(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記データ処理系は、検知された前記不良が前記伝搬波の受信用に指定された超音波振動子側にあるのか或いは前記伝搬波の受信用に指定された超音波振動子に接続された信号線側にあるのかを含む情報として前記不良の通知情報を生成するように構成される請求項1乃至6のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
前記伝搬波を発生させるために指定された超音波振動子に送信信号を印加する一方、前記伝搬波の受信用に指定された超音波振動子を用いて前記伝搬波を受信する制御系を更に有する請求項1乃至8のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
前記制御系は、複数の伝搬波の受信用に指定された複数の超音波振動子で前記複数の伝搬波が必要な強度で受信されるように、前記複数の伝搬波を発生させるための複数の超音波振動子を指定し、かつ前記複数の伝搬波の受信用に指定された前記複数の超音波振動子を、前記複数の伝搬波に対応する複数のセグメントに分割するように構成される請求項9記載の超音波診断装置。
前記制御系は、前記複数の伝搬波のうち少なくとも1つの伝搬波の強度に基づいて前記複数の伝搬波のうちの他の伝搬波を発生させるための超音波振動子を指定するように構成される請求項10記載の超音波診断装置。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態に係る超音波診断装置及び超音波診断装置用のプログラムについて添付図面を参照して説明する。
【0009】
図1は本発明の実施形態に係る超音波診断装置の構成図である。
【0010】
超音波診断装置1は、装置本体2に超音波プローブ3を接続して構成される。超音波プローブ3には被検体に向けて超音波を送受信するための複数の超音波振動子が内蔵される。各超音波振動子は、スキャン時には、電気信号として印加された送信信号を超音波信号に変換して被検体内部に送信する一方、被検体内部において反射した超音波反射波を受信し、電気信号としての受信信号に変換して出力する機能を有している。
【0011】
一方、装置本体2には、制御系4、データ処理系5、表示装置6及び入力装置7が設けられる。制御系4は、送信部8、受信部9、送受信制御部10及びシステム制御部11を有する。また、データ処理系5は、信号処理部12、伝搬波信号取得部13、伝搬波情報取得部14及び異常検出部15を有する。
【0012】
そして、超音波プローブ3に備えられる複数の超音波振動子には信号線16が接続され、信号線16の他端がコネクタ17を介して装置本体2と接続される。コネクタ17を介して超音波プローブ3と接続される装置本体2の内部における信号線16は、装置本体2の内部において制御系4と接続される。具体的には、装置本体2の内部において信号線16が分岐し、一端が送信部8と接続され、他端が受信部9と接続される。
【0013】
制御系4は、超音波プローブ3に備えられる複数の超音波振動子に電気信号を送受信することによって超音波プローブ3を制御するシステムである。
【0014】
送信部8は、超音波プローブ3に備えられる複数の超音波振動子にそれぞれ信号線16を介して送信信号として電気信号を印加する機能を有する。特に、送信部8は、複数の超音波振動子に印加される各送信信号に、所定の遅延時間を付与することによって各超音波振動子から送信される超音波信号によって指向性を有する超音波送信ビームを形成させる機能を有している。尚、送信信号への遅延時間の付与によって超音波送信ビームを形成させる処理は、送信ビームフォーミングとも称される。
【0015】
受信部9は、超音波プローブ3に備えられる複数の超音波振動子からそれぞれ出力される受信信号を所定の遅延時間を伴って受信し、整相加算処理、受信検波処理、A/D(analog to digital)変換処理等の必要な信号処理を実行することによって超音波受信データを生成する機能を有する。受信信号に遅延時間を付与することによって、指向性を有する超音波受信ビームを形成させる処理は、受信ビームフォーミングとも称される。尚、信号処理の一部が超音波プローブ3内において実行される場合もある。
【0016】
また、超音波プローブ3と装置本体2とが無線によって通信可能に接続される場合もある。その場合には、通常、送信部8及び受信部9が超音波プローブ3に内蔵される。その場合においても、超音波プローブ3の内部において信号線16が分岐し、一端が送信部8と接続され、他端が受信部9と接続される。
【0017】
送受信制御部10は、送信部8及び受信部9に制御信号を出力して制御する機能を有する。特に、送受信制御部10は、任意の超音波振動子から超音波を送信することによって超音波プローブ3において生じた振動の伝搬波を所望の超音波振動子で受信できるように送信部8及び受信部9を制御する機能を備えている。超音波プローブ3を伝搬する伝搬波を受信して解析すると、超音波プローブ3及び信号線16によって形成される信号の送受信経路に異常が存在する場合に、異常を検出することが可能となる。
【0018】
図2は
図1に示す超音波プローブ3の詳細構造及び超音波プローブ3を伝搬する伝搬波を示す部分斜視図である。
【0019】
図2に示すように、超音波プローブ3は、バッキング材20に複数の超音波振動子21を配列し、複数の超音波振動子21の表面を整合層22A、22B及び音響レンズ23で保護することによって構成される。尚、
図2には、複数の超音波振動子21を1次元(1D: one dimentional)に配列した超音波プローブ3が示を示したが、複数の超音波振動子21が2次元(2D: two dimentional)に配列される2Dプローブでもよい。
【0020】
図2に示すような構造を有する超音波プローブ3において、任意に選択された1つの超音波振動子21に送信信号を印加して振動させると、振動がバッキング材20及び整合層22A、22Bを伝搬する。この結果、超音波振動子21の配列方向に向かって振動の伝搬波Pが生じる。
【0021】
そこで、適切な単一又は複数の超音波振動子21を用いて振動の伝搬波Pを受信することができる。伝搬波Pの様子を把握する観点からは、送信信号が印加された超音波振動子21から所定の範囲内における複数の超音波振動子21又は超音波プローブ3に備えられる全ての超音波振動子21を伝搬波Pの受信用に使用することが好適である。
【0022】
尚、複数の超音波振動子21に送信信号を印加することによって生じる振動の伝搬波Pを、全ての超音波振動子21又は選択された超音波振動子21で受信するようにしてもよい。実用的な例として、複数の超音波振動子21がサブアレイとして共通の送信チャネルに接続されている場合には、指定された単一の送信チャネルに接続された複数の超音波振動子21に送信信号を印加するようにしてもよい。
【0023】
そこで、送受信制御部10は、超音波プローブ3において振動の伝搬波Pを発生させるために指定された単一又は複数の超音波振動子21に送信部8から送信信号が印加される一方、伝搬波Pを受信するために指定された単一又は複数の超音波振動子21から出力される受信信号が受信部9において受信されるように、送信部8及び受信部9を制御するように構成される。
【0024】
尚、通常のスキャン時には、受信部9において遅延時間を制御する事によって受信ビームフォーミングが実行されるが、伝搬波Pを受信する場合には、受信ビームフォーミングが実行されない。すなわち、受信ビームフォーミングが行われないように送受信制御部10によって受信部9が制御される。
【0025】
システム制御部11は、入力装置7から入力された指示情報に従って送受信制御部10を制御する機能を有する。特に、入力装置7の操作によって、システム制御部11においてスキャン条件及び伝搬波Pの受信条件を設定することができる。この場合、システム制御部11は、設定された条件に従って送受信制御部10を制御するように構成される。
【0026】
そのために、システム制御部11は、表示装置6にスキャン条件及び伝搬波Pの受信条件の設定画面を表示させる機能も有している。実用的には、通常のスキャンモードに加えて伝搬波Pの受信モードを準備し、超音波振動子21を含む超音波プローブ3、受信部9、送信部8及び送受信制御部10の制御条件として入力装置7の操作によって選択できるようにすることができる。
【0027】
このため、制御系4は、伝搬波Pを発生させるために指定された超音波振動子21に送信信号を印加する一方、伝搬波Pの受信用に指定された超音波振動子21を用いて伝搬波Pを受信するシステムとして機能する。
【0028】
データ処理系5は、超音波プローブ3に備えられる複数の超音波振動子21から出力される受信信号に基づくデータ処理によって目的とする情報を取得するためのシステムである。具体的には、被検体のスキャン時であれば、データ処理系5において、複数の超音波振動子21から出力される受信信号に基づくデータ処理によって超音波形態画像データや超音波ドプラ画像データ等の超音波画像データが生成される。
【0029】
受信信号に基づいて超音波画像データを生成するためのデータ処理を実行する機能は、信号処理部12に備えられる。このため、信号処理部12は、データ処理を実行する機能に加え、超音波画像データの生成用の受信信号を受信部9から取得する機能及び超音波画像データを表示装置6に出力する機能を有している。
【0030】
更に、データ処理系5は、超音波プローブ3内を伝搬する振動の伝搬波Pが、伝搬波Pの受信用に指定された超音波振動子21で受信されることによって、当該指定された超音波振動子21から出力される信号に基づくデータ処理によって伝搬波Pに関する情報を取得できるように構成される。伝搬波Pに関する情報は、上述のように、超音波プローブ3及び信号線16によって形成される信号の送受信経路に異常が存在するか否かの判定に用いることができる。
【0031】
伝搬波信号取得部13は、伝搬波Pの受信用に指定された超音波振動子21から出力される信号を取得する機能を有する。また、伝搬波情報取得部14は、伝搬波信号取得部13において取得された信号に基づくデータ処理によって伝搬波Pに関する情報を取得する機能を有する。
【0032】
ところで、伝搬波Pを発生させるために指定された超音波振動子21に送信信号が印加されると、伝搬波Pが生じる他、超音波も送信される。従って、伝搬波Pの受信用に指定された超音波振動子21では、伝搬波Pと超音波の反射波の双方が受信されることになる。
【0033】
そこで、伝搬波情報取得部14は、伝搬波Pの受信用に指定された超音波振動子21から出力される受信信号から超音波の反射波に対応する信号を除去することによって伝搬波Pに対応する信号を抽出し、伝搬波Pに対応する信号に基づくデータ処理を実行できるように構成される。伝搬波Pに対応する信号の抽出は、受信信号の周波数解析によって実行することができる。
【0034】
図3は、
図1に示す伝搬波情報取得部14における周波数解析の方法を説明する図である。
【0035】
図3(A), (B)において、各横軸は周波数fを示し、各縦軸は信号の相対信号強度Sを示す。また、
図3(A)は、伝搬波Pを発生させるために指定された超音波振動子21に印加される送信信号の周波数特性を示し、
図3(B)は、伝搬波Pの受信用に指定された超音波振動子21から出力される受信信号の周波数特性を示す。
【0036】
図3(A)に示すようなパルス電圧を送信信号として超音波振動子21に印加すると、
図3(B)に示すような周波数特性を有する受信信号が取得されると考えられる。すなわち、音響レンズ23等の物体の境界面で反射した超音波反射波に対応する信号の周波数特性は、送信信号の周波数特性と同等であるとみなすことができる。つまり、超音波反射波に対応する信号の周波数帯域は、送信信号と同等の基本波帯域又は近傍の周波数帯域となると考えられる。
【0037】
これに対して、伝搬波Pに対応する信号の周波数帯域は、超音波反射波の周波数帯域よりも低周波側になると考えられる。そこで、LPF (low pass filter)によるフィルタ処理によって低周波側の周波数帯域に存在する伝搬波Pに対応する信号を抽出することができる。この場合、LPFのカットオフ周波数は、理論的又は経験的に決定することができる。
【0038】
更に、伝搬波Pに対応する信号に関する別の問題として、超音波プローブ3を構成するバッキング材20によって伝搬波Pが減衰するという問題がある。バッキング材20による伝搬波Pの減衰率は、バッキング材20の特性に依存して変化する。従って、伝搬波Pの減衰率は、バッキング材20ごとに異なる。このため、伝搬波Pの減衰率が無視できない程大きい場合には、伝搬波Pを発信する超音波振動子21から離れた位置における超音波振動子21において十分な強度で伝搬波Pが受信されない恐れがある。
【0039】
そこで、システム制御部11には、伝搬波Pが十分な強度で受信されるように、伝搬波Pを送信するための複数の超音波振動子21と、伝搬波Pを送信するための各超音波振動子21に対応する、伝搬波Pの受信に使用する超音波振動子21の範囲を設定する機能が備えられる。つまり、伝搬波Pを発信する超音波振動子21から伝搬波Pの受信に使用する超音波振動子21までの距離を適切な範囲内に限定することができる。尚、伝搬波Pの受信に使用する超音波振動子21の複数の範囲を互いにオーバーラップさせてもよい。
【0040】
この場合、伝搬波Pを送信するための複数の超音波振動子21から同時又は順次伝搬波Pが送信される。そして、互いに異なる範囲に含まれる単一又は複数の超音波振動子21によって複数回、伝搬波Pが受信される。また、超音波振動子21全体を、より多くのセグメントに分割して伝搬波Pの受信回数を増やせば、各超音波振動子21によって受信される伝搬波Pの強度を大きくすることができる。換言すれば、十分な強度を有する伝搬波Pを、より広範囲の超音波振動子21で受信することができる。
【0041】
但し、伝搬波Pの送信及び受信の回数を過剰に増やすと、伝搬波Pの受信に要する時間の増加に繋がる。そこで、伝搬波Pの受信に使用する超音波振動子21のセグメント数を、実際に受信される伝搬波Pの強度に基づいて最適化することができる。
【0042】
具体例として、初期設定した単一又は複数の超音波振動子21から伝搬波Pを発生させて初期設定された対応する単一又は複数の範囲における超音波振動子21で伝搬波Pを受信し、受信される伝搬波Pの強度が減衰によって閾値で定められる範囲外となるまで減少した受信用の超音波振動子21が存在する場合には、新たに伝搬波Pを発生させる超音波振動子21及び対応する伝搬波Pの受信用の超音波振動子21の範囲を追加する方法が挙げられる。この方法の場合、受信される伝搬波Pの強度が減衰によって閾値で定められる範囲外とならないための、伝搬波Pの発生用の超音波振動子21と伝搬波Pの受信用の超音波振動子21との間における距離を求めることができる。
【0043】
従って、伝搬波Pの発生用の超音波振動子21と伝搬波Pの受信用の超音波振動子21との間における距離を最適化することができる。すなわち、全ての受信用の超音波振動子21により、必要な強度の伝搬波Pが受信されるような、より短い隣接間隔の超音波振動子21から伝搬波Pを発生させ、より少ない数のセグメントに分割された複数の超音波振動子21を用いて伝搬波Pを受信することが可能となる。
【0044】
上述のように、実際に計測される伝搬波Pに対応する信号の強度に応じて伝搬波Pの発生用の超音波振動子21と伝搬波Pの受信用の超音波振動子21とを決定する場合には、伝搬波情報取得部14が伝搬波Pに対応する信号の強度に対する閾値処理を実行して不十分な信号強度に対応する超音波振動子21を特定し、特定された超音波振動子21の識別情報に基づいて、システム制御部11が伝搬波Pの発生用の超音波振動子21と伝搬波Pの受信用の超音波振動子21とを決定するように構成することができる。
【0045】
このように、制御系4では、複数の伝搬波Pの受信用に指定された複数の超音波振動子21で、複数の伝搬波Pが必要な強度で受信されるように、複数の伝搬波Pを発生させるための複数の超音波振動子21を指定し、かつ複数の伝搬波Pの受信用に指定された複数の超音波振動子21を、複数の伝搬波Pに対応する複数のセグメントに分割することができる。更に、制御系4では、複数の超音波振動子21から発生する複数の伝搬波Pのうち少なくとも1つの伝搬波Pの強度に基づいて複数の伝搬波Pのうちの他の伝搬波Pを発生させるための超音波振動子21を指定することができる。
【0046】
このような制御系4による超音波振動子21の制御によって、伝搬波Pが減衰したとしても、より短時間で十分な強度を有する伝搬波Pを超音波プローブ3に備えられるより多くの超音波振動子21で受信することができる。そして、伝搬波情報取得部14では、十分な強度を有する伝搬波Pに対応する信号に基づくデータ処理によって、伝搬波Pに関する情報を高感度に取得することができる。
【0047】
伝搬波情報取得部14において取得される伝搬波Pに関する情報としては、超音波プローブ3及び信号の送受信経路における不良チャネル及び不良箇所等の不良状況を把握するために有用であれば任意の情報を定めることができる。不良チャネル及び不良箇所を把握するためには、特に、伝搬波Pの到達時間や伝搬波Pが伝搬している様子を可視化することが有効である。
【0048】
そこで、伝搬波Pに関する情報の具体例として、伝搬波Pの振幅又は到達時刻を表す数値データ又は画像データが挙げられる。数値データのより具体的な例としては、各チャネルに対応する超音波振動子21で受信される伝搬波Pの振幅の時間変化や各チャネルに対応する超音波振動子21への伝搬波Pの到達時刻が挙げられる。数値データは、数値のみならず、グラフとして表現することもできる。例えば、ある位置における伝搬波Pの振幅の時間変化や伝搬波Pの到達時刻の位置変化をグラフ化することができる。一方、伝搬波P画像データの具体例としては、伝搬波Pの振幅又は到達時刻を画素値として表す2Dマップ画像データが挙げられる。
【0049】
従って、伝搬波情報取得部14において伝搬波Pの振幅を表す数値データ、伝搬波Pの振幅を表す伝搬波画像データ、伝搬波Pの到達時刻を表す数値データ及び伝搬波Pの到達時刻を表す伝搬波画像データの少なくとも1つを伝搬波Pに関する情報として生成することができる。生成された数値データや伝搬波画像データ等の伝搬波Pに関する情報は、表示装置6に表示させることができる。これにより、ユーザは、伝搬波Pに関する情報を目視することによって、超音波プローブ3及び信号の送受信経路に異常が存在するか否かを簡易に確認することが可能となる。特に、異常が存在する超音波振動子21又は信号チャネルを特定することが可能となる。
【0050】
図4は
図1に示す伝搬波情報取得部14において生成された伝搬波Pの振幅の時間変化を示す時系列の複数フレームの静止画像の一例を示す図である。
【0051】
図4において縦軸方向は、時相方向を示す。
図4は、2Dアレイプローブを複数のセグメントに分割し、あるセグメントに属する複数の超音波振動子21を用いて受信された伝搬波Pの振幅を画像化したものである。
図4に示すように、伝搬波Pの2D位置における振幅をグレースケールで示す伝搬波画像を生成して表示させることができる。
【0052】
そして、異なる時相に対応する複数フレームの伝搬波画像を時系列に並べて表示させることにより、伝搬波Pが超音波振動子21の2D配列方向に伝搬していく様子を把握することが可能となる。もちろん、複数フレームの伝搬波画像を順次切換表示させることによって動画として複数フレームの伝搬波画像を表示させることもできる。
【0053】
更に、セグメントを順次切換えることによって、2Dアレイプローブ全体に亘って伝搬波Pが超音波振動子21の配列方向に伝搬していく様子を視認することができる。すなわち、複数のセグメントの設定によって、伝搬波Pの減衰による視認性の低下を回避することができる。
【0054】
超音波振動子21又は信号チャネルにおける不良は、目視によらず、定量的な評価によって自動検出することもできる。そのために、データ処理系5の異常検出部15には、伝搬波Pに関する情報を参照データと比較し、参照データに対する比較結果を含む情報を取得する機能と、伝搬波Pに関する情報に基づいて不良の有無を判別し、不良が検知された場合には検知された不良の通知情報を生成する機能が備えられる。この場合、不良の有無の判別を、参照データに対する比較結果に基づいて行うことができる。
【0055】
伝搬波Pに関する情報との比較対象となる参照データとしては、超音波プローブ3の特性に応じて定められた閾値や過去に取得された伝搬波Pに関する情報を用いることができる。
【0056】
より具体的には、超音波プローブ3の特性に応じて想定され得る伝搬波Pの到達時刻や振幅に閾値を設定し、実際に測定された伝搬波Pの到達時刻や振幅が閾値で定められる範囲外であるか否かを判定することによって不良を自動検出することができる。すなわち、伝搬波Pの振幅又は到達時刻を表す数値データや伝搬波画像データ等の伝搬波Pに関する情報に対する閾値処理によって超音波振動子21又は信号チャネルにおける不良を自動検出することができる。
【0057】
或いは、超音波診断装置1の出荷前や使用前等の任意の時点において伝搬波Pの振幅又は到達時刻を表す数値データや伝搬波画像データ等の伝搬波Pに関する情報を取得しておくことができる。そして、予め取得した伝搬波Pに関する情報を、不良がない正常な状態における情報として保存し、スキャン直前等の必要な時に参照データとして利用することができる。
【0058】
過去の伝搬波Pに関する情報を参照データとして用いる場合には、不良の検出対象となる伝搬波Pに関する情報と参照データとの間における差分値を求めることができる。そして、差分値に対する閾値処理を行うことができる。すなわち、正常なデータとの差分値が、閾値で定められた範囲内であるか否かを判定することができる。そして、差分値が閾値で定められる範囲外であると判定される場合には、超音波振動子21又は信号チャネルに不良があると認識することができる。これにより、超音波振動子21又は信号チャネルに存在し得る不良の自動検出が可能となる。
【0059】
このように、伝搬波Pに関する情報に、参照データとして任意の基準を設定し、参照データを参照した閾値処理によって超音波振動子21又は信号チャネルに存在し得る不良を自動検出することができる。不良が検知された場合には検知された不良の通知情報を生成し、生成した不良の通知情報を表示装置6に出力することができる。
【0060】
更に、伝搬波Pに関する情報に基づいて、不良が超音波振動子21を含む超音波プローブ3側にあるのか或いは装置本体2内の制御系4と超音波プローブ3との間における信号チャネルにあるのかという従来困難であった判別を行うことが可能となる。
【0061】
図5は、
図2に示す超音波プローブ3に備えられる超音波振動子21の1つに不良が存在する場合における伝搬波Pの波面を示す模式図である。
【0062】
超音波プローブ3の落下等の要因によって超音波振動子21に衝撃が加わると、超音波振動子21が割れたり欠ける場合がある。そのような不良が超音波振動子21Xに存在すると、
図5に示すように、不良が存在する超音波振動子21Xの周辺において波面が不連続となる伝搬波Pが受信される。すなわち、不良が存在する超音波振動子21Xを通過した伝搬波Pに、不良が存在する超音波振動子21Xの影響が生じる。
【0063】
これに対して、超音波振動子21に不良がなく、制御系4と超音波プローブ3とを接続する信号線16の断線のように、信号チャネルに不良が存在する場合には、不良が存在する受信チャネルのみに不良の影響が生じる。すなわち、不良が存在する受信チャネルに接続された超音波振動子21を通過した伝搬波Pには、不良が存在する受信チャネルの影響が生じない。換言すれば、不良が存在する受信チャネルに接続された超音波振動子21に隣接する超音波振動子21で受信される伝搬波Pは、受信チャネルに存在する不良の影響を受けない。
【0064】
従って、伝搬波Pの画像を目視すれば、不良が超音波プローブ3側にあるのか或いは制御系4と超音波プローブ3との間における信号チャネルにあるのかが一目瞭然となる。加えて、異常検出部15が、伝搬波Pの振幅又は到達時刻を表す数値データ又は伝搬波画像データに対する特異点検出や不連続点検出等のデータ解析を行うようにすれば、不良の自動検出のみならず、検出された不良が超音波プローブ3側にあるのか或いは制御系4と超音波プローブ3との間における信号チャネルにあるのかについても自動判定することが可能となる。
【0065】
具体的には、数値データや伝搬波画像データ等の伝搬波Pに関する情報に対するデータ解析処理によって特異点が検出された場合には、制御系4と超音波プローブ3との間における、特異点に対応する信号チャネルに不良が存在すると判定することができる。一方、伝搬波Pに関する情報に対するデータ解析処理によって不連続点が検出された場合には、不連続点に対応する超音波振動子21Xに不良が存在すると判定することができる。
【0066】
そして、異常検出部15では、検知された不良が伝搬波Pの受信用に指定された超音波振動子21側にあるのか或いは伝搬波Pの受信用に指定された超音波振動子21に接続された信号線16側にあるのかを含む情報として不良の通知情報を生成することができる。このように、異常検出部15において生成された不良の通知情報や不良が検出されたか否かを示す情報は、試験結果情報として保存しておくことができる。
【0067】
以上のような装置本体2の構成要素のうち、デジタル情報を処理する構成要素は、コンピュータに超音波診断装置1用のプログラムを読込ませることによって構築することができる。但し、装置本体2の任意の構成要素を構成するために回路を用いてもよい。
【0068】
具体的には、コンピュータに超音波診断装置1のデータ処理プログラムを読込ませることによって、コンピュータを、伝搬波信号取得部13、伝搬波情報取得部14及び異常検出部15を含むデータ処理系5として機能させることができる。また、コンピュータに超音波診断装置1の制御プログラムを読込ませることによって、コンピュータを、送受信制御部10及びシステム制御部11を含む制御系4の一部として機能させることができる。
【0069】
超音波診断装置1のデータ処理プログラム及び制御プログラムを含むプログラムは、情報記録媒体に記録してプログラムプロダクトとして流通させることができる。従って、既存の超音波診断装置に必要なプログラムをインストールすることによって、既存の超音波診断装置を
図1に示す超音波診断装置1として機能させることができる。
【0070】
次に超音波診断装置1の動作および作用について説明する。
【0071】
図6は、
図1に示す超音波診断装置1において伝搬波Pを発生させて不良の有無の検査を行う際の流れを示すフローチャートである。
【0072】
まず、不良の有無の検査対象となる超音波プローブ3が、予めコネクタ17を介して装置本体2と接続される。
【0073】
そして、ステップS1において、超音波プローブ3に備えられる複数の超音波振動子21の中から指定された超音波振動子21から伝搬波Pが生成される。
【0074】
具体的には、システム制御部11が表示装置6にユーザインターフェースとして表示させた設定画面を通じた入力装置7の操作によって、伝搬波Pの受信モードが選択される。続いて、設定画面を通じた入力装置7の操作によって、システム制御部11において伝搬波Pを受信するために必要な制御条件が設定される。具体例として、伝搬波Pを発生させる超音波振動子21や伝搬波Pを受信するための超音波振動子21等の条件がシステム制御部11において設定される。
【0075】
そうすると、システム制御部11は、設定されたデータ収集条件に従って、送受信制御部10を制御する。更に、送受信制御部10は、システム制御部11から出力された制御信号に従って、送信部8及び受信部9を制御する。これにより、送信部8から、指定された超音波振動子21に送信信号としてパルス電圧が印加され、指定された超音波振動子21から超音波振動子21の配列方向に向かう振動の伝搬波Pが生じる。また、送信信号が印加された超音波振動子21からは超音波が送信される。
【0076】
このため、ステップS2において、伝搬波Pの受信用に指定された超音波振動子21では、伝搬波Pと超音波反射波の合波が受信される。受信された合波は、電気信号として受信部9に出力される。受信部9では、A/D変換処理等の必要な信号処理が施される。信号処理によってデジタル化された受信信号は、受信部9から伝搬波信号取得部13に与えられる。この結果、伝搬波P及び超音波反射波に対応する電気信号が伝搬波信号取得部13により取得される。
【0077】
次に、ステップS3において、伝搬波情報取得部14は、伝搬波信号取得部13から伝搬波P及び超音波反射波に対応する電気信号を取得し、データ分析によって伝搬波Pに関する情報を取得する。
【0078】
そのために、まずLPFによって伝搬波P及び超音波反射波に対応する電気信号から伝搬波Pに対応する電気信号が抽出される。そして、抽出された伝搬波Pに対応する電気信号に基づくデータ処理によって伝搬波Pに関する情報が生成される。
【0079】
具体例として、伝搬波Pの振幅又は到達時刻を表す2D数値データマップや2D伝搬波画像データを生成することができる。更に、伝搬波Pの振幅を表すデータを生成する場合には、
図4に例示されるような時系列のデータとすることができる。生成された伝搬波Pを表すデータは、表示装置6に表示させることができる。このため、ユーザは、不良の有無を確認することができる。
【0080】
更に、不良の有無を自動判定することもできる。その場合には、ステップS4において、異常検出部15が、数値データや伝搬波画像データ等を参照データと比較し、差分値等に対する閾値処理を実行する。そして、閾値処理の結果に基づいて、不良の有無を自動判定することができる。更に、不良が検出された場合には、伝搬波Pの振幅又は到達時刻に特異点又は不連続点があるか否かを判定することによって、不良が超音波振動子21側にあるのか或いは超音波振動子21に接続された信号線16側にあるのかを判定することができる。
【0081】
不良が検出されたと異常検出部15が判定した場合には、ステップS5において、異常検出部15が不良の通知情報を生成する。生成された不良の通知情報は、表示装置6に出力される。これにより、ユーザは、一層容易に不良の有無を確認することができる。加えて、不良が超音波振動子21側にあるのか或いは超音波振動子21に接続された信号線16側にあるのかが判定された場合には、不良の通知情報によって不良の発生箇所を容易に特定することができる。
【0082】
一方、不良が検出されなかったと異常検出部15が判定した場合には、不良の有無の検査が完了する。また、不良が検出された場合においても、不良の通知情報の出力によって不良の有無の検査が完了する。尚、不良の通知情報や不良が検出されたか否かを試験結果情報として保存しておくことができる。これにより、試験結果の履歴を参照することによって超音波振動子21又は信号線16の劣化の程度を把握することが可能となる。
【0083】
つまり以上のような超音波診断装置1は、特定の超音波振動子21から超音波振動子21の配列方向に伝搬する伝搬波Pを検出し、検出した伝搬波Pを数値化又は可視化することによって超音波振動子21又は信号チャネルにおける不良の有無を判定できるようにしたものである。
【0084】
このため、超音波診断装置1によれば、超音波振動子21又は信号チャネルにおける電気的不良及び機械的不良の有無を容易に確認することができる。更に、不良が検出された場合において、不良が超音波振動子21側にあるのか或いは超音波振動子21に接続された信号線16側にあるのかを容易に判別することができる。すなわち、不良が断線等の電気的な不良であるのか或いは割れ等の機械的な不良であるのかを調べることができる。加えて、超音波振動子21ごとに試験信号を送受信することが不要となるため、従来に比べて検査時間を短縮することができる。
【0085】
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。