特許第6234594号(P6234594)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6234594アモルファスリチウム含有化合物を作製するための蒸着方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6234594
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】アモルファスリチウム含有化合物を作製するための蒸着方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/08 20060101AFI20171113BHJP
   C23C 14/48 20060101ALI20171113BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20171113BHJP
【FI】
   C23C14/08 K
   C23C14/48 D
   H01M10/0562
【請求項の数】26
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-544673(P2016-544673)
(86)(22)【出願日】2015年1月7日
(65)【公表番号】特表2017-504726(P2017-504726A)
(43)【公表日】2017年2月9日
(86)【国際出願番号】GB2015050015
(87)【国際公開番号】WO2015104540
(87)【国際公開日】20150716
【審査請求日】2016年8月1日
(31)【優先権主張番号】1400274.5
(32)【優先日】2014年1月8日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】515189520
【氏名又は名称】イリカ テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ヘイデン,ブライアン エリオット
(72)【発明者】
【氏名】スミス,ダンカン クリフォード アラン
(72)【発明者】
【氏名】リー,クリストファー エドワード
(72)【発明者】
【氏名】アナスタソポウロス,アレキサンドロス
(72)【発明者】
【氏名】矢田 千尋
(72)【発明者】
【氏名】パーキンス,ローラ メアリー
(72)【発明者】
【氏名】ラフマン,デイビッド マイケル
【審査官】 塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−120437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
H01M 10/0562
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンを含有しないアモルファスリチウム含有酸化物又は酸窒化化合物を作製する蒸着方法であって、
前記化合物の各成分元素の蒸発源であって、少なくとも、リチウムの源と、酸素の源と、1つ又は複数のガラス形成元素の源又は源群と、を含む蒸発源を提供する工程と、
基板を180℃以上まで加熱する工程と、
前記蒸発源からの成分元素を前記加熱された基板上に共蒸着する工程であって、前記成分元素同士は前記基板上で反応して前記アモルファス化合物を形成する、工程と、を含む方法。
【請求項2】
前記基板を180℃〜350℃に加熱する工程を含む請求項1に記載の蒸着方法。
【請求項3】
前記蒸発源はさらに窒素の源を含み、前記アモルファス化合物は、リンを含有しないリチウム含有酸窒化化合物である、請求項1又は2に記載の蒸着方法。
【請求項4】
酸素の前記蒸発源は原子状酸素の蒸発源である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の蒸着方法。
【請求項5】
原子状酸素の前記蒸発源はオゾン源を含む、請求項4に記載の蒸着方法。
【請求項6】
原子状酸素の前記蒸発源はプラズマ源を含む、請求項4に記載の蒸着方法。
【請求項7】
前記アモルファス化合物は、リンを含有しないリチウム含有酸窒化化合物であ
前記蒸着方法は、前記加熱された基板上への共蒸着のための混合酸素−窒素プラズマを供給するために窒素を前記プラズマ源の送りへ導入する工程を含む、請求項6に記載の蒸着方法。
【請求項8】
1つ又は複数のガラス形成元素の前記源又は源群はホウ素の源とケイ素の源とを含み、前記アモルファス化合物はホウケイ酸リチウムである、請求項1、2、4、5及び6のいずれか1項に記載の蒸着方法。
【請求項9】
前記蒸発源はまた、窒素の源を含み、前記アモルファス化合物は窒素ドープホウケイ酸リチウムである、請求項8に記載の蒸着方法。
【請求項10】
前記基板を180℃〜275℃まで加熱する工程を含む、請求項8又は9に記載の蒸着方法。
【請求項11】
前記基板を225℃まで加熱する工程を含む、請求項10に記載の蒸着方法。
【請求項12】
リンを含有しない前記アモルファスリチウム含有酸化物又は酸窒化化合物は、ケイ酸リチウム、酸窒化物ケイ酸リチウム、ホウ酸リチウム、又は酸窒化物ホウ酸リチウムである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の蒸着方法。
【請求項13】
1つ又は複数のガラス形成元素の前記源又は源群はホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、アルミニウム、ヒ素及びアンチモンのうちの1つ又は複数のものの源を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の蒸着方法。
【請求項14】
前記成分元素を前記加熱された基板上へ共蒸着する工程は、前記成分元素を前記加熱された基板の表面上へ直接共蒸着する工程を含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の蒸着方法。
【請求項15】
前記加熱された基板上へ前記成分元素を共蒸着する工程は、前記基板上に支持された1つ又は複数の層上へ前記成分元素を共蒸着する工程を含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の蒸着方法。
【請求項16】
電池を作製する方法であって、請求項1〜15のいずれか1項に記載の蒸着方法を使用することにより、前記電池の電解質を、リンを含有しないアモルファスリチウム含有酸化物又は酸窒化化合物の層として蒸着する工程を含む方法。
【請求項17】
リンを含有しないアモルファスリチウム含有酸化物又は酸窒化化合物を作製する蒸着方法であって、
前記化合物の各成分元素の蒸発源であって、少なくとも、リチウムの源と、分子状酸素の源と、1つ又は複数のガラス形成元素の源又は源群と、を含む蒸発源を提供する工程と、
基板を100℃未満の温度で提供する工程と、
前記蒸発源から前記成分元素を前記基板上へ共蒸着する工程であって、前記成分元素同士は前記基板上で反応して前記アモルファス化合物を形成する、工程と、を含む方法。
【請求項18】
前記基板を18℃〜30℃に加熱する工程を含む、請求項17に記載の蒸着方法。
【請求項19】
前記基板を25℃まで加熱する工程を含む、請求項17に記載の蒸着方法。
【請求項20】
前記蒸発源はさらに窒素の源を含み、前記アモルファス化合物は、リンを含有しないリチウム含有酸窒化化合物である、請求項1719のいずれか1項に記載の蒸着方法。
【請求項21】
1つ又は複数のガラス形成元素の前記源又は源群はホウ素の源とケイ素の源とを含み、前記アモルファス化合物はホウケイ酸リチウムである、請求項1719のいずれか1項に記載の蒸着方法。
【請求項22】
前記蒸発源はまた、窒素の源を含み、前記アモルファス化合物は窒素ドープホウケイ酸リチウムである、請求項21に記載の蒸着方法。
【請求項23】
リンを含有しない前記アモルファスリチウム含有酸化物又は酸窒化化合物は、ケイ酸リチウム、酸窒化物ケイ酸リチウム、ホウ酸リチウム、又は酸窒化物ホウ酸リチウムである、請求項1721のいずれか1項に記載の蒸着方法。
【請求項24】
1つ又は複数のガラス形成元素の前記源又は源群はホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、アルミニウム、ヒ素及びアンチモンのうちの1つ又は複数のものの源を含む、請求項1722のいずれか1項に記載の蒸着方法。
【請求項25】
前記成分元素を前記基板上へ共蒸着する工程は、前記成分元素を前記基板の表面上へ直接共蒸着する工程を含む、請求項1724のいずれか1項に記載の蒸着方法。
【請求項26】
前記基板上へ前記成分元素を共蒸着する工程は、前記基板上に支持された1つ又は複数の層上へ前記成分元素を共蒸着する工程を含む、請求項1724のいずれか1項に記載の蒸着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アモルファスリチウム含有化合物特に酸化物及び酸窒化物を蒸着により作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
材料を薄膜形式で蒸着することは薄膜の多くの用途にとって大変興味深く、一連の異なる蒸着技術が知られている。上記技術のうちの様々なものは特定材料には多少好適であり、生成される薄膜の品質、組成及び特性は通常、その形成に使用されるプロセスに大きく依存する。結局、特定用途に適切な薄膜を生成し得る蒸着プロセスの開発に多くの研究が捧げられている。
【0003】
薄膜材料の重要な用途は、リチウムイオンセルなどの固体薄膜セルすなわち電池にある。このような電池は少なくとも3つの部品からなる。2つの活性電極(陽極及び陰極)が電解質により隔てられる。これらの部品のそれぞれは薄膜として形成され支持基板上に順番に蒸着される。集電体、界面改質剤及び封止材などの追加構成部品も設けられ得る。製造時、これらの部品は、例えば陰極集電体、陰極、電解質、陽極、陽極集電体そして封止材の順序で蒸着され得る。
【0004】
リチウムイオンの例では、陽極及び陰極はリチウムを可逆的に貯蔵することができる。陽極及び陰極物質の他の要件は、単位当たり貯蔵されるリチウムイオンの数ができるだけ多くあるべきである一方で、低い質量及び体積材料により実現され得る高い重量及び体積貯蔵容量である。材料はまた、イオン及び電子が充電及び放電過程中に電極中を移動し得るような許容電子及びイオン伝導性を呈示すべきである。
【0005】
そうでなければ、陽極、陰極及び電解質は異なる特性を必要とする。陰極は高電位において可逆的リチウム挿入性(reversible lithium intercalation)を呈示すべきであり、一方、陽極は低電位において可逆的リチウム挿入性を呈示すべきである。
【0006】
電解質は、陽極及び陰極を物理的に分離するので、電池の短絡を防止するために極めて低い伝導率を有しなければならない。しかしながら、合理的な充放電特性を可能にするために、材料のイオン伝導率はできるだけ高くなければならない。さらに、材料は、サイクル過程中安定していなければならず、陰極又は陽極のいずれかと反応してはならない。
【0007】
固体電池開発における重大な挑戦は、必要な電気化学的サイクル及び再現可能高歩留り製造方法に由来する十分に高いイオン伝導率、低い電子伝導率、低い機械的応力を有する固体電解質を見いだすことであった。
【0008】
結晶材料及び非晶質(アモルファス)材料の両方が電解質として考えられてきた。チタン酸リチウムランタン(LLTO)、チオ−LISICON、NASICONタイプ(Li1+x+yAl(Ti,Ge)2−xSi3−y12)及びLi10GeP12などの結晶材料は通常、優れたイオン伝導性(例えば、Li10GeP12の場合最大1.2×10−2Scm−1)を呈示するので、電解質には良い候補のように思える。しかしながら、これらの材料は電池システムに適用されると問題を生じる。酸化物(LLTO、チオ−LISICON及びNASICONタイプ)の場合、電解質内の遷移金属は還元しやすく、これにより材料に電子伝導性を発揮させ従って電池を短絡させる。Li10GeP12などの硫化物系は、非常に高い伝導性を呈示するが、空気や水に晒されると分解しやすく、有毒なHSの放出と性能の劣化とを生じる。さらに、酸化物結晶電解質及び硫化物結晶電解質の両方は極めて高い処理温度を必要とする。これらの理由のために、結晶電解質は商用薄膜電池システムに利用されていない。
【0009】
酸窒化リチウムリン(LiPON)、ケイ酸リチウム及びホウケイ酸リチウムなどのアモルファス電解質は非常に低レベルのイオン伝導率を呈示する。これらの材料の最適伝導率は結晶材料より約2桁低いが、これは電解質が1×10−6m厚未満であれば許容できると判断された(Julien, C. M.; Nazri, G. A., Chapter 1. Design and Optimisation of Solid State Batteries. In Solid State Batteries: Materials Design and Optimization, 1994)。LiPONは3×10−6Scm−1の許容イオン伝導率を有しており、空気中で及びリチウムに対する充放電サイクル時に安定していることが示された。これらの理由のために、その製造の容易さとあいまって、LiPONは固体電池の第一世代において広く採用された(Bates, J. B.; Gruzalski, G. R.; Dudney, N. J.; Luck, C. F.; Yu, X., Rechargeable Thin Film Lithium Batteries. Oak Ridge National Lab and Solid State Ionics 1993;Bates, J. B.; Dudney, N. J.; Neudecker, B.; Gruzalski, G. R.; Luck, C. F. Thin Film Battery and Method for Making Same, 米国特許第5,338,625号)。これらの電解質のアモルファス性質はそれらの性能にとって極めて重要であり、結晶LiPONはアモルファス材料より7桁低いイオン伝導率を有する。しかしながら、アモルファスLiPONは、標準的合成技術を使用することによりリチウムマンガン酸化物LMO(LiMn)及びリチウムマンガンニッケル酸化物LMNO(LiMn1.5Ni0.5)などの陰極材料をアニールするのに必要なものより低い温度で結晶化し、これにより、これらの材料を含む薄膜電池の製造を複雑にする。
【0010】
従って、アモルファス電解質は大変興味深い。LiPONの代案はアモルファスホウケイ酸リチウムである。LiPONと同等のイオン伝導率を有するアモルファスホウケイ酸リチウム材料が製造されてきたが、急速焼入れを必要とする方法による(Tatsumisago, M.; Machida, N.; Minami, T., Mixed Anion Effect in Conductivity of Rapidly Quenched Li4SiO4-Li3BO3Glasses. Yogyo-Kyokai-Shi 1987, 95, (2), 197-201)。この合成方法は、薄膜電池中への処理には好適でないガラスの不規則な「飛び跳ね(splats)」を生じる。同様な組成のスパッターリングによる合成が薄膜において試みられたが、これらはうまくいかず、急冷ガラスと比較すると著しく低減された伝導率を有する材料を生じた(Machida, N.; Tatsumisago, M.; Minami, T., Preparation of amorphous films in the systems Li2O2-SiO2and Li2O-B2O3-SiO2 by RF-sputtering and their ionic conductivity. Yogyo-Kyokai-Shi 1987, 95, (1), 135-7)。
【0011】
一連の欠点に悩まされる多様な薄膜蒸着方法が今日まで提案されてきた。包括的用語「物理的蒸着」を使用して概して呼ばれる薄膜への合成経路としては、パルスレーザ蒸着、フラッシュ蒸着、スパッターリング及び熱蒸着が挙げられるが、最も広く普及した方法はスパッターリングである。この方法では、特定組成のターゲットが、ターゲット全体にわたって形成されるプラズマを使用してスパッターリングされ、その結果の蒸気が基板上に凝縮し、これにより薄膜を形成する。スパッターリングは、ターゲットからの材料の直接的蒸着に係る。スパッタの生成物は、様々であり、二量体、三量体又は高次多量体(higher order particles)を含み得る。
【0012】
スパッターリングされた薄膜の蒸着速度、組成、形態、結晶度及び性能は、使用されるスパッターリングパラメータとの複雑な関係により判断される。最も広く使用される電解質(LiPON)は、窒素プラズマ中でスパッターリングされるリン酸リチウムターゲットを使用することにより広範に合成される。比較的単純なシステム及び多くの研究にもかかわらず、固体電解質としてのLiPONの性能に関するスパッターリングパラメータ(電力及びN圧力)の効果に関してある意見の相違が依然としてある。ひとつには、これは膜特徴と蒸着パラメータとの混同による。例えば、スパッターリングシステム内の窒素圧力の修正はN:Pの比を変更することと知られているが、Li:P比が追加で変更される(Hu, Z.; Xie, K.; Wei, D.; Ullah, N., Influence of sputtering pressure on the structure and ionic conductivity of thin film amorphous electrolyte. Journal of Materials Science 2011, 46, (23), 7588-7593)。別の例では、一定窒素圧力を保持しながら源電力だけを変更することは、比較的一定なLi:P比と、N:P比の変化とを生じるが蒸着速度の変化も生じる(Choi, C. H.; Cho, W. I.; Cho, B. W.; Kim, H. S.; Yoon, Y. S.; Tak, Y. S., Radio-Frequency Magnetron Sputtering Power Effect on the Ionic Conductivities of Lipon Films. Electrochemical and Solid-State Letters 2002, 5, (1), A14-A17)。従って、膜の他の特性に影響を与えることなく蒸着膜の個々のパラメータ(例えば、単一元素の濃度、蒸着速度又は結晶度)を変えることは非常に困難である。これは、膜と従って電池特性との最適化を極めて困難にする。
【0013】
パルスレーザ蒸着(PLD:pulsed laser deposition)は、組成的にユニークなターゲット及び高エネルギーの使用のため、スパッターリングと多くの特性を共有する。スパッターリングと同様に、制御機構は複雑であり、例えばレーザフルエンスはLiPONを蒸着する際の蒸着速度及び窒素摂取の両方に影響を与え得る。スパッターリングと同様に、この経路もまた、粗い試料をもたらす。PLDにより作製されるLiPON膜の表面形態は非常に粗く、微粒子及び液滴の形成を伴うと指摘されている(Zhao, S.; Fu, Z.; Qin, Q., A solid-state electrolyte lithium phosphorus oxynitride film prepared by pulsed laser deposition. Thin Solid Films 2002, 415, (1-2), 108-113)。
【0014】
熱蒸着源から薄膜を蒸着することは、化合物源を使用することにより可能であり、LMO(LiMn、リチウムマンガン酸化物)及びB−LiOなどの材料に対して実証された(Julien, C. M.; Nazri, G. A., Chapter 4. Materials for electrolyte: Thin Films. In Solid State Batteries: Materials Design and Optimization, 1994)。この場合、粒子エネルギーはスパッターリング中に遭遇されるものよりはるかに低い。しかしながら、源と生成薄膜間の組成の変化などの問題は、化合物蒸着ターゲット(スパッターリング、PLD)から始まるすべての経路と共通である。さらに、再び基板温度と蒸着膜の組成との関係がありパラメータの混同により材料性能を最適化する際の困難を生じるということが指摘されている。
【0015】
代替案は元素による直接熱蒸着であるが、これは一般的でない。Julien及びNazri(上の参考文献)は、元素から直接B−xLi−yLiX(X=I、Cl、SOそしてn=1、2)を合成する試みを示唆するが、いかなる結果も報告されていなく、著者は、「この技術を実施する際の困難性は、酸素ポンピングの強化と、システムの加熱部分との高い酸素反応性の回避と、表面上の酸素反応を強化するために酸素単原子源を利用可能にすることとにある」と注記している。
【0016】
それにもかかわらず、本発明者は既に、成分元素からのリン含有材料の直接合成を実証した(国際公開第2013/011326号、国際公開第2013/011327号)。しかしながら、このプロセスにおける複雑性は、リン酸塩の形成を可能にするようにリンを分解するためにクラッカー(cracker)を使用することである。陰極(リン酸鉄リチウム−例5、リン酸マンガンリチウム−例7)と電解質材料(LiPO−例1及び窒素ドープLiPO−例6)との合成が開示される。蒸着材料はアモルファスであり、陰極材料を結晶させるためにアニールが使用される。この研究は薄膜セルを作製するための3つの基本ビルディングブロックのうちの2つを実証するが、動作可能セルを実証していない。さらに、この研究において実証されたイオン伝導率は余りに低いので、セルを室温で正しく機能させることができない。室温で1×10−6Scm−1の伝導率が満足な性能に必要であるということは広く知られているが、これは実証されなかった。
【0017】
様々な蒸着プロセスにおけるこれら多くの困難と新しい材料を開発するのに伴う複雑性とに打ち勝つのに必要な努力は、「スパッターリングにより薄膜として蒸着される電解質としてLiPONを使用することに薄膜電池の大部分が制限される」ということを意味する。明らかに、薄膜電池技術が開発され強化され得るように他の電解質材料の薄膜を作製する改良方法が望まれる。
【0018】
成分元素によるリン酸塩材料の薄膜の蒸着を示す本発明者らの以前の研究(国際公開第2013/011326号、国際公開第2013/011327号)は、本技術がホウケイ酸リチウムなどの他の材料に可能であり得るということを暗示している。しかしながら、ホウケイ酸リチウムの成分元素を使用する一方でリン酸塩の上記方法に従うことでは、所望の薄膜を生成しないということが分かった。元素同士はリン酸塩研究から予想されるやり方では基板上で反応しないので、必要な化合物は生成されない。原子状酸素の代わりに分子状酸素を使用することでこの問題を克服するが、興味のホウケイ酸リチウム相は通常、基板温度がかなり低い場合だけ実現される。例えば、白金層を有する基板上へのホウケイ酸リチウムの蒸着と高温で分子状酸素を利用することで、不要相である結晶LiPtを形成する。さらに、高温で蒸着された材料のラマンスペクトルは、興味のホウケイ酸リチウム相に関連付けられたバンドを呈示しない。また、生成アモルファスホウケイ酸リチウムは、電池の他の成分を生成及び処理するのに必要な高温に晒されると、又は電池が高温では使用されれば、結晶化し、これによりその電解質品質を損なう。
【発明の概要】
【0019】
従って、本発明の第1の態様は、アモルファスリチウム含有酸化物、又はリンを含有しない酸窒化化合物を作製するための蒸着方法に向けられる。本方法は、化合物の各成分元素の蒸発源であって、リチウムの少なくとも1つの源と、酸素の源と、1つ又は複数のガラス形成元素の源又は源群とを含む蒸発源を提供する工程と、基板をほぼ180℃以上まで加熱する工程と、蒸発源からの成分元素を加熱された基板上に共蒸着する(co-depositing)工程であって、成分元素同士は基板上で反応してアモルファス化合物を形成する、工程とを含む。
【0020】
これは、リチウム含有酸化物及び酸窒化化合物を形成するための非常に簡単な方法を提供する、生成される化合物はアモルファスであり、従って薄膜電池電解質などの用途に好適である。それ自身の蒸発源から各成分元素を直接蒸着することで各元素のフラックスの精密制御を可能にするので、蒸着された化合物の化学量が正確に調整され得る。
【0021】
いくつかの実施形態では、基板はほぼ180℃〜350℃まで加熱され得る。過剰な基板温度の回避は化合物の結晶化のリスクを低減し得る。過剰な基板温度の回避はまた、高温が化合物元素の1つ又は複数の蒸着の減少につながり得るので、化学組成を改良し得る。
【0022】
酸窒化化合物を生成するために、蒸発源はさらに、アモルファス化合物がリンを含有しないリチウム含有酸窒化化合物となるように、窒素の源を含み得る。窒素源は、別個の窒素供給源であってもよいし、混合された酸素及び窒素の蒸発源を提供するように酸素源の気体送りへ窒素を供給するように配置されてもよい。
【0023】
酸素の蒸発源は、他の酸素源を排除するものではないが、オゾン源又はプラズマ源などの原子状酸素の蒸発源であり得る。原子状酸素は、高酸化状態の化合物中に他の成分元素が必要とされる場合に有利である。アモルファス化合物が、リンを含有しないリチウム含有酸窒化化合物であり、酸素源がプラズマ源である場合、本方法は、加熱された基板上への共蒸着のための混合酸素−窒素プラズマを供給するために窒素をプラズマ源の送りへ導入する工程を含み得る。
【0024】
1つ又は複数のガラス形成元素の源又は源群は、アモルファス化合物がホウケイ酸リチウムとなるようにホウ素の源とケイ素の源とを含み得る。この材料は電池電解質として特に興味深く、本発明の実施形態に従って生成された試料は、電解質としての使用が可能であるということを示す好ましいイオン伝導特性を示す。
【0025】
蒸発源はさらに、アモルファス化合物が窒素ドープホウケイ酸リチウムとなるように、窒素の源を含み得る。窒素によるドーピングは、電解質として改善された動作を提供するようにイオン伝導率を高め得る。ドーピングを実現するために、酸素の蒸発源は、加熱された基板上への共蒸着のための混合酸素−窒素プラズマを供給するためにプラズマ源の送りへ導入される窒素を含むプラズマ源を含み得る。
【0026】
ドープ及び非ドープホウケイ酸リチウムを形成するために、本方法は、基板を180℃〜275°まで、具体的にはほぼ225℃まで加熱する工程を含み得る。
【0027】
本発明は他のリチウムリッチガラスへ適用可能である。他の実施形態では、リンを含有しないアモルファスリチウム含有酸化物又は酸窒化化合物は、ケイ酸リチウム、酸窒化ケイ酸リチウム、ホウ酸リチウム、又は酸窒化ホウ酸リチウムである。1つ又は複数のガラス形成元素の源又は源群は、ホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、アルミニウム、ヒ素及びアンチモンのうちの1つ又は複数の源を含み得る。
【0028】
加熱された基板上へ成分元素を共蒸着する工程は、加熱された基板の表面上へ直接成分元素を共蒸着する工程を含み得る。又は、加熱された基板上へ成分元素を共蒸着する工程は、基板上に支持された1つ又は複数の層上へ成分元素を共蒸着する工程を含み得る。従って、本方法は柔軟であり、化合物が別の試料として、又は薄膜装置などの層構造内の層として形成されるようにする。
【0029】
本発明の第2の態様は、電池を作製する方法に向けられる。本方法は、本発明の第1の態様による蒸着方法を使用することにより、電池の電解質を、リンを含有しないアモルファスリチウム含有酸化物又は酸窒化化合物の層として蒸着する工程を含む。
【0030】
本発明の他の態様は、本発明の第1の態様による蒸着方法を使用することにより蒸着された、リンを含有しないアモルファスリチウム含有酸化物又は酸窒化化合物の層の形式の電解質を含む電池と、本発明の第1の態様による蒸着方法を使用することにより蒸着された、リンを含有しないアモルファスリチウム含有酸化物又は酸窒化化合物の層の形式の電解質を有する電池を含む電子装置とに向けられる。
【0031】
本発明の別の態様は、本発明の第1の態様による蒸着方法を使用することにより基板上に蒸着された、リンを含有しないアモルファスリチウム含有酸化物又は酸窒化化合物の試料に向けられる。
【0032】
本発明のさらに別の態様は、窒素ドープホウケイ酸リチウムの薄膜層に向けられる。薄膜層は例えば、基板の表面上に、又は基板上に支持された1つ又は複数の層上に蒸着され得る。
【0033】
本発明の追加の態様は、リンを含有しないアモルファスリチウム含有酸化物又は酸窒化化合物を作製する蒸着方法に向けられる。本方法は、上記化合物の各成分元素の蒸発源であって、リチウムの少なくとも1つの源と、分子状酸素の源と、1つ又は複数のガラス形成元素の源又は源群とを含む蒸発源を提供する工程と、基板をほぼ100℃未満の温度で提供する工程と、蒸発源から成分元素を基板上へ共蒸着する工程であって、成分元素同士は基板上で反応して上記アモルファス化合物を形成する、工程とを含む。基板はほぼ18℃〜30℃、例えばほぼ25℃まで加熱され得る。
【0034】
従って、分子状酸素を使用することによりアモルファスリチウム含有酸化物又は酸窒化化合物をより低い温度で生成することが可能である。この手法は、高温(結晶化を起こさせ得る)への将来の露出が心配でないということが知られていれば、興味あるものである。
【0035】
本発明の別の態様は、追加の態様による蒸着方法を使用することにより基板上に蒸着される、リンを含有しないアモルファスリチウム含有酸化物又は酸窒化化合物の試料に向けられる。
【0036】
本発明をよりよく理解するために、及びどのように本発明が実施され得るかを示すために、添付図面を例示として参照する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の実施形態による方法を実施するのに好適な例示的装置の概略図を示す。
図2】従来技術の方法及び本発明の一実施形態による方法に従って蒸着された材料の試料のラマンスペクトルを示す。
図3】本発明の一実施形態による方法により蒸着されたホウケイ酸リチウムの試料のX線回折測定結果を示す。
図4】本発明の一実施形態による方法により蒸着されたホウケイ酸リチウムの試料のインピーダンススペクトルを示す。
図5】本発明の一実施形態による方法により蒸着された窒素ドープホウケイ酸リチウムの試料のX線回折測定結果を示す。
図6】本発明の一実施形態による方法により蒸着された窒素ドープホウケイ酸リチウムの試料のインピーダンススペクトルを示す。
図7】従来の構造の例示的薄膜電池の概略断面図を示す。
図8】本発明の一実施形態による方法により蒸着されたホウケイ酸リチウム電解質を有する薄膜電池の電圧及び電流対充電/放電サイクルのグラフを示す。
図9】同電池の放電容量の測定結果のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、リンを含まないアモルファスリチウム含有酸化物及び酸窒化化合物の試料(薄膜を含む)を蒸着により形成する方法を提供する。化合物の各成分元素はそれぞれの源から蒸気として別々に供給され、成分元素蒸気群は共通加熱された基板上へ共蒸着される。成分元素同士は基板上で反応し化合物を形成する。
【0039】
本開示の文脈では、用語「元素」は「周期表の元素」を意味する。従って、本発明により形成された化合物は、酸化物化合物の場合にはリチウム(Li)及び酸素(O)を含み、酸窒化化合物の場合にはリチウム(Li)、酸素(O)、及び窒素(N)を含む成分元素を含む。加えて、成分元素の1つ又は複数はガラス形成元素を含む。他の成分元素は、形成される特定化合物に依存するが、すべての場合において、化合物中の各元素は、蒸気の形式で別々に供給され(又は、混合蒸気中へ又は適切ならばプラズマ中へ混合され)、各蒸気は共通基板上へ蒸着する。
【0040】
また、本開示の文脈では、用語「リチウム含有酸化物化合物」は「リチウム、酸素、及び1つ又は複数の他の元素を含む化合物」を意味し、用語「リチウム含有酸窒化化合物」は「リチウム、酸素、窒素、及び1つ又は複数の他の元素を含む化合物」を意味する。ここで、「化合物」は「化学反応により一定比率で2つ以上の元素の組み合わせにより形成される物質又は材料」である。
【0041】
本開示の文脈では、用語「アモルファス」は「結晶でない固体」(すなわち、その格子内に長距離秩序を有しない固体)を意味する。本発明の方法によると、所望化合物は、成分元素の1つ又は複数(これらから化合物が蒸着される)がガラス形成元素であればアモルファス形式で蒸着され得るということが分かった。ガラス形成元素の例としては、ホウ素(B)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、アルミニウム(Al)、ヒ素(As)及びアンチモン(Sb)が挙げられる(Varshneya, A. K., Fundamentals of Inorganic Glasses, Academic Press, page 33)。
【0042】
図1は、本発明の実施形態方法を実施するのに好適な例示的装置10の概略図を示す。蒸着は、超高真空系であり得る真空系12内で行われる。所望材料(蒸着されるアモルファス化合物の本来の目的に応じた)の基板14が真空系12内に取り付けられ、ヒータ16を使用することにより室温を越えるまで加熱される。温度については、以下にさらに論述する。また真空系内には、複数の蒸発源(所望薄膜化合物中の成分元素毎に1つの源)が存在する。第1の蒸発源18は酸素プラズマ源などの原子状酸素の源を含む。第2の蒸発源20はリチウム蒸気の源を含む。第3の蒸発源22はガラス形成元素の蒸気の源を含む。第4の蒸発源24は所望化合物の任意の別の成分元素の源を含む。興味の化合物材料に含まれる元素の数に応じて、任意の数の他の蒸発源(仮想線で示す26、28など)が任意選択的に含まれ得る。例えば、化合物が酸窒化化合物であれば、蒸発源のうちの1つは窒素の源であり得る。又は、酸素がプラズマ源から供給される場合、窒素は混合窒素−酸素プラズマを生成するようにプラズマ源を介し導入され得る。但し、蒸発源のいずれもリンを供給しない。
【0043】
各蒸発源の性質は、蒸発源が供給する元素に、また供給の速度又はフラックスに関して必要とされる制御の量に依存することになる。源は、特に酸素蒸発源の場合、例えばプラズマ源であり得る。プラズマ源はプラズマ相酸素(すなわち、酸素原子、基及びイオンのフラックス)を供給する。プラズマ源は例えば高周波(RF)プラズマ源であり得る。原子状酸素は、高酸化状態の元素を含む化合物を蒸着する際に有利である。酸素は代替的に、オゾン源を使用することにより供給され得る。RFプラズマ源などのプラズマ源はまた、酸窒化化合物が形成される場合は窒素成分蒸気を供給するために使用され得る。
【0044】
電子ビーム蒸発器及びクヌーセン(Knudsen)セル(K−セル)は蒸発源の他の例であり、これらは低分圧を有する材料に好適である。いずれの場合も、材料はルツボ中に保持され、材料のフラックスを生成するために加熱される。クヌーセンセルはルツボ周囲の一連の加熱用フィラメントを使用し、一方、電子ビーム蒸発器では、加熱は、高エネルギー電子ビームを材料上へ向けるために磁石を使用することにより実現される。
【0045】
他の例示的蒸発源は流出(effusion)セルと分解(cracking)源である。但し、本発明の実施形態は分解のいかなる必要性も排除し、これによりこのような源の使用に固有の複雑性を回避する。別の代替蒸発源が当業者にとって明らかになる。
【0046】
蒸着過程中、各成分元素の被制御フラックスはそのそれぞれの蒸発源18〜28から加熱基板14上へ放出され、様々な元素が共蒸着される。元素同士は基板14上で反応して、アモルファスリチウム含有酸化物又は酸窒化化合物の薄膜層29を形成する。
【0047】
化合物を形成するための成分元素同士の反応は、基板上の蒸着前の気相中ではなく基板の表面上で発生する。理論に縛られたくないが、蒸気形式の各成分元素は加熱基板の表面と衝突してそれに接着するものと考えられ、各元素の原子は表面上で可動性であるので、互いに反応して酸化物又は酸窒化化合物を形成することができる。
【0048】
真空中で処理を行うことで、それぞれの源から真空中を走行する気相粒子の平均自由行路(別の粒子と衝突する前に走行する平均距離)は、基板上の蒸着前に粒子間の衝突の機会が最小限にされるように、長い。従って、有利には、源から基板への距離は、衝突することなく基板に到達する粒子の機会を増加するために平均自由行路未満であるようにされ、これにより気相相互作用を回避する。従って、成分元素の反応は加熱基板表面に限定され、薄膜化合物材料の品質は向上される。
【0049】
本発明の重要な利点は、元素からの直接的な化合物の成分の蒸着が、成分元素の蒸着の速度を介し化合物成分の直接制御を可能にすることである。各元素のフラックスは、蒸着された化合物の化学組成が必要に応じ厳しい要件に従って調整され得るように、そのそれぞれの蒸発源の適切な操作により独立に制御され得る。蒸着された化合物の化学量の直接制御は、各成分元素のフラックス(及び従って蒸着速度)を制御することにより可能である。スパッターリング及びパルスレーザ蒸着などの従来の蒸着技術は、より軽い元素の優先的喪失に悩まされ得るので、最終化合物中の元素の割合の制御はより困難である。
【0050】
また、成分元素からの直接的蒸着は、スパッターリングターゲット又は前駆体の必要性を無くし、新しい蒸着ターゲットを用意する必要無しに追加元素を直接取り込み得る。さらに、成分元素からの直接的蒸着は、無損傷表面を有する滑らかな高濃度膜の蒸着を可能にする。上に例示されたものなどの蒸発源はスパッターリングにより生成されるものより低いエネルギー粒子を生成し、この低エネルギーはクラスタ形成を防止するとともに、蒸着された薄膜のパルスレーザ蒸着に伴う問題でもある表面粗さを低減する。
【0051】
重要なことには、本発明は、アモルファスリチウムリッチ化合物の形成を可能にする。アモルファス性質は、上記化合物を薄膜電池中の電解質としての使用に好適にする。バルク試料及び薄膜試料の両方の従来の合成条件下では、これらの化合物は結晶化することが知られており、電解質としてのそれらの性能を損なう。従って、本発明はリチウムベースの薄膜電解質を作製するための技術を提供する点で有用である。
【0052】
本発明の特徴は基板の加熱である。室温における基板上への構成元素の直接蒸着によるアモルファスリン含有薄膜材料の合成を示す本発明者らによる前の研究(国際公開第2013/011326号、国際公開第2013/011327号)は、本技術が他の材料(例えば、リチウムリッチガラス)に対して可能かもしれないということを暗示した。興味ある候補は、アモルファス形式の場合の電解質としてその適合性の理由で、ホウケイ酸リチウムであった。しかしながら、ホウケイ酸リチウムの成分元素を有するリン酸塩に対して知られた方法の使用は、所望の薄膜を生成できなかった。国際公開第2013/011326号及び国際公開第2013/011327号に記載された条件下では、成分元素は予想されたやり方では基板上で反応しなく、必要な化合物は生成されない。解決策は原子状酸素を分子状酸素で置換することにより見出された。これは比較的低温において所望のアモルファスホウケイ酸リチウムを生成したが、アモルファス材料は、他の電池製造及び処理工程中で使用されるより高い温度において、又は電池が高温で使用されれば、結晶化することになる。その後の温度サイクル中の蒸着膜の分解のリスクもある。分子状酸素の存在下で高温において蒸着された試料は、必要な相で形成できなかった。
【0053】
高温におけるアモルファスから結晶質への状態の変化は、よく知られており、アモルファス材料を加熱することにより結晶材料を作製するためにアニールの過程で意図的に採用された。従って、材料がアモルファス特徴を保持する必要がある環境において高温は回避されるべきであるということは従来から理解されている。
【0054】
従って、アモルファスリチウム含有酸化物及び酸窒化物の試料は加熱基板上へ気相成分元素を直接蒸着することにより成功裡に作製され得るということは、驚くべきかつ予想しない結果である。人は加熱が蒸着化合物を結晶させるということを予想するであろうが、本発明によると、これはそうではない。成分元素のうちの1つ又は複数がガラス形成元素である場合に基板を約180℃以上に加熱することは、成分元素同士が基板表面上でうまく反応して化合物を形成するための必要条件を生成するが、化合物を結晶化させないということが分かった。有用な特性を有する安定した良質アモルファス化合物が形成される。
【0055】
実験結果
例示的リチウム含有酸化物化合物としてホウケイ酸リチウム(LiSiO・LiBO)を考える。本発明のいくつかの実施形態によると、この材料は成分元素リチウム、酸素及び2つのガラス形成元素(ホウ素及びケイ素)から形成される。ホウケイ酸リチウムのいくつかの試料は、上記実施形態によるこれらの成分元素の蒸着を使用することにより一連の基板温度において作製され、それらの構造及び特性を判断するためにラマン分光法を使用することにより特徴付けられた。蒸着は、文献(Guerin, S. and Hayden, B. E., Journal of Combinatorial Chemistry 8, 2006, pages 66-73)に既に説明された物理的蒸着(PVD:physical vapour deposition)システムにおいて行われた。温度を除いて、すべての試料は、原子状酸素の源として酸素プラズマ源を利用して同一条件下で蒸着された。酸化物材料(ケイ酸リチウム及びホウ酸リチウム)はケイ素及びホウ素の両方の最も高い酸化状態(それぞれ4+及び3+)を必要とし、従って、分子状酸素ではなく原子状酸素の使用は、Oを2Oへ分解するために必要な解離工程を除去し、高反応性化学種を供給して、ケイ素及びホウ素を材料LiSiO及びLiBOにおいて必要なそれらの最も高い酸化状態へ酸化させる。リチウムはクヌーセンセル源から蒸着された。ケイ素及びホウ素は両方とも電子銃(E-Gun)源から蒸着された。
【0056】
アモルファス状態が材料の所望形式であったことと、予想は加熱が材料を結晶化してイオン伝導率の劣化を生じるであろうということであったので、初期研究は加熱することなく(29℃の基板温度を与える室温で)行われた。しかしながら、室温で原子状酸素の最速流れも使用することにより行われた蒸着は、興味の材料を生じなかった。必要な化学反応の欠如は、ホウケイ酸リチウムが基板上で形成されないということを意味した。
【0057】
驚いたことに、このとき、アモルファスホウケイ酸リチウムは基板が加熱されると形成され、必要な構造を有するとともに電解質としての使用に好適な高イオン伝導度を呈示する材料を生成したということが分かった。次に、蒸着中の様々な基板温度の効果が調査された。ラマンスペクトルの測定は、蒸着温度に応じたケイ酸塩及びホウ酸塩成分の監視を可能にし、薄膜の組成が判断されるようにした。
【0058】
表1にこれらの研究の結果を要約する。ここで、ホウケイ酸リチウムはLi−B−Si−O三成分系と考えられる。B−O又はSi−O結合も、29℃〜150℃の温度において蒸着された試料中に観測されなく、これはホウケイ酸リチウムが形成されなかったということを示す。200℃〜275℃で蒸着された材料は所望のケイ酸塩及びホウ酸塩成分(Si−O及びB−O)を呈示したということを指摘しておく。組成(様々な成分元素:リチウム、酸素、ホウ素及びケイ素の割合)の若干の変化が275℃で観測されたが、これはこの高温におけるリチウムの喪失による。
【0059】
【表1】
【0060】
表1の結果は、150℃以下の基板温度はホウケイ酸リチウム薄膜を生成しなく、一方、200℃以上の基板温度はホウケイ酸リチウムの形成を可能にするということを実証する。これら及び他の測定結果から、本発明者らは、「基板を約180℃以上の温度まで加熱することは、所望のアモルファス化合物が形成されるように、必要な化学反応が基板表面上で発生できるようにするのに十分である」と結論付けた。温度上限に関し、この例では源を調整すること無しに、基板温度を約275℃を越えるまで上げることはリチウムの喪失の理由で望ましくないであろう。しかしながら、金属元素の個別の源を使用するので、275℃より高い温度で正しい組成を有する材料の蒸着を可能にするためにリチウム源の速度は増加され得る。温度に関する上限は、結晶化とイオン伝導率の同時低下とが発生するであろう温度である。最大約350℃までの基板温度は、源調整によりリチウム喪失の補償を依然として可能にする一方で結晶化を回避するので、実行可能であろう。180℃〜350℃の温度範囲は、酸化物及び酸窒化化合物を含むすべてのリチウム含有及びガラス形成元素へ適用可能であると予想されるので、本発明はこれらの材料のアモルファス試料を生成するための信頼できかつ簡単なやり方を提供する。
【0061】
図2は、室温(29℃)と225℃とで蒸着されたLi0.780.11Si0.11(±1原子%)の波数対強度としてプロットされたラマンスペクトルを示す。線30は29℃におけるスペクトルを、線32は225℃におけるスペクトルを示す。これらから、室温で蒸着された材料は興味の成分を含まない(いかなるバンドも関心領域において観測されない)ということが分かる。225℃で蒸着された材料は、興味のホウ酸塩及びケイ酸塩成分の両方に帰され得るバンドを呈示する。
【0062】
加えて、インピーダンス測定が、29℃と225℃とで蒸着された材料に対して行われた。29℃で蒸着された材料のイオン伝導性を判断することはできなかったが、これは材料がイオン伝導性を示さなかったことによる。これはケイ酸塩及びホウ酸塩成分の形成が無視できることと一致する。対照的に、225℃で蒸着された材料は、3.2×10−6Scm−1の伝導率値により明瞭なイオン伝導過程を呈示した。このレベルの伝導率の観測は、興味の材料であるホウケイ酸リチウムが高温で生成されたということと、結晶化は蒸着中に材料の加熱により発生しなかったということとを確認するものである。もし材料が失透されれば、イオン伝導率は数桁の大きさだけ低減されるであろう。この材料のX線回折は、結晶化が発生していないということを確認した。
【0063】
従って、リチウム含有酸化物化合物のアモルファス薄膜が加熱基板上に形成され得るという予想しない結果が得られた。
【0064】
アモルファスホウケイ酸リチウムの別の特徴付け
説明したように、ホウケイ酸リチウム薄膜は225℃を含む高温で作製された。加熱が結晶化を引き起こすという理解に基づく予想に反し、これらの薄膜はアモルファスであるということが観測された。
【0065】
図3は、ホウケイ酸リチウムの結晶構造を調査するために行われたX線回折測定の結果を示す。理解されるように、X線回折プロットは、ホウケイ酸リチウムから生じる明瞭なピークを示さない。むしろ、示されたピークは、ホウケイ酸リチウム薄膜を支持するSi/SiO/TiO/Pt基板中の材料に起因する。図3は、観測されたピークが薄膜ではなく基板から生じるということを示すPt及びTiOの基準パターン(それぞれ「!」及び「*」で印が付けられた)を含む。ホウケイ酸リチウムに帰され得るいかなるピークも無いことは蒸着された材料がアモルファスであるということを示す。
【0066】
ホウケイ酸リチウム試料をさらに試験するために、イオン伝導性を判断するためにインピーダンス測定が室温で行われた。
【0067】
図4は、225℃の基板温度で蒸着されたホウケイ酸リチウムの試料のインピーダンススペクトルとしてのインピーダンス測定の結果を示す。この膜の化学組成はLi0.770.18Si0.05だった。これらの測定結果から、イオン伝導率は3.2×10−6Scm−1であると判断された。これは、本材料をリチウムイオン電池中の電解質として使用するのに好適なものにし、現在最も一般的に使用される薄膜電解質材料LiPONのイオン伝導率(3×10−6Scm−1)と同等である。
【0068】
別の実験結果
ホウケイ酸リチウムの上記作製は、他のリチウム含有酸化物及び酸窒化化合物の製造へのその柔軟性及び適用可能性を実証するために修正された。混合酸素−窒素フラックスを供給するために酸素プラズマ源への気体送り中に窒素を導入することにより窒素ドープホウケイ酸リチウムが生成された。リチウム、ホウ素及びケイ素は先に説明したように供給され、基板の温度は225℃だった。非ドープホウケイ酸リチウムに対して実証されたものと同様な基板温度の範囲(すなわち、約180℃〜約350℃)がまた窒素ドープ材料へ適用可能であり、約180℃〜約275℃のより狭い範囲により、簡単なやり方で(例えばリチウム喪失に合わせて調整する必要無しに)高品質材料を生成する可能性が高い。
【0069】
図5は、生成窒素ドープホウケイ酸リチウム薄膜の測定されたX線回折プロットを示す。グラフ上のピーク(「!」の印が付いた)はAlOPt基板中の白金に起因する。他のピークの欠如は、試料がアモルファスであって結晶構造に欠けるということを示す。
【0070】
図6は、Li0.780.06Si0.16の組成を有する窒素ドープホウケイ酸リチウム薄膜のインピーダンススペクトルを示す。この測定から、イオン伝導率は7.76×10−6Scm−1であると判断された。これらの結果は、窒素によりアモルファスホウケイ酸リチウムの成功裏のドーピングを容易に可能にするというこのプロセスの柔軟性を実証する。ドーピングは、化合物の3.2×10−6Scm−1から7.76×10−6Scm−1へのイオン伝導率の明瞭な改善を実証している。これは、電解質材料LiPONに対して既に示されたものを著しく越えて材料の性能を改善し、従って固体電池の性能を向上させる簡単かつ有効な手段を提供する。
【0071】
動作電池の実証
非ドープ及びドープホウケイ酸リチウムのアモルファス性質及び付随高イオン伝導性は、これらの薄膜が薄膜電池中の電解質としての使用に好適であるということを示す。様々な薄膜電池が、上述の蒸着プロセスを使用することにより生成され、完全な機能を示すように特徴付けられた。
【0072】
図7は、典型的構造の例示的リチウムイオン薄膜電池すなわちセル40の概略断面図を示す。このような電池は、1つ又は複数の蒸着又は他の製作工程により通常形成される一連の層を含む。基板42は様々な層を支持する。基板から順に、陰極集電体44、陰極46、電解質48、陽極50及び陽極集電体52が存在する。保護封止材層54はすべての層の上に形成される。他の電池構造体もまた可能であり、例えば陽極及び陰極の位置は反転され得、封止材層は省略され得る。
【0073】
陰極、電解質及び陽極層を含む試料は、動作セルを実証するために実験装置において作製された。この例では、薄膜電池の3つの成分膜(陰極、電解質及び陽極)の蒸着は、TiO(10nm)及びPt(100nm)で被覆されたサファイア基板(Mir Enterprises社のAlOPt基板)に対し超高真空系内で行われた。陰極については、リチウムマンガン酸化物(LMO)の薄膜がリチウム、マンガン及び酸素源から合成された。マンガン及びリチウムは、酸素がプラズマ原子源により供給される間にクヌーセンセルから蒸着された。蒸着は7620秒間行われ、300nmの一様厚さの薄膜を得た。結晶材料を提供するために基板の温度は350℃に保持された。LMO蒸着の終わりに、リチウム及びマンガン源シャッタがこれらの元素のフラックスを遮断するために閉じられた。基板は360秒間かけて350℃から225℃まで冷却され、この期間中原子状酸素のフラックスへの露出は続いた。
【0074】
本発明のいくつかの実施形態によると、電解質はホウケイ酸リチウムの薄膜であった。電解質はリチウム、ホウ素、ケイ素及び酸素源を使用して合成された。陰極に関しては、リチウムはクヌーセンセルから蒸着され、プラズマ源は原子状酸素を供給した。ホウ素及びケイ素は電子ビーム蒸発器から蒸着された。基板は電解質の蒸着中225℃に維持され、これは14400秒間続き厚さ800nmの薄膜を得た。しかしながら、このプロセスは単に例示的であり、上述のように、電池用のアモルファスホウケイ酸リチウム電解質層は、様々な成分元素の代替源を使用することにより、そして他の温度で、そして他の時間に蒸着され得る。
【0075】
これに続いて、真空から試料を取り出すこと無しに1×1mmの個別電池を画定するために物理的マスクが試料の前に置かれた。これは600秒未満かかった。次に、酸化スズ陽極が、180秒間にわたってクヌーセンセルスズ源及び原子状酸素プラズマ源を使用することにより蒸着された。生成された陽極層の厚さは9.6nmと推定された(較正測定に基づく)。最後に、試料は再び真空中に留まったままで、100nmのニッケルの層が、1.5×15mm開口を有する第2のマスクを使用して最上部集電体として加えられた。こうして、LMO/LBSiO/SnO薄膜電池が生成された。
【0076】
X線回折測定結果は、本発明により予想されたように、350℃で蒸着されたLMO陰極は結晶であり、225℃で蒸着されたホウケイ酸リチウム電解質はアモルファスであることを確認した。
【0077】
なお、この例では、陰極、電解質及び陽極層のそれぞれは加熱基板上への成分元素の蒸着を使用して作製されたが、好みにより、陰極及び陽極層は任意の好都合で適切な薄膜製造プロセスにより作製され得る。他の陰極及び陽極材料もまた、要望通り使用され作製され得る。
【0078】
セルの動作を試験するために、グローブボックス内の2つのピンプローブを介し接触した。充放電測定は定電流/定電圧(CC/CV:constant current-constant voltage)機器を使用して行われた。
【0079】
図8及び図9は、これらの測定の結果を示す。図8は、第1の充電/放電サイクルの電圧及び電流対時間のプロットを示す。曲線56は電池電位を示し、曲線58は電流を示す。図9は、最初の50サイクルにわたる放電容量の測定を示す。セルは、最初の10サイクルにわたる容量の最大値と共に20サイクル後の容量の安定性を実証した。0.077mAhの最大放電容量(25.4mAhcm−2μm−1に対応する)がサイクル2において観測された。これは、陽極限定系(anode limited system)に基づく理論容量の83%に対応する。次の20サイクルでは、容量は、陽極限定系に基づく理論容量の33%に対応する0.015mAh(4.9mAhcm−2μm−1)まで低下することが観測された。容量はこのレベルで安定することが注目され、次の29サイクルでは、容量は0.016mAhとなることが観測された。
【0080】
これは、陰極、電解質及び陽極層のすべてが成分元素から直接薄膜層として蒸着された完全機能薄膜電池の最初の報告された実証であると考えられる。
【0081】
温度
上述のように、本発明によると、基板は、約180℃を越えるまで(場合により180℃〜350℃の範囲まで)加熱される。実際に選択される実際の温度は、様々な要因に依存することになる。本発明下で利用可能なかなり広範囲の動作温度は、基板温度を製作工程中の他の処理工程に必要な温度に合わせることを容易にするので魅力的である。例えば、調整を最小限にするために、陰極蒸着などのプロセス内の他の工程に必要な温度と同じ又はそれと同等な温度が選択され得る。結晶陰極又は他の層を含む装置については、範囲の上限方向の温度が好適かもしれない。一方、エネルギー使用及び従って製造コストを低減することに関心があれば、範囲の下限の基板温度が魅力的かもしれない。従って、本発明を実施するための動作パラメータを選択する際に利用可能な自由度があり、温度は、他の必要要件に最適となるように選択され得る。範囲の下限からの温度、例えば180℃から250℃又は275℃、又は範囲の中央の温度、例えば200℃から300℃、又は範囲の上限からの温度、例えば250℃から350℃が、状況によって選択され得る。
【0082】
別の材料
これまで、アモルファスホウケイ酸リチウム及び窒素ドープホウケイ酸リチウムの作製が説明された。しかしながら、本発明はこれらの材料に限定されなく、加熱された基板上への直接の成分元素の蒸着の過程は、他のリチウム含有酸化物及び酸窒化化合物の製造へ適用可能である。材料の別の例としては、ケイ酸リチウム及びホウ酸リチウムが挙げられ、ホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、アルミニウム、ヒ素、及びアンチモンを含むガラス形成元素を含む他の化合物が挙げられる。アモルファス酸化物及び酸窒化物は本発明による方法により作製されると予想され得る、2価酸化物の化学作用は3価酸化物/酸窒化物ガラスのものに非常に似ていると予想され得る。
【0083】
基板
本明細書では提示された実験結果は、チタン及び白金被覆サファイア基板ならびにチタン及び白金被覆ケイ素基板上へ蒸着された薄膜に関する。しかしながら、好むならば、他の基板も利用され得る。他の好適な例としては、石英、シリカ、ガラス、サファイア、及びフォイルを含む金属基板が挙げられるが、当業者は、他の基板材料もまた好ましいということを理解することになる。基板の必要要件は、適切な蒸着表面が提供され、そして必要な加熱に耐え得るということである。そうでなければ基板材料は、蒸着された化合物が適用される用途を参照して要望通り選択され得る。
【0084】
また、本発明の実施形態は、基板表面上への、そして基板上に既に蒸着された又はそうでなければ作製された1つ又は複数の層上への成分元素の直接蒸着に同様に適用可能である。これは、試料電池を作製する際にホウケイ酸リチウム膜が空の加熱基板上へそしてLMO陰極層上へ蒸着される上述の実験結果から明らかである。従って、本出願における「基板」、「基板上への蒸着」、「基板上への共蒸着」などへの参照は、「1つ又は複数の予め作製された層を支持する基板」、「基板上に既に作製された層又は層群上への蒸着」、「基板上に既に作製された層又は層群上への共蒸着」などに同様に当てはまる。本発明は、基板と蒸着されるアモルファスリチウム含有酸化物又は酸窒化化合物との間に介在する任意の他の層があってもなくても、同様に当てはまる。
【0085】
用途
本発明に従って蒸着されることができる材料のアモルファス性質は、優れたイオン伝導性と相まって、材料を薄膜電池中の電解質としての使用に好適なものにする。これは主用途であると予想される。本発明の方法は、センサ、太陽電池及び集積回路などの装置内の電池部品の製造に容易に適応可能である。しかしながら、材料は電解質としての使用に限定されなく、本方法は任意の他の用途のアモルファスリチウム含有酸化物又は酸窒化化合物の層を蒸着するために使用され得る。可能な例としては、エレクトロクロミック装置内のセンサ、リチウムセパレータ、界面改質剤及びイオン伝導体が挙げられる。
【0086】
分子状酸素による蒸着
これまで論述されたように、アモルファスリチウム含有酸化物及び酸窒化化合物の頑強な試料は、高基板温度を使用することにより成分元素の蒸発源から蒸着され得る。しかしながら、先に述べたように、低基板温度で(酸素蒸発源が分子状酸素を供給すれば最大約100℃まで)アモルファス化合物を得ることも可能である。従って、その後高温に晒されれば結晶化に対する耐性が無いこともあり得るアモルファス化合物を必要とするならば、基板を加熱することなく、又は(分子状酸素が使用されれば)基板を適度の量だけ加熱することにより、上述の蒸着方法を利用し得る。
【0087】
これまで説明したすべての実施形態は、低基板温度の置換と、酸素蒸発源が分子状酸素に限定されることとにより、この実施形態に同様に当てはまると予想される。従って、ホウケイ酸リチウムを生成するためにホウ素及びケイ素蒸発源を利用でき、加えて、窒素ドープホウケイ酸リチウムを生成するために窒素蒸発源を利用できる。窒素源を含むことは、酸窒化化合物を生成するためにより一般的に適用可能である。ケイ酸リチウム、酸窒化物ケイ酸リチウム、ホウ酸リチウム及び酸窒化物ホウ酸リチウムもまた蒸着され得、例えばゲルマニウム、アルミニウム、ヒ素、及びアンチモンなどの1つ又は複数の他のガラス形成元素を含む他のリチウム含有酸化物及び酸窒化物も同様に蒸着され得る。既に記載された基板材料例もまた適用可能であり、基板上への、又は基板上に既に存在する1つ又は複数の層上への直接蒸着の選択肢もまた適用可能である。
【0088】
温度に関して、分子状酸素を使用する実施形態は室温で好都合に行われ得、これにより基板を加熱する必要性を排除する。「室温」は、約18℃〜30℃の範囲の温度、特には約25℃を意味する。しかしながら、約10℃〜20℃、約15℃〜25℃、約25℃以下、約20℃〜30℃など、この範囲外の温度も使用し得る。また、製作工程中の他の工程への統合に役立ち得るいくぶんより高い温度が使用され得る。従って、基板温度は、約30℃以下、約50℃以下、約70℃以下又は約100℃以下であり得る。高温では、正しい材料は形成されない。白金層を有する基板上へのホウケイ酸リチウムの蒸着は、例えば結晶LiPtを生成する。分子状酸素を使用して高温で蒸着された材料のラマン分光法による検査は、興味のホウケイ酸リチウム相に関連付けられたバンドは存在しないということを明らかにした。従って、蒸着の上限基板温度は、高温で発生する傾向があるリチウム化合物の不要な相を回避することと、必要な相が得られることを保証することとに関して選択される。通常、ほぼ100℃の上限温度は、不要相を回避又は最小化するために適切である。
【0089】
図1に示し上に説明したものなどの装置は、これらの実施形態を実施するのに好適である。但し、蒸発源18は分子状酸素の源を含むことになる。ヒータ16は、前節の例に従った特定の所望の基板温度を実現するために含まれてもよいし、省略されてもよいし、特に定義されない一般的「室温」が満足されるようであれば単純に、使用されなくてもよい。
【0090】
参考文献
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図1
図2
図3
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図5
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図9