(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6234783
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】燃料噴射ポンプ
(51)【国際特許分類】
F02M 59/10 20060101AFI20171113BHJP
F02M 59/26 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
F02M59/10 B
F02M59/10 A
F02M59/26 330N
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-232468(P2013-232468)
(22)【出願日】2013年11月8日
(65)【公開番号】特開2015-94236(P2015-94236A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年9月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003333
【氏名又は名称】ボッシュ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 修
【審査官】
松永 謙一
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/094341(WO,A1)
【文献】
特開2010−209707(JP,A)
【文献】
特開2004−324537(JP,A)
【文献】
特開2013−160122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 59/10
F02M 59/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより駆動されるシャフトに取り付けられたカムの回転運動がタペットを介してプランジャの上下動に変換され、前記プランジャの上下動により燃料の加圧、噴射を可能としてなる燃料噴射ポンプにおいて、
前記タペットとプランジャバレルの相互に対向する部位の間に、前記タペットの周方向での回動を防止しつつ、前記プランジャの軸方向での摺動を可能に前記タペットを案内するガイド機構が設けられてなり、
前記ガイド機構は、前記プランジャバレルにおいてプランジャばねの内側で前記プランジャバレルが突出する部分の先端に形成されてなることを特徴とする燃料噴射ポンプ。
【請求項2】
前記ガイド機構は、前記タペットに、前記プランジャが収納される前記プランジャバレルへ延びるガイドピンが立設される一方、前記プランジャバレルに前記ガイドピンの上下摺動を可能とするガイド路が設けられてなることを特徴とする請求項1記載の燃料噴射ポンプ。
【請求項3】
前記ガイド路は、前記プランジャバレルの内壁と外壁との間に、中空円柱状に形成されてなることを特徴とする請求項2記載の燃料噴射ポンプ。
【請求項4】
前記ガイド路は、前記プランジャバレルの外周面に形成された溝状に形成されてなることを特徴とする請求項2記載の燃料噴射ポンプ。
【請求項5】
前記ガイド機構は、前記タペットへ延びるガイドピンが前記プランジャバレルの前記タペットと対向する部位に立設される一方、前記タペットに前記ガイドピンの上下摺動を可能とするガイド路が設けられてなることを特徴とする請求項1記載の燃料噴射ポンプ。
【請求項6】
前記ガイド路は、中空円柱状に形成されてなることを特徴とする請求項5記載の燃料噴射ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射ポンプに係り、特に、組み立て作業の簡素化、加工精度の向上等を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来装置としては、例えば、ドライブシャフトに取着されたカムの回転がタペットを介してプランジャの往復動に変換され、プランジャによる燃料の高圧圧送を可能に構成された燃料噴射ポンプが、エンジン等の内燃機関に用いられていることは良く知られているところである(例えば、特許文献1等参照)。
かかる燃料噴射ポンプは、多数の構成部品からなり、製造工程では種々の組み立て作業を行う必要があるため、個々の構成部品の加工精度の向上、組み立て作業の効率化等に関して、種々の新しい提案、実用化が試みられている。
例えば、機構部品の加工行程における生産性を向上させる加工技術としては、センターレス加工が知られているが、これを、例えば、燃料噴射ポンプのタペットの摺動面の仕上げ加工に用いることで、さらなる生産性の向上が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−220554号公報(第4−6頁、
図1−
図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来、タペットには、周方向での周り止めとプランジャの軸方向の案内のためのガイドピンが設けられるようになっており、タペットは、通常、そのガイドピン挿入のための穴がセンターレス加工が適用される部位に形成される構成となっている。そのため、このような構成のタペットにセンターレス加工を適用すると、センターレス加工の特性上、ガイドピン挿入のための穴のために、加工によるタペットの真円度の低下を招くという問題がある。
【0005】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、タペットの真円度の低下を招くことなく精度の高いセンターレス加工を可能とし、従来に比してより生産性、信頼性の高い燃料噴射ポンプを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係る燃料噴射ポンプは、
エンジンにより駆動されるシャフトに取り付けられたカムの回転運動がタペットを介してプランジャの上下動に変換され、前記プランジャの上下動により燃料の加圧、噴射を可能としてなる燃料噴射ポンプにおいて、
前記タペットと前記プランジャバレルの相互に対向する部位の間に、前記タペットの周方向での回動を防止しつつ、前記プランジャの軸方向での摺動を可能に前記タペットを案内するガイド機構が設けられてなるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、タペットとプランジャバレルの相互に対向する部位の間にガイド機構を設ける構成としたので、タペットとポンプハウジングとの間にタペットの案内と周り止めの案内部材を設ける従来と異なり、タペットの外周部分に案内部材を取り付けるための穴の加工を施す必要がなく、精度の高いセンターレス加工が可能となり、より生産性の高い燃料噴射ポンプを提供することができるという効果を奏するものである。
また、従来と異なり、タペットの外周部分に案内部材を圧入する必要がないため、圧入によるタペットの変形を招くことがなく、また、案内部材がポンプハウジングとタペットとの間で固着するようなことが回避でき、より信頼性の高い燃料噴射ポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施の形態における燃料噴射ポンプの縦断面図である。
【
図2】プランジャバレルのタペット側に位置する端面の第1の構成例における平面図である。
【
図3】プランジャバレルのタペット側に位置する端面の第2の構成例における平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、
図1乃至
図3を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、本発明の実施の形態における燃料噴射ポンプの全体構成について、
図1を参照しつつ説明する。
本発明の実施の形態における燃料噴射ポンプは、例えば、コモンレール式燃料噴射制御装置等において、コモンレールへ供給する燃料を加圧、圧送するために用いられるものである。
【0010】
図1は、燃料噴射ポンプ100のプランジャ7の軸線に沿って切断した断面を示す断面図である。
燃料噴射ポンプ100は、ポンプハウジング1を有し、その比較的下部側(
図1において紙面下部側)にカム収納室2が形成されると共に、このカム収納室2から上方へ伸びるようにしてバレル孔3が形成され、以下説明するように、IOバルブ20、プランジャ7、タペット11等が配されたものとなっている。
【0011】
カム収納室2は、エンジン(図示せず)の駆動力によって駆動されるカムシャフト4に設けられたカム5が配されており、後述するようにカム5のカム面5aにはローラ14が常時接触せしめられるようになっている。
一方、バレル孔3には、大凡円筒状のプランジャバレル6が嵌挿されている。
プランジャバレル6には、その軸方向(
図1において紙面上下方向)に、プランジャ収納孔6aと、このプランジャ収納孔6aに連通するようにしてバルブ収納孔6bがプランジャ収納孔6aの上部側に穿設されている。
【0012】
そして、プランジャ収納孔6aには、プランジャ7が上下方向で摺動可能に収納される一方、バルブ収納孔6bには、IOバルブ20が収納されたものとなっている。
プランジャ7の一端、すなわち、カムシャフト4側の端部には、ばね受け8が装着される一方、ばね受け8の上方のバレル孔3の適宜な位置には、環状突起9が形成されており、この環状突起9とばね受け8との間には、プランジャばね10が配設されて、プランジャ7及びタペット11が、ばね受け8を介してカム5へ常に付勢されるようになっている。
【0013】
タペット11は、スライダ12と、ピン13と、ローラ14とを具備して構成されたものとなっている。
スライダ12の上部には、ばね受け収納部12aが形成されており、先のばね受け8が収納されるようになっている。
一方、スライダ12の下部には、ローラ収納部12bが形成されており、次述するようにローラ14が回転可能に収納されるものとなっている。
すなわち、スライダ12の下部において、ピン13がローラ収納部12bを貫くようにして、かつ、カムシャフト4と平行するように取り付けられている。そして、ローラ14は、軸受15を介してピン13に回転可能に取り付けられたものとなっている。
【0014】
一方、IOバルブ20は、インレットバルブ21と、アウトレットバルブ22と、バルブボディ23と、インレットバルブばね24と、アウトレットバルばね25とを主たる構成要素として構成されたものとなっている。
かかるIOバルブ20は、プランジャ7の上下に伴うインレットバルブ21と、アウトレットバルブ22の動作によって、流入通路31を介してのプランジャ室32への燃料の流入と、プランジャ室32から吐出路33を介して図示されないコモンレールへの燃料の吐出を制御可能に構成されたものとなっている。
【0015】
上述の構成は、従来の燃料噴射ポンプと基本的に同様であるが、本発明の実施の形態における燃料噴射ポンプにおいては、上述の構成加えて、さらに、以下、説明するような構成を有してなるガイド機構40が、タペット11とプランジャバレル6の相互に対向する部位に設けられたものとなっている。
【0016】
以下、本発明の実施の形態におけるガイド機構40の第1の構成例について、
図1及び
図2を参照しつつ説明する。
すなわち、ガイド機構40は、タペット11がカム5の回転運動に伴いプランジャ7と共に上下動する際に、タペット11の周方向での回動を防止すると共に、プランジャ7方向、すなわち、プランジャ7の軸方向(上下方向)に沿って案内し、上下方向の摺動運動を可能にするものである。
本発明の実施の形態におけるガイド機構40は、タペット11に立設されたガイドピン41と、プランジャバレル6に形成されたガイド路42とを有して構成されたものとなっている。
【0017】
まず、プランジャバレル6の一方の端面、すなわち、タペット11と対向する側の端面には、円柱状に形成されてなるガイドピン41が、プランジャバレル6の軸方向で摺動可能に案内されるガイド路42が、プランジャバレル6の内壁と外壁の間で、プランジャバレル6の軸方向に形成されている。かかるガイド路42は、ガイドピン41より若干大きい内径を有する中空円柱状に形成されたものとなっている(
図1及び
図2参照)。なお、
図2には、プランジャバレル6の端面側から見た平面図が示されている。
【0018】
本発明の実施の形態におけるガイドピン41は、先に述べたように円柱状に形成されてなるもので、次述するようにタペット11の頂部からプランジャバレル6へ延びるように立設されたものとなっている。
まず、タペット11の頂部において、すなわち、プランジャバレル6の端部と対向する部位において、上述のガイド路42に対応した位置には、ガイドピン41が嵌挿される嵌挿孔43がタペット11の下部側へ向かって穿設されている(
図1参照)。
【0019】
そして、ガイドピン41は、この嵌挿孔43にその一部が嵌挿され、残余の部位は、一部分のみ、プランジャバレル6とタペット11の間に位置するが、その大半がガイド路42に内に位置せしめられるようになっている。
なお、ばね受け8には、ガイドピン41が挿通される挿通孔44が穿孔されており、ガイドピン41がプランジャバレル6側へ突き抜けることができるようになっている。
かかる構成において、ガイドピン41は、タペット11の上下動の長さよりも十分長く設定される一方、ガイド路42は、タペット11の上下動によりガイドピン41が外れない十分な長さに設定されたものとなっている。
【0020】
かかる構成における燃料噴射ポンプの組み立ての手順としては、タペット11をプランジャ7と共に、ポンプハウジング1内へ収納する前に、予めガイドピン41を挿通孔44に嵌挿させておき、その後、従来と同様にしてタペット11及びプランジャ7をポンプハウジング1の下部側の図示されない開口部分から内部へ収納する。
また、プランジャバレル6をポンプハウジング1に収納する際には、ガイド路42がガイドピン41の位置に位置するように、プランジャバレル6の周方向での位置を定めた後、ポンプハウジング1内へ徐々に収納してゆき、ガイドピン41がガイド路42に挿入されるようにして収納を終えるようにする。
【0021】
上述した本発明の実施の形態における燃料噴射ポンプ100においては、カム5の回転に伴うタペット11の上下方向、すなわち、プランジャ7の軸方向での往復動に伴いプランジャ7も同様に往復動をする点は、従来同様である。
タペット11が上下方向で往復動する際、その周方向の動きは、ガイドピン41により規制されるため周方向に回動することはなく、一方、上下方向での往復動においては、ガイドピン41がガイド路42内を円滑に往復動するため、タペット11の本来の動きに支障を与えることなく、その結果、円滑なプランジャ7の動きが確保されるようになっている。
【0022】
次に、ガイド機構40の第2の構成例について
図3を参照しつつ説明する。
なお、先の第1の構成例と同一の構成要素については、同一の符号を付して、その詳細な説明を省略し、以下、異なる点を中心に説明する。
先の第1の構成例において、ガイド路42は、中空円柱状に形成された穴状のものであったのに対して、この第2の構成例は、ガイド路42がプランジャバレル6の外周面に開口する溝として形成された点が異なるものである(
図3参照)。
【0023】
この場合、溝の深さは、ガイドピン41の直径より大に設定され、ガイドピン41が完全にガイド路42内に位置せしめられるようにすることが必要である。
なお、組み立ての手順や、動きについては、第1の構成例と基本的に同様であるので、ここでの再度の詳細な説明は省略することとする。
【0024】
上述した本発明の実施の形態においては、ガイドピン41をタペット11に、ガイド路42をプランジャバレル6に、それぞれ設けてガイド機構40を構成したが、これとは逆に、ガイドピン41をプランジャバレル6に、ガイド路42をタペット11に、それぞれ設けるように構成しても好適である。
【産業上の利用可能性】
【0025】
タペットの固着が生じ難く、精度の高い加工を可能とする構成が所望される燃料噴射ポンプに適する。
【符号の説明】
【0026】
6…プランジャバレル
7…プランジャ
11…タペット
40…ガイド機構
41…ガイドピン
42…ガイド路