(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6234761
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】乗物用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/64 20060101AFI20171113BHJP
【FI】
B60N2/64
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-204165(P2013-204165)
(22)【出願日】2013年9月30日
(65)【公開番号】特開2015-67173(P2015-67173A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2016年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】嵐 真人
【審査官】
小島 哲次
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−142484(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0244293(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/64
B60N 2/68
A47C 7/40
A47C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートバックに配設される、乗員を支持するためのワイヤ部材の移動可能とされる端部を、シートバックフレームに支承する構成を有する乗物用シートであって、
前記シートバックフレームは、前記ワイヤ部材の移動可能とされる端部が配設されると共にワイヤ部材の長手方向に対して直交する方向の支承平面部位を有し、該支承平面部位は前記シートバックフレームのアッパフレームをハット型断面形状で形成し、該ハット型断面形状の開口部が後方側となる配置関係における下方の横設部位であり、該ハット型断面形状の下方の横設部位には前記ワイヤ部材の軸端部を移動可能に支承する支承手段が形成されていることを特徴とする乗物用シート。
【請求項2】
請求項1に記載の乗物用シートであって、
前記支承手段は貫通孔であることを特徴とする乗物用シート。
【請求項3】
請求項2に記載の乗物用シートであって、
前記ワイヤ部材の端部を移動可能とする支承は、前記貫通孔に樹脂クリップを嵌合して取付け、該樹脂クリップにより支承される構成であることを特徴とする乗物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乗物用シートに関する。特に、着座者の背中を支持するシートバックにおけるワイヤ部材のシートバックフレームへの支承構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の乗物用シートを構成するシートバックは、着座者の背中を支持する。シートバックはシートバックフレームで骨格が形成されるが、そのため、着座者の背中を支持する中央部の天板部にはシートパッドが配設され、このシートパッドの裏面側には受け部材が配設されて、シートバックフレームにより支承されるようになっている。受け部材をシートバックフレームに支承するに際しては、ワイヤ部材を介して行い、着座者の着座姿勢等の挙動変化に伴う逃がし移動を許容して支承するようになっている。
一般的に、この種ワイヤ部材の支承は、シートバックフレームの上部に幅方向に配設されるアッパフレームにより支承される。
図7は下記特許文献1,2によるワイヤ部材130のアッパフレーム124による支承構造を模式的に示すものである。アッパフレーム124は従来一般的には平板状に形成されており、平板面が上下方向として配設されている。ワイヤ部材130はこのアッパフレーム124の平板面に面して配設されており、このワイヤ部材130を軸方向に摺動移動可能に支承した樹脂クリップ146をアッパフレーム124の取付孔144に差し込んで取付けられる構成となっている。この構成の場合には、ワイヤ部材130の樹脂クリップ146による支承箇所は、ワイヤ部材130の軸方向の許容移動が充分確保される構成であるため、着座者の挙動変化に伴うワイヤ部材130の逃がし移動も支障なく行うことが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5762397号明細書
【特許文献2】特開2010−90906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、
図8に示すように、最近ではシートバックフレーム全体の剛性を高めるために、アッパフレーム124をハット型断面形状とすることが行なわれる。このハット型断面のアッパフレーム124にワイヤ部材130を支承する場合、上述した従来の支承方法の考え方で支承するときには、ワイヤ部材130はハット型断面の下方の上下方向に平面が配設されるフランジ部142に樹脂クリップ146を介して支承する構成をとることになる。
しかし、かかるワイヤ部材130の支承構造をとる場合には、ハット型断面の下方のフランジ部142に折れ曲がって連続する横設部位138が、ワイヤ部材130のすぐ上方位置にある構成となる。このため、ワイヤ部材130の軸方向移動、特に、上方向へ移動する際にワイヤ部材130の上端が横設部位138に当接して移動が阻止される。すなわち、着座者の挙動変化に伴うワイヤ部材130の逃がし移動を充分確保できないという問題を生じる。
尤も、この問題を解決するために、ワイヤ部材130の上端と横設部位138との間の移動隙間を大きくとる方法もあるが、この場合には、樹脂クリップ146による支承位置を下方位置にする必要があることから、不要にフランジ部142を下方に延設形成する必要が生じる。また、ワイヤ部材130の樹脂クリップ146による支承位置が下方位置となって、着座者を支持する支持性能に影響を及ぼすという別の問題も生じる。
【0005】
而して、本発明はこのような点に鑑みて創案されたものであって、本発明が解決しようとする課題は、ワイヤ部材をシートバックフレームに軸方向に移動可能に支承するにあたって、ワイヤ部材の軸方向移動を阻止する位置にシートバックフレームがある場合でも、かかる位置にあるシートバックフレームにワイヤ部材を軸方向移動可能に支承することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る乗物用シートは次の手段をとる。
本発明の乗物用シートは、シートバックに配設される、乗員を支持するためのワイヤ部材の移動可能とされる端部を、シートバックフレームに支承する構成を有する乗物用シートであって、前記シートバックフレームは、前記ワイヤ部材の移動可能とされる端部が配設されると共にワイヤ部材の長手方向に対して直交する方向の支承平面部位を有し、
該支承平面部位は前記シートバックフレームのアッパフレームをハット型断面形状で形成し、該ハット型断面形状の開口部が後方側となる配置関係における下方の横設部位であり、該ハット型断面形状の下方の横設部位には前記ワイヤ部材の軸端部を移動可能に支承する支承手段が形成されていることを特徴とする。
なお、上記乗物用シートにおける支承手段は貫通孔であるのが好ましい。また、ワイヤ部材の端部を移動可能とする支承は、前記貫通孔に樹脂クリップを嵌合して取付け、該樹脂クリップにより支承される構成であるのが好ましい。
【0007】
上述した本発明によれば、ワイヤ部材の軸端部が移動可能とされる位置にあるシートバックフレーム、すなわちワイヤ部材の移動可能とされる軸端部が配設される長手方向に対して直交する方向の支承平面部位を有するシートバックフレームに、ワイヤ部材の軸端部を移動可能に支承する支承手段により支承される。これにより着座者の挙動変化に伴うワイヤ部材の逃がし移動が支障なく行なわれる。
なお、支承手段が貫通孔である場合には、簡単に構成することができる。
また、貫通孔に樹脂クリップを嵌合してワイヤ部材を軸方向移動可能に支承するときには、ワイヤ部材の軸方向移動は摺動抵抗少なくスムースに行なわれる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ワイヤ部材をシートバックフレームに軸方向に移動可能に支承するにあたって、ワイヤ部材の軸方向移動を阻止する位置にシートバックフレームがある場合でも、かかる位置にあるシートバックフレームにワイヤ部材を軸方向移動可能に支承することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る乗物用シートのシートフレーム骨格を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す乗物用シートのシートフレーム骨格を示す正面図である。
【
図3】ワイヤ部材をシートバックフレームのアッパフレームに支承する箇所を拡大して示す斜視図である。
【
図4】ワイヤ部材と樹脂クリップとの配置関係を示す図である。
【
図6】実施形態のワイヤ部材のアッパフレームへの支承構造を示す模式図である。
【
図7】従来のワイヤ部材のアッパフレームへの支承構造を示す模式図である。
【
図8】ハット型断面形状のアッパフレームにワイヤ部材を従来方法で支承する場合の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を、図面を用いて説明する。なお、本説明における、上下、左右、前後等の方向を示す表示はシートに着座した着座者から見た方向を示すものである。
図1及び
図2は自動車に代表される乗物用シート10(以下、単に「シート10」と称することもある)のシートフレーム骨格を示している。シート10は主として、着座者の座部となるシートクッション12と、背凭れのシートバック16と、頭部を支持するヘッドレスト(不図示)とから構成される。シートクッション12とシートバック16には夫々シートクションフレーム14、シートバックフレーム18を備え、その骨格を形成している。シートクッション12とシートバック16との連結部にはリクライニング機構20が備えられており、シートバック16を前後方向に傾動可能としている。
【0011】
シートバック16のシートバックフレーム18は、左右両側のサイドフレーム22と、このサイドフレーム22の上部位置を連結するアッパフレーム24と、サイドフレーム22の下部位置を連結するロアフレーム26とから構成されており、枠形状に形成されて、シートバック16の外形を定める骨格を形成している。
また、シートバック16には、シートパッド(不図示)がこれらのシートバックフレーム18を包み込むように配設されており、このシートパッドの外表面にシートカバーが被覆されて着座者の背中を支持する構成を形成している。シートパッドの裏面側にはシートパッドの受け部材としてのコンターマット28が配設されている。コンターマット28の下端部28Aはロアフレーム26に係止されており、上端部28Bはワイヤ部材30を介してアッパフレーム24に上下方向に移動可能に支承されている。
コンターマット28は、着座者の着座姿勢変化等に伴う挙動変化荷重をシートパッドを介して前後方向荷重として受ける。この荷重によりコンターマット28は前後方向に動こうとするが、その動きはコンターマット28の下端部28Aはロアフレーム26に係止されて支点となっていることから、上端部28Bのワイヤ部材30を介してアッパフレーム24に支承される箇所32を上下方向に移動可能に支承できる構成とすることにより行なわれるようになっている。
【0012】
図3はワイヤ部材30をアッパフレーム24に支承する箇所32を拡大して示したものである。アッパフレーム24は剛性を高めるためにハット型断面形状で形成されている。このハット型断面形状の開口部が後方側となる配置関係でアッパフレーム24は配置されている。アッパフレーム24のハット型断面形状は、
図6の模式図に示すように、立設部位34と、上方の横設部位36と、下方の横設部位38とからなっている。そして、上方と下方の夫々の横設部位36,38にはフランジ部40,42が屈曲して延設形成されている。ワイヤ部材30は
図3に示すように下方の横設部位38に支承されている。この下方の横設部位38は、本発明で言うところの、ワイヤ部材30の移動方向、すなわち長手方向に対して直交する方向の支承平面部位を有するシートバックフレームである。
下方の横設部位38には貫通孔44が穿設されており、この貫通孔44にワイヤ部材30の軸端部が挿通されて軸方向に移動可能に支承されている。この支承は、
図4及び
図5に良く示されるように、貫通孔44に概略円筒形状の樹脂クリップ46が嵌合されており、樹脂クリップ46を介して支承される構成となっている。樹脂クリップ46はワイヤ部材30との摺動抵抗を小さく支承できることから、ワイヤ部材30の上下移動をスムースに行わせることができる。
【0013】
図6は上述した本実施形態におけるワイヤ部材30をアッパフレーム24に支承する構成を模式的に示したものである。この図から分かるように、アッパフレーム24のハット型断面形状の下方の横設部位38にワイヤ部材30は軸方向に移動可能に支承されるが、着座者の着座姿勢等の変化に伴うワイヤ部材30の逃がし移動を必要とする範囲には、その移動を阻害する部材はないため、その作動を良好に行なわせることができる。すなわちアッパフレーム24のハット型断面形状の下方の横設部位38と上方の横設部位36との間には逃がし移動には充分な間隔があるため、移動を阻害されることがない。
本実施形態は、ハット型断面形状のアッパフレーム24にワイヤ部材30を支承する場合でも、極めて簡単な構成で、従来と比べ部品点数を増加させることなく行なうことができるものであることから、実用的価値は大きい。
【0014】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はその他各種の形態で実施可能なものである。
例えば、支承手段としての貫通孔の形状は、丸孔,角孔など適宜選定されるものである。
また、必ずしも貫通孔に樹脂クリップを嵌合させる必要はないが、ワイヤ部材の軸方向移動を抵抗少なくしてスムースに行なわせるためには、樹脂クリップ等の低摩擦材部品を貫通孔に嵌合させるのが良い。その観点で、樹脂クリップのほかフエルト等であっても良い。
また、アッパフレームの断面形状はハット型断面形状に限らず、各種の断面形状であっても良い。要は、ワイヤ部材の移動可能とされる端部が配設されると共にワイヤ部材の長手方向に対して直交する方向の支承平面部位を有するシートバックフレームであれば本発明は適用できる。例えば、ハット型断面を繋ぎ合わせて形成したダブルハット型断面形状のアッパフレームであっても良い。
【符号の説明】
【0015】
10 シート(乗物用シート)
12 シートクッション
14 シートクッションフレーム
16 シートバック
18 シートバックフレーム
20 リクライニング機構
22 サイドフレーム
24 アッパフレーム
26 ロアフレーム
28 コンターマット
30 ワイヤ部材
32 支承箇所
34 立設部位
36 上方の横設部位
38 下方の横設部位
44 貫通孔
46 樹脂クリップ