特許第6234664号(P6234664)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6234664
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】圧電磁器組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/475 20060101AFI20171113BHJP
   H01L 41/187 20060101ALI20171113BHJP
   G01L 1/16 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   C04B35/475
   H01L41/187
   G01L1/16 A
【請求項の数】19
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2012-131444(P2012-131444)
(22)【出願日】2012年6月10日
(65)【公開番号】特開2013-256394(P2013-256394A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2015年6月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000154196
【氏名又は名称】株式会社富士セラミックス
(74)【代理人】
【識別番号】100079979
【弁理士】
【氏名又は名称】志水 浩
(72)【発明者】
【氏名】田上 究
(72)【発明者】
【氏名】久保佳信
(72)【発明者】
【氏名】福島利博
(72)【発明者】
【氏名】加藤和昭
【審査官】 磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−048825(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/122916(WO,A1)
【文献】 特開2010−013295(JP,A)
【文献】 特開2010−030832(JP,A)
【文献】 特開平11−029356(JP,A)
【文献】 特開2001−158663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/475
G01L 1/16
H01L 41/187
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧力と減圧力に対し電荷の発生傾向が異なる2種のA成分、B成分からなる磁器組成物
(1−y){(Na0.5 ,Bi0.51−xBiTi15+zWt%Mn}をA成分、(y)SrBiTi15をB成分とする。
ここで、yは質量割合
M:Ca、Sr、Ba、Raからなる少なくとも1つのアルカリ土類金属
及び(K0.5 ,Bi0.5
0<x<1
0.05≦y≦0.4
0.1≦z≦0.4
において、それぞれの成分を仮焼き粉体とする工程、前記仮焼粉体をx、y及びzそれぞれの配合比で調合、混合、整粒及び成型させ、これを焼成後分極用導電性樹脂電極を作製し、この樹脂を分極後除去してその上で圧電出力検出用電極を付与させた、計測周波数10Hzで測定したとき、少なくとも20pC/N以上35pC/N以下の等価圧電定数d33を有するヒステリシスを±0.1%以内とする圧電磁器組成物。
【請求項2】
前記xが 0<x≦0.5である請求項1記載の圧電磁器組成物。
【請求項3】
前記xが 0<x≦0.1である請求項1記載の圧電磁器組成物。
【請求項4】
前記xが 0.3≦x≦0.5である請求項1記載の圧電磁器組成物。
【請求項5】
前記yが0.05≦y≦0.2である請求項1記載の圧電磁器組成物。
【請求項6】
前記xが 0<x≦0.1 かつ前記yが0.05≦y≦0.2である請求項1記載の圧電磁器組成物。
【請求項7】
前記zが 0.2Wt%Mnである請求項1記載の圧電磁器組成物。
【請求項8】
前記xが 0<x≦0.1、前記yが0.05≦y≦0.2、かつ、前記zが 0.2Wt%Mnである請求項1又は請求項7記載の圧電磁器組成物。
【請求項9】
前記MがCa、Sr、Baからなる少なくとも1つのアルカリ土類金属である請求項1記載の圧電磁器組成物。
【請求項10】
加圧力と減圧力に対し電荷の発生傾向が異なる2種のA成分、B成分からなる磁器組成物
(1−y){(Na0.5 ,Bi0.51−xBiTi15+zWt%Mn}をA成分、(y)SrBiTi15をB成分とする。
ここで、yは質量割合
M:Ca、Sr、Ba、Raからなる少なくとも1つのアルカリ土類金属
及び(K0.5 ,Bi0.5
0<x<1
0.05≦y≦0.4
0.1≦z≦0.4
において、それぞれの成分を仮焼き粉体とする工程、前記仮焼粉体をx、yそれぞれの配合比で調合、混合、整粒及び成型する工程、これを焼成する工程、焼成後分極用導電性樹脂電極作製工程、この樹脂を分極後除去する工程、その上で圧電出力検出用電極を付与する工程の一連を行い、計測周波数10Hzで測定したとき、少なくとも20pC/N以上35pC/N以下の等価圧電定数d33を有するヒステリシスを±0.1%以内とする圧電磁器組成物の製造方法。
【請求項11】
前記焼成後分極において電極材料の構成物の拡散防止用導電性樹脂を用いて電極形成を行う工程からなる請求項10記載の圧電磁器組成物の製造方法。
【請求項12】
前記拡散防止用導電性樹脂を分極後除去する工程後、電極材料として分極状態の性能劣化をさせない耐熱性のあるキュリー温度以下で焼成可能な焼成タイプの電極材料として銀粉末入りの水溶性導電性樹脂材料を用いる工程からなる請求項10記載の圧電磁器組成物の製造方法。
【請求項13】
前記xが 0<x≦0.5である請求項10記載の圧電磁器組成物の製造方法。
【請求項14】
前記xが 0<x≦0.1である請求項10記載の圧電磁器組成物の製造方法。
【請求項15】
前記xが 0.3≦x≦0.5である請求項10記載の圧電磁器組成物の製造方法。
【請求項16】
前記yが0.05≦y≦0.2である請求項10記載の圧電磁器組成物の製造方法。
【請求項17】
前記xが 0<x≦0.1 かつ前記yが0.05≦y≦0.2である請求項10記載の圧電磁器組成物の製造方法。
【請求項18】
前記zが 0.2Wt%Mnである請求項10又は請求項17記載の圧電磁器組成物の製造方法。
【請求項19】
前記MがCa、Sr、Baからなる少なくとも1つのアルカリ土類金属である請求項1記載の圧電磁器組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電磁器組成物及びその製造方法、特に圧力に対する発生電荷量の低ヒステリシス、かつ、大きな等価圧電定数を有する圧力検知に好適な圧電磁器組成物及びその製造方法に関する。また、本発明における「特定範囲内の等価圧電定数を有する」とは、等価圧電定数d33として少なくとも20pC/N以上35pC/N以下と定義する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧力検知素材として水晶や強誘電特性のある圧電磁器組成物が用いられてきた。前者の水晶はヒステリシスが”0”(以下「ゼロ」という)であるが、等価圧電定数(d33)は極めて低く(約2pC/N)、圧力検知に好適な素材とは言えなかった。
後者の強誘電特性のある圧電磁器組成物では、後述する本発明のような組成物での等価圧電定数(d33)が大きく、かつ、低ヒステリシス特性に着目した特許文献1ないし3及び非特許文献1が知られている。しかしながら、これら従来技術では、本発明のような作用効果を具備した圧電磁器組成物は得られていなかった。
【0003】
特許文献1によれば、圧力に対する発生電荷量について「・・ヒステリシスの発生もない。」(0011)との記載が認められる。また、図3においてヒステリシスの大きさについて、Mnの作用効果を挙げているが(0018)、そこには「Mnの量が0.02重量%より少ないと感度が急激に低下し、Mnの量が0.25重量%を超えると急激にヒステリシスが生じることが明らか」でありとの記載が認められる。さらに、同発明の構成として「マンガンがMnOとして0.02〜0.25重量%含有されていることを特徴とするビスマス層状化合物」を請求項に挙げている。これは明らかに、同特許文献1に示された「高感度と低ヒステリシスを両立できること」の作用効果を発揮しているものとは認められない。したがって、「ヒステリシスを生じることなく感度を向上できる。」旨の記載はあるがこれらは、低ヒステリシスについてMnによる作用効果を挙げているだけでヒステリシスに関して課題解決を図ったものではない。
【0004】
その理由は、Mnのみならず他の成分、(Sr1−2xNaBi4+x)Ti15からなる強誘電体組成物は、本来ヒステリシスを有し、xの量によりその結晶構造が変化することでヒステリシス、感度も変化する。また、ヒステリシスや感度は、その評価のために付与される電極材料構成物質の内部拡散による影響を含んだ構成組成物の状態で決定される特性でもある。よって、これらを包含した作用効果により低ヒステリシスと高感度を達成できるものであり、本発明によってのみ課題解決が図られるものである。
【0005】
また、特許文献2によれば、ヒステリシスを定義して本発明の組成式と異なる組成式
BiTi12・α[(1−β)MTiO+βBiFeO]にて圧電特性の課題を解決している旨記載されている。
同特許文献2による課題解決策は、「Mnの量はMnO換算で0.1質量部以下であることが好ましい。MnO換算のMn量が0.1質量部より多いと、ヒステリシスが大きくなるおそれがある。」(0033)との記載も認められる。
しかしながら、本発明は、Mnの量はzwt%(zとしては0.1〜0.4wt%)(ビスマス層状化合物の主成分[(Na0.5 ,Bi0.51−xBiTi15]の100質量部に対するwt%と定義する。)である。この範囲は同特許文献には否定された範囲内で課題解決を図ったものであり、本発明によってのみ課題解決が図られるものである。主たる組成が異なることは結晶構造も異なることである。よって、本発明とMnの効果も同じになるとは言えない。
【0006】
特許文献3によれば、ヒステリシスについて、本発明の組成式と異なる組成式・・
BiTi12・α[(1−β)M1TiO・βM2M3O
にて圧電特性の課題が解決されている。また、同特許文献3表1によれば、試料26,47では、d33は20以上、ヒステリシスは0.11となっており、これに近い7、18ではd33は16、19、ヒステリシスは0.12程との記載が認められる。
【0007】
同特許文献3で、また、「VをV換算では0.1〜1.5質量部含有する、試料番号、No.3〜10、12〜14、16〜19、23〜29、31〜38、40、41、43、44および46〜49は、ヒステリシスが0.98%以下と非常に小さく、また、動的圧電定数(等価圧電定数の意味)d33が15.1pC/N以上を有し、25℃の動的圧電定数d33に対する−40および150℃の動的圧電定数d33の変化も±5%以内になった。」(0049)との記載が認められる。すなわち、酸化バナジウム(V)を加えることで同特許文献3の課題解決を図っている。
【0008】
しかしながら、酸化バナジウムを必須とした点、「Mnの量はMnO換算で0.1質量部以下であることが好ましい。MnO換算のMn量が0.1質量部より多いと、ヒステリシスが大きくなるおそれがある。」(0033)との記載も認められる本発明にあっては、後述するように、前記Mn量をより多量に入れたとしてもヒステリシスを小さく抑えて課題解決を図ったものである。
【0009】
非特許文献1によれば、本発明の圧電磁器組成物と同様な磁器組成物が明示されている。この文献は、パイロ効果を評価した文献であり、圧電特性について結論(Conclusion)の項でマンガンを添加した(Na0.5 ,Bi0.51−xCaBiTi15系組成物の特性の記載がある。
しかしながら、水晶に比べ高い圧電特性が得られたことは明記されているがヒステリシスに関する記載はない。なお、同非特許文献1に付言すれば、特にカルシウムで修飾されたビスマス層状化合物についての記載が認められる。ここでは、マンガンを添加したことで高いキュリー温度(Tc=660〜680℃)で低比誘電率(〜130)、高い電気機械結合係数(k33=30〜40%)、高い異方性(k33/k31=13〜17%)を持ち焦電センサ材料として優れて作用効果を挙げている。
【0010】
上記各文献にはそれぞれ次の解決課題があった。前述の3事例の製造方法は、ほぼ同じである。また、電極材料種についても圧電磁器組成物への拡散によるヒステリシスに与える影響についての言及はない。言い換えるとこの電極材料種についても圧電磁器組成物への拡散が課題解決として重要であることである。本発明はこれらの拡散状態を含めて圧電磁器組成物の材料組成及び製造手段を提供するにある。
【0011】
特に圧力に対する発生電荷量の低ヒステリシスとしてゼロ近傍を得るためには、後述するように主に材料組成、電極材料によって決定される。特に電極材料とその付与方法は、圧電磁器組成物へ大きく影響を与える。これは、電極材料を構成している組成物については、その付与条件と材料内への拡散が磁器組成物の性状を変化させるためことである。この組成物はヒステリシスの変化、絶縁抵抗を変化させる。このように拡散の影響に配慮した製造方法が重要であり、本発明により提供される。
従来、電極構成物の拡散を少なくする手段としては、電極材料及びその付与方法については、メッキ、スパッタリング、蒸着などの物理的固着方法が一般的であった。
これらは、設備、治工具等を含め製造条件における制約が大きくなり、製造コストも高くなる傾向にあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平6−48825号公報
【特許文献2】特開2009−221066号公報
【特許文献3】特開2010−13295号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Takenaka et al, Pyroelectric Properties of Bismuth layer-structured ferroelectric ceramics, Ferroelectrics,118,p123-133(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明はかかる事情に鑑みなされたものであり、圧電磁器組成物及びその製造方法、特に圧力に対する発生電荷量の低ヒステリシス、かつ、特定範囲内の等価圧電定数を有する圧力検知に好適な圧電磁器組成物及びその製造方法を提供しようとするものである。また本発明における「特定範囲内の等価圧電定数」とは計測周波数10Hzで測定したとき、少なくとも20pC/N以上35pC/N以下の等価圧電定数d33と定義する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、加圧力と減圧力に対し電荷の発生傾向が異なる2種のA成分、B成分からなる磁器組成物
(1−y){(Na0.5 ,Bi0.51−xBiTi15+zWt%Mn}をA成分、(y)SrBiTi15をB成分とする。
ここで、yは質量割合
M:Ca、Sr、Ba、Raからなる少なくとも1つのアルカリ土類金属
及び(K0.5 ,Bi0.5
0<x<1
0.05≦y≦0.4
0.1≦z≦0.4
において、それぞれの成分を仮焼き粉体とする工程、前記仮焼粉体をx、y及びzそれぞれの配合比で調合、混合、整粒及び成型させ、これを焼成後分極用導電性樹脂電極を作製し、この樹脂を分極後除去してその上で圧電出力検出用電極を付与させた、計測周波数10Hzで測定したとき、少なくとも20pC/N以上35pC/N以下の等価圧電定数d33を有するヒステリシスを±0.1%以内とする圧電磁器組成物により提供される。
【0016】
また、前記xが 0<x≦0.5である場合、xが 0<x≦0.1である場合、xが 0.3≦x≦0.5である場合に、前記記載の圧電磁器組成物により、さらに、前記yが0.05≦y≦0.2である前記記載の圧電磁器組成物により提供される。さらにまた、前記xが 0<x≦0.1かつ前記yが 0.05≦y≦0.2である前記記載の圧電磁器組成物により提供される。
さらにまた、前記zが 0.2Wt%Mnである前記記載の圧電磁器組成物により効果的に提供される。また、前記MがCa、Sr、Baからなる少なくとも1つのアルカリ土類金属である前記記載の圧電磁器組成物により効果的に提供される。
【0017】
本発明の製造方法として、加圧力と減圧力に対し電荷の発生傾向が異なる2種のA成分、B成分からなる磁器組成物
(1−y){(Na0.5 ,Bi0.51−xBiTi15+zWt%Mn}をA成分、(y)SrBiTi15をB成分とする。
ここで、yは質量割合
M:Ca、Sr、Ba、Raからなる少なくとも1つのアルカリ土類金属
及び(K0.5 ,Bi0.5
0<x<1
0.05≦y≦0.4
0.1≦z≦0.4
において、それぞれの成分を仮焼き粉体とする工程、前記仮焼粉体をx、yそれぞれの配合比で調合、混合、整粒及び成型する工程、これを焼成する工程、焼成後分極用導電性樹脂電極作製工程、この樹脂を分極後除去する工程、その上で圧電出力検出用電極を付与する工程の一連を行い、計測周波数10Hzで測定したとき、少なくとも20pC/N以上35pC/N以下の等価圧電定数d33を有するヒステリシスを±0.1%以内とする圧電磁器組成物の製造方法により提供される。
【0018】
また、前記焼成後分極において電極材料の構成物の拡散防止用導電性樹脂を用いて電極形成を行う工程からなる前記記載の圧電磁器組成物の製造方法により提供される。
さらに、前記拡散防止用導電性樹脂を分極後除去する工程後、電極材料として分極状態の性能劣化をさせない耐熱性のあるキュリー温度以下で焼成可能な焼成タイプの電極材料として銀粉末入りの水溶性導電性樹脂材料を用いる工程からなる前記記載の圧電磁器組成物の製造方法により提供される。
【0019】
また、前記xが 0<x≦0.5である場合、xが 0<x≦0.1である場合、xが 0.3≦x≦0.5である場合に、前記記載の圧電磁器組成物の製造方法により提供される。さらに、前記yが0.05≦y≦0.2である場合、前記xが 0<x≦0.1かつ前記yが 0.05≦y≦0.2である場合に、前記記載の圧電磁器組成物の製造方法により効果的に提供される。
さらにまた、前記zが 0.2Wt%Mnである前記記載の圧電磁器組成物の製造方法により提供される。また、前記MがCa、Sr、Baからなる少なくとも1つのアルカリ土類金属である前記記載の圧電磁器組成物の製造方法により効果的に提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、導電性樹脂系材料を印刷塗布、乾燥後、素子の分極処理を行った後、これら樹脂を水、有機溶剤等で除去し、電極の耐熱性を付与させるため新たな電極材料を圧電磁器組成物のキュリー温度以下で付けることで圧電磁器組成物の電極構成物による変性を無くすことができた。これにより、計測周波数10Hzで測定したとき、少なくとも20pC/N以上35pC/N以下の等価圧電定数d33を有するヒステリシスを±0.1%以内とする圧電磁器組成物のヒステリシスを最小にすることが可能となった。
【0021】
また、発生電荷量のヒステリシスは、圧力を増圧する場合と減圧する場合で発生電荷量の大小関係が異なる場合がある。例えば、発生電荷量が増圧するときの電荷量>減圧するときの電荷量となる圧電磁器組成物と発生電荷量が増圧するときの電荷量<減圧するときの電荷量となる圧電磁器組成物がある。加圧力と減圧力に対し電荷の発生傾向が異なる2種のA成分、B成分からなる磁器組成物を、それぞれの成分で仮焼き粉体とし、前記仮焼粉体をx、y及びzそれぞれの配合比で調合、混合、整粒及び成型させ、これを焼成後分極用導電性樹脂電極を作製し、この樹脂を分極後除去してその上で圧電出力検出用電極を付与させ、計測周波数10Hzで測定したとき、少なくとも20pC/N以上35pC/N以下の等価圧電定数d33を有するヒステリシスが±0.1%以内とする圧電磁器組成物及びその製造方法を提供できた。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は本発明のヒステリシスの概念を説明するための図。
図2図2は圧力により発生する電荷量の様子を示した説明図。
図3図3図2の説明図の拡大部分を示した図。
図4図4は圧力により発生する電荷量の様子を示した説明図。
図5図5図4の説明図の拡大部分を示した図。
図6図6はヒステリシス値の計測装置。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される構成、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施をするための形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。以下、本発明を図1ないし図6を用いて具体的に説明する。
【0024】
図1は本発明のヒステリシス値の定義を説明するための図である。横軸を圧力、縦軸を発生電荷量Qとした圧力−発生電荷量の関係図である。圧力(N)と発生電荷量Q(pC)それらのゼロとなる原点a、圧力(N)と発生電荷量Qの双方の最大点bが示され、図には上側曲線と下側曲線を原点aと最大点bとの間に描いている。この2つの曲線はいわゆる圧電磁器組成物、磁性体らに見られるヒステリシスの様子を表したものである。
【0025】
下側曲線1は原点a、圧力の中間点d及び最大点bとの間を圧力(N)を増加させることで発生する発生電荷量Qとの関係で描かれている(図の上向き矢印3)。他方、上側曲線2は最大点b、圧力の中間点c及び原点aとの間で圧力(N)を減少させたとき発生する発生電荷量Qとの関係が描かれている(図の下向き矢印4)。ヒステリシスはこれら圧力の中間点c、dの間(図の上下間)の大きさとして求められる。水晶のような例ではこのヒステリシスの幅はゼロとして表される。しかしながら、一般に圧電磁器は特有のヒステリシス現象が発生しこの幅は大きくなっている。
【0026】
具体的には、本発明におけるヒステリシス値を以下のように定義する。前記最大点bにおける圧力(N)をFmax、発生電荷量Q(pC)をQmaxとする。圧力(N)の中間点における発生電荷量Q(pC)を上側の曲線2の中間点cのときQdown、下側の曲線1の中間点dのときQupとすると、ヒステリシス値HyQ(%)は次式(1)で表される。
HyQ(%)=(Qdown−Qup)/Qmax×100 (1)
ここで・・
Qmax:最大の圧力(N)のときに発生した電荷量Q(pC)
Qup:圧力を増加させるときに最大の圧力(Fmax)の1/2圧力(=Fmax/2)で発生したd点における電荷量Q(pC)
Qdown:圧力を減少させるときに最大の圧力(Fmax)の1/2圧力(=Fmax/2)で発生したc点における電荷量Q(pC)
とする。
【0027】
本発明にあっては、実質的にヒステリシス値HyQ=0となる範囲としてヒステリシス値HyQを、
|HyQ|≦0.1% (2)
の範囲を得るべく鋭意研究の上以下の組成及びその製造方法により課題解決を図ったものである。また、(2)式ではHyQ(%)はプラス及びマイナスの範囲として表され、
QdownからQupを引くときそれが正ならプラス、すなわち、Qdown>Qupということになる。負ならこの逆でマイナス(Qdown<Qup)ということになる。詳細は以下に述べるが、ヒステリシス値(HyQ)はこの定義に従い説明する。
【0028】
次に、ヒステリシス値(HyQ)のプラスマイナスが発生する様子を図3及び図5として表したものである。ここで、図2及び図4は圧力Nにより発生する電荷量Q(pC)の様子を示した説明図である。これらの図ではヒステリシス値(HyQ)が極めて微小な場合には上側及び下側曲線は重なり、ほぼ直線状態を呈する。このうち図2では、圧力50Nで発生電荷量Q(約1130pC)となっている。
【0029】
図3は前記図2の圧力の中間点付近を拡大表示(expa部分)した場合を示したものである。図3によれば、圧力=24.8Nで、発生電荷量Q(約572pC)から、上向曲線1(図の上向き矢印3の点線Qup)が示され、その関係はほぼ直線に増加していく。他方、圧力(N)=24.8Nで、発生電荷量Q(約595pC)から、圧力を徐々に減少させていく下向曲線2(図の下向き矢印4の実線Qdown)が示され、ほぼ直線的に減少していく。
【0030】
そして、圧力(N)=24.2Nで、発生電荷量Q(約580pC)となり、Qdown>Qupの状態を呈しヒステリシス値(HyQ)はプラスの値として計算される。この直線変化をより詳細に確認すると、図2では認められなかった、圧力(N)の最大値の半分部分では、図3のような拡大図(expa)で見られるヒステリシスの様子を観察することができる。
【0031】
次に、図4図2のようにヒステリシス値(HyQ)が極めて微小な場合には上側及び下側曲線は重なり、ほぼ直線状態を呈している。この例では、圧力(N)=50Nで発生電荷量Q(約1250pC)となっている。図5図4の前記圧力の中間点付近を拡大表示(expa部分)した場合である。図5によれば、図4の拡大表示(expa部分)の例では、圧力=25.6Nで、発生電荷量Q(約636pC)から、上向曲線1(図の上向き矢印3の点線Qup)が示され、その関係はほぼ直線に増加していく。
【0032】
他方、圧力(N)=26.2N、発生電荷量Q(約646pC)から圧力Nを徐々に減少させていくと(図の下向き矢印4の実線Qdown)、発生電荷量Qは上側の曲線1と同様曲線2のカーブのように直線的に減少していく。そして、圧力N=25.6Nで、発生電荷量Q(約632pC)となる。この様子は図3と同様な様子として示されている。
また、図5図3に比べ、Qup>Qdownの状態を呈しヒステリシス値(HyQ)はマイナスの値として計算される。
【0033】
図6は圧力(N)と発生電荷量(pC)におけるヒステリシス計測装置18を示したものである。圧電磁器組成物5は上部コンタクト治具6と下部コンタクト治具7によりサンドイッチされ取り付けられている。上部コンタクト治具6は、精密圧力印加用アクチュエータ8、接続リニアガイド11を介してバイアス圧力印加用モータ12に取り付けられている。下部コンタクト治具7は、精密圧力計測用水晶フォースセンサ9を介してバイアス圧力計測用ロードセル10に取り付けられている。
【0034】
演算処理波形表示条件入力用コンピュータ13は電源制御装置14、ケーブル17を介してバイアス圧力印加用モータ12に接続されている。同様に、演算処理波形表示条件入力用コンピュータ13はチャージアンプ15に接続され上部コンタクト治具6と下部コンタクト治具7を介して圧電磁器組成物5からの出力を表示させる。他方、精密圧力計測用水晶フォースセンサ9及びバイアス圧力計測用ロードセル10はアンプ信号計測器16を介して演算処理波形表示条件入力用コンピュータ13に接続されている。
【0035】
これらにより、圧力(N)と発生電荷量Q(pC)について図6に示すヒステリシス計測装置18を用いて、動作説明及びヒステリシス値を計算処理について説明する。
計算に必要な信号は、精密圧力計測用水晶フォースセンサ9の信号、(圧力(N)とチャージアンプ15の信号(発生電荷量:pC)である。
ヒステリシス計測装置18において測定試料5(圧電磁器組成物)は上部コンタクト治具6と下部コンタクト治具7によりサンドイッチされ取り付ける。
【0036】
測定試料5をセット後、精密圧力印加用アクチュエータ8を連続的に一定の周波数(標準は10Hz)で駆動させる。駆動開始から2秒後に一周期の圧力信号と発生電荷量信号のデータ(2000ポイント)を図示しないPCに取り込む。このデータを用い、演算処理をする。
【0037】
以下図1を参照して説明する。最大の圧力(N)のとき(図1のb点)の発生電荷量Qmax(pC)から等価圧電定数(d33)を求める。
次に最大圧力の1/2の圧力値(Fmax/2、図1のd点)を決める。
圧力を増す場合の例(図1の矢印3)では、1/2の圧力値(Fmax/2)に最も近い上と下の圧力値の2ポイントを決める。点d(Fmax/2)を2ポイント間の比例配分比で決める。同じ比例配分比で(図1のd点)、すなわち、点dにおける発生電荷量Qを決める。この発生電荷量がQupとなる。
【0038】
同様に圧力を減じる場合の例(図1の矢印4)では最大圧力の1/2の圧力値(図1のc点)の発生電荷量Qdownを決める。これらよりヒステリシスHyQが(1)式により計算される。
以上より1回目(n=1)のd33とHyQが得られる。
演算終了後、再度、同様に一周期のサンプリングを行い演算処理をする。これを50回(n=50)まで繰り返す。
得られた50回のデータを算術平均して被測定物のd33とHyQを決定する。有効数字としては、得られたd33(pC/N)の小数点以下2桁、HyQ(%)の3桁を採用した。
【0039】
本発明により作製される圧電磁器組成物及びその製造方法について詳細に述べる。
本発明の電極材料の影響を少なくするための工夫につき予め説明しておきたい。
強誘電体磁器組成物は理想的にはヒステリシス値がゼロが望ましい。しかしながら、組成物、その製法は極めて高度な条件、さらにコスト面対策をクリアしなければならない。そこで、性能的に充分な性能確保を図り、かつ、前記の対策にも合致した組成物及びその製造方法を達成するための条件を鋭意研究することにより本発明の圧電磁器組成物及びその製造方法を得ることができた。
【0040】
まず、ヒステリシス値としては、使用可能な範囲として、|HyQ|≦0.1%とするためにこれに影響を与える因子は(1)磁器組成物への電極材料及びその付与方法、(2)磁器組成物自体の開発とその製造条件の開発に検討を加えてきた。
【0041】
そこで、まず、(1)圧電磁器組成物への電極材料及びその付与方法につき述べる。
圧電磁器組成物に貼着される電極材料、すなわちその構成物については圧電磁器組成物への拡散を出来る限り抑制しなければならない。その理由は、電極材料が高温(700℃〜900℃)で焼き付けるには、特にガラスフリット成分が組成物内に微量ではあるが拡散する。この拡散により組成物の組成が変化し圧電磁器組成物の性状を変化させることがある。
【0042】
また、圧電磁器組成物のキュリー温度と絶縁性も課題となる。これは、強誘電体(強磁性体)が強誘電性(強磁性)を失う(転移)温度を指すが、圧電磁器組成物であるビスマス層状化合物はキュリー温度が高く、なおかつ、抗電界も高いため高温度(200℃近傍)、高電界(50kV/cm以上)での分極処理が必要である。このため圧電磁器組成物として高い絶縁性を有しなければならない。
【0043】
また、電極材料は一般的に使用される高温焼成(700℃以上)タイプで、その構成物は貴金属材料とガラスフリットから成る。このガラスフリットで貴金属材料を固着させている。また、ガラスフリットは、圧電磁器組成物内部に拡散して組成物の物性を変化させることがある。その結果、絶縁性に大きな影響を与え、これによりヒステリシスにも大きな影響も生ずる。このため圧電磁器組成物に用いる電極材料としての適合性を考慮しなければならない課題があった。
【0044】
本発明では、この解決策として、電極材料の構成物の拡散防止のため導電性樹脂を用いて電極形成を行い分極処理する方法を試みた。また、本発明の圧電磁器組成物の用途としては耐熱性が必要とする背景がある。したがって、一般的な導電性樹脂では耐熱性が得られないことも事実であった。
【0045】
そこで、導電性樹脂を除去したのち、これに代わる電極材料として分極状態の性能劣化をさせない耐熱性のあるキュリー温度以下で焼成可能な焼成タイプの電極材料を開発してこの課題を解決した。すなわち、後述する分極用電極材料として銀粉末入りの水溶性導電性樹脂材料を用いることで解決した。
【0046】
この電極材料を使うことで素子上の電極の耐熱性を得ることができた。電極の形成は、スクリーン印刷用具、手塗り用具(刷毛、筆等)にて素子上に電極ペーストを塗布する。
熱風ドライヤー、オーブン等で塗布面を乾燥する。500℃程度が得られるオーブン、焼き付け炉等で焼成する。このように、電極材料及びその付与方法の開発で圧電特性(d33)の低下とヒステリシスを損ねることない本発明の課題に合致した圧電磁器組成物及びその製造方法を提供できる目安を見いだすことが可能となった。
【0047】
このように、焼成可能な焼成タイプの電極材料及び電極形成方法を用いることにより、後述する本発明の組成物には特に、さらに、既知の圧電磁器組成物であっても高価な電極形成設備や高価な電極材料を利用しなくても製造が可能となる。
【0048】
さらに、(2)の圧電磁器組成物自体の開発とその製造条件については、次の実施例で詳細に説明する。
【実施例1】
【0049】
本発明の圧電磁器組成物につき説明する。ヒステリシス値の前記範囲での組成物としては、圧電磁器組成物に与える圧力Nを増加させる加圧力と圧力最大から圧力を減少させる減圧力に対し発生電荷量Qの発生傾向が異なる2種の圧電磁器組成物の組み合わせることに着目した。すなわち、圧電磁器組成物の2種[磁器組成物(A)及び磁器組成物(B)]をそれぞれの成分で仮焼き粉体とし、それぞれの配合比で調合、混合、整粒及び成型させ、これを焼成後分極用導電性樹脂電極を作製し、この樹脂を分極後除去してその上で圧電出力検出用電極を付与させた、特定範囲内の等価圧電定数を有する圧力Nに対する発生電荷量Qのヒステリシスを±0.1%以内とする圧電磁器組成物が得られた。
【0050】
磁器組成素材(A)及び磁器組成物(B)の選択
磁器組成物(A)及び磁器組成物(B)の圧電的性質として等価圧電定数(d33)及び印加圧力をサイン波波形で50Nの交番圧力、その周波数は0.5〜50Hzにおけるヒステリシス値(HyQ)が表1のような特性をもつ磁器組成物(A)及び磁器組成物(B)を選択した。
【0051】
【表1】


【0052】
(1)ヒステリシス値HyQがプラスである磁器組成物(A)の選択。
すなわち、図3のようなQdown>Qupの性質を有する組成物(A)として、
(1−y){(Na0.5 ,Bi0.51−xBiTi15+zWt%Mn}
M:アルカリ土類金属及び(K0.5 ,Bi0.5
(2)ヒステリシス値HyQがマイナスである磁器組成物(B)の選択。
すなわち、図5のような、Qdown<Qupの性質を有する(B)として、
(y)SrBiTi15を用いた。
【0053】
この(A)及び(B)からなる2種の磁器組成物は次のとおり製造した。
磁器組成物(A)及び磁器組成物(B)個々に組成式に従い原料を調合する。原料は、3N以上の高純度の各元素の炭酸塩、酸化物を使用した。所定の温度(800℃)で仮焼きを行い磁器組成物(A)、磁器組成物(B)の仮焼き粉体を作製した。磁器組成物(A)と磁器組成物(B)の仮焼き温度は、異なっていても良い。
【0054】
次に得られた各仮焼き粉体を所定の表2の配合比で調合し、ボールミル、乾式粉体混合機等で混合した。
混合した粉体をボールミル等により粒度D50=0.5ミクロンメーター程度に粒度調整を行った。
成型のためポリビニルアルコール等の有機バインダーを加えスプレードライヤーにて整粒した。
試料作製は外形4mm程度、厚さ1mm程度に成型した。この後、焼成する。焼成温度は、1100〜1150℃で2時間キープする。昇降温度速度は100℃/時間程度とした。
【0055】
磁器組成物(A)でヒステリシス値(HyQ)のプラスが得られる焼成温度とした。プラスが得られる焼成温度条件としては、約1120〜1160℃、好ましくは1140℃程度が適当である。
試料の表面状態によりヒステリシスが変化するので一定に保つため#2000以上研磨剤で研磨又は鏡面とする。厚さ0.5mmとしたが、要は焼成状態が維持できる厚さであれば制限はない。
【0056】
次に、分極のため水溶性導電性樹脂をスクリーン印刷した。その条件としては、厚み20μm、乾燥可能な温度100℃で乾燥させた。
分極は、シリコンオイル中160℃、6kV/mmで5分間実施した。
分極後導電性樹脂を 水、エタノール、イソプロピルアルコールなどの適当な溶剤で除去する。
電極に耐熱性を持たせるため銀電極ペーストをスクリーン印刷し、乾燥後、得られた圧電磁器組成物のキュリー温度以下で電極を焼き付けた。
【0057】
得られた試料は、等価圧電定数、ヒステリシス値計測を図6に示す装置で行った。
計測のため圧電磁器組成物に加えるバイアス圧縮圧力は250N、最大圧力は300Nとし、印加圧力は、サイン波波形で50Nの交番圧力を加える。その周波数は、0.5Hzから50Hzとした。具体的には、0.5、1、5、10、15、25、50Hzで実施した。
【0058】
実施例1における製造例として磁器組成物(A)及び磁器組成物(B)の配合比は表2に示すとおりで行った。
ヒステリシス値HyQがプラスとなる磁器組成物(A)として、以下によった。
(1−y){(Na0.5 ,Bi0.51−xBiTi15+zWt%Mn}をA成分、すなわち、yをパラメータとして変化させ、x=0.05、z=0.2とした。
ヒステリシス値HyQがマイナスとなる磁器組成物(B)として、以下によった。
(y)SrBiTi15
【0059】
得られた、磁器組成物(A)、磁器組成物(B)個々の等価圧電定数d33とヒステリシス値HyQを表1に示した。すなわち、磁器組成物(A)では、等価圧電定数d33は23.1pC/N、ヒステリシス値HyQは0.18〜1.76のプラス値、磁器組成物(B)では等価圧電定数d33は10.9pC/N、ヒステリシス値HyQは21〜44のマイナス値を示している。なお、ヒステリシス値は0.5〜50Hzの周波数範囲で、図6のd33−ヒステリシス評価装置18で測定した。
【0060】
この結果からも明らかなように前記磁器組成物(A)を選択することで、ヒステリシス値HyQをプラス、前記磁器組成物(B)を選択することで、HyQをマイナスとなる磁器組成物であることが認められる。
【0061】
これらの磁器組成物(A)、磁器組成物(B)は以下の条件で作製した。
使用原料は、純度3Nの酸化ビスマス、酸化チタン、酸化マンガン、炭酸ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウムを使用した。
磁器組成物(A)、磁器組成物(B)は個々の組成式に従い、原料を別々に秤量し、調合した。さらに、それぞれを別々に室温にて乾式混合機にて1時間混合した。各混合品の仮焼成は、800℃ 2時間キープで行った。
磁器組成物(A)、磁器組成物(B)の仮焼成粉体は表2の各配合比(重量%)で分取し、混合した。
【0062】
表2における5種類の混合した組成物は、以下の条件、手順にてそれぞれの試料を作製した。混合組成物は、ジルコニア玉石、イオン交換水、界面活性剤をボールミルに入れ粗粉砕を1時間行った。
そのスラリーをメディア式粉砕機にて粒度をD50=0.5ミクロンメーターに調整した。PVAを1wt%添加し、スプレードライヤーにて整粒した。
成型は、外形4mm、厚さ2.5mm、密度4.9g/ cm のディスク形状にした。
焼成は、1130℃、2時間キープでアルミナサヤを使用して行った。
厚さは、研磨剤#3000にて2mmの厚さに研磨した。
【0063】
分極用電極材料は、銀粉末入りの水溶性導電性樹脂材料(ナミックス社製、品番:H9184)を使用した。
分極は、シリコンオイル中にて160℃、12kV/mm、5分間行った。分極後、導電性樹脂を水で除去し、乾燥させた。その上で、新たな銀ペースト(フジ化学研究所社製、型式:低温焼結銀ペースト)を印刷、乾燥後、450℃10分キープで焼成した。
【0064】
【表2】


【0065】
製造例1〜製造例5
実施例1の方法により実施した。
x=0.05とし、yは0.05〜0.8と変化させた。
z=0.2、すなわち、0.2Wt%Mnとした。
【0066】
製造例1
実施例1の方法により実施した。
磁器組成物(A)、磁器組成物(B)の配合比は(A)が95%、(B)が5%とした。
【0067】
製造例2
実施例1の方法により実施した。
磁器組成物(A)、磁器組成物(B)の配合比は(A)が90%、(B)が10%とした。
【0068】
製造例3
実施例1の方法により実施した。
磁器組成物(A)、磁器組成物(B)の配合比は(A)が80%、(B)が20%とした。
【0069】
製造例4
実施例1の方法により実施した。
磁器組成物(A)、磁器組成物(B)の配合比は(A)が60%、(B)が40%とした。
【0070】
製造例5
実施例1の方法により実施した。
磁器組成物(A)、磁器組成物(B)の配合比は(A)が20%、(B)が80%とした。
【0071】
作製された磁器組成物(A)、磁器組成物(B)につき表2の配合比からなる試料(1〜5)のヒステリシス値HyQを測定した。
測定条件は、バイアス圧縮圧力250N、最大圧力300N、変化圧力範囲(Fp−p)50Nに設定した。計測した圧力変化の周波数は、0.5、1、5、10、15、25、50Hzとした。等価圧電定数d33は、10Hzで計測した。ヒステリシス値HyQは、各周波数で計測した。
【0072】
製造例1〜5の試料で得られた結果を表3に示した。
【0073】
【表3】

【0074】
(1)ヒステリシス値HyQがプラスである磁器組成物(A)の選択。
すなわち、図3のようなQdown>Qupの性質を有する組成物(A)として、
(1−y){(Na0.5 ,Bi0.51−xBiTi15+zWt%Mn}
M:アルカリ土類金属及び(K0.5 ,Bi0.5) 0<x≦0.1を用いた。
(2)ヒステリシス値HyQがマイナスである磁器組成物(B)の選択。
すなわち、図5のような、Qdown<Qupの性質を有する(B)として、
(y)SrBiTi15を用いた。
【実施例2】
【0075】
実施例1における磁器組成物(A)及び磁器組成物(B)の配合比パラメータyの値につき比較実験を行った。なお、x=0.05、z=0.2とした。
(1−y){(Na0.5 ,Bi0.51−xBiTi15+zWt%Mn}+ (y)SrBiTi15
【0076】
その結果は表3のヒステリシス値HyQ及び等価圧電定数d33として示されているとおりである。それによれば、0.05≦y≦0.4の範囲内(製造例1、2,3及び4)でヒステリシス値(HyQ)が、−0.1%≦ヒステリシス値(HyQ)≦0.1%となる結果が表3のいくつかの箇所で得られた。すなわち、製造例1で0.08%、製造例2で0.02%〜0.08%,製造例3で−0.0%〜+0.04%及び製造例4で−0.01%といった測定結果が確認された。
また、等価圧電定数d33も前記製造例1、2,3及び4で20.6〜22.8pC/Nが得られ、水晶の10倍となることが確認された。
【0077】
なお、製造例5(磁器組成物(A)が20%、磁器組成物(B)が80%の配合比)ではヒステリシス値が−1.1〜−4.9%で極めて大、等価圧電定数d33は4.5pC/Nで極めて小であり、本発明には使用は不可であった。
この結果yパラメータは0.05≦y≦0.4の範囲内が効果的であることが理解されよう。パラメータyは上記の範囲内であるが、yが0.05以下、また、0.4以上では等価圧電定数が小さくなる傾向となり製造例5では極めて小さく使用に耐えない。
【実施例3】
【0078】
実施例2では、パラメータyは特定の範囲内で変化させ、パラメータx(0.05)及びパラメータz(0.2Wt%Mn)を選択して実験した。その結果、0.05≦y≦0.4の範囲内が適当と判断された。
実施例3では、パラメータyを0.05≦y≦0.4の範囲内において、y=0.2、z=0.2として、パラメータxの値の本発明で使用できる範囲を実験で確かめた。結果は表4のとおりである。
【0079】
製造例6〜製造例10
実施例1の方法により実施した。
y=0.2、すなわち、磁器組成物(A)、磁器組成物(B)の配合比は(A)が80%、(B)が20%とした。
z=0.2、すなわち、0.2Wt%Mnとした。xの値は磁器組成物(A)における
{(Na0.5 ,Bi0.51−xBiTi15}に対する配合パラメータの変化を意味する。ここで「M」として「Ca」を用いた。
【0080】
製造例6
実施例1の方法により実施した。
x=0.025とした。
【0081】
製造例7
実施例1の方法により実施した。
x=0.1とした。
【0082】
製造例8
実施例1の方法により実施した。
x=0.4とした。
【0083】
製造例9
実施例1の方法により実施した。
x=0.5とした。
【0084】
製造例10
実施例1の方法により実施した。
x=0.7とした。
結果は表4のとおりである。製造例3も併せて記載した。
【0085】
【表4】



















【0086】
表4は、測定試料5をセット後、精密圧力印加用アクチュエータ8を連続的に一定の周波数(10Hz)で駆動させたときのヒステリシス値HyQ(%)として示した。それによれば、0<x<1の範囲内(製造例6、7及び製造例3)でヒステリシス値(HyQ)が、−0.1%≦ヒステリシス値(HyQ)≦0.1%となる範囲で3製造例で結果が認められる。すなわち、製造例6 0.05%、製造例7で−0.03%及び製造例3で−0.08%の結果となった。
また、xパラメータは0<x<1の範囲内、望ましくは0<x≦0.1の範囲内ではよりヒステリシス値を効果的に減少でき、実質的には無ヒステリシス(ヒステリシスゼロ)を期待できることが認められた。
【実施例4】
【0087】
実施例2及び実施例3では、パラメータzは特定の(0.2Wt%Mn)、パラメータxは(0.025−0.7)及びパラメータyは(0.05−0.4)の範囲で選択して実験した。
次に、パラメータxを0<x<1の範囲内、yを0.05≦y≦0.4の範囲内において、y=0.2固定し、パラメータzの値を変化させ、本発明で使用できる範囲を確認した。結果は表5のとおりである。
【0088】






















【0089】
表5は、表4と同様測定試料5をセット後、精密圧力印加用アクチュエータ8を連続的に一定の周波数(10Hz)で駆動させたときのヒステリシス値HyQ(%)及び等価圧電定数Nとして示した。それによれば、0.1≦z≦0.4の範囲内(製造例12〜14及び製造例3)でヒステリシス値(HyQ)が、−0.1%≦ヒステリシス値(HyQ)≦0.1%となる範囲で4製造例で結果が認められる。すなわち、製造例12で−0.09%、製造例13で0.00%、製造例14で0.10%及び製造例3で−0.08%の結果となった。
また、zパラメータは0.1≦z≦0.4の範囲内、望ましくは 0.2≦z≦0.4 の範囲内ではよりヒステリシス値及び等価圧電定数.とりわけ、等価圧電定数をより大きく取れ望ましい。










【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の材料は、キュリー温度が高い材料でエンジンの回転数に対応する圧力変動の周波数が10Hz 以上(600rpm以上)の自動車のエンジン燃焼圧を検知する圧力センサの検知素子として高感度、高精度、高温耐性を持った素子として期待される。低周波数域(10Hz以下)では、汎用の高感度、高精度の微分型圧力センサの検知素子として期待できる。
圧電セラミックス製造手法による既知の磁器組成物であっても電極形成設備や高価な電極材料に制限されない製造が可能となり、また、多量から少量の製造も可能で幅広い分野で利用される圧力検知の素子として期待できる。
【符号の説明】
【0091】
1 圧力(N)を増加させるときの圧力−電荷曲線
2 圧力(N)を減少させるときの圧力−電荷曲線
3 圧力(N)を増加させるときの上向き矢印
4 圧力(N)を減少させるときの下向き矢印
5 圧電磁器組成物
6 上部コンタクト治具
7 下部コンタクト治具
8 精密圧力印加用アクチュエータ
9 精密圧力計測用水晶フォースセンサ
10 バイアス圧力計測用ロードセル
11 接続リニアガイド
12 バイアス圧力印加用モータ
13 演算処理波形表示条件入力用コンピュータ
14 電源制御装置
15 チャージアンプ
16 アンプ信号計測器
17 ケーブル
図1
図2
図3
図4
図5
図6