特許第6234721号(P6234721)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6234721アスファルテン分解能力を有する新規微生物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6234721
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】アスファルテン分解能力を有する新規微生物
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/14 20060101AFI20171113BHJP
   C02F 3/34 20060101ALI20171113BHJP
   B09C 1/10 20060101ALI20171113BHJP
   C12R 1/77 20060101ALN20171113BHJP
【FI】
   C12N1/14 AZNA
   C02F3/34 ZZAB
   B09B3/00 E
   C12N1/14 AZNA
   C12R1:77
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-141064(P2013-141064)
(22)【出願日】2013年7月4日
(65)【公開番号】特開2015-12824(P2015-12824A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2016年6月21日
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-01599
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100157107
【弁理士】
【氏名又は名称】岡 健司
(72)【発明者】
【氏名】河目 裕介
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和生
(72)【発明者】
【氏名】久保田 謙三
(72)【発明者】
【氏名】川越 大樹
(72)【発明者】
【氏名】久保 幹
【審査官】 上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭47−000692(JP,A)
【文献】 特開2011−041545(JP,A)
【文献】 特開平09−117747(JP,A)
【文献】 Canadian Journal of Microbiology,1987年,33(3),232-243
【文献】 First Steps in the Origin of Life in the Universe,Kluwer Academic Publishers,2001年,247-250
【文献】 Zeitschrift fur Allgemeine Mikrobiologie,1973年,13(4),299-306
【文献】 In Situ and On-Site Bioremediation-2003, Proceedings of the Seventh International In Situ and On-Site Bioremediation Symposium,2003年,7th,Paper O-05
【文献】 International Biodeterioration & Biodegradation,2011年,65(4),649-655
【文献】 Soil Biology and Biochemistry,1993年,25(9),1167-1173
【文献】 Microbial Biotechnology,2011年,4(5),663-672
【文献】 Advanced Materials Research,2012年,347-353,2121-2124
【文献】 Journal of Agro-Environment Science,2005年,Vol.24, No.1,p.161-164
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−7/08
B09C 1/00−5/00
C02F 3/28−3/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスファルテン分解能力を有する受託番号NITE P−1599で寄託された微生物。
【請求項2】
請求項1に記載の微生物を汚染された土壌または水に供給することを特徴とする汚染土壌または汚染水の浄化方法。
【請求項3】
請求項1に記載の微生物と水を汚染された土壌に供給してスラリー状とすることを特徴とする汚染土壌の浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスファルテン分解能力を有する新規微生物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、工場やガソリンスタンドなどの跡地を再利用する際に、跡地の土壌が鉱物油やその他の化学物質に汚染されている場合があり、これら汚染土壌への対策が必要になっている。
そして、このような汚染土壌の浄化方法の1つに、微生物が有する汚染物質の分解能を利用したバイオレメディエーション法がある。またこのようなバイオレメディエーション法に用いる新規な微生物が各種単離されている(特許文献1〜3参照)。
具体的には、アントラセンやフルオランテンなどの多環芳香族化合物(特許文献1)やA重油(特許文献2)を分解したり、六価クロム(特許文献3)などを還元することができる微生物が開示されている
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4227861号公報
【特許文献2】特許第4836552号公報
【特許文献3】特許第4395870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、汚染物質は上記以外にも色々な物質があり、その中でもアスファルトは様々な種類の高分子化合物、炭化水素、油状物質から構成されており、微生物による分解が困難な物質であった。そしてその中でも、アスファルトを構成する主成分であるアスファルテン(芳香族炭化水素が架橋した高分子化合物)については微生物による分解が極めて困難なものであった。
具体的には、アスファルト(特にアスファルテン)を分解する能力を有する微生物は極めて少なく、さらにその中でも十分なアスファルト分解能(特にアスファルテン分解能)を有している微生物は今まで単離されていないのが現状である。
【0005】
今回、本願発明者らは、鋭意検討を行った結果、さらにアスファルトを構成する成分の中でも微生物による分解自体が極めて困難であったアスファルテンを分解する能力を有する新規微生物を単離することに成功したのである。また、かかる新規微生物は水溶液やスラリーなどの液体の状態で使用することによってアスファルテンを分解する能力が発現するという知見を得たのである。
すなわち、上記した問題点に鑑みてなされたものであって、従前の微生物では分解が極めて困難であったアスファルテンを分解する能力を有する新規微生物の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1は、アスファルテン分解能力を有する受託番号NITE P−1599で寄託された微生物である。
【0007】
本発明の請求項2は、請求項1に記載の微生物を汚染された土壌または水に供給することを特徴とする汚染土壌または汚染水の浄化方法である。
【0008】
本発明の請求項3は、請求項1に記載の微生物と水を汚染された土壌に供給してスラリー状とすることを特徴とする汚染土壌の浄化方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、受託番号NITE P−1599で特定される新規微生物を用いることで、従前の微生物では特に分解が困難であった、アスファルテンを分解することができることから、アスファルテンで汚染された土壌においてもバイオレメディエーション法による浄化を行うことができる。また、水溶液やスラリーなどの液体の状態で使用することによって分解能が発現することからアスファルテンで汚染された水についても浄化を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ITO25株(受託番号NITE P−1599)の分子系統解析結果である。
図2】ITO25株(受託番号NITE P−1599)のコロニー観察像である。
図3】ITO25株(受託番号NITE P−1599)の形態観察像である。
【0011】
本発明に係る微生物は、Fusarium属に属するものであり、さらに詳しくはフザリウム・スピーシーズ(Fusarium sp.)に帰属すると推定されるものであり、株名はITO25株である。また、本発明に係る微生物は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(〒292−0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 122号室)に平成25年6月17日に受託されており、その受託番号はNITE P−1599である。
なお、本発明に係る微生物については、炭化水素化合物または油分を分解する能力を有しつつ、紫外線照射や放射線照射などの公知の手法にて変異をさせた変異株や、自然界において変異した変異株も含まれるものである。
【0012】
本発明に係る微生物の単離方法は以下の通りである。
【0013】
(1)1次スクリーニング
まず、PDA培地に環境サンプル(土壌や木片など)を塗布し、30℃、48時間静置培養した。次に、生育してきた菌糸を別のPDA培地に植え継ぎ、30℃、48時間静置培養した。そして、この操作を繰り返し、単離できた糸状菌を1次スクリーニング通過菌株とした。PDA培地の組成を表1に示す。
【0014】
【表1】
【0015】
(2)2次スクリーニング
次に、アスファルトを分離基質として使用することが困難であったため、市販の芳香族化合物を分離基質としてスクリーニングを行うこととした。
タンニン酸を4.5g/L加えたPDA培地と、レマゾールブリリアントブルーRソルト(RBBR)を0.3g/L加えたPDA培地をそれぞれ作製した。これらの培地に1次スクリーニング通過糸状菌を一白金耳植菌し、30℃、120時間静置培養した。培養後、それぞれの培地を観察し、タンニン酸含有PDA培地では褐色の変化が、RBBR含有PDA培地では脱色が確認できた糸状菌を2次スクリーニング通過菌株とした。
【0016】
(3)3次スクリーニング
最後に、リグニンを0.1%(w/v)含有したリグニン含有Kirk培地95mLに2次スクリーニング通過菌株を植菌し、30℃、100rpmで7日間振盪培養した。そして、培養液上清の吸光スペクトルを測定し、芳香族成分の分解能を確認できたものをスクリーニング取得菌株、すなわち本発明に係る微生物ITO25株とした。Kirk培地の組成を表2に、Kirk培地の原料である基本培地と微量元素溶液の配合をそれぞれ表3、4に示す。
【0017】
【表2】
【0018】
【表3】
【0019】
【表4】
【0020】
次に、本発明に係る微生物ITO25株の分類学的性質及び形態的性質を説明する。
【0021】
(分類学的性質)
まず、本発明に係る微生物ITO25株の塩基配列は、配列番号1に示すITS−5.8S rDNA塩基配列である。
次に、国際塩基配列データベース(GenBank/DDBJ/EMBL)に基づいて当該塩基配列の相同性検索を行ったところ表5に示す結果となり、子嚢菌門の一種であるFusarium属の Fusarium lacertarum NRRL20423株およびFusarium scirpiの複数の塩基配列と相同率100%の高い相同性を示した。
また、アポロンDB細菌基準株データベース(株式会社テクノスルガ)に基づいて当該塩基配列の相同性検索を行った結果においても表6に示す通り、子嚢菌門の一種であるFusarium属の Fusarium lacertarum NRRL20423株の塩基配列と相同率100%の高い相同性を示した。
【0022】
【表5】
【0023】
【表6】
【0024】
次に、ITS−5.8S rDNA塩塩基配列に基づく分子系統解析を行ったところ図1に示す結果となり、Fusarium属のFusarium incarnatum-equiseti species complex(FIESC)グレードに属し、その中でもFusarium lacertarumおよびFusarium scirpiと同一の系統枝を形成した。しかしながら、この系統枝はブーツストラップ確率が13%と低いことから、既知の帰属分類群における決定は難しいものとなる。
従って、本発明に係る微生物ITO25株は、Fusarium属のFusarium incarnatum-equiseti species complex(FIESC)グレードに属するFusarium lacertarumまたはFusarium scirpiあるいはそれらに近縁なFusarium sp.と推定されるものではあるが、新種の蓋然性が高い微生物であると考えられる。
【0025】
(形態的性質)
次に、本発明に係る微生物ITO25株の形態観察を、ポテトデキストロース寒天培地(ポテトエキス4g/L、ブドウ糖20g/L、寒天末15g/L)上で、25℃下、培養1週間において行った。その結果、表面が黄土色〜白色、裏面が濃褐色のビロード状〜羊毛状のコロニーを形成した。また、分岐した分生子形成細胞(図3(a))の先端あるいは単生した分生子形成細胞(図3(b))の先端から楕円形、紡錘形〜鎌形で単細胞〜多細胞性のフィアロ型分生子の形成が認められた。コロニー観察像を図2に、形態観察像を図3に示す。
色調 :黄土色〜白色(表面:図2(a))、濃褐色(裏面:図2(b))
形 :ビロード状〜羊毛状
その他:紡錘形〜鎌形で単〜多細胞性のフィアロ型分生子を形成
【0026】
(培養条件、保管条件)
最後に、本発明に係る微生物ITO25株の培養条件、保管条件を以下に示す。なお、以下に記載の培養条件、保管条件は一例に過ぎず、本発明に係る微生物ITO25株が増殖できるものであれば特に限定されるものではない。
[培養条件]
培地名:ポテトデキストロース培地(ポテトエキス4g/L、ブドウ糖20g/L)
培地の殺菌条件:オートクレーブ(121℃、15min)
培養温度:25℃
培養期間:1〜3週間
酸素要求性:好気
培養方法:好気培養
光要求性:不要
[保管条件]
凍結乾燥法による保管:可能(保管温度:5℃付近、保護剤の組成:10%スキムミルク、1%グルタミン酸ナトリウム、pH無調整、加圧滅菌(115℃、15分))
凍結法による保管(−80℃付近):可能(保護剤:20%グリセロール)
継代培養による保管:固体培養、液体培養どちらでも可(植え継ぎ間隔:1ヶ月、保管温度:5℃)
【0027】
以上の分類学的性質(塩基配列解析)および形態的性質(形状的特徴)の結果から、本発明に係る微生物ITO25株は、Fusarium属のFusarium incarnatum-equiseti species complex(FIESC)グレードに属するFusarium lacertarumまたはFusarium scirpi、あるいはそれらに近縁なFusarium sp.と推定されるものではあるが、新種の蓋然性が高い微生物であることが認められた。
また、本発明に係る微生物ITO25株は、後記するようにアスファルテンを分解する能力を有する微生物であるが、Fusarium属(特に、Fusarium incarnatum-equiseti species complex(FIESC)グレード)に属する微生物においてこのような能力を有する微生物はこれまで単離されていない。
従って、これらの結果から本発明に係る微生物ITO25株は新規微生物であることが確認できた。
【0028】
なお、本発明に係る微生物ITO25株は、粉末などの固体の状態で使用することもできるが、後記するように水溶液やスラリーなどの液体の状態で使用することが好ましい。また、本発明に係る微生物ITO25株は液体の状態で使用することが好ましいことから、アスファルテンで汚染された土壌の浄化だけでなく、アスファルテンで汚染された水の浄化にも使用することができる。
【0029】
さらに、本発明に係る微生物ITO25株を使用する際には、必要に応じて適宜、窒素やリンなどの栄養素や各種の栄養塩を添加することもできる。
【実施例】
【0030】
次に、本発明に係る微生物ITO25株のアスファルテン分解能を実施例に基づいて説明する。
【0031】
まず、表2のKirk培地にアスファルテンを0.1%(w/v)添加することによって試験用培地を作製した。
【0032】
次に、本発明に係る微生物ITO25株を上記の試験用培地に一白金耳添加し、30℃で7日静置培養した。
【0033】
最後に、培養後の試験用培地の残存油分濃度を有機溶媒で抽出し、イアトロスキャンを用いたTLC−FID法にて分析することで、本発明に係る微生物ITO25株のアスファルテン分解能を評価した。
【0034】
その結果、ITO25株を添加した実施例は、7日後のアスファルテンの濃度が17.2±8.74%低下し、アスファルテンに対して高い分解率を示すことがわかった。
従って、本発明に係る微生物ITO25株は、従前の微生物にはないアスファルテンを分解する能力を有する微生物であり、その分解能が極めて高い微生物であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る微生物は、バイオレメディエーション法による汚染土壌または汚染水の浄化に用いることができる。
【受託番号】
【0036】
NITE P−1599
図1
図2
図3
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]