特許第6234529号(P6234529)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6234529
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】生鮮海産物の鮮度保持方法
(51)【国際特許分類】
   A23B 4/06 20060101AFI20171113BHJP
   A23L 3/36 20060101ALI20171113BHJP
   F25C 1/00 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   A23B4/06 501A
   A23B4/06 501G
   A23L3/36 A
   F25C1/00 B
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-198709(P2016-198709)
(22)【出願日】2016年10月7日
(65)【公開番号】特開2017-161212(P2017-161212A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2017年8月17日
(31)【優先権主張番号】特願2015-226589(P2015-226589)
(32)【優先日】2015年11月19日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-41189(P2016-41189)
(32)【優先日】2016年3月3日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516066903
【氏名又は名称】ブランテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(73)【特許権者】
【識別番号】391043505
【氏名又は名称】アイスマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100127155
【弁理士】
【氏名又は名称】来田 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】廣兼 美雄
(72)【発明者】
【氏名】秋山 知昭
【審査官】 福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/174535(WO,A1)
【文献】 特開昭61−247337(JP,A)
【文献】 成田 正直,シャーベット海水氷による鮮度保持について,北水試だより, 2007, vol.74, p.15-17
【文献】 井植 哲二,水産物の水揚げから輸送に至る冷却技術,冷凍,2015年11月15日,vol.90, no.1057, p.803-806
【文献】 松本 泰典,生鮮魚介類の鮮度を保持するためのスラリーアイス製造装置の開発,冷凍, 2013, vol.88, no.1029, p.28-34
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B
A23L
F25C
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
FSTA(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩分濃度が13.6〜23.1%である塩水を凍結させた氷と、塩分濃度が13.6〜23.1%である塩水とを混合して氷スラリーを製造する工程と、
前記氷スラリーに生鮮海産物を浸漬し、該生鮮海産物を瞬間凍結させる工程と、を備えることを特徴とする生鮮海産物の鮮度保持方法。
【請求項2】
請求項1記載の生鮮海産物の鮮度保持方法において、混合する前記氷と前記塩水の塩分濃度が同程度であることを特徴とする生鮮海産物の鮮度保持方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の生鮮海産物の鮮度保持方法において、混合する前記氷と前記塩水の質量比が氷:塩水=75:25〜20:80であることを特徴とする生鮮海産物の鮮度保持方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の生鮮海産物の鮮度保持方法において、瞬間凍結させた前記生鮮海産物を前記氷スラリーから取り出して、該生鮮海産物を瞬間凍結時の温度以下で冷凍保存することを特徴とする生鮮海産物の鮮度保持方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生鮮海産物の鮮度保持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生鮮海産物の鮮度を保持するため、生鮮海産物を氷で冷却することが従来より行われている。例えば、漁船が漁に出る際には、大量の氷を漁船に積み込み、水氷(氷+海水)を満たした容器に、捕獲した魚を入れて輸送している。しかしながら、真水から作った氷の場合、氷が溶けると、鮮度保持に使用している海水の塩分濃度が低下する。その結果、浸透圧により、水氷に浸している魚の体内に水が浸入して、魚の鮮度や味覚が落ちてしまうという問題がある。
【0003】
そこで、特許文献1では、生鮮食品の鮮度保持に用いるために、略0.5〜2.5%の塩分濃度を有する塩含有水の凍結により得られた塩含有氷をスラリー状に形成してなる塩含有水の製氷方法において、ろ過殺菌をした海水等の原水を塩分調整して約1.0〜1.5%前後の塩分濃度の塩含有水となし、該塩含有水に急速冷却を行なうことにより前記塩分濃度に対応する−5〜−1℃の氷点温度を持つスラリー状塩含有氷を生成する方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、0.2〜5.0%(w/v)の食塩水ににがりを添加して、−3〜10℃の水温に保持した浸漬液中に、鮮魚を一定時間浸漬する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−115945号公報
【特許文献2】特開2006−158301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
生鮮海産物中の水分は凍結すると結晶化するが、従来方法の場合、生鮮海産物中の氷の結晶が大きくなるため、生鮮海産物の細胞組織が破壊され、鮮度、味覚を維持できないという問題がある。
また、特許文献1や2に記載されている従来方法の場合、スラリー状塩含有氷の氷点温度や浸漬液の水温がさほど低くないため、短期間しか生鮮海産物の鮮度を保持できず、遠距離輸送ができないという課題がある。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、生鮮海産物を凍結させても鮮度、味覚が落ちることがなく、遠隔地まで長時間輸送することが可能な生鮮海産物の鮮度保持方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る生鮮海産物の鮮度保持方法は以下の工程を備えることを特徴としている。
(1)塩分濃度が13.6〜23.1%である塩水を凍結させた氷と、塩分濃度が13.6〜23.1%である塩水とを混合して氷スラリーを製造する工程
(2)前記氷スラリーに生鮮海産物を浸漬し、該生鮮海産物を瞬間凍結させる工程
【0009】
生鮮海産物中の水分は凍結すると結晶化するが、生鮮海産物を緩慢凍結させた場合、氷の結晶が大きくなるため、生鮮海産物の細胞組織が破壊され、生鮮海産物の鮮度、味覚が劣化する。
一方、本発明では、生鮮海産物を瞬間凍結させるので、生鮮海産物の組織内に発生する氷の結晶が小さくなり、生鮮海産物組織の損傷が少なく、生鮮海産物の鮮度、味覚が保持される。
【0010】
本発明では、生鮮海産物を瞬間凍結させるため、氷スラリーの原料である塩水の塩分濃度を従来に比べて大幅に高くしている。塩分濃度が13.6%である塩水の理論飽和凍結点は−9.8℃、塩分濃度が23.1%である塩水の理論飽和凍結点は−21.2℃である。
塩水の塩分濃度が13.6%未満の場合、製造した氷スラリーによる生鮮海産物の凍結速度が遅くなる。一方、塩水の塩分濃度が23.1%超の場合、塩分が結晶として析出するため、塩水の飽和凍結点が上昇する。
【0011】
なお、塩分濃度が高くても、生鮮海産物の表面が瞬間凍結して氷結するため、生鮮海産物中に塩分が侵入することはない。
【0012】
また、本発明に係る生鮮海産物の鮮度保持方法では、混合する前記氷と前記塩水の塩分濃度が同程度であることを好適とする。
【0013】
氷の塩分濃度が塩水の塩分濃度より高い場合、氷の温度が塩水の飽和凍結点より低いため、塩分濃度が低い塩水を混合した直後に水分が凍結する。一方、氷の塩分濃度が塩水の塩分濃度より低い場合、氷の飽和凍結点よりも塩水の飽和凍結点のほうが低いため氷が溶解し、氷スラリーの温度が低下する。従って、氷スラリーの状態を変動させないようにするためには、混合する氷と塩水の塩分濃度を同程度とすることが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る生鮮海産物の鮮度保持方法では、混合する前記氷と前記塩水の質量比が氷:塩水=75:25〜20:80であることを好適とする。
【0015】
氷の質量比が75質量%を超えると、固形分の比率が高くなるため、生鮮海産物と氷スラリーとの間に隙間が発生し、生鮮海産物に氷スラリーが密着しなくなる。一方、氷の質量比が20質量%未満であると、製造した氷スラリーによって生鮮海産物を瞬間凍結しづらくなる。
【0016】
また、本発明に係る生鮮海産物の鮮度保持方法では、瞬間凍結させた前記生鮮海産物を前記氷スラリーから取り出して、該生鮮海産物を瞬間凍結時の温度以下で冷凍保存することを好適とする。これにより、遠隔地まで長時間輸送しても生鮮海産物鮮度、味覚が落ちることがない。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る生鮮海産物の鮮度保持方法では、氷スラリーの原料である塩水の塩分濃度を従来に比べて大幅に高めることにより大幅に温度が低下した氷スラリーを生鮮海産物に接触させることで、生鮮海産物を瞬間凍結させることができる。その結果、生鮮海産物の組織の損傷が少なくなり、生鮮海産物の鮮度、味覚が保持される。また、瞬間凍結させた生鮮海産物を瞬間凍結時の温度以下で冷凍保存した状態で輸送することにより、遠隔地まで長時間輸送しても生鮮海産物の鮮度、味覚が落ちることがない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施の形態に係る生鮮海産物の鮮度保持方法に使用する製氷機の部分断面斜視図である。
図2】同製氷機を含む製氷システムの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具現化した実施の形態について説明し、本発明の理解に供する。
【0020】
[製氷機及び製氷システム]
本発明の一実施の形態に係る生鮮海産物の鮮度保持方法に使用する製氷機10の部分断面斜視図を図1に、製氷機10を含む製氷システムを図2に示す。
製氷機10は、冷媒により内周面が冷却される竪型ドラム11を備え、ギヤードモータ20により回転する回転軸12が竪型ドラム11の中心軸上に配置されている。回転軸12には、回転軸12と共に回転し、竪型ドラム11の内周面に向けて塩水を噴射する噴射孔13aを先端部に有する複数のパイプ13と、竪型ドラム11の半径方向に延出し、回転軸12と共に回転するアーム14が取り付けられている。アーム14の先端部には、竪型ドラム11の内周面に生成した氷を掻き取るブレード15が装着されている。
【0021】
竪型ドラム11は、氷が内周面に生成する内筒22と、内筒22を囲繞する外筒23とを有している。内筒22及び外筒23は鋼製とされ、内筒22と外筒23の間にはクリアランスが設けられている。クリアランスには、配管35を介して冷凍機(図示省略)から冷媒が供給される。
なお、竪型ドラム11の外周面は円筒状の保護カバー19で覆われている。
【0022】
竪型ドラム11の上面は、鍋を逆さにした形状からなる上部軸受部材17で封止されている。上部軸受部材17の中心部には、回転軸12を支持するブッシュ28が嵌装されている。回転軸12は上部軸受部材17にのみ支持され、回転軸12の下端部は軸支されていない。そのため、竪型ドラム11の下方には、ブレード15によって掻き取られた氷が落下する際に障害となる物がなく、竪型ドラム11の下面は氷を排出する排出口16とされている。排出口16から落下した氷は、製氷機10の直下に配置された氷貯留タンク34内に貯えられる(図2参照)。
【0023】
回転軸12は、上部軸受部材17の上方に設置されたギヤードモータ20によって材軸回りに回転する。回転軸12の上部には、材軸方向に延在し各パイプ13と連通する竪穴12aが形成されている(図2参照)。また、回転軸12の頂部にはロータリージョイント21が取り付けられている。
氷の原料となる塩水は、塩水貯留タンク30から配管32を介してロータリージョイント21に送給される(図2参照)。ロータリージョイント21に送給された塩水は、ロータリージョイント21から回転軸12に形成された竪穴12aに送給され、竪穴12aから各パイプ13に送給される。
【0024】
パイプ13は、回転軸12から竪型ドラム11の半径方向に放射状に延出している。各パイプ13の設置高さは竪型ドラム11の内筒22高さの上部位置とされ、内筒22の内周面の上部に向けて塩水が噴射される(図1参照)。噴射孔13aから塩水を噴射する際の水圧としては0.01MPa程度である。
なお、パイプ13に代えてスプレーノズルなどを使用しても良い。この場合、噴射圧力は0.2〜0.5MPaとなる。
【0025】
アーム14は回転軸12に関して対称となるように装着されている。本実施の形態では、アーム14の本数は2本とされている。
各アーム14の先端部に装着されているブレード15は、内筒22の全長(全高)にほぼ等しい長さを有するステンレス製の板材からなり、内筒22に面する端面には複数の鋸歯15aが形成されている。
【0026】
次に、上記構成を有する製氷機10及び製氷システムの動作について説明する。
冷凍機を作動させることで竪型ドラム11に冷媒を供給し、竪型ドラム11の内周面の温度を−20〜−25℃にする。
次いで、ギヤードモータ20を作動させて、回転軸12を材軸周りに回転させると共に、ロータリージョイント21を介して回転軸12内に塩水を供給する。回転軸12の回転速度は2〜4rpmとする。なお、パイプ13ではなくスプレーノズルを使用した場合は、回転軸12の回転速度は10〜15rpmとする。
【0027】
回転軸12と共に回転するパイプ13から竪型ドラム11の内周面に向けて噴射された塩水は、竪型ドラム11の内周面に接触すると瞬時に凍結する。竪型ドラム11の内周面に生成した氷は、アーム14と共に回転するブレード15によって掻き取られる。掻き取られた氷は排出口16から落下する。排出口16から落下した氷は、製氷機10の直下に配置された氷貯留タンク34内に貯えられ、生鮮海産物の鮮度保持に使用される。
【0028】
一方、氷とならず、竪型ドラム11の内周面を流下した塩水は塩水貯留タンク30に貯えられ、ポンプ31を作動させることにより配管32を介してロータリージョイント21に再び送給される(図2参照)。なお、塩水貯留タンク30内の塩水が少なくなった場合は、塩水タンク33に貯えられている塩水が塩水貯留タンク30に供給される。
【0029】
[生鮮海産物の鮮度保持方法]
本発明の一実施の形態に係る生鮮海産物の鮮度保持方法の手順を以下に示す。
(1)塩分濃度を13.6〜23.1%とした塩水を用いて製氷機10により生成した氷と、塩分濃度が13.6〜23.1%である塩水とを混合して氷スラリー(シャーベット状の氷)を製造する。製造した氷スラリーの温度は−9.8〜−21.2℃であるが、低い温度であるほど、生鮮海産物内で発生する氷の結晶を小さくすることができる。
製造した氷と混合する塩水の温度は、常温もしくはそれを下回る温度とする。なお、塩水の温度が低いほど、製氷効率は高くなる。
また、混合する氷の塩分濃度と塩水の塩分濃度は同程度(数%以内の濃度差)であることが好ましく、混合する氷と塩水の質量比は氷:塩水=75:25〜20:80、好ましくは氷:塩水=60:40〜50:50とする。
【0030】
(2)製造した氷スラリーに生鮮海産物を浸漬し、生鮮海産物を瞬間凍結させる。浸漬時間は、生鮮海産物の種類によって異なるが、例えば1分〜1時間程度である。氷スラリーに浸漬した生鮮海産物は瞬時にその表面が氷結する。
(3)瞬間凍結させた生鮮海産物を氷スラリーから取り出す。そして、取り出した生鮮海産物を瞬間凍結時の温度(−9.8〜−21.2℃)以下で冷凍保存し、冷凍保存した状態で輸送する。
【0031】
[瞬間凍結させた生鮮海産物の解凍方法]
瞬間凍結させた生鮮海産物の解凍を自然解凍で行う場合、生鮮海産物の種類によって解凍時間は異なるが、例えば1〜2時間程度である。これにより、新鮮な海産物とほぼ同等の味及び食感を得ることができる。
【0032】
以上、本発明の一実施の形態について説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、上記実施の形態では、製氷機としてドラム型製氷機を使用しているが、これに限定されるものではなく、他の形式の製氷機でも良い。
【符号の説明】
【0033】
10:製氷機、11:竪型ドラム、12:回転軸、12a:竪穴、13:パイプ、13a:噴射孔、14:アーム、15:ブレード、15a:鋸歯、16:排出口、17:上部軸受部材、19:保護カバー、20:ギヤードモータ、21:ロータリージョイント、22:内筒、23:外筒、28:ブッシュ、30:塩水貯留タンク、31:ポンプ、32、35:配管、33:塩水タンク、34:氷貯留タンク
図1
図2