(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6234560
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】3重断熱ガラス用のスペーサ
(51)【国際特許分類】
E06B 3/663 20060101AFI20171113BHJP
C03C 27/06 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
E06B3/663 B
C03C27/06 101D
C03C27/06 101E
E06B3/663 F
E06B3/663 M
【請求項の数】17
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-518873(P2016-518873)
(86)(22)【出願日】2014年3月11日
(65)【公表番号】特表2016-526622(P2016-526622A)
(43)【公表日】2016年9月5日
(86)【国際出願番号】EP2014054710
(87)【国際公開番号】WO2014198431
(87)【国際公開日】20141218
【審査請求日】2016年2月15日
(31)【優先権主張番号】13172002.1
(32)【優先日】2013年6月14日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512212885
【氏名又は名称】サン−ゴバン グラス フランス
【氏名又は名称原語表記】Saint−Gobain Glass France
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ハンス−ヴェアナー クスター
(72)【発明者】
【氏名】マーク モレ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルター シュライバー
【審査官】
藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】
特表2012−522719(JP,A)
【文献】
独国特許出願公開第102009057156(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E06B 3/54 − 3/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肉厚dを有するポリマー基材(1)を少なくとも含む、断熱ガラス用のスペーサ(I)であって、
第1のガラス板接触面(2.1)と、
前記第1のガラス板接触面(2.1)に対して平行に延在する第2のガラス板接触面(2.2)と、
第1のガラス内側スペース面(3.1)と、
第2のガラス内側スペース面(3.2)と、
外側面(4)と、
第1の中空室(5.1)と、
第2の中空室(5.2)と
を有し、
・ガラス板を受容するための溝(6)が、前記第1のガラス内側スペース面(3.1)と前記第2のガラス内側スペース面(3.2)との間において、前記第1のガラス板接触面(2.1)および前記第2のガラス板接触面(2.2)に対して平行に延在しており、
・前記第1の中空室(5.1)は前記第1のガラス内側スペース面(3.1)に隣接しており、かつ、前記第2の中空室(5.2)は前記第2のガラス内側スペース面(3.2)に隣接しており、
・前記溝(6)の側縁面(7)は、前記第1の中空室(5.1)の壁と前記第2の中空室(5.2)の壁とによって形成されており、
・前記側縁面(7)の領域における肉厚d’は、前記ポリマー基材(1)の前記肉厚dより小さく、
・前記ポリマー基材(1)の前記外側面(4)に断熱フィルム(12)が設けられており、前記断熱フィルム(12)は、少なくとも1つのポリマー層と、金属層またはセラミック層とを含む、
ことを特徴とする断熱ガラス用のスペーサ(I)。
【請求項2】
前記溝(6)の側縁面(7)は詰め物(9)を備えている、
請求項1記載の断熱ガラス用のスペーサ(I)。
【請求項3】
前記詰め物(9)は、エラストマ、又は、エチレン‐プロピレン‐ジエンゴムを含む、
請求項2記載の断熱ガラス用のスペーサ(I)。
【請求項4】
前記側縁面(7)の領域における前記肉厚d’は、d’<0.7dである、
請求項1から3までのいずれか1項記載の断熱ガラス用のスペーサ(I)。
【請求項5】
前記断熱フィルム(12)は、少なくとも2つの金属層および/またはセラミック層を含み、当該少なくとも2つの各金属層および/またはセラミック層は少なくとも1つのポリマー層と交互に配置されている、
請求項1から4までのいずれか1項記載の断熱ガラス用のスペーサ(I)。
【請求項6】
前記ポリマー基材(1)は乾燥材(11)を含む、
請求項1から5までのいずれか1項記載の断熱ガラス用のスペーサ(I)。
【請求項7】
前記乾燥材(11)は、シリカゲル、モレキュラーシーブ、CaCl2、Na2SO4、活性炭素、ケイ酸塩、ベントナイト、ゼオライト、および/または、その混合物を含む、
請求項6記載の断熱ガラス用のスペーサ(I)。
【請求項8】
前記第1のガラス内側スペース面(3.1)および/または前記第2のガラス内側スペース面(3.2)は、少なくとも1つの開口部(8)を有し、
前記開口部(8)は、前記中空室(5.1,5.2)とガラス板間スペース(17.1,17.2)とを連通する、
請求項1から7までのいずれか1項記載の断熱ガラス用のスペーサ(I)。
【請求項9】
前記ポリマー基材(1)は、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリニトリル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン(ABS)、アクリロニトリル‐スチレン‐アクリルエステル(ASA)、アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン/ポリカーボネート(ABS/PC)、スチレン‐アクリロニトリル(SAN)、PET/PC、PBT/PC、および/または、そのコポリマーまたは混合物を含む、
請求項1から8までのいずれか1項記載の断熱ガラス用のスペーサ(I)。
【請求項10】
少なくとも、1つの第1ガラス板(13)と、1つの第2ガラス板(14)と、1つの第3ガラス板(15)と、当該ガラス板を包囲する、請求項1から9までのいずれか1項記載の周縁状のスペーサ(I)とを含む断熱ガラスであって、
・前記第1ガラス板(13)は前記第1のガラス板接触面(2.1)に接しており、
・前記第2ガラス板(14)は前記第2のガラス板接触面(2.2)に接しており、
・前記第3ガラス板(15)は前記スペーサ(I)の溝(6)に挿入されている
ことを特徴とする断熱ガラス。
【請求項11】
前記第1ガラス板(13)と前記第1のガラス板接触面(2.1)との間、および/または、前記第2ガラス板(14)と前記第2のガラス板接触面(2.2)との間に、シーリング材(10)が被着されており、
前記シーリング材(10)は、ポリマー、シラン修飾ポリマー、有機ポリスルフィド、シリコーン、常温架橋性シリコーンゴム、高温架橋性シリコーンゴム、過酸化物架橋性シリコーンゴム、付加架橋シリコーンゴム、ポリウレタン、ブチルゴムおよび/またはポリアクリレートを含む、
請求項10記載の断熱ガラス。
【請求項12】
前記第1ガラス板(13)、前記第2ガラス板(14)および/または前記第3ガラス板(15)は、ガラス、ポリマー、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、石灰ソーダガラス、ポリメチルメタクリレート、および/または、その混合物を含む、
請求項10または11記載の断熱ガラス。
【請求項13】
前記断熱ガラスの前記第3ガラス板(15)には、応力が印加されていない、
請求項10から12までのいずれか1項記載の断熱ガラス。
【請求項14】
請求項10から13までのいずれか1項記載の断熱ガラスの製造方法であって、
少なくとも、
a)前記第3ガラス板(15)を前記スペーサ(I)の溝(6)に挿入し、
b)前記第1ガラス板(13)を、前記スペーサ(I)の前記第1のガラス板接触面(2.1)に被着し、
c)前記第2ガラス板(14)を、前記スペーサ(I)の前記第2のガラス板接触面(2.2)に被着し、
d)前記ガラス板(13,14,15)と前記スペーサ(I)とから成るガラス板配列体を互いにプレスする
ことを特徴とする製造方法。
【請求項15】
最初に前記スペーサ(I)を、一辺において開放している方形に事前成形し、
前記第3ガラス板(15)を前記スペーサ(I)の溝(6)に嵌め込んで、前記ガラス板の他の端面をスペーサ(I)によって塞ぐ、
請求項14記載の製造方法。
【請求項16】
前記第1ガラス板(13)と前記第3ガラス板(15)との間のガラス板間スペース(17)、および、前記第2ガラス板(14)と前記第3ガラス板(15)との間のガラス板間スペース(17)に、保護ガスを充填する、
請求項14または15記載の製造方法。
【請求項17】
請求項1から9までのいずれか1項記載のスペーサ(I)を使用した複層ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3重断熱ガラス用のスペーサと、3重断熱ガラスと、3重断熱ガラスの製造方法と、3重断熱ガラスの使用とに関する。
【0002】
ガラスの熱伝導率は、コンクリートまたはこれに類する建築用材の熱伝導率の約1/2乃至1/3である。しかし、ガラス板は大抵の場合、石材またはコンクリートから成る同等の部材より格段に薄く設計されるので、建築物にて失われる熱のうち最も多くの割合は、屋外側ガラスを介して失われるものであることが多い。この作用が特に顕著となるのは、一部または全部がガラスファサードである高層建築物である。暖房や空調に必要な付帯的費用は、建築物の維持費用の軽視できない割合を占めている。その上、建築基準が厳しくなるにつれて、要求される二酸化炭素放出量も低くなってきている。これに関する重要な解決手段の1つは、3重断熱ガラスである。これは特に、原料価格の高騰がますます加速化し、環境保護義務が厳しくなるにつれて、建築分野からは外せないものとなってきている。よって、3重断熱ガラスが屋外側ガラスのうちで占める割合はますます多くなっている。
【0003】
3重断熱ガラスには通常、2つの個別のスペーサ(Spacer)を介して3つのガラス製またはポリマー材料製のガラス板を互いに隔絶したものが含まれる。かかるガラス板では、2重ガラスに、スペーサを追加して用いて、更に他のガラス板を被せる。上述のような3重ガラスの組立に際して適用される許容誤差設定値は非常に小さい。というのも、上記2つのスペーサを正確に等しい高さに取り付けなければならないからである。このことにより、更に他のガラス板を取り付けるための追加的な設備構成要素を手配しなければならないので、または、旧式の設備に複数工程にわたって通すという時間的に面倒なことを要するので、3重ガラスの組立は2重ガラスの組立と比較して格段に高コストとなる。
【0004】
3重ガラスの断熱能力は、1重ガラスまたは2重ガラスと比較して格段に高い。しかし、Low-E 層等の特殊な層を用いると、この断熱能力を更に増大および改善することができる。いわゆる Low-E 層は、居住室内に入射する前に既に赤外線を遮蔽し、それと同時に太陽光を透過させるという、効率的な手段となる。
【0005】
Low-E 層は、赤外線の大部分を反射する熱放射反射層であり、夏期にはこれによって、居住室内の加熱が低減する。たとえば、独国特許出願公開第102009006062号明細書、国際公開第2007/101964号、欧州特許第0912455号明細書、独国特許発明第19927683号明細書、欧州特許第1218307号明細書および欧州特許第1917222号明細書から、種々の Low-E 層が公知である。これらの Low-E 層は、従来技術の3重ガラスの中間ガラス板表面に設けることはできない。というのも、太陽光が入射すると当該層によってガラス板が加熱され、この加熱により、中間ガラス板とスペーサとの接着接合に不具合が生じてしまうからである。さらに、中間ガラス板と機能層との接着により、追加的な応力が生成されてしまう。従来技術では、この応力を補償するために中間ガラス板に予め応力をかけなければならない。
【0006】
欧州特許出願公開第0852280号明細書には、2重ガラス用のスペーサが記載されており、このスペーサは、接着面に設けられた金属フィルムと、基材のプラスチック内のガラス繊維成分とを含む。かかるスペーサは3重断熱ガラスにおいても用いられることが多く、その際には、第1のスペーサを第1の外部ガラス板と内部ガラス板との間に取り付け、第2のスペーサを第2の外部ガラス板と当該内部ガラス板との間に取り付ける。視覚的に魅力的な外観を保証するためには、これら2つのスペーサは合同になるように貼り合わせなければならない。
【0007】
国際公開第2012095266号から、電線または照明手段を収容するための区画を有する3重断熱ガラスが公知である。この断熱ガラスの第1のガラス板と第2のガラス板とはスペーサを介して結合されており、両ガラス板間のスペースに第3のガラス板が配置されており、この第3のガラス板は別のスペーサを介して第1のガラス板に結合されている。
【0008】
欧州特許出願公開第2584135号明細書に記載の3重断熱ガラスは、第1のガラス板と第2のガラス板とをスペーサによって隔絶し、これら両ガラス板間にプラスチック板を配置したものを含む。このプラスチック板は、別のスペーサによって外部ガラス板間に保持されている。プラスチック板のこのスペーサは、好適には、当該プラスチック板自体と同一の材料から作製されている。プラスチック板のスペーサは、第1のガラス板と第2のガラス板との間のスペーサには結合されていないので、3つのスペーサ全てを互いに依存せずに位置決めしなければならない。
【0009】
国際公開第2012095266号および欧州特許出願公開第2584135号明細書から公知のスペーサシステムも、取付が面倒であり、各構成要素を非常に正確な許容誤差で組立てる必要がある。
【0010】
米国特許出願公開第2007/0251180号明細書には、各ガラス板が溝によって固定された壁構造が記載されている。
【0011】
国際公開第2010/115456号には、2つの外部ガラス板と1つまたは複数の中間ガラス板とを含む複層ガラス板用の複数の中空室を備えた中空成形品スペーサが記載されており、当該ガラス板は、溝形の受容成形部内に取り付けられている。両室間において乾燥材の交換と圧力相殺とが行われるように、このスペーサの各中空室は開口を介して互いに結合されている。同刊行物のスペーサは、ポリマー材料から作製することができ、また、たとえば特殊鋼またはアルミニウム等の剛性金属から作製することも可能である。
【0012】
独国特許出願公開第102009057156号明細書に記載の3重断熱ガラスは剪断剛性のスペーサを含み、これは、高強度接着材を用いて両外部ガラス板に剪断剛性に接合されている。このスペーサは溝を備えており、この溝内に、当該3重ガラスの中間ガラス板が挿入されている。もっぱら、この溝内に設けられるブチルシールを介して、中間ガラス板のフレキシブルな取付が行われる。
【0013】
本発明の課題は、断熱ガラスの組立を簡素化し、かつ、中間ガラス板の応力無しでの固定を改善できる、3重ガラス用のスペーサと、本発明のスペーサを備えた3重ガラスの経済的な組立方法とを実現することである。
【0014】
本発明の課題は、本発明では、独立項である請求項1に記載の断熱ガラス用スペーサ,請求項8に記載の断熱ガラス,請求項11記載の断熱ガラスの組立方法、および、請求項14に記載の断熱ガラスの使用によって解決される。従属請求項に本発明の有利な実施形態が記載されている。
【0015】
断熱ガラス用の本発明のスペーサは、肉厚dを有する少なくとも1つのポリマー基材を含み、これは、第1のガラス板接触面と、当該第1のガラス板接触面に対して平行に延在する第2のガラス板接触面と、第1のガラス内側スペース面と、第2のガラス内側スペース面と、外側面とを有する。当該ポリマー基材には、第1の中空室と、第2の中空室と、溝とが設けられている。この溝は、前記第1のガラス板接触面および第2のガラス板接触面に対して平行に延在し、ガラス板を受容するためのものである。第1の中空室は第1のガラス内側スペース面に隣接しており、第2の中空室は第2のガラス内側スペース面に隣接しており、両ガラス内側スペース面は中空室の上方に位置しており、前記外側面は当該中空室より下方に位置する。ここで「上方」とは、本発明のスペーサを備えた断熱ガラスの、ガラス板内側スペースを向いた側をいい、「下方」とは、当該ガラス内側スペースとは反対側をいう。溝は第1のガラス内側スペース面と第2のガラス内側スペース面との間に延在しているので、当該溝はこれらのガラス内側スペース面の側方を区切っており、第1の中空室と第2の中空室とを互いに分離している。溝の側縁面は、第1の中空室および第2の中空室の壁によって形成されている。ここで溝は、断熱ガラスの中間ガラス板(第3のガラス板)を受容するのに適した凹部を形成する。これにより、第3のガラス板の位置が溝の2つの側縁面と当該溝の底面とによって固定される。側縁面の領域における肉厚d’は、ポリマー基材の肉厚dより小さい。d’をdより小さく選択すると、側縁面のフレキシビリティを向上させることができ、これにより、第3のガラス板の熱膨張を補償することができ、この熱膨張の補償により、応力無しの固定を常に保証することができる。
【0016】
上述のようにして本発明では、3重ガラスの3つ全てのガラス板を固定することができる一体形の2重スペーサ(「ダブルスペーサ」)を実現することができる。この2重スペーサでは、2つの外部ガラス(第1ガラス板および第2ガラス板)はガラス板接触面に取り付けられるのに対し、中間ガラス板(第3ガラス板)は溝に挿入される。ポリマー基材は中空成形品として成形されているので、前記中空室の側縁面は、ガラス板が溝に挿入されるときに撓み、かつ、ガラス板を応力無しで固定するのに十分なフレキシブル性を具備する。本発明のスペーサはこのフレキシブル性により、3重ガラスを簡単に、なおかつ正確な位置合わせで組立てることを可能にする。本発明の上述のダブルスペーサを用いることにより、従来技術で用いられているような2つの個別スペーサの位置ずれが生じることがなくなる。このことにより、従来技術では個別のスペーサを合同に取り付けるのを保証するために不可欠であった、これらの個別スペーサの位置合わせという長時間を要する作業を、省略することができる。本発明のスペーサが有するガラス板接触面は2つのみであるから、かかる断熱ガラスのガス損失速度を、従来技術の2つの個別のスペーサを用いるガラスと比較して、50%低減することができる。さらに、ガラス板接触面を介して水が侵入することによる不具合率も低減させることができる。その上、第3ガラス板の本発明の固定は、側縁面がフレキシブルである溝によって行われ、接着接合によっては行われない。このことによって本発明のスペーサは、第3ガラス板に予め応力をかける必要なく、第3ガラス板の表面に Low-E 層を設けた3層ガラスを製造することができる。ガラス板を接着接合すると、または、ガラス板を他の剛性固定により固定すると、Low-E 層に起因して生じるガラス板の加熱により、接着接合の不具合が促進してしまい、さらに、これにより生じる応力を補償するため、第3ガラス板に予め応力をかける必要がある。しかし、本発明のスペーサを用いると、この事前応力印加工程を省略することができ、これにより更にコスト削減を実現することができる。本発明により応力無しで溝内に固定できることにより、さらに、第3ガラス板の厚さおよび重量を低減できるという利点も奏される。
【0017】
有利には、一方または双方の中空室が溝より下方にて延在することなく、当該溝の底面はポリマー基材の外側面に直接隣接している。このことにより、溝の深さを可能な限り深くすることができ、ガラス板の安定化に供される側縁面の面積を最大限にすることができる。
【0018】
本発明のスペーサの中空室は側縁面のフレキシビリティに寄与するだけでなく、更に、中実に成形されたスペーサと比較して重量の削減にも寄与し、また、たとえば乾燥材等の別の構成要素を収容するためにも使用することができる。
【0019】
前記第1のガラス板接触面および第2のガラス板接触面は、スペーサの組付時に断熱ガラスの外部ガラス(第1ガラス板および第2ガラス板)の取付が行われる、当該スペーサの面となる。第1のガラス板接触面と第2のガラス板接触面とは、互いに平行に延在する。
【0020】
前記「ガラス内側スペース面」とは、ポリマー基材の面のうち、断熱ガラスへのスペーサの組付後にガラスの内側スペースの方向を向いている面をいう。ここで第1のガラス内側スペース面は、第1ガラス板と第3ガラス板との間に位置し、第2のガラス内側スペース面は第3ガラス板と第2ガラス板との間に位置する。
【0021】
ポリマー基材の「外側面」とは、断熱ガラスの内側スペースから外側の断熱層の方向を向いている、ガラス内側スペース面とは反対側の面である。この外側面は好適には、ガラス板接触面に対して垂直に延在する。しかしこれに代えて択一的に、外側面の、ガラス板接触面から最近傍にある部分は、当該外側面に対して当該ガラス板接触面の方向に好適には30°乃至60°の角度で傾斜することができる。このように角を成す幾何学的態様により、ポリマー基材(1)の安定性を改善することができ、本発明のスペーサと断熱フィルムとの接着を改善することができる。それに対して、輪郭全体がガラス板接触面に対して垂直である平坦な外側面とした場合には、スペーサとガラス板接触面とのシール面積を最大限にし、成形がより簡単になることにより製造工程が簡素化されるという利点が奏される。
【0022】
前記溝の幅は、少なくとも、挿入されるガラス板の厚さである。
【0023】
好適には、前記溝の幅は、当該溝内に取り付けられるガラス板の幅より大きくされ、これにより、窓の開閉時にガラス板の位置ずれを防止して当該位置ずれに起因する騒音発生を防止する詰め物を、当該溝内に更に入れることができるようにする。この詰め物は更に、気候条件に依存せずに応力無しの固定を保証できるように、加熱時の第3ガラス板の熱膨張を補償する。さらに、詰め物を使用することは、スペーサのバリエーション種類を最小限にするという点でも有利である。バリエーション種類を可能な限り少なく抑え、なおかつ、中間ガラス板の厚さを変更できるようにするためには、種々の詰め物と共にスペーサを挿入できるようにする。詰め物のバリエーションは、製造コストの点において、スペーサのバリエーションを取り揃えるよりも格段に有利である。
【0024】
他の1つの実施形態では、本発明のスペーサは詰め物無しで溝内に取り付けられる。側縁面の肉厚d’はポリマー基材の肉厚dより低減されているので、これだけで既に側縁面のフレキシビリティが実現される。d’をdより小さく選択すると、側縁面のフレキシビリティを向上させることができ、このフレキシビリティにより、詰め物を使用しなくても第3のガラス板の熱膨張を補償することができ、この熱膨張の補償により、応力無しの固定を常に保証することができる。側縁面の肉厚をd’<0.85dとし、有利にはd’<0.7dとし、特に有利にはd’<0.5dとすると、上述の固定に特に適していることが判明している。溝内に詰め物を嵌入しない場合、第1のガラス板間スペースと第2のガラス板間スペースとは互いに気密に封止されない。このことにより、特にスペーサに圧力補償システムが組み込まれていない場合、空気循環を生成できるという利点が奏される。
【0025】
他の1つの実施形態では、上述の複数の実施形態を組み合わせて、詰め物を使用し、かつ、側縁面の肉厚も低減する。このことにより、第3ガラス板の熱膨張の補償が側縁面のフレキシビリティによって実現され、詰め物の併用によって更に補償がなされる。それと同時に、第3ガラス板の厚さにある程度ばらつきを持たせ、これを詰め物の選定により相殺するという手段も確保される。1つの有利な実施形態では、ポリマー基材と詰め物とを共押出成形して、詰め物をポリマー基材と直に一体成形し、これによりポリマー基材と一体とする。これに代えて択一的に、たとえば両部材を2材射出成形法で共に作製することにより、詰め物をポリマー基材に直に一体成形することも可能である。
【0026】
溝の側縁面は、ガラス板接触面に対して平行に延在することができ、また、複数の当該側縁面を同一方向に、または異なる方向に傾斜させることも可能である。第3ガラス板の方向に側縁面を傾斜させることにより、当該第3のガラス板を規定通りに固定するために使用できる狭窄部が生成される。さらに、側縁面の中央部分のみが第3ガラス板に当たるように、当該側縁面を湾曲させることも可能である。上述のように側縁面を湾曲させることは、当該側縁面の肉厚d’の低減と併用すると、特に有利である。湾曲した側縁面は、非常に良好なばね作用を示し、特に、薄い肉厚の場合において非常に良好なばね作用を示す。このことにより、側縁面のフレキシビリティを更に向上させることができ、これにより、第3ガラス板の熱膨張を特に有利に補償することができる。1つの有利な実施形態では、ガラス板の上述のように湾曲した側縁面を、ポリマー基材とは異なる材料から作製し、当該ポリマー基材と共に共押出成形する。このことが特に有利であるのは、たとえば適切な材料を選定することにより、ポリマー基材の剛性を維持しながら、側縁面のフレキシビリティを選択的に向上できるからである。
【0027】
好適には、ポリマー基材の、ガラス内側スペース面に沿った全幅は、10mmから50mmまでであり、特に好適には20mmから36mmまでである。ガラス内側スペース面の幅を上述のように選択することにより、第1ガラス板と第3ガラス板との間の距離が、ないしは、第3ガラス板と第2ガラス板との間の距離が定まる。好適には、第1のガラス内側スペース面の幅と第2のガラス内側スペース面の幅とは等しい。これに代えて択一的に、両ガラス内側スペース面の幅が異なる非対称的なスペーサも可能である。両ガラス内側スペース面の具体的な寸法差は、断熱ガラスの寸法と、所望のガラス板間スペースサイズとに拠る。
【0028】
好適には、ポリマー基材の、ガラス板接触面に沿った高さは、5mmから15mmまでであり、特に好適には5mmから10mmまでである。
【0029】
好適には、溝の深さは1mmから15mmまでであり、特に好適には2mmから4mmまでである。このことにより、第3ガラス板を安定的に固定させることができる。
【0030】
ポリマー基材の肉厚dは0.5mmから15mmまでであり、有利には0.5mmから10mmまでであり、特に有利には0.7mmから1mmまでである。
【0031】
スペーサは好適には、ポリマー基材の外側面上に断熱フィルムを含む。この断熱フィルムは、少なくとも1つのポリマー層と、金属層またはセラミック層とを含む。このポリマー層の層厚は5μmから80μmまでであり、金属層および/またはセラミック層については、厚さ10nmから200nmまでのものが用いられる。上述の層厚の範囲内であれば、断熱フィルムの特に良好な封止性を実現できる。
【0032】
特に好適には、前記断熱フィルムは少なくとも2つの金属層および/またはセラミック層を有し、当該金属層および/またはセラミック層は少なくとも1つのポリマー層と交互に配置される。かかる断熱フィルムにおいて好適なのは、外側の層をポリマー層によって形成することである。断熱フィルムの上述の交互に配置された層を結合ないしは互いに被着させることができる手法は、従来技術から種々知られている。金属層またはセラミック層の成膜手法も、当業者に長い間知られている。層を交互に配置したものを備えた断熱フィルムを用いることは、システムの封止性の点で特に有利である。上記層のいずれかに欠陥が存在しても、断熱フィルムの機能が失われることはない。これに対し、単一層を1つだけ用いると、小さい欠陥だけで既に完全な不具合が生じてしまう。また、複数の薄い層を被着することが、1つの厚い層を用いることと比較して有利である理由は、層厚が厚くなるほど、内部付着に問題が生じるおそれが大きくなることにもある。さらに、層が厚くなるほど、その伝導率は高くなるので、かかるフィルムの熱力学的な適性は更に低くなる。
【0033】
前記ポリマー層は好適には、ポリエチレンテレフタレート、エチレンビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコーン、アクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、および/または、そのコポリマーまたは混合物を含む。前記金属層は好適には、鉄、アルミニウム、銀、銅、金、クロム、および/または、その合金または混合物を含む。前記セラミック層は好適には、酸化シリコンおよび/または窒化シリコンを含む。
【0034】
断熱フィルムは好適には、0.001g/(m
2h)未満のガス透過度を有する。
【0035】
ポリマー基材と断熱フィルムとの複合体のPSI値は、有利には0.05W/mK未満(以下)であり、特に有利には0.035W/mK未満(以下)である。断熱フィルムはポリマー基材に被着することができ、たとえば接着することができる。これに代えて択一的に、断熱フィルムを基材と共に共押出成形することも可能である。
【0036】
ポリマー基材は好適には乾燥材を含み、有利にはシリカゲル、モレキュラーシーブ、CaCl
2、Na
2SO
4、活性炭素、ケイ酸塩、ベントナイト、ゼオライトおよび/またはその混合物を含む。この乾燥材は好適には、基材内に埋め込まれている。特に好適には、乾燥材は基材の第1の中空室内と第2の中空室内とに設けられている。
【0037】
1つの有利な実施形態では、前記第1のガラス内側スペース面および/または第2のガラス内側スペース面は少なくとも1つの開口部を有する。好適には、複数の開口部が両ガラス内側スペース面に設けられている。開口部の総数は、断熱ガラスのサイズに依存する。かかる開口部は中空室とガラス板間スペースとを連通し、これにより、両者間のガス交換が可能となる。このガス交換により、中空室内に存在する乾燥材による湿分の吸収が可能になり、これによりガラス板の曇りが防止される。開口部は好適にはスリットとして形成され、特に好適には、幅が0.2mmでありかつ長さが2mmであるスリットとして形成される。このようなスリットにより、乾燥材が中空室内からガラス板間スペース内に侵入することなく、最大限の空気交換を保証することができる。
【0038】
ポリマー基材は好適には、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリニトリル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、好適にはアクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン(ABS)、アクリルエステル‐スチレン‐アクリロニトリル(ASA)、アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン/ポリカーボネート(ABS/PC)、スチレン‐アクリロニトリル(SAN)、PET/PC、PBT/PC、および/または、そのコポリマーまたは混合物を含む。
【0039】
有利には、前記ポリマー基材はガラス繊維強化されている。基材中のガラス繊維成分の選定により、当該基材の熱膨張係数を変化および整合することができる。ポリマー基材の熱膨張係数と断熱フィルムの熱膨張係数とが整合されることにより、異なる材料間にて温度に起因して生じる応力を回避し、かつ、断熱フィルムの剥離も回避することができる。当該基材のガラス繊維の割合は、好適には20%から50%までであり、特に好適には30%から40%までである。ポリマー基材中の上述のガラス繊維割合により、強度と安定性とを同時に改善することができる。
【0040】
本発明はさらに、少なくとも第1ガラス板と、第2ガラス板と、第3ガラス板と、当該ガラス板を包囲する周縁状の本発明のスペーサとを備えた断熱ガラスにも関する。かかる断熱ガラスでは、第1ガラス板はスペーサの第1のガラス板接触面に接触しており、第2ガラス板は第2のガラス板接触面に接触している。第3ガラス板はスペーサの溝に挿入されている。
【0041】
断熱ガラスの角において、スペーサは好適には、コーナー部材を介して互いに連結されている。このコーナー部材はたとえば、シーリング材を備えたプラスチック成形部品として形成することができ、このプラスチック成形部品内において、留め継ぎ面が設けられた2つのスペーサが互いに突き合わされている。基本的には、断熱ガラスは種々の幾何学的態様とすることが可能であり、たとえば方形、台形、丸まった形状とすることができる。丸い幾何学的態様を作製するためには、本発明のスペーサをたとえば加熱した状態で撓曲することができる。
【0042】
断熱ガラスの各ガラス板は、シーリング材を介してスペーサに結合されている。こうするために、第1ガラス板と第1のガラス板接触面との間、および/または、第2ガラス板と第2のガラス板接触面との間に、シーリング材が被着されている。このシーリング材は好適には、ポリマーまたはシラン修飾ポリマーを含み、特に好適には、有機ポリスルフィド、シリコーン、常温架橋性シリコーンゴム、高温架橋性シリコーンゴム、過酸化物架橋性シリコーンゴム、および/または、付加架橋シリコーンゴム、ポリウレタン、ブチルゴムおよび/またはポリアクリレートを含む。
【0043】
本発明のスペーサの外側面とガラス板の外側端面との間の縁部領域に、外部断熱部が囲うように充填されている。この外部断熱部としては、たとえばプラスチック封止材が用いられる。好適には外部断熱部は、ポリマーまたはシラン修飾ポリマーを含み、特に好適には、有機ポリスルフィド、シリコーン、常温架橋性(RTV)シリコーンゴム、高温架橋性(HTV)シリコーンゴム、過酸化物架橋性シリコーンゴムおよび/または付加架橋シリコーンゴム、ポリウレタン、ブチルゴムおよび/またはポリアクリレートを含む。
【0044】
前記断熱ガラスの第1ガラス板、第2ガラス板および/または第3ガラス板は、好適にはガラスおよび/またはポリマーを含み、特に好適には石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、石灰ソーダガラス、ポリメチルメタクリレートおよび/またはその混合物を含む。
【0045】
第1ガラスおよび第2ガラス板の厚さは2mmから50mmまでであり、好適には3mmから16mmまでである。両ガラス板の幅は異なることもできる。第3ガラス板の厚さは1mmから4mmまでであり、好適には1mmから3mmまでであり、特に好適には1.5mmから3mmまでである。本発明のスペーサにより、応力無しの固定が実現されることによって、ガラスの安定性を保ちながら、第3ガラス板の厚さを薄くできるという利点が奏される。有利には第3ガラス板の厚さは、第1ガラス板および第2ガラス板の厚さより薄い。1つの可能な実施形態では、第1ガラス板の厚さは3mmであり、第2ガラス板の厚さは4mmであり、第3ガラス板の厚さは2mmである。上述のように各ガラス板厚さを非対称的に組み合わせることにより、遮音性を格段に向上させることができる。
【0046】
前記断熱ガラスには、断熱ガラス内スペースにおける伝熱値を低減させる保護ガスが充填されている。この保護ガスは好適には希ガスであり、有利にはアルゴンまたはクリプトンである。
【0047】
前記断熱ガラスの第3ガラス板は、好適には Low-E 層である。
【0048】
好適には、前記断熱ガラスの第3ガラス板には予め応力が加えられていない。
【0049】
他の1つの実施形態では、前記断熱ガラスは3つより多くのガラス板を含む。当該実施形態ではスペーサは、更なるガラス板を受容できる複数の溝を含むことができる。これに代えて択一的に、複数のガラス板を貼り合わせガラス板として形成することも可能である。
【0050】
本発明はさらに、本発明の断熱ガラスの製造方法にも関し、当該製造方法は、
a)第3ガラス板をスペーサの溝に挿入するステップ
b)前記スペーサの第1のガラス板接触面上に第1ガラス板を被着するステップ
c)前記スペーサの第2のガラス板接触面上に第2ガラス板を被着するステップ
d)前記ガラス板の配列体をプレスするステップと
を含む。
【0051】
第3ガラス板をスペーサの溝に挿入した後、この事前組立された部品を、当業者に公知である従来の2重ガラス用設備にて加工することができる。このことにより、設備構成要素を追加して設置するという高コストの作業、または、1つの設備に複数回通すことによる時間の損失を回避することができる。このことは、生産性の向上およびコスト削減の点で特に有利である。従来技術では、3重ガラスを組み立てるために複数のスペーサを要し、または、1つのスペーサの複数の個別パーツを要していた。これらのパーツの正確な位置合わせは長時間を要し、また、伝統的な2重ガラス用設備では行うことができない。また、第3ガラス板表面にて Low-E 層または他の機能層を用いる場合であっても、本発明の方法では第3ガラス板に予め応力をかける必要はない。というのも、本発明のスペーサはこのガラス板を周縁において応力無しで固定できるからである。よって、本発明のスペーサにより、3重ガラスの製造を格段に簡素化することができる。
【0052】
本方法の1つの有利な実施形態では、まず最初にスペーサを、一辺が開放している方形に予め成形する。その際にはたとえば、3つのスペーサに留め継ぎ面を設け、これら3つのスペーサの角をコーナー部材によって連結することができる。これに代えて、スペーサを互いに直接溶接することもでき、たとえば超音波溶接によって接合することも可能である。このようにU字形に配置された複数のスペーサの内側に、その配列体の前記開放している一辺から第3ガラス板を、当該スペーサの溝に嵌め込む。次に、この第3ガラス板の他の露出している端面も、スペーサによって塞ぐ。オプションとして、前記スペーサの組立前に、ガラス板端面に詰め物を被着することも可能である。その後、次のステップにおいて第1ガラス板を第1のガラス板接触面に被着することにより、上述の事前組立された部品の加工を本発明の方法により行う。
【0053】
好適には、ガラス板の配列体のプレス前に、第1ガラス板と第3ガラス板との間のガラス板間スペース、および、第2ガラス板と第3ガラス板との間のガラス板間スペースに、保護ガスを充填する。
【0054】
本発明はさらに、複層ガラスにおける本発明のスペーサの使用にも関し、当該複層ガラスは有利には断熱ガラスであり、特に有利には3層断熱ガラスである。
【0055】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。本図面は概略図に過ぎず、実寸の比率通りではない。また、本発明を何ら限定するものでもない。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【
図1】本発明のスペーサの1つの可能な実施形態を示す図である。
【
図3】本発明の方法の1つの可能な実施形態のフローチャートである。
【0057】
図1は、本発明のスペーサ(I)の断面図である。ガラス繊維補強されたポリマー基材(1)は、第1のガラス板接触面(2.1)と、当該第1のガラス板接触面(2.1)に対して平行に延在する第2のガラス板接触面(2.2)と、第1のガラス内側スペース面(3.1)と、第2のガラス内側スペース面(3.2)と、外側面(4)とを含む。外側面(4)と第1のガラス内側スペース面(3.1)との間に第1の中空室(5.1)が設けられており、第2の中空室(5.2)は、当該外側面と第2のガラス内側スペース面(3.2)との間に配置されている。両中空室(5.1,5.2)間に溝(6)が設けられており、この溝(6)は、前記ガラス板接触面(2.1,2.2)に対して平行に延在する。この溝(6)の側縁面(7)は両中空室(5.1,5.2)の壁によって形成されており、溝(6)の底面は外側面(4)に直接隣接している。これにより、溝(6)の深さを最大限の深さとすることができる。溝(6)の側縁面(7)は内側に向かって、当該溝(6)に受容されるガラス板の方向に傾斜している。この傾斜により、ガラス内側スペース面(3.1,3.2)の高さにおいて溝(6)が細くなり、これによってガラス板を溝(6)内に固定しやすくなる。ポリマー基材の肉厚dは1mmであり、これに対して、側縁面の領域における低減された肉厚d’は0.8mmである。外側面(4)の大部分は、ガラス板接触面(2.1,2.2)に対して垂直に延在し、かつ、ガラス内側スペース面(3.1,3.2)に対して平行に延在する。しかし、外側面(4)の、ガラス板接触面(2.1,2.2)から最近傍にある部分は、当該外側面(4)に対して当該ガラス板接触面(2.1,2.2)の方向に好適には30°乃至60°の角度で傾斜している。このように角を成す幾何学的態様により、ポリマー基材(1)の安定性を改善することができ、本発明のスペーサ(I)と断熱フィルムとの接着を改善することができる。ポリマー基材(1)は、約35重量%のガラス繊維を含むスチレン‐アクリロニトリル(SAN)を含有する。ガラス内側スペース面(3.1,3.2)は、規則的な間隔をおいて複数の開口部(8)を有し、これらの開口部(8)は、中空室(5.1,5.2)と、ガラス内側スペース面(3.1,3.2)の上方にある空気スペースとを連通する。スペーサ(I)の高さは6.5mmであり、スペーサ(I)の全幅は34mmである。溝(6)の深さは3mmであり、それに対して第1のガラス内側スペース面(3.1)の幅は16mmであり、第2のガラス内側スペース面(3.2)の幅は16mmである。スペーサ(I)の全幅は、ガラス内側スペース面(3.1,3.2)の幅と、溝(6)に挿入される、詰め物(9)を含めた第3ガラス板(15)の厚さとの和として求められる。
【0058】
図2は、
図1のスペーサ(I)を備えた本発明の断熱ガラスの断面図である。この3重断熱ガラスの第1ガラス板(13)はシーリング材(10)を介して、スペーサ(I)の第1のガラス板接触面(2.1)に結合されており、第2ガラス板(14)はシーリング材(10)を介して第2のガラス板接触面(2.2)に結合されている。シーリング材(10)はブチルゴムから成る。スペーサの溝(6)には、第3ガラス板(15)が詰め物(9)を挟んで挿入されている。詰め物(9)は第3ガラス板(15)の端面を包囲し、溝(6)内に面一となるように嵌合される。詰め物(9)はエチレン‐プロピレン‐ジエンゴムから成る。詰め物(9)は第3ガラス板(15)を応力無しで固定し、ガラス板の熱膨張を補償するものである。詰め物(9)はさらに、第3ガラス板(15)の位置ずれによる騒音発生を防止するものである。第1ガラス板(13)と第3ガラス板(15)との間のスペースは第1のガラス板間スペース(17.1)として定義され、第3ガラス板(15)と第2ガラス板(14)との間のスペースは第2のガラス板間スペース(17.2)として定義される。スペーサ(I)の第1のガラス内側スペース面(3.1)は第1のガラス板間スペース(17.1)内に位置し、第2のガラス内側スペース面(3.2)は第2のガラス板間スペース(17.2)内に配置されている。ガラス内側スペース面(3.1,3.2)の開口部(8)を介して、各ガラス板間スペース(17.1,17.2)はそれぞれ、その下方にある中空室(5.1,5.2)に連通されている。これらの中空室内には、モレキュラーシーブから成る乾燥材(11)が設けられている。開口部(8)を介して、中空室(5.1,5.2)とガラス板間スペース(17.1,17.2)との間においてガス交換が行われ、乾燥材(11)が当該ガラス板間スペース(17.1,17.2)内から湿分を除去する。スペーサ(I)の外側面(4)上には、ポリマー基材(1)を介してガラス板間スペース(17)内への伝熱を減少させる断熱フィルム(12)が設けられている。この断熱フィルム(12)はたとえば、ポリウレタンホットメルト接着剤を用いてポリマー基材(1)表面に固定することができる。断熱フィルム(12)は、厚さ12μmのポリエチレンテレフタレート製の4つのポリマー層と、厚さ50nmのアルミニウム製の3つの金属層とを含む。これらの各金属層および各ポリマー層は交互に設けられており、その両外側層はポリマー層により成される。第1ガラス板(13)および第2ガラス板(14)は、周縁部領域を成すようにスペーサ(I)から突出しており、この周縁部領域に外部断熱部(16)が充填されている。この外部断熱部(16)は有機ポリスルフィドから形成される。第1ガラス板(13)および第2ガラス板(14)は、厚さ3mmの石灰ソーダガラスから成り、第3ガラス板(15)は厚さ2mmの石灰ソーダガラスから形成される。
【0059】
図3は、本発明の方法の1つの可能な実施形態のフローチャートである。まず最初に、第3ガラス板(15)を準備して洗浄する。その後にオプションとして、第3ガラス板(15)の端面に詰め物(9)を被着する。第3ガラス板(15)を、本発明のスペーサ(I)の溝(6)内に嵌め込む。その際にはたとえば、3つのスペーサ(I)を、一辺において開放している方形に事前成形し、この開放している辺から第3ガラス板(15)を溝(6)に嵌め込むことができる。次に、ガラス板の4つ目の端面をスペーサ(I)によって閉じる。スペーサの角はコーナー部材を介して互いに連結されるか、または溶接される。上述の最初の3つのステップは、本発明のスペーサ(I)を備えた第3ガラス板(15)を準備するためのものである。よって、このように事前組立された部品は、従来の2重ガラス用設備において更に処理することができる。この2重ガラス用設備において、それぞれシーリング材(10)を挟んで第1ガラス(13)および第2ガラス(14)をガラス板接触面(2.1,2.2)に取り付ける。オプションとして、ガラス板間スペース(17.1,17.2)内に保護ガスを導入することができる。最後のステップにおいて、断熱ガラスをプレスする。
【符号の説明】
【0060】
I スペーサ
1 ポリマー基材
2 ガラス板接触面
2.1 第1のガラス板接触面
2.2 第2のガラス板接触面
3 ガラス内側スペース面
3.1 第1のガラス内側スペース面
3.2 第2のガラス内側スペース面
4 外側面
5 中空室
5.1 第1の中空室
5.2 第2の中空室
6 溝
7 側縁面
8 開口部
9 詰め物
10 シーリング材
11 乾燥材
12 断熱フィルム
13 第1ガラス板
14 第2ガラス板
15 第3ガラス板
16 外部断熱部
17 ガラス板間スペース
17.1 第1のガラス板間スペース
17.2 第2のガラス板間スペース