(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記姿勢調整工程において、前記線状バネの根元が接続される前記ベース部の縁部に重ねて前記姿勢調整用凹部を形成することを特徴とする請求項4記載の時計用部品の製造方法。
前記姿勢調整工程において、平面視形状が前記線状バネの根元側が長辺とされた長方形状の前記姿勢調整用凹部を形成することを特徴とする請求項4または5記載の時計用部品の製造方法。
前記姿勢調整工程において、前記線状バネの姿勢調整量に応じた深さで前記姿勢調整用凹部を形成することを特徴とする請求項4〜6いずれか一項に記載の時計用部品の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のようなジャンパは、バネ部や躍制爪部の他、バネ部の根元を支持するベース部等を有している。一般的に、量産品の時計に用いられるジャンパは、一枚の金属製の薄板を順送型のプレス機械において複数回プレス加工することによって形成されている。ところが、例えば長期間の使用による金型の摩耗等の何らかの原因によって、バネ部や躍制爪部の形成位置が、僅かにずれる場合がある。しかしながら、日表示車等の回転を正確に躍制する必要があることから、特に躍制爪部の先端位置の公差は極めて厳しいものとされている。このため、何らかの原因によって、バネ部や躍制爪部の形成位置が僅かにずれると、この間に作製されたジャンパは、後の検査工程において全て不良品扱いとなる。
【0005】
このようなバネ部や躍制爪部の形成位置が僅かにずれたジャンパが発生した場合には、プレス機械から金型を取り外し、バネ部や躍制爪部を成形する入子を金型からさらに取り外し、入子の側面等を削り、入子の位置を調整しつつ金型に戻し、入子の側面を削ることで形成されることになる隙間にシムを差し込む等の作業が必要となる。このため、現状においては、バネ部や躍制爪部の形成位置がずれると、その修正に長い時間を要する。
【0006】
なお、このような問題は、ジャンパのバネ部及び躍制爪部に限られたものではない。時計用部品は極めて精密であることを要求されるため、厳しい公差が設定されている。このため、ベース部に対して線状バネが接続された形態を有する時計用部品においては、線状バネの位置ずれが生じると、ジャンパに限らず、修正に長い時間を要することになる。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、ベース部に線状バネが接続された形態を有する時計用部品において、容易に線状バネの位置調整を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0009】
第1の発明は、時計用部品であって 線状バネと、当該線状バネの根元が接続されると共に上記線状バネを支持するベース部と、上記ベース部に形成されると共に上記ベース部の一部分を塑性流動により上記線状バネに寄せることにより上記線状バネの姿勢を調整する姿勢調整用凹部とを備えるという構成を採用する。このような構成を採用する本発明によれば、姿勢調整用凹部が形成されることによる塑性流動によって、ベース部の一部分が線状バネの方向に寄せられ、これによって線状バネの位置が調整されている。このような本発明によれば、姿勢調整用凹部を形成することで線状バネの位置調整が可能となることから、例えばプレス機械の入子を削る作業等を行うことなく線状バネの位置調整を行うことが可能となる。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記線状バネの根元が接続される上記ベース部の縁部に重ねて上記姿勢調整用凹部が設けられているという構成を採用する。このような構成を採用する本発明によれば、姿勢調整用凹部が線状バネに対して極めて近傍に形成されているため、塑性流動の線状バネへの影響が大きくなり、姿勢調整用凹部が浅くても線状バネの位置を容易に調整することが可能となる。
【0011】
第3の発明は、上記第1または第2の発明において、上記姿勢調整用凹部が、平面視形状が上記線状バネの根元側が長辺とされた長方形状であるという構成を採用する。平面視形状が長方形状の姿勢調整用凹部を形成すると、長辺側において塑性流動が生じる範囲が広くなり、短辺側において塑性流動が生じる範囲が狭くなる。このため、このような構成を採用する本発明によれば、長辺側の線状バネ方向への塑性流動が生じる範囲を大きくし、短辺側の線状バネに影響のない方向への塑性流動が生じる範囲を狭くすることができる。したがって、全ての辺が上記長辺と同一長さの正方形状の姿勢調整用凹部を形成する場合と比較して、線状バネと異なる部位への塑性流動による影響を小さくすることができる。
【0012】
第4の発明は、時計用部品の製造方法であって、基材に対してプレス加工により線状バネと当該線状バネの根元が接続されると共に上記線状バネを支持するベース部とを形成する工程と、プレス加工により上記ベース部に対して姿勢調整用凹部を形成することで、ベース部の一部分を塑性流動により上記線状バネに寄せることにより上記線状バネの姿勢を調整する姿勢調整工程とを有するという構成を採用する。このような構成を採用する本発明によれば、姿勢調整用凹部を形成することによる塑性流動によって、ベース部の一部分を線状バネの方向に寄せ、これによって線状バネの位置を調整する。このような本発明によれば、姿勢調整用凹部を形成することで線状バネの位置調整を行うことから、例えばプレス機械の入子を削る作業等を行うことなく線状バネの位置調整を行うことが可能となる。
【0013】
第5の発明は、上記第4の発明において、上記姿勢調整工程では、上記線状バネの根元が接続される上記ベース部の縁部に重ねて上記姿勢調整用凹部を形成するという構成を採用する。このような構成を採用する本発明によれば、姿勢調整用凹部を線状バネに対して極めて近傍に形成するため、塑性流動の線状バネへの影響を大きくすることができ、姿勢調整用凹部が浅くても線状バネの位置を容易に調整することが可能となる。
【0014】
第6の発明は、上記第4または第5の発明において、上記姿勢調整工程では、平面視形状が上記線状バネの根元側が長辺とされた長方形状の上記姿勢調整用凹部を形成するという構成を採用する。このような構成を採用する本発明によれば、長辺側の線状バネ方向への塑性流動が生じる範囲を大きくし、短辺側の線状バネに影響のない方向への塑性流動が生じる範囲を狭くすることができる。したがって、全ての辺が上記長辺と同一長さの正方形状の姿勢調整用凹部を形成する場合と比較して、線状バネと異なる部位への塑性流動による影響を小さくすることができる。
【0015】
第7の発明は、上記第4〜第6いずれかの発明において、上記姿勢調整工程では、上記線状バネの姿勢調整量に応じた深さで上記姿勢調整用凹部を形成するという構成を採用する。姿勢調整用凹部の深さを変更することにより、線状バネの位置を変化させることができる。このため、このような構成を採用する本発明によれば、姿勢調整用凹部の深さが、線状バネの姿勢調整量に応じたものとなる。このため、より正確に線状バネの位置を調整することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、姿勢調整用凹部を形成することで線状バネの位置調整が可能となることから、例えばプレス機械の入子を削る作業等を行うことなく線状バネの位置調整を行うことが可能となる。したがって、本発明によれば、ベース部に線状バネが接続された形態を有する時計用部品において、容易に線状バネの位置調整を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態におけるジャンパ及び爪車部の斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態におけるジャンパ及び爪車部の要部拡大平面図である。
【
図3】本発明の一実施形態におけるジャンパの製造を行うプレスユニットの模式図である。
【
図4】金型の最後のステージの概略構成を示す断面図である。
【
図5】製造過程の本発明の一実施形態におけるジャンパの要部拡大平面図である。
【
図6】突起部及び金属板の要部を模式的に示す部分拡大断面図である。
【
図7】製造過程の本発明の一実施形態におけるジャンパの要部拡大平面図である。
【
図8】本発明の第1変形例におけるジャンパの要部拡大平面図である。
【
図9】本発明の第2変形例におけるジャンパの要部拡大平面図である。
【
図10】本発明の第3変形例におけるジャンパの要部拡大平面図である。
【
図11】本発明の第4変形例におけるジャンパの要部拡大平面図である。
【
図12】本発明の第5変形例における突起部及び金属板の要部を模式的に示す部分拡大断面図である。
【
図13】本発明の第6変形例における金型の最後のステージの概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明に係る時計用部品及び時計用部品の製造方法の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0019】
図1は、本実施形態のジャンパ1と、当該ジャンパ1(時計用部品)によって躍制される爪車部100とを図示する斜視図である。また、
図2は、本実施形態のジャンパ1と、爪車部100とを図示する要部拡大平面図である。ジャンパ1及び爪車部100は、不図示の文字板と不図示の地板との間に配置され、時計の内部に収容された時計用部品である。爪車部100は、不図示の日表示車等と伴に回転される歯車であり、複数の歯101が周方向に等間隔で配列された平歯車からなる。
【0020】
ジャンパ1は、1mm以下の金属板をプレス加工することによって形成されており、
図1に示すように、ベース部2と、バネ部3(線状バネ)と、躍制爪部4と、姿勢調整用凹部5とを有している。ベース部2は、バネ部3を支持すると共に、バネ部3を介し、躍制爪部4を支持する略環状の部位である。このベース部2には、複数の開口部が形成されており、その1つである開口部2aにバネ部3及び躍制爪部4が配置されている。
【0021】
バネ部3は、極めて細い直線状の線状バネからなる。このバネ部3は、根元3aがベース部2に一体的に接続され、ベース部2の開口部2aの輪郭を形成する縁部2bから開口部2aの内方に向けて突出して設けられている。この根元3aは、ベース部2の縁部2bの一部である湾曲部2cによってベース部2に対して屈曲する箇所がないように滑らかに接続されている。また、バネ部3は、先端3bが躍制爪部4と一体的に接続されており、躍制爪部4を爪車部100の半径方向に移動可能な可撓性を有して躍制爪部4を支持している。このバネ部3の可撓性(すなわち細さ)は、爪車部100に作用するトルクが所定値を超えたときに躍制爪部4が爪車部100の隣接する歯101同士間から外れるように設定されている。
【0022】
躍制爪部4は、爪車部100側に突出した突起部4aを有しており、当該突起部4a側を正面としたときの一方の側辺4bがバネ部3の先端3bと接続されている。この躍制爪部4は、バネ部3が撓んでいないときに、突起部4aが爪車部100の隣接する歯101同士間に入り込んで歯101と係合する位置となるように、バネ部3と接続されている。このような躍制爪部4は、爪車部100に作用するトルクが所定値を超えるまでは爪車部100の歯101と係合されており、爪車部100に作用するトルクが所定値を超えるとバネ部3が撓むことによって歯101同士間から外れて爪車部100の回転を許容し、その後、バネ部3の復元力により次の歯101同士間に入り込む。
【0023】
姿勢調整用凹部5は、バネ部3の根元3aが接続される湾曲部2cに設けられている。この姿勢調整用凹部5は、ベース部2の表面がプレスされることによって形成された凹部であり、ベース部2の一部分を塑性流動によりバネ部3により寄せることによってバネ部3の姿勢を調整するために設けられたものである。本実施形態において、この姿勢調整用凹部5は、平面視において、形状が一方の長辺5aをバネ部3側に向けた長方形とされおり、一方の短辺5bが湾曲部2cに重ねて設けられている。
【0024】
このように、姿勢調整用凹部5が湾曲部2cに重ねて設けられる場合には、姿勢調整用凹部5が極めてバネ部3に対して近く形成されることになる。このため、ベース部2の一部分が塑性流動されることによってバネ部3への影響が大きくなる。したがって、姿勢調整用凹部5が浅くてもバネ部3の位置を容易に調整することが可能となる。
【0025】
また、姿勢調整用凹部5の平面視形状が長方形状である場合には、長辺5a側において塑性流動が生じる範囲が広くなり、短辺5c(湾曲部2cと重ねられる短辺5bと反対側の短辺)側において塑性流動が生じる範囲が狭くなる。したがって、姿勢調整用凹部5が全ての辺が長辺5aと同じとなる正方形状である場合と比較して、短辺5c側への塑性流動の影響を小さくすることができる。したがって、短辺5c側に他の機能部位(例えば、他の線状バネ)があった場合であっても、この機能部位に対して姿勢調整用凹部5の影響が及ぶことを抑制することができる。
【0026】
続いて、このような本実施形態のジャンパ1の製造方法について説明する。
図3は、本実施形態のジャンパ1の製造を行う順送型のプレスユニット10の模式図である。この図に示すようにプレスユニット10は、アンコイラ11と、レベラフィーダ12と、プレス機械13と、金型14とを備えている。
【0027】
アンコイラ11は、プレス加工前の帯状の金属板15(基材)が巻回されてなるコイル16から金属板15を解くための装置である。レベラフィーダ12は、アンコイラ11で解かれた金属板15の形状を矯正すると共に矯正した金属板15をプレス機械13に供給するための装置である。このレベラフィーダ12は、プレス機械13における1回のプレス動作(上下動)ごとに、金属板15を後述する金型14の1ステージ分送り出す。
【0028】
プレス機械13は、金型14の下型14aがセットされるボルスタ13aと、金型14の上型14bがセットされるスライド13bとを備えており、スライド13bを上下動させて金型14の上型14bを下型14aに咬み合すことで金属板15をプレス加工するための装置である。
【0029】
金型14は、金属板15の送り方向に複数のステージ14cに区分けされている。ステージ14cごとに金型14の形状が異なっており、全てのステージ14cにおいてプレス加工が完了すると、金属板15が本実施形態のジャンパ1となる。なお、
図3においては、簡略化して図示しているため、金型14が8つのステージ14cを有しているように示しているが、実際には例えば20以上のステージ14cを有している。
【0030】
図4は、金型14の最後のステージ14cの概略構成を示す断面図である。この図に示すように、金型14の最後のステージ14cにおいて上型14bは、第1プレート14dと、第2プレート14eと、入子14fと、スペーサ14gと、カラー14hとを備えている。
【0031】
第1プレート14dは、上型14bの下層を形成しており、入子14fを収容可能な上下方向に抜ける貫通孔14d1を有している。また、第1プレート14dは、貫通孔14d1の下部に設けられ、貫通孔14d1の内方に向けて張り出した環状の係止部14iを備えている。この係止部14iは、上面14jにてカラー14hを支持する。第2プレート14eは、上型14bの上層を形成しており、上記貫通孔14d1を覆うように上方から第1プレート14dに取り付けられている。この第2プレート14eは、不図示のボルトによって第1プレート14dに対して締結されている。
【0032】
入子14fは、係止部14iで囲まれた領域を通過可能な円柱状のベース部14f1と、ベース部14f1の下面に設けられると共に当該下面から下方に突出した突起部14f2と、ベース部14f1の高さ方向の中央部に側方に向けて張り出して設けられた係止部14f3とを備えている。突起部14f2は、プレス機械13のスライド13bが下降することによって金属板15を押圧する部位であり、姿勢調整用凹部5を形成する。係止部14f3は、下面14f4をカラー14hに当接されている。これによって、入子14fがカラー14hを介して第1プレート14dに支持される。
【0033】
スペーサ14gは、貫通孔14d1内に配置され、第2プレート14eと入子14fとの間に介装される。このスペーサ14gは、入子14fの突起部14f2の高さ方向の位置を規定するものである。このスペーサ14gによって、突起部14f2の金属板15に対する押圧量すなわち姿勢調整用凹部5の深さが規定される。カラー14hは、スペーサ14gの厚みが先に決定し、これによって生じることになる係止部14f3の下面14f4と係止部14iの上面14jとの隙間を充填する高さに設定される。
【0034】
なお、姿勢調整用凹部5の深さによって塑性流動の量が変化する。すなわち、姿勢調整用凹部5の深さによって、バネ部3(
図1及び
図2参照)の移動量が変化する。このため、例えば、予め実験によって姿勢調整用凹部5の深さとバネ部3の移動量との関係をデータベース化しておき、バネ部3の姿勢調整が必要となったときに、当該データベースを参照してスペーサ14gの厚みを決定することが望ましい。これによって、容易にスペーサ14gの厚みを決定することができる。
【0035】
本実施形態のジャンパ1の製造方法では、アンコイラ11でコイル16から解かれた金属板15がレベラフィーダ12で矯正されると共にプレス機械13に供給される。プレス機械13に供給された金属板15は、プレス動作ごとに1ステージ14c分移動され、各ステージ14cにおいてプレス加工される。そして、最後のステージ14cまでに金属板15には、
図5に示すように、ベース部2及びバネ部3が形成される。すなわち、本実施形態においては、最後のステージ14cを除く、各ステージ14cでのプレス加工が、本発明におけるバネ部及びベース部を形成する工程に相当する。
【0036】
続いて、最後のステージ14cにおいて、姿勢調整用凹部5を形成する。ここでは、プレス機械13のスライド13bが下降し、下型14aと上型14bとが咬み合わされると、入子14fの突起部14f2が
図6に示すように、ベース部2をプレスする。これによって、ベース部2の一部分が塑性流動によって変動する。このとき、
図7に示すように、ベース部2の一部分が塑性流動によりバネ部3側に寄せられることによって、バネ部3が移動し、
図7の矢印で示すように、爪車部100(
図1及び
図2参照)に近づく方向に躍制爪部4の位置が変動される。スペーサ14g(
図4参照)の厚みによって、姿勢調整用凹部5の深さは、躍制爪部4が適切な位置に移動されるように設定されている。このため、躍制爪部4は、突起部4aが適切な位置となるように姿勢が調整される。このような工程は、本発明の姿勢調整工程に相当する。
【0037】
そして、姿勢調整用凹部5が形成されると、金属板15すなわちジャンパ1は、プレス機械13から排出される。姿勢調整用凹部5が形成されたジャンパ1は、帯状の金属板15の一部に設けられていることから、例えば不図示の後処理装置によって所定の数ごとにカットされる。
【0038】
以上のような本実施形態のジャンパ1の製造方法によれば、金属板15に対してプレス加工によりバネ部3と当該バネ部3の根元3aが接続されると共にバネ部3を支持するベース部2とを形成する工程と、プレス加工によりベース部2に対して姿勢調整用凹部5を形成することで、ベース部2の一部分を塑性流動によりバネ部3に寄せることによりバネ部3の姿勢を調整する姿勢調整工程とを有する。このような本実施形態のジャンパ1の製造方法によれば、姿勢調整用凹部5を形成することによる塑性流動によって、ベース部2の一部分をバネ部3の方向に寄せ、これによってバネ部3の位置を調整する。このような本実施形態のジャンパ1の製造方法によれば、姿勢調整用凹部5を形成することでバネ部3の位置調整を行うことから、例えばプレス機械13の入子を削る作業等を行うことなくバネ部3の位置調整を行うことが可能となる。
【0039】
また、本実施形態のジャンパ1の製造方法では、バネ部3の根元3aが接続されるベース部2の湾曲部2cに重ねて姿勢調整用凹部5を形成する。このため、姿勢調整用凹部5をバネ部3に対して極めて近傍に形成するため、塑性流動のバネ部3への影響を大きくすることができ、姿勢調整用凹部5が浅くてもバネ部3の位置を容易に調整することが可能となる。
【0040】
また、本実施形態のジャンパ1の製造方法では、平面視形状がバネ部3の根元3a側が長辺5aとされた長方形状の姿勢調整用凹部5を形成する。このため、長辺5a側のバネ部3方向への塑性流動が生じる範囲を大きくし、短辺5c側のバネ部3に影響のない方向への塑性流動が生じる範囲を狭くすることができる。したがって、全ての辺が上記長辺5aと同一長さの正方形状の姿勢調整用凹部5を形成する場合と比較して、バネ部3と異なる部位への塑性流動による影響を小さくすることができる。
【0041】
また、本実施形態のジャンパ1の製造方法では、バネ部3の姿勢調整量に応じた深さで姿勢調整用凹部5を形成する。このため、姿勢調整用凹部5の深さが、バネ部3の姿勢調整量に応じたものとなり、より正確に線状バネの位置を調整することができる。
【0042】
以下、本実施形態のジャンパ1及びこのジャンパ1の製造方法の変形例について説明する。
【0043】
図8は、第1変形例におけるジャンパ1の部分拡大平面図である。この図に示すように、長方形状の姿勢調整用凹部5に換えて、平面視形状が円形の姿勢調整用凹部5Aを設けても良い。このような変形例によれば、平面視形状が矩形である場合と比較して、姿勢調整用凹部5Aの輪郭に屈曲する部位が存在せず、塑性流動に偏りが生じることを防止することができる。
【0044】
図9は、第2変形例におけるジャンパ1の部分拡大平面図である。この図に示すように、長方形状の姿勢調整用凹部5に換えて、平面視形状がバネ部3側に突出するL型の姿勢調整用凹部5Bを設けても良い。このような変形例によれば、姿勢調整用凹部5Bがバネ部3側に突出する部位5B1を備えることから、バネ部3側により多くの量を塑性流動により寄らせることができ、バネ部3をより大きく移動させることが可能となる。
【0045】
図10は、第3変形例におけるジャンパ1の部分拡大平面図である。この図に示すように、長方形状の姿勢調整用凹部5Cに換えて、平面視形状がバネ部3側に向けて広がる三角形状の姿勢調整用凹部5Bを設けても良い。このような変形例によれば、
図9に示す姿勢調整用凹部5Bと同様に、バネ部3側により多くの量を塑性流動により寄らせることができ、バネ部3をより大きく移動させることが可能となる。また、姿勢調整用凹部5Bと比較して輪郭における屈曲する部位の数が減少し、塑性流動に偏りが生じることを防止することができる。
【0046】
図11は、第4変形例におけるジャンパ1の部分拡大平面図である。上述の例においては、姿勢調整用凹部5がバネ部3の図示下側(躍制爪部4の突起部4aが設けられている側と反対側)に設けられていた。しかかしながら、
図11に示すように、姿勢調整用凹部5をバネ部3の図示上側(躍制爪部4の突起部4aが設けられている側)に設けても良い。この場合には、姿勢調整用凹部5によってバネ部3が移動されることにより、躍制爪部4の突起部4aが爪車部100(
図1及び
図2参照)から遠ざかる方向に移動される。本変形例では上述の例と姿勢調整用凹部5の形成位置が異なることから、例えば金型14に別の本変形例での姿勢調整用凹部5を形成するステージ14cを設けることになる。
【0047】
図12は、第5変形例におけるジャンパ1の製造方法で用いられる上型14bの突起部14f2の断面図である。この図に示すように、本変形例では、突起部14f2の先端面14f5が斜面とされている。このような本変形例によれば、
図12に示すように、先端面14f5が向く方向(紙面右側)に塑性流動により多くの量を流すことができるため、例えば、先端面14f5側をバネ部3側とすることにより、バネ部3の移動量を大きくすることができる。
【0048】
図13は、第6変形例におけるジャンパ1の製造方法で用いられる金型14の最後のステージ14cにおける上型14bの概略構成を示す断面図である。この図に示すように、本変形例では、上型14bは、高さの異なる第1面14k1、第2面14k2及び第3面14k3を下面として有するスペーサ14kと、カラー14hに換えて設けられる弦巻バネ14lとを備えている。また、第1プレート14dには、スペーサ14kを側方に抜き差し可能とするスロット14mが設けられている。
【0049】
図13(a)は第1面14k1と入子14fとが当接されている状態を示し、
図13(b)は第2面14k2と入子14fとが当接されている状態を示し、
図13(c)は第3面14k3と入子14fとが当接されている状態を示している。これらの図に示すように、本変形例においては、スペーサ14gの差し込み量を調整することにより、突起部14f2の高さ位置を容易に調節することが可能とされている。
【0050】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0051】
例えば、上記実施形態においては、本発明の時計用部品がジャンパである例について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、線状バネとこれを支持するベース部とを備える時計用部品及び当該時計部品の製造方法に適用することができる。
【0052】
また、上記実施形態においては、金型14の最後のステージ14cにおいて、姿勢調整用凹部5を形成する例について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、線状バネ(バネ部3)が完成するステージより後のステージであれば、最後のステージでなくても姿勢調整用凹部を形成しても良い。
【0053】
また、上記実施形態においては、姿勢調整用凹部5(姿勢調整用凹部5A〜5C)は、バネ部3の根元3aが接続される湾曲部2cに1つ設けられているが、本発明は、これに限定されず、例えば、バネ3部を介して対向する側である湾曲部2cにもう1つ(合計2つ)設けるようにしてもよい。これらの2つの姿勢調整用凹部5の大きさやバネ部3の根元3aからの距離を調整することによって、バネ部3を任意の方向に任意の量で移動させることができる。例えば、鉛直軸を中心として入子14fを回転可能とすると共に鉛直軸を挟んで2つの突起部14f2が設けられた形態とする。そして、各突起部14f2の開口部2aへのオーバーラップ量(すなわち湾曲部2cから飛び出す量)を、入子14fを回転させて調整することで、2つの姿勢調整用凹部5の大きさを変更することができる。