(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係るエレベータの乗りかごの一例を、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【0011】
《第1の実施形態》
[エレベータの乗りかごの内部の構成]
図1に、本発明の第1の実施形態に係るエレベータの乗りかごの内部の様子を示す概略構成を示し、
図2に、要部の断面構成を示す。
図1に示すように、本実施形態のエレベータの乗りかご1は、かご床2と、側板3と、扉部10と、天井4と、かご床2と側板3との間に設けられる幅木7とを備え、これらに囲まれる空間が乗客等を収容できるかご室となる。
【0012】
かご床2は、
図2に示すように、かご室側の面が水平な床面となる台状の部材で構成され、かご室側に面する側の床面には、タイルなどで構成された床板23が設けられている。本実施形態では、かご床は、床面が四角形状の板状のかご床本体21と、かご床本体21の径よりも小さい径を有する台状の部材で構成された土台部22とで構成され、土台部22上面にかご床本体21が設けられた構成とされている。天井4は、かご室を介してかご床2と対向する位置に設けられている。側板3は、かご室の側面を囲むようにかご床2の周囲に立設され、扉部10を除く位置に複数設けられる。詳述すると、側板3は、扉部10が設けられる前面に対向する背面と、対向して設けられる2つの側面に設けられる。扉部10は、かご室の前面に設けられ、開閉可能に設けられている。扉部10はかご室への出入り口となる。
【0013】
[要部の構成]
次に、エレベータの乗りかご1の要部について説明する。
図2に示すように、エレベータの乗りかご1は、かご床2及び側板3を支持する床枠5と、かご床2と側板3との間に設けられる幅木7と、幅木7を固定するためのばね部材8とを備える。
【0014】
[床枠]
まず、床枠5について説明する。床枠5は、かご床2を支持する側に水平面を備える底部51と、底部51の側面から底部51の水平面に対して側板3が配置される方向に延在する側壁部52と、側壁部52の底部51側とは反対側の端部においてかご室側に延在する水平面を備える上端部55とを備える。側壁部52は、かご床2のかご床本体21と土台部22との間の段差部の形状に沿うように設けられた段差部52aを有している。本実施形態では、かご床2の土台部22の底面が床枠5の底部51に当接し、かご床2のかご床本体21の底面が床枠5の段差部52aの水平面に当接することで、かご床2が床枠5に支持される。すなわち、本実施形態では、かご床2にかかる荷重は、床枠5の底部51及び段差部52aによって受けられる。
【0015】
また、床枠5の上端部55のかご室側に向かう方向の幅の長さは、側板3の厚みとほぼ同じに形成されており、上端部55の所望の位置には、側板3を床枠5の上端部55に固定するためのボルト締結孔53が設けられている。本実施形態では、側板3と床枠5の上端部55とが、ボルト締結孔53においてボルト6とナット(図示を省略する)で締め付けられることによって固定される。これにより、側板3が床枠5の上端部55に支持される。
【0016】
さらに、床枠5の側壁部52には、段差部52aと上端部55との間の領域の所望の位置に、ばね部材8を固定するためのボルト締結孔54が設けられている。ボルト締結孔54では、側壁部52のかご室側にばね部材8がボルト9(本発明の固定部)とナット(図示を省略する)によって固定される。
【0017】
[幅木]
次に、幅木7について説明する。本実施形態では、幅木7の構造が特徴を有する。
図3は、幅木7の概略斜視図である。また、
図4は、かご室の側面と背面とに取り付けられる2本の幅木7(7A,7B)をかご室の内側から透過して見た構成図であり、
図5は、ばね部材8が取り付けられる側から見た幅木7の概略斜視図である。また、
図6は、ばね部材8が取り付けられる側から見た幅木7の概略構成図である。以下の説明において、背面の幅木7と側面の幅木7とを区別する場合には、それぞれ「背面幅木7A」、「側面幅木7B」と記載し、区別しない場合には「幅木7」と記載する。
【0018】
幅木7は、かご室側において、床枠5の上端部55と側板3とのボルト締結孔53を被覆するために床枠5と側板3との間に設けられる。本実施形態では、幅木7は、扉部10が設けられる位置を除くかご床2の3つの辺にそれぞれ一つずつ設けられており、それぞれの幅木7は、側板3が設けられるかご床2の一辺に対応する長さに形成されている。
図2及び
図3に示すように、幅木7は、意匠面部71と、下部水平部73と、上部水平部72と、補強部74とを備え、これらは一枚の鋼板を折り曲げることによって一体に形成されている。
【0019】
意匠面部71は、かご室側に露出される意匠面71aを有している。意匠面71aは、
図2に示すように側板3のかご室側の面とほぼ平行な面である。かご床2の床面に直交する方向における意匠面部71の長さ、すなわち意匠面部71の短手方向の長さは、床面に配置された床板23と側板3との間の長さとほぼ等しく構成される。また、
図4に示すように、背面幅木7Aにおいては、意匠面部71の短手方向に直交する長手方向の長さは対応する床面の辺と同じ長さに構成され、側面幅木7Bにおいては、意匠面部71の長手方向の長さは対応する床面の辺よりも若干長く構成されている。
【0020】
下部水平部73は、意匠面部71の下部側(かご床2側)の端部からかご室とは反対側に延在して設けられている。意匠面71aに直交する方向における下部水平部73の長さは、幅木7を床枠5に取り付けたときに下部水平部73の端部が床枠5の側壁部52に当接する長さに構成されている。
【0021】
上部水平部72は、下部水平部73よりも上部側(側板3側)であって、後述するばね部材8のばね部81が配置される位置に設けられ、意匠面部71から床枠5の側壁部52側に延在する水平面を有するように構成されている。また、上部水平部72の側壁部52に固定されるばね部81に対向する位置には、後述するばね部材8のばね部81が嵌合する嵌合孔72aが設けられている。したがって、上部水平部72における意匠面71aに直交する方向の長さは、ばね部材8のばね部81が嵌合する嵌合孔72aを形成できる程度の幅に構成されている。
【0022】
補強部74は、上部水平部72の側壁部52側の端部から鉛直下方向に延在して設けられ、意匠面71aと平行な平面を有するように構成されている。補強部74は幅木7の断面性能/剛性を向上させるために設けられる部位である。また、補強部74の、側壁部52に設けられるボルト締結孔54に対向する位置には切り欠き部74aが設けられている。切り欠き部74aは、ボルト締結孔54に取り付けられるボルト9が補強部74に当たるのを回避する為に設けられている。
【0023】
また、本実施形態では、下部水平部73、上部水平部72及び補強部74の長手方向の両端部は、
図5に示すように、意匠面部71側から側壁部52側に向かうに連れて長手方向の長さが短くなるようなテーパ状に形成されている。本実施形態では、例えば下部水平部73は、所定の角度βで長手方向の長さが意匠面部71の長手方向の長さより短くなるように構成され、上部水平部72及び補強部74は、所定の角度αで長手方向の長さが意匠面部71の長さより短くなるように構成されている。
【0024】
本実施形態では、下部水平部73、上部水平部72及び補強部74の長手方向の両端部をテーパ状に形成し、意匠面部71の長手方向の長さよりも短くすることによって、隣接する他の部材との緩衝を避けることができるので幅木7の取り付け時における取り扱いが容易になる。また、
図4及び
図5に示すように幅木7の角部が鈍角になるため、幅木7の取り扱い時の安全性を向上させることができる。
【0025】
図7は、本実施形態の幅木7の展開図である。本実施形態では、幅木7は、
図6に示すような厚さ0.7mmの鋼板を折り曲げることによって形成されている。また、本実施形態における幅木7は、
図6に示すように、長手方向の両端部において、下部水平部73、上部水平部72及び補強部74となる部分を面取りし、
図6に示す形状の板状部材を折り曲げ加工することによって下部水平部73、上部水平部72及び補強部74の長手方向の両端部をテーパ状にすることができる。幅木7を構成する鋼板の材料としては、例えば、ステンレス鋼板を用いることができる。また、幅木7としては、塗装や印刷が施された各種鋼板を用いることができる。
【0026】
[ばね部材]
次に、ばね部材8について説明する。ばね部材8は、平面が矩形状の板状部材で構成された取り付け部82と、取り付け部82の一端から延在して設けられたばね部81とを備えたいわゆる板ばねであり、取り付け部82及びばね部81は、一枚の板状部材を折り曲げることによって一体に形成されている。取り付け部82には、ばね部81が設けられる方向と直交する方向に並列した2つの長穴82aが形成されている。長穴82aは、ばね部81が設けられる方向に長い角丸長方形状(小判型)に形成されている。また、取り付け部82のばね部81とは反対側の端部は、ばね部81とほぼ並行となるように折り曲げられている。
【0027】
ばね部81は、取り付け部82の平面に直交する方向に延在して設けられており、その断面形状は、取り付け部82側に窪み部が形成されるような断面凹形状に形成されている。断面凹形状に形成されたばね部81は、前述した幅木7の上部水平部72に設けられた嵌合孔72aに嵌合可能な大きさに形成されている。また、取り付け部82の平面に直交する方向におけるばね部81の幅は、側壁部52と幅木7の意匠面部71との間の隙間に収まる幅に構成されている。
【0028】
本実施形態では、取り付け部82を側壁部52のかご室側に当接させ、取り付け部82の長穴82aと側壁部52に設けられたボルト締結孔54とを位置あわせし、その後、ボルト9とナット(図示を省略する)で両者を固定する。このとき、ばね部材8のばね部81が幅木7の上部水平部72に設けられた嵌合孔72aに嵌合すると共に、ばね部81が上部水平部72を鉛直下方向に付勢することができる高さとなるように、ばね部材8の高さを調整する。本実施形態では、取り付け部82のボルト9が挿入される穴を長穴82aとすることにより、かご床2の床面に配置される床板23の厚さに応じて、ばね部材8の取り付け位置を調整することができる。
【0029】
〈幅木の取り付け方法〉
次に、本実施形態における幅木7の取り付け方法について説明する。まず、床枠5の側壁部52の所望の位置にばね部材8をボルト9とナット(図示を省略する)を用いて固定する。この場合、前述したように、床板23の厚みに応じてばね部材8が丁度いい高さとなるようにばね部材8を取り付ける。この高さは、ばね部材8のばね部81が幅木7の上部水平部72の嵌合孔72aに嵌合可能であると共に、ばね部81が上部水平部72を鉛直下方向に付勢可能な高さであり、ばね部81の最も低い位置が上部水平部72の高さよりも低くなる位置である。
【0030】
その後、幅木7の上部水平部72に設けられた嵌合孔72aにばね部材8のばね部81を嵌合させながら幅木7を床枠5に嵌め込む。これにより、ばね部材8のばね部81によって幅木7の上部水平部72は鉛直下方向に付勢されることに伴って下部水平部73がかご床2の床面側に押し付けられ、幅木7が床枠5に固定される。本実施形態では、幅木7が取り付けられる床枠5の3つの辺のうち、まず、扉部10を挟んで対向する2つの辺、すなわちかご室の両側面に側面幅木7Bを嵌め込み、次に、扉部10に対向する辺、すなわちかご室の背面側に背面幅木7Aを嵌め込む。なお、扉部10側にも幅木7を嵌め込む必要がある場合には、側面幅木7Bを嵌め込んだ後に、前面幅木を嵌め込む。
【0031】
このとき、側面幅木7Bの長手方向の長さは床枠5の辺(かご室の辺)よりも少し長く形成されており、背面幅木7Aの長手方向の長さは床枠5の辺(かご室の辺)と同じに形成されている。したがって、
図4に示すように、側面幅木7Bの意匠面部71に背面幅木7Aの両端部が当接する形で背面幅木7Aが床枠(
図2参照)に嵌め込まれる。このため、側面幅木7Bと背面幅木7Aとの間の隙間調整が容易になる。以上の作業により、幅木7の取り付けが完了する。そして、幅木7が取り付けられることにより、
図2に示すように、床枠5と側板3とを固定するボルト9が被覆され、側板3と床板23との間の隙間がかご室側から見えなくなるように隠される。
【0032】
本実施形態では、幅木7において補強部74が設けられることにより、幅木7の断面性能/剛性を向上させることができる。したがって、補強部74を設けることにより、幅木7を形成するための鋼板の厚みを従来のものよりも薄くした場合にも、幅木7に必要な所望の断面性能/剛性を確保することができるため、幅木7の軽量化及び原価低減を図ることができる。
【0033】
従来の幅木7では、所望の断面剛性を得るために1.2mm以上の厚みの鋼板を用いる必要があった。一方で、幅木7は一枚の板状部材を折り曲げることによって所定の形状に加工されるが、厚みが1.2mm以上のステンレス鋼板を用いた場合、曲げ成型が困難となり、一枚の板状部材を折り曲げて形成する幅木は実用化することができなかった。すなわち、幅木7において、補強部74が設けられていない場合には、厚みが1.2mmよりも小さい鋼板を用いた場合には、ばね部材8に耐え得る剛性が得られず、厚みを1.2mm以上にした場合には曲げ成型ができないという問題があった。
【0034】
これに対し、本実施形態では、補強部74を設けることにより、曲げ成型が可能な厚み0.7mmのステンレス鋼板を用いた場合にも必要な断面性能/剛性を確保することができることが検証により判明している。このように、本実施形態では、鋼板の板厚寸法を低減できることから、折り曲げ成型が容易となり、幅木7として使用可能な素材の選択肢を広げることができる。
【0035】
本実施形態では、補強部74は、上部水平部72の端部から鉛直下方向に延びるように形成されているが、下部水平部73の床枠5側の端部から鉛直上方向に延びるように形成してもよい。すなわち、補強部74はその延在方向が、上部水平部72と下部水平部73との間の上下方向であればよい。ところで、幅木7の断面性能/剛性を向上させる方法として、下部水平部73や上部水平部72の短手方向の長さを長くする方法も考えられる。しかしながら、下部水平部73や上部水平部72の短手方向の長さを長くするよりも、上部水平部72及び下部水平部73間において上下方向に延在する補強部74を設ける方が、下部水平部73や上部水平部72の短手方向の長さを長くするよりも、意匠面部71を曲がりにくくすることができる。したがって、補強部74は、上部水平部72又は下部水平部73の端部から上下方向に延びるように形成することが好ましい。
【0036】
また、本実施形態のように、補強部74を上部水平部72の端部から鉛直下方向に延びるように設けることにより、ばね部材8に対する幅木7の強度も高めることができる。すなわち、幅木7を固定する際、ばね部材8によって上部水平部72が鉛直方向に付勢されることで幅木7が固定されるが、上部水平部72側に補強部74を設けることで、ばね部材8からの押圧力に対する上部水平部72の強度を高めることができる。なお、本実施形態では、補強部74はその平面が意匠面71aと平行であり、鉛直方向に延びるように形成されているが、必ずしも鉛直方向である必要はない。例えば、補強部74は、上部水平部72と下部水平部73との間で上下方向に延在していればよく、意匠面71aに対して斜め方向に延在していてもよい。
【0037】
また、本実施形態では、補強部74に切り欠き部74aが設けられる。これにより、幅木7を取り付ける際に、ばね部材8を固定するためのボルト9に補強部74が当たるのを回避することができる。本実施形態では、切り欠き部74aは一方が開口した矩形状に形成されているが、穴状に形成してもよく、ボルト9が補強部74に当たるのを回避できる形状であればいかなる形状であってもよい。
【0038】
《第2の実施形態》
次に、本発明の第2の実施形態に係るエレベータの乗りかごについて説明する。本実施形態のエレベータの乗りかごは、幅木の構成(特に、側面幅木の構成)が第1の実施形態と異なる。
図8は、本実施形態の幅木70の概略構成図である。本実施形態のエレベータの乗りかごの全体の構成については第1の実施形態と同様であるから説明を省略し、また、
図8において、
図5に対応する部分には同一符号を付し重複説明を省略する。
【0039】
ところで、
図4に示すような側面幅木7Bは、対向する2つの側面に設けられるが、側面幅木7Bのうち一方の幅木7を左側幅木、他方の幅木7を右側幅木としたとき、通常は左側幅木と右側幅木の長手方向の長さは同じである。したがって、左側幅木と右側幅木として同じものを用いることができれば、コストの低減や作業効率の向上に繋がる。しかしながら、幅木7を固定するためのばね部材8の床枠5への固定位置は、幅木7の長手方向の中心部に設けられるとは限らない。例えば、左側幅木及び右側幅木を固定するばね部材8が、それぞれ、幅木7の長手方向の中心部よりも扉部10側手前に対向するように配置された場合(すなわち、左右勝手違いでばね部材8が配置された場合)、左側幅木と右側幅木とでは、嵌合孔72a及び切り欠き部74aの位置を異なる位置に配置する必要がある。したがって、左側幅木と右側幅木とを共通の部材とすることができない。
【0040】
そこで、本実施形態では、
図8に示すように、1つの幅木70に、左側幅木として用いる場合に使用可能な嵌合孔76及び切り欠き部78と、右側幅木として用いる場合に使用可能な嵌合孔77及び切り欠き部79の両方を予め形成する。そうすると、
図8に示すように、幅木70を、例えば右側幅木として用いる場合には、左側幅木用の嵌合孔77及び切り欠き部79は使用されない。逆に、幅木70を、左側幅木として用いる場合には、右側幅木用の嵌合孔76及び切り欠き部78は使用されない。
【0041】
本実施形態では、側面に使用される幅木70において、左右勝手違いに取り付けられたばね部材8に対応可能な嵌合孔76,77及び切り欠き部78,79を設けることにより、左側幅木と右側幅木とで共通の部材を用いることができる。これにより、コストの低減や作業効率の向上を図ることができる。
【0042】
以上、本発明について、実施形態に基づいて説明したが、本発明は上述の実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。例えば、上述した実施形態例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成について他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。