(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6234544
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】車両に関連する衝突を回避するための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
B60T 7/12 20060101AFI20171113BHJP
B60T 8/00 20060101ALI20171113BHJP
B60R 21/00 20060101ALI20171113BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
B60T7/12 C
B60T8/00 C
B60R21/00 624B
B60R21/00 624C
B60R21/00 624E
B60R21/00 628Z
G08G1/16 C
G08G1/16 E
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-503578(P2016-503578)
(86)(22)【出願日】2014年1月29日
(65)【公表番号】特表2016-515974(P2016-515974A)
(43)【公表日】2016年6月2日
(86)【国際出願番号】EP2014051674
(87)【国際公開番号】WO2014146814
(87)【国際公開日】20140925
【審査請求日】2015年9月17日
(31)【優先権主張番号】102013204893.9
(32)【優先日】2013年3月20日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501125231
【氏名又は名称】ローベルト ボッシュ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(72)【発明者】
【氏名】ブンク,ミヒャエル
【審査官】
竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−166578(JP,A)
【文献】
特開2009−184467(JP,A)
【文献】
特開2010−044443(JP,A)
【文献】
特開2011−063225(JP,A)
【文献】
特開2012−131293(JP,A)
【文献】
特開2006−199233(JP,A)
【文献】
特開平05−208663(JP,A)
【文献】
特開2010−202147(JP,A)
【文献】
特開2011−136627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12−8/1769
B60T 8/32−8/96
B60R21/00
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動している車両と、該車両の移動中に可能な衝突範囲に進入および/または存在する少なくとも1つの物体との衝突を回避するための方法において、前記車両が、
前記少なくとも1つの物体を検知するためのセンサ装置であって、前記車両の周辺にある少なくとも1つの衝突範囲を監視する前記センサ装置と、
電気機械式ブレーキ倍力装置(24)、および、これと作動流体を介して連結され、前記車両を制動するための車両ブレーキシステム(5)に作動的に組み込まれているブレーキ力調整要素と、
前記センサ装置の信号を受信し、該信号をベースにして前記ブレーキ倍力装置(24)と前記ブレーキ力調整要素および/または他のアクティブシャーシ要素とを制御する制御装置と、
を含み、
前記少なくとも1つの物体を検知したときに、前記車両の走行速度および走行方向を、前記ブレーキシステム(5)および前記ブレーキ力調整要素との連動で前記制御装置を用いて、前記少なくとも1つの物体との衝突が自動的に回避されるように変化させるようにし、
前記ブレーキシステム内での作動流体の圧力発生を、実質的に前記ブレーキ倍力装置(24)を用いて生じさせ、すなわち前記物体の検知の際に前記センサ装置の信号に応答して生じさせ、
前記センサ装置の信号に応答して前記ブレーキシステムを起動する際、前記ブレーキ力調整要素が、車輪(17a,17a,17b,17b)と連結されている車輪ブレーキシリンダ(16a,16a,16b,16b)にそれぞれブレーキトルクを生成させ、前記車輪(17a,17a,17b,17b)におけるそれぞれのブレーキトルクを、前記センサ装置によって検出した状況に依存して前記制御装置によって個別に生成させる、
前記衝突を回避するための方法。
【請求項2】
前記センサ装置が、物体の検知をベースにして、レーダー装置および/または超音波装置および/または撮像装置を用いて信号を生成して転送し、その際前記センサ装置は、1つまたは複数の3次元の衝突範囲を監視し、該衝突範囲が前記車両の周辺全体と部分的にオーバーラップしている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ブレーキ力調整要素が少なくとも1つのESP装置および/またはABS装置を含んでいる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記他のアクティブシャーシ要素が少なくとも1つの車両操舵装置および/または差動歯車伝動装置および/またはアクティブシャーシ装置および/またはパワートレイン装置を含み、これら装置に前記制御装置が衝突を回避するための前記センサ装置の前記信号に応答して規則的に作用する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記衝突を回避するための方法が前記車両の移動をアクティブに調整する各時点で、ドライバーは前記車両を通常に作動させる可能性を持つ、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ドライバーは前記車両を運転する際に前記衝突を回避するための方法によって支援される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ドライバーは前記車両を運転する際に前記衝突を回避するための方法によって支援され、すなわち最大で、ドライバーが設定した閾値まで支援される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記衝突を回避するための方法はドライバーによってオンオフ可能である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
車両用衝突回避システムにおいて、
車両の移動中に少なくとも1つの可能な衝突範囲に進入および/または存在する少なくとも1つの物体を検知するためのセンサ装置であって、該センサ装置によって監視される少なくとも1つの衝突範囲が前記車両の周辺にある前記センサ装置と、
電気機械式ブレーキ倍力装置(24)、および、これと作動流体を介して連結され、前記車両を制動するための車両ブレーキシステム(5)に作動的に組み込まれているブレーキ力調整要素と、
前記センサ装置の信号を受信し、該信号をベースにして前記ブレーキ倍力装置(24)と前記ブレーキ力調整要素および/または他のアクティブシャーシ要素とを制御する制御装置と、を含み、
前記衝突回避システムが、前記少なくとも1つの物体を検知したときに、前記車両の走行速度および走行方向を、前記ブレーキシステムおよび前記ブレーキ力調整要素との連動で前記制御装置を用いて変化させ、その結果前記少なくとも1つの物体との衝突が自動的に回避可能であり、
前記ブレーキシステム内での作動流体の圧力発生を、実質的に前記ブレーキ倍力装置(24)を用いて生じさせ、すなわち前記物体の検知の際に前記センサ装置の信号に応答して生じさせ、
前記センサ装置の信号に応答して前記ブレーキシステムを起動する際、前記ブレーキ力調整要素が、車輪(17a,17a,17b,17b)と連結されている車輪ブレーキシリンダ(16a,16a,16b,16b)にそれぞれブレーキトルクを生成させ、前記車輪(17a,17a,17b,17b)におけるそれぞれのブレーキトルクを、前記センサ装置によって検出した状況に依存して前記制御装置によって個別に生成させる、
衝突回避システム。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか1項に記載の方法を実現するための構成要素をさらに含んでいる、請求項9に記載の衝突回避システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に関連する衝突を、特に車両と車両外にいる人および/または物体との、および2台またはそれ以上の車両同士の衝突をも自動的に回避するための方法およびシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
将来のドライバーアシストシステムは、レーダー、超音波、カメラ等によってより多くの周辺情報を利用する傾向があり、その結果多数の可能なドライバーアシスト機能が可能になり、これらのドライバーアシスト機能は臨界走行状況でドライバーを支援して、ドライバーおよび/または乗員を保護するか、或いは、他のロードユーザーを負傷させないようにする。
【0003】
このようなドライバーアシストシステムに顧客の支持があるかどうかは、車両内で使用されるアクチュエータに依存している。これらのアクチュエータは、実際の走行状態または走行状況に対応して種々の車両リアクションを導入し、たとえば追突事故を回避するための、または、歩行者と衝突を回避するための自動緊急ブレーキを導入する。
【0004】
車両の実際の走行運転状態への介入は多面的に行うことができる。従ってシャーシ、パワートレイン、ステアリング、またはブレーキの種々の要素を制御器によって制御する可能性がある。さらに、衝突回避のために、車両の速度を低下させる介入、或いは、走行方向も付加的に変化させる介入の点で類別することができる。
【0005】
特にブレーキ介入の場合、介入の可能性は、使用できる動的圧力発生機構に依存しており、快適機能に対しては、さらに、(たとえば従来のESP/ABSシステムから公知であるような)使用するアクチュエータの発生騒音に依存している。
【0006】
特にESP液圧系のピストンポンプによる圧力発生機構は不十分な圧力発生勾配を提供し、車両との液圧的/機械的結合によって付加的にかなりの騒音を発生させる。
【0007】
特許文献1は、いわゆる優先車両の通常のステアリングコントロールが故障した場合に、差動ブレーキを使用して自動ステアリングコントロールを提供する衝突回避システムを開示している。このシステムは、ある物体、たとえば他の車両または人との衝突が切迫しているかどうかを検知し、切迫していれば、優先車両に対し回避走行に最適な経路を検出することで、そうでなければ衝突の可能性のある物体を回避している。この衝突回避システムは、車両が最適な経路に追従して(衝突)標的を回避するために自動ステアリングが必要であることを検出することができる。衝突回避システムが自動ステアリングが必要であることを検出し、且つ通常の車両ステアリングが故障していることを検出した場合には、本システムは差動ブレーキを使用することで、車両を前記経路に沿って操舵する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】独国特許出願公開第102012104793A1号明細書
【発明の概要】
【0009】
本発明は、請求項1による第1の観点のもとで、移動している車両と、該車両の移動中に可能な衝突範囲に進入および/または存在する少なくとも1つの物体との衝突を回避するための方法において、前記車両が、前記少なくとも1つの物体を検知するためのセンサ装置であって、前記車両の周辺にある少なくとも1つの衝突範囲を監視する前記センサ装置と、電気機械式ブレーキ倍力装置、および、これと連結され、前記車両を制動するための車両ブレーキシステムに作動的に組み込まれているブレーキ力調整要素と、前記センサ装置の信号を受信し、該信号をベースにして前記ブレーキ倍力装置と前記ブレーキ力調整要素および/または他のアクティブシャーシ要素とを制御する制御装置とを含み、少なくとも1つの物体を検知したときに、前記車両の走行速度および/または走行方向を、前記ブレーキシステムおよび前記ブレーキ力調整要素との連動で前記制御装置を用いて、前記少なくとも1つの物体との衝突が自動的に回避されるように変化させるようにした、前記衝突を回避するための方法を提案する。
【0010】
請求項11による第2の観点のもとでは、本発明は、車両用衝突回避システムにおいて、車両の移動中に少なくとも1つの可能な衝突範囲に進入および/または存在する少なくとも1つの物体を検知するためのセンサ装置であって、該センサ装置によって監視される少なくとも1つの衝突範囲が前記車両の周辺にある前記センサ装置と、電気機械式ブレーキ倍力装置、および、これと作動流体を介して連結され、前記車両を制動するための車両ブレーキシステムに作動的に組み込まれているブレーキ力調整要素と、前記センサ装置の信号を受信し、該信号をベースにして前記ブレーキ倍力装置と前記ブレーキ力調整要素および/または他のアクティブシャーシ要素とを制御する制御装置とを含み、前記衝突回避システムが、前記少なくとも1つの物体を検知したときに、前記車両の走行速度および/または走行方向を、前記ブレーキシステムおよび前記ブレーキ力調整要素との連動で前記制御装置を用いて変化させ、その結果前記少なくとも1つの物体との衝突が自動的に回避可能である、衝突回避システムを提案する。
【0011】
本発明の利点は、従来の電気機械式ブレーキ倍力装置(いわゆるiブースタ)を下位のESPユニットと連動させて利用することによって非対称なブレーキトルクを車両に付与し、該非対称なブレーキトルクが一方では車両を制動することでたとえば歩行者との衝突を回避させ、他方では交通状況が許す限りにおいては車両が邪魔になっている歩行者をよけるように車両の方向を制御することによって得られる。
【0012】
この場合、必要な動的圧力発生は、ブレーキ圧を非常に迅速に発生させることができるばかりでなく、非常に快適に、すなわち最小の騒音発生でブレーキ圧を発生させることのできるiブースタ(電気機械式ブレーキ倍力装置)を使用することによって保証される。下位のESPシステム(ABSシステムでも可能である)は、車輪特有の介入によって、すなわち吸込み弁を閉じ、場合によっては排出弁を開くことによって、非対称なブレーキトルクの付与を可能にさせる。
【0013】
使用するセンサ装置によって、歩行者との衝突が間近に迫っていることが検知されると、iブースタによって圧力をアクティブに発生させることで車両を減速させ、もし可能ならば、歩行者の前方で停止させる。
【0014】
もしこれが不可能であれば、周辺センサ装置に基づいていわゆる回避回廊を検出することで、歩行者をよけるように車両を制御することができる。この算出された車両の軌跡は、左右非対称のブレーキトルクを調整することによって置換することができ、すなわちiブースタによる圧力発生と、ESP/ABSの構成要素による非対称性とを生じさせるように置換することができる。逆送ポンプの制御は必要ない。
【0015】
これとは択一的に、操舵装置、差動装置、アクティブシャーシのような他のアクティブ要素も、車両の方向変更に使用することができる。
【0016】
好ましくは、センサ装置は、物体の検知をベースにして、レーダー装置および/または超音波装置および/または撮像装置を用いて信号を生成してこれを転送し、その際センサ装置は、1つまたは複数の3次元の衝突範囲を監視し、該衝突範囲は個別にまたは全部が車両の周辺全体とオーバーラップしている。このようにして、センサ装置による可能な衝突物体の検知が保証されている。
【0017】
有利には、ブレーキシステム内での作動流体の圧力発生を、実質的にブレーキ倍力装置を用いて生じさせ、すなわち物体の検知の際にセンサ装置の信号に応答して生じさせる。電気機械式ブレーキ倍力装置を用いると、前述したようにブレーキシステム内に比較的高い作動流体の圧力発生を得ることができる。
【0018】
さらに、センサ装置の信号に応答してブレーキシステムを起動する際、ブレーキ力調整要素が、車輪と連結されている車輪ブレーキシリンダにそれぞれブレーキトルクを生成させ、車輪におけるそれぞれのブレーキトルクを、センサ装置によって検出した状況に依存して制御装置によって個別に生成させるのが有利である。これにより、衝突が切迫することを検知した際に車両の走行方向を適宜制御することができる。
【0019】
好ましくは、ブレーキ力調整要素は少なくとも1つのESP装置および/またはABS装置を含んでいる。この場合、このような装置はよく知られているものであり、ほぼどの車両にも組み付けられているという利点がある。
【0020】
有利には、前記他のアクティブシャーシ要素は少なくとも1つの車両操舵装置および/または差動歯車伝動装置および/またはアクティブシャーシ装置および/またはパワートレイン装置を含み、これら装置に制御装置が衝突を回避するためのセンサ装置の信号に応答して規則的に作用する。これによって、衝突回避のための更なる支援の可能性が与えられている。
【0021】
衝突を回避するための方法が車両の移動をアクティブに調整する各時点で、ドライバーは車両を通常に作動させる可能性を持つのが有利であり、すなわち衝突回避システムを解除する可能性を持つのが有利である。
【0022】
さらに、ドライバーは車両を運転する際に前記衝突を回避するための方法によってアクティブに支援されるのが有利であり、たとえば操舵装置への自動介入によって支援されるのが有利である。
【0023】
最後に、ドライバーは車両を運転する際に前記衝突を回避するための方法によって支援され、すなわち最大で、ドライバーが設定した閾値まで支援されるのがさらに有利である。これは特に走行速度コントロール(たとえばクルーズコントロールまたはACC)が設けられている場合に、前記衝突を回避するための方法の導入にもかかわらず、設定した速度を維持するために有利である。
【0024】
好ましくは、前記衝突を回避するための方法を意識的に利用するかしないかの決定をドライバーに委ねるために、前記衝突を回避するための方法はドライバーによってオンオフ可能である。
【0025】
次に、本発明を図面との関連で実施形態を用いて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】従来のブレーキシステムの配置構成の1例を示す図である。
【
図2a】作動流体の圧力のグラフを例示したもので、すなわち電気機械式ブレーキ倍力装置を備えていない従来のブレーキシステムを時間に依存して示すとともに、この従来のブレーキシステムの主要な構成要素の作動状態をも併せて示した図である。
【
図2b】作動流体の圧力のグラフを示すもので、すなわち電気機械式ブレーキ倍力装置を備えたブレーキシステムを時間に依存して示すとともに、このブレーキシステムの主要な構成要素の作動状態をも併せて示した図である。
【
図3】
図1のブレーキシステムの配置構成をよりよく理解するために示す詳細図である。
【
図4a】
図1のブレーキシステムの配置構成をよりよく理解するために示す詳細図である。
【
図4b】主要なブレーキシステム構成要素の圧力推移グラフを示すもので、すなわち
図4aに図示した過程をよりよく理解するためにそれぞれ時間に依存して示す図である。
【
図5a】時間的に連続する走行状況を平面で見た図である。
【
図5b】
図5aに図示した走行状況に対応する車両作動状態を、全車両の移動方向をも併せて示唆した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、本発明をよりよく理解するために、それ自体公知の従来のブレーキシステム5(一点鎖線の枠取りで強調した)の図を示すものであり、それ故ここには比較的簡単に立ち入ることにする。ブレーキシステム5またはその機能の詳細な説明は、たとえば独国特許出願公開第102011075983A1号明細書を参照されたい。
【0028】
ブレーキシステム5の主要な構成要素は、たとえばタンデムブレーキマスタシリンダとして実施可能なブレーキマスタシリンダ10である。しかしながら、ブレーキシステム5はタンデムブレーキマスタシリンダの使用に限定されるものではない。
【0029】
ブレーキマスタシリンダ10には、作動液貯留容器(またはブレーキ液貯留容器)12が流体連結されている。
【0030】
さらに、ブレーキマスタシリンダ10には、電気機械式ブレーキ倍力装置24(いわゆる「iブースタ」)が連結されている。ブレーキ倍力装置24は、特に連続調整可能な/連続制御可能なブレーキ倍力装置であってよい。
【0031】
ブレーキ倍力装置24と連結され、よってブレーキマスタシリンダ10と連結されているブレーキ操作要素22を介して、車両のドライバーはブレーキ力を行使することができ、このことは、ブレーキマスタシリンダ10内での、または、これと流体連結されている伝送管28a,28b内での作動液圧の上昇に作用し、この場合車両の制動のために生成される上昇した流体圧は、無電流開弁型の吸込み弁(「EV」)34a,34a,34b,34bを介して車輪ブレーキシリンダ16a,16a,16b,16bに伝達され、その結果車輪ブレーキシリンダに付設されている車輪17a,17a,17b,17bにはそれぞれブレーキトルクが生成される。
【0032】
図1に示したブレーキシステム5は2つのブレーキ回路14a,14bを有し、この場合ブレーキ回路14aに付設される車輪17a,17aはたとえば車軸(たとえば前車軸)に付設されていてよい。対応的に、ブレーキ回路14bに付設される車輪17b,17bは車両の後車軸の車輪であってよい。なお、ブレーキ回路14a,14bに付設される構成要素、すなわちたとえば弁は、それぞれのブレーキ回路内に対応的に配置されている。しかし、他のブレーキ回路配置構成も考えられ、たとえば1つのブレーキ回路の車輪は異なる車軸に付設される。
【0033】
減圧のために、ブレーキ回路14a,14b内では、それぞれ(無電流閉弁型の)排出弁(「AV」)20a,20a,20b,20bが車輪ブレーキシステム16a,16aまたは16b,16bと流体連結され、この場合減圧のために排出弁が対応的に通電される。
【0034】
このとき作動液は、ブレーキ回路14a,14b内の蓄圧要素18a,18b内を変位することができる。
【0035】
さらに、ブレーキ回路14a,14bはそれぞれ(無電流開弁型の)切換え弁30a,30bを有し、これらの切換え弁は、通電時にブレーキ回路14a,14bをブレーキマスタシリンダ10から流体的に切り離すことができる。このケースでは、作動液増圧は(逆送)ポンプ46a,46bを介してブレーキ回路14a,14b内に生成させることができ、この場合ポンプ46a,46bはモータ52を介して駆動され、すなわちモータから出力されてポンプ46a,46bを駆動する駆動軸を介して駆動される。このときポンプ46a,46bは、その吐出側(
図1で三角形で特徴づけた)においてそれぞれ管58a,58bを介して高圧化した作動液を車輪ブレーキシリンダ16a,16a,16b,16b内へ圧送して、付設の車輪にそれぞれブレーキトルクを生成させる。
【0036】
図1に図示したブレーキシステム5をESP/ABSシステムとして使用する場合には、ポンプ46a,46bは自吸ポンプとして作用し、この場合切換え弁30a,30bは閉じており、高圧切換え弁64a,64b(常時は無電流で閉じている)は通電によって開弁される。従って、作動液を吸込み弁34a,34a,34b,34bを介して車輪ブレーキシリンダ16a,16a,16b,16bに伝送して、車輪17a,17a,17b,17bにブレーキトルクを生成させることができる。この場合、車輪17a,17a,17b,17bを個別に制動するために、たとえばESP介入時に特定の走行状況でいわゆるギヤトルクを相殺して走行中の車両を安定化させるために、吸込み弁が互いに別個に制御可能であることは公知である。なお、このケースではブレーキシステム5がXブレーキ回路配分構成を有することを付記しておく。
【0037】
さらに、複数の逆止弁を図示したが、これらの逆止弁は、端的に説明するという理由と、それらの機能は当業者に知られているという理由とから、詳細に説明しないことを指摘しておく。
【0038】
いま、本発明の思想に従って、走行している車両前方に突然出現した人、他車、またはその他の物体、或いは、一般に障害物(障害物は定置のものであってもよい)との衝突を回避するためにブレーキシステム5を使用するため、ブレーキシステム5の機能を電気機械式ブレーキ倍力装置24の機能と組み合わせる。この場合ブレーキシステム5の機能(或いは、さらに以下で説明するようなセンサ装置と結合している図示していない制御装置の機能)は、吸込み弁を状況に応じて(すなわち回避操作)制御するために用い、電気機械式ブレーキ倍力装置の機能は、作動液の対応する高圧を発生させるために用いる。このことは、高い圧力発生に関してESPシステムだけでは不可能である。
【0039】
センサ装置(ここには図示せず)としては、車両の適当な個所に固定または装着される各種の1つまたは複数のセンサを用いることができ、たとえば1つまたは複数のレーダー装置、超音波装置、赤外線装置および/または画像付与装置をベースにしたものを用いることができる。この場合、1つまたは複数のセンサ装置は車両の全域を、好ましくは3次元方式で検知すること、或いは、特定のいわゆる衝突領域のみを、たとえば車両前方領域および/またはその側方領域のみを検知することが考えられる。当業者にとっては公知であるように、検知の「欠落」を回避するために複数の衝突領域を部分的にオーバーラップさせてもよい。
【0040】
少なくとも1つのセンサ装置は、車両が通常どおりそのまま走行すれば当該車両と衝突するような1つまたは複数の障害物(人、車両、または一般に物体)を検知すると、1つまたは複数の信号を車両内にある制御装置に送る。このとき制御装置は、たとえばトルク速度、加速度/減速度、走行方向(たとえばGPSデータをベースにして検出される)、旋回操舵方向、道路表面の性質(たとえば湿性/乾性)等の車両特殊データをベースにして、或いは、車両に対する人または(障害物が移動している場合の)軌跡をベースにして、可能な衝突場所を演算して、ブレーキシステムを適宜制御することによって車両を障害物周辺で制御および/または制動することができ、その結果衝突には至らない。なお、制御装置が操舵装置(いわゆるサポートステアリングアシストとして)、差動歯車装置、アクティブシャーシ(たとえばサスペンション、ショックアブゾーバ、スタビライザ等に関して)に介入することも考えられ、他方たとえばエンジントルクの低下、燃料供給の低減/休止、ギヤチェンジ等による駆動系自体への介入も考えられる。
【0041】
残りの図を参照して主要な構成要素の機能の説明を行う前に、
図5aおよび
図5bを参照して典型的な回避操作状況を説明しておく。
【0042】
図5aは、走行軌道110上を矢印120の方向に移動している車両100を平面図で示している。第1段階I)で、車両100の(ここには示していない)センサ装置は、「検知波」130で示唆した車両100の前方周辺を検知する。この場合、障害物はまだ検知されない。第2段階II)で、走行方向において車両100の前方にいる人140が検知される。これに基づいて、車両100内のセンサ装置は、受信した信号をベースとして車両100の作動状態A)を誘起させる。
図5bでは、この作動状態A)は、車両100が矢印125の方向に導かれるように適当なブレーキトルクを生成させることによりブレーキシステムが車両100の車輪105に作用することによって特徴づけられている。この場合、状態A)では、車輪105,105(すなわち矢印125の方向での走行方向に関して、車両100の右側の車輪)に作用するブレーキトルクは、車輪106,106に作用するブレーキトルクよりも相対的に低く、その結果車両は左側へ偏向する(すなわち矢印125の方向)。車両100は、ブレーキシステムへの適宜の介入によって自動的に障害物140のそばを通過する。この場合、もちろん上述の介入(操舵など)を付加的に行うことが考えられる。
【0043】
この時点で車両100はその一部または全体が対向交通用の車線210上にあるので(矢印220の方向に移動する車両200によって図示した)、制御装置は、車両100を、車輪105,105(車両右側)に対するブレーキトルクが車輪106,106(車両左側)に対するブレーキトルクよりも高い作動状態B)へ誘導し、その結果車両100は全体が矢印126の方向に導かれ(
図5bを参照)、すなわち元の車線110へ再び戻る。この場合、制御装置は、車両100が対向車線210上にあるという事実(たとえば路面標識150,150に基づいてセンサ装置によって検出される)だけに基づいて作動状態B)がもたらされるように構成されていてよい。もちろん、車両100の衝突範囲内にある車両200(センサ装置によって検知することができる)も、作動状態B)をもたらすための誘因であってよい。
【0044】
状態B)(「右カーブ」)の後に車両100が再び車線110に沿って移動するようにするため、再び状態A)を誘起させ、その結果車両100は段階III)で状態C)になり、この状態では、ブレーキトルクはすべての車輪105,105,106,106において再び左右対称になり、その結果車両100は再び矢印120で示唆した方向に従う(
図5a)。
【0045】
ここで、さらに他の実施形態に関して簡単に触れておく。ドライバーに対しては、システムを解除する可能性が常にあるべきであり、すなわち衝突回避が導入されたにもかかわらず、ドライバーにとっては自身で加速または制動を行う可能性があるべきである。
【0046】
アダプティブクルーズコントローラ(ACC)がオンになっている場合には衝突回避を導入することができるが、しかし発生させたブレーキトルクはエンジントルクを上げることによって相殺され、その結果車両は減速されずに、ドライバーコマンド(たとえばアクセル位置、ACCによる速度予設定)に追従する。
【0047】
他の実施形態によれば、衝突回避を導入して、発生させたブレーキトルクを次のように配分し、すなわちドライバーが比較的軽くブレーキに「触れている」場合にドライバーコマンドのみに対応して車両が減速し、場合によってはエンジントルクを上げることによって減速するように、配分する。
【0048】
さらに、前述したように、衝突回避機能をドライバーによってオンオフすることが考えられる。
【0049】
図2aおよび
図2bは、マスタシリンダ内での圧力の時間的圧力推移、すなわちp
HZ(t)を(図示して、または、定性的に図示して)比較したもので、すなわち電気機械式ブレーキ倍力装置を備えていない従来のシステム(
図2aの上のグラフ)と、電気機械式ブレーキ倍力装置を使用した場合(iブースタ、
図2bの上のグラフ)とを比較したものである。この場合認められることは、
図2aの上のグラフでは、マスタシリンダ内の圧力(予圧)がゼロであるのに対し、電気機械式ブレーキ倍力装置を使用した、
図2bの対応する圧力は、当初上昇し(タイムウィンドウt
1)、その後適当なレベルで一定に留まり(タイムウィンドウt
2)、その後再びゼロへ降下する(タイムウィンドウt
3)。タイムウィンドウt
1,t
2,t
3は、グラフの下にバーによって示したように、対応する構成要素の操作期間によって特徴づけられ、たとえばt
1の間主切換え弁(「HSVs」)が開いている、または、t
1の間「ポンプオン」であることによって特徴づけられている(
図2aを参照)。なお、ハッチングしたバーはパッシブな構成要素(すなわち吸込み弁 左 開)を意味しており、他方点を打ったバーはアクティブな構成要素を意味している(すなわち吸込み弁 右 閉、或いは、iブースタ アクティブ、
図2b)。排出弁「AVs」はそれぞれ閉じている。t
2とt
3の間、
図2aでは主切換え弁(「HSVs」)はオプションで開いていてもよく、或いは、ポンプ(
図2a)はオプションでオンであってもよい。
【0050】
図2aおよび
図2bの中間のグラフには、それぞれ車両左側に対するブレーキ圧P
左と車両右側に対するブレーキ圧p
右とがそれぞれ図示されており、
図5aおよび
図5bに示した作動状態A)とB)に対応している。
【0051】
図3と
図4aおよび
図4bとは本発明の図示した実施形態をよりよく理解するために用いるもので、ブレーキ操作要素22と、貯留容器12と、マスタシリンダ10と、高圧弁64b(2つの状態の間で切換え可能)と、切換え弁30b(制御可能)と、ポンプ46b(制御可能)と、左車輪および右車輪用に制御可能な吸込み弁34b,34bとを備えたブレーキシステム5の詳細図を示している。参照符号300は、高圧切換え弁64bと(逆送)ポンプ46bとの間のプレチャンバ・作動液容積部を表わしている。参照符号400は、切換え弁30bと両吸込み弁34b,34bとの間の作動液・システム容積部を表わしている。
【0052】
グラフIとグラフIIとは圧力/体積比を一般的に記載したもので、圧力/体積比は左側の吸込み弁または右側の吸込み弁34b,34bに対してそれぞれ顧客ごとに設定可能である。参照符号11は、マスタシリンダ10と(液圧ユニットの)ブレーキシステム5との間の吸込み管を表わしている。排出弁または蓄圧器は簡潔にするためにここには図示していない。
【0053】
図4bは
図3に図示したブレーキシステム5の詳細図であり、作動液の容積部・流動方向を補足したものである。
【0054】
図4aはこれに付属する時間的推移(A)ないし(F)を(図示して、または、定性的に図示して)示したもので、すなわち高圧切換え弁HSVおよび切換え弁USVの作動状態(オン/オフ)[グラフ(A)]、逆送ポンプRfp(46b)の回転数n
Rfp[グラフ(B)]、逆送ポンプ(46b)の体積・流動率q
Rfp(mリットル/秒)[グラフ(C)]、車輪ブレーキシリンダまたは吸込み弁34bに対する体積・流動率q
Wheel[グラフ(D)]、ブレーキ圧p、切換え弁30bの体積・流動率q
USVを示したものである。
【0055】
図4bには、ブレーキトルクを生成させるための圧力発生(pVグラフIとIIを参照)が経過する状況が示されており、すなわち参照符号500で特徴づけた、q
HSV,q
Rfp,q
EVleft(左車輪用の吸込み弁)およびq
EVright(右車輪用の吸込み弁)に対する方向矢印を用いて示されている。この場合、切換え弁30bは圧力制限弁として用いられ、参照符号600で特徴づけた、q
USVに対する方向矢印は、作動液がマスタシリンダ10へ戻るように流れていることを示している。
【0056】
図4aでは、グラフ(A)ないし(F)に関連して、特にグラフ(F)に関連して、ブレーキ圧の制御が時点t
Δpからはじめて行われ、すなわちq
USVがゼロでないときにはじめて行われることが認められる。
【0057】
なお、図示したディメンションは必ずしも縮尺どおりでないことを申し添えておく。
【符号の説明】
【0058】
5 ブレーキシステム
16a,16b 車輪ブレーキシリンダ
17a,17b 車輪
24 ブレーキ倍力装置