【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、
・ 第1の細胞の少なくとも1つの透過処理された核、または前記核を含む少なくとも1つの透過処理された第1の細胞[なお前記第1の細胞は、多細胞生物に由来する人工多能性幹細胞、すなわちiPS細胞である]と;
・ 多細胞生物の雌生殖細胞または卵子の単離された抽出物[なお前記卵子は減数分裂の中期IIにおいて遮断されており、前記抽出物はEGTAを含む]と;
を含む組成物の、
− 多能性幹細胞または前記多能性幹細胞に由来する組織を得るための方法、または
− 詳細には前記プロセスが人間のクローニングを目的としていないことを条件とする、クローニングする方法、
を実施するための使用に関する。
【0024】
本発明は、多細胞細胞の卵子の細胞抽出物と分化細胞の脱分化を可能にする遺伝子の組合せが相乗的に作用して細胞の再プログラミングすなわち分化細胞の細胞脱分化を著しく増強し、ひいては先行技術の技法によって得られる核移植およびクローニング、すなわちiPSおよび核抽出物を増強するという発明者らがなした予想外の観察事実に基づくものである。
【0025】
「生殖細胞」という表現は、配偶子を形成する可能性のある細胞を意味する。
【0026】
「雌生殖細胞」という表現は、「卵子」とも呼ばれ、卵形成の任意の段階における細胞、詳細には始原生殖細胞、卵原細胞および卵母細胞に関するものである。
【0027】
生殖細胞抽出物は、第2減数分裂の中期段階で停止させられた卵子から作られる。
【0028】
「雌生殖細胞または卵子の抽出物」は、Menutら[Menutら、(1999)、「Advances in Molecular Biology:A comparativeMethods Approach to the Study of Ooocytes and Embryos」、ed Richter JD(OxfordUniversity Press)、pp196−226、2001]中に記載されているプロセスを実施することによって得られる細胞抽出物(CSF抽出物と呼ばれる)である。
【0029】
上述の抽出物は、「単離されている」、すなわち前記抽出物はインビトロで得られる。この抽出物はこうして、細胞または細胞の一部分、例えば当該技術分野において公知であるスフェロプラストまたはリポソームとは全く異なるものである。
【0030】
抽出物は、実施例1に開示されている通りに調製される。
【0031】
抽出物における絶対必要条件の1つは、減数分裂の中期IIに抽出物を維持することを可能にするカルシウムキレート剤であるEGTAの存在である。実際、当該技術分野において、卵子は、精子と接触した後、カルシウムが細胞内に入った時点で活性化され、中期IIから退出することが周知である。
【0032】
拡大解釈すると、電気ショック、針接触または卵子の原形質膜を修飾するあらゆる動作が、卵子内にカルシウム流出を誘発し、こうして、活性化された中期II停止卵子となった卵子、すなわち間期卵子を「ロック解除」する。
【0033】
本発明においては、雌生殖細胞の単離抽出物または卵子の単離抽出物が、その調製およびその使用中、中期状態に保たれることが必須である。
【0034】
雌生殖細胞の単離抽出物または卵子の単離抽出物が中期に遮断されている、EGTAにより誘発された脆い状態を制御することが必要である。本発明においては、中期における単離抽出物の遮断は安定した状態に維持される。すなわち、多細胞生物の雌生殖細胞または卵子の抽出物を得るために使用される卵子は、減数分裂の中期IIにおいて安定した形で遮断される。
【0035】
中期における単離抽出物の遮断の安定性は、異なる方法で判定される。抽出物の中期段階は、クロマチンの構造、セリン10上のヒストンH3のリン酸化反応によって検査可能である。その上、抽出物の中期安定性は、中期で遮断された抽出物が、カルシウム添加により予め活性化されている場合にのみ精子クロマチンを効率良く複製できることから、DNA合成から追跡可能である。追跡DNA合成の試験は、当該技術分野において周知の技術、例えば[
32P]αdCTP取込みの測定(
図12)によって達成される。
【0036】
以上および以下では、雌生殖細胞抽出物は、脊椎動物の有糸分裂非ヒト初期胚によって置換され得る。前記脊椎動物の有糸分裂非ヒト初期胚は、Lemaitreら[Lemaitreら、(2005)、Cell 123:1−15]中に記載のプロセスによって得られるかもしれない。
【0037】
「多細胞生物(pluricellular organismまたはmulti cellular orgnis)」という表現は、複数の細胞で構成された生物を意味している。前記多細胞(multi cellularまたはpluricellular)生物においては、類似の細胞が通常、組成内で凝集し、異なる組織の特異的配置が器官を形成する。
【0038】
本発明において、一般にiPS細胞またはiPSCsと省略されている「人工多能性細胞」は、特異的遺伝子の「強制的」発現を誘発することによって非多能性細胞、典型的には成体体細胞から人工的に誘導されるタイプの多能性幹細胞を意味する。
【0039】
人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、一部の幹細胞遺伝子およびタンパク質の発現、クロマチンメチル化パターン、倍加時間、胚様体形成、奇形腫形成、生存キメラ形成、および効能および分化可能性などの多くの面において、天然の多能性幹細胞、例えば胚幹(ES)細胞と類似しているが、天然多能性幹細胞に対するそれらの関与の全容は、いまだ評価の途上にある。
【0040】
発明者らによりなされた予想外の考察の1つは、非相同抽出物がiPS誘発遺伝子と相乗作用を示して分化細胞を脱分化し得るということである。換言すると、アフリカツメガエル抽出物は、iPS誘発遺伝子と共に、アフリカツメガエルと異なる多細胞生物に由来する分化細胞を脱分化するように作用することができる。
【0041】
以上を準用して、マウスの卵子抽出物は、iPS誘発遺伝子と相乗作用を示して、例えばアフリカツメガエル分化細胞を脱分化することができると考えられる。
【0042】
全ての組合せが可能であり、当業者であれば、過度の負担なく、本発明に係る方法を実施するのに自らにとってより容易である抽出物を、容易に選択できるものと考えられる。
【0043】
幹細胞は、分裂能力を保ち他の細胞型へと分化できる原始未分化細胞である。分化全能性幹細胞は、胚細胞型および胚体外細胞型へと分化できる。多能性幹細胞は分化全能性細胞に由来し、3つの胚葉、すなわち中胚葉、外胚葉および内胚葉の誘導体である後代を発生させることができる。
【0044】
体細胞は、卵母細胞および精子以外の任意の細胞である。
【0045】
「分化体細胞」は、特定の機能を専門とし、他の種類の細胞を発生させる能力またはより低い分化状態に戻る能力を維持しない体細胞である。
【0046】
分化体細胞は、詳細には生物のあらゆる種類の組織、例えば皮膚、腸、肝臓、血液、筋肉などに由来してよい。
【0047】
細胞内への雌生殖細胞抽出物の進入を改善するため、細胞膜は透過処理される。細胞膜の透過処理は、当該技術分野において周知の技術、例えば化学的作用物質または穏やかな洗浄剤、例えばジギトニン、Nonidet(商標)P40(4−ノニルフェニル−ポリエチレングリコール;NP40)、Triton(登録商標)X100(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェニル−ポリエチレングリコール、t−オクチルフェノキシポリエトキシエタノール、ポリエチレングリコールtert−オクチルフェニルエーテル)、デオキシコール酸ナトリウム(DOC)、Triton(登録商標)N101(ポリオキシエチレン分岐ノニルシクロヘキシルエーテル)、Brij(登録商標)96(ポリオキシエチレン10オレオイルエーテル)、または細胞膜内に小孔を作ることのできる酸素、例えばリゾレシチンの使用によって、あるいは例えばピペット操作など、細胞膜を少なくとも部分的に開放できる機械的プロセスを介して、達成される。
【0048】
好ましくは、第1の細胞の核または前記核を含む第1の細胞が、軽く透過処理される。
【0049】
「軽い透過処理」は、例えば、低濃度の洗浄剤、例えばNP40、Triton(登録商標)X100、DOC、Triton(登録商標)N101、Brij(登録商標)96、リゾレシチン、ジギトニンを使用することによって得られる。
【0050】
1つの有利な実施形態において、本発明は、前記iPS細胞が、Klfファミリー成員タンパク質、Mycファミリー成員タンパク質、Nanog成員タンパク質およびLIN28成員の中から選択された少なくとも1つの他の因子と共に、少なくともOctファミリー成員タンパク質およびSoxファミリー成員タンパク質を分化体細胞内で発現させることを可能にすることによって得られる、以上で定義した使用に関する。
【0051】
1つの有利な実施形態においては、本発明は、前記iPS細胞が、Klfファミリー成員タンパク質、Mycファミリー成員タンパク質、Nanog成員タンパク質およびLIN28成員の中から選択された少なくとも1つの他の因子と共に、少なくともOctファミリー成員タンパク質およびSoxファミリー成員タンパク質をコードする遺伝子を用いて分化体細胞をトランスフェクトすることによって得られる、以上で定義した使用に関する。
【0052】
1つの有利な実施形態において、本発明は、前記iPS細胞が、
− Klfファミリー成員タンパク質およびMycファミリー成員タンパク質、
− またはNanog成員タンパク質およびLIN28成員のいずれか、
と共に、少なくともOctファミリー成員タンパク質およびSoxファミリー成員タンパク質を分化体細胞内で発現させることを可能にすることによって得られる、以上で定義した使用に関する。
【0053】
1つの有利な実施形態において、本発明は、前記iPS細胞が、
− Klfファミリー成員タンパク質およびMycファミリー成員タンパク質、
− またはNanog成員タンパク質およびLIN28成員のいずれか、
と共に、
少なくともOctファミリー成員タンパク質およびSoxファミリー成員タンパク質をコードする遺伝子を用いて分化体細胞をトランスフェクトすることによって得られる、以上で定義した使用に関する。
【0054】
1つの別の有利な実施形態において、本発明は、前記Octファミリー成員タンパク質がOct3かOct4タンパク質のいずれかである、以上で定義した使用に関する。
【0055】
1つの別の有利な実施形態において、本発明は、前記Soxファミリー成員タンパク質がSox2タンパク質である、以上で定義した使用に関する。
【0056】
1つの別の有利な実施形態において、本発明は、前記iPS細胞が、Klfファミリー成員タンパク質、Mycファミリー成員タンパク質、Nanog成員タンパク質およびLIN28ファミリー成員タンパク質の中から選択された少なくとも1つの他の因子と共に、少なくともOct4タンパク質およびSox2タンパク質を分化体細胞内で発現させることを可能にすることによって得られる、以上で定義した使用に関する。
【0057】
1つの有利な実施形態においては、本発明は、前記iPS細胞が、Klfファミリー成員タンパク質、Mycファミリー成員タンパク質、Nanog成員タンパク質およびLIN28ファミリー成員タンパク質の中から選択された少なくとも1つの他の因子と共に、少なくともOct4タンパク質およびSox2タンパク質をコードする遺伝子を用いて分化体細胞をトランスフェクトすることによって得られる、以上で定義した使用に関する。
【0058】
発明者らは、以上で言及した抽出物と組合せた形での、
− Oct4、Sox2およびKlfファミリー成員タンパク質、
− Oct4、Sox2およびMycファミリー成員タンパク質
− Oct4、Sox2およびNanog成員タンパク質、および
− Oct4、Sox2およびLIN28ファミリー成員タンパク質、
という遺伝子の最小限の組合せが、遺伝子のみあるいは抽出物のみの場合に比べて核移植およびクローニングを増強できることを実証した。
【0059】
1つの別の有利な実施形態において、本発明は、前記Klfファミリー成員タンパク質がKlf4タンパク質である、以上で定義した使用に関する。
【0060】
1つの別の有利な実施形態において、本発明は、前記Mycファミリー成員タンパク質がc−Mycタンパク質である、以上で定義した使用に関する。
【0061】
さらに別の有利な実施形態において、本発明は、前記iPS細胞が、
− Oct4、Sox2、Klf4およびc−Mycタンパク質の第1の組成物、
− またはOct4、Sox2、NanogおよびLIN28タンパク質の第2の組成物のいずれかと、
分化体細胞とを接触させることによって得られる、以上で定義した使用に関する。
【0062】
遺伝子の上述の組合せが、好ましい組合せである。
【0063】
本発明は、別の有利な実施形態において、前記抽出物が実質的にいかなる細胞質膜も有していない、以上で定義した使用に関する。
【0064】
核を抽出した卵子の断片化(超音波処理、機械的断片化など)からなる他のクローニング技術とは異なり、本発明に係る抽出物にはいかなる細胞質膜も無い。ただし、抽出物は、機能性核を再構成するために使用可能な核膜前躯体(核エンベロープ膜を含む小胞)を含む場合がある。
【0065】
さらに別の有利な実施形態においては、本発明は、前記抽出物が、0.1mM−10mM、好ましくは0.5mM−6mM、より好ましくは1mM−4mM、詳細には1−2mMの濃度でEGTAを含む、以上で定義した使用に関する。
【0066】
1つの実施形態において、本発明は、前記雌生殖細胞の単離抽出物または卵子の単離抽出物が非ヒト細胞である以上で定義した使用に関する。
【0067】
本発明は同様に、
・ 第1の細胞の少なくとも1つの透過処理された核、または前記核を含む少なくとも1つの透過処理された第1の細胞[なお、前記第1の細胞は多細胞生物に由来し、前記第1の細胞は人工多能性幹細胞すなわちiPS細胞である]と;
・ 多細胞生物の雌生殖細胞または卵子の、場合によって単離された抽出物[なお前記卵子は減数分裂の中期IIにおいて遮断されており、前記抽出物はEGTAを含む]と;
を含む組成物にも関する。
【0068】
核は、低張緩衝液中でのインキュベーションによる細胞破砕、ダウンス型ホモジナイザーまたはポッター型ホモジナイザーあるいはスクロース、グリセロールまたは類似の安定化剤を含む等張緩衝液の使用および、細胞膜を開放または分断することのできるポッター型ホモジナイザーまたはダウンス型ホモジナイザーの使用など、当該技術分野において周知の技術により、細胞から抽出され得る。
【0069】
核は、直接使用されるか、またはその無欠性を維持する特定の条件下、例えば−20℃、−80℃の温度下または液体窒素中など、卵母細胞または初期胚を保管するのに使用することが公知である条件下で保管される。
【0070】
1つの有利な実施形態において、本発明は、前記iPSが、少なくとも、
− Octファミリー、
ー成員タンパク質およびSoxファミリー成員タンパク質、および
− Klfファミリー成員タンパク質およびMycファミリー成員タンパク質か、
− あるいはNanog成員タンパク質およびLIN28成員のいずれか、
と分化体細胞を接触させることによって得られる、以上で定義した組成物に関する。
【0071】
1つの有利な実施形態において、本発明は、
・ 第1の細胞の少なくとも1つの透過処理された核、または前記核を含む少なくとも1つの透過処理された第1の細胞[なお、前記第1の細胞は多細胞生物に由来し、前記第1の細胞は人工多能性幹細胞すなわちiPS細胞であり、前記iPSは、少なくとも
− Octファミリー成員タンパク質およびSoxファミリー成員タンパク質、ならびに
− Klfファミリー成員タンパク質およびMycファミリー成員タンパク質か、
− あるいはNanog成員タンパク質およびLIN28成員のいずれか、
をコードする遺伝子の組合せを発現する]と;
・ 多細胞生物の雌生殖細胞または卵子の単離抽出物[なお前記卵子は減数分裂の中期IIにおいて遮断されており、前記抽出物はEGTAを含む]と;
を含む、以上で定義した組成物に関する。
【0072】
1つの別の有利な実施形態において、本発明は、前記Octファミリー成員タンパク質がOct3またはOct4タンパク質である、以上で定義した組成物に関する。
【0073】
1つの別の有利な実施形態において、本発明は、前記Soxファミリー成員タンパク質がSox2タンパク質である、以上で定義した組成物に関する。
【0074】
1つの別の有利な実施形態において、本発明は、前記Klfファミリー成員タンパク質がKlf4タンパク質である、以上で定義した組成物に関する。
【0075】
1つの別の有利な実施形態において、本発明は、前記Mycファミリー成員タンパク質がc−Mycタンパク質である、以上で定義した組成物に関する。
【0076】
さらに別の有利な実施形態において、本発明は、4つのタンパク質、Oct4、Sox2、Klf4およびc−Mycタンパク質、または4つのタンパク質、Oct4、Sox2、NanogおよびLIN28タンパク質と分化体細胞とを接触させることによって前記iPS細胞が得られる、以上で定義した組成物に関する。
【0077】
1つの別の有利な実施形態においては、本発明は、4つのタンパク質、Oct4、Sox2、Klf4およびc−Mycタンパク質または4つのタンパク質、Oct4、Sox2、NanogおよびLIN28タンパク質をコードする遺伝子で分化体細胞をトランスフェクトすることによって前記iPS細胞が得られる、以上で定義した組成物に関する。
【0078】
前記4種のタンパク質の両方共、本発明中に定義されている抽出物と共に使用された場合のその相乗作用に関して、類似の効果を有する。
【0079】
本発明は、別の有利な実施形態において、前記抽出物が実質的にいかなる脂質膜も有していない、以上で定義した組成物に関する。
【0080】
さらに別の有利な実施形態において、本発明は、前記抽出物が、0.1mM−10mM、好ましくは0.5mM−6mM、より好ましくは1mM−4mM、詳細には1−2mMの濃度でEGTAを含んでいる、以上で定義した組成物に関する。
【0081】
1つの有利な実施形態において、本発明は、前記雌生殖細胞が、好ましくは哺乳動物、詳細にはヒト、鳥類、爬虫類および両生類から選択される脊椎動物の雌生殖細胞である、以上で定義した組成物に関する。
【0082】
上述の脊椎動物から卵子または雌生殖細胞を得るための技術は、当該技術分野において周知の現行の獣医学的技術である。
【0083】
1つの別の有利な実施形態において、本発明は、前記雌生殖細胞がアフリカツメガエル細胞である、以上で定義した組成物に関する。
【0084】
アフリカツメガエルの卵子は、Menutら(1999年)で開示されている通りに得られる。
【0085】
1つの実施形態において、本発明は、前記雌生殖細胞の単離抽出物または卵子の単離抽出物が非ヒト細胞である以上で定義した組成物に関する。
【0086】
本発明は同様に、第1の細胞の少なくとも1つの透過処理された核または前記核を含む少なくとも1つの透過処理された第1の細胞[なお、前記第1の細胞は多細胞生物に由来し、前記第1の細胞は、人工多能性幹細胞すなわちiPS細胞である]と、多細胞生物の雌生殖細胞または卵子の(単離)抽出物[なお前記卵子は減数分裂の中期IIにおいて遮断されており、前記抽出物はEGTAを含む]とを接触させるステップを含む、多能性幹細胞の生産方法にも関する。
【0087】
本発明は同様に、場合によっては人間をクローニングするためのプロセスでないことを条件として、第1の細胞の少なくとも1つの透過処理された核または前記核を含む少なくとも1つの透過処理された第1の細胞[なお、前記第1の細胞は多細胞生物に由来し、前記第1の細胞は、人工多能性幹細胞すなわちiPS細胞である]と、多細胞生物の雌生殖細胞または卵子の抽出物[なお前記卵子は減数分裂の中期IIにおいて遮断されており、前記抽出物はEGTAを含む]とを接触させるステップを含む、多能性幹細胞の生産方法にも関する。
【0088】
「接触させる」という用語は、細胞、または核および雌生殖細胞が、好適な条件下で共に存在し、こうして、雌生殖細胞抽出物内に含まれた分子が前記細胞または核内へ拡散できるようにしていることを意味する。接触は、好ましくは、優先的に20℃−23℃の温度で、好ましくは少なくとも10分間、より好ましくは少なくとも20分間、より好ましくは少なくとも30分間実施される。
【0089】
上述の方法によると、分化細胞の透過処理された核または透過処理された分化細胞は、多細胞生物の雌生殖細胞または卵子の抽出物との接触後[前記卵子は減数分裂の中期IIにおいて遮断されている]、多能性幹細胞の全ての特徴を有するか、獲得するかまたは再度獲得する。
【0090】
1つの有利な実施形態において、本発明は、前記iPSが、少なくとも
− Octファミリー成員タンパク質およびSoxファミリー成員タンパク質、および
− Klfファミリー成員タンパク質およびMycファミリー成員タンパク質か、
− あるいはNanogファミリー成員タンパク質およびLIN28ファミリー成員タンパク質のいずれか、
と分化体細胞を接触させることによって得られる、以上で定義した方法に関する。
【0091】
1つの有利な実施形態において、本発明は、前記iPSが、少なくとも、
− Octファミリー成員タンパク質およびSoxファミリー成員タンパク質、および
− Klfファミリー成員タンパク質およびMycファミリー成員タンパク質か、
− あるいはNanogファミリー成員タンパク質およびLIN28ファミリー成員タンパク質のいずれか、
をコードする遺伝子を用いて分化体細胞をトランスフェクトすることによって得られる、以上で定義した方法に関する。
【0092】
1つの有利な実施形態において、本発明は、前記Octファミリー成員タンパク質がOct3またはOct4タンパク質である、以上で定義した方法に関する。
【0093】
1つの有利な実施形態において、本発明は、前記Soxファミリー成員タンパク質がSox2タンパク質である、以上で定義した方法に関する。
【0094】
1つの有利な実施形態において、本発明は、前記Klfファミリー成員タンパク質がKlf4タンパク質である、以上で定義した方法に関する。
【0095】
1つの有利な実施形態において、本発明は、前記Mycファミリー成員タンパク質がc−Mycタンパク質である、以上で定義した方法に関する。
【0096】
こうして、透過処理された細胞の場合、細胞が適切な培地、好ましくはES細胞の維持のために使用される培地の中で維持されるならば、前記細胞は、抽出物との接触および上述の遺伝子すなわちOct4、Sox2、Klf4およびc−Mycタンパク質またはOct4、Sox2、NanogおよびLIN28タンパク質の再発現の後、ES細胞と比べて類似の特徴を内包することになる。
【0097】
1つの有利な実施形態において、本発明は、
・ Oct4、Sox2、Klf4およびc−Mycタンパク質の第1の組合せか、
・ あるいはOct4、Sox2、NanogおよびLIN28タンパク質の第2の組合せのいずれか、
を少なくともコードする遺伝子で分化した体細胞をトランスフェクトする第1のステップにおいて、第1の組合せまたは第2の組合せがそれぞれ、Oct4、Sox2、Klf4およびc−Mycタンパク質またはOct4、Sox2、NanogおよびLIN28タンパク質をコードする核酸を少なくとも含む、以上で定義した方法に関する。
【0098】
1つの有利な実施形態において、本発明は、
−・ Oct4、Sox2、Klf4およびc−Mycタンパク質の第1の組成物か、
・ あるいはOct4、Sox2、NanogおよびLIN28タンパク質の第2の組成物のいずれか、
と分化した体細胞を接触させて、iPS細胞である第1の細胞を得るステップと;
− 先行するステップで得た前記第1の細胞を透過処理して、透過処理されたiPS細胞を得るステップと;
− 多細胞生物の雌生殖細胞または卵子の(単離された)抽出物と前記透過処理されたiPSとを接触させるステップ[なお前記卵子は減数分裂の中期IIにおいて遮断され、前記抽出物はEGTAを含む]と;
を含む、以上で定義した方法に関する。
【0099】
1つの有利な実施形態において、本発明は、
−・ Oct4、Sox2、Klf4およびc−Mycタンパク質の第1の組合せか、
・ あるいはOct4、Sox2、NanogおよびLIN28タンパク質の第2の組合せのいずれか、
をコードする遺伝子で分化した体細胞をトランスフェクトして、iPS細胞である第1の細胞を得るステップと;
− 先行するステップで得た前記第1の細胞を透過処理して、透過処理されたiPS細胞を得るステップと;
− 多細胞生物の雌生殖細胞または卵子の単離抽出物と前記透過処理されたiPSとを接触させるステップ[なお前記卵子は減数分裂の中期IIにおいて遮断され、前記抽出物はEGTAを含む]と;
を含む、以上で定義した方法に関する。
【0100】
1つの有利な実施形態において、本発明は、前記雌生殖細胞が、好ましくは哺乳動物、詳細にはヒト、鳥類、爬虫類および両生類の中から選択される脊椎動物の雌生殖細胞であり、好ましくは前記生殖細胞がアフリカツメガエル細胞である、以上で定義した方法に関する。
【0101】
1つの実施形態において、本発明は、前記雌生殖細胞の単離抽出物または前記卵子の単離抽出物が非ヒト細胞である、以上で定義した方法に関する。
【0102】
本発明は同様に、先に定義した方法にしたがったプロセスにより得られる傾向にある多能性幹細胞にも関する。
【0103】
発明者らは、本発明に係るプロセスによって得られる細胞が、天然の幹細胞のパターンとは異なる後成的パターンを内包することを実証した。
【0104】
1つの有利な実施形態において、本発明は、
・ Oct4、Sox2、Klf4およびc−Mycタンパク質の第1の組成物か、
・ あるいはOct4、Sox2、NanogおよびLIN28タンパク質の第2の組成物のいずれか、
と分化した体細胞とを接触させるステップにおいて、第1の組成物または第2の組成物がそれぞれ、Oct4、Sox2、Klf4およびc−Mycタンパク質またはOct4、Sox2、NanogおよびLIN28タンパク質をコードする核酸を少なくとも含む、以上で定義した方法に関する。
【0105】
1つの有利な実施形態において、本発明は、Oct4、Sox2、Klf4およびc−Mycタンパク質またはOct4、Sox2、NanogおよびLIN28タンパク質をコードする前記少なくとも1つの核酸が、少なくとも1つのウイルスベクター、好ましくは少なくとも1つのレトロウイルスベクター、詳細には少なくとも1つの組込み型レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターの中に含まれている、以上で定義した方法に関する。
【0106】
1つの有利な実施形態において、本発明は、前記少なくとも1つの組込み型レトロウイルスベクターが、前記分化体細胞のゲノム内に組込まれる、以上で定義した方法に関する。
【0107】
1つの有利な実施形態において、本発明は、前記多能性幹細胞の多能性の維持を可能にする培地内で先行ステップにおいて得られた細胞を培養するステップをさらに含む、以上で定義した方法に関する。
【0108】
「前記多能性幹細胞の多能性の維持を可能にする培地」は、未分化細胞の細胞分裂を可能にする滋養物、成長因子、ホルモンなどを含む培地である。
【0109】
例えば、ES細胞は、有糸分裂で不活性化された初代マウス胎児線維芽細胞のフィーダー細胞層でコーティングされた皿の中で、使用前に、
− 15%(v/v)のFCS(牛の新生児由来の血清、液体、ES培地について試験済み、アリコートを−20℃で保管)、
− 溶解状態で10日間のみ安定な、1/100(v/v)のL−グルタミン(200mM:Gibco 25030−024、アリコートを−20℃で保管)、
− 1/100(v/v)の可欠アミノ酸(Gibco 11140−035、アリコートを冷蔵庫で保管)、
− 1/100(v/v)のペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco 15140−122、アリコートを−20℃で保管)、
− 1/500(v/v)の2−メルカプトエタノール(Gibco 31350−010、最終濃度0.1mM、アリコートを冷蔵庫内で保管)、
− 1/10,000(v/v)のLIF(白血病抑制因子(Chemicon製「ESGRO」、No.ESG1107、最終濃度1000U/ml以下(それぞれの細胞株の特性による)、10%(v/v)ほどの血清と共にDMEM中で1/100希釈液を作り、さらに1/100だけ希釈して常用濃度を達成する。−20℃で保管)、
で補足されたDMEM(高グルコース、Gibco 41966−052、冷蔵庫で保管)最少培地中において、37℃/CO2、50%/湿度95%で成長させられる。
【0110】
当業者であれば、上述のプロトコルを容易に適応させることができる。
【0111】
1つの有利な実施形態において、本発明は、前記抽出物が実質的にいかなる原形質膜も有していない、以上で定義した方法に関する。
【0112】
1つの有利な実施形態において、本発明は、前記抽出物が、0.1mM−10mM、好ましくは0.5mM−6mM、より好ましくは1mM−4mM、詳細には1−2mMの濃度でEGTAを含む、以上で定義した方法に関する。
【0113】
本発明は同様に、
− 先行する定義に係る方法において定義されている多能性幹細胞の生産ステップと;
− 前記多能性幹細胞が由来する種と同じ種の動物の除核卵子内に前記多能性幹細胞の核を移植して、アロ有核卵子を得るステップと;
− 前記多能性幹細胞が由来する種と同じ種の偽妊娠雌内に前記アロ有核卵子を移植するステップと;
を含む、動物、好ましくは哺乳動物をクローニングするための方法にも関する。
【0114】
この有利な実施形態において、本発明に係る動物のクローニング方法は、以下の通りである:
− 以上で言及した通り遺伝子を発現することにより分化細胞を脱分化する、
− 前記細胞の核を抽出し、わずかに透過処理し、多細胞生物の雌生殖細胞または卵子の単離抽出物に対して曝露する[前記卵子は減数分裂の中期IIにおいて遮断されており、前記抽出物はEGTAを含む]、
− 次に、任意には核をPBSで洗浄する、
− 核を除核卵子内に移植する。
【0115】
除核卵子は、当該技術分野において周知の技術により卵子の核を除核することによって得られる。こうして、本発明に係る抽出物によって処理された核は前記除核卵子内にマイクロインジェクションされる。好ましくは、本発明によって処理された核は、同じ種の除核卵子内にマイクロインジェクションされる。例えば、マウスの核は、マウスの除核卵子中に注入される。新たに得た有核卵子は、このときアロ有核卵子と呼ばれる。
【0116】
しかしながら、完全に異なるものではない異なる種の除核卵子の中に核をマイクロインジェクションすることができる。例えばマウスの核がラットの除核卵子に注入され、また逆の場合もある。新たに得られた有核卵子はこのとき、ヘテロ有核卵子と呼ばれる。
【0117】
− 新たに得た有核卵子(ヘテロまたはアロ有核卵子)はこうして、除核卵子が由来する種と同じ種の偽妊娠雌の子宮内に移植される。
【0118】
したがって、除核卵子がマウスから得られる場合、偽妊娠雌はマウスである。除核卵子がラットから得られる場合、偽妊娠雌はラットとなる。
【0119】
前記偽妊娠雌から得た後代はその後、本発明によって処理された核が提供された動物のクローンとなる。
【0120】
本発明は同様に、好ましくは人間をクローニングするためのプロセスではないことを条件として、
− 以上で定義した方法において定義されている多能性幹細胞の生産ステップと;
− 前記多能性幹細胞が由来する種と同じ種の動物の除核卵子内に前記多能性幹細胞の核を移植して、アロ有核卵子を得るステップと;
を含む、動物、好ましくは哺乳動物をクローニングするための方法にも関する。
【0121】
本発明は同様に、先に定義した方法に係るプロセスにより得られる傾向をもつ動物にも関する。
【0122】
本発明に関して、「クローニング」という用語は、ドナー細胞の核から動物全体あるいは前記動物の胚を得ることを意味する。
【0123】
ドナー細胞の核は、細胞周期のS期をひき起こして初期胚発生の最初の分裂を開始させるように活性化され得る。活性化は、当該技術分野において周知の技術により達成され得る。
【0124】
卵子抽出物は、詳細には例えばリン酸緩衝食塩水(PBS)中での数回の洗浄など、前記核を含む核または細胞を洗浄することによって、部分的または完全に除去され得る。
【0125】
核は、マイクロインジェクションなどの当該技術分野において周知の技術によって、除核卵子内に導入される。
【0126】
各々の除核卵子について、1つの核または1つのドナー細胞が導入される。
【0127】
除核卵子は優先的に核と同じ種に由来する。除核卵子は当該技術分野において周知の技術により得られる。
【0128】
このとき核を含む除核卵子を雌の種畜の体内に移植してその初期胚発生、胚発生および胎児発生を行なわせる。
【0129】
1つの生物の異なる組織に由来する細胞は、詳細には、任意の種類の組織、例えば皮膚、腸、肝臓、血液、筋肉などに由来する細胞の中から選択される。
【0130】
本発明は同様に、所望の分化段階で、多細胞生物、詳細には脊椎動物の細胞、細胞株または組織を得るための方法において、
− 以上で定義した方法において定義されている多能性幹細胞の生産ステップと;
− 所望の分化段階で細胞、細胞株または組織を得るための適切な条件下で、多能性幹細胞を培養するステップと;
を含む方法にも関する。
【0131】
結果として得られた多能性または分化全能性の幹細胞は、前記細胞を未分化状態で維持するための適切な条件下で培養され得る。
【0132】
当業者であれば、自らの一般的知識から、特定のタイプの細胞に向かう特異的分化を達成して好ましくはインビトロで異なる段階にある細胞または器官を得るために好ましい成長因子、ホルモン、培地および刺激などが何であるかを認識している。
【0133】
本発明は同様に、先に定義した方法に係るプロセスによって得られる傾向にある、所望の分化段階にある多細胞生物、詳細には脊椎動物の細胞株または組織にも関する。