特許第6234871号(P6234871)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6234871-表面疵の少ない鋼材の製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6234871
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】表面疵の少ない鋼材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/00 20060101AFI20171113BHJP
   B21B 1/02 20060101ALI20171113BHJP
   B21B 45/00 20060101ALI20171113BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20171113BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   C21D9/00 101A
   B21B1/02 D
   B21B45/00 B
   C22C38/00 301Z
   C22C38/58
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-77750(P2014-77750)
(22)【出願日】2014年4月4日
(65)【公開番号】特開2015-199073(P2015-199073A)
(43)【公開日】2015年11月12日
【審査請求日】2016年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100146112
【弁理士】
【氏名又は名称】亀岡 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100167335
【弁理士】
【氏名又は名称】武仲 宏典
(74)【代理人】
【識別番号】100164998
【弁理士】
【氏名又は名称】坂谷 亨
(72)【発明者】
【氏名】中久保 昌平
(72)【発明者】
【氏名】武田 実佳子
(72)【発明者】
【氏名】近田 伸芳
(72)【発明者】
【氏名】大村 浩三朗
【審査官】 瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−147956(JP,A)
【文献】 特開2011−246789(JP,A)
【文献】 特開2010−023087(JP,A)
【文献】 特開2010−000524(JP,A)
【文献】 特開2009−275285(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/00
B21B 1/02
B21B 45/00
C22C 38/00
C22C 38/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分組成が、C:0.04質量%以上0.50質量%以下、Si:1質量%以上3質量%以下、Mn:0.1質量%以上3.0質量%以下、Al:0.1質量%以下(0質量%を含む)、Cr:2質量%以下(0質量%を含む)、Ti:0.1質量%以下(0質量%を含む)、Ni:2質量%以下(0質量%を含む)、Cu:2質量%以下(0質量%を含む)、Mo:2質量%以下(0質量%を含む)、B:0.01質量%以下(0質量%を含む)、Nb:1質量%以下(0質量%を含む)、V:1質量%以下(0質量%を含む)、W:0.3質量%以下(0質量%を含む)、及び、Ca、Mg、REMの1種または2種以上の元素:合計で0.03%以下(0%は含まない)であり、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼片を加熱工程により加熱した後に熱間圧延して、鋼材を製造するにあたり、前記加熱工程を温度域により下記3つに分けたとき(工程1、工程2、工程3)、各工程の加熱雰囲気におけるO濃度、HO濃度を下記のように保持することにより鋼片疵を低減することを特徴とする表面疵の少ない鋼材の製造方法。
工程1(温度域:鋼片装入温度〜900℃未満)
濃度:1容量%以下、HO濃度:15容量%未満
工程2(温度域:900〜1170℃未満)
濃度:1容量%以上、HO濃度:15容量%以上
工程3(温度域:1170℃〜鋼片抽出温度)
濃度:1容量%未満、HO濃度:15容量%以下

【請求項2】
前記鋼材が鋼板である請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面疵の少ない鋼材の製造方法に関し、特に鋼片を熱間圧延する前の加熱工程の加熱雰囲気を各温度域でコントロールすることにより表面疵の少ない鋼材を得る新規な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鋼材の表面に発生する傷はその表面品質を劣化し、またこれを取り除くためには鋼材の製造歩留まりを低下させるため、この表面疵の発生を極力抑制する必要がある。とりわけ、表面品質が厳しく要求される熱延鋼板、冷延鋼板、表面処理鋼板などの鋼板においてはその表面に形成されるヘゲ疵が大きな問題となっている。このヘゲ疵は連続鋳造で製造したスラブ表面の疵が原因であることが知られている。
【0003】
従来、このスラブの表面疵の除去方法として、スラブ表面を研削する技術(特許文献1など)が知られている。しかし、この方法ではスラブ1本あたりの製造コストが増加するため量産に適した方法とは言えない。また、他の方法として、加熱炉で水分を投入することでスケールオフする技術(特許文献2など)も知られている。しかし、この方法ではスケールが厚く生成されてしまうためスケール量が増加し、製造歩留りが低下する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許2771460号公報
【特許文献2】特開平6−184627公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記のような従来技術の問題に着目してなされたものであって、生産性を阻害することなく、高歩留りで表面疵の少ない鋼材の製造方法を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題を解決した本発明に係る鋼材の製造方法は、C:0.04質量%以上0.50質量%以下、Si:1質量%以上3質量%以下、Mn:0.1質量%以上3.0質量%以下を含有する鋼片を加熱工程により加熱した後に熱間圧延して、鋼材を製造するにあたり、前記加熱工程を温度域により下記3つに分けたとき(工程1、工程2、工程3)、各工程の加熱雰囲気におけるO濃度、HO濃度を下記のように保持することにより鋼材の表面疵を低減することを特徴とするものである。
工程1(温度域:鋼片装入温度〜900℃未満)
濃度:1容量%未満、HO濃度:15容量%未満
工程2(温度域:900〜1170℃未満)
濃度:1容量%以上、HO濃度:15容量%以上
工程3(温度域:1170℃〜鋼片抽出温度)
濃度:1容量%未満、HO濃度:15容量%未満
【0007】
また、かかる本発明に係る鋼材の製造方法は、鋼板表面のヘゲ疵を低減させる方法として特に有効な方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、研削などの特別の疵取作業を施すことなく、熱間圧延に先立つ加熱炉での鋼片の加熱工程に工夫を加えるだけで通常のスケールオフ作業により鋼材の表面疵を効果的に除去、低減できるとともに、加熱炉で発生する全体のスケール量も抑制されるため、スケールロスが低減し、高歩留りで鋼材を製造することができるなど優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例における鋼供試材の評価について説明するための酸化処理前後の供試材の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の内容について詳述する。
まず、本発明が採用した鋼材の表面疵の低減方法につき、その考え方、すなわち解決原理、作用などにつき、前記鋼板ヘゲ疵を例にとりその発生機構から説明する。
【0011】
[鋼板のヘゲ疵の発生機構について]
通常、精錬を終えた溶鋼は、連続鋳造工程へ運ばれ、タンディッシュから鋳型に注がれる。鋳型で溶鋼を凝固させて一定の形の半製品である鋳片が作られる。連続鋳造機は、鋳型に垂直に注がれた溶鋼は冷え固まって水平方向に引き抜かれる。引き抜かれた鋳片は、所定長さにガスカットされ、熱間圧延に供する鋼片(スラブ)となる。スラブは熱間圧延に運ばれ、加熱炉で再加熱されて、1000〜1200℃で粗圧延、900〜1100℃で仕上圧延、300〜700℃で巻き取られて熱延鋼板となる。熱延鋼板は、その後、酸洗、冷間圧延されることで冷延鋼板となる場合、酸洗、冷延、亜鉛めっき等が施されて表面処理鋼板となる場合もある。
【0012】
ヘゲ疵は、熱延鋼板、冷延鋼板、表面処理鋼板のすべてで認められる疵であり、介在物に起因するものとスラブ表面疵に起因するものに大別される。本発明では後者の表面疵に起因するものを対象とする。主なスラブ表面疵の発生機構については、以下の2点が指摘されている。鋳型の内の冷却が不均一になると、凝固収縮のムラによる応力不均一でスラブ表面に縦方向の割れが発生する。また連鋳圧延中にスラブ表面にかかる曲げ/曲げ戻し加工によってスラブ表面にヨコワレが発生する。これらのスラブ表面疵は熱間圧延で延ばされ、鋼板表面にかぶさり状のヘゲ疵を形成することになる。特に鋼成分としてSiを1%以上含む場合は、固液共存領域が広く凝固ムラが発生しやすくタテワレが起こりやすいのに加え、脆化温度域が広いので、連鋳圧延中の曲げ/曲げ戻し加工でヨコワレが発生しやすい。本発明はこのSiを1%以上を含む高Si含有鋼を対象とする。
【0013】
[本発明のヘゲ疵低減の考え方]
加熱炉でのスラブの加熱工程で酸化生成するスケールは、元の鋼表面(地鉄面)から外方に向かって成長する外方酸化層と内側に向かって成長する内方酸化層に分けることができる。ヘゲ疵は鋼表面の内側近傍に発生するため、この疵の消失に効果があるのは内方酸化層で、この成長を促進することが肝要である。本発明では、この内方酸化層を成長、発達させ、この疵の内部にこれを侵入、充填して同酸化層に疵を一体的に取り込んで、疵の消失、あるいは最少化を図るものである。一方、外方酸化層はスケールロスとなるためできるだけその成長を抑制する必要がある。Siが1%以上添加される高Si含有鋼では、スケール/鋼界面にファイアライト(FeSiO)というFeとSiの複合酸疵化物が形成される。ファイアライトは約1170℃で液相となり、このファイアライトが液相となると外方酸化層の成長が急激に促進されるためスケールロスが大きく増加することになる。
【0014】
本発明はSiが1%以上の高Si含有鋼を対象(対象鋼の成分については後述)とした場合の上記ヘゲ疵の発生やスケールの生成、成長メカニズムに着目し、加熱炉での加熱(酸化)工程で、スケール層を構成する上記外方酸化層と内方酸化層のうち、内方酸化層を極力促進させ、内方酸化層内に疵の全部もしくは一部を取り込むことによって鋼(地鉄)内に形成された疵を消失、減少させ、また、歩留り低下をもたらす外方酸化層の急成長を抑制することによって全体のスケール量を減少させて歩留りを向上させ、その後の通常のスケールオフにより効率的に鋼材のヘゲ疵を除去、低減する技術思想に立脚しており、そしてこの考え方を具現化するため、同加熱工程においてその各温度域ごとにその加熱雰囲気におけるO濃度及びHO濃度を適切に調整、保持する手段を採用し、本発明の完成に至ったものである。
【0015】
[本発明の加熱工程]
すなわち、本発明では、加熱工程をその温度域により下記の3つの工程(工程1〜工程3)分け、各工程での加熱雰囲気のO濃度、HO濃度を下記の条件を満たすように調整、保持してスラブなどの鋼片の加熱、酸化を実施する。
工程1(温度域:鋼片装入温度〜900℃未満)
濃度:1容量%未満、HO濃度:15容量%未満
工程2(温度域:900〜1170℃未満)
濃度:1容量%以上、HO濃度:15容量%以上
工程3(温度域:1170℃〜鋼片抽出温度)
濃度:1容量%未満、HO濃度:15容量%未満
【0016】
これら各工程につき説明すると、工程1は加熱炉内に鋼片を装入した時の温度から900℃未満の温度域で、この温度域では、加熱雰囲気のO濃度を1容量%未満、HO濃度を15容量%未満に保持する。これは次の工程2での内方酸化層の成長を阻害するヘマタイト(Fe)が鋼材(鋼板)表面に生成するため、酸化を抑制するためである。O濃度及びHO濃度が上記規定範囲外の雰囲気になると、ヘマタイトが多量に生成し、工程2での内方酸化層の成長が阻まれ、スケールオフによる疵の除去、低減が不十分となる。
【0017】
工程2は900℃から1170℃未満の温度域で、この温度域では、加熱雰囲気のO濃度を1容量%以上、HO濃度を15容量%以上に保持する。これは、加熱雰囲気のO濃度及びHO濃度を前工程よりも高く維持して酸化を促進することにより、内方酸化層を十分に成長させ、鋼片表面の疵を同層に取り込んで、消失、減少させるためであり、特に重要である。上記規定範囲外の雰囲気になると、内方酸化層の成長が阻害され、スケールオフによる疵の除去、低減が困難となる。なお、加熱雰囲気のO濃度及びHO濃度の上限については特に規定されないが、O濃度については20容量%、HO濃度については 30容量%をそれぞれ上限とすることが好ましいといえる。
【0018】
工程3は1170℃から鋼片の炉外抽出温度までの温度域で、この温度域においては、加熱雰囲気のO濃度を1容量%未満、HO濃度を15容量%未満に保持する。これは、1170℃以上の高温ではファイアライトの液相化により外方酸化層の成長が著しく促進されるため、この過剰な酸化を抑制するためである。上記規定範囲外の雰囲気になると、スケールが多量に発生し、スケールロスが増加するため、鋼材の歩留りが悪化することになる。なお、スケールロス低下、すなわち鋼材歩留り向上の観点から加熱炉における鋼片抽出温度は1300℃以下とすることが好ましい。
【0019】
また、本発明の前記各工程での加熱時間は、工程1、工程3は10〜60分の短時間が好ましく、工程2は60〜240分の長時間が好ましい。スラブの熟熱を考えると全工程で150分以上の在炉時間が必要である。加熱時間はスラブの加熱炉への装入温度、スラブサイズにより適宜調整することができる。
【0020】
なお、各工程での加熱雰囲気のO濃度及びHO濃度の調整、制御は、各温度域でのO濃度及びHO濃度を測定器で測定しておき、規定の濃度の範囲外である場合には、例えば、O濃度については窒素で適宜必要濃度に希釈された酸素ガスを、またHO濃度についてはミスト水や水蒸気をそれぞれ加熱炉内へ供給、添加することにより行って、規定の濃度の範囲に保持するようにすれば良い。
【0021】
このような、本発明の加熱工程を経た鋼片は、圧力水などを用いてその表面に形成されたスケールを取り除いて(スケールオフ)、熱間圧延を行い、その後適宜熱処理、冷間圧延、酸洗、表面処理などを行って所望の特性を有する鋼材製品を得ることができる。本加熱工程の採用により、鋼片の表面に存在していたヘゲ疵などの表面疵は、スケール中の成長した内方酸化層に取り込まれているためスケールオフにより容易に除去、低減された高品質の鋼材を製造することができ、また外方酸化層の生成が抑制されているため全体のスケール量も少ないことから生産性に優れ、高い歩留りで同鋼材を製造することができる。
【0022】
次に、本発明の対象とする鋼材の成分(鋼片の成分も同じ)について、必須元素、不純物元素及び選択元素の順にその成分範囲の規定理由を中心に説明する。本発明の対象鋼材は基本的にはこの必須元素と不可避的不純物元素からなり、必要に応じて更に後述の選択元素を一種以上含有させることができる。なお、成分の含有量の単位は質量%である(以下では単に%と表記)。
【0023】
(必須元素)
「Si:1%以上3%以下」
Siは強度を発現しつつ、延性や加工性を確保できる重要な元素であるため1%以上添加する。一方過剰添加は、溶接性、延性を損なうためその上限を3%とする。
【0024】
「C:0.04%以上0.50%以下」
Cは鋼材の強度を高めるために必要な元素であり0.04%以上添加することが好ましいが、0.50%を超えると冷間加工性が低下する。
【0025】
「Mn:0.1%以上3.0%以下」
Mnは強度及び靭性を確保できる重要な元素であり高強度鋼材に最低限必要なMn量としてその下限を0.1%とする。しかし過剰添加は延性を損なうためその上限を3.0%とする。
【0026】
(不純物元素)
「P:0.03%以下(0は含まない)」
Pは不可避的に含有される元素であるが、微量のPの存在はセメンタイトの析出を遅延し変態を抑制する。しかしながら、過剰添加は延性の劣化とめっき密着性の悪化を招くため0.03%以下とする。
【0027】
「S:0.03%以下(0を含まない)」
Sは不可避的に含有される元素であるが、硫化物系介在物MnSを形成し、これが鋼材の熱間圧延時に偏析することにより鋼材を脆化させるので、0.03%以下にすることが望ましい。
【0028】
(選択元素)
「Al:0.1%以下」
Alは、脱酸のため、及び焼ならし加熱の際にオーステナイト結晶粒の粗大化を防止するため、好ましくは鋼材に添加する。一方、過剰添加は効果を飽和することに加えて、結晶粒が不安定になるため、0.1%以下にする。より好ましくは0.05%以下である。
【0029】
「Cr:2%以下(0%は含まない)」
Crは鋼材および冷間鍛造品に強度を付与するために必要に応じて添加することができる。効果を発現するために好ましくは0.01%以上添加する。しかし、多量に添加すると延性を失うので2%以下とする。
【0030】
「Ti:0.1%以下」
Tiは、脱酸剤として添加され、好ましくは0.01%以上添加する。しかし、多量に添加すると靭性が低下するので0.1%以下とする。
【0031】
「Ni:2%以下(0%は含まない)」
Niは焼き入れ性を向上させる元素であり、適量添加すれば、CAL焼鈍、冷却時点でのマルテンサイト比率の増大とマルテンサイトのラス構造を微細化する作用を通じて、次工程のCGL焼鈍時における2相域再加熱-冷却処理時の焼き入れ性を良好にし、冷却後の最終的な複合組織を良好なものとし、各種整形加工性を向上させることができる。Niを微量添加することでかかる効果を得ることができるが、かかる効果を得るために好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.2%以上添加する。しかしながら高価な元素であるため、製造コストの観点から2%以下にする。好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1.0%以下である。
【0032】
「Cu:2%以下(0%は含まない)」
CuもNiと同様に焼き入れ性を向上させる元素であり、Niと同様の作用により各種成型加工性を向上する。かかる効果を得るために好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.2%以上添加する。しかしながら高価な元素であるため、製造コストの観点から2%以下にする。好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1.0%以下である。
【0033】
「Mo:2%以下(0%は含まない)」
Moは、めっき性を損ねることなく、固溶強化を図る上で重要な元素である。また、Ni、Cuと同様に焼き入れ性を向上させる元素であり、Niと同様の作用により各種成型加工性を向上する。かかる効果を得るために好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.2%以上添加する。しかしながら高価な元素であるため、製造コストの観点から2%以下にする。好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1.0%以下とする。
【0034】
「B:0.01%以下(0%は含まない)」
Bは焼き入れ性を向上する効果があり、必要に応じて添加する。かかる効果を得るために好ましくは0.0001%以上、さらに好ましくは0.0002%以上添加する。しかしながら過剰添加するとめっき性を劣化するため、0.01%以下とする。好ましくは0.005%以下、さらに好ましくは0.001%以下とする。
【0035】
「Nb:1%以下(0%は含まない)」
Nbは、微量の添加で微細組織を得ることができ、靭性を損なわずに高強度化を図れる元素である。かかる効果を得るために好ましくは0.001%以上、さらに好ましくは0.005%以上添加する。しかしながら、多量添加により過剰に炭化物が生成し、マルテンサイトの堆積率減少或いはその析出強化により強度と加工性のバランスを劣化する。そのため、上限は1%とする。好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.1%以下とする。
【0036】
「V:1%以下(0%は含まない)」
VもNb同様炭化物の生成する元素であり、鋼板の強度向上に寄与する。かかる効果を得るために好ましくは0.001%以上、さらに好ましくは0.005%以上添加する。しかしながら、過剰添加は、コスト高の原因となるだけでなく、降伏点(降伏比)を上昇させて加工性を低下してしまうため、その添加量は1%以下とし、好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.1%以下とする。
【0037】
「W:0.3%以下(0%は含まない)」
Wは、析出物強化、フェライト結晶粒の成長抑制による細粒強化および再結晶の抑制を通じた転移強化により、鋼板の強度上昇に寄与する。かかる効果を得るために好ましくは0.001%以上、さらに好ましくは0.005%以上添加する。しかしながら、過剰添加は炭窒化物の析出を過剰にし、成形性劣化を招くため上限を0.3%とする。好ましくは0.2%以下、さらに好ましくは0.1%以下とする。
【0038】
「Ca、Mg、REMの1種または2種以上の元素:合計で0.03%以下(0%は含まない)」
これらの元素は、脱酸に用いられる元素であり、好ましくは0.002%以上、さらに好ましくは0.003%以上添加する。しかしながら、0.03%を超えて添加した場合は、成形性を劣化するのでこれ以下とする。好ましくは合計で0.02%以下、さらに好ましくは0.01%以下である。
【0039】
(実施例)
以下に実施例を挙げて本発明の優れた効果を実証することにする。
表1に示す各種成分(鋼種A〜O))の鋼を真空誘導溶解炉にて溶解・鋳造して作製した鋳塊に対して、1100℃×10hの加熱処理を施した後、鍛造(1100℃×2h:30t)、熱間圧延(1100℃×1.5h:30t⇒10t)を施した。当該熱間圧延材から、20mm×20mm×8mmの小片サンプル(本発明の鋼片に相当)を切り出し、小片表面に0.5mm×5mm、深さ2mmの人工疵を放電加工により形成して供試材とした。なお、人工疵は疵の消失状況や内方酸化層厚さを評価するための指標として設けたものである。
【0040】
この供試材を、雰囲気制御可能な赤外線イメージ炉を用いて、本発明の工程1〜3に対応する各温度域(工程1:室温〜900℃未満、工程2:900〜1170℃未満、工程3:1170℃〜抽出温度)で炉内雰囲気の酸素(O)濃度、水蒸気(HO)濃度を調整しながら加熱を実施した。この時の加熱酸化処理条件を表2に示す。なお、加熱時間については、工程1は約7分、工程2は約20分、工程3は約5分として実施した。これは実炉におけるスラブ在炉時間とは異なり、短いが、サンプルサイズを考慮したものである。そしてこの加熱による酸化処理後の供試材についてスケールと人工疵の状態変化を光学顕微鏡により調査し、それらの評価を行った。
【0041】
このスケールと疵の評価について、酸化処理前後の供試材の断面を模式的に示した図1により説明する。図1の左側の図は酸化(加熱)処理前の状態、右側の図は処理後の状態を表しているが、深さ2mmの人工疵が形成された供試材は酸化処理により、その鋼(地鉄)表面の外側(上部)に外方酸化層が、またその内側(下部)には内方酸化層が生成しており、人工疵の内部空間は内方酸化層が成長、侵入し、疵の深さが減少している様子が分かる。従って、図1右側の内方酸化層厚さがある一定値以上であれば、酸化処理によって疵が実質的に消失あるいは減少したものとみなすことができる。この実施例における疵の消失状況の評価は、この内方酸化層厚さが1.0mm以上の場合を合格とし、これを下回るものは不合格とした。また、スケールの外方酸化層の評価については、その層厚さが小さいほど成長が抑制されたことを示すが、この実施例においては1.5mmを基準値としてこれ以下を合格、これを超えるもの不合格とした。
【0042】
表2は各鋼種の加熱処理条件と上記供試材の評価結果を合わせて示したものである。同表2から明らかなように、本発明の実施例では内層酸化層の層厚さにおいてすべて前記基準の1.0mm以上をクリアしており、且つスケールの外方酸化層の層厚さにおいても前記基準の1.5mm以下をクリアしており、優れた結果が得られているが、一方、本発明の加熱工程における条件を満たさない比較例は内層酸化層の層厚さあるいは外方酸化層の層厚さが上記基準をクリアできない結果になっていることが判明する。
【0043】
本実施例の結果からも、本発明によって鋼材の表面疵を効果的に除去、低減できるとともに、加熱炉で発生する全体のスケールロスが低減し、高歩留りで表面疵の極めて少ない鋼材を製造することが可能であることが容易に理解できる。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
図1