特許第6234870号(P6234870)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6234870ポリアミドイミド樹脂および当該ポリアミドイミド樹脂の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6234870
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】ポリアミドイミド樹脂および当該ポリアミドイミド樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/14 20060101AFI20171113BHJP
【FI】
   C08G73/14
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-75763(P2014-75763)
(22)【出願日】2014年4月1日
(65)【公開番号】特開2015-196776(P2015-196776A)
(43)【公開日】2015年11月9日
【審査請求日】2016年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000126115
【氏名又は名称】エア・ウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(72)【発明者】
【氏名】恩田 真司
【審査官】 松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−195828(JP,A)
【文献】 特開2008−088403(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/007635(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0170701(US,A1)
【文献】 国際公開第2008/041426(WO,A1)
【文献】 特開2009−179697(JP,A)
【文献】 特開2008−239710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08G 18/00 − 18/87
C08G 71/00 − 71/04
DB名 CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イミド化物(A)およびジイソシアネート化合物(h)を含む反応原料(α)を反応させて得られるポリアミドイミド樹脂であって、
前記イミド化物(A)は、ジアミン化合物(B)と酸無水物(C)とを反応させて得られたものであり、
前記ジアミン化合物(B)は、下記一般式(1)に示されるポリオキシアルキレンジアミン(a)およびカルボキシル基含有ジアミン(b)を含み、
前記イミド化物(A)を得るための前記酸無水物(C)はシクロヘキサン‐1,2,4‐トリカルボン酸‐1,2‐無水物(e)を含み、
前記ポリアミドイミド樹脂はカルボキシル基を含有し、固形分酸価が30mgKOH/g以上であり、
前記ポリオキシアルキレンジアミン(a)のアミン当量は200g/eq以上1500g/eq以下であること
を特徴とするポリアミドイミド樹脂。
【化1】

ここで、上記式(1)中、a、b、cはそれぞれ独立して0以上の整数を表し、Rは炭素数1〜5のアルキル基を表し、R〜Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい炭素数1〜5のアルキル基を表し、RおよびRはそれぞれ水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表し、R〜RおよびR10〜R12はそれぞれ水素原子または同一でも異なっていてもよい炭素数1〜5のアルキル基を表す。
【請求項2】
前記酸無水物(C)は無水トリメリット酸(d)をさらに含む、請求項1に記載のポリアミドイミド樹脂。
【請求項3】
前記無水トリメリット酸(d)の使用量は、前記シクロヘキサン‐1,2,4‐トリカルボン酸‐1,2‐無水物(e)の使用量に対するモル比率が4以下となる量である、請求項2に記載のポリアミドイミド樹脂。
【請求項4】
前記ジアミン化合物(B)は、前記ポリオキシアルキレンジアミン(a)および前記カルボキシル基含有ジアミン(b)以外のジアミン(c)を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のポリアミドイミド樹脂。
【請求項5】
前記ジイソシアネート化合物(h)が脂肪族ジイソシアネートである請求項1から4のいずれか一項に記載のポリアミドイミド樹脂。
【請求項6】
前記反応原料(α)が酸無水物(β)をさらに含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のポリアミドイミド樹脂。
【請求項7】
前記酸無水物(β)は、無水トリメリット酸(f)およびシクロヘキサン‐1,2,4‐トリカルボン酸‐1,2‐無水物(g)の少なくとも一方を含む、請求項6に記載のポリアミドイミド樹脂。
【請求項8】
請求項1から5のいずれか一項に記載されるポリアミドイミド樹脂の製造方法であって、
イミド化物(A)およびジイソシアネート化合物(h)を含む反応原料(α)を反応させて、ポリアミドイミド樹脂を反応生成物として得る工程を備え、
前記イミド化物(A)は、ジアミン化合物(B)と酸無水物(C)とを反応させて得られたものであり、
前記ジアミン化合物(B)は、請求項1の一般式(1)に示されるポリオキシアルキレンジアミン(a)およびカルボキシル基含有ジアミン(b)を含み、前記ポリオキシアルキレンジアミン(a)のアミン当量は200g/eq以上1500g/eq以下であり、
前記酸無水物(C)はシクロヘキサン‐1,2,4‐トリカルボン酸‐1,2‐無水物(e)を含み、
前記ポリアミドイミド樹脂はカルボキシル基を含有し、固形分酸価が30mgKOH/g以上であること
を特徴とするポリアミドイミド樹脂の製造方法。
【請求項9】
前記反応原料(α)が酸無水物(β)をさらに含む、請求項8に記載のポリアミドイミド樹脂の製造方法。
【請求項10】
前記酸無水物(β)は、無水トリメリット酸(f)およびシクロヘキサン‐1,2,4‐トリカルボン酸‐1,2‐無水物(g)の少なくとも一方を含む、請求項9に記載のポリアミドイミド樹脂の製造方法。
【請求項11】
前記ジアミン化合物(B)の使用量は、前記酸無水物(β)の使用量に対するモル比率が1/4以上4以下となる量である、請求項9または10に記載のポリアミドイミド樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドイミド樹脂および当該ポリアミドイミド樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気電子産業を中心に各種の分野において、光透過性を有しつつ、アルカリ溶液に対する溶解性に優れる樹脂材料が絶縁材料、接着剤、フィルム原料用樹脂などに使用されている。
【0003】
従来、アルカリ溶解性樹脂として、カルボキシル基を有するエポキシアクリレートやウレタンアクリレートなどが用いられているが、弱アルカリ溶液への溶解性を有するものの、耐熱性をはじめとする他の物性面においてポリイミド系の樹脂に及ばないことは知られている。
【0004】
特許文献1には、樹脂骨格中にフェノール性水酸基を有し、Tgが200℃以上、5重量%水酸化ナトリウム水溶液に対する溶解時間が10分以内、350nmの光線透過率が5%以上であることを特徴とするアルカリ溶解性ポリイミド樹脂が開示されている。
【0005】
特許文献2には、ポリイミド樹脂中にポリアミド酸骨格由来のカルボキシル基を導入することで、アルカリ溶解性を付与したアルカリ溶解性ポリイミド樹脂が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−88154号公報
【特許文献2】特開2006−321924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されるようなアルカリ溶解性ポリイミド樹脂は、アルカリ溶解性を有してはいるが、強アルカリ水溶液に溶解するものであった。
【0008】
また、特許文献2に開示されるアルカリ溶解性ポリイミド樹脂も、フェノール性水酸基よりも酸性度が高いカルボキシル基を有しているにも関わらず、1%水酸化ナトリウムといった強アルカリ水溶液に溶解するものであり、従来のアルカリ溶解性ポリイミド樹脂には弱アルカリでの溶解性を付与できていないのが現状である。
【0009】
このため、特許文献1、2のアルカリ溶解性ポリイミド樹脂を感光性材料に適応した場合、従来技術に係るアルカリ溶解性樹脂、例えばカルボキシル基を有するエポキシアクリレートやウレタンアクリレートと特許文献1、2に開示されるアルカリ溶解性ポリイミド樹脂とを、製品や用途に応じて使い分けようとすれば、そのたびに、現像液を、弱アルカリの水溶液から強アルカリの水溶液へと、またはその逆へと交換する作業が必要となり、生産性が著しく低下してしまう。また、現像液が弱アルカリ水溶液から強アルカリ水溶液に変更されると、弱アルカリ水溶液に対応していた廃液処理を強アルカリ水溶液にも対応可能に変更しなければならない。この廃液処理の変更は、多額の設備投資が必要とされる、ランニングコストが高まる、といった工業的生産性の低下をもたらす可能性がある。
【0010】
したがって、工業的生産性を確保する観点から、アルカリ溶解性樹脂は、これまでと同様に、1.0重量%の炭酸ナトリウム水溶液といった、弱アルカリ水溶液にて十分な溶解性を有していることが望まれている。
【0011】
本発明は、1.0質量%の炭酸ナトリウム水溶液がアルカリ溶液として用いられた場合であっても溶解しうる程度のアルカリ溶解性、すなわち、適度なアルカリ溶解性を有するポリアミドイミド樹脂および当該ポリアミドイミド樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために提供される本発明は次のとおりである。
(1)イミド化物(A)およびジイソシアネート化合物(h)を含む反応原料(α)を反応させて得られるポリアミドイミド樹脂であって、前記イミド化物(A)は、ジアミン化合物(B)と酸無水物(C)とを反応させて得られたものであり、前記ジアミン化合物(B)は、下記一般式(i)に示されるポリオキシアルキレンジアミン(a)およびカルボキシル基含有ジアミン(b)を含み、前記イミド化物(A)を得るための前記酸無水物(C)はシクロヘキサン‐1,2,4‐トリカルボン酸‐1,2‐無水物(e)を含み、前記ポリアミドイミド樹脂はカルボキシル基を含有し、固形分酸価が30mgKOH/g以上であり、前記ポリオキシアルキレンジアミン(a)のアミン当量は200g/eq以上1500g/eq以下であることを特徴とするポリアミドイミド樹脂。
【0013】
【化1】
【0014】
ここで、上記式(i)中、a、b、cはそれぞれ独立して0以上の整数を表し、Rは炭素数1〜5のアルキル基を表し、R〜Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい炭素数1〜5のアルキル基を表し、RおよびRはそれぞれ水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表し、R〜RおよびR10〜R12はそれぞれ水素原子または同一でも異なっていてもよい炭素数1〜5のアルキル基を表す。
【0015】
(2)前記酸無水物(C)は無水トリメリット酸(d)をさらに含む、上記(1)に記載のポリアミドイミド樹脂。
【0016】
(3)前記無水トリメリット酸(d)の使用量は、前記シクロヘキサン‐1,2,4‐トリカルボン酸‐1,2‐無水物(e)の使用量に対するモル比率が4以下となる量である、上記(2)に記載のポリアミドイミド樹脂。
【0018】
(4)前記ジアミン化合物(B)は、前記ポリオキシアルキレンジアミン(a)および前記カルボキシル基含有ジアミン(b)以外のジアミン(c)を含む、上記(1)から(3)のいずれかに記載のポリアミドイミド樹脂。
【0019】
(5)前記ジイソシアネート化合物(h)が脂肪族ジイソシアネートである上記(1)から(4)のいずれかに記載のポリアミドイミド樹脂。
【0020】
(6)前記反応原料(α)が酸無水物(β)をさらに含む、上記(1)から(5)のいずれかに記載のポリアミドイミド樹脂。
【0021】
(7)前記酸無水物(β)は、無水トリメリット酸(f)およびシクロヘキサン‐1,2,4‐トリカルボン酸‐1,2‐無水物(g)の少なくとも一方を含む、上記(6)に記載のポリアミドイミド樹脂。
【0022】
(8)上記(1)から(5)のいずれかに記載されるポリアミドイミド樹脂の製造方法であって、イミド化物(A)およびジイソシアネート化合物(h)を含む反応原料(α)を反応させて、ポリアミドイミド樹脂を反応生成物として得る工程を備え、前記イミド化物(A)は、ジアミン化合物(B)と酸無水物(C)とを反応させて得られたものであり、前記ジアミン化合物(B)は、上記(1)の一般式(i)に示されるポリオキシアルキレンジアミン(a)およびカルボキシル基含有ジアミン(b)を含み、前記ポリオキシアルキレンジアミン(a)のアミン当量は200g/eq以上1500g/eq以下であり、前記酸無水物(C)はシクロヘキサン‐1,2,4‐トリカルボン酸‐1,2‐無水物(e)を含み、前記ポリアミドイミド樹脂はカルボキシル基を含有し、固形分酸価が30mgKOH/g以上であることを特徴とするポリアミドイミド樹脂の製造方法。
【0023】
(9)前記反応原料(α)が酸無水物(β)をさらに含む、上記(8)に記載のポリアミドイミド樹脂の製造方法。
【0024】
(10)前記酸無水物(β)は、無水トリメリット酸(f)およびシクロヘキサン‐1,2,4‐トリカルボン酸‐1,2‐無水物(g)の少なくとも一方を含む、上記(9)に記載のポリアミドイミド樹脂の製造方法。
【0025】
(11)前記ジアミン化合物(B)の使用量は、前記酸無水物(β)の使用量に対するモル比率が1/4以上4以下となる量である、上記(9)または(10)に記載のポリアミドイミド樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、1.0質量%の炭酸ナトリウム水溶液のようなマイルドなアルカリ溶液が用いられた場合であっても溶解しうる、適度なアルカリ溶解性を有するポリアミドイミド樹脂および当該ポリアミドイミド樹脂の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の一実施形態に係るポリアミドイミド樹脂は、イミド化物(A)およびジイソシアネート化合物(h)を含む反応原料(α)を反応させて得られる反応生成物である。
【0028】
本発明の一実施形態に係るポリアミドイミド樹脂は、カルボキシル基を含有し、固形分酸価が30mgKOH/g以上である。ポリアミドイミド樹脂に適度なアルカリ溶解性を付与する観点から、本発明の一実施形態に係るポリアミドイミド樹脂の固形分酸価は、30mgKOH/g以上150mgKOH/g以下とすることが好ましく、50mgKOH/g以上120mgKOH/g以下とすることがより好ましい。
【0029】
本発明の一実施形態に係るイミド化物(A)は、ジアミン化合物(B)と酸無水物(C)とを反応させて
得られたものである。
【0030】
ジアミン化合物(B)は、下記一般式(1)に示されるポリオキシアルキレンジアミン(a)を含む。
【0031】
【化2】
【0032】
上記一般式(1)中、a、b、cはそれぞれ独立して0以上の整数を表し、Rは炭素数1〜5のアルキル基を表し、R〜Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい炭素数1〜5のアルキル基を表し、RおよびRはそれぞれ水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表し、R〜RおよびR10〜R12はそれぞれ水素原子または同一でも異なっていてもよい炭素数1〜5のアルキル基を表す。
【0033】
上記一般式(1)で示されるポリオキシアルキレンジアミン(a)の具体例としては、ポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシブチレンジアミンなどを挙げることができる。
【0034】
ポリオキシアルキレンジアミン(a)は1種類の化合物から構成されていてもよいし、上記一般式(1)を満たす複数の化合物から構成されていてもよい。具体的には、ポリオキシアルキレンジアミン(a)は、オキシアルキレン骨格が異なる複数種類のポリオキシアルキレンジアミンから構成されていてもよい。そのような、異種のオキシアルキレン骨格を有するジアミンとして、市販されているものから適宜選択して使用することもできる。市販されているこのようなジアミンとして、米国ハンツマン社製のジェファーミンEDR‐148、EDR‐176などのポリオキシエチレンジアミン、ジェファーミンD‐230、D‐400、D‐2000、D‐4000などのポリオキシプロピレンジアミン、ジェファーミンED‐600、ED‐900、ED‐2003、XTJ‐542などが挙げられる。
【0035】
ポリアミドイミド樹脂に適度なアルカリ溶解性を付与する観点から、ポリオキシアルキレンジアミン(a)のアミン当量は、200g/eq以上1500g/eq以下であることが好ましく、500g/eq以上1000g/eq以下であることがより好ましい。
【0036】
イミド化物(A)を得るための反応におけるポリオキシアルキレンジアミン(a)の量の使用量は限定されない。ポリアミドイミド樹脂に適度なアルカリ溶解性を付与する観点から、本発明の一実施形態により得られるポリアミドイミド樹脂に含有されるポリオキシアルキレンジアミン(a)に基づく成分骨格の、ポリアミドイミド樹脂に対する割合が、5質量%から40質量%の範囲内になるように、ポリオキシアルキレンジアミン(a)の量の使用量を設定することが好ましく、上記の割合が10質量%から30質量%の範囲内になるようにポリオキシアルキレンジアミン(a)の量の使用量を設定することが特に好ましい。
【0037】
ジアミン化合物(B)は、カルボキシル基含有ジアミン(b)を含む。カルボキシル基含有ジアミン(b)の具体例としては、3,5‐ジアミノ安息香酸、3,4‐ジアミノ安息香酸、4,4‐メチレンビスアントラニル酸、ベンジジン‐3,3‐ジカルボン酸などが挙げられる。カルボキシル基含有ジアミン(b)は1種類の化合物から構成されていてもよいし、複数種類の化合物から構成されていてもよい。原料入手性の観点から、カルボキシル基含有ジアミン(b)は、3,5‐ジアミノ安息香酸を含有することが好ましい。
【0038】
イミド化物(A)を得るための反応におけるカルボキシル基含有ジアミン(b)の使用量は限定されない。ポリアミドイミド樹脂に適度なアルカリ溶解性を付与する観点から、本発明の一実施形態により得られるポリアミドイミド樹脂の固形分酸価が30mgKOH/g以上150mgKOH/g以下になるように、カルボキシル基含有ジアミン(b)の使用量を設定することが好ましく、上記の固形分酸価が50mgKOH/g以上120mgKOH/g以下になるように、カルボキシル基含有ジアミン(b)の使用量を設定することが特に好ましい。
【0039】
ジアミン化合物(B)は、ポリオキシアルキレンジアミン(a)およびカルボキシル基含有ジアミン(b)以外のジアミン(c)(本明細書において、「他のジアミン(c)」ともいう。)を含んでもよい。他のジアミン(c)は1種類の化合物から構成されていてもよいし、複数種類の化合物から構成されていてもよい。
【0040】
他のジアミン(c)の具体例としては、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジアミン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル−4,4’−ジアミン、2,6,2’,6’−テトラメチル−4,4’−ジアミン、5,5’−ジメチル−2,2’−スルフォニル−ビフェニル−4,4’−ジアミン、3,3’−ジヒドロキシビフェニル−4,4’−ジアミン、(4,4’−ジアミノ)ジフェニルエーテル、(4,4’−ジアミノ)ジフェニルスルホン、(4,4’−ジアミノ)ベンゾフェノン、(3,3’―ジアミノ)ベンゾフェノン、(4,4’−ジアミノ)ジフェニルメタン、(4,4’−ジアミノ)ジフェニルエーテル、(3,3’―ジアミノ)ジフェニルエーテルなどの芳香族ジアミンが挙げられ、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、オクタデカメチレンジアミン、4,4‐メチレンビス(シクロへキシルアミン)、イソホロンジアミン、1,4‐シクロへキサンジアミン、ノルボルネンジアミンなど脂肪族ジアミンが挙げられる。
【0041】
ポリアミドイミド樹脂に適度なアルカリ溶解性を付与する観点から、他のジアミン(c)は、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)を含有することが好ましい。
【0042】
ジアミン化合物(B)が他のジアミン(c)を含有する場合において、イミド化物(A)を得るための反応における他のジアミン(c)の使用量は限定されない。本発明の一実施形態により得られるポリアミドイミド樹脂に含有されるポリオキシアルキレンジアミン(a)の質量割合および当該ポリアミドイミド樹脂の酸価が前述の範囲に入るような使用量に設定することが好ましい。
【0043】
イミド化合物(A)を得るためにジアミン化合物(B)と反応させる酸無水物(C)は、少なくとも3つのカルボキシル基を有し、それらのうち2つが無水化している化合物である。酸無水物は芳香族化合物と脂肪族化合物とに大別されるところ、酸無水物(C)は、脂肪族化合物であるシクロヘキサン‐1,2,4‐トリカルボン酸‐1,2‐無水物(e)を含む。酸無水物(C)は、シクロヘキサン‐1,2,4‐トリカルボン酸‐1,2‐無水物(e)から構成されていてもよいし、他の酸無水物を含有してもよい。そのような酸無水物(C)に含有される他の酸無水物として、芳香族化合物である無水トリメリット酸(d)が例示される。
【0044】
酸無水物(C)がシクロヘキサン‐1,2,4‐トリカルボン酸‐1,2‐無水物(e)および無水トリメリット酸(d)を含有する場合において、これらの含有量の関係は限定されない。ポリアミドイミド樹脂のアルカリ溶解性およびポリアミドイミド樹脂の光透過性を共に良好にする観点から、無水トリメリット酸(d)の使用量は、シクロヘキサン‐1,2,4‐トリカルボン酸‐1,2‐無水物(e)の使用量に対するモル比率が4以下となる量であることが好ましく、当該モル比率が1以下となる量であることがより好ましく、0.5以下となる量であることが特に好ましい。当該モル比率は0であってもよい。
【0045】
イミド化物(A)を得るために使用されるジアミン化合物(B)の量と酸無水物(C)の量との関係は限定されない。酸無水物(C)の使用量は、ジアミン化合物(B)の使用量に対するモル比率が2.0以上2.3以下となる量であることが好ましく、当該モル比率が2.0以上2.1以下となる量であることがより好ましい。
【0046】
イミド化物(A)を得るためにジアミン化合物(B)と酸無水物(C)とを反応させる反応温度は限定されない。通常、120℃から200℃の範囲内であることが好ましく、140℃から180℃の範囲内であることがより好ましい。
【0047】
イミド化物(A)を得るための反応溶媒は限定されない。かかる反応溶媒の具体例として、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド、N‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)、γ‐ブチロラクトン、スルホラン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、ジグライム、トリグライム等が挙げられる。イミド化物(A)を得るための反応溶剤は1種類の化合物から構成されていてもよいし、2種以上の化合物を組み合わせて反応溶媒として用いてもよい。中でも、イミド化物(A)を生成させる工程は高い反応温度を必要とするため、沸点が高く、得られるポリマーの溶解性が比較的良好であり、ポリマー溶液を使用する際に厳しい湿度管理が不要であるγ‐ブチロラクトン、トリグライム、ジグライム、シクロヘキサノンおよびシクロペンタノンからなる群から選ばれた1種または2種以上を、イミド化物(A)を得るための反応溶剤として用いることが好ましい。
【0048】
イミド化反応では水が生成するので、イミド化物(A)を得るための反応を行う場合には、イミド化反応で生成する水と共沸可能な芳香族炭化水素を存在させることが好ましい。このような芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン等が挙げられる。中でも毒性が比較的低く、沸点が低いため留去しやすいことから、トルエンが好ましい。
【0049】
本発明の一実施形態に係るポリアミドイミド樹脂のための反応原料(α)に含有されるジイソシアネート化合物(h)の具体的な種類は限定されない。ジイソシアネート化合物(h)は1種類の化合物から構成されていてもよいし、複数種類の化合物から構成されていてもよい。
【0050】
ジイソシアネート化合物(h)の具体例としては、4,4’‐ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4‐トリレンジイソシアネート、2,6‐トリレンジイソシアネート、ナフタレン‐1,5‐ジイソシアネート、o‐キシリレンジイソシアネート、m‐キシリレンジイソシアネート、2,4‐トリレンダイマー等の芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、4,4‐メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネートなどが挙げられる。ポリアミドイミド樹脂のアルカリ溶解性およびポリアミドイミド樹脂の光透過性を共に良好にする観点から、ジイソシアネート化合物(h)は脂肪族イソシアネートを含有することが好ましく、ジイソシアネート化合物(h)は脂肪族イソシアネートであることがより好ましい。
【0051】
本発明の一実施形態に係るポリアミドイミド樹脂のための反応原料(α)は、上記のイミド化物(A)およびジイソシアネート化合物(h)に加えて、酸無水物(β)をさらに含んでもよい。酸無水物(β)は、酸無水物(C)と同様に、少なくとも3つのカルボキシル基を有し、それらのうち2つが無水化している化合物である限り、酸無水物(β)の種類は限定されない。脂肪族化合物からなる酸無水物であってもよいし、芳香族化合物からなる酸無水物であってもよい。酸無水物(β)の具体例として、脂肪族化合物であるシクロヘキサン‐1,2,4‐トリカルボン酸‐1,2‐無水物(g)および芳香族化合物である無水トリメリット酸(f)が挙げられる。
【0052】
反応原料(α)が酸無水物(β)を含有する場合において、反応原料(α)における酸無水物(β)の含有量は限定されない。ポリアミドイミド樹脂に適度なアルカリ溶解性付与する観点から、反応原料(α)に含有されるイミド化合物(A)を得るために使用したジアミン化合物(B)の量に対する、反応原料(α)に含有される酸無水物(β)の量のモル比率は、0.25以上4以下であることが好ましく、0.5以上2以下であることがより好ましく、0.6以上1.5以下であることが特に好ましい。
【0053】
反応原料(α)におけるジイソシアネート化合物(h)の含有量は限定されない。ポリアミドイミド樹脂に適度なアルカリ溶解性を付与する観点から、反応原料(α)に含有されるジイソシアネート化合物(h)の量は、反応原料(α)に含有されるイミド化合物(A)を得るために使用したジアミン化合物(B)の量と必要に応じ反応原料(α)に含有される酸無水物(β)の量の総和に対するモル比率として、0.3以上1.0以下とすることが好ましく、0.4以上0.95以下とすることがより好ましく、0.50以上0.90以下とすることが特に好ましい。
【0054】
反応原料(α)によるアミドイミド化反応の反応温度は限定されない。反応原料(α)に含有される成分の特性に応じ適宜設定すればよい。かかる反応温度の一具体例を挙げれば、130℃以上200℃以下の範囲であり、150℃以上180℃以下の範囲内で反応させることが好ましい場合もある。
【0055】
反応原料(α)によるアミドイミド化反応には、必要に応じて触媒を使用することができる。使用できる触媒の具体的な例としては、トリエチルアミン、ルチジン、ピコリン、トリエチレンジアミン等のアミン類;リチウムメチラート、ナトリウムメチラート、リチウムエチラート、ナトリウムエチラート、マグネシウムエチラート、カリウムブトキサイド、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の化合物;コバルト、チタニウム、スズ、亜鉛等の金属または半金属の化合物などを挙げることができる。
【0056】
本発明の一実施形態により得られるポリアミドイミド樹脂は、反応原料(α)の組成に基づいて推測すると、下記一般式(2)のような化学式で表すことができるものである可能性がある。
【0057】
【化3】
【0058】
上記一般式(2)中、n=0〜50、m=0〜50、l=0〜30であり、Xはジアミン残基、Yは芳香環またはシクロヘキサン環、Zはイソシアネート残基を表す。
【0059】
以上説明したように、本発明の一実施形態に係るポリアミドイミド樹脂は、イミド化物(A)およびジイソシアネート化合物(h)を含む反応原料(α)を反応させて、ポリアミドイミド樹脂を反応生成物として得る工程を備える。ここで、イミド化物(A)は、ジアミン化合物(B)と酸無水物(C)とを反応させて得られたものであり、ジアミン化合物(B)は、上記一般式(1)に示されるポリオキシアルキレンジアミン(a)およびカルボキシル基含有ジアミン(b)を含む。また、酸無水物(C)はシクロヘキサン‐1,2,4‐トリカルボン酸‐1,2‐無水物(e)を含む。
【0060】
こうして得られた本発明の一実施形態に係るポリアミドイミド樹脂は、カルボキシル基を含有し、固形分酸価が30mgKOH/g以上である。ポリアミドイミド樹脂のアルカリ溶解性を高める観点から、上記の固形分酸価は50mgKOH/g以上であることが好ましい。ポリアミドイミド樹脂のアルカリ溶解性を高める観点からは、上記の固形分酸価の上限は限定されないが、ポリアミドイミド樹脂に適度なアルカリ溶解性を付与する観点から、上記の固形分酸価は150mgKOH/g以下とすることが好ましく、120mgKOH/g以下とすることがより好ましい。
【0061】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例】
【0062】
以下に実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
(合成例1)
窒素ガス導入管、温度計、撹拌機を備えた四口の300mLフラスコに2,2‐ビス[4‐(4‐アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(以下、「BAPP」という)6.98g、3,5‐ジアミノ安息酸3.80g、ジェファーミンXTJ−542(ハンツマン社製、分子量1025.64)8.21g、およびγ‐ブチロラクトン86.49gを室温で仕込み溶解した。
【0064】
次いで、シクロへキサン‐1,2,4‐トリカルボン酸‐1,2‐無水物17.84gおよび無水トリメリット酸2.88gを仕込み、室温で30分間保持した。さらにトルエン30gを仕込み、160℃まで昇温して、トルエンと共に生成する水を除去した後、3時間保持し、室温まで冷却することでイミド化物溶液を得た。
【0065】
得られたイミド化物溶液に、無水トリメリット酸9.61gおよびトリメチルヘキサメチレンジイソシアネート17.45gを仕込み、160℃の温度で32時間保持した。こうして、カルボキシル基を含有するポリアミドイミド樹脂溶液(A−1)を得た。固形分は40.1%、固形分酸価は83.1mgKOH/gであった。
【0066】
(合成例2)
窒素ガス導入管、温度計、撹拌機を備えた四口の300mLフラスコにBAPP10.84g、3,5‐ジアミノ安息酸3.01g、ジェファーミンXTJ−542(ハンツマン社製、分子量1025.64)9.03gおよびγ‐ブチロラクトン95.90gを室温で仕込み溶解した。
【0067】
次いで、シクロへキサン‐1,2,4‐トリカルボン酸‐1,2‐無水物19.62gおよび無水トリメリット酸3.17gを仕込み、室温で30分間保持した。さらにトルエン30gを仕込み、160℃まで昇温して、トルエンと共に生成する水を除去した後、3時間保持し、室温まで冷却することでイミド化物溶液を得た。
【0068】
得られたイミド化物溶液に、無水トリメリット酸10.57g、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート16.65gを仕込み、160℃の温度で32時間保持した。こうして、カルボキシル基を含有するポリアミドイミド樹脂溶液(A−2)を得た。固形分は42.6%、固形分酸価は92.7mgKOH/gであった。
【0069】
(合成例3)
窒素ガス導入管、温度計、撹拌機を備えた四口の300mLフラスコにBAPP4.11g、3,5‐ジアミノ安息酸3.80g、ジェファーミンXTJ−542(ハンツマン社製、分子量1025.64)15.38gおよびγ‐ブチロラクトン95.15gを室温で仕込み溶解した。
【0070】
次いで、シクロへキサン‐1,2,4‐トリカルボン酸‐1,2‐無水物17.84gおよび無水トリメリット酸2.88gを仕込み、室温で30分間保持した。さらにトルエン30gを仕込み、160℃まで昇温して、トルエンと共に生成する水を除去した後、3時間保持し、室温まで冷却することでイミド化物溶液を得た。
【0071】
得られたイミド化物溶液に、無水トリメリット酸9.61g、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート19.98gを仕込み、160℃の温度で45時間保持した。こうして、カルボキシル基含有のポリアミドイミド樹脂溶液(A−3)を得た。固形分は40.9%、固形分酸価は57.7mgKOH/gであった。
【0072】
(合成例4)
窒素ガス導入管、温度計、撹拌機を備えた四口の300mLフラスコにBAPP2.46g、3、5‐ジアミノ安息香酸3.08g、ジェファーミンXTJ−542(ハンツマン社製、分子量1025.64)11.54gおよびγ‐ブチロラクトン73.25gを室温で仕込み溶解した。
【0073】
次いで、シクロへキサン‐1,2,4‐トリカルボン酸‐1,2‐無水物13.38gおよび無水トリメリット酸2.16gを仕込み、室温で30分間保持した。さらに、トルエン30gを仕込み、160℃まで昇温して、トルエンと共に生成する水を除去した後、3時間保持し、室温まで冷却することでイミド化物溶液を得た。
【0074】
得られたイミド化物溶液に、無水トリメリット酸2.16g、シクロへキサン‐1,2,4‐トリカルボン酸‐1,2‐無水物5.20g、ジシクロヘキシルメタン‐4,4’‐ジイソシアネート15.35gを仕込み、160℃の温度で32時間保持した。こうして、カルボキシル基含有のポリアミドイミド樹脂溶液(A−4)を得た。固形分は40.4%、固形分酸価は88.5mgKOH/gであった。
【0075】
(合成例5)
窒素ガス導入管、温度計、撹拌機を備えた四口の300mLフラスコにBAPP4.11g、3,5‐ジアミノ安息香酸3.80g、ジェファーミンXTJ−542(ハンツマン社製、分子量1025.64)15.38gおよびγ‐ブチロラクトン92.83gを室温で仕込み溶解した。
【0076】
次いでシクロへキサン‐1,2,4‐トリカルボン酸‐1,2‐無水物17.84gおよび無水トリメリット酸2.88gを仕込み、80℃に昇温して30分間保持した。さらに、トルエン30gを仕込み、160℃まで昇温して、トルエンと共に生成する水を除去した後、3時間保持し、室温まで冷却することでイミド化物溶液を得た。
【0077】
得られたイミド化物溶液に、無水トリメリット酸9.61g、イソホロンジイソシアネート16.67gを仕込み、160℃の温度で30時間保持することでカルボキシル基含有のポリアミドイミド樹脂溶液(A−5)を得た。固形分は40.1%、固形分酸価は95.1mgKOH/gであった。
【0078】
(合成例6)
窒素ガス導入管、温度計、撹拌機を備えた四口の300mLフラスコにBAPP8.72g、3、5‐ジアミノ安息香酸4.75g、ジェファーミンXTJ−542(ハンツマン社製、分子量1025.64)10.26gおよびγ‐ブチロラクトン79.67gを室温で仕込み溶解した。
【0079】
次いで、シクロへキサン‐1,2,4‐トリカルボン酸‐1,2‐無水物22.29gおよび無水トリメリット酸3.60gを仕込み、室温で30分間保持した。さらに、トルエン30gを仕込み、160℃まで昇温して、トルエンと共に生成する水を除去した後、3時間保持し、室温まで冷却することでイミド化物溶液を得た。
【0080】
得られたイミド化物溶液に、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート9.86gを仕込み、160℃の温度で32時間保持することでカルボキシル基含有のポリアミドイミド樹脂溶液(A−6)を得た。固形分は41.4%、固形分酸価は99.7mgKOH/gであった。
【0081】
(比較合成例1)
窒素ガス導入管、温度計、撹拌機を備えた四口の300mLフラスコにBAPP10.26g、3,5‐ジアミノ安息酸3.80gおよびγ‐ブチロラクトン79.48gを室温で仕込み溶解した。
【0082】
次いで、シクロへキサン‐1,2,4‐トリカルボン酸‐1,2‐無水物17.84g、無水トリメリット酸2.88gを仕込み、室温で30分間保持した。さらにトルエン30gを仕込み、160℃まで昇温して、トルエンと共に生成する水を除去した後、3時間保持し、室温まで冷却することでイミド化物溶液を得た。
【0083】
得られたイミド化物溶液に、無水トリメリット酸9.61gおよびトリメチルヘキサメチレンジイソシアネート17.87gを仕込み、160℃の温度で32時間保持した。こうして、カルボキシル基含有のポリアミドイミド樹脂溶液(B−1)を得た。固形分は40.2%、固形分酸価は89.8mgKOH/gであった。
【0084】
(比較合成例2)
窒素ガス導入管、温度計、撹拌機を備えた四口の300mLフラスコにBAPP3.42g、3、5‐ジアミノ安息香酸3.17g、ジェファーミンXTJ−542(ハンツマン社製、分子量1025.64)12.82gおよびN‐メチルピロリドン79.31gを室温で仕込み溶解した。
【0085】
次いで、無水トリメリット酸16.81gを仕込み、室温で30分間保持した。さらに、トルエン30gを仕込み、160℃まで昇温して、トルエンと共に生成する水を除去した後、3時間保持し、室温まで冷却することでイミド化物溶液を得た。
【0086】
得られたイミド化物溶液に、無水トリメリット酸8.01gおよびジフェニルメタンジイソシアネート15.64gを仕込み、160℃の温度で14時間保持した。こうして、カルボキシル基含有のポリアミドイミド樹脂溶液(B−2)を得た。固形分は41.0%、固形分酸価は90.5mgKOH/gであった。
【0087】
[試験例1]ポリアミドイミド樹脂のアルカリ溶解性の評価
上記の合成例および比較合成例により得たポリアミドイミド樹脂溶液をガラス板に塗布し、180℃で30分乾燥させて、室温まで冷却した。こうして得たガラス板上のフィルムを、ガラス板ごと、1質量%炭酸ナトリウム水溶液および1質量%水酸化ナトリウム水溶液のそれぞれに浸漬した。各水溶液に浸漬後のフィルムの状態を観察し、下記の基準によって判定した。判定結果を表1に示す。
【0088】
A:30分以内に溶解した。
B:60分以内に溶解した。
C:2時間以内に溶解した。
D:溶解しなかった。
【0089】
[試験例2]光透過率の測定
上記の合成例および比較合成例により得たポリアミドイミド樹脂溶液を、樹脂分が0.25質量%の濃度となるようにγ‐ブチロラクトンで希釈し、得られた希釈溶液について、島津製作所製紫外可視分光光度計UV‐1800を用いて、365nmおよび405nmの波長の透過率を測定した。測定結果を表1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
実施例に係るポリアミドイミド樹脂(実施例1−1から1−6)はアルカリ溶解性に優れる。また、実施例に係る硬化性樹脂組成物はアルカリ溶解性に優れる。一方、ポリオキシアルキレンジアミン(a)を使用しなかった比較例1−1に係るポリアミドイミド樹脂は、アルカリ溶解性が不良であった。シクロへキサン‐1,2,4‐トリカルボン酸‐1,2‐無水物(e)を使用しなかった比較例1−2に係るポリアミドイミド樹脂は、アルカリ溶解性および光透過性がいずれも不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明により提供されるポリアミドイミド樹脂は、アルカリ溶解性に優れたカルボキシル基含有ポリアミドイミド樹脂である。
【0093】
本発明のポリアミドイミド樹脂は、光透過性、アルカリ溶解性に優れることから、本発明のポリアミドイミド樹脂を光反応性の材料と混合させることで、感光性のフィルムや接着剤用の原料樹脂として使用することができ、この場合には、回路基板の被覆材料などとしても有用である。