(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シートクッションやシートバック等のシート構成部材を備えるとともに、前記シート構成部材が、シート外形をなして乗員を弾性的に支持するシートパッドと、前記シートパッドを覆うシートカバーと、エアの流入により膨張可能なエアバッグとを備え、
前記シートカバーを、複数の表皮ピースを縫合して形成するとともに、前記エアバッグを、隣り合う前記表皮ピース同士を縫合してなる膨出部からシート外に膨出可能とし、
前記シートカバーよりも伸びにくい帯状の力布を、前記シートカバーの裏面側で前記エアバッグ周りに配設するとともに、前記膨出部を、前記エアバッグの膨張に伴う前記力布の張引にて開裂させる構成の乗物用シートにおいて、
前記シートカバーの一部に、前記シートカバーよりも伸びにくい吊り部材を取付けて、前記シートカバーの一部に対する前記吊り部材の取付け箇所である前記吊込部をシート内に引込みつつ、前記シートパッド側の係止部材に前記吊り部材を係止するとともに、
前記力布の一端側を前記膨出部側に取付けて、前記力布の他端側を、前記吊込部よりもシート内において前記吊り部材又は係止部材に取付ける構成とした乗物用シート。
【背景技術】
【0002】
この種の乗物用シートとして、シートクッションと、シートクッションから起立するシートバックを備えた乗物用シートが公知である(特許文献1を参照)。公知技術では、シートバックが、シート外形をなして乗員を弾性的に支持するシートパッドと、シートパッドを被覆するシートカバーと、エアバッグと、力布を有する。ここでシートカバーは、複数の表皮ピースを袋状に縫合することで形成できる。またエアバッグは、エアの流入により膨張する部材(袋体)であり、シートバックの側部(シートパッドの裏面側)に配設される。そしてエアバッグが膨張しつつ、シートカバーの膨出部(隣り合う表皮ピースを縫合した縫目)からシート外に膨出する。そして力布は、帯状の布材であり、シートカバーの裏面側に取付けられて、エアバッグの側方を覆うように配置する。
【0003】
公知技術では、シートパッドを、シートフレーム上に配置しつつシートカバーで被覆する。このときエアバッグの側方を力布で覆いつつ、力布の一端側を、エアバッグが膨出する膨出部に共縫いし、力布の他端側を、他のシートカバー部分に縫合する。そして車両衝突時の衝撃などにより、エアバッグが膨出部から膨出して乗員を保護する。このときエアバッグの膨張に伴う力布の緊張(張引)にて膨出部を開裂させることにより、エアバッグをスムーズに膨出させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態を、
図1〜
図3を参照して説明する。なお各図には、乗物用シート前方に符号F、乗物用シート後方に符号B、乗物用シート上方に符号UP、乗物用シート下方に符号DWを適宜付す。
図1の乗物用シート2は、シートクッション4と、シートバック6と、ヘッドレスト8を有する。これらシート構成部材は、各々、シート骨格をなすシートフレーム(4F,6F,8F)と、シート外形をなすシートパッド(4P,6P,8P)と、シートパッドに被覆されるシートカバー(4S,6S,8S)を有する。本実施例では、シートクッション4の後部にシートバック6が起倒可能に連結するとともに、シートバック6(起立状態)の上部にヘッドレスト8が配設される。
【0010】
[シートバック]
そしてシートバック6は、基本構成(6F,6P,6S)と、エアバッグ10と、関連構成(膨出部30,吊り部材32,係止部材34,力布36,吊込部38)を有する(
図2及び
図3を参照、各部材の詳細は後述)。本実施例では、乗物衝突時の衝撃により、エアバッグ10を、シートバック6側部(膨出部30)からシート外に膨出させて乗員側部を保護する。このとき力布36(詳細後述)を、エアバッグ10周りに配置しつつ、シートカバー6Sの裏面側に取付ける。そしてエアバッグ10の膨張に伴う力布36の張引にて膨出部30を開裂させることにより、エアバッグ10を膨出部30からシート外に膨出させる。この種の構成では、エアバッグ10の膨出位置となる膨出部30をより早く開裂させて、エアバッグ10を極力早期に膨出させることが望ましい。そこで本実施例では、後述の構成にて、膨出部30をより早く開裂させることとした。以下、各構成について詳述する。
【0011】
(エアバッグ)
ここでエアバッグ10(未膨張状態)は略立方体状の部材であり、シートバック6の側部(後述の土手部6b)内に配設される(
図2及び
図3を参照)。本実施例のエアバッグ10は、乗物衝突時の衝撃を受けてシート外に膨出(膨張して突出)することにより、例えば乗員胸部から乗員腰部にかけての身体範囲を保護できる。なおエアバッグ10は、エア供給装置(図示省略)に連通する構成でもよく、ガス発生剤を封入する構成でもよい。
【0012】
(シートバックの基本構成)
本実施例のシートバック6は、後述するようにシートパッド6Pを、シートフレーム6F上に配置しつつシートカバー6Sで被覆することで形成される(
図1及び
図3を参照)。そしてシートフレーム6Fは、アーチ状の枠部材であり、剛性に優れる素材(金属や硬質樹脂等)にて形成できる。本実施例では、未膨張状態のエアバッグ10を、シートフレーム6Fの側部に固定しつつ、シートパッド6Pの裏面側に配置する(
図3を参照)。
【0013】
(シートパッド)
またシートパッド6Pは、乗員を弾性的に支持可能な部材であり、弾性的に伸縮可能な樹脂で形成できる(
図2及び
図3を参照)。この種の樹脂として、ポリウレタンフォーム(密度:10kg/m
3〜60kg/m
3)等の発泡樹脂を例示できる。そして本実施例のシートパッド6Pは、略矩形状(正面視)をなしており、着座部6aと、土手部6bと、溝部20と、脆弱部6PXと、後述の係止部材34を有する(
図2及び
図3を参照)。着座部6aは、シートパッド6P中央の平坦な部位である。また土手部6bは、着座部6a側方に配置する突出部位であり、例えばコーナリング走行時に乗員の側部を支持できる。また溝部20は、着座部6aと土手部6bの間に形成される凹部であり、後述するシートカバー6Sの一部を引込み可能である。本実施例の溝部20は、シートバック起立時を基準としてシート上下に延びつつ、エアバッグ10よりもシート内側に配置する。そして脆弱部6PXは、シートパッド6Pの他の部位に比して開裂しやすい部位である(
図3を参照)。本実施例の脆弱部6PXは、外方に向けて凸曲面状の凹み部位(シートパッド6Pの他の部位に比して薄肉とされた部位)であり、後述する膨出部30の形成位置に対面状に形成される。
【0014】
(係止部材)
そして係止部材34は、吊り部材32(後述)を係止可能な平板状の部材であり、溝部20の底部側に配置する(
図3を参照)。本実施例の係止部材34は、上部34aが略U字状(断面視)をなすとともに、下部34bが平板状とされてシートパッド6P内に埋設状に固定される。係止部材34の上部34a(略U字状)は、その自由端側が内側に折り返されており、後述の吊り部材32の先端(係止部32b)を係止可能である。そして本実施例では、複数の係止部材34を、適宜の間隔をあけて溝部20内(エアバッグ10の側方)に並べて配設できる。
【0015】
(シートカバー)
またシートカバー6Sは、シートパッド6Pを被覆可能な袋状の部材であり、膨出部30と、吊り部材32と、力布36と、吊込部38を有する(
図3を参照)。本実施例のシートカバー6Sは、複数の表皮ピース(SP1〜SP4等)を袋状に縫合してなり、隣り合う表皮ピースの間に縫合箇所(SEW1〜SEW3等)が形成される。第一表皮ピースSP1は、着座部6aを被覆するピースであり、第二表皮ピースSP2は、土手部6bの着座側(天板サイド部)を被覆するピースである。また第三表皮ピースSP3は、シート側面(かまち部)の着座側を被覆するピースであり、第四表皮ピースSP4は、シート側面(かまち部)の後側を被覆するピースである。なお各表皮ピースの素材として、天然繊維又は合成繊維製の布帛(織物,編物,不織布)や皮革(天然皮革,合成皮革)を例示できる。そして本実施例では、第一表皮ピースSP1が、溝部20の形成位置において縫合箇所SEW1にて第二表皮ピースSP2に縫着される。また第二表皮ピースSP2が、土手部6bの頂点付近において第三表皮ピースSP3に縫合箇所SEW2にて縫着される。そして第三表皮ピースSP3が、シート側面(かまち部)の途中で第四表皮ピースSP4に縫合箇所SEW3にて縫着される。
【0016】
(膨出部)
膨出部30は、隣り合う表皮ピースの縫合箇所(縫目)であり、エアバッグ10の膨張に伴って開裂する(
図1及び
図3を参照)。本実施例の膨出部30は、第三表皮ピースSP3と第四表皮ピースSP4の縫合箇所SEW3であり、土手部6bの側方においてシート上下に伸びる。ここで膨出部30の引張強度(縫目強度)は、後述の力布36の張引にて開裂可能であるかぎり特に限定しないが、典型的には30N〜50Nの範囲に設定できる。
【0017】
(吊り部材・吊込部)
吊り部材32は、溝部20に沿って配置可能な部材であり、シートカバー6Sの一部に取付け可能な吊り布32aと、係止部材34に係止可能な係止部32bを有する(
図3を参照)。吊り布32a(面材)は、シートカバー6Sよりも伸びにくい素材(引張強度に優れる素材)で形成されており、シートカバー6Sで例示の素材を適宜選択できる。例えば本実施例では、シートカバー6Sを、合成繊維製の織物で形成するとともに、吊り布32aを、同じ合成繊維製の不織布(織物よりも伸びにくい素材)で形成できる。そして本実施例では、第二表皮ピースSP2の裏面側に吊り布32aをあてがう。この状態で吊り布32aの一端を、第一表皮ピースSP1と第二表皮ピースSP2の縫合箇所SEW1に共縫いして取付ける(吊込部38を形成する)。吊込部38(縫合箇所SEW1)は、後述するように溝部20に沿って形成されてシート上下に延びる。
【0018】
また本実施例の係止部32bは、断面視で略三角形状の部材(典型的に樹脂部材)であり、吊り布32aの他端(先端)に設けられる。なお係止部32bとして、吊り布32aの延びる方向に長尺な平板材を使用できる。また係止部材34の配設数に応じて、複数の係止部32b(短尺な平板材)を、吊り布32aの適所に取付けて、それぞれ対応する係止部材34に対面可能に配置することもできる。
【0019】
(力布)
力布36は、エアバッグ10の周囲に配設可能な帯状の部材であり、シートカバー6Sと吊り部材32に取付け可能である(
図3を参照)。力布36は、シートカバー6Sよりも伸びにくい素材(引張強度に優れる素材)で形成されており、シートカバー6Sで例示の素材を適宜選択できる。そして本実施例の力布36は、第二表皮ピースSP2と第三表皮ピースSP3を横断したのち、吊り部材32(吊り布32a)に沿って配置可能な長さ寸法を有する。そこで本実施例では、第二表皮ピースSP2と第三表皮ピースSP3の裏面側に力布36をあてがう。この状態で力布36の一端側を、第三表皮ピースSP3と第四表皮ピースSP4の縫合箇所SEW3(膨出部30)に共縫いして取付ける。また力布36の他端側を、吊り布32aの先端側(係止部32b寄りの部分)に縫着して(縫合箇所sewを形成して)、後述するように吊込部38よりもシート内方側に配置可能とする。なお本実施例では、シートカバー6Sの縫製作業と、同カバー6S等に力布36を取付ける(縫着する)作業を同時に行うことができる。なお縫合箇所sewをなす糸材は、各表皮ピースの縫合箇所SEW1〜SEW3をなす糸材よりも高強度であることが望ましい。
【0020】
[シートバックの組立作業]
図3を参照して、シートパッド6Pを、シートフレーム6F上に配置しつつシートカバー6Sで被覆する。このとき本実施例では、吊り部材32をシート内に引込みつつ、各係止部32bを、それぞれ対応する係止部材34に係止する。こうすることで第一表皮ピースSP1と第二表皮ピースSP2の縫合箇所SEW1(吊込部38)が溝部20に沿って凹状とされて、エアバッグ10の側方に配置することとなる。そして本実施例では、上述の吊り部材32の係止作業により、力布36の他端(縫合箇所sew)を、吊り部材32(吊り布32a)とともに吊込部38よりもシート内に配置させることができる。そして上述の作業とともに、膨出部30(第三表皮ピースSP3と第四表皮ピースSP4の縫合箇所)を土手部6bの側面に配置させる。
【0021】
[エアバッグの膨出]
図1及び
図3を参照して、エアバッグ10が、乗物衝突時の衝撃などにより土手部6bの側面(膨出部30)から膨出して乗員の側部を保護する。このとき本実施例では、力布36が、エアバッグ10の着座側に配設しつつ、エアバッグ10の膨張に伴って(シート内からの圧力にて)緊張する。そして力布36の張引にて膨出部30を開裂させて、エアバッグ10をシート外に膨出させる。この種の構成では、力布36にて膨出部30をより早く開裂させることにより、エアバッグ10を極力早期に膨出させることが望ましい。
【0022】
そこで本実施例では、力布36の一端を、膨出部30側に取付けるとともに、力布36の他端を、吊込部38よりもシート内において吊り部材32に取付ける構成とした。このように力布36の他端側を吊り部材32(シートカバー6Sの伸長の影響を極力受けない箇所)に取付けることで、エアバッグ10の膨張を受けて力布36が素早く緊張することができる。こうして力布36の張引力を素早く膨出部30に伝達することにより、膨出部30を早期に開裂させることができる。このため本実施例によれば、エアバッグ10が、シートカバー6S(未開裂状体の膨出部30)に極力遮られることなくスムーズにシート外に膨出することとなる。
【0023】
以上説明したとおり本実施例によれば、力布36の他端側を、吊り部材32(シートカバー6Sの伸長の影響を受けない箇所)に取付けて、力布36の張引力を素早く膨出部30に伝達することができる。特に本実施例では、力布36の他端側を、吊り布32aの先端側(係止部32b寄り)に取付けたことで、吊り布32a自体の伸長の影響を極力受けない構成とすることができる。このため本実施例によれば、エアバッグ10の膨出位置となる膨出部30をより早く開裂させることにより、エアバッグ10を極力早期に膨出させることができる。
【0024】
[変形例]
ここで力布36の他端は、吊り布32aのほか、係止部32bや係止部材34に取付けることができる。例えば力布36の他端側を、吊り布32aとともに係止部32b(吊り布32aの伸長の影響を受けない箇所)に直接取付けることができる。こうして吊り布32aの伸長の影響を排除して、力布36の張引力の伝達を速めることにより、膨出部30を素早く開裂させて、エアバッグ10をより早期に外部に膨出させることができる。
【0025】
本実施形態の乗物用シートは、上述した実施形態に限定されるものではなく、その他各種の実施形態を取り得る。本実施形態では、力布36の構成(形状,寸法,配設位置,配設数など)を例示したが、同部材の構成を限定する趣旨ではない。力布は、膨出部の位置に応じて、エアバッグの着座側や側部や後側を適宜覆うことができる。また力布は、膨出部に共縫いする構成のほか、膨出部とは異なる縫合箇所や接着や融着やファスナ等を介して膨出部近傍に取付けることができる。また本実施形態では、力布36の他端側を、縫合箇所sewを介して吊り布32aの先端側に取付ける例を説明した。力布の他端側は、接着や融着やファスナ等を介して吊り部材の適宜の位置に取付けることができる。
【0026】
また本実施形態では、係止部材34と吊り部材32の構成(形状,寸法,配設位置,配設数など)を例示したが、これら部材等の構成を限定する趣旨ではない。例えば係止部材と吊り部材は、互いに係止可能であるかぎり各種の構造(サスペンダ構造、クリップ構造、ホグリング構造など)を取り得る。例えばホグリング構造では、係止部材としてワイヤを溝部に配置するとともに、吊り部材(及び力布)の先端に他のワイヤを配設する。そしてこれらワイヤ同士をリング材で係止する(ホグリング止めする)構成とすることができる。なお吊り布の一端側は、所望の表皮ピース(例えば第一表皮ピース又は第二表皮ピース)に接着や融着やファスナ等を介して取付けることができる。また吊り部材の構成として、樹脂製の平板部(吊り布に相当)と係止部が一体化された構成を採用できる。
【0027】
また本実施形態では、エアバッグ10の構成(形状,寸法,配設位置,配設数など)を例示したが、同部材の構成を限定する趣旨ではない。そしてエアバッグの構成に応じて、他の部材(力布,吊り部材,係止部材など)の構成を適宜変更できる。
【0028】
また本実施形態では、専らシートバック6を一例に説明したが、本実施例の構成は、シートクッションにも適用可能である。また本実施形態の構成は、車両や航空機や電車などの乗物用シート全般に適用できる。