【文献】
各種ウイルスに対する新規速乾性すり込み式手指消毒薬の有効性評価,医学と薬学,2014年,Vol.71, No.1,p.117-125
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、ヒトノロウイルスによる感染性胃腸炎あるいは食中毒の発生が一年を通じて多発しており、特に11〜3月が発生のピークとなっている。ヒトノロウイルスは、カリシウイルス科、ノロウイルス属に分類されるエンベローブを持たないRNAウイルス(以下、「ノロウイルス等」と記載する)であり、アルコール(エタノール、イソプロパノール等)、熱、酸性(胃酸等)、又は、乾燥等に対して強い抵抗力を有する。潜伏期間は1〜2日であると考えられており、嘔気、嘔吐、下痢の主症状が出るが、腹痛、頭痛、発熱、悪寒、筋痛、咽頭痛、倦怠感等を伴うこともある。
【0003】
ヒトノロウイルスは、培養細胞を用いても増殖させることができない。
そのため、ヒトノロウイルスの不活性化に対する各種消毒剤等の消毒効果の検証には、代替ウイルスとしてネコカリシウイルス(FCV)が広く用いられている。FCVは、形態的特徴やゲノムの構造から、ヒトノロウイルスに近縁なウイルスであることが明らかにされている。
【0004】
一方で、近年、FCVに比べてヒトノロウイルスに遺伝学的に近縁、かつ、細胞培養可能なウイルスとして、マウスノロウイルス(MNV)が発見された。
本発明者は、FCV及びMNVを用いて不活性化試験を行ったところ、MNVは、FCVに比べて薬剤耐性が強いという知見を得た。よって、FCVに対して優れた消毒効果を有するとしてこれまでに開発されてきた消毒液は、実際のヒトノロウイルスに対しても優れた消毒効果を有するとは言い難い。
【0005】
例えば、非特許文献1には、エタノール製剤を用いたFCV及びMNVの不活性化試験が記載されている。非特許文献1によれば、FCVに対してはエタノール製剤のpHが低くても充分なウイルス不活性化作用を示すことが記載されているが、MNVに対しては、エタノール製剤のpHが低いと充分なウイルス不活性化作用を示さないことが記載されている。
上記の通り、ヒトノロウイルスの不活性化に対する各種消毒剤等のウイルス不活性化作用の検証には、代替ウイルスとしてFCVが広く用いられているが、FCV及びMNVの両方にウイルス不活性化作用を示す方が、ヒトノロウイルスに対してもウイルス不活性化作用を示す可能性が高いと予測される。
そのため、非特許文献1に記載されたpHが低いエタノール製剤は、ヒトノロウイルスへのウイルス不活性化作用が不充分である可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、低いpHであっても充分にウイルス不活性化作用を示すウイルス不活性化剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明者は、エタノールと、特定の酸剤とを併用することにより、pHが低くても、ウイルス不活性化作用が充分に高くなることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明のウイルス不活性化剤は、エタノールと、酸剤とを含むウイルス不活性化剤であって、上記酸剤は、クエン酸、酒石酸及びリン酸からなる群から選択される少なくとも2種の酸であり、上記ウイルス不活性化剤のpHは、1.0〜6.0であることを特徴とする。
【0010】
本発明のウイルス不活性化剤は、クエン酸、酒石酸及びリン酸からなる群から選択される少なくとも2種の酸からなる酸剤を含む。
これらの酸を併用することにより、低いpHのウイルス不活性化剤においてエタノールのウイルス不活性化作用を向上させることができる。
そのため、ウイルス不活性化剤のpHが、1.0〜6.0であったとしても、本発明のウイルス不活性化剤は、充分なウイルス不活性化作用を示す。
なお、本明細書におけるpHは、25℃におけるpHを意味する。
【0011】
本発明のウイルス不活性化剤のpHは、1.0〜4.0であることがより望ましい。
このように低いpHであったとしても、本発明のウイルス不活性化剤は、充分なウイルス不活性化作用を示す。
【0012】
本発明のウイルス不活性化剤では、上記ウイルス不活性化剤中の上記酸剤の濃度は、0.01〜0.4mol/Lであることが望ましい。
本発明のウイルス不活性化剤では、このように低濃度の酸剤を含むだけでウイルス不活性化作用を充分に向上させることができる。
ウイルス不活性化剤中の酸剤の濃度が、0.01mol/L未満であると、酸剤の濃度が低すぎ、エタノールのウイルス不活性化作用を充分に向上させにくくなる。
ウイルス不活性化剤中の酸剤の濃度が、0.4mol/Lを超えると、酸剤の濃度が高すぎ、ウイルス不活性化剤を噴霧等した際に、べとつきやすくなり、また、酸剤の析出が生じやすくなる。
【0013】
本発明のウイルス不活性化剤では、上記ウイルス不活性化剤中の上記エタノールの濃度は、8.05〜85.70重量%であることが望ましい。
ウイルス不活性化剤中のエタノールの濃度が8.05重量%未満であると、エタノールの割合が少ないので、エタノールが含まれることによるウイルス不活性化作用が発揮されにくくなる。
ウイルス不活性化剤中のエタノールの濃度が85.70重量%を超えると、ウイルス不活性化剤中のエタノールの濃度が高すぎ、引火しやすくなる。
【0014】
本発明のノロウイルス不活性化剤は、上記本発明のウイルス不活性化剤からなることを特徴とする。
上記本発明のノロウイルス不活性化剤は、ノロウイルスに対して高いウイルス不活性化効果を示す。
【0015】
本発明の衛生資材は、上記本発明のウイルス不活性化剤、又は、上記本発明のノロウイルス不活性化剤を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明のウイルス不活性化剤、又は、本発明のノロウイルス不活性化剤は、ウイルス不活性化作用を示すので、このようなウイルス不活性化剤、又は、ノロウイルス不活性化剤を含む本発明の衛生資材を用いることにより、ウイルス感染を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のウイルス不活性化剤は、低いpHであっても充分に高いウイルス不活性化作用を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のウイルス不活性化剤について具体的な実施形態を示しながら説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0019】
本発明のウイルス不活性化剤は、エタノールと、酸剤とを含むウイルス不活性化剤であって、上記酸剤は、クエン酸、酒石酸及びリン酸からなる群から選択される少なくとも2種の酸であり、上記ウイルス不活性化剤のpHは、1.0〜6.0であることを特徴とする。
【0020】
本発明のウイルス不活性化剤は、クエン酸、酒石酸及びリン酸からなる群から選択される少なくとも2種の酸からなる酸剤を含む。
これらの酸を併用することにより、低いpHのウイルス不活性化剤においてエタノールのウイルス不活性化作用を向上させることができる。
そのため、ウイルス不活性化剤のpHが、1.0〜6.0であったとしても、本発明のウイルス不活性化剤は、充分なウイルス不活性化作用を示す。
【0021】
なお、本発明のウイルス不活性化剤では、酒石酸は、L−酒石酸であっても、D−酒石酸であってもよい。
【0022】
本発明のウイルス不活性化剤では、上記ウイルス不活性化剤中の上記酸剤の濃度は、0.01〜0.4mol/Lであることが望ましく、0.05〜0.3mol/Lであることがより望ましい。
本発明のウイルス不活性化剤では、このように低濃度の酸剤を含むだけでウイルス不活性化作用を充分に向上させることができる。
ウイルス不活性化剤中の酸剤の濃度が、0.01mol/L未満であると、酸剤の濃度が低すぎ、エタノールのウイルス不活性化作用を充分に向上させにくくなる。
ウイルス不活性化剤中の酸剤の濃度が、0.4mol/Lを超えると、酸剤の濃度が高すぎ、ウイルス不活性化剤を噴霧等した際に、べとつきやすくなり、また、酸剤の析出が生じやすくなる。
【0023】
本発明のウイルス不活性化剤は、クエン酸、酒石酸及びリン酸からなる群から選択される少なくとも2種の酸以外に、ピロリン酸、ポリリン酸、フィチン酸、D−リンゴ酸、L−リンゴ酸、乳酸等の酸を含んでいてもよい。
【0024】
本発明のウイルス不活性化剤のpHは、1.0〜4.0であることがより望ましく、2.0〜4.0であることがさらに望ましい。
このように低いpHであったとしても、本発明のウイルス不活性化剤は、充分なウイルス不活性化作用を示す。
なお、pHの調整は、本発明のウイルス不活性化剤に含まれる酸剤の濃度を調整すること、または、酸剤の塩を添加することにより行うことができる。
【0025】
本発明のウイルス不活性化剤では、上記ウイルス不活性化剤中の上記エタノールの濃度は、8.05〜85.70重量%であることが望ましく、24.69〜74.70重量%であることがより望ましく、33.38〜60.00重量%であることがさらに望ましい。
ウイルス不活性化剤中のエタノールの濃度が8.05重量%未満であると、エタノールの割合が少ないので、エタノールが含まれることによるウイルス不活性化作用が発揮されにくくなる。
ウイルス不活性化剤中のエタノールの濃度が85.70重量%を超えると、ウイルス不活性化剤中のエタノールの濃度が高すぎ、引火しやすくなる。
【0026】
本発明のウイルス不活性化剤は、上記クエン酸及び上記リン酸を共に含んでいてもよく、上記クエン酸及び上記酒石酸を共に含んでいてもよく、上記リン酸及び上記酒石酸を共に含んでいてもよく、クエン酸、酒石酸及びリン酸の3種を共に含んでいてもよい。
【0027】
本発明のウイルス不活性化剤がクエン酸及びリン酸を含む場合、そのモル比は、クエン酸:リン酸=40:1〜1:40であることが望ましい。
本発明のウイルス不活性化剤がクエン酸及び酒石酸を含む場合、そのモル比は、クエン酸:酒石酸=40:1〜1:40であることが望ましい。
本発明のウイルス不活性化剤がリン酸及び酒石酸を含む場合、そのモル比は、リン酸:酒石酸=40:1〜1:40であることが望ましい。
本発明のウイルス不活性化剤が、クエン酸、酒石酸及びリン酸を含む場合、そのモル比は、クエン酸:酒石酸:リン酸=1〜40:1〜40:1〜40であることが望ましい。
【0028】
本発明のノロウイルス不活性化剤は、上記本発明のウイルス不活性化剤からなることを特徴とする。
上記本発明のノロウイルス不活性化剤は、ノロウイルスに対して高いウイルス不活性化効果を示す。
なお、本明細書において、「ノロウイルス不活性化剤」とは、ネコカリシウイルス、マウスノロウイルス及びヒトノロウイルスからなる群から選択される少なくとも1種のウイルスに対して使用されるウイルス不活性化剤を意味する。
【0029】
本発明のウイルス不活性化剤は、ネコカリシウイルスを試験ウイルスとした下記ウイルス感染力価測定において、作用時間30秒におけるウイルス感染力価(対数)の値が、作用時間0秒におけるウイルス感染力価(対数)の値より2.0以上小さいことが望ましく、4.0以上小さいことがより望ましい。
本発明のウイルス不活性化剤が、このようなウイルス不活性化作用を奏すると、カリシウイルス科ウイルスの感染を防止することができる。
【0030】
(ネコカリシウイルス感染力価測定)
(1)ネコカリシウイルスを、ネコ腎由来株化細胞であるCRFK細胞(ATCC CCL−94)に感染させて細胞を培養する。
(2)次に、ネコカリシウイルスが感染したかどうかを細胞変性効果(Cytopathic effect:CPE)により確認する。
細胞変性効果を確認した後、培養細胞の凍結融解を繰り返すことにより、培養細胞を破砕する。
(3)次に、得られた培養細胞破砕液を遠心分離し、上清をウイルス溶液とする。
(4)ウイルス不活性化剤と、ウイルス溶液とを9:1の割合(容量)で混合し、室温で30秒経過後、OPTI−MEM培地で100倍希釈することにより、ウイルス不活性化剤のウイルスに対する作用を停止させる。
この工程により得られた溶液をウイルス不活性化剤30秒作用ウイルス溶液とする。
(5)OPTI−MEM培地と、ウイルス溶液とを9:1の割合(容量)で混合した直後、OPTI−MEM培地で100倍希釈することにより、得られた溶液をウイルス不活性化剤0秒作用ウイルス溶液とする。
(6)ウイルス不活性化剤0秒作用ウイルス溶液、ウイルス不活性化剤30秒作用ウイルス溶液を、それぞれ、OPTI−MEM培地により10倍段階希釈した。CRFK細胞を培養した96wellマイクロプレートの培地を捨て、段階希釈液を100μLずつ加える。
(7)ウイルス不活性化剤0秒作用ウイルス溶液及びウイルス不活性化剤30秒作用ウイルス溶液の段階希釈液が加えられたCRFK細胞を37℃、5%CO
2の条件で、4日間培養する。
(8)培養したCRFK細胞のCPEを指標にTCID
50(Tissue Culture Infectious Dose 50%)により各ウイルス溶液のウイルス感染力価(対数)を定量する。
(9)上記(1)〜(8)の工程を3回独立に行い、ウイルス不活性化剤0秒作用ウイルス溶液を用いて算出されたウイルス感染力価の平均値を、作用時間0秒におけるウイルス感染力価とし、ウイルス不活性化剤30秒作用ウイルス溶液を用いて算出されたウイルス感染力価の平均値を、作用時間30秒におけるウイルス感染力価の値とする。
【0031】
本発明のウイルス不活性化剤は、マウスノロウイルスを試験ウイルスとした下記ウイルス感染力価測定において、作用時間30秒におけるウイルス感染力価(対数)の値が、作用時間0秒におけるウイルス感染力価(対数)の値より2.0以上小さいことが望ましく、4.0以上小さいことがより望ましい。
本発明のウイルス不活性化剤が、このようなウイルス不活性化作用を奏すると、カリシウイルス科ウイルスの感染を防止することができる。
【0032】
(マウスノロウイルス感染力価測定)
(1)マウスノロウイルスを、マウスのマクロファージ由来細胞株であるRAW 264.7細胞(ATCC TIB−71)に感染させて細胞を培養する。
(2)次に、マウスノロウイルスが感染したかどうかを細胞変性効果(Cytopathic effect:CPE)により確認する。
細胞変性効果を確認した後、培養細胞の凍結融解を繰り返すことにより、培養細胞を破砕する。
(3)次に、得られた培養細胞破砕液を遠心分離し、上清をウイルス溶液とする。
(4)ウイルス不活性化剤と、ウイルス溶液とを9:1の割合(容量)で混合し、室温で30秒経過後、10%牛胎児血清含有DMEM培地で100倍希釈することにより、ウイルス不活性化剤のウイルスに対する作用を停止させる。
この工程により得られた溶液をウイルス不活性化剤30秒作用ウイルス溶液とする。
(5)10%牛胎児血清含有DMEM培地と、ウイルス溶液とを9:1の割合(容量)で混合した直後、10%牛胎児血清含有DMEM培地で100倍希釈することにより、得られた溶液をウイルス不活性化剤0秒作用ウイルス溶液とする。
(6)ウイルス不活性化剤0秒作用ウイルス溶液及びウイルス不活性化剤30秒作用ウイルス溶液を、それぞれ、10%牛胎児血清含有DMEM培地により、10倍段階希釈する。1ウェルにRAW 264.7細胞を50μLずつ分注した96wellマイクロプレートに、各段階希釈液を50μLずつ加える。
(7)ウイルス不活性化剤0秒作用ウイルス溶液及びウイルス不活性化剤30秒作用ウイルス溶液の段階希釈液が加えられたRAW 264.7細胞を37℃、5%CO
2の条件で、4日間培養する。
(8)培養したRAW 264.7細胞のCPEを指標にTCID
50(Tissue Culture Infectious Dose 50%)により各ウイルス溶液のウイルス感染力価(対数)を定量する。
(9)上記(1)〜(8)の工程を3回独立に行い、ウイルス不活性化剤0秒作用ウイルス溶液を用いて算出されたウイルス感染力価の平均値を、作用時間0秒におけるウイルス感染力価とし、ウイルス不活性化剤30秒作用ウイルス溶液を用いて算出されたウイルス感染力価の平均値を、作用時間30秒におけるウイルス感染力価の値とする。
【0033】
エタノールは、細菌に対する殺菌効果を有する。
また、エタノールを殺菌成分として含む殺菌剤は、pHが低いと殺菌効果が向上する。
本発明のウイルス不活性化剤は、エタノールを含むので、殺菌剤としても機能する。
さらに、本発明のウイルス不活性化剤は、pHが1.0〜6.0と充分に低い。
そのため、本発明のウイルス不活性化剤は、細菌に対しても高い殺菌効果を示す。
【0034】
本発明のウイルス不活性化剤を細菌に対して用いる場合には、ウイルス不活性化剤のpHは、1.0〜4.0であることが望ましく、2.0〜4.0であることがより望ましい。
【0035】
本発明のウイルス不活性化剤には、さらにグリセリン脂肪酸エステル等が含まれていてもよい。
グリセリン脂肪酸エステルとしては、モノグリセリン脂肪酸エステルであってもよく、ポリグリセリン脂肪酸エステルであってもよい。例えば、モノグリセリンカプリル酸エステル、モノグリセリンカプリン酸エステル、モノグリセリンラウリン酸エステル、ジグリセリンカプリル酸エステル、ヘキサグリセリンラウリン酸エステル、デカグリセリンラウリン酸エステル等があげられる。
本発明のウイルス不活性化剤がこれらの成分を含むと、細菌に対する殺菌効果が向上する。
【0036】
また、本発明のウイルス不活性化剤には、上記の成分以外に保湿剤、エモリエント剤、香料、色素、天然抽出物、陽イオン界面活性剤、増粘剤、消炎剤等を含んでいてもよい。
【0037】
次に、本発明のウイルス不活性化剤、及び、本発明のノロウイルス不活性化剤の使用方法を説明する。
本発明のウイルス不活性化剤、又は、本発明のノロウイルス不活性化剤は、ポンプボトルやスプレーガンに詰めて、必要量を消毒対象に塗布したり、噴きつけて使用してもよい。
【0038】
また、本発明のウイルス不活性化剤、又は、本発明のノロウイルス不活性化剤を衛生資材に使用してもよい。このような衛生資材は、本発明の衛生資材でもある。
【0039】
本発明の衛生資材は、上記本発明のウイルス不活性化剤、又は、本発明のノロウイルス不活性化剤を含むことを特徴とする。
本発明のウイルス不活性化剤は、ウイルス不活性化作用を奏するので、このようなウイルス不活性化剤を含む衛生資材を用いることにより、ウイルス感染を防ぐことができる。
【0040】
本発明の衛生資材は、特に限定されるものではないが、例えば、マスク、使い捨て手袋、使い捨て布巾、ティッシュペーパー、ウエットティッシュ等があげられる。
【実施例】
【0041】
以下に本発明をより具体的に説明する実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
エタノールが70.00重量%、L−酒石酸が0.01mol/L、リン酸が0.1mol/Lとなるように、これら化合物と、精製水とを混合して実施例1に係るウイルス不活性化剤を作成した。
実施例1に係るウイルス不活性化剤のpHは、2.8であった。
【0043】
(実施例2〜6)及び(比較例1〜5)
ウイルス不活性化剤の材料の種類及び割合を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様に実施例2〜6及び比較例1〜5に係るウイルス不活性化剤を作製した。
なお、表1中「%」は重量%を意味する。
また、表1中の酸剤の商品名及び製造元は以下の通りである。
L−酒石酸:L−酒石酸 扶桑化学工業株式会社製
クエン酸:精製クエン酸(無水) 扶桑化学工業株式会社製
リン酸:りん酸 米山薬品工業株式会社製
乳酸:ムサシノ乳酸50 株式会社武蔵野化学研究所製
酢酸:90%純良酢酸 日和合精株式会社製
リンゴ酸:リンゴ酸フソウ 扶桑化学工業株式会社製
コハク酸:コハク酸 扶桑化学工業株式会社製
【0044】
【表1】
【0045】
(ネコカリシウイルスの感染力価測定)
ウイルス不活性化剤として、各実施例及び各比較例に係るウイルス不活性化剤を用い、上記(ネコカリシウイルス感染力価測定)の方法に基づき、作用時間0秒におけるウイルス感染力価の値と、作用時間30秒におけるウイルス感染力価の値との差を算出して評価した。評価基準は以下の通りである。結果を表1に示す。
◎:4.0以上の感染力価の減少(充分な効果あり)
○:2.0以上、4.0未満の感染力価の減少(効果あり)
×:2.0未満の感染力価の減少(効果なし)
【0046】
(マウスノロウイルスの感染力価測定)
ウイルス不活性化剤として、各実施例及び各比較例に係るウイルス不活性化剤を用い、上記(マウスノロウイルスの感染力価測定)の方法に基づき、作用時間0秒におけるウイルス感染力価の値と、作用時間30秒におけるウイルス感染力価の値との差を算出して評価した。評価基準は以下の通りである。結果を表1に示す。
◎:4.0以上の感染力価の減少(充分な効果あり)
○:2.0以上、4.0未満の感染力価の減少(効果あり)
×:2.0未満の感染力価の減少(効果なし)
【0047】
(噴霧後の跡残り評価)
各実施例及び各比較例に係るウイルス不活性化剤を、スプレーガン(吐出量1mL/1回)に詰め、プラスチックボードに3回噴霧した。その後、室温で一晩、自然乾燥させた。
乾燥後のプラスチックボードを目視で観察してウイルス不活性化剤の跡残り具合を確認し、さらに、プラスチックボードを手で触り、べとつきを確認した。
評価基準は以下の通りである。結果を表1に示す。
◎:ウイルス不活性化剤の跡残りが少なく、べとつかない
○:ウイルス不活性化剤の跡残りが多く、少しべとつく
×:ウイルス不活性化剤の跡残りが多く、酸剤が析出し、除去困難である
【0048】
カリシウイルス科ウイルスの感染力価測定の結果、各実施例に係るウイルス不活性化剤は、ネコカリシウイルス及びマウスノロウイルスに対し、高いウイルス不活性化作用を示した。
現在、ヒトノロウイルスは、培養細胞を用いても増殖させることができない。そのため、ノロウイルスの不活性化に対する検証には、代替ウイルスとしてネコカリシウイルス及びマウスノロウイルスが広く用いられている。
表1に示す結果より、各実施例に係るウイルス不活性化剤は、ヒトノロウイルスに対しても高いウイルス不活性化作用を示すと予測される。
【0049】
また、表1に示すように、実施例1〜5に係るウイルス不活性化剤の噴霧後の跡残り評価は良好であった。
そのため、実施例1〜5に係るウイルス不活性化剤を噴霧して用いる場合には、噴霧後のウイルス不活性化剤の跡残りをほとんど気にしなくてもよいことが示された。
【解決手段】エタノールと、酸剤とを含むウイルス不活性化剤であって、上記酸剤は、クエン酸、酒石酸、及び、リン酸からなる群から選択される少なくとも2種の酸であり、上記ウイルス不活性化剤のpHは、1.0〜6.0であることを特徴とするウイルス不活性化剤。