(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タイミングチェーンカバーにシリンダヘッドカバーが上方から被さる場合、タイミングチェーンカバーの上縁部とシリンダヘッドカバーの前縁部との間にガスケットを介在させた状態で両者を締結することがある。
【0005】
燃費性能等に対する要求の高まりにより、近時の内燃機関においては、これに付随する各種装置、例えば吸排気バルブの開閉タイミングを可変制御するための可変バルブタイミング機構(Variable Valve Timing system)等が大形化しつつある。特に、電動モータを駆動源としてカムシャフトのクランクシャフトに対する回転位相を変化させるモータドライブVVTでは、モータの体格が大きい。故に、当該モータと係合するタイミングチェーンカバーの上縁を、一部が上方に突出した非直線状に成形する必要がある。これは、タイミングチェーンカバーとシリンダヘッドカバーとの間のシールラインが非直線化することを意味する。
【0006】
図6に、タイミングチェーンカバー1xとシリンダヘッドカバー2xとの間のシールラインを例示する。タイミングチェーンカバー1xの上縁部及びシリンダヘッドカバー2xの前縁部にはそれぞれ、略水平方向に延びるとともに互いに垂直方向にずれている二つの平坦縁11x、12x、21x、22xと、両部材1、2の外側部に位置する斜縁13x、14x、23x、24xと、二つの平坦縁11x、12x、21x、22xを連接するように連なる斜縁15x、25xとが形成されている。図中左方の平坦縁11x、21xが右方の平坦縁12x、22xよりも上方に偏倚しているのは、図中左方に所在する吸気カムシャフトに組み付けられるモータドライブVVTのモータとシリンダヘッドカバー2xとの干渉を避ける意図である。
【0007】
ガスケット3xは、両部材1x、2xにより挟み付けられて圧縮されながら、両部材1x、2x間をシールする。このガスケット3xは、両部材1x、2xのうちの一方、例えばシリンダヘッドカバー2xに予め接着している。
【0008】
ガスケット3xの略全域を均等に挟圧するためには、平坦縁11xと平坦縁21xとの間の距離d1x、平坦縁12xと平坦縁22xとの間の距離d2x、斜縁13xと斜縁23xとの間の距離d3x、斜縁14xと斜縁24xとの間の距離d4x、並びに斜縁15xと斜縁25xとの間の距離d5xが、全て等しくなくてはならない。そのため、タイミングチェーンカバー1xに対してシリンダヘッドカバー2xを接近させる過程では、
図7に示すように、平坦縁11x、12xよりも先に斜縁13x、14x、15xがガスケット3xに接触する。
【0009】
そして、斜縁13x、14x、23x、24xの垂直方向に対する傾斜角度が、斜縁15x、25xの垂直方向に対する傾斜角度よりも大きい(即ち、斜縁15xがより垂直に近く、斜縁13x、14xがより水平に近い)場合には、内側方に位置する斜縁15xがまずガスケット3xに接触し、その後に外側方に位置する斜縁13x、14xがガスケット3xに接触することになる。先にガスケット3xに接触した斜縁15xは、
図7に白抜き矢印で表しているように、ガスケット3xを内側方に引っ張り込んでしまう。その結果、側端部のシール性が悪化することがあった。
【0010】
本発明は、一方の部材と他方の部材との間にガスケットを挟みこれを圧縮した状態で両部材を結合する構造において、側端部のシール性が悪化する問題を回避することを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、一方の部材と他方の部材との間にガスケットを挟みこれを圧縮した状態で両部材を結合する構造であって、前記各部材におけるガスケットを介して相手方の部材と対向する接合部位に、前記両部材を締結する方向に対し略直交する方向に延びて
おり部材とガスケットとが接触する平坦縁と、平坦縁に対し非平行な方向に屈曲または湾曲して延びて
おり部材とガスケットとが接触する第一斜縁と、前記第一斜縁よりも内方にあって平坦縁に対し非平行な方向に屈曲または湾曲して延びており、その接線の前記締結方向に対する交差角度が第一斜縁の接線の前記締結方向に対する交差角度よりも大きくな
っており部材とガスケットとが接触する第二斜縁とを設けている部材の結合構造を構成した。
【0012】
前記第一斜縁が前記平坦縁との間に円弧状をなす縁辺を介して当該平坦縁に連なり、かつ前記第二斜縁の少なくとも一部が円弧状をなしている場合には、前記第二斜縁において円弧状をなす部分の曲率半径を、前記第一斜縁と前記平坦縁との間に介在する縁辺の曲率半径よりも大きく設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、一方の部材と他方の部材との間にガスケットを挟みこれを圧縮した状態で両部材を結合する構造において、側端部のシール性が悪化する問題を回避することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1に、本発明の適用対象の一である、内燃機関のタイミングチェーンカバー1及びシリンダヘッドカバー2を示す。タイミングチェーンカバー1の上縁部は、シリンダヘッドカバー2の前縁部に対向し、両者の間隙にはシールのためのガスケット3が介設される。タイミングチェーンカバー1が金属製であるのに対し、シリンダヘッドカバー2は樹脂成形品である。ガスケット3は、弾性変形可能な例えばゴム製のものである。
【0016】
本実施形態の内燃機関においては、吸気バルブ及び排気バルブの双方に位相変化型のVVTが実装される。特に、図中左方に所在する吸気カムシャフトには、電動式のモータドライブVVTが組み付けられる。図中右方に所在する排気カムシャフトには、液圧(油圧)駆動されるベーン式のVVTが組み付けられる。モータドライブVVTの駆動源となる電動モータの外形は、ベーン式VVTのベーンよりも大きい。そのモータは、タイミングチェーンカバー1の左上方の隅角部10に位置付けられる。
【0017】
図2ないし
図4に、本実施形態における部材の結合構造を示す。このものは、一方の部材であるタイミングチェーンカバー1と他方の部材であるシリンダヘッドカバー2との間にガスケット3を挟み、これを圧縮した状態で両部材1、2を結合する構造である。
【0018】
図3に示すように、タイミングチェーンカバー1とシリンダヘッドカバー2とは、ボルト4を使用して垂直方向に沿って締結される。ボルト4はいわゆる段付きボルトであり、その段部41及び頭部42がそれぞれ各部材1、2に当接することで、両部材1、2の間隔を一定に維持する、即ち圧縮変形後のガスケット3の形状及び寸法を一定に保つ働きをする。
【0019】
本実施形態において、タイミングチェーンカバー1とシリンダヘッドカバー2との間のシールラインは、正面視屈曲または湾曲して非直線状をなす。詳述すると、ガスケット3を介して接合するタイミングチェーンカバー1の上縁部及びシリンダヘッドカバー2の前縁部にはそれぞれ、略水平方向に延びるとともに互いに垂直方向にずれている二つの平坦縁11、12、21、22と、各平坦縁11、12、21、22の外側端に連なる第一斜縁13、14、23、24と、二つの平坦縁11、12、21、22を連接するように連なる第二斜縁15、25と、第一斜縁11、12、21、22の外側端(かつ、下端)に連なる最外方の平坦縁17、18、27、28とが形成されている。
【0020】
平坦縁11、12、17、18、21、22、27、28は、両部材1、2を締結する方向即ち垂直方向に対し略直交する水平方向に延びている。斜縁13、14、15、23、24、25は、平坦縁11、12、17、18、21、22、27、28に対し非平行な方向に屈曲または湾曲して延びている。特に、第二斜縁15、25は、正面視部分円弧状をなす。
【0021】
タイミングチェーンカバー1の上端部の平坦縁11は、シリンダヘッドカバー2の前端部の平坦縁21と平行である。同様に、平坦縁12は平坦縁22と平行であり、平坦縁17は平坦縁27と平行であり、平坦縁18は平坦縁28と平行であり、斜縁13は斜縁23と平行であり、斜縁14は斜縁24と平行であり、斜縁15は斜縁25と平行である。
【0022】
図中左方の平坦縁11、21が右方の平坦縁12、22よりも上方に偏倚しているのは、電動式のVVTが当該平坦縁11、21の下方に配されるからであり、大形の電動モータがシリンダヘッドカバー2と干渉することを避ける趣旨である。また、液圧式のVVTは、図中右方の平坦縁12、22の下方に配される。平坦縁11、12、21、22が両部材1、2の外側端部から見て高い位置に浮いていることは、両部材1、2を緊締するためのボルト4がVVTと干渉することを避けるために役立っている。
【0023】
シリンダヘッドカバー2における、右方の平坦縁22の上方には、液圧式のVVTのベーンに作動液圧を供給するための(作動液の流入口/流出口となる)作動液ポート20が成形される。作動液ポート20の上縁は、シリンダヘッドカバー2における左方の平坦縁21の直上部分の上面と概ね同じ高さにある。この作動液ポート20には、OCV(Oil Control Valve。図示せず)が接続される。
【0024】
両部材1、2により挟み付けられるガスケット3は、両部材1、2のうちの一方に予め接着される。図示例では、ガスケット3を、シリンダヘッドカバー2の前端部の下向面に接着している。
【0025】
ガスケット3の略全域を均等に挟圧するためには、平坦縁11と平坦縁21との間の距離d1、平坦縁12と平坦縁22との間の距離d2、第一斜縁13と第一斜縁23との間の距離d3、第一斜縁14と第一斜縁24との間の距離d4、第二斜縁15と第二斜縁25との間の距離d5、平坦縁17と平坦縁27との間の距離d6並びに平坦縁18と平坦縁28との間の距離d7が、おしなべて均等(d1ないしd7の全てが完全に等しいか略等しい)とならなくてはならない。そのため、タイミングチェーンカバー1に対してシリンダヘッドカバー2を接近させる過程では、
図4に示すように、平坦縁11、12よりも先に斜縁13、14、15がガスケット3に接触する。
【0026】
しかして、本実施形態では、第二斜縁15、25の接線の垂直方向に対する交差角度γ(鋭角とする)が、第一斜縁13、23の接線の垂直方向に対する交差角度α(鋭角とする)、及び第一斜縁14、24の接線の垂直方向に対する交差角度β(鋭角とする)よりも大きくなるように、第二斜縁15、25を寝かせて(水平に近づけて)いる。換言すれば、第二斜縁15、25の部分の曲率半径R1、R2を所定以上の値に設定し、
図6及び
図7に示した構造と比べて大きくとっている。この曲率半径R1、R2は、第一斜縁13、23と平坦縁17、27との間に介在する縁辺の曲率半径R3、R4よりも大きく、また、第一斜縁14、24と平坦縁18、28との間に介在する縁辺の曲率半径R5、R6よりも大きい。
【0027】
これにより、
図4に示しているように、タイミングチェーンカバー1に対してシリンダヘッドカバー2を接近させる過程で、ガスケット3が予め接着していない側の部材、即ちタイミングチェーカバー1の外側方に位置する第一斜縁13、14がまずガスケット3に接触し、しかる後内側方に位置する第二斜縁15がガスケット3に接触することになる。従って、タイミングチェーンカバー1の第二斜縁15がガスケット3を内側方に引っ張り込んでしまうことが阻止される。
【0028】
因みに、交差角度αと交差角度βとは、同等としてもよいし、一方を他方に比べて大きくしてもよい。図示例では、交差角度αを交差角度βと等しくしている。第二斜縁15がガスケット3を図中左方に引っ張り込むことに鑑みれば、図中右方の第一斜縁14、24に係る交差角度βは必ず第二斜縁15、25に係る交差角度γよりも小さい(即ち、第一斜縁14、24が第二斜縁15、25よりも垂直に近い)必要があるが、左方の第一斜縁13、23に係る交差角度αは必ずしも交差角度γよりも小さい必要はないと言える。
【0029】
加えて、本実施形態では、平坦縁11、21とこれに連なる第二斜縁15、25とが交差する隅部16、26の曲率半径を所定以上の値に設定し、
図6及び
図7に示した構造と比べて大きくとっている。
【0030】
上述した第二斜縁15、25の曲率半径R1、R2、並びに隅部16、26の曲率半径の効用に関して補足する。
図5(B)に示すように、第二斜縁15、25の曲率半径や隅部16、26の曲率半径が小さいと、部材1、2の製造ばらつきにより、第二斜縁15、25や隅部16、26におけるガスケット3の圧縮が弱まるおそれが高まる。例えば、シリンダヘッドカバー2の斜縁25の位置が図中に鎖線で表しているように締結方向と直交する方向(右方)に偏倚した場合、第二斜縁15、25や隅部16、26においてガスケット3が十分に強く挟圧されなくなり、当該箇所でのシール性が顕著に悪化する。
【0031】
翻って、
図5(A)に示すように、第二斜縁15、25の曲率半径R1、R2や隅部16、26の曲率半径を大きくとってあれば、部材1、2の製造ばらつきが生じたとしても、第二斜縁15、25や隅部16、26におけるガスケット3の圧縮が弱まりにくい。例えば、シリンダヘッドカバー2の斜縁25の位置が図中に鎖線で表しているように締結方向と直交する方向(右方)に偏倚した場合にも、第二斜縁15、25及び隅部16、26におけるガスケット3の挟圧は強く、当該箇所でのシール性はさほど悪化しない。
【0032】
本実施形態では、一方の部材1と他方の部材2との間にガスケット3を挟みこれを圧縮した状態で両部材1、2を結合する構造であって、前記各部材1、2におけるガスケット3を介して相手方の部材と対向する接合部位(タイミングチェーンカバー1の上縁部及びシリンダヘッドカバー2の前縁部)に、前記両部材1、2を締結する方向(垂直方向)に対し略直交する方向(水平方向)に延びている平坦縁11、12、21、22と、当該接合部位の側端部付近で平坦縁11、12、21、22に対し非平行な方向に屈曲または湾曲して延びている第一斜縁13、14、23、24と、当該接合部位の側端部よりも内側方において平坦縁11、12、21、22に対し非平行な方向に屈曲または湾曲して延びており、その接線の前記締結方向に対する交差角度γが前記第一斜縁13、14、23、24の接線の前記締結方向に対する交差角度α、βよりも大きくなる第二斜縁15、25とを設けている部材1、2の結合構造を構成した。
【0033】
本実施形態によれば、内側方にある第二斜縁15が外側方にある第一斜縁13、14よりも先にガスケット3に接触してガスケット3を内側方に引っ張り込むことが抑止される。従って、側端部のシール性が悪化することが回避される。シール性を確保する目的で部材1、2の公差を小さくする(部材1、2の寸法精度を厳格化する)必要性が小さくなるので、部材1、2の製造コストの低減にも寄与し得る。
【0034】
さらに、本実施形態では、前記第一斜縁13、14が前記平坦縁17、18との間に円弧状をなす縁辺を介して当該平坦縁17、18に連なり、かつ前記第二斜縁15、25の少なくとも一部が円弧状をなしており、前記第二斜縁15、25において円弧状をなす部分の曲率半径R1、R2を、前記第一斜縁13、14と前記平坦縁17、18との間に介在する縁辺の曲率半径R3、R4、R5、R6よりも大きく設定している(但し、R1ないしR6の円弧中心は他方の部材2側でなく一方の部材1側にある)。これにより、第一斜縁13、14、23、24と比較して内方にある第二斜縁15、25の成形の精度(位置や傾斜角度の精度等)が多少低くとも、第二斜縁15、25及び隅部16、26におけるシール性を高く保つことができる。
【0035】
また、本実施形態では、前記一方の部材1が内燃機関のタイミングチェーンカバー、前記他方の部材2がシリンダヘッドカバーであり、タイミングチェーンカバー1の上縁部にシリンダヘッドカバー2の前縁部を前記ガスケット3を介して接合する構造であって、前記タイミングチェーンカバー1の上縁部及び前記シリンダヘッドカバー2の前縁部には、前記締結方向である上下方向に沿って位置が互いにずれている二つの平坦縁11、12、21、22が存在し、各平坦縁11、12、21、22の外側端にそれぞれ前記第一斜縁13、14、23、24が連なり、かつ各平坦縁11、12、21、22の内側端同士を連接するように前記第二斜縁15、25が連なっており、上位の平坦縁11、21の下方に電動式のVVTが配され、下位の平坦縁12、22の上方に液圧式のVVTに作動液圧を供給するための作動液ポート20が配されている。
【0036】
このため、モータドライブVVTの駆動源となるモータとシリンダヘッドカバー2とが干渉せず、さらに、作動液ポート20及びこれに接続されるOCVがシリンダヘッドカバー2の最上縁から上方に大きく突き出すこともなく、内燃機関総体としての外形(特に、上下方向)寸法をコンパクト化でき、限られたエンジンルーム内のスペースに収めることが容易となる。
【0037】
なお、本発明は、以上に詳述した実施形態には限られるものではない。特に、本発明の適用対象は、内燃機関のタイミングチェーンカバー1及びシリンダヘッドカバー2には限定されない。
【0038】
その他各部の具体的構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。