【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、少なくとも薬液洗浄工程を行う電子部品・ガラス基板の製造において電子部品・ガラス基板の保護を行うために用いる電子部品・ガラス基板加工用粘着剤組成物であって、架橋点となる官能基を有するモノマーを含有するモノマー混合物をリビングラジカル重合することにより得た、分子量分布(Mw/Mn)が1.05〜2.50である架橋性樹脂と、架橋剤とを含有する電子部品・ガラス基板加工用粘着剤組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明者らは、従来の粘着剤組成物が耐薬品性に劣る理由について検討した結果、薬品に浸漬したときに粘着剤組成物の一部が溶解してしまうことにより接着力が低下してしまうことが原因であることを見出した。そして、更に鋭意検討の結果、リビングラジカル重合により得られた架橋性樹脂を用いることにより、耐薬品性が飛躍的に向上することを見出し、本発明を完成した。
【0011】
架橋点となる官能基を有するモノマーを含有するモノマー混合物を従来のフリーラジカル重合により重合した場合、得られる架橋性樹脂は、分子量に大きなばらつきが生じ、分子量の大きな樹脂成分から分子量の小さな樹脂成分までの混合物となる。分子量の小さな樹脂成分のなかには、架橋点となる官能基を有するモノマーに由来する成分を含まなかったり、架橋点となる官能基を有するモノマーの由来する成分の含有量が極めて少なかったりして、ほとんど架橋しない樹脂成分(以下、「非架橋性樹脂成分」ともいう。)も含まれる。即ち、フリーラジカル重合により重合した架橋性樹脂は、全体としては架橋性であるものの、一定の割合で上記非架橋性樹脂成分を含むことになる。このようなフリーラジカル重合により重合した架橋性樹脂を含有する粘着剤組成物を薬品に浸漬すると、上記非架橋性樹脂成分が溶出して接着力が低下すると考えられる。
一方、架橋点となる官能基を有するモノマーを含有するモノマー混合物をリビングラジカル重合により重合した場合、得られる架橋性樹脂は、極めて分子量の揃ったものとなり、極端に分子量の大きな樹脂成分や極端に分子量の小さな樹脂成分が生成しない。従って、リビングラジカル重合により重合した架橋性樹脂は、全体として架橋性であるばかりでなく、個々の樹脂成分も確実に架橋点となる官能基を有するモノマーの由来する成分を含有することとなり、上記非架橋性樹脂成分の割合が極めて少ないものとなる。このようなリビングラジカル重合により重合した架橋性樹脂を含有する粘着剤組成物を薬品に浸漬しても、溶出する上記非架橋性樹脂成分が極めて少ないことから、接着力が低下しにくいと考えられる。
【0012】
本発明の電子部品・ガラス基板加工用粘着剤組成物(以下、単に「粘着剤組成物」ともいう。)は、少なくとも薬液洗浄工程を行う電子部品・ガラス基板の製造において電子部品・ガラス基板の保護を行うために用いるものである。
本明細書において電子部品・ガラス基板とは、半導体装置や高機能な光学用ガラスを意味する。また、少なくとも薬液洗浄工程を行う製造方法により製造される電子部品・ガラス基板としては、例えば、TSVを有する半導体装置、CIS、光学用ガラス等が特に好適である。
【0013】
本願明細書において薬液洗浄工程とは、電子部品・ガラス基板を薬液中に浸漬することにより電子部品・ガラス基板の表面を洗浄する工程を意味する。薬液洗浄工程に用いる薬液としては、例えば、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、酢酸エチル、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、N−エチルメチルアミド等の有機溶剤や、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液、アンモニア水酸化水素水混合溶液、塩酸過酸化水素水混合溶液、硫酸過酸化水素水混合溶液、フッ酸、緩衝フッ酸溶液、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、硫酸、塩酸等の水系薬液が挙げられる。また上記薬液を主として他の薬液を混合したものも使用される。
【0014】
本発明の粘着剤組成物は、架橋点となる官能基を有するモノマーを含有するモノマー混合物をリビングラジカル重合することにより得た架橋性樹脂を含有する。このような架橋性樹脂を用いることにより、本発明の粘着剤組成物は、優れた耐薬品性を発揮することができる。
【0015】
上記架橋点となる官能基を有するモノマーにおける架橋点となる官能基としては、例えば、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、アミド基等が挙げられる。
上記カルボキシル基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、フタル酸、テレフタル酸、ピロメリット酸等が挙げられる。なかでも、(メタ)アクリル酸が好ましい。
上記水酸基含有モノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、片末端をアクリロイル基で変性したポリエチレングリコール、片末端をアクリロイル基で変性したポリプロピレングリコール等が挙げられる。なかでも、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
上記エポキシ基含有モノマーとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記アミノ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アミノエチル等が挙げられる。
上記イソシアネート基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、メタ−イソプロぺニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート、(メタ)アクリロイルイソシアネート、アリルイソシアネート等が挙げられる。
上記アミド基含有モノマーとしては、例えば、N−メチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
これらの架橋点となる官能基を有するモノマーは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、より耐熱性に優れる粘着剤組成物が得られることから、カルボキシル基含有モノマー及び/又は水酸基含有モノマーが好適である。カルボキシル基含有モノマーが用いられることで、水酸基含有モノマー単独の場合よりも分子内の凝集力が高まり、耐薬品性、耐熱性に優れる粘着剤組成物が得られる。
【0016】
上記架橋点となる官能基を有するモノマーがカルボキシル基含有モノマーである場合、上記混合モノマー中のカルボキシル基含有モノマーの配合量の好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は10重量%である。この範囲内であると、得られる粘着剤組成物は、耐熱性にも優れたものとなる。
【0017】
上記架橋点となる官能基を有するモノマーが水酸基含有モノマーである場合、上記混合モノマー中の水酸基含有モノマーの配合量の好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は10重量%である。この範囲内であると、得られる粘着剤組成物は、耐熱性にも優れたものとなる。
【0018】
上記混合モノマーは、上記架橋点となる官能基を有するモノマー以外に、該架橋点となる官能基を有するモノマーと共重合可能な他のモノマーを含有する。
上記他のモノマーは特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、ビニル化合物等が挙げられる。
上記(メタ)アクリル酸エステルは特に限定されず、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルや、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2−フェノキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステルは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
上記ビニル化合物は特に限定されず、例えば、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド化合物、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルアセトアミド、N−アクリロイルモルフォリン、アクリロニトリル、スチレン、酢酸ビニル等が挙げられる。これらのビニル化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
上記架橋性樹脂は、モノマー混合物をリビングラジカル重合することにより得たものである。なかでも有機テルル重合開始剤を用いたリビングラジカル重合により得られた架橋性樹脂が好適である。有機テルル重合開始剤を用いたリビングラジカル重合は、他のリビングラジカル重合とは異なり、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、アミド基等の官能基を有するモノマーをいずれも保護することなく、同一の開始剤で重合して均一な分子量及び組成を有するポリマーを得ることができる。このため、このような官能基を有するモノマーを容易に共重合することができる。
【0021】
上記有機テルル重合開始剤は、リビングラジカル重合に一般的に用いられるものであれば特に限定されず、例えば、有機テルル化合物、有機テルリド化合物等が挙げられる。
上記有機テルル化合物として、例えば、(メチルテラニル−メチル)ベンゼン、(1−メチルテラニル−エチル)ベンゼン、(2−メチルテラニル−プロピル)ベンゼン、1−クロロ−4−(メチルテラニル−メチル)ベンゼン、1−ヒドロキシ−4−(メチルテラニル−メチル)ベンゼン、1−メトキシ−4−(メチルテラニル−メチル)ベンゼン、1−アミノ−4−(メチルテラニル−メチル)ベンゼン、1−ニトロ−4−(メチルテラニル−メチル)ベンゼン、1−シアノ−4−(メチルテラニル−メチル)ベンゼン、1−メチルカルボニル−4−(メチルテラニル−メチル)ベンゼン、1−フェニルカルボニル−4−(メチルテラニル−メチル)ベンゼン、1−メトキシカルボニル−4−(メチルテラニル−メチル)ベンゼン、1−フェノキシカルボニル−4−(メチルテラニル−メチル)ベンゼン、1−スルホニル−4−(メチルテラニル−メチル)ベンゼン、1−トリフルオロメチル−4−(メチルテラニル−メチル)ベンゼン、1−クロロ−4−(1−メチルテラニル−エチル)ベンゼン、1−ヒドロキシ−4−(1−メチルテラニル−エチル)ベンゼン、1−メトキシ−4−(1−メチルテラニル−エチル)ベンゼン、1−アミノ−4−(1−メチルテラニル−エチル)ベンゼン、1−ニトロ−4−(1−メチルテラニル−エチル)ベンゼン、1−シアノ−4−(1−メチルテラニル−エチル)ベンゼン、1−メチルカルボニル−4−(1−メチルテラニル−エチル)ベンゼン、1−フェニルカルボニル−4−(1−メチルテラニル−エチル)ベンゼン、1−メトキシカルボニル−4−(1−メチルテラニル−エチル)ベンゼン、1−フェノキシカルボニル−4−(1−メチルテラニル−エチル)ベンゼン、1−スルホニル−4−(1−メチルテラニル−エチル)ベンゼン、1−トリフルオロメチル−4−(1−メチルテラニル−エチル)ベンゼン、1−クロロ−4−(2−メチルテラニル−プロピル)ベンゼン、1−ヒドロキシ−4−(2−メチルテラニル−プロピル)ベンゼン、1−メトキシ−4−(2−メチルテラニル−プロピル)ベンゼン、1−アミノ−4−(2−メチルテラニル−プロピル)ベンゼン、1−ニトロ−4−(2−メチルテラニル−プロピル)ベンゼン、1−シアノ−4−(2−メチルテラニル−プロピル)ベンゼン、1−メチルカルボニル−4−(2−メチルテラニル−プロピル)ベンゼン、1−フェニルカルボニル−4−(2−メチルテラニル−プロピル)ベンゼン、1−メトキシカルボニル−4−(2−メチルテラニル−プロピル)ベンゼン、1−フェノキシカルボニル−4−(2−メチルテラニル−プロピル)ベンゼン、1−スルホニル−4−(2−メチルテラニル−プロピル)ベンゼン、1−トリフルオロメチル−4−(2−メチルテラニル−プロピル)ベンゼン、2−(メチルテラニル−メチル)ピリジン、2−(1−メチルテラニル−エチル)ピリジン、2−(2−メチルテラニル−プロピル)ピリジン、2−メチルテラニル−エタン酸メチル、2−メチルテラニル−プロピオン酸メチル、2−メチルテラニル−2−メチルプロピオン酸メチル、2−メチルテラニル−エタン酸エチル、2−メチルテラニル−プロピオン酸エチル、2−メチルテラニル−2−メチルプロピオン酸エチル、2−メチルテラニルアセトニトリル、2−メチルテラニルプロピオニトリル、2−メチル−2−メチルテラニルプロピオニトリル等が挙げられる。これらの有機テルル化合物中のメチルテラニル基は、エチルテラニル基、n−プロピルテラニル基、イソプロピルテラニル基、n−ブチルテラニル基、イソブチルテラニル基、t−ブチルテラニル基、フェニルテラニル基等であってもよく、また、これらの有機テルル化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
上記有機テルリド化合物として、例えば、ジメチルジテルリド、ジエチルジテルリド、ジ−n−プロピルジテルリド、ジイソプロピルジテルリド、ジシクロプロピルジテルリド、ジ−n−ブチルジテルリド、ジ−sec−ブチルジテルリド、ジ−tert−ブチルジテルリド、ジシクロブチルジテルリド、ジフェニルジテルリド、ビス−(p−メトキシフェニル)ジテルリド、ビス−(p−アミノフェニル)ジテルリド、ビス−(p−ニトロフェニル)ジテルリド、ビス−(p−シアノフェニル)ジテルリド、ビス−(p−スルホニルフェニル)ジテルリド、ジナフチルジテルリド、ジピリジルジテルリド等が挙げられる。これらの有機テルリド化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、ジメチルジテルリド、ジエチルジテルリド、ジ−n−プロピルジテルリド、ジ−n−ブチルジテルリド、ジフェニルジテルリドが好ましい。
【0023】
なお、本発明の効果を損なわない範囲内で、上記有機テルル重合開始剤に加えて、重合速度の促進を目的として重合開始剤としてアゾ化合物を用いてもよい。
上記アゾ化合物は、ラジカル重合に一般的に用いられるものであれば特に限定されず、例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、1−[(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリアン酸)、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジメチル−1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボキシレート)、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1’−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]四水和物、2,2’−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−メチルプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)等が挙げられる。これらのアゾ化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
上記リビングラジカル重合においては、分散安定剤を用いてもよい。上記分散安定剤として、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
上記リビングラジカル重合の方法として、従来公知の方法が用いられ、例えば、溶液重合(沸点重合又は定温重合)、乳化重合、懸濁重合、塊状重合等が挙げられる。
上記リビングラジカル重合において重合溶媒を用いる場合、該重合溶媒は特に限定されず、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、トルエン、キシレン等の非極性溶媒や、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド等の高極性溶媒を用いることができる。これらの重合溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、重合温度は、重合速度の観点から0〜110℃が好ましい。
【0025】
上記モノマー混合物をリビングラジカル重合することにより得た架橋性樹脂は、極めて分子量の揃ったものとなり、それゆえ上記非架橋性樹脂成分の割合が極めて少ないものとなる。即ち、上記架橋性樹脂は分子量分布(Mw/Mn)の下限が1.05、上限が2.50である。分子量分布(Mw/Mn)が2.5以下である架橋性樹脂は、上記非架橋性樹脂成分の割合が極めて少なく、優れた耐薬品性を発揮することができる。分子量分布(Mw/Mn)のより好ましい上限は2.0であり、更に好ましい上限は1.8である。上記分子量分布(Mw/Mn)の下限は特に限定されないが、実質的には1.05程度が下限となる。
なお、上記分子量分布(Mw/Mn)は、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である。重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパミエーションクロマトグラフィ(GPC)法によりポリスチレン換算分子量として測定される。具体的には、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、(メタ)アクリルポリマーをテトラヒドロフラン(THF)によって50倍希釈して得られた希釈液をフィルターで濾過し、得られた濾液を用いてGPC法によりポリスチレン換算分子量として測定される。GPC法では、例えば、2690 Separations Model(Waters社製)等を使用できる。
【0026】
上記架橋性樹脂は、重量平均分子量(Mw)の好ましい下限が10万、好ましい上限が200万である。上記重量平均分子量が10万以上であれば、特に高い耐熱性を得ることができ、200万を超えると、塗工時の粘度が高すぎて塗工し難くなることがある。上記重量平均分子量のより好ましい下限は20万である。
【0027】
上記架橋性樹脂は、側鎖に紫外線硬化が可能な重合性基が導入された光硬化型樹脂であってもよい。
上記架橋性樹脂の側鎖に紫外線硬化が可能な重合性基が導入されていることにより、被着体から剥離するときには紫外線の照射により粘着剤組成物の全体が均一にかつ速やかに架橋反応を起こして硬化し、粘着力が大きく低下し、被着体から容易に剥離することができる。
上記紫外線硬化が可能な重合性基としては、例えば、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等の炭素−炭素二重結合を有する基が挙げられる。上記紫外線硬化が可能な重合性基は、炭素−炭素三重結合を有する基であってもよい。
【0028】
このような側鎖に紫外線硬化が可能な重合性基が導入された架橋性樹脂は、例えば、次の方法により得ることが好ましい。
上記リビングラジカル重合により架橋点となる官能基を有するモノマーを含有するモノマー混合物を共重合させることで、得られた架橋性樹脂は側鎖に上記架橋点となる官能基を有するものとなる。このような架橋性樹脂に、上記架橋点となる官能基と反応可能であり、かつ、紫外線硬化が可能な重合性基を有する化合物を反応させることで、側鎖に重合性基を結合させる。
【0029】
上記架橋点となる官能基と反応可能であり、かつ、紫外線硬化が可能な重合性基を有する化合物としては、例えば、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、アミド基等の官能基を有し、かつ、(メタ)アクリロイル基を有する化合物が挙げられる。具体的には例えば、次の(1)〜(4)の場合が挙げられる。
(1)側鎖に水酸基を有する架橋性樹脂に対しては、アミド基、イソシアネート基、エポキシ基及びカルボキシル基からなる群より選択される少なくとも1つを有し、かつ、(メタ)アクリロイル基を有する化合物を反応させればよい。
(2)側鎖にカルボキシル基を有する架橋性樹脂に対しては、エポキシ基又はイソシアネート基を有し、かつ、(メタ)アクリロイル基を有する化合物を反応させればよい。
(3)側鎖にエポキシ基を有する架橋性に対しては、カルボキシル基又はアミド基を有し、かつ、(メタ)アクリロイル基を有する化合物を反応させればよい。
(4)側鎖にアミノ基を有する架橋性樹脂に対しては、エポキシ基を有し、かつ、(メタ)アクリロイル基を有する化合物を反応させればよい。
【0030】
本発明の粘着剤組成物は、架橋剤を含有する。上記架橋剤を用いて上記架橋性樹脂を架橋することにより、粘着剤組成物のゲル分率を調整するとともに、優れた耐薬品性を発揮することができる。
上記架橋剤は特に限定されず、例えば、イソシアネート系架橋剤、アジリジン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、金属キレート型架橋剤等が挙げられる。なかでも、イソシアネート系架橋剤が好ましい。
上記イソシアネート系架橋剤として、例えば、コロネートHX(日本ポリウレタン工業社製)、コロネートL(日本ポリウレタン工業社製)、マイテックNY260A(三菱化学社製)、イソホロンジイソシアネート等が挙げられる。
上記架橋剤の配合量は、上記架橋性樹脂100重量部に対する好ましい下限が0.01重量部、好ましい上限が10重量部であり、より好ましい下限が0.1重量部、より好ましい上限が5重量部である。
【0031】
上記架橋性樹脂が側鎖に紫外線硬化が可能な重合性基が導入された光硬化型樹脂である場合、本発明の粘着剤組成物は、更に光重合開始剤を含有することが好ましい。
上記光重合開始剤としては、例えば、250〜800nmの波長の光を照射することにより活性化されるものが挙げられ、このような光重合開始剤としては、例えば、メトキシアセトフェノン等のアセトフェノン誘導体化合物や、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル系化合物や、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジエチルケタール等のケタール誘導体化合物や、フォスフィンオキシド誘導体化合物や、ビス(η5−シクロペンタジエニル)チタノセン誘導体化合物、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、クロロチオキサントン、ドデシルチオキサントン、ジメチルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシメチルフェニルプロパン等の光ラジカル重合開始剤が挙げられる。これらの光重合開始剤は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0032】
上記架橋性樹脂が側鎖に紫外線硬化が可能な重合性基が導入された光硬化型樹脂である場合、本発明の粘着剤組成物は、更に、上記光硬化型樹脂と架橋可能な官能基を有するシリコーン化合物(以下、単に「シリコーン化合物A」ともいう。)を含有することが好ましい。
シリコーン化合物は、耐熱性に優れることから、200℃以上の高温加工プロセスを経ても粘着剤の焦げ付きを防止し、剥離時には被着体界面にブリードアウトして、剥離を容易にする。
また、シリコーン化合物が上記光硬化型樹脂と架橋可能な官能基を有することにより、光照射時には上記光硬化型樹脂と化学反応して樹脂中に取り込まれることから、被着体にシリコーン化合物が付着して汚染することがない。
【0033】
上記シリコーン化合物Aのシリコーン骨格は特に限定はされず、D体、DT体のいずれでもよい。
上記シリコーン化合物Aは、該官能基をシリコーン骨格の側鎖又は末端に有することが好ましい。
なかでも、D体のシリコーン骨格を有し、かつ、末端に上記粘着剤と架橋可能な官能基を有するシリコーン化合物を用いると、高い初期粘着力と高温加工プロセス後の剥離力とを両立しやすいことから好適である。
【0034】
上記シリコーン化合物Aの官能基は、上記光硬化型樹脂に応じて適当なものを選択して用いる。例えば、上記光硬化型樹脂が上記分子内にラジカル重合性の不飽和結合を有するものである場合には、官能基として不飽和二重結合を有する官能基を選択でき、具体的には例えば、ビニル基、(メタ)アクリル基、アリル基、マレイミド基等を用いることができる。
【0035】
上記シリコーン化合物Aの官能基当量は特に限定されないが、好ましい下限は1、好ましい上限は20である。上記官能基当量が1未満であると、得られる粘着剤組成物の光硬化時に、シリコーン化合物Aが充分に樹脂に取り込まれず、被着体を汚染してしまったり、剥離性を充分に発揮できなかったりすることがあり、20を超えると、充分な粘着力が得られないことがある。上記官能基当量のより好ましい上限は10であり、より好ましい下限は2、更に好ましい上限は6である。
【0036】
上記シリコーン化合物Aの分子量は特に限定されないが、好ましい下限は300、好ましい上限は50000である。上記分子量が300未満であると、得られる粘着剤組成物の耐熱性が不充分となることがあり、50000を超えると、上記光硬化型樹脂との混合が困難となることがある。上記分子量のより好ましい下限は400、より好ましい上限は10000であり、更に好ましい上限は5000である。
【0037】
上記シリコーン化合物Aを合成する方法は特に限定されず、例えば、SiH基を有するシリコーン樹脂と、上記光硬化型樹脂と架橋可能な官能基を有するビニル化合物とをハイドロシリレーション反応により反応させることにより、シリコーン樹脂に上記光硬化型樹脂と架橋可能な官能基を導入する方法や、シロキサン化合物と、上記光硬化型樹脂と架橋可能な官能基を有するシロキサン化合物とを縮合反応させる方法等が挙げられる。
【0038】
上記シリコーン化合物Aのうち市販されているものは、例えば、信越化学工業社製のX−22−164、X−22−164AS、X−22−164A、X−22−164B、X−22−164C、X−22−164E等の両末端にメタクリル基を有するシリコーン化合物や、信越化学工業社製のX−22−174DX、X−22−2426、X−22−2475等の片末端にメタクリル基を有するシリコーン化合物や、ダイセル・オルネクス社製のEBECRYL350、EBECRYL1360等のアクリル基を有するシリコーン化合物や、東亜合成社製のAC−SQ TA−100、AC−SQ SI−20等のアクリル基を有するシリコーン化合物や、東亜合成社製のMAC−SQ TM−100、MAC−SQ SI−20、MAC−SQ HDM等のメタクリル基を有するシリコーン化合物等が挙げられる。
【0039】
なかでも、上記シリコーン化合物Aは、耐熱性が特に高く、極性が高いために粘着剤組成物からのブリードアウトが容易であることから、下記一般式(I)、一般式(II)、一般式(III)で表される、シロキサン骨格に(メタ)アクリル基を有するシリコーン化合物が好適である。
【0040】
【化1】
【0041】
式中、X、Yは0〜1200の整数を表し、Rは不飽和二重結合を有する官能基を表す。
【0042】
上記一般式(I)、一般式(II)、一般式(III)で表される、シロキサン骨格に(メタ)アクリル基を有するシリコーン化合物のうち市販されているものは、例えば、ダイセル・オルネクス社製のEBECRYL350、EBECRYL1360(いずれもRがアクリル基)等が挙げられる。
【0043】
上記シリコーン化合物Aの含有量は特に限定されないが、上記光硬化型樹脂100重量部に対する好ましい下限が0.5重量部、好ましい上限が10重量部である。シリコーン化合物Aの含有量が0.5重量部未満であると、充分に粘着力が低減せず被着体から剥離できないことがあり、10重量部を超えると、耐薬品性が低下してしまうことがある。
【0044】
上記架橋性樹脂が側鎖に紫外線硬化が可能な重合性基が導入された光硬化型樹脂である場合、本発明の粘着剤組成物は、更に、光を照射することにより気体を発生する気体発生剤を含有してもよい。このような気体発生剤を含有する粘着剤組成物に光を照射すると、上記光硬化型樹脂が架橋硬化して粘着剤全体の弾性率が上昇し、このような硬い粘着剤中で発生した気体は粘着剤から接着界面に放出され接着面の少なくとも一部を剥離することから、より剥離を容易にすることができる。
上記気体発生剤は特に限定されないが、例えば、アジド化合物、アゾ化合物、ケトプロフェン、テトラゾール化合物等が挙げられる。なかでも、耐熱性に優れるテトラゾール化合物の塩が好適である。
【0045】
本発明の粘着剤組成物は、更に、無機充填剤、帯電防止剤、可塑剤、粘着付与樹脂、界面活性剤、ワックス等の公知の添加剤を加えることもできる。更に、安定性を高めるために熱安定剤、酸化防止剤を配合してもよい。
【0046】
本発明の粘着剤組成物は、少なくとも薬液洗浄工程を行う電子部品・ガラス基板の製造において電子部品・ガラス基板の保護を行うために用いる。この際、本発明の粘着剤組成物を粘着剤層として用いた片面粘着テープ、両面粘着テープ、ノンサポートテープ(自立テープ)等の粘着テープ等の形で用いてもよい。
【0047】
基材の少なくとも一方の面に、本発明の粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する電子部品・ガラス基板加工用粘着テープ(以下、単に「粘着テープ」ともいう。)もまた、本発明の1つである。
上記基材は、例えば、アクリル、オレフィン、ポリカーボネート、塩化ビニル、ABS、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ナイロン、ウレタン、ポリイミド等の透明な樹脂からなるシート、網目状の構造を有するシート、孔が開けられたシート等が挙げられる。
【0048】
本発明の粘着テープは、上記粘着剤層のゲル分率の好ましい下限が50%、好ましい上限が99%である。上記ゲル分率をこの範囲内とすることにより、粘着剤層中の未架橋比率が少なくして、耐薬品性及び耐熱性をより良好とすることができる。上記ゲル分率のより好ましい下限は80%、より好ましい上限は95%である。
なお、本明細書においてゲル分率とは、試験片を酢酸エチル中に23℃にて24時間浸漬したときに、浸漬前後の試験片の重さの比を100分率で表した値を意味する。
【0049】
本発明の粘着テープを製造する方法は特に限定されず、例えば、基材上に、上記粘着剤等をドクターナイフやスピンコーター等を用いて塗工する等の従来公知の方法を用いることができる。
【0050】
本発明の粘着テープは、高い接着力を有する一方で容易に剥離でき、かつ、耐薬品性に優れる。このような本発明の粘着テープを用いれば、薬液洗浄工程を有する電子部品・ガラス基板の製造方法、具体的には例えば、TSVを有する半導体装置やCIS等や光学用ガラス等の製造方法において、電子部品・ガラス基板を保護することができる。
少なくとも薬液洗浄工程を有する電子部品・ガラス基板の製造方法であって、上記超音波洗浄工程時に電子部品・ガラス基板加工用粘着テープによって電子部品・ガラス基板を保護するものであり、上記電子部品・ガラス基板用粘着テープは、基材と、該基材の少なくとも一方の面に形成された粘着剤層とからなり、上記粘着剤層は、架橋点となる官能基を有するモノマーを含有するモノマー混合物をリビングラジカル重合することにより得た架橋性樹脂と、架橋剤とを含有するものである電子部品・ガラス基板の製造方法もまた、本発明の1つである。