにして配設され、この止水シート4は、その前記孔縁シート部6の外側に、引動することにより孔縁シート部6を前記橋脚1の外周面に密着させる締付索8が巻回されていると共に、この締付索8の引動部9が前記仮締切り構造体2の上方に配設されて、仮締切り構造体2の上部に設置した引動装置39に連結されているもので、この仮締切り構造体2を橋下の水中に降下させ、前記締付索8の引動部9を橋下の水面10より上方位置に存する前記引動装置39で引動することにより、止水シート4の孔縁シート部6を橋脚1の外周面に密着させて止水するものである。
【0057】
更に詳しくは、止水シート4は、底板材20の形状に対応するリング形を呈するものに形成されていて、底板材20の底面全面を下方から覆うように設けられている(
図2〜
図5及び
図8〜
図10参照)。
【0058】
また、この止水シート4の外周縁部は、その全周が上方へ折り返されて底板材20の外周縁部に接着されており、止水シート4の内周部たる中央孔部5の孔縁シート部6は、上側へ立ち上がるように折り返されて前記貫通孔部3の孔縁から底板材20の上面側へと配設され、フリーとなっている。
【0059】
また、この止水シート4の孔縁シート部6の外側には、この孔縁シート部6の略全周に渡って前記締付索8としての金属製ワイヤー8が巻回されており、この締付索8の両端部は、所定位置で交差した後、夫々が底板材20に設けられた隣接二箇所の前記凹所25へと別々に配されて前記滑車14に通され、外側の滑車14により向きを変えられて上方へと案内されている(
図8参照)。
【0060】
また、この締付索8の両端(上端部)は、輪状に形成されてこの輪状端部が前記引動部9として構成され、この夫々の引動部9が、前記囲い壁26の上端に設置された前記引動装置39としてのレバーブロック(登録商標)に連結されている。
【0061】
また、囲い壁26上端への引動装置39の設置構造は、囲い壁26の上端に被嵌されている断面H字状の金属製天端フレーム40の上溝部に、引動装置39に備わるフック部を引っ掛けることによって設置されている。
【0062】
従って、引動装置39を操作して作動させることにより締付索8の両端の引動部9を引動でき、これにより止水シート4の孔縁シート部6が絞られて前記橋脚1の外周面に密着し、止水効果が得られるように構成されている。また、引動装置39が囲い壁26の上端に設けられているため、この止水作業の時点で水17が入り込んでいる仮締切り構造体2内や仮締切り構造体2外の水中で作業者(潜水士)が止水作業を行う必要がなく、この止水作業(引動装置39の操作)を水上で容易に行うことができる。
【0063】
尚、本実施例では、引動装置39を用いて、仮締切り構造体2内の高さ方向の途中に配設された引動部9を引動するように構成した場合を示しているが、引動部9を作業者が直接引動する構成を採用しても良い(この場合、引動部9が水没しないように(引動部9の引動作業が水中作業とならないように)、引動部9を仮締切り構造体2の上部に設ける。)。
【0064】
また、この締付索8としての金属製ワイヤー8は、
図10に示すように、その外表面が弾性を有する素材製(例えばゴム(天然ゴム若しくは合成ゴム)製)のカバー部材11に被覆されており、締付索8の前記引動部9を引動した際に、このカバー部材11が前記止水シート4の孔縁シート部6の外側面全周に密着し(カバー部材11が孔縁シート部6を介して橋脚1の外周面全周に馴染んで密着し)、高い止水効果を発揮するように構成されている。
【0065】
また、止水シート4の孔縁シート部6内側面には、弾性を有する素材製(例えばゴム(天然ゴム若しくは合成ゴム)製)の密着シート12が貼設されていて、前記締付索8の前記引動部9を引動した際に、この密着シート12が橋脚1の外周面全周に密着し高い止水効果を発揮するように構成されている(
図10参照)。
【0066】
また、本実施例の止水手段31は、前記止水シート4の孔縁シート部6の外側に、引動することにより孔縁シート部6を前記橋脚1の外周面に圧接させて孔縁シート部6の橋脚1に対する滑動を防止するシート滑止用締付索15が巻回されていると共に、このシート滑止用締付索15の引動操作部16が前記仮締切り構造体2の上方に配設されている。
【0067】
具体的には、孔縁シート部6の外側面の前記締付索8より下方位置にシート滑止用締付索15としての金属製ワイヤー15が、締付索8と同様に孔縁シート部6の略全周に渡って巻回されている。
【0068】
また、このシート滑止用締付索15の両端部は、前記締付索8のそれとは反対側で交差した後、夫々が、締付索8を配した前記凹所25の反対側に位置する隣接二箇所の凹所25へと別々に配されて前記滑車14に通され、外側の滑車14により向きを変えられて上方へと案内されている(
図9参照)。
【0069】
また、このシート滑止用締付索15の両端(上端部)は、輪状に形成されてこの輪状端部が引動操作部16として構成され、この夫々の引動操作部16が、前記締付索8と同様に前記囲い壁26の上端に設置された引動装置39に連結されている。
【0070】
従って、引動装置39を操作して作動させることによりシート滑止用締付索15の両端の引動操作部16を引動でき、これにより止水シート4の孔縁シート部6が絞られて前記橋脚1の外周面に圧接し、止水シート4の橋脚1に対する滑動が防止されて位置決め状態となるように構成されている。
【0071】
このシート滑止用締付索15は、前記締付索8を引動することにより前記孔縁シート部6を前記橋脚1の外周面に密着させて止水した後、仮締切り構造体2内に入り込んでいる水17を排水した際に、この締付索8が仮締切り構造体2下方に存する水の浮力を受けて上動してしまうことを防止するために設けられている。
【0072】
即ち、出願人の試験施工実験によると、締付索8の引動により止水した後に仮締切り構造体2内の水17を排水すると、この締付索8が孔縁シート部6とともに水の浮力で上動してしまうことがあったが、本実施例のように、シート滑止用締付索15を設けて、締付索8による止水後、シート滑止用締付索15の引動により孔縁シート部6を滑動防止状態とし、その後に仮締切り構造体2内の水17を排水するようにすると、締付索8の上動が防止されることを確認している。
【0073】
また、このシート滑止用締付索15引動用の引動装置39が囲い壁26の上端に設けられているため、締付索8引動作業(止水作業)に続いてこのシート滑止用締付索15引動による孔縁シート部6の滑止作業を行うが、この時点で水17が入り込んでいる仮締切り構造体2内や仮締切り構造体2外の水中で作業者(潜水士)がこの引動作業(引動装置39の操作)を行う必要がなく、この引動(滑止)作業を水上で容易に行うことができる。
【0074】
尚、本実施例では、引動装置39を用いて、仮締切り構造体2内の高さ方向の途中に配設された引動操作部16を引動するように構成した場合を示しているが、引動操作部16を作業者が直接引動する構成を採用しても良い(この場合、引動操作部16が水没しないように(引動操作部16の引動作業が水中作業とならないように)、引動操作部16を仮締切り構造体2の上部に設ける。)。
【0075】
また、本実施例の止水手段31は、前記止水シート4の孔縁シート部6の外側に、弾性を有する素材製(例えばゴム(天然ゴム若しくは合成ゴム)製)の細長い止水チューブ13が巻回されており、前記締付索8を引動することにより孔縁シート部6を前記橋脚1の外周面に密着させて止水した後、この止水チューブ13に流体を注入し、この流体注入により膨張する止水チューブ13が、前記孔縁シート部6を橋脚1の外周面に密着させて二次的に止水するように構成されている。
【0076】
この止水チューブ13は、前記締付索8より上方に配設されており、前記締付索8の引動による止水(一次止水)が行われて仮締切り構造体2内に入り込んでいる水17が排水された後、止水チューブ13内に流体として空気を充填し、これにより膨張する止水チューブ13が締付索8より上方の孔縁シート部6の外側面全周に圧接してこの孔縁シート部6上方位置全周を橋脚1外周面に密着させることにより、二重(上下二箇所)で止水するものである。
【0077】
更に詳しくは、前記仮締切り構造体2の底板材20を構成する前記内フレーム23は、断面形状がE字形に形成されており、この内フレーム23の上段部に前記止水チューブ13が収容配設され、下段部に引動前の前記締付索8が収容配設されて、この止水チューブ13と締付索8とが前記孔縁シート部6の外側に巻回されている。
【0078】
止水手段31による仮締切り構造体2の止水完了後に、仮締切り構造体2内に入り込んでいる水17をポンプ等により排水して仮締切り構造体2内を作業用ドライエリアとし、施工完了となる。
【0079】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。