(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6234532
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】食後の急激な血糖値上昇抑制用食品
(51)【国際特許分類】
A23L 33/125 20160101AFI20171113BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20171113BHJP
A61K 31/716 20060101ALI20171113BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20171113BHJP
A61K 36/02 20060101ALN20171113BHJP
【FI】
A23L33/125
A23L5/00 N
A61K31/716
A61P3/10
!A61K36/02
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-207075(P2016-207075)
(22)【出願日】2016年10月21日
(62)【分割の表示】特願2012-273607(P2012-273607)の分割
【原出願日】2012年12月14日
(65)【公開番号】特開2017-19866(P2017-19866A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2016年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】506141225
【氏名又は名称】株式会社ユーグレナ
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100111109
【弁理士】
【氏名又は名称】城田 百合子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健吾
(72)【発明者】
【氏名】吉田 絵梨子
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 敏明
(72)【発明者】
【氏名】島田 良子
【審査官】
渡部 正博
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−184592(JP,A)
【文献】
特開2003−286175(JP,A)
【文献】
特開2009−062337(JP,A)
【文献】
Natural Product Reports,2011, 28(3),p.457-466
【文献】
松本 光雄,薬剤学マニュアル,南山堂,1989年,p.28,76
【文献】
橋田 充,経口投与製剤の設計と評価,薬事時報社,1995年,p.76
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーグレナ由来の結晶性パラミロンをアモルファス化したアモルファスパラミロンを有効成分とし、
高GI食品摂取後30分以内の血糖値の上昇を抑制するために用いられる食後の急激な血糖値上昇抑制用食品。
【請求項2】
前記アモルファスパラミロンは、X線回折法による、前記結晶性パラミロンの結晶度に対する相対結晶度が20%以下であることを特徴とする請求項1に記載の食後の急激な血糖値上昇抑制用食品。
【請求項3】
前記アモルファスパラミロンは、肝臓中のトリグリセリドの増加を抑制し、インスリンの分泌を促すことにより、糖尿病の発症を抑制することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の食後の急激な血糖値上昇抑制用食品。
【請求項4】
前記アモルファスパラミロンは、継続的に摂取することにより、高GI食品摂取後30分以内の血糖値の上昇を抑制し、2型糖尿病を抑制する2型糖尿病抑制用であることを特徴とする請求項3に記載の食後の急激な血糖値上昇抑制用食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
食後の急激な血糖値上昇抑制用食品に関し、特に、微生物由来成分により効果が高まった
食後の急激な血糖値上昇抑制用食品に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、生体内において、血液中のブドウ糖濃度は、一定範囲内となるように調整されている。
糖尿病は、このブドウ糖の調整機能が正常に働かなくなり、血液中のブドウ糖濃度が異常に上昇する疾患である。
この糖尿病は、大きく分けて1型と2型が存在する。
1型糖尿病は、膵臓のβ細胞が破壊されることにより、膵臓からインスリンが分泌されなくなる疾病である。
また、2型糖尿病は、生活習慣病の一つであるといわれており、肥満、過食、運動不足、ストレス等の環境因子の関与が大きく、中年以降の比較的高齢の肥満者に発症しやすい疾病である。
この2型糖尿病は、インスリン依存型の1型糖尿病とは異なり、一般的にはインスリン非依存型の病像を呈し、食事療法と運動療法が治療の基本となる。
【0003】
しかしながら、近年、2型糖尿病は、免疫系の異常によるインスリンの機能阻害が原因の一つであることが明らかになった。
自然誘発型の2型糖尿病モデルラットであるOtsuka Long-Evans Tokushima Fatty(OLETF)ラットは、食欲抑制に関与するコレシストキニン受容体が欠損しており、過食、体重増加・肥満を呈し、10週齢前後でもコントロール群と比較して血糖値に有意差が認められ、20週齢ごろより糖尿病と診断される。
発症の原因は、血中や臓器へトリグリセリドが蓄積し、インスリンの分泌異常やインスリン抵抗性を引き起こすという中性脂肪毒性説が提唱されている。
【0004】
一方、近年、光合成微生物の一種である微細藻ユーグレナが、様々な健康効果を有する物質を産出するとして注目を浴びており、当該ユーグレナを使用した健康食品や、各種疾病に対する治療剤が開発されている。
このユーグレナは鞭毛虫の一群で、この群には、運動性のある藻類として有名なミドリムシが含まれる。
大部分のユーグレナは、葉緑体を持っており、光合成を行って独立栄養生活を行うが、捕食性のものや吸収栄養性のものもある。ユーグレナ(Euglena)は、動物学と植物学の双方に分類される属である。
【0005】
上記の効果を詳述すると、これまでに、ユーグレナには、α-グルコシダーゼ活性阻害や内臓脂肪及び中性脂肪の減少、アディポネクチン分泌促進効果があることが報告されている。
また、ユーグレナに含まれる貯蔵多糖であるパラミロンは、β-1,3-グルカンから構成されており、抗アレルギー作用や免疫賦活作用といった有効性が見出されている。
つまり、パラミロンは高分子体で多孔質である為、コレステロールを吸着し、この吸着により、メタボリックシンドロームが抑制されると考えられている。
【0006】
一方、ユーグレナより抽出したパラミロンは、勿論、結晶体として使用されていても上記効果は有効に奏するものであるが、ユーグレナより単離されたパラミロンの可能性を追求し、更に有効に活用する用途の開発のために鋭意研究が重ねられた。
つまり、本願出願人は、様々な可能性を有するパラミロンの更なる有用な用途を開拓するとともに、パラミロンが奏する有用な機能を更に大きく発現させるべく、パラミロン自体に改良を加え、この改良により有用な知見が多く得られている。
【0007】
本願出願人は、結晶性パラミロンをそのまま利用して更なる用途を追求するのみならず、パラミロンをアモルファス化し、「アモルファスパラミロン」として利用した。
「アモルファス」(amorphous)とは、非晶質のことであり、これは、結晶のような長距離秩序は無いが、短距離秩序を有する物質の状態を指す。
熱力学的には、自由エネルギーの極小(非平衡準安定状態)にある状態のことをいう。
同じ物質であっても、結晶状態とアモルファス状態とでは、同じ材料でも物性が大幅に変わることがある。
例えば、電気伝導性、熱伝導性、光透過性、物理的強度、耐触性、超伝導性等が大幅に変わってしまうことがあることが報告されている。
アモルファスパラミロンとは、パラミロンの異性体で非結晶体である。
パラミロンをアルカリで溶解し、酸で中和することにより、パラミロンの結合が切断されてアモルファスパラミロンが生成される。
なお、本明細書において、「結晶性パラミロン」とは、アモルファス化されていないパラミロン(つまり、通常のパラミロン)を指し、「アモルファスパラミロン」という用語との対比として使用している。
【0008】
本願出願人は、これまでに、アモルファスパラミロンにおいても、大腸癌の抑制効果やアレルギー抑制効果といった機能性を明らかとしてきた。
以上のように、鋭意研究によって、今日、ユーグレナは免疫性疾患や大腸癌抑制等に対して有効であると広く認知されている。
【0009】
これまでに、糖尿病に対するユーグレナの効果は明らかにはされていないが、免疫性疾患の一つである糖尿病についても効果が期待される。
【0010】
糖尿病に関する知見は種々提示されている。
特許文献1には、糖尿病予防剤が開示されている。
特許文献1に記載の糖尿病予防剤としては、β-1,3-グルコシド結合を有する多糖類であるカードランが開示されている。
このカードランは、糖尿病予防や血糖値上昇抑制作用を示し、カードランからなる糖尿病予防剤が創製されている。
特許文献1においては、カードランとしてはアルカリ水溶液で溶解、またはゲル化したものも含まれている。
また、特許文献2には、アラメ由来のβ-グルカン素材が開示されている。
特許文献2に記載の技術では、海藻の一種であるアラメを熱水抽出した水溶性β-グルカンが使用されており、このβ-グルカンは、免疫賦活作用及び抗糖尿病効果を呈する。このため、このβ-グルカンは、健康機能食品用素材として利用可能である。
更に、特許文献3には、糖尿病予防剤が開示されている。
この特許文献3には、ヘマトコッカス属に属する微細藻類由来のアスタキサンチンとそのエステルが肥満に伴う血糖値上昇を抑制することが開示されている。
また更に、特許文献4には、ドナリエラ属の粉末の治療用使用に関する知見が開示されている。
この特許文献4の記載によると、ドナリエラ属の粉末を核内受容体のアクチベータ―と一緒に投与する糖尿病用経口薬剤の開発がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−286175号公報
【特許文献2】特開2008−248133号公報
【特許文献3】特開2007−153846号公報
【特許文献4】特開2005−097255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献1及び特許文献2に記載の技術では、カードラン及びアラメ由来のβ-グルカンによる血糖値上昇抑制効果は認められるものの、それ以外の異性体に関する実施例がなかった。
また、特許文献3及び特許文献4に記載の技術のように、ヘマトコッカス及びドナリエラといった微細藻類での報告はあるが、これらの効果は、カロテノイド系の色素による効果と考えられ、ユーグレナの効果に言及する報告はない。
【0013】
そこで、本願では、2型糖尿病誘発ラットを用い、ユーグレナ、パラミロン、アモルファスパラミロンの摂取による糖尿病の抑制効果について検討した。
このパラミロン及びアモルファスパラミロンは、化学的にも安定した物質であり、従来の糖尿病抑制剤とも併用できる物質である。
そして、このような状況下、パラミロンに血糖値の抑制効果があることを検証するとともに、更に、このパラミロンに比して、アモルファスパラミロンが、血糖値の急激な上昇を抑制する効果があるか否かもまた検証することとした。
また、これらパラミロン及びアモルファスパラミロンの高GI食品への利用可能性を探求した。
つまり、パラミロン及びアモルファスパラミロンを高GI食品と同時に摂取することで、低GI食品を摂取した場合と同様に食品摂取後の急激な血糖値上昇を抑制することができることから、このような利用可能性を探求するものである。
更に、特許文献2乃至特許文献4に例示される、血糖値の低下を目的として海藻類や微細藻類を利用するという報告例に比して、ユーグレナ摂取による糖尿病の発症抑制効果を検証した。
なお、低GI食品とは、GI(Glycemic Index:血糖指数)が低い食品のことを指す。
このGIとは、1981年にトロント大学のデイビット・ジェンキンス博士らによって提唱された概念であり、炭水化物摂取後の血糖値上昇速度の指標である。
GIが高い程、食品摂取後に急激に血糖値が上昇することとなるが、このように血糖値が急激に上昇すると、すい臓より多量のインスリンが急激に分泌されることとなる。
このインスリンは、血糖をエネルギーへと変換する一方で、過剰な糖質を脂肪組織に蓄える。
よって、高GI食品は、糖尿病を含む生活習慣病等の観点からも避けられるべきであると考えられており、健康的な生活のために低GI食品の需要、及び高GI食品摂取時における血糖値上昇抑制への期待が高まっている。
【0014】
本発明の目的は、上記各問題点を解決することにあり、結晶性パラミロンをアモルファス化して結晶性パラミロンよりも有用効果を向上させたアモルファスパラミロンを含有することにより、高い効果を奏する
食後の急激な血糖値上昇抑制用食品を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、化学的に安定した物質であるアモルファスパラミロンを有効成分とすることにより、高GI食品摂取
後30分以内の血糖値の上昇を抑制することが可能な
食後の急激な血糖値上昇抑制用食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題は、請求項1に係る発明である
食後の急激な血糖値上昇抑制用食品は、ユーグレナ由来の結晶性パラミロンをアモルファス化したアモルファスパラミロンを有効成分と
し、高GI食品摂取後30分以内の血糖値の上昇を抑制するために用いられることにより解決される。
更に、このとき、このアモルファスパラミロンの特性は、X線回折法による、前記結晶性パラミロンの結晶度に対する相対結晶度が20%以下として特定される。
【0016】
食後の急激な血糖値上昇抑制用食品として特定されるのは、ユーグレナ由来のパラミロンである。
この「パラミロン」は上位概念であり、ユーグレナから分離精製された態様の「結晶性パラミロン」及びこれから派生したパラミロンも含まれる。
請求項1に記載のパラミロンとしては、有効効果を向上させるべく、結晶性パラミロンをアモルファス化した、「アモルファスパラミロン」が利用される。
なお、「結晶性パラミロン」とは、培養されたユーグレナより公知の方法で精製されたパラミロンを指し、通常粉末体として提供される。
つまり、本明細書においては、「アモルファス」との物質的区別を図るべく「結晶性」という文言を使用したものである。
このように、本発明によれば、結晶性パラミロンをアモルファス化し、非晶性とした(ただし、「全く結晶構造を持たない」という意味合いではなく、「結晶性パラミロンと比して結晶性が低くなっている」という意味合いで「非晶性」という文言を使用する)。
以上のように
、「アモルファスパラミロン」は、
食後の急激な血糖値上昇抑制用食品として有効に作用し、本発明に係る「アモルファスパラミロン」の方が
パラミロンよりも更に高い糖尿病抑制効果を奏する。
なお、こ
のアモルファスパラミロンは、化学的にも安定した物質であり、従来の糖尿病抑制剤とも併用できる物質である。
【0017】
このように、アモルファス化することにより得た本発明に係るアモルファスパラミロンにおいては、X線回折法による、結晶性パラミロンの結晶度に対する相対結晶度が20%以下となっている。
このように、アモルファス化されたアモルファスパラミロンは、結晶性パラミロン粉末体とは異なった物性を示し(比重、結晶の大きさ等)、特に、
高GI食品摂取後30分以内の血糖値の上昇を抑制する効果を有する有効な物質となる。
また本発明に係るユーグレナ由来の結晶性パラミロンをアモルファス化したアモルファスパラミロンを含む前記パラミロンは、肝臓中のトリグリセリドの増加を抑制し、インスリンの分泌を促すことにより、糖尿病の発症を抑制する。
なお、この「パラミロン」は前述した通り上位概念であり、ユーグレナから分離精製された態様の「結晶性パラミロン」及びこれから派生したパラミロンである「アモルファスパラミロン」も含まれ、本項では、アモルファスパラミロンがパラミロンに包含されることを明確に規定した。
【0018】
さらに、前記アモルファスパラミロンは、継続的に摂取することにより、高GI食品摂取後30分以内の血糖値の上昇を抑制し、2型の疾患に作用する。
つまり、アモルファスパラミロンを摂取することにより、高GI食品を摂取した場合であっても有効に血糖値上昇(特に、急激に血糖値が上昇する摂取後30分以内の血糖値上昇)を抑制することができる。
このため、パラミロン(アモルファスパラミロンを含む)は、2型の疾患に有効に作用する。
【0019】
上記のような特性を有した、本発明に係る
食後の急激な血糖値上昇抑制用食品は、食品、薬品から選択される少なくとも一の製品に含有されて提供されることにより、有効な効果である
高GI食品摂取後30分以内の血糖値の上昇を抑制する機能を有効に奏するものである。
特に、食品としては、低GI食品としての利用や、高GI食品への利用が期待される。
高GI食品への利用とは
、アモルファスパラミロンを摂取することにより、高GI食品摂取時において、低GI食品を摂取した場合と同様に食品摂取後
30分以内の急激な血糖値上昇が抑制されるという効果を利用したものである。
【0020】
なお、「含有」という文言は、「少なくとも一部に成分として含まれる」という意味であり、「全て
がアモルファスパラミロン(
食後の急激な血糖値上昇抑制用食品)で構成される」こともその概念に含む。
このように、本発明に係るアモルファスパラミロンを有効成分とする
食後の急激な血糖値上昇抑制用食品は、あらゆる形態で
高GI食品摂取後30分以内の血糖値の上昇を抑制する機能を有する物質として提供され得るとともに、広く活用の場を想定することができる有用な物質である。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る
食後の急激な血糖値上昇抑制用食品は、結晶性パラミロンの結晶構造を変化させた物質であるアモルファスパラミロンの効能を利用したものである。
このアモルファスパラミロンで構成される
食後の急激な血糖値上昇抑制用食品を摂取させることによって、
高GI食品摂取後30分以内の血糖値の上昇が有効に抑制されることがわかった。
つまり、アモルファスパラミロンは、肝臓中のトリグリセリドの増加を抑制し、インスリンの分泌を促すことにより、
高GI食品摂取後30分以内の血糖値の上昇を抑制することがわかった。
そして、この効果は
、アモルファスパラミロン
で顕著であ
った。
このように、本発明に係る
食後の急激な血糖値上昇抑制用食品は、
高GI食品摂取後30分以内の血糖値の上昇を有効に
抑制するために広く活用することができる。
また、本発明に係る
食後の急激な血糖値上昇抑制用食品は、化学的に安定した物質であるアモルファスパラミロンを有効成分とすることにより、高GI食品同時摂取時に急激な血糖値の上昇を抑制することが可能となる。
このため、2型の疾患に有効に作用する。
なお
、アモルファスパラミロンは上記の通り化学的に安定であり、従来の糖尿病抑制剤を併用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】アモルファスパラミロンの製造工程を示す工程図である。
【
図2】アモルファスパラミロンの回折ピーク位置確認フルスキャン結果を示すスキャンチャートである。
【
図3】アモルファスパラミロンの回折強度測定用詳細スキャン結果を示すスキャンチャートである。
【
図5】各実験区におけるトリグリセリド量を示すグラフである。
【
図6】各実験区におけるインスリン濃度を示すグラフである。
【
図7】各実験区における糖負荷試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、以下に説明する構成は本発明を限定するものでなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
本実施形態は
、結晶性パラミロンをアモルファス化して結晶性パラミロンよりも有用効果を向上させたアモルファスパラミロンの
高GI食品摂取後30分以内の血糖値の上昇を抑制する効果に関するものである
。結晶性パラミロンをアモルファス化し
たアモルファスパラミロンを有効成分とする
食後の急激な血糖値上昇抑制用食品又は
食後の急激な血糖値上昇抑制剤に関する。
【0024】
図1乃至
図7は、本発明に係る一実施形態及び各検証結果を示すものであり、
図1はアモルファスパラミロンの製造工程を示す工程図、
図2はアモルファスパラミロンの回折ピーク位置確認フルスキャン結果を示すスキャンチャート、
図3はアモルファスパラミロンの回折強度測定用詳細スキャン結果を示すスキャンチャート、
図4は実験スキームを示す説明図、
図5は各実験区におけるトリグリセリド量を示すグラフ、
図6は各実験区におけるインスリン濃度を示すグラフ、
図7は各実験区における糖負荷試験の結果を示すグラフである。
【0025】
1.アモルファスパラミロンの調整
(1)アモルファスパラミロンの製造工程
図1により、アモルファスパラミロンの製造方法について説明する。
なお、本製造方法は、約40gのアモルファスパラミロンを製造するための例であり、アモルファスパラミロンの製造量を増減させるためには、適宜スケールを変更することにより対応する。手順は同様である。
【0026】
まず、工程1で、1Nの水酸化ナトリウム水溶液を調整する。
本実施形態においては、水酸化ナトリウム水溶液を2リットル調整した。
次いで、工程2で、1N水酸化ナトリウム水溶液に結晶性パラミロン粉末を50g添加して溶解させる。
結晶性パラミロン粉末は、1〜2時間スターラで撹拌することにより、1N水酸化ナトリウム水溶液に溶解させた。
この結晶性パラミロン粉末は、培養したユーグレナより、公知の方法で分離精製されたものである。
【0027】
次いで、工程3で、1N塩酸により、結晶性パラミロン粉末が溶解した1N水酸化ナトリウム水溶液を中和した。
なお、1N塩酸を滴下するに従い、滴下部分がゲル化するが、このゲルをスパーテル等で崩しながら、中和が確認されるまで中和反応を継続した。
中和が完了した時点では、水分がゲルに完全に抱き込まれ、全体がゼリー状となる。
【0028】
次いで、工程4で、水分を分離すべく、遠心分離を行った。
この遠心分離は、水分が分離し、沈殿を回収することができる条件で行えばよい。
本実施形態においては、100ml遠沈管で2500rpm、10分間の遠心分離を行った。
【0029】
次いで、工程5で、上清を捨て、沈殿の洗浄を行う。
この工程では、蒸留水を沈殿に添加して撹拌し、遠心分離を行う。
つまり、上清廃棄→蒸留水添加→撹拌→遠心分離という工程を繰り返し実施することにより沈殿を洗浄し、沈殿したゲルを回収する。
本実施形態においては、4回の上記洗浄工程を繰り返した。
【0030】
次いで、工程6で、回収したゲルをバットに広げ、冷凍庫で凍結させ、工程7で凍結乾燥機により凍結乾燥させ、アモルファスパラミロンを得た。
このようにして回収したアモルファスパラミロンは、吸湿性が高いため、ある程度手でほぐした後、乾燥剤を入れたデシケータで保存する。
この操作で、約40gのアモルファスパラミロンを作成することができた。
【0031】
(2)アモルファスパラミロンの物性
次いで、本発明に係るアモルファスパラミロンについて説明する。
アモルファスパラミロンの結晶度を測定するために、各パラミロンサンプルのX線回折を行った。
サンプルとしては、以下のサンプルを準備した。
イ)サンプル
a.サンプルA 結晶性パラミロン
b.サンプルB アモルファスパラミロン(30g生産スケール)
c.サンプルC アモルファスパラミロン(15g生産スケール)
d.サンプルD アモルファスパラミロン(5g生産スケール)
これらのサンプルは、粉砕機により粉砕された後、X線回折装置により分析される。
なお、サンプルAは、結晶性パラミロン粉末であるが、サンプルB乃至サンプルDを粉砕するため、前処理条件を同一とする目的で粉砕処理を実施した。
また、サンプルAは対照であり、アモルファス化されたパラミロンであるサンプルB乃至サンプルDのサンプルAに対する相対結晶度を算定する。
【0032】
ロ)前処理
ロ−1)粉砕機
Retsch社製ボールミルMM400
粉砕条件:振動数20回/秒、粉砕時間5分
ロ−2)X線回折装置
スペクトリス社製H’PertPRO
測定条件:管電圧45KV、管電流40mA
測定範囲:2θ 5〜70°(回折ピーク位置確認フルスキャン)
2θ 5〜30°(強度測定用詳細スキャン)
【0033】
ハ)分析
ハ−1)ピーク位置確認
フルスキャンで回折ピーク位置を確認し、回折ピーク強度測定に用いる角度を決定した。
ハ−2)回折ピーク強度測定
上記ピーク位置確認で決定した角度で詳細スキャンを実施し、回折ピーク強度を測定した。
その結果を基に、回折ピーク強度比を相対結晶度として算出した。
【0034】
ニ)結果
ニ−1)ピーク位置確認
回折ピーク位置確認フルスキャンの結果を
図2に示す。
図2に示すとおり、サンプルAにおいて、2θ=20°の付近に顕著なピークを観測することができた。
よって、強度測定用詳細スキャンを行う範囲を2θが5°乃至30°の範囲と決定した。
ニ−2)強度測定結果
強度測定用詳細スキャンの結果を
図3に示す。
図3に示すように、サンプルB乃至サンプルDにおける2θ=20°の付近の回折ピークが、サンプルAの回折ピークに比して小さくなっていることが認められ、このことより、サンプルB乃至サンプルDの結晶度がサンプルAの結晶度に比して小さくなっていることがわかる。
ニ−3)結晶度算出
強度測定結果とアモルファスパラミロンのサンプルであるサンプルB乃至サンプルDの相対結晶度の算出結果を表1に示す。
【0036】
相対結晶度は、強度測定結果に基づき下式にて算出する。
相対結晶度(%)=(サンプル回折ピーク強度/対照回折ピーク強度)×100
つまり、対照である結晶性パラミロンの結晶度を100%とし、アモルファス化したパラミロンの結晶度を算出したものである。
このように、アモルファスパラミロンの相対結晶度は、相対結晶度20%以下程度であると考えられ、より詳しくは、相対結晶度16%以下となっていることがわかる。
【0037】
なお、回折ピーク位置確認フルスキャンの結果である
図2には、その他、2θ=20°付近のピークの他に、数本のシャープなピークが存在する。
これは、サンプルB乃至サンプルDに共通に現れていることから、同様の構造によるものであると考えられ、このことからも、アモルファス化によって、結晶構造が変化し、結晶性パラミロンとは異なる構造となったことがわかる。
【0038】
これは、元は3重螺旋であったβ-1,3-glucanの結晶構造が、アモルファス化を行うことによって無くなり、β-1,3-glucanの螺旋構造ではない立体構造のピーク若しくはノーマルな一本鎖のβ-1,3-glucanのピーク等が現れている可能性があると推測される。
【0039】
以上のように、結晶性パラミロンをアモルファス化し、アモルファスパラミロンを形成することによって、結晶構造を変化させ、これに伴う有用な効果を創出することができる。
つまり、通常の結晶構造の結晶性パラミロンには無い若しくは通常構造の結晶性パラミロンにおいては低い効能を、アモルファスパラミロンは高く発揮することができるものである。
【0040】
2.実験動物の調整
以下、説明の簡略化のため、単に「パラミロン」との表示は、上記「結晶性パラミロン」を指し、「アモルファスパラミロン」と区別することとする。
なお、パラミロンは、公知の方法でユーグレナより抽出の後精製され、粉体状となったものが使用される。
OLETFラットのコントロールとしては、Otsuka Long-Evans Tokushima(LETO)ラットを使用した。
7週齢の雄性LETOラット5匹、OLETFラット20匹を日本エスエルシー株式会社より購入した。
OLETFラットは、各群の体重が等しくなるよう4群に群分けし、10週間飼育した。
精製飼料(AIN-93M)および一般飼料にセルロースの代わりとしてユーグレナ、パラミロン、アモルファスパラミロンをそれぞれ2%ずつ添加した飼料を摂取させた。
この実験スキームを
図4に示す。
以下、
図4のLETO群を「LC群」、OLETFラットの中でAIN-93Mを摂取した群を「OC群」、ユーグレナを摂取した群を「EU群」、パラミロンを摂取した群を「PM群」、アモルファスパラミロンを摂取した群を「AP群」と各々記すこととする。
飼料と水は自由摂取とし、毎週体重を測定した。飼育室の温度は23℃に保ち、明暗12時間サイクルで、明期は午前9時から午後9時までとし、光照明した。
【0041】
3.試料の採取
各ラットを10週間飼育後、ジエチルエーテル麻酔下で開腹し、後大静脈より採血して屠殺した。
各ラットより、肝臓、膵臓、腎臓および内臓脂肪を採取し、重量を測定した。
なお、屠殺前日に代謝ケージに入れて24時間尿と糞を採取し、測定まで−30℃で保存した。
【0042】
4.糖負荷試験
飼育開始0週目、6週目、10週目に経口ブドウ糖負荷試験(Oral glucose tolerance test:以下、「OGTT」と記す)を実施した。
OGTTにおいては、各ラットに対し18時間絶食後、2g/kgBWのグルコースをゾンデで強制投与した。
そして、投与0、30、60、120分に尾静脈より採血を行い、血糖値の測定を行った。
測定した血糖値の値から、血中濃度曲線下面積(Area under the blood concentration time curve:以下、「AUC」と記す)を求めた。
【0043】
5.生化学的検査
血中グルコース、トリグリセリド(TG)については富士ドライケム3000で測定した。
また、インスリンはレビスインスリン-ラットTで、アディポネクチンはレビス高分子アディポネクチン-マウス/ラットで測定した。
【0044】
6.結果
イ)飼料摂取量について
ラット各群の飼料摂取量についての結果を、表2に示す。
【0046】
AP群(つまり、アモルファスパラミロンを投与した群)は、他の実験区に比して飼料の摂取量が多いことがわかった。
【0047】
ロ)体重について
ラット各群の体重についての結果を表3に示す。
【0049】
AP群は、他の実験区に比して体重が多いことがわかった。
【0050】
ハ)内臓脂肪量について
ラット各群の内臓脂肪量についての結果を表4に示す。
【0052】
AP群は、他の実験区に比して内臓脂肪量が多いことがわかった。
【0053】
ニ)トリグリセリド量について
ラット各群の肝臓1g当りのトリグリセリド量についての結果を示すグラフを
図5に示す。
図5に示すように、PM群及びAP群は、OC群と比べて肝臓1g中のトリグリセリド量がLC群並に低いことがわかる。
つまり、この結果と上記「飼料摂取量」「体重変化」「内臓脂肪量」の結果を踏まえると、AP群は飼料摂食量が多く、体重・内臓脂肪量が多いにも関わらず、トリグリセリド量は多くならなかったことがわかる。
【0054】
ホ)血清中インスリン濃度
ラット各群の血清中インスリン濃度についての結果を示すグラフを
図6に示す。
図6に示すように、血清中インスリン濃度はAP群が最も高いことがわかる。
【0055】
ヘ)10週目の糖負荷試験
10週目の糖負荷試験における、ラット各群の血糖値変化についての結果を示すグラフを
図7に示す。
図7に示すように、PM群及びAP群において、糖摂取後30分の血糖値上昇を抑制する傾向が認められた。
つまり、パラミロン及びアモスファスパラミロンを摂取することにより糖摂取後30分の血糖値上昇を抑制する傾向が確認されたものである。
【0056】
7.まとめ
OLETFラットは、パラミロン及びアモルファスパラミロンを摂取しても、通常のOLETFラットと同様に過食及び肥満の状態になる。
また、このとき、内臓脂肪の増加も認められ、典型的な糖尿病の病態を示すこととなる。
しかしながら、糖負荷試験においては、
図7に示すように、パラミロン及びアモルファスパラミロンを摂取することにより糖摂取後30分の血糖値上昇が抑制された。
現在、血中や臓器へトリグリセリドが蓄積し、その結果インスリンの分泌が阻害されてしまうことが2型糖尿病を発症するメカニズムといわれている。
今回、パラミロン及びアモルファスパラミロンの摂取により、肝臓中のトリグリセリドの増加が抑制され、インスリンが正常に分泌されたことによって糖接種後30分の血糖値上昇が抑制されたと考えられる。
飼料摂取量(表2)、体重(表3)、内臓脂肪量(表4)、トリグリセリド量(
図5)、血清中インスリン濃度(
図6)と併せて検討すると、PM群よりAP群の方が摂食量は多く(表2)、体重・内臓脂肪量が多い(表3及び表4)にも関わらず、肝臓1g中のトリグリセリド量が少なく(
図5)、インスリン濃度が高い(
図6)ことがわかる。
そして、これを踏まえ、
図7をもう少し詳しく解析すると、この
図7だけを見ると、AP群とPM群とに顕著な差がないように見えるが、上記の結果を併せると、PM群よりAP群の方がより多くの餌を摂取しても糖尿病になりにくいことを示していることがわかる。
つまり、本試験において、AP群は、飼料の摂取が多く、肥満傾向を示しているにもかかわらず、インスリンの分泌量が多く、血糖値の上昇が有効に抑えられていることが確認されており、よって、PM群よりAP群の方がより多くの餌を摂取しても糖尿病になりにくいことが確認されたものである。
これらの結果より、パラミロン及びアモルファスパラミロンの低GI食品としての利用可能性が強く期待される。
また、これらパラミロン及びアモルファスパラミロンは、化学的に安定した物質である。
このようなパラミロン若しくはアモルファスパラミロンを有効成分とすることにより、高GI食品同時摂取時に急激な血糖値の上昇を抑制することが可能となるため、高GI食品への利用もまた期待されるものである。
なお、パラミロン若しくはアモルファスパラミロンは上記の通り化学的に安定であり、従来の糖尿病抑制剤を併用することも可能である。