(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
石炭と溶剤とを混合して得られるスラリーを加熱して前記溶剤に可溶な石炭成分を抽出し、前記溶剤に可溶な前記石炭成分が溶解した溶液と、前記溶剤に不溶な前記石炭成分が濃縮した固形分濃縮液とに分離する分離工程と、
前記分離工程で分離された溶液から前記溶剤を蒸発分離することで無灰炭を得る無灰炭取得工程と、
前記分離工程で分離された固形分濃縮液から前記溶剤を蒸発分離することで副生炭を得る副生炭取得工程と、
前記副生炭取得工程で得られた前記副生炭をガス化することでプロセスガスを得るガス化工程と、
前記ガス化工程で得られた前記プロセスガスを燃料として、前記スラリーまたは前記溶剤を加熱する加熱工程と、
を備える、無灰炭の製造方法。
前記加熱工程の前記燃料は、前記スラリーを加熱して前記溶剤に可溶な前記石炭成分を抽出する抽出工程で発生したガスと前記プロセスガスとが混合された混合ガスである、
請求項1に記載の無灰炭の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
図1〜
図2を参照して第1実施形態の無灰炭製造方法(無灰炭の製造方法)、および、
図1に示す無灰炭製造装置1(無灰炭の製造装置)について説明する。
【0012】
無灰炭製造装置1は、無灰炭製造方法に用いられる。無灰炭製造方法は、原料の石炭から灰分を除去することで無灰炭(HPC;Hyper-coal)を製造する方法である。無灰炭製造装置1は、HPC製造プラントである。以下では、原料の石炭を単に「石炭」ともいう(後述するガス化炉51に関する説明を除く)。無灰炭製造装置1は、石炭・スラリー処理機器10と、循環路41と、熱交換器42(加熱装置)と、副生炭転換機器50と、を備える。
【0013】
石炭・スラリー処理機器10は、石炭・スラリー処理工程を行う機器である。石炭・スラリー処理工程は、石炭およびスラリー(後述)を処理する工程である。石炭・スラリー処理機器10は、溶剤タンク11と、石炭ホッパー12と、を備える。石炭・スラリー処理機器10は、上流側(無灰炭製造方法における上流側)から順に、スラリー調製槽21(加熱装置)と、移送ポンプ22と、予熱器23(加熱装置)と、抽出槽24(加熱装置)と、分離装置25と、溶剤分離装置30と、を備える。
【0014】
溶剤タンク11には、溶剤が貯留される(溶剤貯留工程)。
【0015】
石炭ホッパー12は、石炭を貯留および供給する(石炭貯留供給工程)。
【0016】
スラリー調製槽21(加熱装置)は、スラリー調製工程を行う槽である。スラリー調製工程は、石炭と溶剤とを混合することでスラリーを調製する工程である。スラリー調製槽21には、例えば循環路41から溶剤が供給され、例えば循環路41以外から溶剤が供給されてもよい。スラリー調製槽21には、溶剤タンク11に貯留された溶剤が供給される。この溶剤は、石炭を溶解させるものである。この溶剤は、例えば石炭誘導体である。この溶剤は、主に石炭の乾留生成物から精製されたものである。この溶剤は、例えば芳香族化合物を含む溶剤(芳香族溶剤)などである。スラリー調製槽21には、石炭ホッパー12から石炭が供給される。この石炭は、例えば瀝青炭または低品位炭(褐炭、亜瀝青炭)である。瀝青炭は、抽出率(溶剤に抽出される石炭の可溶成分の割合)が低品位炭よりも高い。低品位炭は、瀝青炭よりも安価である。スラリー調製槽21での、溶剤に対する石炭の混合比率は、乾燥炭基準で、例えば0.5〜4.0であり、好ましくは0.75〜2.0である。スラリー調製槽21は、スラリーを加熱してもよい。なお、溶剤およびスラリーの少なくともいずれかの加熱(以下「スラリーなどの加熱」ともいう)の詳細については後述する。
【0017】
移送ポンプ22は、移送工程を行う装置である。移送工程は、スラリー調製槽21で調製されたスラリーを、移送ポンプ22の下流側に移送する工程である。移送ポンプ22は、予熱器23にスラリーを移送する。移送ポンプ22は、予熱器23を介して抽出槽24にスラリーを移送する。
【0018】
予熱器23(加熱装置)は、予熱工程(加熱工程)を行う装置である。予熱工程は、スラリー調製槽21で調製されたスラリーを加熱する工程であって、抽出槽24にスラリーが供給される前に(後述する抽出工程が行われる前に)、予めスラリーを加熱する工程である。予熱器23は、ガス燃料(後述)を燃焼させることで生じる熱により、炉内の加熱を行う、ガス焚き加熱炉(後述)である。予熱器23の燃料には、後述するプロセスガスG1が含まれる。予熱器23の燃料は、例えばプロセスガスG1のみである。なお、予熱器23から排気ガスEが排出される。
【0019】
抽出槽24(加熱装置)は、抽出工程(下記の分離工程の一部)を行う槽である。抽出工程は、スラリー(石炭と溶剤とを混合して得られるスラリー)を加熱して、溶剤に可溶な石炭成分(溶剤可溶成分)を抽出する工程である。抽出槽24には、スラリー調製槽21からスラリーが供給される。抽出槽24には、予熱器23からスラリーが供給される。抽出槽24は、石炭中の有機成分を抽出する。この抽出の詳細は次の通りである。抽出槽24に供給されたスラリーは、抽出槽24に設けられた攪拌機で攪拌されながら、所定温度(後述)に加熱保持される。これにより、スラリーから溶剤可溶成分が抽出される。ただし、抽出物には、溶剤可溶成分だけでなく、溶剤に不溶な成分(溶剤不溶成分)(例えば灰分など)も含まれる。抽出槽24でのスラリーの加熱温度は、溶剤可溶成分が溶剤に溶解できるような温度に設定される。具体的には、スラリーの加熱温度は、例えば300℃以上、好ましくは360℃以上である。スラリーの加熱温度は、例えば420℃以下、好ましくは400℃以下である。
【0020】
この抽出槽24では、抽出の際に抽出槽生成ガスG2(
図3参照)が発生する。抽出槽生成ガスG2には、例えばCH
4、C
2H
4、C
2H
6、C
3H
8、C
4H
10、H
2、COなどが含まれる。抽出槽生成ガスG2の発熱量は、スラリーなどの加熱用の燃料として用いることができる程度に高カロリーであり、具体的には例えば約8000kcal/kgなどである。
【0021】
分離装置25は、分離工程(抽出工程を除く)を行う装置である。分離工程は、抽出槽24および分離装置25により行われる。分離工程は、抽出槽24で得られたスラリーを、分離装置25により、溶剤可溶成分が溶解した溶液(溶液部、上澄み液、オーバーフロー)と、溶剤不溶成分が濃縮した固形分濃縮液(アンダーフロー)とに分離する工程である。この分離の方法には、例えば、重力沈降法、ろ過法、および遠心分離法などがある。重力沈降法は、分離装置25の槽内にスラリーを保持し、重力を利用して溶剤不溶成分を沈降させることで、溶液と固形分濃縮液とに分離する方式である。
【0022】
溶剤分離装置30(溶剤回収設備)は、溶剤分離工程を行う装置である。溶剤分離工程は、分離装置25で分離された溶液から溶剤を蒸発分離する工程である。溶剤分離装置30は、分離装置25で分離された溶液から、無灰炭(HPC)や後述する副生炭(RC;Residue coal)を得るための装置である。溶剤分離装置30は、第1溶剤分離装置31と、第2溶剤分離装置32と、を備える。
【0023】
第1溶剤分離装置31は、無灰炭取得工程を行う装置である。無灰炭取得工程は、分離装置25で分離された溶液から溶剤を蒸発分離することで無灰炭を得る工程である。この蒸発分離の方法には、例えば蒸留法や蒸発法などがある。この無灰炭の詳細は次の通りである。無灰炭は、水分が皆無であり、灰分をほとんど含まない炭である。無灰炭に含まれる灰分は、5重量%以下であり、好ましくは3重量%以下である。無灰炭は、原料の石炭よりも発熱量が高く、着火性や燃え切り性が良い。無灰炭は、例えばボイラなどの燃料として用いられる。無灰炭は、原料の石炭よりも流動性(軟化溶融性)が高い。無灰炭は、例えば製鉄用コークスの原料または原料の一部(配合炭)として用いられる。
【0024】
第2溶剤分離装置32は、副生炭取得工程を行う装置である。副生炭取得工程は、分離装置25で分離された固形分濃縮液から溶剤を蒸発分離することで副生炭(残渣炭ともいう)を得る工程である。この副生炭の詳細は次の通りである。副生炭は、溶剤不溶成分(灰分など)が濃縮された炭である。副生炭は、原料の石炭や無灰炭に比べて、灰分濃度が高く、燃料としての市場価値が低く見積もられる場合がある。副生炭の発熱量は、無灰炭と比べると劣る。しかし、副生炭の発熱量は、スラリーなどの加熱用の燃料として用いることができる程度に高カロリーであり、具体的には例えば6000kcal/kg以上である。副生炭は、原料の石炭よりも高い着火性および燃え切り性能を示す。第2溶剤分離装置32で得られる副生炭(後述するドライヤ32bを経た副生炭)は、例えば微粉状であり、具体的には例えば粒径1mm未満である。第2溶剤分離装置32は、溶剤分離器32aと、ドライヤ32bと、を備える。
【0025】
溶剤分離器32aは、副生炭混合物取得工程を行う装置である。副生炭混合物取得工程は、分離装置25で分離された固形分濃縮液から溶剤を蒸発分離することで副生炭混合物を得る工程である。この副生炭混合物には、副生炭と、溶剤分離器32aで分離されずに残存した溶剤と、が含まれる。副生炭混合物中の溶剤は、例えば5〜10重量%などである。第2溶剤分離装置32での溶剤の蒸発分離の方法には、第1溶剤分離装置31での溶剤の蒸発分離の方法と同様に、蒸留法や蒸発法などがある。この蒸発分離は、窒素などの不活性ガスの存在下で行われることが好ましい(ドライヤ32bについても同様)。
【0026】
ドライヤ32bは、副生炭混合物乾燥工程を行う装置である。副生炭混合物乾燥工程は、溶剤分離器32aで得られた副生炭混合物から溶剤(残存する溶剤)を蒸発分離する工程である。副生炭混合物乾燥工程は、副生炭混合物に含まれる溶剤を乾燥させることにより、溶剤を含まない(またはほとんど含まない)副生炭を得る工程である。ドライヤ32bは、例えばスチームチューブドライヤである。ドライヤ32bは、例えば、キャリアガスとしての窒素ガスをドライヤ32b内部に流通させながら、副生炭混合物を加熱・滞留・攪拌する。
【0027】
循環路41は、循環工程を行うための流路(通路、配管)である。循環工程は、溶剤分離装置30で蒸発分離された溶剤を循環させる工程である。循環路41は、溶剤が流れる流路である。循環路41は、溶剤分離装置30で蒸発分離された溶剤を、例えば溶剤タンク11を介して(溶剤タンク11を介さなくてもよい)、スラリー調製槽21に供給する。循環路41により、無灰炭製造装置1内で溶剤を繰り返し使うことができる。
【0028】
熱交換器42(加熱装置)は、循環路昇温工程(加熱工程)を行う装置である。循環路昇温工程は、循環路41を流れる溶剤を昇温させる工程である。熱交換器42は、循環路41に配置される。熱交換器42は、溶剤分離装置30と溶剤タンク11との間の循環路41に配置される。熱交換器42は、溶剤タンク11とスラリー調製槽21との間の循環路41に配置されてもよい(図示なし)。
図1では、熱交換器42を1つのみ示したが、熱交換器42は2つ以上設けられてもよい。
【0029】
副生炭転換機器50は、副生炭転換工程を行う機器である。副生炭転換工程は、第2溶剤分離装置32で得られた副生炭のガス化などを行う工程である。
図2に示すように、副生炭転換機器50は、ガス化炉51と、改質炉52と、熱回収装置55と、プロセスガス精製設備61と、ガスホルダ62と、を備える。なお、
図1では、副生炭転換機器50の一部のみを示した。
【0030】
ガス化炉51は、ガス化工程を行う炉である。ガス化工程は、
図1に示す第2溶剤分離装置32で得られた副生炭をガス化することでプロセスガスG1(副生炭生成ガス)を得る工程である。プロセスガスG1は、無灰炭の製造過程(プロセス)で発生する副生炭から生成されるガスである。ガス化炉51は、ドライヤ32bで得られた副生炭をガス化する。ガス化炉51は、溶剤分離器32aで得られた副生炭混合物中の副生炭をガス化してもよい。ガス化炉51は、石炭ガス化炉である。石炭ガス化炉は、石炭(本実施形態では副生炭)を高温高圧下で酸化剤と反応させ、高温により石炭の熱分解を行うことで、石炭ガス(本実施形態ではプロセスガスG1)を発生させるものである。本実施形態では、ガス化炉51がガス化させるものは副生炭であるが、一般的には、石炭ガス化炉がガス化させるものは石炭である。そこで、以下では、ガス化炉51でガス化(石炭ガス化)させるものを「石炭」という。
【0031】
(石炭ガス化の基本反応)
ガス化炉51では、石炭が熱分解される。そして、酸素および水蒸気と、炭素と、が反応する。その結果、可燃ガス(例えばCOおよびH
2)が発生する。さらに詳しくは、ガス化炉51では次の反応が生じる。
石炭(副生炭)の熱分解 → C、Hなど
C + O
2 → CO
2 + 97kcal/mol
C + 1/2O
2 → 2CO + 29.4kcal/mol
C + CO
2 → 2CO − 38.2kcal/mol
C + H
2O → CO + H
2 − 31.4kcal/mol
C + 2H
2O → CO
2 + 2H
2 − 18.2kcal/mol
CO + H
2O → CO
2 + H
2 +10.0kcal/mol
【0032】
(石炭ガス化の方式)
ガス化炉51の形式は、例えば固定床ガス化炉であり、例えば流動床ガス化炉であり、例えば噴流床ガス化炉である。ガス化炉51の形式により、使用される石炭の粒子径、ガス化温度、および、炭素転換率(ガス化炉51に投入した石炭中の炭素量に対する、生成ガス中の炭素量の割合)が異なる。
【0033】
固定床ガス化炉では、炉内に投入された石炭(塊炭)がほぼ静止した状態で、石炭がガス化される。固定床ガス化炉の詳細は次の通りである。ガス化に用いられる石炭は塊炭であり、具体的にはガス化に用いられる石炭の平均粒子径は3〜50mmである。石炭は、ロックホッパ(図示なし)を通して炉内に供給される。炉内の石炭は、ガス化剤(例えば酸素および水蒸気)の上昇流に逆らうように、上から下へ炉を通して移動する。石炭は、この移動の間に、まず乾燥され、次に乾留され、最後にガス化される。ガス化温度は、800〜1000℃である。灰(石炭灰)は、プロセスのタイプに応じて固体または溶融状態で、炉から取り出される。このガス化と同時に、メタネーションが起こり、生成ガス中のCH
4が増える。CH
4が増えることにより、プロセスガスG1中の化学的エネルギーの割合が大きくなる。その結果、プロセスガスG1の冷ガス効率が高くなる(利用できるエネルギーが高くなる)。固定床ガス化炉では、流動床式ガス化炉や噴流床式ガス化炉に比べ、タールなどの重質油成分(以下「タールなど」)が発生しやすい。さらに詳しくは、固定床ガス化炉のガス化温度は、他の方式に比べて低い。ガス化温度が低いと、タールなどが低分子の生成物に変換されず、タールなどが冷却時に凝縮する。そのため、他の方式に比べて固定床ガス化炉では、タールなどが発生しやすい。
【0034】
流動床式ガス化炉では、炉内に投入された石炭(粉炭)が液体のような流動状態の層を形成した状態で、石炭がガス化される。流動床式ガス化炉の詳細は次の通りである。ガス化に用いられる石炭は粉炭であり、具体的にはガス化に用いられる石炭の平均粒子径は1〜6mmである。粉炭が用いられるので、石炭の粉砕動力を少なくできる(微粉炭が用いられる噴流床式ガス化炉と比べた場合)、または、粉砕動力をなくすことができる。炉内の石炭は、ガス化剤(例えば酸素、空気、および水蒸気)により流動化し、流動状態の層を形成する。石炭は、この層内でガス化される。ガス化温度は、粒子の集塊現象によって層の流動状態が乱されることがないように、灰の軟化温度よりも低く設定される。具体的には、ガス化温度は、800〜1100℃に保たれる必要がある。灰の融点(灰融点)が高いほど、ガス化温度を高くできるので、タールなどの発生を抑制できる。そのため、流動床式ガス化炉は、高灰融点炭のガス化に適している。このガス化温度は、噴流床式ガス化炉のガス化温度よりも低い。そのため、噴流床式ガス化炉に比べ、炉内での石炭粒子の滞留時間が長いにもかかわらず、炭素転換率が低い。炭素転換率を高くするためには、高反応性の石炭を使用する必要がある。
【0035】
噴流床式ガス化炉では、炉内に投入された石炭(微粉炭)が噴流状態でガス化される。噴流床式ガス化炉の詳細は次の通りである。ガス化に用いられる石炭は微粉炭であり、具体的にはガス化に用いられる石炭の平均粒子径約は0.1mmである。微粉炭が用いられるので、石炭(副生炭)を微粉砕する必要がある(例えば微粉炭火力発電などで行われるのと同様)。炉内の石炭は、ガス化剤の流れに伴って噴流状態になる。ガス化剤は、酸素または空気である。ガス化剤には、目的によっては少量(酸素や空気に対して少量)の水蒸気が含まれる。ガス化温度は、灰融点以上の1500〜1800℃程度である(高温雰囲気下で石炭がガス化される)。灰は、水で急冷され、非結晶質のガラス化されたスラグとして(スラグ状態で)炉外に取り出される。炉内では、ガス化されずに残るチャーが生じる。チャーは、主に固定炭素と灰分とを含む。チャーは、ガス化炉51の出口に設置された集塵装置(図示しないサイクロンや電気集塵機など)により回収された後、ガス化炉51へ再投入される。固定床式ガス化炉および流動床式ガス化炉(以下「他の方式」)と比べたときの、噴流床式ガス化炉のメリットは次の通りである。噴流床式ガス化炉のガス化温度は、他の方式よりも高温であり、タールなどが生成されないほど高温である。このガス化温度は他の方式に比べて高いので、他の方式に比べて排出灰中の未燃炭素分が少ない。ガス化温度が灰融点以上なので(ガス化温度の上限が灰融点によって制限されることがないので)、様々な灰融点の石炭に噴流床式ガス化炉を適用できる(炭種の適用幅が広い)。一般的に噴流床式ガス化炉は、他の方式に比べ、ガス化炉51容積あたりの石炭処理量が大きく、また、大容量化が容易である。
【0036】
このガス化炉51としては、固定床ガス化炉よりも、流動床式ガス化炉または噴流床式ガス化炉が好ましい。なぜなら、第2溶剤分離装置32から得られる副生炭は、粉状または微粉状(例えば平均粒径が約1mm未満)だからである。また、固定床ガス化炉に比べ、流動床式ガス化炉および噴流床式ガス化炉に用いられる石炭は、比表面積が大きいことによりガス化反応性が良好だからである。
【0037】
改質炉52(
図2参照)は、改質工程を行う。改質工程は、
図2に示すガス化炉51での生成物(上記のタールなど)を改質してガス化させる工程である。ガス化炉51が噴流床式ガス化炉の場合、タールなどが生成されないので、改質炉52は不要である。
【0038】
熱回収装置55は、熱回収工程を行う。熱回収工程は、ガス化炉51で発生した熱エネルギーを回収する工程である。熱回収装置55は、ガス化炉51で得られたプロセスガスG1の顕熱回収を行う。熱回収装置55は、蒸気や電気(電力)として、熱エネルギーを回収する。熱回収装置55により回収された熱エネルギーは、例えば無灰炭製造装置1(
図1参照)の構成要素に供給され、例えば無灰炭製造装置1の外部に供給されてもよい。熱回収装置55は、例えば、廃熱ボイラ56と、蒸気タービン57と、を備える。
【0039】
廃熱ボイラ56は、ガス化炉51で発生した熱エネルギーを用いて、蒸気を発生させる(蒸気発生工程)。
【0040】
蒸気タービン57は、廃熱ボイラ56で発生した蒸気を用いて電気を発生させる(電気発生工程)。
【0041】
プロセスガス精製設備61は、ガス化炉51で生成されたプロセスガスG1を精製する(プロセスガス精製工程)。
【0042】
ガスホルダ62は、プロセスガス精製設備61で精製されたプロセスガスG1を貯留する(プロセスガス貯留工程)。
【0043】
(加熱工程)
このプロセスガスG1は、加熱工程に用いられる。加熱工程は、ガス化炉51で得られたプロセスガスG1を燃料(エネルギー源)として、スラリーなど(スラリーおよび溶剤の少なくともいずれか)が加熱される工程である。加熱工程に用いられる装置(加熱装置)は、例えば予熱器23である。予熱器23は、プロセスガスG1を燃焼させることで生じる熱により、炉内のスラリーを加熱する。なお、加熱工程の他の具体例は後述する。
【0044】
(ランニングコストの比較)
図1に示す本実施形態の無灰炭製造装置1と、
図4に示す比較例1の無灰炭製造装置201(後述)とのランニングコストを比較した。
【0045】
(本実施形態のランニングコスト)
図1に示す無灰炭製造装置1では、予熱器23でのスラリーの加熱(以下「スラリー加熱」)の燃料は、副生炭から生成されたプロセスガスG1である。そのため、プロセスガスG1を生成するのに必要な副生炭は販売できなくなる。そこで、副生炭を販売できなくなることにより生じる損失(外販機会損失)を算出した。算出の一例は次の通りである。スラリー調製槽21が、原料の石炭500kg/h(水分10重量%)と溶剤1800kg/hとを混合することでスラリーを調製するとする。このとき、予熱器23によるスラリー加熱に必要なエネルギーは約0.037×10
6kcal/hである(後述する比較例1についても同様)。プロセスガスG1の低位発熱量基準(LHV;Lower Heating Value)を1100kcal/Nm
3と想定する。すると、スラリー加熱に必要なプロセスガスG1は、約33.6Nm
3/hである。副生炭1kgに対して得られるプロセスガスG1を約2.9Nm
3/hと想定すると、スラリー加熱に必要なプロセスガスG1を生成するのに必要な副生炭は、約11.6kg/hである。副生炭価格を(一般炭価格より安価な)7000円/tonとすると、副生炭の外販機会損失は、80.5円/h(年間64.4万円)となる。
【0046】
(比較例1のランニングコスト)
図4に、比較例1の無灰炭製造装置201を示す。無灰炭製造装置1(
図1参照)に対する無灰炭製造装置201の相違点は、予熱器23の燃料が、天然ガス(NG;Natural Gas)のみ、またはLPガス(LPG;Liquefied Petroleum Gas)のみである点である。この比較例1の無灰炭製造装置201のランニングコスト(燃料コスト)を算出した。
【0047】
(燃料が天然ガスのみの場合)予熱器23の燃料が天然ガスのみの場合、スラリー加熱に必要な天然ガスは、約4.331Nm
3/hである。天然ガスの価格を約60円/Nm
3とすると、スラリー加熱に必要な天然ガスの燃料コストは、260円/h(年間208万円)である。よって、天然ガスのみを予熱器23の燃料とする場合に対し、本実施形態の無灰炭製造装置1(
図1参照)は、約180円/h(年間144万円)のランニングコストの削減となる。
【0048】
(燃料がLPガスのみの場合)予熱器23の燃料がLPガスのみの場合、スラリー加熱に必要なLPガスは、約3.7kg/hである。LPガスの価格を約90円/kgとすると、スラリー加熱に必要なLPガスの燃料コストは、333円/h(年間266.4万円)である。よって、LPガスのみを予熱器23の燃料とする場合に対し、本実施形態の無灰炭製造装置1(
図1参照)は、約250円/h(年間200万円)のランニングコストの削減となる。
【0049】
(固形燃料とガス燃料との比較)
加熱工程で燃料として用いられるプロセスガスG1は、ガス燃料である。固形燃料に対するガス燃料のメリットを説明する。
【0050】
(固形燃料)
図5に、比較例2の無灰炭製造装置301を示す。比較例2の無灰炭製造装置301は、スラリーなどの加熱用の燃料が固形燃料である場合の一例である。無灰炭製造装置1(
図1参照)に対する比較例2の無灰炭製造装置301の相違点は次の[相違a]および[相違b]である。[相違a]予熱器23の燃料は、ガス化していない副生炭(RC)であり、固形燃料である。[相違b]副生炭の水分を調整する加湿器370を備える。加湿器370は、副生炭のハンドリング性を向上させる(例えば風による飛散を抑制する)ために設けられる。
【0051】
(ガス燃料)
図1に示すように、本実施形態の無灰炭製造装置1では、予熱器23の燃料(加熱工程に用いられる燃料)は、ガス燃料であるプロセスガスG1である。よって、加熱工程に用いられる燃料が固形燃料の場合に比べ、次の[メリットa]〜[メリットe]がある。[メリットa]燃料のハンドリング(燃料の移動や貯留など)が容易である。例えば、比較例2の無灰炭製造装置301(
図5参照)では、固形燃料のハンドリング性向上のために加湿器370(
図5参照)が設けられるが、ガス燃料が用いられる無灰炭製造装置1では、加湿器370は不要である。[メリットb]予熱器23への燃料供給を安定して行うことができる。[メリットc]燃料の性状(例えば乾燥の度合いなど)が安定している。[メリットd]燃料の燃焼性能が良い。
【0052】
さらに、ガス化炉51として噴流床式ガス化炉が用いられる場合は、比較例2の無灰炭製造装置301(
図5参照)に対して次の[メリットe]が得られる。[メリットe]灰の排出容積を小さくできる。さらに詳しくは、比較例2の無灰炭製造装置301(
図5参照)では、固形燃料としての副生炭を燃焼させると灰(「灰α」とする)が生じる。一方、上記のように、無灰炭製造装置1では、ガス化工程(ガス化炉51)でスラグ状態の灰が生じる。このスラグ状態の灰は、上記「灰α」よりも容積が小さい。
【0053】
(流体の加熱手段の比較)
加熱工程に用いられる予熱器23は、ガス焚き加熱炉である。ガス焚き加熱炉の特徴(性質)を説明する。流体の加熱手段としては、例えば、電気ヒータ、熱媒加熱ヒータ、誘導伝熱式加熱炉、ガス焚き加熱炉、およびオイル焚き加熱炉などが一般的に知られている。また、流体の加熱手段として、一般的には広まっていない石炭焚き加熱炉がある。各加熱手段の性質の概略(イメージ)を表1に示す。
【0055】
各加熱手段のデメリットは次の通りである。電気ヒータや熱媒ヒータは、無灰炭製造方法に用いられるほどの大容量加熱には適していない。誘導伝熱式加熱炉は、他の加熱手段に比べ設備コストが高く、大容量加熱に適用し難い。ガス焚き加熱炉やオイル焚き加熱炉(以下「ガス焚き加熱炉など」)の燃料は、一般的には、例えば天然ガス、プロパンガス、または重油などである。これらの燃料は安価とは言い難い(上記「(比較例1のランニングコスト)」参照)。燃料コストが高い結果、無灰炭の製造に要するランニングコストが高くなる。石炭焚き加熱炉は、一般的には広まっていないので、開発要素(リスク)が大きい。石炭焚き加熱炉の開発要素には、例えば、灰付着による伝熱性能への影響、スラッギングおよびファウリング対策、局部加熱による加熱管のコーキングや腐食対策などがある。また、石炭焚き加熱炉では固形燃料が用いられるので、上記のように、ガス燃料が用いられる場合に比べ、燃料のハンドリング性などの面で劣る。
【0056】
ガス焚き加熱炉など、および石炭焚き加熱炉のメリットは次の通りである。ガス焚き加熱炉などは、様々なプロセス流体の大容量加熱に使用されており、無灰炭製造方法(無灰炭製造装置1)にも適用可能である。さらに、ガス焚き加熱炉などは、排ガス処理設備や燃焼後残渣処理設備(例えば、灰処理設備)を必要としない。また、石炭焚き加熱炉の燃料として副生炭が用いられる場合は、燃料が天然ガスなどである場合に比べ、燃料コストを低減できる。
【0057】
そこで、本実施形態の無灰炭製造方法(無灰炭製造装置1)の加熱工程では、副生炭をガス化したプロセスガスG1を燃料として、スラリーなどが加熱される。よって、ガス焚き加熱炉のデメリット(燃料コスト高)、および、石炭焚き加熱炉のデメリット(固形燃料、開発要素)を解消できる。さらに、ガス焚き加熱炉のメリット(大容量加熱に適用可能、ガス燃料の使用など)、および、石炭焚き加熱炉のメリット(燃料コスト低減)が得られる。
【0058】
(効果)
図1に示す無灰炭製造装置1および無灰炭製造方法による効果を説明する。以下では、各工程を行うために用いられる機器(各工程に対応する機器)を、工程の名称の後に括弧を付して示す。
【0059】
(効果1)(発明1、3)
無灰炭製造方法(無灰炭製造装置1)は、分離工程(抽出槽24および分離装置25)と、無灰炭取得工程(第1溶剤分離装置31)と、副生炭取得工程(第2溶剤分離装置32)と、を備える。また、無灰炭製造方法(無灰炭製造装置1)は、ガス化工程(ガス化炉51)と、加熱工程(予熱器23)と、を備える。分離工程(の抽出工程(抽出槽24))は、石炭と溶剤とを混合して得られるスラリーを加熱して、溶剤に可溶な石炭成分を抽出する工程である。分離工程(分離装置25)は、スラリー(抽出工程(抽出槽24)で得られたスラリー)を、溶剤に可溶な石炭成分(溶剤可溶成分)が溶解した溶液と、溶剤に不溶な石炭成分(溶剤不溶成分)が濃縮した固形分濃縮液と、に分離する工程である。無灰炭取得工程(第1溶剤分離装置31)は、分離工程(分離装置25)で分離された溶液から溶剤を蒸発分離することで無灰炭(HPC)を得る工程である。副生炭取得工程(第2溶剤分離装置32)は、分離工程(分離装置25)で分離された固形分濃縮液から溶剤を蒸発分離することで副生炭(RC)を得る工程である。
[構成1−1]ガス化工程(ガス化炉51)は、副生炭取得工程(第2溶剤分離装置32)で得られた副生炭をガス化することでプロセスガスG1を得る工程である。
[構成1−2]加熱工程(予熱器23)は、ガス化工程(ガス化炉51)で得られたプロセスガスG1を燃料として、スラリーまたは溶剤を加熱する工程である(溶剤の加熱については後述)。
【0060】
上記[構成1−1]および[構成1−2]では、加熱工程(予熱器23)に用いられる燃料の原料は、副生炭取得工程(第2溶剤分離装置32)で得られた副生炭である。よって、副生炭取得工程(第2溶剤分離装置32)で得られた副生炭以外の燃料のみが加熱工程(予熱器23)に用いられる場合に比べ、加熱工程(予熱器23)に用いられる燃料の燃料コストを抑制できる。よって、スラリーまたは溶剤(スラリーおよび溶剤の少なくともいずれか)を加熱するための燃料コストを抑制できる。その結果、無灰炭の製造に要するランニングコストを抑制できる。その結果、無灰炭を安価に製造できる。
【0061】
上記[構成1−2]では、加熱工程(予熱器23)に用いられる燃料は、プロセスガスG1であり、ガス燃料である。よって、副生炭取得工程(第2溶剤分離装置32)で得られた副生炭が、ガス化されることなく固形燃料として加熱工程(予熱器23)に用いられる場合に比べ、燃料のハンドリングを容易に行える。よって、加熱装置(予熱器23)に容易に(確実に、安定して)燃料を供給できる。よって、スラリーまたは溶剤を加熱する加熱装置(予熱器23)を安定して操業できる。
【0062】
(第2実施形態)
図3を参照して、第2実施形態の無灰炭製造装置101について、第1実施形態との相違点を説明する。なお、無灰炭製造装置101のうち、第1実施形態との共通点については、第1実施形態と同一の符号(
図1参照)を付し、説明を省略した。無灰炭製造装置101では、加熱工程(予熱器23)に用いられる燃料は、プロセスガスG1と、抽出槽生成ガスG2と、が混合された混合ガスG3である。抽出槽生成ガスG2は、加熱工程(予熱器23)の補助燃料として利用される。加熱工程(予熱器23)に用いられる燃料は、例えば混合ガスG3のみである。
【0063】
(効果2)(発明2)
[構成2]加熱工程(予熱器23)の燃料は、スラリーを加熱して溶剤に可溶な石炭成分を抽出する抽出工程(抽出槽24)で発生した抽出槽生成ガスG2と、プロセスガスG1と、が混合された混合ガスG3である。
【0064】
上記[構成2]により、加熱工程(予熱器23)に抽出槽生成ガスG2が用いられない場合に比べ、加熱工程(予熱器23)に用いられる燃料の燃料コストをより低減できる。
【0065】
(加熱工程の変形例)
加熱工程は様々に変形できる。加熱工程の加熱の態様は、例えば下記の[直接的加熱]であり、また例えば下記の[間接的加熱]でもよく、[直接的加熱]および[間接的加熱]両方が行われてもよい。
[直接的加熱]プロセスガスG1を燃焼させることで生じる熱により、スラリーなどが直接加熱される。例えば、上記のように、予熱器23が、プロセスガスG1を燃焼させることで生じる熱により、炉内のスラリーを加熱する。
[間接的加熱]プロセスガスG1を燃焼させることで生じる熱により、熱交換媒体(例えば液体や気体)が加熱され、この熱交換媒体とスラリーなどとで熱交換が行われることにより、スラリーなどが加熱されてもよい。熱交換媒体の加熱は、図示しないガス焚き炉により行われる。熱交換媒体とスラリーなどとの熱交換は、例えば、熱交換器42、スラリー調製槽21、または抽出槽24などにより行われる。
【0066】
加熱工程での加熱対象は、スラリーおよび溶剤の少なくともいずれかである。加熱工程での加熱対象は、例えば次の[加熱対象a]であり、[加熱対象b]〜[加熱対象d]などでもよい。加熱工程での加熱対象は、下記の各加熱対象のうち、1つでもよく、複数でもよい。
[加熱対象a]加熱工程での加熱対象は、スラリー調製槽21で調製され、抽出槽24に供給される前のスラリーである。この場合、加熱工程を行う加熱装置は、予熱工程を行う予熱器23である。
[加熱対象b]加熱工程での加熱対象は、スラリー調製槽21内のスラリーでもよい。この場合、加熱工程を行う加熱装置は、スラリー調製槽21である(加熱装置とスラリー調製槽21とが兼用される)。
[加熱対象c]加熱工程での加熱対象は、抽出槽24内のスラリーでもよい。この場合、加熱工程を行う加熱装置は、抽出槽24である(加熱装置と抽出槽24とが兼用される)。
[加熱対象d]加熱工程での加熱対象は、スラリー調製槽21に供給される前の溶剤でもよい。例えば、加熱工程での加熱対象は、次の[加熱対象d−1]や[加熱対象d−2]である。
[加熱対象d−1]加熱工程での加熱対象は、循環路41を通る溶剤でもよい。この場合、加熱工程を行う加熱装置は、循環路昇温工程を行う熱交換器42である。
[加熱対象d−2]加熱工程での加熱対象は、循環路41を通らない溶剤であって、スラリー調製槽21に供給される溶剤でもよい。
【0067】
加熱工程(例えば予熱器23)に用いられる燃料は、第1実施形態では例えばプロセスガスG1(
図1参照)のみであり、第2実施形態では例えば混合ガスG3(
図3参照)のみであった。しかし、加熱工程(例えば予熱器23)に用いられる燃料は、少なくともプロセスガスG1が含まれていればよい。例えば、加熱工程に用いられる燃料に、天然ガス、LPガス、または重油などが含まれてもよい。
【0068】
上記実施形態の構成要素の一部がなくてもよい。例えば、循環路41はなくてもよい。また例えば、加熱工程に用いられる加熱装置(予熱器23、熱交換器42など)は、少なくとも1つあればよい。