(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
水泳競技は定められた距離をより速く泳ぐことを競う種目である。泳速度は、推進力の増大と抵抗の低減によって、増大が見込まれる。
【0003】
抵抗の低減については、空気中と比較して水の密度は高く、水中での抵抗の影響は大きい。そのため、水着の着圧を高め、体型補正を行い、進行方向に対する垂直面への投影面積を小さくすることや、凹凸を減らし水の抵抗を低減することが求められる。加えて、泳動作中の姿勢についても、投影面積に影響を及ぼすことは明らかで、ストリーム姿勢の保持が求められる。
【0004】
推進力を得るためには、ストローク動作やキック動作を行い、より多くの水を掻くことが求められると共に、泳者は抵抗の少ない泳技術を実行しなければならない。
【0005】
これらのことから、水着、特に競泳用水着には、体型補正性、姿勢保持性、およびストロークやキック動作における可動性が求められる。
【0006】
体型補正性を最大限にするために、従来の競泳用水着は、4kPa以上の大きな着圧がかかる設計となっている。大きな着圧をかけるためには、生地の伸縮性を低くすることが必要である。そして、着用時の伸長に伴う着圧が身体を圧迫し投影面積を減少させる。しかしながら、伸縮性の低い素材は、ストリーム姿勢保持性や可動性を妨げる。
【0007】
最大限の推進力を得るためには、泳動作時に肩関節を可動範囲いっぱいまで動かすことになる。肩関節の動作に伴い体側に大きな皮膚の伸びが生じるが、一般的な競泳水着は、皮膚伸びにあまり追従しない。該当部位の生地の伸縮性が低いことによって、動作の制限に繋がっている。ストリームライン姿勢の保持における上腕の挙上時でも、同様のことが見られる。
【0008】
装着者が所定の動作を行いやすい水着が特許文献1に提案されている。この水着は、
図14に示すように、装着時に装着者の体に密着するように形成されたものであって、所定の伸縮性を有する上半身本体部110及び下半身本体部140と、装着者の肋骨近傍に相当する領域(脇身頃部121)、及び装着者の鼠径部から大腿部内側付近に相当する領域(内股部122)に配置され、上半身本体部110および下半身本体部140よりも伸縮性の高い弱緊締部分120とを備えるものである。
【0009】
上記特許文献1に記載の水着は、肋骨近傍に相当する領域および鼠径部から大腿部内部付近に相当する領域に上半身本体部110および下半身本体部140よりも伸縮性の高い素材を配することで、泳動作における腕を回したり、足を動かしたりする動作を行いやすいようにしたものである。
【0010】
また、特許文献2には、泳動作に伴う皮膚伸びの大きな部位に該当する、腋の下方にパネルのない伸縮性のある生地からなる胴部分を残した水着が提案されている。
【0011】
上記した特許文献1の水着では、泳動作に伴う皮膚の伸びの大きな部位を肋骨近傍に相当する領域、および鼠径部から大腿部内側付近に相当する領域と推定し、泳動作を阻害しないように、同部位に伸縮性の高い素材を配し、丈方向の伸長率について、任意の力で荷重した際の伸長量が、他の部位よりも大きいことが記載されている。しかし、体型補正性を得るためには、大きな着圧をかける必要がある。着圧は、着用時の伸長と素材の伸縮性に起因し、伸縮性を大きくすると着圧の減少が必然的に生じ、体型補正性が損なわれることになる。
【0012】
また、特許文献2に示す水着においては、泳動作に伴う皮膚の伸びの大きな部位に該当する、腋の下方にパネルのない伸縮性のある生地からなる胴部分を残すように構成されている。しかし、この水着においては、泳動作に伴い皮膚伸びが増大する脇前側に高弾性パネルを配しており、可動性を妨げている。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の実施形態の水着について図面を参照しながら詳細に説明する。この実施形態の水着は、例えば、競技用の水着であり、
図1〜
図3に示すように、体表に密着する上身頃10、肩部11、臀部12、股間部13を覆う領域を備えており、この水着において領域を定義し、それぞれの領域において、それぞれの伸縮性を設定したものである。
【0022】
まず、各領域の定義について説明する。
図1に示すように、前腋窩点41を通る身体の前後方向の縦断面における身体前面の輪郭線を前腋窩線44、後腋窩点42を通る身体の前後方向の縦断面における身体後面の輪郭線を後腋窩線45とする。
【0023】
図1および
図2に示すように、静止立位時の身体前面における左右の前腋窩線44、44に囲まれる範囲を覆う領域を第1の領域1、静止立位時の体側における前腋窩線44と後腋窩線45に囲まれ、下端をウエストラインとする範囲を覆う領域を第2の領域2、静止立位時の体側における前腋窩線44と後腋窩線45に囲まれ、上端をウエストライン46、下端を腸骨稜の上端とする範囲を覆う領域を第3の領域3とする。
【0024】
図3に示すように、第1の領域1における第2の領域2と接する箇所を第1の境界47、第1の領域における前記第3の領域と接する箇所を第2の境界48とする。ここで、境界47、48の巾は、それぞれ第1の領域1の1/3以下である。
【0025】
そして、この発明は、
図3に示すように、上記した各領域および境界において、生地の身体長軸方向の伸縮性、生地の身体周囲方向の伸縮性をそれぞれ所定の値に設定することで、体型補正性、姿勢保持性、および可動性を実現するものである。
【0026】
ここで、第1の領域1の生地の身体長軸方向の伸縮性をS1、第1の領域1の生地の身体周囲方向の伸縮性をS2、第2の領域2の生地の身体長軸方向の伸縮性をS3、第2の領域2の生地の身体周囲方向の伸縮性をS4、第3の領域3の生地の身体長軸方向の伸縮性をS5、第3の領域3の生地の身体周囲方向の伸縮性をS6、第1の境界47の生地の身体長軸方向の伸縮性をS7、第1の境界47の生地の身体周囲方向の伸縮性をS8、第2の境界48の生地の身体長軸方向の伸縮性をS9、第2の境界48の生地の身体周囲方向の伸縮性をS10とする。
【0027】
ところで、上記した第1の領域1、第2の領域2、第3の領域3は、標準体型の者がこの実施形態の水着の該当するサイズを体表に密着して装着したときに相当する箇所を想定して特定している。
図4に示す泳者が装着しない状態の水着においては、次のように定義することができる。
【0028】
上身頃10の前面において、水着のフロント中心線を中心として、巾をウエストライン46の周囲長の40%とし(上身頃において、水着の脇線10aを中心として、巾をウエストライン46の周囲長の10%とする範囲を除いた)、股下を下端とする範囲を覆う領域が第1の領域1、上身頃において、水着の脇線10aを中心として、巾をウエストライン周囲長の10%、下端を水着のウエストライン46とする範囲を覆う領域が第2の領域2、水着の脇線10aを中心として、上端を水着のウエストライン46、下端をミドルヒップライン46m、巾をウエストライン周囲長の10%とする範囲を覆う領域が第3の領域3となる。また、第1の境界47は、第1の領域1において、第2の領域2と接する領域で、巾はそれぞれ第1の領域1の1/3以下である。第2の境界48は、第1の領域1において、第3の領域3と接する領域で、巾はそれぞれ第1の領域1の1/3以下である。
【0029】
次に、第1の領域1、第2の領域2、第3の領域3を上記のように特定した理由について説明する。
図5(a)〜(c)は、ヌードでのストリーム姿勢時の皮膚伸びの分布を示す説明図である。
図5(a)は身体前面における皮膚伸びの分布を示す説明図であり、
図5(b)は身体側面における皮膚伸びの分布を示す説明図であり、
図5(c)は身体前面における上肢挙上時の皮膚伸びの分布を示す説明図である。また、矢印は、皮膚の伸びる方向を示している。
【0030】
図5(a)、(b)に示すように、身体前面の中央付近(第1の領域1)では、静止立位時を0%とした場合、40%未満の皮膚伸びしか生じておらず、ストリーム姿勢の保持において、コアとしての役割を果たしている。一方で、肩関節の動作に伴い、体側におけるウエストラインよりも上部(第2の領域2)では、80%以上の非常に大きな皮膚伸びが生じている。更に、体側におけるウエストから腸骨稜にかけての第3の領域3においても40〜80%の中程度の皮膚伸びが生じている。
【0031】
この皮膚の伸び分布の伸び量と伸びの方向に対応するように水着の伸縮性を設定すれば、体型補正性、姿勢保持性、および可動性を実現することができると考えられる。そこで、皮膚伸びがあまり大きくない領域である第1の領域1は、上記の通り、身体前面において、静止立位時の左右の前腋窩線44、44に囲まれる範囲を覆う領域とする。尚、水着自体では、上半身前面において、水着のフロント中心線を中心として、巾をウエストライン周囲長の40%とし、股下を下端とする範囲を覆う領域とする。
【0032】
皮膚伸びが非常に大きい領域である第2の領域2は、体側において、静止立位時の前腋窩線44と後腋窩線45に囲まれ、ウエストライン46を下端とした範囲を覆う領域とする。尚、水着自体では、水着の脇線10aを中心として、水着のウエストライン46を下端とする、巾がウエストライン周囲長の10%を覆う領域とする。
【0033】
皮膚伸びがやや大きい領域である第3の領域3は、体側において、静止立位時の前腋窩線と後腋窩線に囲まれ、ウエストラインを上端とし、腸骨稜の上端を下端とした範囲を覆う領域とする。尚、水着自体では、水着の脇線10aを中心として、ウエストライン46を上端とし、ミドルヒップライン46mを下端とした、巾がウエストライン周囲長の10%を覆う領域となる。ミドルヒップライン46mは、ウエストラインとヒップラインの中央のラインで規定され、着用時は上前腸骨棘付近を通るラインを示す。
【0034】
次に、各領域の生地の身体長軸方向の伸縮性、生地の身体周囲方向の伸縮性の設定の値につき、以下に詳述する。ここで、本明細書において、「各領域の生地の伸縮性」とは「各領域全体の生地の伸縮性」を意味する。つまり、各領域中で部分的に伸縮性が相違している場合でも、一部分のみに着目して伸縮性を評価するのではなく、各領域を全体的に見て伸縮性を評価する。また、「各領域の生地の伸縮性」は、生地を構成する糸の編み方や織り方、生地の重ね合わせ、樹脂加工、等の種々の加工によって適宜調整することができる。
【0035】
第1の領域1の生地の伸縮性と第2の領域2の生地の伸縮性は、以下の(a)〜(c)に設定する。
(a)第2の領域2の生地の身体長軸方向の伸縮性S3は、第1の領域1の生地の身体長軸方向の伸縮性S1よりも高く(S3>S1)、
(b)前記第2の領域2の生地の身体長軸方向の伸縮性S3は、第2の領域2の生地の身体周囲方向の伸縮性S4よりも高く(S3>S4)、
(c)前記第2の領域2の生地の身体長軸方向の伸縮性S3は、第1の領域1の生地の身体周囲方向の伸縮性S2よりも高い(S3>S2)。
上記した伸縮性の差は10%以上あることが好ましい。
【0036】
図6に示すように、第1の領域1、第2の領域2においては、身体周囲方向の伸縮性、S2、S4を、身体長軸方向の伸縮性S3より低くする。第1の領域1、第2の領域2における身体周囲方向の伸縮性S2、S4を低くすることによって、着用時の生地の伸長に伴い大きな着圧が生じ、突出しやすい胸部の体型補正性が向上する。その結果、投影面積が減少し、抵抗が小さくなり、泳速度が損なわれない。
【0037】
また、第1の領域1における身体長軸方向の伸縮性S1を、第2の領域2における身体長軸方向の伸縮性S3より低くする。第1の領域1における身体長軸方向の伸縮性S1を低くすることによって、ストリーム姿勢の保持において、身体のコアとなる部位を安定させ姿勢保持性を向上させる。
【0038】
さらに、第2の領域2の身体長軸方向の伸縮性S3を、第1の領域1の身体長軸方向の伸縮性S1より高くする。第2の領域2おける身体長軸方向の伸縮性S3を高くすることによって、生地がストローク動作時の皮膚伸びに追従するようにし、特に、ストローク中のグライド動作(伸び)が妨げられない。グライド動作は、水中で上肢の伸びを行い、身体の先端をストリームラインに近づける動作であり、キックや反対上肢のプル動作によって生じる推進力に対する抵抗を最小にする。また、より前の水をプルすることができる。反対に、キックやプル時に、グライド動作が不十分で、ストリームラインが崩れると、抵抗が大きくなり、推進力のロスが生じる。
【0039】
更に、第1の領域1の生地の身体長軸方向の伸縮性S1は、第2の領域2の生地の身体周囲方向の伸縮性S4よりも高く(S1>S4)設定するとよい。また、第1の領域1の生地の身体長軸方向の伸縮性S1は、第3の領域3の生地の身体周囲方向の伸縮性S6よりも高く(S1>S6)設定するとよい。
【0040】
上記のように、第1の領域1の身体長軸方向の伸縮性S1を、第2の領域2又は第3の領域3の身体周囲方向の伸縮性をS4、S6よりも高くすることで、ストリーム姿勢を保持するための体幹直立の際に生じる、第1の領域1の身体長軸方向の突っ張り(
図5(c)における胸部中央の皮膚伸び)を緩和することができ、姿勢保持性が向上する。
【0041】
また、第1の領域1、第2の領域2における身体周囲方向の伸縮性S2、S4が、第1の領域1、第2の領域2における身体長軸方向の伸縮性S1、S3よりも、低いことにより、着用者は動作に伴う身体長軸方向の突っ張りよりも、体幹中央方向への着圧を感じやすく、体軸を意識しやすくなり、姿勢保持性が向上する。
【0042】
更に、第2の領域2の生地の身体周囲方向の伸縮性S4は、第1の領域1の生地の身体周囲方向の伸縮性S2と同等(S2≒S4)に設定するとよい。
【0043】
上記のように、第1の領域1、第2の領域2において同等の身体周囲方向の低い伸縮性を有することで、周囲方向のどの部位でも体幹中央方向への均一の着圧が加わり、体軸をより安定させることができ、姿勢保持性が向上する。
【0044】
また、第1の領域1の生地の伸縮性と第3の領域3の生地の伸縮性は、以下の(d)〜(f)に設定するとよい。
(d)第3の領域3の生地の身体長軸方向の伸縮性S5は、第1の領域1を覆う生地の身体長軸方向の伸縮性S1よりも高く(S5>S1)、
(e)第3の領域3の生地の身体長軸方向の伸縮性S5は、第3の領域
3を覆う生地の身体周囲方向の伸縮性S6よりも高く(S5>S6)、
(f)第3の領域3の生地の身体長軸方向の伸縮性S5は、第1の領域1を覆う生地の身体周囲方向の伸縮性S2よりも高い(S5>S2)。
【0045】
図6に示すように、第1の領域1、第2の領域2および第3の領域3においては、身体周囲方向の伸縮性S2、S4、S6を、身体長軸方向の伸縮性S3、S5より低くする。第1の領域1、第2の領域2、第3の領域3における身体周囲方向の伸縮性S2、S4、S6を低くすることによって、着用時の生地の伸長に伴い大きな着圧が生じ、突出しやすい下腹部の体型補正性が向上する。その結果、投影面積が減少し、抵抗が小さくなり、泳速度が損なわれない。さらに、下腹位での中心部への着圧は腹腔内圧を高めることに寄与すると考えられる。腹腔内圧の増大は、脊柱の起立に寄与し、ストリーム姿勢の姿勢保持性を向上させる効果が期待できる。
【0046】
また、第1の領域1における身体長軸方向の伸縮性S1を、第3の領域3における身体長軸方向の伸縮性S5より低くする。第1の領域1における身体長軸方向の伸縮性S1を低くすることによって、ストリーム姿勢の保持において、身体のコアとなる部位を安定させ姿勢保持性を向上させる。
【0047】
さらに、第3の領域3における身体長軸方向の伸縮性S5を、第1の領域1の身体長軸方向の伸縮性S1より高くする。第3の領域3おける身体長軸方向の伸縮性S5を高くすることによって、生地がストローク動作時の皮膚伸びに追従し、特に、ストローク中のグライド動作(伸び)が妨げられない。
【0048】
更に、第3の領域3の生地の身体周囲方向の伸縮性S6は、第1の領域1の生地の身体周囲方向の伸縮性S2と同等(S2≒S6)に設定するとよい。
上記のように、第1の領域1、第3の領域3において同等の身体周囲方向の低い伸縮性を有することで、周囲方向のどの部位でも体幹中央方向への均一の着圧が加わり、体軸をより一層安定させることができ、姿勢保持性がより一層向上する。
【0049】
第1の領域1は第2の領域2と接する第1の境界47を有し、第1の境界47の生地の伸縮性と、第1の領域1の生地と第2の領域2の生地の伸縮性が、以下の(g),(h)に設定されるのが好ましい。
(g)第1の境界47の生地の身体長軸方向の伸縮性S7は、第1の領域1と第2の領域2の長軸方向の伸縮性S1およびS3の間の値(S1<S7<S3)、
(h)第1の境界47の生地の身体周囲方向の伸縮性S8は、第1の領域1と第2の領域2の周囲方向の伸縮性S2およびS4の少なくとも一方と同等(S2=S8=S4)、又は第1の領域1と第2の領域2の周囲方向の伸縮性S2およびS4の間の値(S2(S4)<S8<S4(S2))。
【0050】
第1の境界47の生地は、単一の伸縮性でもよいが次のようにグラデーションになるように構成してもよい。
【0051】
第1の境界47の生地の身体長軸方向の伸縮性S7は、周囲方向に第2の領域2との境界線に向かって第1の領域1の長軸方向の伸縮性S1に近い値から第2の領域2の長軸方向の伸縮性S3に近づいて順次変化するように設定すればよい。
【0052】
第1の領域1は第3の領域3と接する第2の境界48を有し、
第2の境界48の生地の伸縮性と、第1の領域1の生地と第3の領域3の生地の伸縮性が、以下の(i),(j)に設定されるのが好ましい。
(i)第2の境界48の生地の身体長軸方向の伸縮性S9は、第1の領域1と第3の領域3の長軸方向の伸縮性S1およびS5の間の値(S1<S9<S5)、
(j)第2の境界48の生地の身体周囲方向の伸縮性S10は、第1の領域と第3の領域の周囲方向の伸縮性S2およびS6の少なくとも一方と同等(S2=S10=S6)、又は第1の領域1と第3の領域3の周囲方向の伸縮性S2およびS6の間の値(S2(S6)<S10<S6(S2))。
【0053】
第2の境界48の生地は、単一の伸縮性でもよいが次のようにグラデーションになるように構成してもよい。
【0054】
第2の境界48の生地の身体長軸方向の伸縮性S9は、周囲方向に第3の領域3との境界線に向かって第1の領域1の長軸方向の伸縮性S1に近い値から第3の領域3の長軸方向の伸縮性S5に近づいて順次変化する。
【0055】
上記したように、身体長軸方向の伸縮性が異なる第1の領域1と第2の領域2、第1の領域1と第3の領域3の境界に該当する水着の身体長軸方向の伸縮性を、両領域の身体長軸方向の中間の値に設定することで、境界で生じるひきつれや違和感を軽減し、上肢の動作であるプル動作やグライド動作を妨げない。また、大きな伸縮性の差を持つ境界では、破れなどの原因となる応力集中が発生するが、境界内の伸縮性が間の値であることで、応力集中を防ぐことができる。境界内は単一の伸縮性でも良いが、周囲方向に第3の領域3との境界線に向かって、伸縮性S9が徐々に伸縮性S1から伸縮性S5に近づいて変化するグラデーションになっているのが好ましい。
【0056】
次に、伸縮性の詳細を説明する。
図6に示す、この発明の実施形態の水着(実施例)では、身体長軸方向には、第2の領域2および第3の領域3に相当する部分の素材特性は、細線の矢印で示す高い伸縮性を有し、第1の領域1に相当する部分の素材特性は、第2の領域2および第3の領域3よりも低い伸縮性を有する。一方で、第1の領域1に相当する部分の素材特性と、第2の領域2および第3の領域3に相当する部分の素材特性との周囲方向には、太い矢印で示す通り低い伸縮性を有し、両者は同等である。
【0057】
図6におけるS1〜S6は各領域の身体長軸方向および周囲方向の伸縮性を示す。この伸縮性は、オートグラフ万能試験機(株式会社島津製作所製)を用いて、引張り試験を行って算出した。条件は、5cm×20cmの試験片を用い、チャック間10cm、引張り速度20cm/min、試行数は各伸縮性につき3試行であった。結果を
図13に示す。
【0058】
40%伸長時の荷重を計測した結果、この実施例は、第2の領域2および第3の領域3の身体長軸方向の伸縮性S3およびS5の40%伸長時荷重は、第1の領域1の長軸方向の伸縮性S1と比較し、19%小さかった。任意の伸長時の荷重が小さいほど伸縮性が高いことを示す。第2の領域2および第3の領域3の長軸方向の伸縮性S3およびS5は、第2の領域2および第3の領域3の周囲方向の伸縮性S4、S6よりも、38%小さかった。
【0059】
また、第2の領域2および第3の領域3の周囲方向の伸縮性S4およびS6は、第1の領域1の長軸方向の伸縮性S1よりも、29%大きかった。
【0060】
第2の領域2および第3の領域3の周囲方向の伸縮性S4およびS6は、第1の領域1の周囲方向の伸縮性S2とほぼ同等で、その差は3%以下であった。通常、生地製造上、生地全体で目付が均一にはいかないが、10%未満に抑える努力がなされている。よって概ね±10%未満の差は同伸縮性、それ以上の特性差があれば異伸縮性を有し、この発明の効果が得られる。
【0061】
次に、この発明の実施例による効果の検証について説明する。
条件は、次の3つである。ヌード、比較用の水着、実施例の水着である。尚、比較用の水着は、全ての領域において、同じ素材を用いたものである。
測定項目は、伸縮性、皮膚および生地伸び、着圧、周囲長である。
【0062】
図7に、上述の通り計測した、生地伸縮性を示す。値が小さいほど伸縮性が高いことを示している。長軸方向の伸縮性S3と伸縮性S1の関係は、比較用の水着では、S3=S1であったのに対し、この実施例の水着ではS3>S1となった。伸縮性S3と周囲方向の伸縮性S4の大小関係は、比較用水着とこの実施例の水着では逆転し、実施例の水着では伸縮性S4が低下した。伸縮性S2と伸縮性S4は同等であった。また、比較用水着の伸縮性S1と伸縮性S3の値に対して、この実施の形態の水着の伸縮性S1と伸縮性S3の値は大幅に低下している。尚、比較用水着は、長軸方向の伸縮性S1、S3、S7は同じ伸縮性を示し、周囲方向の伸縮性S2、S6、S10は同じ伸縮性を示している。
【0063】
皮膚および生地伸びは、身体に単一間隔で格子状に再帰反射マーカーを貼付し、ストリームライン姿勢および背泳模擬動作を行った際の、三次元マーカー座標を計測し、その座標値より、算出したものである。皮膚および生地伸びは格子の変形を示す。
図8はストリームライン姿勢を保持した際の実施例の水着での生地伸び分布を示す。矢印は皮膚および生地伸びの方向を示す。(a)の領域Aで囲った部分を算出した。被験者は女性1名であった。
【0064】
図9において、第2の領域2における水着で覆われる領域Bについて、各条件の皮膚および生地伸び分布を詳細に示している。尚、ヌード条件での最大伸長を100%とした。比較用水着の生地伸びを示す(h)は、ヌード条件での皮膚伸びを示す(n)と比較すると、ヌード条件でみられた40%以上の生地伸びを示す領域が減少し、動作に生地が追従しないことが判る。これに対して、この実施例の水着では、濃いハッチングで示す40%以上のエリアがみられ、全体的に30%以上のエリアが増大した。このことから、この実施例では、生地がより動作に追従することが判る。ストリーム姿勢保持性が向上したことを示す。また、
図10に示す、背泳模擬動作でも、比較用水着に比べこの実施例の水着は生地伸びが増大し、より動作に追従することが認められた。
【0065】
着圧について測定した結果を示す。被験者は、女性2名であり、それぞれの腹前、脇腹、胸の着圧を測定した結果を
図11に示している。
図11に示すように、腹前、脇腹、胸での着圧は、比較用水着と実施例の水着は同等であった。各着圧は各部位の周囲長に寄与し、投影面積に関連する。
【0066】
周囲長について測定した結果を示す。被験者は、女性2名であり、
図12に示すように、バスト囲Bと、下腹囲での周囲Wの長さは、比較用水着よりも増大することはなかった。各部位の周囲長は、投影面積に関連する。この実施例では、投影面積に影響を及ぼすことなく、可動性を良好にできることが確認された。
【0067】
上記の実験に用いたこの実施例の水着は、
図13の通りの伸縮性を有した。このような伸縮特性を有する本実施例の各領域の素材は次の通りであった。伸縮性の高低は、密度差により付与した。即ち、水着周囲方向の密度は第1の領域1、第2の領域2とも同等にして、長軸方向の密度を第1の領域1の方を第2の領域2より、やや高くして伸縮性の高低を付与した。密度の高い方が、スパンデックスの本数が多くなるので伸長および回復時の応力も高くなる。ただし、密度差をあまり大きくすると織糸のずれ(目よれ)等の問題が発生するため、10本/インチ以内程度にすることが好ましく、今回は4本/インチ差とした。
【0068】
尚、この発明の水着の形態は、肩ストラップのある男女用ワンピース水着が基本で、脚部のないタイプでも良い。
【0069】
各領域の素材は、2WAYストレッチ編物または織物、不織布からなる。伸縮性の高低や異方性は、各方向の糸の種類や、糸の太さや、撚りの有無、組織の粗密などで、設けることが可能である。
【0070】
上記の方法などで、一枚素材で水着上身頃を形成することが抵抗低減には好ましいが、伸縮特性の異なる素材を縫製やシームテープで組み合わせることも可能である。縫製部またはシームテープは伸縮性があることが望ましい。第2の領域2や第3の領域3に、縫製部やシームテープがないことが望ましい。また、第1の領域1内の素材は、デザイン上、複数の素材を組み合わせても構わないが、主な生地が、上記の伸縮性特性を有する。また、縫製線(第1の領域と第2の領域との間の線、第1の領域と第3の領域との間の線、等)の形状がデザイン上、曲線状や波形状やジグザグ線状等でも構わない。
【0071】
また、第1の領域1をラバープリントやウレタンパネルなどの後加工で補強しても良い。また、生地を重ねることで補強しても構わない。この場合、別素材を重ねても構わない。
【0072】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。