(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記既知の校正信号が、事前設定された周波数を有し、前記出力信号の各々のレベルを測定することが、前記事前設定された周波数における前記各々のレベルを測定することを含む、請求項1に記載の方法。
前記各々のレベルが、前記入力電極において発生した各々の振幅レベルを備え、前記各々の荷重係数が、前記各々の振幅レベルの逆数値に応答して誘導される、請求項1に記載の方法。
前記入力電極が、それぞれ前記被験者の右腕(RA)、左腕(LA)、及び左脚(LL)に取り付けられた3つの電極を備え、前記各々の荷重係数を、前記3つの電極によって獲得された3つの前記生理学的信号に適用することが、前記3つの電極から発生した3つの前記補正された生理学的信号を平均化し、参照信号をもたらすことを含む、請求項1に記載の方法。
前記既知の校正信号が、事前設定された周波数を有し、前記出力信号の各々のレベルを測定することが、前記事前設定された周波数における前記各々のレベルを測定することを含む、請求項9に記載の装置。
前記入力電極が、それぞれ前記被験者の右腕(RA)、左腕(LA)、及び左脚(LL)に取り付けられた3つの電極を備え、前記各々の荷重係数を、前記3つの電極によって獲得された3つの前記生理学的信号に適用することが、前記3つの電極から発生した3つの前記補正された生理学的信号を平均化し、参照信号をもたらすことを含む、請求項9に記載の装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
概論
本発明の一実施形態は、供給源からのピックアップ及びチャンネル構成部品の変化によって生じるチャンネル誤差を測定し補正するためのシステムを提供する。この測定及び補正は、被験者が電力線信号などの無関係な電気信号を拾う環境に彼/彼女がいる場合があるために、一般的に必要である。生理学的信号は、筋電図(EMG)、脳波計(EEG)、又は心電図(ECG)信号などの、被験者の電気的活動によって発生した任意の電気信号を包含する。簡略化のために、以下の説明は、電気信号がECG信号であると想定する。
【0014】
補正をもたらすために、既知の信号が被験者に取り付けられた注入参照電極を介して被験者に注入される。校正信号は、典型的には、周波数のスペクトルを備える。入力電極もまた、被験者に取り付けられるか又は接続されている。ECGの場合、電極は被験者の皮膚に取り付けられた電極から身体面(BS)信号、及び/又は典型的には被験者の心臓内の1つ以上のカテーテル上にある電極から心臓内(IC)ECG信号を受信する。
【0015】
プロセッサが、校正信号に応答して入力電極によって同時に受信される信号のレベルを測定し、それぞれの入力電極について、プロセッサが測定された信号を校正信号と比較する。この比較は、注入された信号の周波数のスペクトルにわたる信号の振幅及び位相に関して実行されてもよい。この比較から、プロセッサは、入力電極のそれぞれに関して各々の荷重係数を誘導する。荷重係数は、各々の入力電極において注入された信号の影響の度量である。
【0016】
入力電極のそれぞれに関して、プロセッサは、荷重係数を、本明細書で記載される例ではECG信号である電極によって獲得された生理学的信号に掛けて、補正された生理学的信号を得る。
【0017】
補正信号は、単極又は双極形態であってもよい。本発明の実施形態により補正されるような信号は、未補正の信号に比べて、並びに先行技術のシステムに比べて測定精度において著しい改善を有する。これに加えて、本発明の実施形態によって発生するような補正信号は、被験者によって発生する信号を妨害する可能性がある電力線信号などの無関係な信号の影響を実質的に低減、又は消去さえもする。
【0018】
本明細書に記載のシステムは、信号を獲得する電極に関連するチャンネルと回路との間の差を測定するパラメータなどの生理学的信号の獲得に関連するパラメータの実時間のモニタリングに使用され得る。この差とは、典型的には、チャンネルに関連する部品の操作パラメータにおけるずれ、並びに電極−組織接触インピーダンスにおける変化が挙げられる。本システムによって提供される更なる利点は、電力線からのものなどの外部的に誘導された信号の優れた同相分除去である。
【0019】
本発明の一実施形態では、ウィルソン結合電極(WCT)の等価物が、被験者の右腕、左腕、及び左脚に取り付けられた入力電極から各々の生理学的信号を獲得することによって発生する。校正信号は、被験者の右脚に注入される。入力電極からの3つの補正された信号は平均化され、参照基底水準を生じる。参照信号は、他のチャンネルに関するものである。この参照信号は、単極信号の参照として使用され得、3つの入力電極生理学的信号に補正が掛けられるために、先行技術の基底よりも一層正確な参照をもたらす。
【0020】
システムの説明
ここで、本発明の一実施形態による、マルチ−チャンネル心電図(ECG)信号測定システム10の略図である
図1を参照する。
【0021】
簡潔性及び明瞭性のために、以下の説明は、特に記述のない限り、システム10が被験者26の心臓34から身体面上(BS)電気信号を感知する調査手順を想定する。しかしながら、本発明の実施形態は、BS及び心臓内(IC)電気信号の双方に適用されてもよい。IC信号は、典型的には、1つ以上のIC電極22を有する遠位端32を有するプローブ24を使用して獲得される。
【0022】
BS電気信号を感知するために、電極30A、30B、30C、...が各々の導線31A、31B、31C、...によって、被験者26の皮膚に取り付けられる。本開示では、電極30A、30B、30C、...は総じて電極30と呼ばれ、導線31A、31B、31C、...は総じて導線31と呼ばれる。BS電気信号だけが測定される典型的ECG手順では、標準位置で(右腕、左腕、左脚)被験者26の皮膚に取り付けられた10個の電極30、並びに心臓34の区域内の6個の電極がある。
図1では、4個の電極30A、30B、30C、及び30Dが図示され、それぞれが被験者26の右脚、左脚、右腕、及び左腕に取り付けられると想定される。明確化のために、上に示した典型的ECG手順については、心臓34の区域内で取り付けられた6個の電極のうち2個の電極30E及び30Jのみが
図1に示されている。
【0023】
しかしながら、いくつかのECG手順では、10個を超える、又は10個よりも少ない電極30があってもよく、本発明の実施形態については、電極30の数に対する制限はない。同様に、IC電気信号の場合にも、システム10で使用され得るIC電極22の数に対する制限はない。各電極(電極30及び電極22の)は、システム10の各々のチャンネルを画定することが理解されるであろう。
【0024】
典型的には、プローブ24は、システム10のユーザー28により実行される医療処理中に被験者26の身体内に挿入されるカテーテルを備える。本明細書の説明において、ユーザー28は、一例として、医療専門家であると想定される。
【0025】
システム10は、システムプロセッサ40によって制御されてもよく、システムプロセッサ40は、メモリ44と通信する処理装置42を備えている。プロセッサ40は通常、制御卓46内に搭載されており、制御卓46は、通常はマウス又はトラックボールなどのポインティングデバイス39を有する操作制御部38を備え、専門家28はこの操作制御部38を使用してプロセッサと相互作用する。プロセッサは、メモリ44内に格納される、ECGモジュール36を含めた、ソフトウェアを使用して、システム10を動作させる。プロセッサ40によって実行される動作の結果は、ディスプレイ48上で専門家に提示され、このディスプレイ48は、典型的には、ユーザーに対するグラフィックユーザーインターフェース、電極22及び/又は電極30によって感知されるECG信号の視覚的表現、及び/又は調査されている間の心臓34の画像又は写像を提示する。ソフトウェアは、例えばネットワークを通して電子形式でプロセッサ40にダウンロードされてもいいし、あるいは代替的又は追加的に、磁気、光学、又は電子的メモリ等の持続的な有形媒体に提供及び/又は格納されてもよい。
【0026】
ECGモジュール36は、電極22及び電極30からの電気信号を受信するよう連結されている。このモジュールは、信号を解析するように構成され、ディスプレイ48上に、標準的なECG形式で、典型的には、時間と共に変動するグラフ式表現で、解析の結果を提示することができる。モジュール36の構造及び動作は、
図2及び
図3に関して以下により詳細に説明される。
【0027】
図2は、本発明の一実施形態による、ECGモジュール36の基本ブロック図である。
図2では、電極30A、30B、30C、及び30Dに関する識別子が、電極が取り付けられている各々の肢、右脚(RL)、左脚(LL)、右腕(RA)、及び左腕(LA)の識別子に追加されている。本開示では、電極30E、30F、30G、30H、30I、及び30Jはまた、それぞれ電圧識別子V1、V2、V3、V4、V5、及びV6によって識別され得る。
図2は、追加された電圧識別子V1、V6を有する電極30E及び30Jを図示する。明確にするために、図においては、BS電極30は、黒丸として示され、一方IC電極22は白丸として示される。
【0028】
被験者26の右脚上の電極30Aに接続されているモジュール36内の回路を除いては、他の電極30、及び電極22のそれぞれに接続されているモジュール36内の回路は、実質的に同様である。以下の説明は、BS電極30Eに接続される回路に適用し、添え字の適切な変更で、電極30Aを除いて、全ての他の電極30に接続される回路に適用する。この説明はまた、1つ以上のIC電極22に接続される回路にも適用する。
【0029】
電極30Eは、導線31Eを介して保護装置60E、典型的には電圧サプレッサに接続される。装置60Eは、モジュール36の構成部品を、徐細動処置又はアブレーション処置から発生するものなどの被験者26で発生し得る不必要な電流又は電圧から絶縁する。
【0030】
電極30Eで生成される信号は、典型的には、心臓34の鼓動に関連するECG信号などの、被験者26で生じる電気生理学的プロセスから発生する。電極30Eで生成される信号はまた、被験者26に対して外部的に発生した信号を含み、これは、被験者によって拾われる又は被験者に結合される信号であり、この信号は、被験者を介して電極に転送される。かかる後者の信号は、被験者26の電力線ピックアップによって発生した電気信号を含む。
【0031】
電極30Eにおける信号は、生理学的信号並びに以下により詳細に記載される被験者26に注入された信号に応答して発生した信号を含む。電極30Eにおける信号は、装置60Eに運ばれる。装置60Eを横断した後に、出力信号が、低ノイズ高インピーダンス増幅器62Eで増幅され、次いで増幅された出力信号は、アナログ/ディジタル変換器(ADC)64Eでディジタル化される。一実施形態では、ADC 64Eは、Texas Instruments,Dallas,Texasによって製造されたADS1271を備える。電極30Eからのディジタル化されたデータ、及び電極30Aから離れた全ての他の電極からのディジタル化されたデータが、装置内の信号アナライザ68における解析のために、ECG処理装置66に転送される。
【0032】
電極30Aは、保護装置60Aに接続されている。しかしながら、被験者26に由来する信号が電極を介して装置66に転送されるよりはむしろ、この電極は被験者に信号を注入するよう構成されている。信号注入は、電極30Aが取り付けられている被験者26の区域で、すなわち被験者の右脚で起こる。
【0033】
注入信号は、ディジタル信号発生器70によって発生され、ディジタル信号発生器は、ディジタル化された値をディジタル/アナログ変換装置(DAC)72に供給する。DAC 72は、発生器70からのディジタルデータをアナログ信号に変換し、このアナログ信号は、緩衝増幅器74を介して電極30Aに転送される。
【0034】
図3は、本発明の一実施形態による、システム10の動作の際の、プロセッサ40によって実行される工程を示す流れ図である。流れ図の説明は、10個の電極30の典型的システムが被験者26の皮膚に取り付けられていると想定する。当業者であれば、IC信号を発生するように心臓34内に配置された少なくともいくつかのIC電極22を有するもの、及び/又は他の数の電極30に関するものなどの他の電極が被験者26内で動作する場合に、この説明を適応させることができるであろう。この流れ図の説明はまた、流れ図の工程が実行されると同時に、すなわち流れ図の工程の実行と時を同じくして、被験者26のECG測定が実行されるべきであることを想定している。
【0035】
流れ図の説明において、電極30Aは、参照信号注入電極、参照電極、又は注入電極と呼ばれてもよい。これに加えて、電極30B〜30Jは、信号受信電極、又は入力電極と呼ばれてもよい。
【0036】
最初の工程100では、電極が
図1を参照して上述されたように実質的に配置されて、10個の電極30が被験者26の皮膚に取り付けられる。
図2に示すように、電極は、コンソール46を介して、ECGモジュール36に接続される。
【0037】
信号発生工程102では、信号発生器70が、n個の事前選択する周波数f
1、f
2、...f
n(それぞれがn個の事前選択する位相φ
1、φ
2、...φ
nを有する)を有するディジタル信号を発生し、ここでnは1以上の整数である。この信号がDAC 72に入力され、DAC 72からのアナログ信号が増幅器74によって増幅される。それぞれの周波数f
1、f
2、...f
nについて、典型的には処理装置66によって、増幅器74の各々の増幅率A
1、A
2、...A
nが設定されることで、増幅器による信号出力のレベルは、全てのn個の周波数に関して既知の、事前選択する数値である。
【0038】
周波数f
1、f
2、...f
nは、典型的には、予想されるECG信号周波数、及び予想される電力線干渉周波数を含む範囲にあるよう選択される。後者は、典型的には約50Hz〜60Hzである。前者は、典型的には約1Hz〜約1000Hzの範囲にある。しかしながら、発生器70によって発生された信号の周波数が上記で列挙された数値の範囲内にある必要はなく、周波数f
1、f
2、...f
nはこれら数値の外側にあってもよい。
【0039】
電極30Aへの校正信号入力についての式は、
S
cal=S
i(V
i) (1)
によって与えられ、ここで、S
iは、ベクトルV
iの入力関数、典型的には正弦波形状関数であり、
ベクトルV
iは、n個の異なる信号の振幅、周波数、及び位相を画定する要素を有する3n−次元の入力ベクトルであり、すなわち、
V
i≡(A
1、A
2、...A
n、f
1、f
2、...f
n、φ
1、φ
2、...φ
n)であり、
並びに、
S
calは、電極30Aに注入された校正信号であり、校正信号S
calのレベルは、ECGモジュール36の離隔された基底に対して測定されると想定される。
【0040】
注入された校正信号S
calのn個の異なる信号は、順次掛けられてもよい。あるいは、S
calのn個の異なる信号の少なくともいくつかが同時に適用されてもよい。
【0041】
いくつかの実施形態では、注入された校正信号から生じた信号の検出を容易にするために、校正信号S
calが、典型的には好適なアナログ又はディジタル変調技術によって変調される。校正信号のかかる変調は、かかる信号が被験者26を介して発生し、又は転送され、上記で定義された生理学的信号(ECG又は誘導された電力線信号など)と同様な周波数を有する場合であっても、プロセッサ40が注入信号から生じた信号を識別することを可能にする。生じた信号の検出が、以下に記載される。
【0042】
注入された校正信号S
calは、注入電極に運ばれ、注入された信号は、被験者26に取り付けられた入力電極において対応する出力信号を同時に生成する。これら対応する出力信号は、他の供給源から発生した入力電極上の生理学的信号及び拾われたノイズに重ね合わされる。かかる他の供給源としては、心臓34の鼓動によって発生したECG信号、並びに被験者26の付近の電力線機器から放射性、誘導性、又は静電結合などの外部供給源が挙げられる。
【0043】
信号獲得工程104において、入力電極からの信号が、信号アナライザ68によって獲得される。校正信号S
calの既知の周波数f
1、f
2、...f
nを校正信号に掛けられることができる任意の変調パラメータと一緒に使用して、信号アナライザは位相敏感検出を用いて校正信号によって電極で誘導された有効信号の値を決定する。
【0044】
入力電極E
aにおいて発生する誘導された有効信号に関する式は、
S
eff(E
a)=S
o(V
ao) (2)で与えられ、
ここで、E
aは入力電極の識別子であり、
S
oは出力ベクトルV
aoの出力関数であり、及び
ベクトルV
aoは、入力電極においてn個の異なる信号の振幅、周波数、及び位相を画定する要素を有する3n−次元の入力ベクトルであり、すなわち、
V
o≡(A
ao1、A
ao2、...A
aon、f
1、f
2、...f
n、φ
ao1、φ
ao2、...φ
aon)であり、
並びに、
S
eff(E
a)は、注入された校正信号S
calによって、入力電極E
aにおいて形成された有効出力信号である。
【0045】
出力関数S
oは、典型的には入力関数S
iと同様であることで、後者が正弦波形状である場合、S
oもまた正弦波形状である。
【0046】
ベクトルV
i及びV
aoが典型的に振幅及び位相要素の異なる値を有すると同時に、これらは共通の周波数要素f
1、f
2、...f
nを有することが理解されるであろう。
【0047】
以下の説明において、「a」は、1と9との間の整数であり、被験者26に取り付けられたBS入力電極に相当すると想定される。あるいは、必要に応じて、「a」はRA、LA、LL、V1、...V6のうちの1つであってもよい。
【0048】
工程102及び104は、典型的には、被験者26で実行される手順の実質的に全コースの間で実施される。いくつかの実施形態では、この工程は断続的に実施され、そのため被験者への校正信号の注入がない場合の手順の間に、若干の時間がある。断続的な実施の場合、この工程実施中に取得された結果(以下に記載)は、工程が実施されない場合、すなわち、校正信号注入がない場合に使用されてもよい。更に、断続的実施の場合、ノイズ値に対して許容可能な信号を有するそれぞれの入力電極E
1、...E
9に関して、S
eff(E
a)の値を達成するのに十分な時間にわたって、校正信号が被験者26に注入される。
【0049】
照合工程106では、異なる周波数f
1、...f
nに関するV
aoの振幅及び位相の異なる出力値が、V
iの各々の入力レベルと比較される。この比較は、それぞれの入力電極E
aについて実行される。それぞれの入力電極について、この比較は、典型的には、入力振幅レベルに対する出力の比及び位相レベルの差を形成することを含む。この比較から、電極E
1、...E
a、...E
9に関して、2n次元の補正ベクトル(C)E
1、...(C)E
a、...(C)E
9のセットが形成される。
【0050】
補正ベクトル(C)E
aについての等式は、
【数1】
である。
【0051】
2n次元のベクトル(C)E
aは、
n個の振幅要素
【数2】
のセットとn個の位相要素
【数3】
のセットとを含む。振幅要素はまた、一般的に{A
ae}と呼ばれ、位相要素も、一般的に{φ
ae}とも呼ばれる。工程106で形成された各ベクトル(C)E
aは、注入電極30Aにおいて注入された校正信号に応答して、各々の入力電極E
aにおいて生じた信号を表す。
【0052】
等式(3)の検証は、補正ベクトル(C)E
aの要素が、被験者26に注入された信号の比較効果の数字的度量をもたらすことを裏付ける。
【0053】
典型的には、補正ベクトルの要素の異なる値によって示された、異なる入力電極において応答する差異は、複数の因子によって引き起こされる。かかる因子としては、電極接触インピーダンス変化、電子構成部品の特性における差、電極及び/又は電極に接続された構成部品の温度差、並びに均一ではない注入電極から入力電極までの電力伝達が挙げられる。以下に記載されるように、本発明の実施形態は、補正ベクトルの要素の測定された値を使用して、入力電極に応答する差について補正する。
【0054】
等式(3)の数式のように、校正信号S
calは、注入電極に注入されたものであり、30Hzの周波数での10mVの信号、及び100Hzの周波数での20mVの信号から形成され得、両信号は0の位相を有する。この場合、(V
i)≡(10、20、30、100、0、0)である。
【0055】
30Hzにおいて電極E
1で測定された値は、A
1o1=4mV、φ
1o1=+30°であり得、100HzにおいてはA
1o2=12mV、φ
1o1=−50°であり得、30Hzにおいて電極E
6で測定された値はA
6o1=7mV、φ
6o1=+20°であり、並びに100HzにおいてはA
6o2=16mV、φ
6o2=+0°であり得る。
【0056】
この例において、(C)E
1≡(0.4、0.6、+30°、−50°)、及び(C)E
6≡(0.7、0.8、+20°、+0°)である。
【0057】
補正ベクトルの要素は、注入された信号が電極E
1、E
2、...E
9のそれぞれにどれほど影響を及ぼすかの数値度量をもたらす。これに加えて、補正ベクトルの各々の要素間の比較は、注入された信号の電極に及ぼす相対的影響の数値度量をもたらす。したがって、上記例から、30Hzの周波数において、注入された信号の40%が電極E
1で出現し、一方、その70%が電極E
6で出現する。結果的に、電極E
6は、電極E
1に比べて、0.7/0.4、=1.75の係数によって注入された信号に応答する。
【0058】
荷重導出工程108において、プロセッサ40は、補正ベクトルC(E
a)の要素を使用して、入力電極のそれぞれからの信号に適用される荷重係数を表す。荷重係数の信号への適用は、被験者26の外部で発生する生理学的信号の構成要素を相殺する。かかる外部的に発生した構成要素は上述され、本発明の実施形態は、注入電極からの被験者26への校正信号の注入によって外部構成要素をシミュレートする。
【0059】
この荷重係数は、典型的には、補正ベクトルの要素によって示されるものに対する「逆の」効果を有するよう表される。
【0060】
補正ベクトルの振幅要素を考慮すると、対応する振幅荷重係数は、振幅要素のものに対する逆の値として表され得る。本発明の一実施形態では、電極E
aに関する振幅荷重係数A
awは、
【数4】
であり、
ここでA
aeは電極E
aの補正ベクトル(C)E
aの一般的振幅要素であり、並びに、
k
1は定数である。
【0061】
補正ベクトルの位相要素を考慮すると、対応する位相荷重係数は、位相要素の負の値として表され得る。本発明の一実施形態では、電極E
aに関する位相荷重係数φ
awは、
φ
aw=k
2−φ
ae (5)であり、
ここで、φ
aeは電極E
aの補正ベクトル(C)E
aの一般的位相要素であり、並びに
k
2は定数である。
【0062】
上記説明は、別個の周波数f
1、...f
nに関する荷重係数の式を示す。プロセッサ40は、典型的には内挿又は外挿によって、他の周波数、又は周波数帯に関する荷重係数のセットを典型的には表す。
【0063】
(C)E
1及び(C)E
6の数値例に戻って参照すると、30Hzにおいて、振幅要素はそれぞれ0.4と0.6である。等式(4)及び任意設定k
1=1を使用すると、電極E
1に関する振幅荷重係数(30Hzにおける)は2.5であり、電極E
6に関しては1.2である。しかしながら、任意の他の好都合な振幅荷重係数が、等式(4)に基づいて使用されてもよい。等式(5)及び適宜設定k
2=0を使用すると、電極E
1に関する位相荷重係数(30Hzにおける)は−30°であり、電極E
6に関しては−20°である。
【0064】
荷重係数適用工程110では、プロセッサ40は、工程108で決定された荷重係数を、入力電極で受信された生理学的信号に適用することで、補正された生理学的信号を発生する。
【0065】
典型的には、プロセッサ40は、フーリエ解析を使用して、獲得された生理学的信号を、別個の周波数又は周波数帯を備え得る周波数構成要素に分解する。
【0066】
各周波数構成要素については、未補正の振幅及び未補正の位相が存在する。未補正の振幅は、工程108からの適切な振幅荷重係数によって乗算されて、補正された振幅を形成する。同様に、工程108からの位相荷重係数が未補正の位相に加えられ、補正された位相を形成する。補正された振幅及び補正された位相は、補正された周波数構成要素を形成する。
【0067】
次いでプロセッサは、補正された周波数構成要素を再結合し、補正された生理学的信号を形成する。全ての周波数構成要素の分解、補正、及び再結合のプロセスは、各入力電極の生理学的信号に別個に適用される。
【0068】
適用工程110は、双極又は単極である信号に適用されてもよい。双極信号については、双極信号を発生する2つの入力電極からの生理学的信号が別個に補正され、2つの補正された信号間の差が、補正された双極信号として使用される。補正された双極信号を生成するための代替法が、以下に記載される。
【0069】
上述の流れ図の適用が、被験者からの生理学的信号の獲得に関連するパラメータの実時間モニタリングに使用されてもよいことが理解されるであろう。かかるパラメータは、信号を獲得する電極に関連する回路の状態、並びに電極−皮膚接触インピーダンスにおける変化を示すことができる。
【0070】
いくつかの実施形態では、単極信号は、一群の入力電極に対して測定されてもよい。かかる単極信号は、ウィルソン結合電極(WCT)の等価物を使用してもよい。先行技術システムでは、WCTは、典型的には、RA、LA、及びLL電極、すなわち、電極30B、30C、及び30Dを、抵抗性網を介して接続することによって形成され得、中央接続ポイントが、参照基底として使用される。
【0071】
これとは対照的に、本発明の実施形態は、RA、LA、及びLL電極から各々の生理学的信号を獲得することによって、WCT等価物を発生する。各信号は、分解、補正、次いで再結合のプロセスを用いて上述の通りに補正され、3つの補正された信号が平均化され、所定の入力電極(RA、LA、及びLL電極以外の)から単極信号を形成するために使用される参照レベルをもたらす。かかる参照は、RA、LA、及びLL電極の個々の生理学的信号に掛けられる補正が、より正確な参照を生成するために、先行技術のウィルソン結合電極よりもより良好な参照をもたらす。
【0072】
上記に示されるシステム10の実時間の可能出力は、WCT等価物の参照信号の動的調整を可能にし、動力線ピックアップ信号などの外部信号の同相分除去を可能にする。
【0073】
いくつかの実施形態では、双極信号は、上述のWCT等価物を使用して2つの単極信号を測定することによって形成される。次いで双極信号は、2つの単極信号間の差を見つけ出すことによって形成される。
【0074】
上記説明は、被験者26に注入される校正信号が、被験者の右脚に注入されると想定していた。しかしながら、注入のこのポイントは、例として選択されるものであって、本発明の実施形態は、被験者の任意の他の好都合な位置を注入ポイントして使用してもよいことを理解されたい。
【0075】
上記説明はまた、一般的には、ECG信号の補正を示してきた。しかしながら、本発明の実施形態は、実質的に生存被験者の電気活性によって発生した任意の電気信号の補正に適用することを理解されたい。
【0076】
上述した実施形態は一例として記載されたものであり、本発明は、本明細書において上に具体的に図示及び説明した内容に限定されないことが明らかとなろう。むしろ本発明の範囲には、上記に述べた様々な特徴の組み合わせ及び下位の組み合わせ、並びに当業者であれば上記の説明文を読むことで想到されるであろう、先行技術に開示されていないそれらの変更及び改変が含まれるものである。
【0077】
〔実施の態様〕
(1) 生存被験者から電気信号を獲得する方法であって、
前記被験者に取り付けられた注入電極を介して、既知の校正信号を前記被験者に注入することと、
前記校正信号に応答して、前記被験者に取り付けられた入力電極において発生した出力信号の各々のレベルを測定することと、
前記各々のレベルに応答して、前記入力電極に関する各々の荷重係数を誘導することと、
各々の補正された生理学的信号を生成するように、前記各々の荷重係数を、前記入力電極によって獲得された生理学的信号に適用することと、を含む、方法。
(2) 前記生理学的信号が、前記被験者において生じる電気生理学的プロセスから発生した信号を備える、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記生理学的信号が、前記被験者に結合される、前記被験者に対して外部的に発生した信号を備える、実施態様1に記載の方法。
(4) 前記既知の校正信号が、事前設定された周波数を有し、前記出力信号の各々のレベルを測定することが、前記事前設定された周波数における前記各々のレベルを測定することを含む、実施態様1に記載の方法。
(5) 前記各々のレベルが、前記入力電極において発生した各々の振幅レベルを備え、前記各々の荷重係数が、前記各々の振幅レベルの逆数値に応答して誘導される、実施態様1に記載の方法。
【0078】
(6) 前記各々のレベルが、前記入力電極において発生した各々の位相レベルを備え、前記各々の荷重係数が、前記各々の位相レベルの負の数値に応答して誘導される、実施態様1に記載の方法。
(7) 前記生理学的信号が、双極信号を備え、前記補正された生理学的信号が、補正された双極信号を備える、実施態様1に記載の方法。
(8) 前記生理学的信号が、単極信号を備え、前記補正された生理学的信号が、補正された単極信号を備える、実施態様1に記載の方法。
(9) 前記入力電極が、それぞれ前記被験者の右腕(RA)、左腕(LA)、及び左脚(LL)に取り付けられた3つの電極を備え、前記各々の荷重係数を、前記3つの電極によって獲得された前記3つの生理学的信号に適用することが、前記3つの電極から発生した前記3つの補正された生理学的信号を平均化し、参照信号をもたらすことを含む、実施態様1に記載の方法。
(10) 生存被験者から電気信号を獲得するための装置であって、
前記被験者に取り付けられた注入電極と、
前記被験者に取り付けられた入力電極と、
プロセッサと、を備え、前記プロセッサが、
前記注入電極を介して、既知の校正信号を前記被験者に注入し、
前記校正信号に応答して、前記入力電極において発生した出力信号の各々のレベルを測定し、
前記各々のレベルに応答して、前記入力電極に関する各々の荷重係数を誘導し、かつ
各々の補正された生理学的信号を生成するように、前記各々の荷重係数を前記入力電極によって獲得された生理学的信号に適用する、ように構成される、装置。
【0079】
(11) 前記生理学的信号が、前記被験者において生じる電気生理学的プロセスから発生した信号を備える、実施態様10に記載の装置。
(12) 前記生理学的信号が、前記被験者に結合される、前記被験者に対して外部的に発生した信号を備える、実施態様10に記載の装置。
(13) 前記既知の校正信号が、事前設定された周波数を有し、前記出力信号の各々のレベルを測定することが、前記事前設定された周波数における前記各々のレベルを測定することを含む、実施態様10に記載の装置。
(14) 前記各々のレベルが、前記入力電極において発生した各々の振幅レベルを備え、前記各々の荷重係数が、前記各々の振幅レベルの逆数値に応答して誘導される、実施態様10に記載の装置。
(15) 前記各々のレベルが、前記入力電極において発生した各々の位相レベルを備え、前記各々の荷重係数が、前記各々の位相レベルの負の数値に応答して誘導される、実施態様10に記載の装置。
【0080】
(16) 前記生理学的信号が、双極信号を備え、前記補正された生理学的信号が、補正された双極信号を備える、実施態様10に記載の装置。
(17) 前記生理学的信号が、単極信号を備え、前記補正された生理学的信号が、補正された単極信号を備える、実施態様10に記載の装置。
(18) 前記入力電極が、それぞれ前記被験者の右腕(RA)、左腕(LA)、及び左脚(LL)に取り付けられた3つの電極を備え、前記各々の荷重係数を、前記3つの電極によって獲得された前記3つの生理学的信号に適用することが、前記3つの電極から発生した前記3つの補正された生理学的信号を平均化し、参照信号をもたらすことを含む、実施態様10に記載の装置。