(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電磁弁は、ノーマルオープンタイプのものが流すことができる単位時間当たりの流体の総流量が、ノーマルクローズタイプのものが流すことができる単位時間当たりの流体の総流量より小さいことを特徴とする請求項1に記載の懸架装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、実施の形態に係る自動二輪車1の概略構成を示す図である。
自動二輪車1は、本実施の形態では車両の一例である。自動二輪車1は、
図1に示すように、車体フレーム11と、この車体フレーム11の前端部に取り付けられているヘッドパイプ12と、このヘッドパイプ12に設けられた2つのフロントフォーク13と、この2つのフロントフォーク13の下端に取り付けられた前輪14と、を有している。2つのフロントフォーク13は、前輪14の左側と右側にそれぞれ1つずつ配置されている。
図1では、右側に配置されたフロントフォーク13のみを示している。このフロントフォーク13の具体的構成については後で詳述する。
また、自動二輪車1は、フロントフォーク13の上部に取り付けられたハンドル15と、車体フレーム11の前上部に取り付けられた燃料タンク16と、この燃料タンク16の下方に配置されたエンジン17および変速機18と、を有している。
【0011】
また、自動二輪車1は、車体フレーム11の後上部に取り付けられたシート19と、車体フレーム11の下部にスイング自在に取り付けられたスイングアーム20と、このスイングアーム20の後端に取り付けられた後輪21と、スイングアーム20の後部(後輪21)と車体フレーム11の後部との間に取り付けられた1つ又は2つのリヤサスペンション22と、を有している。1つ又は2つのリヤサスペンション22は、後輪21の左側と右側にそれぞれ1つずつ配置されている。
図1では、右側に配置されたリヤサスペンション22のみを示している。このリヤサスペンション22の具体的構成については後で詳述する。
【0012】
また、自動二輪車1は、ヘッドパイプ12の前方に配置されたヘッドランプ23と、前輪14の上部を覆うようにフロントフォーク13に取り付けられたフロントフェンダ24と、シート19の後方に配置されたテールランプ25と、このテールランプ25の下方に後輪21の上部を覆うように取り付けられたリヤフェンダ26と、を有している。また、自動二輪車1は、前輪14の回転を停止するブレーキ27を有している。
【0013】
また、自動二輪車1は、前輪14の回転角度を検出する前輪回転検出センサ31と、後輪21の回転角度を検出する後輪回転検出センサ32と、を有している。
また、自動二輪車1は、リヤサスペンション22の後述する第1後輪側電磁弁170A,第2後輪側電磁弁170Bの開度を制御する制御手段の一例としての制御装置50を備えている。制御装置50は、後述する第1後輪側電磁弁170A,第2後輪側電磁弁170Bの開度を制御することで自動二輪車1の車高を制御する。制御装置50には、上述した前輪回転検出センサ31、後輪回転検出センサ32などからの出力信号が入力される。なお以後、第1後輪側電磁弁170Aと第2後輪側電磁弁170Bとをまとめて「後輪側電磁弁170A,170B」と言うことがある。
【0014】
詳しくは後述するが、リヤサスペンション22および制御装置50は、車高調整装置として把握することができる。
【0015】
次に、リヤサスペンション22について詳述する。
図2は、リヤサスペンション22の断面図である。
リヤサスペンション22は、自動二輪車1の車両本体の一例としての車体フレーム11と後輪21との間に取り付けられている。そして、リヤサスペンション22は、車体フレーム11と後輪21との間に配され、車体フレーム11を支持しつつ衝撃を吸収する弾性部材の一例としての後輪側懸架スプリング110と、後輪側懸架スプリング110の振動を減衰する後輪側ダンパ120と、を備えている。また、リヤサスペンション22は、後輪側懸架スプリング110のバネ力を調整することで車体フレーム11と後輪21との相対的な位置である後輪側相対位置を変更可能な後輪側相対位置変更装置140と、この後輪側相対位置変更装置140に液体を供給する後輪側液体供給装置160と、を備えている。また、リヤサスペンション22は、このリヤサスペンション22を車体フレーム11に取り付けるための車体側取付部材184と、リヤサスペンション22を後輪21に取り付けるための車軸側取付部材185と、車軸側取付部材185に取り付けられて後輪側懸架スプリング110における中心線方向の一方の端部(
図2においては下部)を支持するばね受け190と、を備えている。リヤサスペンション22は、車体フレーム11と車輪の一例としての後輪21との相対的な位置を変更することで、車体フレーム11の高さである車高を調整する懸架装置および変更手段の一例として機能する。
【0016】
後輪側ダンパ120は、
図2に示すように、薄肉円筒状の外シリンダ121と、外シリンダ121内に収容される薄肉円筒状の内シリンダ122と、円筒状の外シリンダ121の円筒の中心線方向(
図2では上下方向)の一方の端部(
図2では下部)を塞ぐ底蓋123と、内シリンダ122の中心線方向の他方の端部(
図2では上部)を塞ぐ上蓋124と、を有するシリンダ125を備えている。以下では、外シリンダ121の円筒の中心線方向を、単に「中心線方向」と称す。
【0017】
また、後輪側ダンパ120は、中心線方向に移動可能に内シリンダ122内に挿入されたピストン126と、中心線方向に延びるとともに中心線方向の他方の端部(
図2では上端部)でピストン126を支持するピストンロッド127と、を備えている。ピストン126は、内シリンダ122の内周面に接触し、シリンダ125内の液体(本実施の形態においてはオイル)が封入された空間を、ピストン126よりも中心線方向の一方の端部側の第1油室131と、ピストン126よりも中心線方向の他方の端部側の第2油室132とに区分する。ピストンロッド127は、円筒状の部材であり、その内部に後述するパイプ161が挿入されている。なお、本実施の形態においてはオイルが作動油の一例として機能する。
【0018】
また、後輪側ダンパ120は、ピストンロッド127における中心線方向の他方の端部側に配置された第1減衰力発生装置128と、内シリンダ122における中心線方向の他方の端部側に配置された第2減衰力発生装置129とを備えている。第1減衰力発生装置128および第2減衰力発生装置129は、後輪側懸架スプリング110による路面からの衝撃力の吸収に伴うシリンダ125とピストンロッド127との伸縮振動を減衰する。第1減衰力発生装置128は、第1油室131と第2油室132との間の連絡路として機能するように配置されており、第2減衰力発生装置129は、第2油室132と後輪側相対位置変更装置140の後述するジャッキ室142との間の連絡路として機能するように配置されている。
【0019】
後輪側液体供給装置160は、シリンダ125に対するピストンロッド127の伸縮動によりポンピング動作して後輪側相対位置変更装置140の後述するジャッキ室142内に液体を供給する装置である。
後輪側液体供給装置160は、後輪側ダンパ120の上蓋124に中心線方向に延びるように固定された円筒状のパイプ161を有している。パイプ161は、円筒状のピストンロッド127の内部であるポンプ室162内に同軸的に挿入されている。
【0020】
また、後輪側液体供給装置160は、シリンダ125およびパイプ161に進入する方向のピストンロッド127の移動により加圧されたポンプ室162内の液体を後述するジャッキ室142側へ吐出させる吐出用チェック弁163と、シリンダ125およびパイプ161から退出する方向のピストンロッド127の移動により負圧になるポンプ室162にシリンダ125内の液体を吸い込む吸込用チェック弁164とを有する。
【0021】
図3(a)および
図3(b)は、後輪側液体供給装置160の作用を説明するための図である。また
図4は、このときに液体が流通する経路について説明した概念図である。
以上のように構成された後輪側液体供給装置160は、自動二輪車1が走行してリヤサスペンション22が路面の凹凸により力を受けると、ピストンロッド127がシリンダ125およびパイプ161に進退する伸縮動によりポンピング動作する。このポンピング動作により、ポンプ室162が加圧されると、ポンプ室162内の液体が吐出用チェック弁163を開いて後輪側相対位置変更装置140のジャッキ室142側へ吐出される(
図3(a)参照)。このときの液体の流れは、
図4では、矢印C1で示したものとなる。一方、ポンプ室162が負圧になると、シリンダ125の第2油室132内の液体が吸込用チェック弁164を開いてポンプ室162に吸い込まれる(
図3(b)参照)。このときの液体の流れは、
図4では、矢印C2で示したものとなる。
【0022】
後輪側相対位置変更装置140は、後輪側ダンパ120のシリンダ125の外周を覆うように配置されて後輪側懸架スプリング110における中心線方向の他方の端部(
図3では上部)を支持する支持部材141と、シリンダ125における中心線方向の他方の端部側(
図3では上側)の外周を覆うように配置されて支持部材141とともにジャッキ室142を形成する油圧ジャッキ143とを有している。ジャッキ室142内にシリンダ125内の液体が充填されたり、ジャッキ室142内から液体が排出されたりすることで、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して中心線方向に移動する。そして、油圧ジャッキ143には、上部に車体側取付部材184が取り付けられており、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して中心線方向に移動することで後輪側懸架スプリング110のバネ力が変わり、その結果、後輪21に対するシート19の相対的な位置が変わる。このことは、支持部材141は、後輪側懸架スプリング110を支持しつつ移動し、後輪側懸架スプリング110の長さを変更することで車体フレーム11と後輪21との相対的な位置を変更すると言い換えることもできる。
【0023】
また、後輪側相対位置変更装置140は、ジャッキ室142と油圧ジャッキ143に形成された液体溜室143aとの間の流体の流通経路上に設けられて、ジャッキ室142に供給された液体をジャッキ室142に溜めるように閉弁するとともに、ジャッキ室142に供給された液体を、油圧ジャッキ143に形成された液体溜室143aに排出するように開弁する電磁弁(ソレノイドバルブ)である第1後輪側電磁弁170A,第2後輪側電磁弁170Bを有している。第1後輪側電磁弁170Aと第2後輪側電磁弁170Bとは、流体の流通経路上で並列に配される。なお、液体溜室143aに排出された液体は、
図4の矢印C3で示すようにシリンダ125内の第1油室131および/または第2油室132に戻される。
【0024】
図5(a)および
図5(b)は、後輪側相対位置変更装置140による車高調整を説明するための図である。
後輪側電磁弁170A,170Bが共に全開状態から少しでも閉じた状態のときに、後輪側液体供給装置160によりジャッキ室142内に液体が供給されるとジャッキ室142内に液体が充填され、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して中心線方向の一方の端部側(
図5(a)では下側)に移動し、後輪側懸架スプリング110のバネ長が短くなる(
図5(a)参照)。このときの液体の流れは、
図4では、主に矢印C1で示したものとなる。
他方、後輪側電磁弁170A,170Bの何れかが全開になるとジャッキ室142内の液体は液体溜室143aに排出され、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して中心線方向の他方の端部側(
図5(b)では上側)に移動し、後輪側懸架スプリング110のバネ長が長くなる(
図5(b)参照)。なお
図5(b)では、第2後輪側電磁弁170Bが全開になった場合を示している。またこのときの液体の流れは、
図4では、矢印C4で示したものとなる。
【0025】
支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動することで後輪側懸架スプリング110のバネ長が短くなると、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動する前と比べて後輪側懸架スプリング110が支持部材141を押すバネ力が大きくなる。その結果、車体フレーム11から後輪21側へ力が作用したとしても両者の相対位置を変化させない初期荷重が切り替わる。かかる場合、車体フレーム11(シート19)側から中心線方向の一方の端部側(
図5(a)および
図5(b)では下側)に同じ力が作用した場合には、リヤサスペンション22の沈み込み量(車体側取付部材184と車軸側取付部材185との間の距離の変化)が小さくなる。それゆえ、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動することで後輪側懸架スプリング110のバネ長が短くなると、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動する前と比べて、シート19の高さが上昇する(車高が高くなる)。つまり、後輪側電磁弁170A,170Bの開度が小さくなることで車高が高くなる。
【0026】
他方、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動することで後輪側懸架スプリング110のバネ長が長くなると、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動する前と比べて後輪側懸架スプリング110が支持部材141を押すバネ力が小さくなる。かかる場合、車体フレーム11(シート19)側から中心線方向の一方の端部側(
図5(a)および
図5(b)では下側)に同じ力が作用した場合には、リヤサスペンション22の沈み込み量(車体側取付部材184と車軸側取付部材185との間の距離の変化)が大きくなる。それゆえ、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動することで後輪側懸架スプリング110のバネ長が長くなると、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動する前と比べて、シート19の高さが下降する(車高が低くなる)。つまり、後輪側電磁弁170A,170Bの開度が大きくなるに応じて車高が低くなる。このように後輪側電磁弁170A,170Bは、流体の流通経路上に設けられて開閉を行ない、開閉に応じて流体の圧力を変化させることで支持部材141を移動させる。
なお、後輪側電磁弁170A,170Bは、制御装置50によりその開度が制御される。
また、後輪側電磁弁170A,170Bの何れかが開いたときに、ジャッキ室142に供給された液体を排出する先は、シリンダ125内の第1油室131および/または第2油室132であってもよい。
【0027】
また、
図2に示すように、シリンダ125の外シリンダ121には、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して中心線方向の一方の端部側(
図2では下側)に予め定められた限界位置まで移動したときに、ジャッキ室142内の液体をシリンダ125内まで戻す戻し路121aが形成されている。
図6は、車高が維持されるメカニズムを示す図である。
戻し路121aにより、後輪側電磁弁170A,170Bが共に全閉しているときにジャッキ室142内に液体が供給され続けても、供給された液体がシリンダ125内に戻されるので油圧ジャッキ143に対する支持部材141の位置、ひいてはシート19の高さ(車高)が維持される。
【0028】
なお、以下では、後輪側電磁弁170A,170Bの何れかが全開となり、支持部材141の油圧ジャッキ143に対する移動量が最小(零)であるときのリヤサスペンション22の状態を最小状態、後輪側電磁弁170A,170Bが共に全閉となり、支持部材141の油圧ジャッキ143に対する移動量が最大となったときのリヤサスペンション22の状態を最大状態と称す。
【0029】
また、リヤサスペンション22は、後輪側相対位置検出部195(
図8参照)を有している。後輪側相対位置検出部195としては、油圧ジャッキ143に対する支持部材141の中心線方向への移動量、言い換えれば車体側取付部材184に対する支持部材141の中心線方向への移動量を検出する物であることを例示することができる。具体的には、支持部材141の外周面にコイルを巻くとともに、油圧ジャッキ143を磁性体とし、油圧ジャッキ143に対する支持部材141の中心線方向への移動に応じて変化するコイルのインピーダンスに基づいて支持部材141の移動量を検出する物であることを例示することができる。
【0030】
次に、後輪側相対位置変更装置140の後輪側電磁弁170A,170Bの概略構成について説明する。
図7(a)は、第1後輪側電磁弁170Aの概略構成を示す図であり、
図7(b)は、第2後輪側電磁弁170Bの概略構成を示す図である。
【0031】
第1後輪側電磁弁170Aは、いわゆるノーマルクローズタイプの電磁弁であり、電力が供給されない状態で全閉となる。第1後輪側電磁弁170Aは、
図7(a)に示すように、コイル171を巻いたボビン172と、ボビン172の中空部172aに固定された棒状の固定鉄心173と、コイル171とボビン172と固定鉄心173を支持するホルダ174と、固定鉄心173の先端(端面)に対応して配置され、固定鉄心173に吸引される略円板状の可動鉄心175と、を備えている。また、第1後輪側電磁弁170Aは、可動鉄心175の先端中央に固定された弁体176と、ホルダ174と組み合わされるボディ177と、ボディ177に形成され、弁体176が配置される弁室178と、ボディ177に形成された開口部を覆うとともにボディ177と協働して弁室178を形成する覆い部材179と、弁体176と覆い部材179との間に配置されたコイルスプリング180と、を備えている。また、第1後輪側電磁弁170Aは、ボディ177に形成され、弁体176に対応して弁室178に配置された弁座181と、ボディ177に形成され、ジャッキ室142(
図6参照)から弁室178に流体を導入する導入流路182と、ボディ177に形成され、弁室178から弁座181を経由して液体溜室143a(
図6参照)の方へ流体を導出する導出流路183と、を備えている。
【0032】
このように構成された第1後輪側電磁弁170Aは、コイル171に通電されない非通電時には、コイルスプリング180によって可動鉄心175が図中上方へ付勢されるので、可動鉄心175の先端(端面)に固定されている弁体176が弁座181に当接する。このため、第1後輪側電磁弁170Aは、導入流路182と導出流路183との間が連通せず、弁閉状態となる。一方、第1後輪側電磁弁170Aは、コイル171に通電される通電時には、コイル171が通電により励磁されるときの固定鉄心173の吸引力とコイルスプリング180の付勢力との釣り合いにより可動鉄心175が下方に変位する。これにより導入流路182と導出流路183との間が連通し、弁開状態となる。第1後輪側電磁弁170Aは、弁座181に対する弁体176の位置、すなわち弁の開度が調整されるようになっている。この弁の開度は、コイル171に供給される電力(電流・電圧)を変えることにより調整される。
【0033】
一方、第2後輪側電磁弁170Bは、
図7(b)に示すように、
図7(a)の第1後輪側電磁弁170Aとほぼ同様の構成を採る。
【0034】
ただし第2後輪側電磁弁170Bは、いわゆるノーマルオープンタイプの電磁弁であり、電力が供給されない状態で全開となる。よって第2後輪側電磁弁170Bは、コイル171に通電されない非通電時には、コイルスプリング180によって可動鉄心175が図中下方へ付勢されるので、可動鉄心175の先端(端面)に固定されている弁体176が弁座181に当接しない。このため、第2後輪側電磁弁170Bは、導入流路182と導出流路183との間が連通され、弁開状態となる。一方、第2後輪側電磁弁170Bは、コイル171に通電される通電時には、コイル171が通電により励磁されるときの固定鉄心173の吸引力とコイルスプリング180の付勢力との釣り合いにより可動鉄心175が変位する。第2後輪側電磁弁170Bは、弁座181に対する弁体176の位置、すなわち弁の開度が調整されるようになっている。この弁の開度は、コイル171に供給される電力(電流・電圧)を変えることにより調整される。
【0035】
次に、制御装置50について説明する。
図8は、制御装置50のブロック図である。
制御装置50は、CPUと、CPUにて実行されるプログラムや各種データ等が記憶されたROMと、CPUの作業用メモリ等として用いられるRAMと、不揮発性メモリであるEEPROMと、を備えている。制御装置50には、上述した前輪回転検出センサ31、後輪回転検出センサ32および後輪側相対位置検出部195などからの出力信号が入力される。
【0036】
制御装置50は、前輪回転検出センサ31からの出力信号を基に前輪14の回転速度を演算する前輪回転速度演算部51と、後輪回転検出センサ32からの出力信号を基に後輪21の回転速度を演算する後輪回転速度演算部52と、を備えている。これら前輪回転速度演算部51、後輪回転速度演算部52は、それぞれ、センサからの出力信号であるパルス信号を基に回転角度を把握し、それを経過時間で微分することで回転速度を演算する。
【0037】
制御装置50は、後輪側相対位置検出部195からの出力信号を基に後輪側相対位置変更装置140の支持部材141の油圧ジャッキ143に対する移動量である後輪側移動量Lrを把握する後輪側移動量把握部54を備えている。後輪側移動量把握部54は、例えば、予めROMに記憶された、コイルのインピーダンスと、後輪側移動量Lrとの相関関係に基づいて、それぞれ前輪側移動量Lf、後輪側移動量Lrを把握することができる。
【0038】
また、制御装置50は、前輪回転速度演算部51が演算した前輪14の回転速度および/または後輪回転速度演算部52が演算した後輪21の回転速度を基に自動二輪車1の移動速度である車速Vcを把握する車速把握部56を備えている。車速把握部56は、前輪回転速度Rfまたは後輪回転速度Rrを用いて前輪14または後輪21の移動速度を演算することにより車速Vcを把握する。前輪14の移動速度は、前輪回転速度Rfと前輪14のタイヤの外径とを用いて演算することができ、後輪21の移動速度は、後輪回転速度Rrと後輪21のタイヤの外径とを用いて演算することができる。そして、自動二輪車1が通常の状態で走行している場合には、車速Vcは、前輪14の移動速度および/または後輪21の移動速度と等しいと解することができる。また、車速把握部56は、前輪回転速度Rfと後輪回転速度Rrとの平均値を用いて前輪14と後輪21の平均の移動速度を演算することにより車速Vcを把握してもよい。
【0039】
また、制御装置50は、車速把握部56が把握した車速Vcに基づいて、後輪側相対位置変更装置140の後輪側電磁弁170A,170Bの開度を制御する電磁弁制御部57を有している。この電磁弁制御部57については、後で詳述する。
【0040】
次に、制御装置50の電磁弁制御部57について詳しく説明する。
図9は、本実施の形態に係る電磁弁制御部57のブロック図である。
電磁弁制御部57は、後輪側移動量Lrの目標移動量を決定する目標移動量決定部570を有している。また、電磁弁制御部57は、後輪側相対位置変更装置140の後輪側電磁弁170A,170Bに供給する目標電流を決定する目標電流決定部510と、目標電流決定部510が決定した目標電流に基づいてフィードバック制御などを行う制御部520とを有している。
【0041】
目標移動量決定部570は、車速把握部56が把握した車速Vcおよび自動二輪車1に設けられた後述する車高調整スイッチ34がどの位置に操作されているかに基づいて目標移動量を決定する。
図10は、車高調整スイッチ34の外観図である。
車高調整スイッチ34は、
図10に示すように、所謂ダイヤル式のスイッチであり、ユーザがつまみを回転させることにより、「低」と、「中」と、「高」とを選択できるように構成されている。そして、車高調整スイッチ34は、例えばスピードメータの近傍に設けられている。
【0042】
図11は、車速Vcと目標移動量との相関関係を示す図である。
目標移動量決定部570は、自動二輪車1が走行開始後、車速把握部56が把握した車速Vcが予め定められた上昇車速Vuよりも小さいときには目標移動量を零に決定し、車速Vcが上昇車速Vuより小さい状態から上昇車速Vu以上となった場合には、目標移動量を、車高調整スイッチ34の操作位置に応じて予め定められた値に決定する。より具体的には、目標移動量決定部570は、
図11に示すように、車速Vcが上昇車速Vuより小さい状態から上昇車速Vu以上となった場合には、目標移動量を、車高調整スイッチ34の操作位置に応じて予め定められた所定目標移動量Lr0に決定する。以降、車速把握部56が把握した車速Vcが上昇車速Vu以上である間は、目標移動量決定部570は、目標移動量を、所定目標移動量Lr0に決定する。車高調整スイッチ34の操作位置と、この操作位置に応じた所定目標移動量Lr0との関係は、予めROMに記憶しておく。後輪側移動量Lrとに応じて自動二輪車1の車高が定まることから、車高調整スイッチ34の操作位置に応じて自動二輪車1の車高の目標値である目標車高を定め、この目標車高に応じた所定目標移動量Lr0を予め定め、ROMに記憶しておくことを例示することができる。
【0043】
他方、目標移動量決定部570は、自動二輪車1が上昇車速Vu以上で走行している状態から予め定められた下降車速Vd以下となった場合には目標移動量を零に決定する。つまり、目標移動量決定部570は、目標移動量を零に決定する。なお、上昇車速Vuは10km/h、下降車速Vdは8km/hであることを例示することができる。
また、目標移動量決定部570は、車速把握部56が把握した車速Vcが下降車速Vdよりも大きい場合であっても、急ブレーキなどで自動二輪車1が急減速した場合には、目標移動量を零に決定する。自動二輪車1が急減速したかどうかは、車速把握部56が把握した車速Vcの単位時間当たりの減少量が予め定められた値以下であるか否かで把握することができる。
【0044】
目標電流決定部510は、目標移動量決定部570が決定した目標移動量に基づいて後輪側電磁弁170A,170Bの目標電流である目標電流を決定する。
目標電流決定部510は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、目標移動量と目標電流との対応を示すマップに、目標移動量決定部570が決定した目標移動量を代入することにより目標電流を決定する。
【0045】
ここで目標電流決定部510は、ノーマルクローズタイプの電磁弁である第1後輪側電磁弁170Aに対しては、目標移動量が零の場合には、目標電流を予め定められた最大電流に決定する。つまりこの場合、第1後輪側電磁弁170Aは、全開の状態となる。また、目標電流決定部510は、目標移動量が零であり、目標電流を最大電流に決定している状態から、目標電流決定部510が決定した目標移動量が零以外の値に変わった場合には、言い換えれば、車高を高めていない状態から高め始める場合には、一定時間、目標電流を零に決定する。そして、目標電流決定部510は、一定時間経過後に、目標移動量決定部570が決定した目標移動量に応じた、目標電流に決定する。このとき第1後輪側電磁弁170Aは、目標移動量決定部570が決定した目標移動量に応じた開度となる。
【0046】
一方、目標電流決定部510は、ノーマルオープンタイプの電磁弁である第2後輪側電磁弁170Bに対しては、目標移動量が零の場合には、目標電流を零に決定する。つまりこの場合、第2後輪側電磁弁170Bは、全開の状態となる。また、目標電流決定部510は、目標移動量が零であり、目標電流を零に決定している状態から、目標電流決定部510が決定した目標移動量が零以外の値に変わった場合には、言い換えれば、車高を高めていない状態から高め始める場合には、一定時間、目標電流を予め定められた最大電流に決定する。そして、目標電流決定部510は、一定時間経過後に、目標移動量決定部570が決定した目標移動量に応じた、目標電流に決定する。このとき第2後輪側電磁弁170Bは、目標移動量決定部570が決定した目標移動量に応じた開度となる。
【0047】
また、目標電流決定部510は、目標移動量決定部570が決定した目標移動量に基づいて目標電流を決定する際、一定期間経過後は、目標移動量決定部570が決定した目標移動量と、後輪側移動量把握部54が把握した実際の後輪側移動量Lrとの偏差に基づいてフィードバック制御を行い、目標電流を決定してもよい。
【0048】
制御部520は、後輪側電磁弁170A,170Bの作動を制御する作動制御部540と、後輪側電磁弁170A,170Bを駆動させる電磁弁駆動部543と、後輪側電磁弁170A,170Bに実際に流れる実電流を検出する検出部544とを有している。
【0049】
作動制御部540は、目標電流決定部510が決定した目標電流と、検出部544が検出した実際の電流(実電流)との偏差に基づいてフィードバック制御を行うフィードバック(F/B)制御部541と、後輪側電磁弁170A,170BをPWM制御するPWM制御部542とを有している。
【0050】
フィードバック制御部541は、目標電流と、検出部544が検出した実電流との偏差を求め、その偏差がゼロとなるようにフィードバック処理を行う。フィードバック制御部541は、例えば、目標電流と実電流との偏差に対して、比例要素で比例処理し、積分要素で積分処理し、加算演算部でこれらの値を加算するものであることを例示することができる。あるいは、フィードバック制御部541は、例えば、目標電流と実電流との偏差に対して、比例要素で比例処理し、積分要素で積分処理し、微分要素で微分処理し、加算演算部でこれらの値を加算するものであることを例示することができる。
【0051】
PWM制御部542は、デューティ比を変え、後輪側電磁弁170A,170Bの開度(後輪側電磁弁170A,170Bのコイルに印加される電圧)をPWM制御する。PWM制御が行われると、後輪側電磁弁170A,170Bのコイル171に印加される電圧がデューティ比に応じたパルス状に印加され、後輪側電磁弁170A,170Bのコイル171を流れる電流がデューティ比に比例して増減する。そして、PWM制御部542は、例えば、目標電流が零である場合にはデューティ比を零に設定し、目標電流が上述した最大電流である場合にはデューティ比を100%に設定することを例示することができる。
【0052】
電磁弁駆動部543は、例えば、電源の正極側ラインと後輪側電磁弁170A,170Bのコイルとの間に接続されたトランジスタを備えている。そして、このトランジスタのゲートを駆動してこのトランジスタをスイッチング動作させることにより、後輪側電磁弁170A,170Bの駆動を制御する。
検出部544は、電磁弁駆動部543に接続されたシャント抵抗の両端に生じる電圧から後輪側電磁弁170A,170Bに流れる実電流の値を検出する。
【0053】
<第1の実施形態>
次に後輪側電磁弁170A,170Bの具体的な動作について説明を行なう。ここでは、まず第1の実施形態について説明を行なう。
【0054】
図12は、第1の実施形態における後輪側電磁弁170A,170Bの具体的な動作について示した表である。
図12では、(I)車高を高くする場合(車高上昇)、(II)車高を低くする場合(車高降下)、および、(III)後輪側電磁弁170A,170Bに対する電力供給が停止した場合、の3通りについて、後輪側電磁弁170A,170Bの動作を示している。なお後輪側電磁弁170A,170Bに対する電力の供給が停止した場合は、例えば、故障等による電源喪失の場合や自動二輪車1を駐車するときにイグニションスイッチをOFFにした場合などが該当する。
【0055】
まず(I)車高を高くする場合(車高上昇)では、ノーマルクローズタイプの電磁弁である第1後輪側電磁弁170A(「第1」で図示)については、例えば、後輪側目標電流を零とする。またノーマルオープンタイプの電磁弁である第2後輪側電磁弁170B(「第2」で図示)については、例えば、目標電流を最大電流とする。これにより後輪側電磁弁170A,170Bは、双方とも全閉の状態となり、その結果、車高を高くすることができる。
【0056】
対して(II)車高を低くする場合(車高降下)では、ノーマルクローズタイプの電磁弁である第1後輪側電磁弁170Aについては、例えば、目標電流をPWM制御する。またノーマルオープンタイプの電磁弁である第2後輪側電磁弁170Bについても、例えば、目標電流をPWM制御する。これにより後輪側電磁弁170A,170Bは、設定された開度となり、その結果、車高は、制御された速度で低くなる。
【0057】
また(III)後輪側電磁弁170A,170Bに対する電力供給が停止した場合では、ノーマルクローズタイプの電磁弁である第1後輪側電磁弁170Aについては、全閉となり、ノーマルオープンタイプの電磁弁である第2後輪側電磁弁170Bについては、全開となる。その結果、第2後輪側電磁弁170Bが開いているため、車高は低くなる。
【0058】
従来、後輪側電磁弁は1つであり、かつノーマルオープンタイプの電磁弁であるのが一般的であったため、(III)後輪側電磁弁170A,170Bに対する電力供給が停止した場合では、全開となり、車高が高い状態から車高が低い状態に急激に変化することがあった。
対して本実施の形態では、後輪側電磁弁を複数(
図12の例では2つ)設け、ノーマルクローズタイプの電磁弁とノーマルオープンタイプの電磁弁との2種類を設置する。これにより、(III)後輪側電磁弁170A,170Bに対する電力供給が停止した場合であっても、ノーマルクローズタイプの電磁弁については、全閉となる。その結果、これらの電磁弁において、トータルでの単位時間当たりの流体の総流量が従来の場合と同じであったとき、本実施の形態では、従来の場合よりも流体の流量は小さくなる。そのため車高が高い状態から車高が低い状態に急激に降下することが生じにくく、よりゆっくりと降下するようになる。
【0059】
またこの観点からは、第2後輪側電磁弁170Bに流すことができる単位時間当たりの流体の流量よりも第1後輪側電磁弁170Aに流すことができる単位時間当たりの流体の流量を小さくすることが好ましい。つまりこのようにしたときは、(III)後輪側電磁弁170A,170Bに対する電力の供給が停止した場合でも、車高が高い状態から車高が低い状態になるときに、第2後輪側電磁弁170Bに流れる単位時間当たりの流体の流量は少なく、車高がよりゆっくりと降下する。このことは、電磁弁としてノーマルオープンタイプのものが流すことができる単位時間当たりの流体の総流量が、ノーマルクローズタイプのものが流すことができる単位時間当たりの流体の総流量より小さい、と言い換えることもできる。
【0060】
<第2の実施形態>
次に第2の実施形態について説明を行なう。
【0061】
図13は、第2の実施形態における後輪側電磁弁170A,170Bの具体的な動作について示した表である。
図13は、
図12と同様に、(I)車高を高くする場合(車高上昇)、(II)車高を低くする場合(車高降下)、および、(III)後輪側電磁弁170A,170Bに対する電力供給が停止した場合、の3通りについて、後輪側電磁弁170A,170Bの動作を示している。
【0062】
(I)車高を高くする場合(車高上昇)、および(III)後輪側電磁弁170A,170Bに対する電力供給が停止した場合、については、
図12の場合と同様である。
【0063】
また(II)車高を低くする場合(車高降下)では、ノーマルクローズタイプの電磁弁である第1後輪側電磁弁170Aについて、例えば、目標電流をPWM制御するのは、
図12の場合と同様である。対してノーマルオープンタイプの電磁弁である第2後輪側電磁弁170Bについては、例えば、目標電流を零とする。これにより第2後輪側電磁弁170Bは、全開となる。
【0064】
第2後輪側電磁弁170Bに流すことができる単位時間当たりの流体の流量よりも第1後輪側電磁弁170Aに流すことができる単位時間当たりの流体の流量が小さい場合、第2後輪側電磁弁170Bの開閉による影響は、第1後輪側電磁弁170Aよりも小さく、結果として、第2後輪側電磁弁170Bの開度はあまり問題にならないことが多い。よって本実施の形態では、第2後輪側電磁弁170Bを全開の状態としている。なお同様の観点から第2後輪側電磁弁170Bを全閉の状態としてもよい。
【0065】
なお上述した例では、リヤサスペンション22について説明を行なったが、フロントフォーク13にも適用可能である。
さらに上述した例では、車両として自動二輪車1を例示して説明を行なったが、これに限られるものではなく、四輪車、三輪車など他の車両の場合にも適用可能である。