(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ガイドレールには、前記中央支持体の後部が便器の前方リム部上方を乗り越える位置で便器と非接触となる高さまで上昇させる浮上誘導部が設けられていることを特徴とする請求項1記載の車椅子。
前記中央支持体の後部には、前記ガイドレールに沿って摺動する滑子部を水平軸まわりに回転自在に保持して当該中央支持体の前端側を上下揺動自在にする滑子保持部が設けられており、
前記椅子本体には、前記座部前部の左右両側で立ち上がる左右一対の握り棒が設けられ、
これら左右の握り棒間を開放する状態と左右の握り棒間を架け渡される状態とに変更自在な状態で渡りバーが設けられており、
前記渡りバーの架け渡し状態で前記中央支持体の前端側を立て掛け保持可能となっている
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車椅子。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の車椅子は、座部の排便用開口に嵌った状態の蓋体を前下がり方向(特許文献1)又は水平方向(特許文献2)へスライドさせることで、排便用開口を開放させる構造になっていた。しかしながら、蓋体は、排便用開口に嵌っている状態(閉鎖状態)では、着座者の臀部を支持するようになっている。そのため、前下がり方向であれ水平方向であれ、排便用開口に嵌った状態から直線的にスライドさせることで着座者の臀部と蓋体の上面とが擦過するようになる。これにより、着座者の臀部又は下着が、スライドする蓋体に引きずられるようになる不具合が生じていた(閉鎖するときには蓋体のスライド方向が逆になるが同様な不具合が生じていた)。この不具合を防止するには、着座者が腰を浮かすようにしなければならないが、これによって着座者や介護者に大きな負担を強いることになっていた。
【0005】
一方、従来の車椅子では、着座者の排泄中、周辺で付き添っている介護者から股間が視認されてしまうため、着座者には精神的な苦痛を強いるおそれがあった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、便器上で座部の排便用開口を開閉することが容易に行えるようにし、着座者や介護者への肉体的な負担を軽減できるものとし、また着座者にとっての精神的な苦痛を和らげることができるようにすることにより、トイレへの移動や排泄などを至便にすることができるようにした車椅子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は次の手段を講じた。
即ち、本発明に係る車椅子は、便器を跨ぐ立体枠形に形成されて下端部に移動用車輪を備える椅子本体と、前記椅子本体に対して便器より高い位置に設けられ着座者の臀部中央を少なくとも下方へ向けて開放する排便用開口が形成された座部と、前記座部の排便用開口に嵌る中央支持体と、前記座部に対し前記中央支持体を前記排便用開口内の着座支持位置とこの着座支持位置より前方の開口位置との前後間で移動自在に保持させるガイドレールとを有しており、前記ガイドレールには、前記中央支持体を前記着座支持位置で着座者の臀部当接高さに保持させる持ち上げ誘導部と、前記中央支持体が着座支持位置から僅かでも前方移動させたときには下降により着座者の臀部から離反させるスライド誘導部とが設けられていることを特徴とする。
【0007】
前記ガイドレールには、前記中央支持体の後部が便器の前方リム部上方を乗り越える位置で便器と非接触となる高さまで上昇させる浮上誘導部が設けられたものとするのが好適である。
前記中央支持体の後部には、前記ガイドレールに沿って摺動する滑子部を水平軸まわりに回転自在に保持して当該中央支持体の前端側を上下揺動自在にする滑子保持部が設けられており、前記椅子本体には、前記座部前部の左右両側で立ち上がる左右一対の握り棒が設けられ、これら左右の握り棒間を開放する状態と左右の握り棒間を架け渡される状態とに変更自在な状態で渡りバーが設けられており、前記渡りバーの架け渡し状態で前記中央支持体の前端側を立て掛け保持可能にすることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る車椅子は、便器上で座部の排便用開口を開閉することが容易に行えるようになっていることで、着座者や介護者への肉体的な負担を軽減できるものであり、また着座者にとっての精神的な苦痛を和らげることができるものとなっていることにより、トイレへの移動や排泄などを至便にすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1乃至
図8は、本発明に係る車椅子1の一実施形態を示している。
図4に示すように、この車椅子1は、椅子本体2と、この椅子本体2に設けられた座部3と、この座部3の中央部に組み込まれる中央支持体4と、この中央支持体4を座部3に対して移動自在な状態に保持させるガイドレール5(
図1乃至
図3参照)とを有している。
【0011】
なお、以下では、
図6の下側を車椅子1の「左」、
図6の上側を「右」と言い、
図6の左側を車椅子1の「前」、
図6の右側を車椅子1の「後」と言う。これらの左右・前後は、車椅子1の着座者Mから見た方向に一致する。
椅子本体2は、
図4乃至
図6に示すように、左右方向において便器T(
図1参照)の幅を越える間隔を開けて設けられた複数本(図例では前後左右の計4本としている)の支脚8を有しており、これら支脚8により便器Tを跨ぐ立体枠形を形成するようになっている。なお、便器Tには、温水洗浄装置等の操作パネル(図示略)が片側に張り出して設けられていることが多いが、この種の便器Tに対しても跨ぎ込みを可能にするため、左右の支脚8間に設ける間隔には、便器幅と操作パネルとを含めた広い寸法を確保してある。
【0012】
各支脚8の下端部には椅子本体2を移動自在にするための移動用車輪9が設けられ、また各支脚8の上端部には伸縮柱11が上方へ伸縮動作自在な状態で挿入されている。
なお、本実施形態では、付き添いの介護者が車椅子1の移動を操るタイプとしてあるため、移動用車輪9には小形のキャスターを採用し、そのうち前部又は後部の二輪(4輪全部でもよい)が首振り自在なものとしてある。いくつかのキャスターにはブレーキ付きのものを採用するのが好ましい。但し、この車椅子1は電動車とすることも可能であり、この場合等には駆動輪とする車輪(主に後輪)に径大な車輪を採用するとよい。更に、この車椅子1は、着座者Mが自ら後輪を押し回しするタイプとしてもよく、この場合では後輪を更に径大化して、この後輪に操輪用の円形ハンドル(図示略)が同心円状に付設されたものを採用するとよい。
【0013】
前後の支脚8間にはそれらの下端部同士を連結する側部足元桟12aが設けられ、左前
と右前の支脚8間にはそれらの下端部同士を連結する前部足元桟12bが設けられて、これら側部足元桟12aと前部足元桟12bとによって平面コ字状を呈する下枠12が形成されている。すなわち、この下枠12には左後と右後の支脚8間を渡る桟が無いので、この椅子本体2は、便器Tの前方からバックさせるようにすることで、便器Tの上方を跨ぐ状態に移動させることができる。
【0014】
これに対し、前後左右の全ての伸縮柱11間には、支脚8から上方に突き出ている根元部同士を長方形枠型に連結するようにして中枠15が形成されており、この中枠15の上部で座部3を支持するようになっている。
また、前後の伸縮柱11間には、着座者Mが肘を置きやすくなる高さ位置同士を連結する脇部桟16aが設けられ、左後と右後の伸縮柱11間には脇部桟16aと略同じ高さ位置同士を連結する背部桟16bが設けられて、これら脇部桟16aと背部桟16bとによって、前記した下枠12とは前後逆向きの平面コ字状を呈する上枠16が形成されている。脇部桟16aは着座者Mの肘置きとして使用可能であり、この場合には上面に適宜クッション材やカバー材を被着させておくのが好適となる。また背部桟16bは、背当て部材17を支持させることにより着座者Mの背もたれとして使用可能である。
【0015】
後部の2本の伸縮柱11は、背部桟16bを越えて上方へ突出した後に、車椅子1の後方に立つ介護者などが握りやすい高さで後方へ屈曲されるようになっており、この屈曲部分で左右一対の後部ハンドル20が形成されている。これら後部ハンドル20の後端部には後部グリップ21が設けられている。
これに対し、前部の2本の伸縮柱11は、脇部桟16aを越えて上方へ突出するようになっており、この突出部分(脇部桟16aを越えた部分)で左右一対の握り棒22が形成されている。これら握り棒22の上端部には、車椅子1の前方に立つ介護者などが握りやすい高さで前部グリップ23が設けられている。なお、伸縮柱11と握り棒22とは、1本の棒材によって形成する(一体形成する)ことが限定されるものではなく、別部材により形成してもよい。また、伸縮柱11と握り棒22とが一軸配置されていることも限定されるものではなく、互いの軸心が離れるように配置してもよい。
【0016】
これら左右の握り棒22のうち、一方には、渡りバー25が吊り下げられており、他方の握り棒22には渡りバー25の先端部を係止させるバー受け26が設けられている。そのため、この渡りバー25を左右の握り棒22間へ架け渡した状態とすることができる(
図8参照)。当然に、渡りバー25をバー受け26から外して一方の握り棒22から吊り下げ状態にすることで、左右の握り棒22間を開放する状態とすることができる(
図1参照)。この渡りバー25は、中空パイプや中実の棒材、チェーンなどによって形成することができる。
【0017】
なお、渡りバー25を吊り下げた状態とするときの揺れ止め対策として、渡りバー25を吊り下げる方の握り棒22、又はその下方の伸縮柱11や支脚8に、渡りバー25を弾性的に係合離脱自在にするバークリップ27(又はチェーン掛け)を設けておくのが好適である。
支脚8間に設けられた下枠12には、左右の側部足元桟12aに対してそれぞれ昇降駆動装置30が設けられている。この昇降駆動装置30は、電動モータ等を駆動源30aとしてリニアシャフト30bを上向きに上下移動させる構造とされており、リニアシャフト30bの上端部が、伸縮柱11間に設けられた中枠15と連結されている。そのため、この昇降駆動装置30を作動させることで中枠15を昇降させることができる。
【0018】
この中枠15が昇降するとき、支脚8に対して伸縮柱11が伸縮動作するようになっており、この伸縮動作が中枠15の昇降をガイドする。なお、昇降駆動装置30には、油圧や空気圧、或いは歯車機構やリンク機構等による倍力機構などを駆動源30aとする手動装置を採用することも可能である。
下枠12の前部足元桟12bには、中枠15によって支持される座部3の正面位置となる配置で、踏み台31が設けられている。この踏み台31が設けられていることで、車椅子1に対する乗り降りはもとより、座部3に対して着座者Mの着席や起立が容易に行えるようになっている。
【0019】
本実施形態において、この踏み台31は、下枠12に対して揺動支持部33を介して取り付けてあり、踏み台31の不使用時には上方への跳ね上げを可能としてある。跳ね上げ状態は、例えばマグネットキャッチャー(図示略)等により保持させる構造とすればよい。このように踏み台31を跳ね上げ式とすることにより、車椅子1の不使用時や空移動時などでのコンパクト化を図れるものとなる。
【0020】
また、踏み台31には首振り自在な車輪32を取り付けてあり、踏み台31に負荷する荷重を車輪32にも分散させて支持可能にしてある。従って、踏み台31上で着座者Mの全体重を支持させることも可能であり、踏み台31上で着座者Mが立ち上がって向きを変えるような動作や着衣を直したりする動作等を行うこともできる。また車椅子1の移動時に踏み台31が撓んだりガタツキを生じたりすることがないので、この踏み台31が車椅子1の走行抵抗になるといったこともない。
【0021】
椅子本体2の中枠15によって支持される座部3は、着座者Mの臀部から左右の大腿にかけた部分を支持できるようにしたものであって、上を向く座面の中央には、着座者Mの臀部中央を下方及び前方へ向けて開放する排便用開口35が形成されている。そのため、
図6に示すように、この座部3は平面視すると略U字状を呈したものとなっている。
本実施形態では、前記したように椅子本体2が幅広に形成されており、温水洗浄装置等の操作パネル(図示略)が片側に張り出した便器Tの跨ぎ込みを可能にしてある。そのため、このような椅子本体2の中枠15に対し、座部3は左右方向の一方(図例では左方)へ偏らせた配置として、座部3の右側に、操作パネルの上面を開放させて操作可能にするためのパネル用開口36が形成されるものとした。ただ、このようなパネル用開口36を形成させることは限定されるものではなく、遠隔操作型(壁面取付式)の操作パネルを備えた便器Tに専用させる場合は、省略することも可能である。
【0022】
座部3の座面(上面)は、この排便用開口35の開口周部へ向けて下り勾配となるように傾斜を付しておくと、着座者Mの臀部中央を排便用開口35の開口中心へ合わせやすくなるばかりでなく、着座者Mの座りが安定し、ズレを防止できる利点となる。着座者Mの座り心地を好くするために、クッション材などで被覆することが可能であるが、このクッション材は、取り替えのための着脱が容易な構造としたり、防水性を持たせたりすることが好ましい。また、座部3自体に暖房機能を持たせておくようにしてもよい。
【0023】
なお、前記したように中枠15は昇降駆動装置30によって昇降可能となっているため、座部3の保持高さは、着座者Mの体格や障害の程度などに応じて、着座者Mの着座に好適となる高さに移動調節できるものとなっている。また、便器Tの種類に応じて、便器高さを超えるように(便器Tより高い位置に)保持させることができる。更には、車椅子1とベッド等との間で乗り移りを容易にさせる際にも、昇降駆動装置30によって高さ調節ができるものである。
【0024】
座部3の中央部に組み込まれる中央支持体4は、
図4及び
図6に示すように、排便用開口35に嵌められるようになっている。なお、図例では、排便用開口35の開口形状と中央支持体4の平面形状とを相似的に同一な形状としてあり、中央支持体4が排便用開口35に嵌ったときには、中央支持体4がこの排便用開口35を略閉鎖するようにしてある。しかし、これに限らず、中央支持体4を細身に形成することによって、その左右両側に排便用開口35の開口縁部との隙間が生じるようにしてもよい。
【0025】
また、中央支持体4の側面視形状は、前部寄りに隆起部4aが形成され、これより後方側が緩やかに下り勾配となるものを採用してある。これにより、着座者Mの股間を前方から見え難くする作用や、着座者Mが前方へ位置ズレするのを防止する作用(着座安定性を高める作用)を図るものとしている。しかし、これに限らず、例えば上面をフラットにしたり、前後同一高さのかまぼこ形等としたりすることもできる。
【0026】
図7に示すように、この中央支持体4の後部には左右両側へ突出する状態で左右一対の滑子部38が設けられている。これら左右の滑子部38は、中央支持体4の下面に設けられた滑子保持部39を介して保持されたものとしてある。この滑子保持部39は、軸心を左右方向へ向けた水平軸40を回転自在に保持したものであって、この水平軸40の左右両端部に滑子部38が固定されている。すなわち、滑子部38は、中央支持体4に対して
水平軸40まわりに回転自在に保持されたものとなっている。
【0027】
これら左右の滑子部38には中央に貫通孔38aが形成されており、この貫通孔38aにそれぞれ丸棒状のガイドレール5が差し通されている。これらガイドレール5は、
図1及び
図2に示すように、その長手方向の両端部を前後方向へ向けた状態で座部3の下部に固定されている。
すなわち、中央支持体4は、左右の滑子部38により、ガイドレール5を介して座部3に取り付けられており、このガイドレール5に沿って滑子部38が摺動することに伴い、座部3に対する前後方向へ移動自在となっている。この移動により、中央支持体4は、座部3の排便用開口35に嵌る位置(以下、「着座支持位置」と言う)とこの着座支持位置より前方位置(以下、「開口位置」と言う)との前後間で移動することになる。
【0028】
また滑子部38は、前記したように、中央支持体4に対して水平軸40まわりに回転自在に保持されていることから、中央支持体4は、その前端側を上下させる方向で、座部3に対して揺動自在になっている。
ガイドレール5には、滑子部38が摺動する範囲内にあって、その後部側に持ち上げ誘導部45が設けられ、この持ち上げ誘導部45よりも前方にスライド誘導部46が設けられ、このスライド誘導部46よりも前方に浮上誘導部47が設けられたものとなっている。スライド誘導部46と浮上誘導部47との前後間は、前方へゆくにしたがって昇り傾斜となる連絡部48によって連結されている。
【0029】
持ち上げ誘導部45及びスライド誘導部46は、いずれも前から後へ向けて徐々に高位となる方向で傾斜した部分である。本実施形態では滑子部38が通過可能なカーブ半径で下凸となる方向へ湾曲させたものとしてある。これら持ち上げ誘導部45とスライド誘導部46との間には、構造的に明確な境界は生じていないものの、それぞれにより奏し得られる作用には違いがある。
【0030】
すなわち、持ち上げ誘導部45に滑子部38が配置されるとき、中央支持体4は着座支持位置に配置され、このとき中央支持体4は、その上面が着座者Mの臀部に当接する高さに保持されるようになっている。
持ち上げ誘導部45に滑子部38が配置された状態(中央支持体4が着座支持位置に配置された状態)は、例えば、中央支持体4の前端部に左右方向外方へ突出する張出軸50を設けておくと共に、椅子本体2又は座部3の前端には張出軸50を係止させるフック部51(
図4参照)を設けておいて、これらを係合させることで行わせるようにすればよい。或いは、図示は省略するが、中央支持体4の後端部と座部3における排便用開口35の後部開口端との間で、マグネットキャッチャーの吸着等によって保持させるようにしてもよい。
【0031】
これに対し、スライド誘導部46に滑子部38が配置されるとき、すなわち、持ち上げ誘導部45で停止中の滑子部38をスライド誘導部46へ向けて移動開始させるとき(中央支持体4が着座支持位置から僅かでも前進するとき)には、中央支持体4は、着座支持位置から前方へ移動すると同時に下降を始めるようになる。そのため、中央支持体4の上面は、直ちに着座者Mの臀部から離反するようになる。
【0032】
反対に、スライド誘導部46に配置された滑子部38を持ち上げ誘導部45へ向けて移動させるとき(中央支持体4が後退により着座支持位置へ向かうとき)には、中央支持体4は、着座支持位置に近づけば近づくほど上昇するようになる。そのため、中央支持体4の上面は、着座支持位置へ到達した時点で初めて着座者Mの臀部に当接するようになる。結果として、中央支持体4は、着座支持位置で停止しているときにのみ、着座者Mの臀部に当接するものとなっている。
【0033】
このようなガイドレール5を備えていることで、座部3の排便用開口35に嵌った中央支持体4を開口位置へ向けて前進させるときも、また開口位置へ引き出した中央支持体4を排便用開口35へ向けて後退させるときも、中央支持体4が着座者Mの臀部と擦過を起こすようなことはない。これにより、着座者Mの臀部又は下着が、スライドする中央支持体4に引きずられるような不具合は生じないので、着座者Mは腰を浮かす必要もなくなり、着座者Mや介護者が負担を強いられることもない。
【0034】
一方、浮上誘導部47は、滑子部38がスライド誘導部46を前方へ移動して、便器Tにおける前方リム部Rの上方を乗り越えるときに、滑子部38を上昇させ、その結果、滑子部38を含む中央支持体4の後部を便器Tと非接触となる高さまで浮上させるようになっている。
ところで、中央支持体4は、水平軸40まわりで上下揺動させることができるので、開口位置へ引き出した後に起立させることができる。このとき、
図8に示すように併せて椅子本体2の左右の握り棒22間で渡りバー25を架け渡し状態にすれば、中央支持体4の前端側を渡りバー25へ立て掛けるようにして、起立状態を保持させることができる。このようにすることで、周辺で付き添っている介護者から着座者Mの股間を視覚遮断できるものとなり、着座者Mには精神的な苦痛を強いるおそれがない。
【0035】
このようなことから、本発明に係る車椅子1では、トイレへの移動や排泄などを至便にすることができる。
図9に示すように、椅子本体2が備える左右一方の前後2本の伸縮柱11を上下に分離可能な構造にしておくことにより、車椅子1とベッドB等との間で着座者Mの乗り移りを更に一層、容易なものとさせることができる。この場合、昇降駆動装置30を作動させて座部3の上面をベッドB等の上面に合わせる(又は近付ける)ように高さ調節を行えばよい。なお、伸縮柱11は、分離させる方式とは別に、ヒンジなどで折り畳みできるような方式としてもよい。
【0036】
ところで、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、実施の形態に応じて適宜変更可能である。
例えば、椅子本体2においては、パイプ材などで形成した構造とする他、合成樹脂製とすることも可能である。従って、下枠12の側部足元桟12aや前部足元桟12b、中枠15、上枠16の脇部桟16aや背部桟16bは、必ずしも必要というわけではない。
【0037】
ガイドレール5は、丸棒材によって形成する他、角棒材や溝型条材(断面がC形、H形、I形、V形等のもの)など、特に限定されるものではない。当然に、滑子部38についても、ガイドレール5の断面形状に応じて摺動自在に係合させるべく、形状や構造を適宜変更することが可能である。
滑子部38は、摺動方向に倣って回転する構造のベアリングにより形成したり、摩擦抵抗の小さな樹脂材などにより形成したりすることも可能である。
【0038】
中央支持部4は、開口位置へ引き出した後、下方へ揺動させるように使用してもよい。
昇降駆動装置30の駆動電源は、椅子本体2にバッテリを搭載して給電させる方式でも、車椅子1の移動先で建物側からコンセントを介して給電させる方式でもよい。なお、昇降駆動装置30による座部3の高さ調節は、着座者M又は介護者のスイッチ操作によるものとしたり、段階的な小駆動(歩進)の繰り返しによるものとしたり、センサ検出によるものとしたりすればよい。