(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明に係るひげ玉、てんぷ、ムーブメント及び時計、並びにてんぷ製造方法の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0019】
(時計)
一般に、時計の駆動部分を含む機械体を「ムーブメント」と称する。ムーブメントに文字板、針を取り付けて、時計ケースの中に入れて完成品にした状態を時計の「コンプリート」と称する。時計の基板を構成する地板の両側のうち、時計ケースのガラスのある方の側、すなわち、文字板のある方の側をムーブメントの「裏側」又は「ガラス側」又は「文字板側」と称する。地板の両側のうち、時計ケースの裏蓋のある方の側、すなわち、文字板と反対の側をムーブメントの「表側」又は「裏蓋側」と称する。
【0020】
図1は、コンプリート表側の平面図である。
図1に示すように、時計1のコンプリート1aは、時に関する情報を示す目盛り3などをもつ文字板2と、時を示す時針4a、分を示す分針4bおよび秒を示す秒針4cを含む針4と、を備えている。
【0021】
図2は、ムーブメント表側の平面図である。なお
図2では、図面を見やすくするため、ムーブメント100を構成する時計部品のうち一部の図示を省略している。
機械式時計のムーブメント100は、基板を構成する地板102を有している。地板102の巻真案内穴102aには、巻真110が回転可能に組み込まれている。この巻真110は、おしどり190、かんぬき192、かんぬきばね194および裏押さえ196を含む切換装置によって、軸線方向の位置が決められている。
そして巻真110を回転させると、つづみ車(不図示)の回転を介してきち車112が回転する。きち車112の回転により丸穴車114および角穴車116が順に回転し、香箱車120に収容されたぜんまい(不図示)が巻き上げられる。
【0022】
香箱車120は、地板102と香箱受160との間で回転可能に支持されている。二番車124、三番車126、四番車128およびがんぎ車130は、地板102と輪列受162との間で回転可能に支持されている。
ぜんまいの復元力により香箱車120が回転すると、香箱車120の回転により二番車124、三番車126、四番車128およびがんぎ車130が順に回転する。これら香箱車120、二番車124、三番車126および四番車128は、表輪列を構成する。
【0023】
二番車124が回転すると、その回転に基づいて筒かな(不図示)が同時に回転し、この筒かなに取り付けられた分針4b(
図1参照)が「分」を表示するようになっている。
また、筒かなの回転に基づいて日の裏車(不図示)の回転を介して筒車(不図示)が回転し、この筒車に取り付けられた時針4a(
図1参照)が「時」を表示するようになっている。
【0024】
表輪列の回転を制御するための脱進・調速装置は、がんぎ車130、アンクル142およびてんぷ10で構成されている。
がんぎ車130の外周には歯130aが形成されている。アンクル142は、地板102とアンクル受164との間で回転可能に支持されており、一対のつめ石142a,142bを備えている。アンクル142の一方のつめ石142aが、がんぎ車130の歯130aに係合した状態で、がんぎ車130は一時的に停止している。
てんぷ10は、一定周期で往復回転することにより、がんぎ車130の歯130aに、アンクル142の一方のつめ石142aおよび他方のつめ石142bを、交互に係合および解除させている。これにより、がんぎ車130を一定速度で脱進させている。
以下に、てんぷ10の構造について詳細に説明する。
【0025】
(てんぷ)
図3は、ムーブメント100(
図2参照)の表側からてんぷ10を軸方向に見たときの平面図である。なお、
図3において、ひげ持106を二点鎖線で図示している。
図4は、
図3のA−A線に沿った断面図である。なお、
図4において、地板102を挟んで紙面上側がムーブメント100(
図2参照)の表側となっており、地板102を挟んで紙面下側がムーブメント100の裏側となっている。また、地板102、てんぷ受104およびひげ持106を二点鎖線で図示している。
図3に示すように、てんぷ10は、主にてん輪20と、てん真30と、ひげぜんまい40と、ひげ玉50とを備えている。
【0026】
(てん輪)
てん輪20は、例えば真鍮等の金属により形成されており、略円環状に形成されたてん輪本体部21を備えている。てん輪本体部21の中心軸は、てんぷ10の回転中心である中心軸Oと一致している。
てん輪本体部21の内周面21aからは、中心軸Oに向かって径方向に沿うように四本のアーム部23(23a〜23d)が延設されている。四本のアーム部23a〜23dは、てん輪本体部21の周方向に90°ピッチとなるように、略等間隔に形成されている。
四本のアーム部23a〜23dは、てん輪本体部21の内周面21aから中心軸Oに向かうに従って漸次幅が広くなるように形成されており、中心軸O近傍で連結されている。
図4に示すように、四本のアーム部23a〜23dの連結部25には、中心軸Oと同軸の嵌合孔25aが形成されている。
【0027】
(てん真)
てんぷ10は、中心軸Oと同軸上に、てん真30を備えている。てん真30は、例えば真鍮等の金属により形成された棒状の部材である。
てん真30は、軸方向の両端に、先細りに形成されたほぞ31(31a,31b)を備えている。てん真30は、一方のほぞ31aがてんぷ受104に不図示の軸受けを介して枢支され、他方のほぞ31bが地板102に不図示の軸受けを介して枢支されることにより、中心軸Oまわりに回転可能となっている。
てん真30には、軸方向における略中央に、てん輪20の嵌合孔25aが外嵌圧入されている。これにより、てん輪20とてん真30とが一体化されている。
【0028】
てん真30は、軸方向におけるてん輪20よりも地板102側(
図4における下側)に、略円筒形状をした振り座35を備えている。振り座35には、径方向に張り出したフランジ部36が形成されている。フランジ部36の径方向外側には、所定の位置に不図示の振り石が設けられている。振り石は、てんぷ10の往復回転の周期と同期してアンクル142の一方のつめ石142a(
図2参照)および他方のつめ石142b(
図2参照)を、交互に跳ね上げている。これにより、アンクル142の一方のつめ石142aおよび他方のつめ石142bは、がんぎ車130の歯130a(
図2参照)に対して係合および解除される。
【0029】
(ひげぜんまい)
図4に示すように、てんぷ10は、てん輪20よりもてんぷ受104側(
図4における上側)に、ひげぜんまい40を備えている。
図5は、ひげぜんまい40の説明図である。なお、
図5では、中心軸Oを原点とした極座標上にひげぜんまい40を図示している。また、アルキメデス曲線X、てん真30および後述するひげ玉50を二点鎖線で図示している。
【0030】
図5に示すように、ひげぜんまい40は、例えば鉄やニッケル等の金属からなる薄板ばねであり、複数の巻き数をもった渦巻状のひげぜんまい本体41と、ひげぜんまい本体41の外周側の円弧部42と、により形成されている。
ひげぜんまい本体41は、いわゆるアルキメデス曲線Xに沿うように形成されている。
アルキメデス曲線Xは、極座標系において、
r=aθ(aは定数)・・・(1)
により得られる曲線である。
ひげぜんまい本体41がアルキメデス曲線Xに沿うように形成されることで、軸方向から見たときに、ひげぜんまい本体41が渦巻状にかつ径方向に略等間隔に隣り合うように配置される。
【0031】
図3に示すように、ひげぜんまい本体41の外周側は、ひげぜんまい本体41よりも曲率半径が大きく形成された円弧部42となっている。円弧部42の外周側端部42aは、てんぷ受104(
図4参照)から不図示のひげ持受を介して立設されたひげ持106に固定されている。また、ひげぜんまい40の内周側端部43は、ひげ玉50に固定されている。
【0032】
(第1実施形態のひげ玉)
図6は、軸方向から見たときの第1実施形態のひげ玉50の平面図である。なお、
図6では、紙面表側がてんぷ受104(
図4参照)側となっており、紙面裏側が地板102(
図4参照)側となっている。また、
図6では、てん真30およびひげぜんまい40を二点鎖線で図示している。
図7は、
図6のB−B線に沿った断面図である。なお、
図7では、紙面上側がてんぷ受104(
図4参照)側となっており、紙面下側が地板102(
図4参照)側となっている。また、
図6および
図7において、後述する本体部51と支持部55との境界を一点鎖線で図示している。
【0033】
図6に示すように、ひげ玉50は、例えばニッケルやニッケル合金等の金属により形成された環状の部材であり、てん真30に対して軸を一致させて外嵌固定される本体部51と、本体部51の径方向の外側に突出形成された支持部55とを備えている。なお、以下の説明では、てん真30の軸とひげ玉50の軸(本体部51の軸)とを合わせて中心軸Oと称する。
【0034】
図6に示すように、本体部51は、外形が略楕円環状に形成されており、径方向に沿う第一方向F(
図6における左右方向)に長軸を有し、第一方向Fと直交する第二方向S(
図6における上下方向)に短軸を有している。
本体部51は、全周にわたって径方向に一定の幅を有しており、中央に開口53を有している。開口53は、本体部51の外形に対応して、第一方向Fに長軸を有し、第二方向Sに短軸を有する略楕円形状に形成されている。本体部51は、開口53により、てん真30に対して外嵌可能に形成されている。
【0035】
ひげ玉50は、本体部51の径方向外側に突出形成された一対の支持部55,55を備えている。一対の支持部55,55は、中心軸Oを挟んで第二方向Sにおける径方向の両側に形成されており、本体部51と一体形成されている。支持部55は、径方向内側から径方向外側に向かって、第一方向Fに沿う方向の幅が漸次狭くなる先細り形状に形成されている。一対の支持部55,55は、本体部51の周方向に等ピッチ(本実施形態では180°ピッチ)に形成されている。
【0036】
一対の支持部55,55の径方向外側の側面には、各々溶接面57が形成されている。
溶接面57には、ひげぜんまい40のひげぜんまい本体41のうち、内周側端部43の内周面43aが、例えばレーザ溶接により溶接される。これによって、支持部55およびひげぜんまい40の軸方向端面に、溶接面57を跨ぐように溶接ナゲットが形成される。
溶接面57は、例えば、ひげぜんまい40の内周側端部43の内周面43aに沿うように、アルキメデス曲線X(
図5参照)に対応した曲率を有する曲面に形成されている。
【0037】
溶接面57は、一対の支持部55,55に対応して、中心軸Oを挟んで径方向の両側に一対形成されている。したがって、ひげぜんまい40をひげ玉50に溶接するとき、一対の支持部55,55の溶接面57のうち、一方の支持部55の溶接面57とひげぜんまい40の内周側端部43とを位置合わせして溶接すればよい。よって、支持部55の溶接面57が一箇所の場合よりも、ひげ玉50の溶接面57とひげぜんまい40の内周側端部43との位置決めが素早くできる。これにより、ひげぜんまい40をひげ玉50に溶接する時の作業効率を向上できる。
【0038】
各支持部55,55には、中心軸O方向から見て、治具挿入部60,60が設けられている。これらの治具挿入部60,60は、
図6に示すように、中心軸Oを中心として、180°変位した位置に各々設けられ、支持部55,55を貫通する貫通孔からなる。治具挿入部60は、てん真30に対してひげ玉50を回転させるための後述するひげ玉回し治具200の先端部201(
図9参照)が挿入される部位であり、当該先端部201の形状に対応した形状を有している。具体的には、本実施形態において用いられるひげ玉回し治具200の先端部201(
図9参照)が先端に向けて漸次窄む先細り形状を有しており、治具挿入部60は、
図7に示すように、先端部201と同様に、
図7の下側(地板102(
図4参照)側)に向かうに連れて漸次窄まる形状とされている。
【0039】
このような治具挿入部60は、中心軸O方向から見て、全周が壁面61によって囲われている。つまり、周方向に閉じた壁面61によって形成される貫通孔が治具挿入部60とされている。この壁面61は、中心軸Oに対して傾斜されており、
図7の下側(地板102(
図4参照)側)に向かうに連れて治具挿入部60の中心に近づく傾斜面とされている。このように傾斜された壁面61は、ひげ玉回し治具200の先端部201(
図9参照)を治具挿入部60に差し込むときに、当該先端部201が治具挿入部60内に円滑に挿入されるよう、先端部201を案内する。すなわち、本実施形態においては、壁面61は、中心軸Oに対して傾斜する傾斜壁面とされており、本発明の治具案内部として機能する。
【0040】
このような本実施形態のひげ玉50によれば、ひげ玉50に、ひげ玉回し治具200(
図9参照)の形状に合わせた治具挿入部60が設けられている。このため、当該治具挿入部60にひげ玉回し治具200を差し込んで、てん真30に対してひげ玉50を回転させることができる。したがって、ひげ玉50の外周面をピンセット等で挟んでひげ玉50を回転させる必要がなくなる。さらに、治具挿入部60がひげ玉回し治具200の形状に対応した形状を有していることから、ひげ玉回し治具200を治具挿入部60に対して線あるいは面接触させることができ、安定してひげ玉50を回転させることができる。よって、本実施形態のひげ玉50によれば、ひげぜんまい40の形状を崩すことなく、てん真30に対するひげ玉50の位置調整を正確かつ確実に行うことが可能となる。
【0041】
また、本実施形態のひげ玉50によれば、治具挿入部60が、傾斜壁面からなる治具案内部として機能する壁面61を有している。このため、ひげ玉回し治具200(
図9参照)を治具挿入部60に差し込むときにひげ玉回し治具200を円滑に治具挿入部60に挿入することができる。
【0042】
また、本実施形態のひげ玉50によれば、治具挿入部60が、中心軸Oを中心として180°変位した位置に各々設けられている。ひげ玉50の軸がてん真30の軸と一致するように、てん真30に対してひげ玉50が外装固定されることから、各治具挿入部60にひげ玉回し治具200(
図9参照)を挿入して回転させることで、ひげ玉50をてん真30の軸(中心軸O)を中心として安定して回転させることが可能となる。
【0043】
また、本実施形態のひげ玉50によれば、治具挿入部60が、中心軸O方向から見て全周を囲う壁面61を有している。このため、ひげ玉回し治具200(
図9参照)を治具挿入部60に挿入したときに、ひげ玉回し治具200の全周が壁面61に囲われることになるため、より確実にひげ玉回し治具200がひげぜんまい40に接触することを防止することが可能となる。
【0044】
(てんぷ製造方法)
図8は、本実施形態のてんぷ製造方法の一部を示すフローチャートである。この図に示すように、本実施形態のてんぷ製造方法は、外装固定工程S1と、挿入工程S2と、位置調整工程S3とを有している。なお、てんぷ製造方法では、
図8に示す工程以外にも、ひげ玉50にひげぜんまい40を溶接する工程等、他の必要な工程も当然に行われる。
【0045】
外装固定工程S1は、ひげぜんまい40が溶接されたひげ玉50をてん真30に対して軸を一致させて外装固定する工程である。挿入工程S2は、
図9に示すように、ひげ玉回し治具200を治具挿入部60に挿入する工程である。ここでは、先端に向けて漸次窄む先細り形状とされたひげ玉回し治具200の先端部201を、当該先端部201の形状に合わせた形状とされた治具挿入部60に差し込む。このとき、壁面61が治具案内部として機能するため、玉回し治具200の先端部201を円滑に治具挿入部60に差し込むことができる。さらに、治具挿入部60が玉回し治具200の先端部201を囲う壁面61を有していることから、当該先端部201がひげぜんまい40と接触することを確実に防止することができる。
【0046】
位置調整工程S3は、ひげ玉回し治具200によってひげ玉50をてん真30に対して回転させる工程である。ここでは、ひげ玉回し治具200によってひげ玉50を弾性限界内で変形させることでてん真30に対する締付け力を低下させることで、ひげ玉50を回転させる。このとき、治具挿入部60が中心軸Oを中心として180°変位した位置に各々設けられていることから、安定してひげ玉50を回転させることが可能となる。
【0047】
(第1実施形態の変形例)
図10は、本変形例におけるひげ玉50の
図7と同位置での断面図である。また、
図11は、ひげ玉回し治具200が挿入された状態の断面図である。
図11に示すように、本変形例では、ひげ玉回し治具200が半球状の先端部202を有している。また、本変形例のひげ玉50は、上述の治具挿入部60に換えて、ひげ玉回し治具200の半球状の先端部202の形状に合わせたディンプル状の治具挿入部62を備えている。
【0048】
このような本変形例においても、ひげ玉50の外周面をピンセット等で挟んでひげ玉50を回転させる必要がなくなる。さらに、治具挿入部60がひげ玉回し治具200の形状に対応した形状を有していることから、安定してひげ玉50を回転させることができる。よって、本変形例のひげ玉50においても、ひげぜんまい40の形状を崩すことなく、てん真30に対するひげ玉50の位置調整を正確かつ確実に行うことが可能となる。
【0049】
さらに、本変形例では、治具挿入部62がひげ玉50の支持部55を貫通していないため、ひげ玉50の強度を高めることができる。したがって、貫通する上述の治具挿入部60を設ける場合と比較して、ひげ玉50の耐性を高めることができる。
【0050】
(第2実施形態のひげ玉)
続いて、本発明の第2実施形態のひげ玉50Aについて説明する。なお、本実施形態の説明において、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
【0051】
図12は、軸方向から見たときの第2実施形態のひげ玉50Aの平面図である。この図に示すように、本実施形態のひげ玉50Aは、上記第1実施形態のひげ玉50が備えていた治具挿入部60に換えて、てん真30と本体部51との隙間部位からなる治具挿入部70を備えている。これらの治具挿入部70は、
図12に示すように、本体部51の第一方向F(
図12における左右方向)に沿って配列されており、中心軸Oを中心として、180°変位した位置に設けられている。
【0052】
図13は、
図12のC−C線に沿った断面図である。また、
図14は、ひげ玉回し治具300が治具挿入部70に挿入された状態を示す断面図である。治具挿入部70は、
図14に示すように、ひげ玉回し治具300の先端部301が挿入される部位であり、当該先端部301の形状に対応した形状を有している。具体的には、本実施形態において用いられるひげ玉回し治具300の先端部301が
図12に示すように先端に向けて漸次窄みかつ断面が略三日月形状とを有しており、治具挿入部70は、先端部301と同様に、
図13の下側(地板102(
図4参照)側)に向かうに連れて漸次窄まりかつ断面が略三日月形状とされている。
【0053】
治具挿入部70を形成する本体部51の内周面からなる壁面71は、中心軸Oに対して傾斜されており、
図13の下側(地板102(
図4参照)側)に向かうに連れて中心軸Oに近づく傾斜面とされている。このように傾斜された壁面71は、ひげ玉回し治具300の先端部301を治具挿入部70に差し込むときに、当該先端部301が治具挿入部70内に円滑に挿入されるよう、先端部301を案内する。すなわち、本実施形態においては、壁面71は、中心軸Oに対して傾斜する傾斜壁面とされており、本発明の治具案内部として機能する。
【0054】
このような本実施形態のひげ玉50Aによれば、ひげ玉50Aに、ひげ玉回し治具300の形状に合わせた治具挿入部70が設けられている。このため、当該治具挿入部70にひげ玉回し治具300を差し込んで、てん真30に対してひげ玉50Aを回転させることができる。したがって、ひげ玉50Aの外周面をピンセット等で挟んでひげ玉50Aを回転させる必要がなくなる。さらに、治具挿入部70がひげ玉回し治具300の形状に対応した形状を有していることから、安定してひげ玉50Aを回転させることができる。よって、本実施形態のひげ玉50Aによれば、ひげぜんまい40の形状を崩すことなく、てん真30に対するひげ玉50Aの位置調整を正確かつ確実に行うことが可能となる。
【0055】
また、本実施形態のひげ玉50Aによれば、治具挿入部70が、傾斜壁面からなる治具案内部として機能する壁面71を有している。このため、ひげ玉回し治具300を治具挿入部70に差し込むときにひげ玉回し治具300を円滑に治具挿入部70に挿入することができる。
【0056】
また、本実施形態のひげ玉50Aによれば、治具挿入部70が、中心軸Oを中心として180°変位した位置に各々設けられている。ひげ玉50Aの軸がてん真30の軸と一致するように、てん真30に対してひげ玉50Aが外装固定されることから、各治具挿入部70にひげ玉回し治具300を挿入して回転させることで、ひげ玉50Aをてん真30の軸(中心軸O)を中心として安定して回転させることが可能となる。
【0057】
また、本実施形態のひげ玉50Aによれば、支持部55を貫通する治具挿入部60を備えていないため、当該治具挿入部60を設ける場合と比較して、ひげ玉50Aの耐性を高めることができる。
【0058】
(第2実施形態の変形例)
図15は、第2実施形態の第1変形例におけるひげ玉50Aの
図13と同位置での断面図である。また、
図16は、ひげ玉回し治具300が挿入された状態の断面図である。
図16に示すように、本変形例では、ひげ玉回し治具300が、先端部301の外側面302が中央が凹むように湾曲された形状を有している。また、本変形例のひげ玉50Aは、上述の治具挿入部70に換えて、ひげ玉回し治具300の先端部301の外側面302の形状に合わせた湾曲面73を有する治具挿入部72を備えている。このような変形例においても、同様に、ひげぜんまい40の形状を崩すことなく、てん真30に対するひげ玉50Aの位置調整を正確かつ確実に行うことが可能となる。
【0059】
図17(a)は、第2実施形態の第2変形例における、
図13と同位置でのひげ玉50Aの断面図であり、ひげ玉回し治具300が挿入された状態を示している。この図に示すように、本変形例では、治具挿入部70の紙面上側(てんぷ受104(
図4参照)側)の縁部に面取り部74が形成されている。
図17(b)は、第2実施形態の第3変形例における、
図13と同位置でのひげ玉50Aの断面図であり、ひげ玉回し治具300が挿入された状態を示している。この図に示すように、本変形例では、ひげ玉回し治具300の先端部301の外側縁部に面取り部303が形成されている。
これらの第2変形例及び第3変形例によれば、ひげ玉回し治具300の先端部301を治具挿入部70に挿入するときに、面取り部74あるいは面取り部303によって、より円滑にひげ玉回し治具300の先端部301を治具挿入部70に挿入することができる。
なお、第2変形例の構成と第3変形例の構成とを組み合わせ、面取り部74あるいは面取り部303の両方を備えるようにしても良い。
【0060】
(第3実施形態のひげ玉)
続いて、本発明の第3実施形態のひげ玉50Bについて説明する。なお、本実施形態の説明において、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
【0061】
図18は、軸方向から見たときの第3実施形態のひげ玉50Bの平面図である。この図に示すように、本実施形態のひげ玉50Bは、上記第1実施形態のひげ玉50が2つ備えていた支持部55を1つのみ有している。また、楕円環状の本体部51に換えて、円環状の本体部59を備え、当該本体部59の支持部55と反対側には、分断部59aが設けられている。すなわち、本実施形態のひげ玉50Bは、環状でかつ中心軸Oを中心とする周方向の一箇所に分断部59aを有する本体部59を有している。
【0062】
さらに、本実施形態のひげ玉50Bは、上記第1実施形態のひげ玉50が備えていた治具挿入部60に換えて、分断部59aに重なる位置に設けられる治具挿入部80を1つのみ備えている。
図19は、
図18のD−D線に沿った断面図である。また、
図20は、ひげ玉回し治具400が治具挿入部80に挿入された状態を示す断面図である。治具挿入部80は、
図20に示すように、ひげ玉回し治具400の先端部401が挿入される部位であり、当該先端部401の形状に対応した形状を有している。具体的には、本実施形態において用いられるひげ玉回し治具400の先端部401が先端に向けて漸次窄む形状を有しており、治具挿入部80は、
図19及び
図20に示すように、先端部401と同様に、
図19の下側(地板102(
図4参照)側)に向かうに連れて漸次窄まる形状とされている。
【0063】
治具挿入部80を形成する壁面81は、中心軸Oに対して傾斜されており、
図19の下側(地板102(
図4参照)側)に向かうに連れて治具挿入部80の中心に近づく傾斜面とされている。このように傾斜された壁面81は、ひげ玉回し治具400の先端部401を治具挿入部80に差し込むときに、当該先端部401が治具挿入部80内に円滑に挿入されるよう、先端部401を案内する。すなわち、本実施形態においては、壁面81は、中心軸Oに対して傾斜する傾斜壁面とされており、本発明の治具案内部として機能する。
【0064】
このような本実施形態のひげ玉50Bによれば、ひげ玉50Bに、ひげ玉回し治具400の形状に合わせた治具挿入部80が設けられている。このため、当該治具挿入部80にひげ玉回し治具400を差し込んで、てん真30に対してひげ玉50Bを回転させることができる。したがって、ひげ玉50Bの外周面をピンセット等で挟んでひげ玉50Bを回転させる必要がなくなる。さらに、治具挿入部80がひげ玉回し治具400の形状に対応した形状を有していることから、安定してひげ玉50Bを回転させることができる。よって、本実施形態のひげ玉50Bによれば、ひげぜんまい40の形状を崩すことなく、てん真30に対するひげ玉50Bの位置調整を正確かつ確実に行うことが可能となる。
【0065】
また、本実施形態のひげ玉50Bによれば、治具挿入部80が、傾斜壁面からなる治具案内部として機能する壁面81を有している。このため、ひげ玉回し治具400を治具挿入部80に差し込むときにひげ玉回し治具400を円滑に治具挿入部80に挿入することができる。
【0066】
また、本実施形態のひげ玉50Bによれば、治具挿入部80が一箇所にのみ設けられているが、この治具挿入部80にひげ玉回し治具400を挿入して軸周りに移動させることで、分断部59aを境として本体部59が僅かに開き、容易にひげ玉50Bをてん真30に対して回転させることが可能となる。
【0067】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0068】
例えば、上記実施形態における1つのひげ玉に対して設けられる治具挿入部の数は一例であり、さらに多数の治具挿入部を1つのひげ玉に対して設けても良い。また、上記実施形態における治具挿入部を形成位置についても一例であり、例えば中心軸Oの周方向に180°ピッチではない位置に治具挿入部を設けても良い。