特許第6234564号(P6234564)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6234564
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】抗幻覚剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/284 20060101AFI20171113BHJP
   A61K 31/035 20060101ALI20171113BHJP
   A61K 31/045 20060101ALI20171113BHJP
   A61K 31/343 20060101ALI20171113BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20171113BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   A61K36/284
   A61K31/035
   A61K31/045
   A61K31/343
   G01N33/15 Z
   G01N33/50 Z
【請求項の数】7
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-523364(P2016-523364)
(86)(22)【出願日】2015年3月26日
(86)【国際出願番号】JP2015059471
(87)【国際公開番号】WO2015182232
(87)【国際公開日】20151203
【審査請求日】2016年10月13日
(31)【優先権主張番号】特願2014-111175(P2014-111175)
(32)【優先日】2014年5月29日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-190603(P2014-190603)
(32)【優先日】2014年9月19日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名:日本薬学会 第134年会 開催日:平成26年3月27日〜30日 開催場所:熊本(ホテル日航熊本、熊本大学黒髪キャンパス、熊本市総合体育館)
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306018343
【氏名又は名称】クラシエ製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100150142
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 礼路
(72)【発明者】
【氏名】範本 文哲
(72)【発明者】
【氏名】村山 千明
(72)【発明者】
【氏名】道原 成和
【審査官】 鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−234177(JP,A)
【文献】 Molecules,2014年 9月18日,Vol.19,No.9,pp.14979-86
【文献】 Arch Pharmacal Res,1989年,Vol.12,No.4,Page.236-238
【文献】 Geriat Med,2011年,Vol.49,No.7,Page.781-785
【文献】 J. Clin. Psychiatry,2005年,Vol.66,No.2,pp.248-252
【文献】 Psychogeriatrics,2012年,Vol.12,No.4,pp.235-241
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00−36/9068
A61K 31/00−31/80
G01N 33/15
G01N 33/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白朮および蒼朮のいずれかまたは両方由来の生薬を有効成分として含む、認知症以外の原因による幻覚症状を抑制、治療または予防するための抗幻覚剤。
【請求項2】
下記式(Ia)で表される化合物、その立体異性体またはこれらの塩を有効成分として含む、認知症以外の原因による幻覚症状を抑制、治療または予防するための抗幻覚剤:
【化1】
(Ia)
式中、
実線および破線からなる二重線は、単結合または二重結合を表し、
R1は、水素原子またはヒドロキシル基を表し、ただしR1が結合する炭素原子が隣接するいずれかの炭素原子と二重結合によって結合するときには存在せず、
R2は、水素原子またはR3とともに結合して置換基を有してもよい環状基を表し、
R3は、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基またはR2とともに結合して置換基を有してもよい環状基を表す。
【請求項3】
前記化合物が、下記式(Ib)で表される、請求項2に記載の抗幻覚剤:
【化2】
(Ib)
式中、
実線および破線からなる二重線は、単結合または二重結合を表し、
R1は、水素原子またはヒドロキシル基を表し、ただしR1が結合する炭素原子が隣接するいずれかの炭素原子と二重結合によって結合するときには存在せず、
R4は、水素原子またはオキソ基を表し、
R5は、水素原子または置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基を表す。
【請求項4】
前記化合物が、下記式(II)、(III)、(IV)または(V)で表される、請求項3に記載の抗幻覚剤:
【化3】
(II)
【化4】
v
(III)
【化5】
(IV)
【化6】
(V)。
【請求項5】
R3がヒドロキシル基を有する炭素数1〜6のアルキル基を表す、請求項2に記載の抗幻覚剤。
【請求項6】
R3が2-ヒドロキシイソプロピル基である、請求項5に記載の抗幻覚剤。
【請求項7】
下記式(Ia)で表される化合物を試験化合物として提供する工程と、
【化7】
(Ia)
式中、実線および破線からなる二重線は、単結合または二重結合を表し、R1は水素原子またはヒドロキシル基を表し、ただしR1が結合する炭素原子が隣接するいずれかの炭素原子と二重結合によって結合するときには存在せず、R2は水素原子またはR3とともに結合して置換基を有してもよい環状基を表し、R3は水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基またはR2とともに結合して置換基を有してもよい環状基を表し、
幻覚剤によって誘発された幻覚症状に対する、前記試験化合物の抗幻覚活性の有無を決定する工程と、
を含む、認知症以外の原因による幻覚症状に対する抗幻覚作用を有する化合物をスクリーニングする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幻覚症状を抑制し、治療し、または予防するための抗幻覚剤に関する。
【背景技術】
【0002】
「幻覚(hallucination)」は、医学用語、特に精神医学用語の一つであり、対象のない知覚、すなわち実際には外界からの入力がない感覚を体験してしまう症状をさす。幻覚には、たとえば聴覚性の幻覚である幻聴および視覚性の幻覚である幻視などがある。
【0003】
幻覚が起こる原因には、幻覚剤、覚醒剤および大麻などの薬物の乱用、統合失調症などの精神病、心的外傷後ストレス障害(PTSD)並びに認知症の周辺症状などがある。
【0004】
幻覚が起こるメカニズムは、はっきりとは分かっていないが、ドーパミンおよびセロトニンなどの神経伝達物質が関わっていると考えられている。たとえばセロトニン受容体に対してアゴニスト作用を持つ幻覚薬として、メスカリンなどのフェニルアルキルアミン系薬、並びにシロシビンおよびLSDなどのインドールアミン系薬などが知られている。幻覚誘発作用は、複数のセロトニン受容体の中でも5-HT2A受容体に依存すると考えられている
【0005】
セロトニン受容体5-HT2Aアゴニストである (+/-) 2,5-ジメトキシ-4-ヨードアンフェタミン(DOI)もまた、幻覚剤として知られる。このDOIをマウスおよびラットに投与すると特異的な首振り運動(head-twitching response: HTR)を引き起こすことが報告されている(非特許文献1)。また、薬物により誘発された動物の首振り運動は、ヒトの幻覚症状との間に相関性が認められ、臨床において有効な幻覚治療剤が動物における首振り運動を減少させることが分かっている(非特許文献2)。
【0006】
幻覚を含む精神神経症状の治療剤または予防剤として、特許文献1には、5-HT2受容体拮抗作用および5-HT1A受容体作動作用を有するピペラジン誘導体が記載されている。また、特許文献2には、セロトニン2受容体およびドーパミンD2受容体の両者を遮断し得る化合物を必須成分として含有する、脳血管障害に伴う精神症候治療剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-204040号公報
【特許文献2】特開2001-316264号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Darmani NA1, Martin BR, Pandey U, Glennon RA. Pharmacol. Biochem. Behav. 36, 901‐906, 1990.
【非特許文献2】Corne SJ, Pickering RW. Psychopharmacologia. 11, 65‐78, 1967.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように様々な原因で生じる幻覚症状を、より効果的かつ安全に抑制することができる薬剤が求められている。そこで本発明の目的は、幻覚症状を抑制し、治療し、または予防することが可能な新規の抗幻覚剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、朮(ジュツ)類である白朮(ビャクジュツ)および蒼朮(ソウジュツ)から抽出したエキスをマウスに一定期間投与した後に、幻覚剤DOIによりマウスに幻覚を誘発したところ、幻覚の指標であるマウスの首振り運動が抑制されることを見出した。また、本発明者らは、白朮および蒼朮に含まれる化合物であるアトラクチロン、アトラクチレノリドII、アトラクチレノリドIIIおよびβ-オイデスモールをマウスに一定期間投与したところ、これらの化合物にマウスの首振り運動を抑制する活性があることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいて本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、朮類由来の生薬を有効成分として含む、抗幻覚剤を提供する。
【0012】
また本発明は、下記式(Ia)で表される化合物、その立体異性体またはこれらの塩を有効成分として含む、抗幻覚剤を提供する:
【化1】
(Ia)
式中、実線および破線からなる二重線は、単結合または二重結合を表し、R1は、水素原子またはヒドロキシル基を表し、ただしR1が結合する炭素原子が隣接するいずれかの炭素原子と二重結合によって結合するときには存在せず、R2は水素原子またはR3とともに結合して置換基を有してもよい環状基を表し、R3は水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基またはR2とともに結合して置換基を有してもよい環状基を表す。
【0013】
また本発明は、上記化合物が、下記式(Ib)で表される抗幻覚剤を提供する。
【化2】
(Ib)
式中、実線および破線からなる二重線は、単結合または二重結合を表し、R1は、水素原子またはヒドロキシル基を表し、ただしR1が結合する炭素原子が隣接するいずれかの炭素原子と二重結合によって結合するときには存在せず、R4は、水素原子またはオキソ基を表し、R5は、水素原子または置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基を表す。
【0014】
また本発明は、上記化合物が、下記式(II)、(III)、(IV)または(V)で表される抗幻覚剤を提供する。
【化3】
(II)
【化4】
(III)
【化5】
(IV)
【化6】
(V)。
【0015】
また本発明は、R3がヒドロキシル基を有する炭素数1〜6のアルキル基を表す上記抗幻覚剤を提供する。
【0016】
また本発明は、R3が2-ヒドロキシイソプロピル基である上記抗幻覚剤を提供する。
【0017】
また本発明は、下記式(Ia)で表される化合物またはその誘導体を試験化合物として提供する工程と、
【化7】
(Ia)
式中、実線および破線からなる二重線は、単結合または二重結合を表し、R1は水素原子またはヒドロキシル基を表し、ただしR1が結合する炭素原子が隣接するいずれかの炭素原子と二重結合によって結合するときには存在せず、R2は水素原子またはR3とともに結合して置換基を有してもよい環状基を表し、R3は水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基またはR2とともに結合して置換基を有してもよい環状基を表し、
試験化合物の抗幻覚活性の有無を決定する工程とを含む、抗幻覚作用を有する化合物をスクリーニングする方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る抗幻覚剤は、抗幻覚作用を有する朮類由来の生薬または化合物を有効成分として含むため、幻覚症状を抑制し、治療し、または予防するための薬剤に用いることができる。たとえば、本発明に係る抗幻覚剤は、幻覚剤、覚醒剤および大麻などの薬物の乱用、統合失調症などの精神病、心的外傷後ストレス障害(PTSD)並びに認知症による幻覚症状の抑制、治療または予防のための薬剤に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】幻覚剤によって誘発されたマウスの首振り運動に対する白朮エキスおよび蒼朮エキスの効果を示すグラフ。
図2】幻覚剤によって誘発されたマウスの首振り運動に対するアトラクチレノリドIIIおよびβ-オイデスモールの効果を示すグラフ。
図3】幻覚剤によって誘発されたマウスの首振り運動に対するアトラクチロンの効果を示すグラフ。
図4】幻覚剤によって誘発されたマウスの首振り運動に対するアトラクチレノリドIIの効果を示すグラフ。
図5】幻覚剤によって誘発されたマウスの首振り運動に対するアトラクチレノリドIの効果を示すグラフ。
図6】幻覚剤によって誘発されたマウスの首振り運動に対する各化合物の単回投与による効果を示すグラフ。
図7】幻覚剤によって誘発されたマウスの首振り運動に対するアトラクチレノリドIIIの単回投与による効果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(抗幻覚剤)
本発明の抗幻覚剤は、幻覚症状を抑制し、治療し、または予防するための薬剤である。
【0021】
本明細書において「幻覚」とは、対象のない知覚、すなわち実際には外界からの入力がない感覚を体験してしまう症状をいう。幻覚は、聴覚性の幻聴、視覚性の幻視、嗅覚性の幻覚、味覚性の幻覚および触覚性の幻覚などを含む。
【0022】
本発明の抗幻覚剤は、少なくともセロトニン神経系の異常により起こる幻覚症状に対して有効であり、たとえばセロトニン受容体アゴニストなどの幻覚剤により起こる幻覚症状に対して有効である。また、本発明の抗幻覚剤は、たとえば幻覚剤、覚醒剤および大麻などの薬物の乱用、統合失調症などの精神病、心的外傷後ストレス障害(PTSD)並びに認知症による幻覚症状の抑制、治療または予防のために用いることができる。
【0023】
本発明の抗幻覚剤は、朮(ジュツ)類由来の生薬を有効成分として含む。朮類は、キク科オケラ属の植物をいい、たとえばオオバナオケラおよびホソバオケラを含む。朮類由来の生薬には、たとえば白朮および蒼朮などが含まれる。たとえば、本発明の抗幻覚剤は、白朮および蒼朮のいずれかまたは両方を含むことができる。
【0024】
白朮(ビャクジュツ)の原料は、一般的に、オケラ(Atractylodes japonica Koidzumi ex Kitamura)の根茎(ワビャクジュツ)、オオバナオケラ(Atractylodes macrocephala Koidzumi)の根茎(カラビャクジュツ)またはその他の同属植物の根茎である。
【0025】
蒼朮(ソウジュツ)の原料は、一般的に、ホソバオケラ(Atractylodes lancea De Candolle,Atractylodes chinensis Koidzumi)もしくはそれらの雑種またはその他の同属植物(Compositae)の根茎である。
【0026】
なお、本発明で使用する各生薬の原料となる各々の植物体は、上述した部位を使用することが好ましいが、これに限定されない。各生薬の原料には、上述した植物体の、花、花穂、果皮、果実、茎、葉、枝、枝葉、幹、樹皮、根茎、根皮、根、種子および全草等から選択される1種または2種以上の部位を用いることができる。
【0027】
本発明で使用する生薬は、原料となる植物体そのものであってもよいし、原料からの抽出物であってもよい。本発明における「抽出物」には、原料に溶媒を加えて抽出することにより得られる抽出物、原料に圧搾処理を施した後に得られる圧搾液、および原料を圧搾後の残渣に溶媒を加えて抽出することに得られる抽出物、並びにこれらの抽出物または圧搾液を乾固させた乾固物などが含まれる。
【0028】
本発明に用いる生薬は、公知の方法で製造することができる。本発明に用いる生薬は、たとえば、水、メタノールおよびエタノール等のアルコール類またはこれらの混合溶媒などの抽出溶媒を用いて、常温抽出または加熱抽出することにより製造することができる。必要により、減圧または加圧下で抽出してもよい。得られた抽出エキスは、そのまま使用してもよいし、濃縮または凍結乾燥によって乾固させてから使用してもよい。
【0029】
また、本発明は、下記式(Ia)で表される化合物、その立体異性体またはこれらの塩を有効成分として含む抗幻覚剤をも提供する。
【化8】
(Ia)
【0030】
上記式(Ia)中、実線および破線からなる二重線は、単結合または二重結合を表す。言い換えれば、R1およびR2が結合する炭素原子は、隣接する炭素原子と単結合によって結合してもよいし、隣接するいずれかの炭素原子と二重結合によって結合してもよい。
【0031】
R1は水素原子またはヒドロキシル基を表す。ただし、R1が結合する炭素原子が隣接するいずれかの炭素原子と二重結合によって結合するときには、R1は存在しない。
【0032】
R2は、水素原子またはR3とともに結合して置換基を有してもよい環状基を表す。
【0033】
R3は、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基またはR2とともに結合して置換基を有してもよい環状基を表す。
【0034】
本明細書において、置換基には、たとえば置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルコキシ基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、オキソ基、カルボキシル基、アミノ基、ニトロ基およびシアノ基などが含まれる。炭素数1〜4のアルキル基には、たとえばメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基およびt-ブチル基などが含まれる。炭素数1〜4のアルコキシ基には、たとえばメトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基およびt-ブトキシ基などが含まれる。ハロゲン原子には、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素が含まれる。置換基としてのアルキル基およびアルコキシ基が有してもよい置換基には、たとえばハロゲン原子、ヒドロキシル基、オキソ基、カルボキシル基、アミノ基、ニトロ基およびシアノ基などが含まれる。
【0035】
本明細書において、R3が表してもよい炭素数1〜6のアルキル基には、たとえばメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、i-ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、1-メチルプロピル基、1-エチルプロピル基、1-メチルブチル基および2-メチルブチル基等の直鎖または分枝状アルキル基が含まれ、好ましくはメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、2-メチル-1-プロピル基およびt-ブチル基等である。
【0036】
R2およびR3がともに結合して置換基を有してもよい環状基を表す場合、環状基は、たとえば炭素環または複素環であることができる。また、環状基は、任意の大きさの環状基であることができ、たとえば3〜7員環、好ましくは5員環または6員環であることができる。環状基には、たとえばフラン環、チオフェン環、ピロール環、イミダゾール環、ピロリジン環、ベンゼン環、ピラン環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピペリジン環、ピペラジン環およびモルホリン環などが含まれる。
【0037】
たとえば、R2およびR3はともに結合して置換基を有してもよいフラン環を表してもよい。たとえば、本発明の抗幻覚剤は、上記式(Ia)で表される化合物として、下記式(Ib)で表される化合物を含んでもよい。
【化9】
(Ib)
【0038】
上記式(Ib)中、実線および破線からなる二重線は、単結合または二重結合を表す。R1は、上記式(Ia)のR1について上述した通りである。R4は、水素原子またはオキソ基を表す。R5は、水素原子または置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基を表す。R5が表してもよい炭素数1〜4のアルキル基には、たとえばメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基およびt-ブチル基などが含まれる。R5は、好ましくはメチル基である。
【0039】
たとえば、本発明の抗幻覚剤は、上記式(Ib)で表される化合物として、下記式(II)で表される化合物アトラクチレノリドIII(atractylenolide III)を含んでもよい。アトラクチレノリドIIIは、白朮および蒼朮などの生薬に含まれる成分の1つであり、白朮または蒼朮などの生薬として抗幻覚剤に含まれてもよい。
【0040】
【化10】
(II)
【0041】
また、本発明の抗幻覚剤は、上記式(Ib)で表される化合物として、たとえば下記式(III)〜(VI)で表される化合物、その立体異性体もしくは互変異性体、またはこれらの塩を含んでもよい。下記式(III)で表される化合物はアトラクチロン(atractylone)であり、下記式(IV)で表される化合物はアトラクチレノリドI(atractylenolide I)であり、下記式(V)で表される化合物はアトラクチレノリドII(atractylenolide II)であり、下記式(VI)で表される化合物は8-エピアステロリド(8-epiasterolide)である。これらの化合物もまた、白朮および蒼朮などの生薬に含まれる成分であり、白朮または蒼朮などの生薬として抗幻覚剤に含まれてもよい。
【0042】
【化11】
(III)
【0043】
【化12】
(IV)
【0044】
【化13】
(V)
【0045】
【化14】
(VI)
【0046】
また、本発明の抗幻覚剤は、上記式(Ia)で表される化合物として、下記式(I)で表される化合物を含んでもよい。
【化15】
・・・(I)
【0047】
上記式(I)中、R1は、水素原子またはヒドロキシル基を表し、R2は、水素原子またはR3とともに結合して置換基を有してもよい環状基を表し、R3は、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基またはR2とともに結合して置換基を有してもよい環状基を表す。
【0048】
上記式(Ia)または(I)において、R3はヒドロキシル基を有する炭素数1〜6のアルキル基を表してもよく、たとえば2-ヒドロキシイソプロピル基であってもよい。その場合、R1およびR2は水素原子を表してもよい。たとえば、本発明の抗幻覚剤は、上記式(Ia)または(I)で表される化合物として、下記式(VII)で表される化合物β-オイデスモール(eudesmol)を含んでもよい。β-オイデスモールは、白朮および蒼朮などの生薬に含まれる成分の1つであり、白朮または蒼朮などの生薬として抗幻覚剤に含まれてもよい。
【0049】
【化16】
(VII)
【0050】
本発明の抗幻覚剤は、上記式(Ia)で表される1種または2種以上の化合物、その立体異性体またはこれらの塩を含んでもよい。たとえば、本発明の抗幻覚剤は、アトラクチロン、アトラクチレノリドI、アトラクチレノリドII、アトラクチレノリドIII、8-エピアステロリドおよびβ-オイデスモールからなる群より選択される少なくとも1つの化合物、その立体異性体もしくは互変異性体またはこれらの塩を有効成分として含んでもよい。
【0051】
上述した化合物は、朮類の抽出物から単離および精製することによって得ることができる。あるいは、上述した化合物は、朮類の抽出物から単離および精製した化合物を出発化合物として、当業者に公知の種々の方法により官能基あるいは置換基の導入もしくは置き換え、酸化、還元、および原子の置き換えもしくは付加などの改変を行うことによって、得ることができる。
【0052】
たとえば、上述した化合物は、実施例に詳細に記述したように、白朮または蒼朮の抽出物をクロマトグラフィー等によって1回または2回以上分画処理することにより得ることができる。分画処理は、たとえば、ヘキサン、酢酸エチル、アセトン、メタノール、ヘキサン/酢酸エチルおよびヘキサン/アセトンなどを移動相として用いるシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって行うことができる。
【0053】
また、本発明の化合物は、たとえば、Bagal SK, Adlington RM, Baldwin JE, Marquez R., J Org Chem. 69, 9100‐9108, 2004およびBagal SK, Adlington RM, Baldwin JE, Marquez R, Cowley A., Org Lett. 5, 3049-3052, 2003に記載されるように、商業的に入手可能のテトラロン(tetralone)を出発原料として、オッペナウアー酸化(Oppenauer oxidation)およびウィッティヒ−オレフィン化反応(Wittig olefination)を経て合成することが可能である。テトラロンとしては、たとえば下記式(VIII)で表されるα-テトラロンおよび6-メトキシ-1-テトラロンなどが利用可能である。
【化17】
(VIII)
【0054】
テトラロンから本発明の化合物を合成する方法の一例は、たとえば、まず、テトラロンを還元してアルコール体に変換し、次いでバーチ(Birch)還元条件に供してベンゼン環の部分還元を行うことにより、エノールエーテル体を生成させる。次いでオッペナウアー酸化およびクプラート付加を行ってTMSエノールエーテル中間化合物を生成させ、続いてこの中間化合物のフッ化物媒介脱シリル化を行い、ケトン体に変換する。次いでウィッティヒ−オレフィン化反応を行うことにより、カルボニル基をメチレン基に変換することができる。当業者は、この方法に適宜変更を加えることにより、上記式(I)に含まれる種々の化合物を容易に合成することができる。
【0055】
本発明の抗幻覚剤は、さらに任意の成分を含むことができる。たとえば、本発明の抗幻覚剤は、上述した白朮および蒼朮以外の生薬をさらに含んでもよい。また、本発明の抗幻覚剤は、薬学的に許容される賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤および着色剤などをさらに含む形態にて提供することができる。
【0056】
抗幻覚剤に使用する賦形剤の例には、乳糖、ブドウ糖、白糖、マンニトール、デキストリン、馬鈴薯デンプン、トウモロコシデンプン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウムおよび結晶セルロースなどを含む。
【0057】
また、結合剤の例には、デンプン、ゼラチン、シロップ、トラガントゴム、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースなどを含む。
【0058】
また、崩壊剤の例には、デンプン、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびカルボキシメチルセルロースカルシウムなどを含む。
【0059】
また、滑沢剤の例には、ステアリン酸マグネシウム、水素添加植物油、タルクおよびマクロゴールなどを含む。また、着色剤は、医薬品に添加することが許容されている任意の着色剤を使用することができる。
【0060】
また、抗幻覚剤は、必要に応じて、白糖、ゼラチン、精製セラック、ゼラチン、グリセリン、ソルビトール、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、フタル酸セルロースアセテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルメタクリレートおよびメタアクリル酸重合体などで一層以上の層で被膜してもよい。
【0061】
また、必要に応じて、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤および可溶化剤などを添加してもよい。
【0062】
また、抗幻覚剤は、任意の形態の製剤として提供することができる。たとえば、抗幻覚剤は、経口投与製剤として、糖衣錠、バッカル錠、コーティング錠およびチュアブル錠等の錠剤、トローチ剤、丸剤、散剤およびソフトカプセルを含むカプセル剤、顆粒剤、懸濁剤、乳剤、ドライシロップを含むシロップ剤、並びにエリキシル剤等の液剤であることができる。
【0063】
また、抗幻覚剤は、非経口投与のために、静脈注射、皮下注射、腹腔内注射、筋肉内注射、経皮投与、経鼻投与、経肺投与、経腸投与、口腔内投与および経粘膜投与などの投与のための製剤であることができる。たとえば、注射剤、経皮吸収テープ、エアゾール剤および坐剤などであることができる。
【0064】
本発明の抗幻覚剤に使用される生薬または化合物は、任意の用量で提供することができ、たとえば漢方薬として一般的に摂取される用量として提供することができる。たとえば、生薬総量が1日あたり1mg〜500mg用量となるように提供することができる。
【0065】
本発明の抗幻覚剤は、複数回投与する形態において提供することができる。複数回投与とは、所定の投与間隔で2回以上投与することをいう。投与間隔および投与回数は、対象の幻覚作用を抑制、治療または予防するのに有効な任意の間隔および回数を選択することができる。たとえば、投与間隔は、数時間、1日、数日および1週間などであることができる。また、投与回数は、2回以上、好ましくは5回以上、より好ましくは10回以上であることができる。本発明の抗幻覚剤は、たとえば2日間以上、好ましくは5日間以上、より好ましくは10日間以上連続して毎日投与してもよい。後述する実施例で示すように、本発明の抗幻覚剤は、複数回投与することにより、より確実に幻覚症状を抑制、治療または予防することができる。
【0066】
本発明の抗幻覚剤は、幻覚症状を抑制、治療または予防するための医薬品、医薬部外品および飲食品などの形態であることができる。
【0067】
また、本発明は、朮類由来の生薬の有効量を対象に投与する工程を含む、幻覚症状を抑制、治療または予防する方法を提供する。また、本発明は、上記式(Ia)で表される化合物、その立体異性体またはこれらの塩の有効量を対象に投与する工程を含む、幻覚症状を抑制、治療または予防する方法を提供する。
【0068】
本明細書において「有効量」とは、投与対象の幻覚症状を抑制、治療または予防するために有効な量をいう。また、投与する「対象」は、ヒト、非ヒト哺乳動物および非哺乳動物を含む。
【0069】
また、抗幻覚剤の投与の様式は、経口投与および非経口投与、たとえば静脈注射、皮下注射、腹腔内注射、筋肉内注射、経皮投与、経鼻投与、経肺投与、経腸投与、口腔内投与および経粘膜投与などであることができる。本発明の抗幻覚剤は、経口投与製剤として、糖衣錠、バッカル錠、コーティング錠およびチュアブル錠等の錠剤、トローチ剤、丸剤、散剤およびソフトカプセルを含むカプセル剤、顆粒剤、懸濁剤、乳剤、ドライシロップを含むシロップ剤、並びにエリキシル剤等の液剤として投与することができる。また、本発明の抗幻覚剤は、非経口投与剤として、たとえば注射剤、経皮吸収テープ、エアゾール剤および坐剤などによって投与することができる。
【0070】
本発明の幻覚症状を抑制、治療または予防する方法において投与される抗幻覚剤に使用される生薬または化合物は、任意の用量で投与することができ、たとえば漢方薬として一般的に摂取される用量として、一回または複数回投与することができる。たとえば、本発明の方法に使用される抗幻覚剤は、生薬総量が1日あたり1mg〜500mg用量となるように投与することができる。
【0071】
(スクリーニング方法)
本発明は、抗幻覚作用を有する化合物をスクリーニングする方法をさらに提供する。本発明の方法は、上記式(Ia)で表される化合物またはその誘導体を試験化合物として提供する工程と、試験化合物の抗幻覚活性の有無を決定する工程とを含む。
【0072】
本明細書において、ある化合物の「誘導体」とは、母体となる該化合物の構造や性質を大幅に変えない程度に官能基あるいは置換基の導入もしくは置き換え、酸化、還元、または原子の置き換えもしくは付加などの改変がなされた化合物である。
【0073】
上記式(Ia)で表される化合物は、上述した方法により得ることができる。上記式(Ia)で表される化合物の誘導体は、上記式(Ia)で表される化合物を出発化合物として、当業者に公知の種々の方法により官能基あるいは置換基の導入もしくは置き換え、酸化、還元、および原子の置き換えもしくは付加などの改変を行うことにより得ることができる。
【0074】
本発明の方法において、試験化合物は、上記式(Ia)で表される化合物またはその誘導体であればよく、特に限定されないが、たとえばアトラクチロン、アトラクチレノリドI、アトラクチレノリドII、アトラクチレノリドIII、8-エピアステロリドおよびβ-オイデスモール並びにこれらの誘導体からなる群より選択される化合物であってもよい。
【0075】
試験化合物の抗幻覚活性の有無を決定する方法は、任意の公知の方法を用いることができる。たとえば、幻覚剤を動物に投与して幻覚症状を発症させ、この動物の幻覚症状、たとえば首振り運動が、試験化合物の投与によって有意に抑制された場合に、抗幻覚活性があると判断することができる。たとえば、試験化合物の抗幻覚活性の有無を決定する工程は、試験化合物を動物に投与する工程と、動物に幻覚剤を投与する工程と、動物の首振り回数を計測する工程とを含んでもよい。
【0076】
幻覚剤は、任意の幻覚剤であることができ、たとえばLSD(lysegic acid diethylamine)、フェンシクリジン(PCP)、大麻、シンナー、シロシビン、メスカリン、3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン(MDMA)および(+/-)2,5-ジメトキシ-4-ヨードアンフェタミン(DOI)などを用いることができる。
【実施例】
【0077】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0078】
[実施例1]
〔白朮エキスの調製〕
生薬の白朮(Atractylodes japonica)600gを室温下で10倍量のn-ヘキサンに2日間浸漬し、濾過により2回抽出した。その後、n-ヘキサンの濾液を減圧濃縮し、約27.3gのエキス(白朮エキス)を得た(収率4.55%)。
【0079】
〔白朮エキスから各化合物の単離と精製〕
白朮エキス(20g)を各種のカラムクロマトグラフィーに用いて、化合物アトラクチロン、アトラクチレノリドI、アトラクチレノリドII、アトラクチレノリドIIIおよび8-エピアステロリドを得た。
【0080】
具体的には、まず白朮エキス20gをシリカゲル60(63〜200μm)カラム(i.d. 90×370 mm)にかけ、へキサン―酢酸エチル(100:0)(フランクションA)、へキサン―酢酸エチル(100:5)(フラクションB)、へキサン―酢酸エチル(100:10)(フラクションC)、へキサン―酢酸エチル(100:20)(フラクションD)、へキサン―酢酸エチル(100:50)(フラクションE)、へキサン―酢酸エチル(0:100)(フラクションF)およびメタノール(フラクションG)の順に溶出し、7つのフラクション(A〜G)を得た。
【0081】
次いで、フラクションBを、シリカカートリッジを取り付けたVersaPakカラムにかけてへキサン―酢酸エチル(100:0→0:100の割合の順)で繰り返し溶出した。溶出液を再結晶させ、白い針状の結晶として、化合物アトラクチロン(726.4mg)およびアトラクチレノリドI(20.1mg)を精製した。
【0082】
また、フラクションCを、シリカカートリッジを取り付けたVersaPakカラムにかけてへキサン―酢酸エチル(100:0→0:100の割合の順)で繰り返し溶出した。溶出液を再結晶させ、白い針状の結晶として、化合物アトラクチロン(200.2 mg)、アトラクチレノリドII(259.6 mg)および8-エピアステロリド(167.9 mg)を精製した。
【0083】
また、フラクションEを、シリカカートリッジを取り付けたVersaPakカラムにかけてへキサン―アセトン(100:0→0:100の割合の順)で繰り返し溶出した。溶出液を再結晶させ、白い針状の結晶として、化合物アトラクチレノリドIII(164.1mg)を精製した。
【0084】
[実施例2]
〔蒼朮エキスの調製〕
生薬の蒼朮50gに約4倍量の水を加え、マントルヒータにて加熱して沸騰してから30分還流し、抽出を行った。抽出液を凍結乾燥機にかけて約10.8gの乾燥粉末(蒼朮エキス)を得た。
【0085】
〔β-オイデスモールの調製〕
生薬の蒼朮は、低温(4℃)の冷蔵庫に放置すると、生薬の表面に白い絹糸状の結晶が生じる。この結晶は、主にβ-オイデスモールを含む精油の結晶である。β-オイデスモールは、ヘキサンのような極性の低い溶剤にて簡単に抽出することが可能である。
また、β-オイデスモールは、市販されており、後述する試験3では市販のβ-オイデスモール(Lot. WEG2032、和光純薬工業株式会社)を用いた。
【0086】
〔HPLCによる生薬中の主成分分析〕
HPLCを用いて、以下の条件により、白朮および蒼朮中の主成分を分析した。
1)HPLC分析条件
装置:Shimadu製作所社製LC-10ATvp(検出器:SPD-10A UV-VIS)、カラム:Purospher(登録商標)STAP RP-18e逆相カラム(5μm、4mm i.d.×252 mmm、メルク社、ドイツ)、カラム温度:40℃、流動相:A:アセトニトリル/B:0.05%TFA、流速:1 ml/min (45%アセトニトリル15分、53%アセトニトリル15分、68%アセトニトリル15分、83%アセトニトリル15分)検出波長:190-230 nm。
【0087】
2) 絶対検量線:
アトラクチレノリドIII:y = 3122.8x - 12454 R2 = 0.9999
アトラクチレノリドII:y = 4897.5x - 21305 R2 = 0.9999
β_オイデスモール:y = 625.7x + 206282 R2 = 0.9997。
【0088】
(分析結果)
分析の結果を以下の表に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
〔試験1:幻覚モデルマウスの作製〕
4週齢ICR系雄性マウス(17−19g)を日本SLC株式会社より購入し、1週間の馴化飼育期間の後実験に供した。動物は室温23±2℃、湿度55±10%において、8:00点灯、20:00消灯の12時間サイクルで飼育した。なお、実験期間中、実験動物には自由に摂水および摂餌させた。
【0091】
幻覚剤である(+/-)2,5-ジメトキシ-4-ヨードアンフェタミン(DOI:sigma Lot.012M4812V)を生理食塩水に溶解し、マウスに1 mg/kgを腹腔内注射した後に直ちに床敷のない飼育ケージに移した。その5分後に5分間のマウス首振り回数(幻覚症状の指標とする)を計測した(Egashira et al., Repeated administration of Yokukansan inhibits DOI-induced head-twitch response and decreases expression of 5-hydroxytryptamine (5-HT)2A receptors in the prefrontal cortex., Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry., 32, 1516-1520, 2008)。なお、外部の雑音などによるマウス行動への影響を避けるために、該計測は防音室内で行った。
【0092】
その結果、正常マウスと比較して、DOIを投与したマウスは首振り回数が増えることを確認した。したがって、この方法により、幻覚モデルマウスを作製できることが確認できた。
【0093】
〔試験2:白朮エキスおよび蒼朮エキスの抗幻覚作用〕
白朮エキスおよび蒼朮エキスの抗幻覚作用について検討した。本試験では、実施例1および2で調製した白朮エキスおよび蒼朮エキスを用いた。
【0094】
試験1と同様のICR系雄性マウスを無作為に正常群、対照群および試験群6群の計8群に分けた。正常群および対照群には0.5%CMC-Na溶液を、試験群の6群にはそれぞれ0.5%CMC-Na溶液にて調製した異なる用量の白朮エキス(20、100および500mg/kg)および蒼朮エキス(20、100および500mg/kg)を、1日1回14日間経口投与した。最後の経口投与を完了してから1時間後に、対照群および試験群のマウスに1mg/kgのDOIを腹腔内注射した。次いで、試験1と同様にマウスの首振り回数を測定した。測定結果は、多群間の比較のために、一元配置の分散分析を用い、Dunnett’s法によって検定した。なお、p<0.05の場合に統計的に有意差があると判断した。
【0095】
図1は、幻覚剤によって誘発されたマウスの首振り運動に対する白朮エキスおよび蒼朮エキスの効果を示すグラフである。白朮エキスを投与した試験群では、いずれの用量の場合も対照群と比較して有意に首振り回数が減少した。蒼朮を投与した試験群では、100および500mg/kgの用量の場合に対照群と比較して有意に首振り回数が減少した。この結果から、白朮エキスおよび蒼朮エキスには、幻覚剤によって誘発されたマウスの首振り運動を抑制する作用を有することが分かった。したがって、白朮エキスおよび蒼朮エキスが抗幻覚作用を有することが強く示唆された。
【0096】
〔試験3:アトラクチレノリドIIIおよびβ-オイデスモールの抗幻覚作用〕
特に明記する点以外は試験2と同様の方法を用いて、アトラクチレノリドIIIおよびβ-オイデスモールの抗幻覚作用について検討した。本試験では、実施例1で精製したアトラクチレノリドIIIおよび市販のβ-オイデスモール(Lot. WEG2032、和光純薬工業株式会社)をコーン油に溶解したものを使用した。投与用量は、それぞれの生薬に含まれる平均含量及び試験2で使用した用量に基づいて設定した。具体的には、アトラクチレノリドIIIの投与用量は0.03、0.15および0.7mg/kgに、β-オイデスモールの投与用量は0.4、2.0および10mg/kgに設定した。
【0097】
図2は、幻覚剤によって誘発されたマウスの首振り運動に対するアトラクチレノリドIIIおよびβ-オイデスモールの効果を示すグラフである。アトラクチレノリドIIIを投与した試験群では、0.15および0.7 mg/kgの用量の場合に対照群と比較して有意に首振り回数が減少した。β-オイデスモールを投与した試験群では、10mg/kgの用量の場合に対照群と比較して有意に首振り回数が減少した。この結果から、アトラクチレノリドIIIおよびβ-オイデスモールには、幻覚剤によって誘発されたマウスの首振り運動を抑制する作用を有することが分かった。したがって、アトラクチレノリドIIIおよびβ-オイデスモールが抗幻覚作用を有することが強く示唆された。
【0098】
〔試験4:アトラクチロンおよびアトラクチレノリドIIの抗幻覚作用〕
特に明記する点以外は試験2と同様の方法を用いて、アトラクチロンおよびアトラクチレノリドIIの抗幻覚作用について検討した。本試験では、実施例1で精製したアトラクチロンおよびアトラクチレノリドIIをコーン油に溶解したものを使用した。アトラクチロンの投与用量は0.36、1.8および9.0mg/kgに、アトラクチレノリドIIの投与用量は0.03、0.15および0.75mg/kgに設定した。
【0099】
図3は、幻覚剤によって誘発されたマウスの首振り運動に対するアトラクチロンの効果を示すグラフである。アトラクチロンを投与した試験群では、9.0mg/kgの用量の場合に対照群と比較して有意に首振り回数が減少した。また、図4は、幻覚剤によって誘発されたマウスの首振り運動に対するアトラクチレノリドIIの効果を示すグラフである。アトラクチレノリドIIを投与した試験群では、0.75mg/kgの用量の場合に対照群と比較して有意に首振り回数が減少した。この結果から、アトラクチロンおよびアトラクチレノリドIIには、幻覚剤によって誘発されたマウスの首振り運動を抑制する作用を有することが分かった。したがって、アトラクチロンおよびアトラクチレノリドIIが抗幻覚作用を有することが強く示唆された。
【0100】
〔試験5:アトラクチレノリドIの抗幻覚作用〕
特に明記する点以外は試験2と同様の方法を用いて、アトラクチレノリドIの抗幻覚作用について検討した。本試験では、実施例1で精製したアトラクチレノリドIをコーン油に溶解したものを使用した。アトラクチレノリドIの投与用量は0.03、0.15および0.75mg/kgに設定した。
【0101】
図5は、幻覚剤によって誘発されたマウスの首振り運動に対するアトラクチレノリドIの効果を示すグラフである。アトラクチレノリドIを投与した試験群では、0.15および0.75mg/kgの用量の場合に対照群と比較して有意に首振り回数が減少した。この結果から、アトラクチレノリドIには、幻覚剤によって誘発されたマウスの首振り運動を抑制する作用を有することが分かった。したがって、アトラクチレノリドIが抗幻覚作用を有することが強く示唆された。
【0102】
〔試験6:単回投与による効果〕
アトラクチロン、アトラクチレノリドI、アトラクチレノリドIIおよびアトラクチレノリドIIIの各化合物について、1回のみ経口投与(単回投与)した場合の抗幻覚作用を調べた。単回投与した点以外は試験例2と同様の方法を用いた。試験群に0.75mg/kgの用量の各化合物を1回経口投与し、その1時間後にDOIを腹腔内注射し、マウスの首振り回数を測定した。また、別の試験群に、0.03、0.15および0.75mg/kgの用量のアトラクチレノリドIIIを1回経口投与し、1時間後にDOIを腹腔内注射し、マウスの首振り回数を測定した。
【0103】
図6は、幻覚剤によって誘発されたマウスの首振り運動に対する各化合物の単回投与による効果を示すグラフである。図7は、幻覚剤によって誘発されたマウスの首振り運動に対するアトラクチレノリドIIIの単回投与による効果を示すグラフである。いずれの化合物を投与した試験群においても、対照群と比較して首振り回数の有意な変化は見られなかった。これらの化合物は、複数回投与した試験3〜5においては首振り運動を有意に抑制したことから、複数回投与した場合に高い効果を有することが示された。
【0104】
本明細書に記載の具体的な実施形態および実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするためのものであって、これらの具体例に限定して解釈されるべきではなく、本発明の精神および請求の範囲内で変更することができる。
【0105】
なお、本出願は、2014年5月29日付けで出願された日本出願(特願2014-111175)および2014年9月19日付けで出願された日本出願(特願2014-190603)に基づいており、それらの全体が引用により援用される。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明であれば、幻覚症状を抑制し、治療し、または予防するための薬剤に好適に利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7