特許第6234925号(P6234925)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6234925歩留りを制御する方法及び該方法に使用される中間生成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6234925
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】歩留りを制御する方法及び該方法に使用される中間生成物
(51)【国際特許分類】
   D21F 11/00 20060101AFI20171113BHJP
   D21H 21/16 20060101ALI20171113BHJP
   D21H 23/76 20060101ALI20171113BHJP
   D21H 15/02 20060101ALI20171113BHJP
   D21H 11/16 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   D21F11/00
   D21H21/16
   D21H23/76
   D21H15/02
   D21H11/16
【請求項の数】16
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-530286(P2014-530286)
(86)(22)【出願日】2012年9月12日
(65)【公表番号】特表2014-526619(P2014-526619A)
(43)【公表日】2014年10月6日
(86)【国際出願番号】FI2012050883
(87)【国際公開番号】WO2013038061
(87)【国際公開日】20130321
【審査請求日】2015年8月25日
(31)【優先権主張番号】20115893
(32)【優先日】2011年9月12日
(33)【優先権主張国】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】512236917
【氏名又は名称】ストラ エンソ オーワイジェイ
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100096943
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100102808
【弁理士】
【氏名又は名称】高梨 憲通
(74)【代理人】
【識別番号】100128646
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 恒夫
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(74)【代理人】
【識別番号】100134393
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 克彦
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】ヘイスカネン,イスト
(72)【発明者】
【氏名】ライティネン,リスト
(72)【発明者】
【氏名】ラサネン,ヤリ
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−036184(JP,A)
【文献】 特表2009−538998(JP,A)
【文献】 特表2002−502921(JP,A)
【文献】 特開2009−096834(JP,A)
【文献】 A mill profits from mixing starch and filler simultaneously close to the headbox,WETENDNEWS,2010年,page 1,2
【文献】 紙パルプ製造技術シリーズ5,日本,紙パルプ技術協会,1992年 4月 1日,72、73頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00−1/38
D21C1/00−11/14
D21D1/00−99/00
D21F1/00−13/12
D21G1/00−9/00
D21H11/00−27/42
D21J1/00−7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製紙プロセスにおいてフォーミングファブリックに関する歩留りを制御する方法であって、少なくとも、
製紙用の繊維質懸濁液を調製する工程;
微細セルロース繊維を含むスラリーを調製する工程であって、該微細セルロース繊維の比表面積が前記繊維質懸濁液の繊維の比表面積よりも大きい工程;
少なくとも1つの製紙用薬品を前記スラリーに添加する工程であって、該製紙用薬品が疎水性サイズ剤であり、該製紙用薬品を前記微細セルロース繊維上に吸着させて中間生成物を形成する工程;
該中間生成物を製紙用の前記繊維質懸濁液中に組み込む工程;及び
前記中間生成物を含む前記繊維質懸濁液をヘッドボックスを介して製紙機の前記フォーミングファブリック上に供給する工程を含み、
前記中間生成物中のフィブリル化セルロース繊維の重量が、前記生成物中の1つ又は複数の製紙用薬品の総量よりも大きい、
制御方法。
【請求項2】
前記微細セルロース繊維が、200nm未満の繊維直径を有するフィブリル化繊維である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記フィブリル化繊維が、100nm〜200μmの繊維長を有する請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記スラリーがミクロフィブリル化セルロース繊維(MFC)を含む請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記フィブリル化セルロース繊維の適用可能面を被覆するように、単一の製紙用薬品を吸着させる請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
第1の製紙用薬品を、前記フィブリル化セルロース繊維の適用可能面の一部に吸着させた後、第2の製紙用薬品を、前記フィブリル化セルロース繊維の適用可能面の残りの部分に吸着させる請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
フィブリル化セルロース繊維と1つ又は複数の製紙用薬品との重量比が、20:1〜1:1である請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記懸濁液をヘッドボックスから前記フォーミングファブリックへと供給する前に、前記中間生成物を、前記繊維質懸濁液を希釈するのに使用される白水の短循環に添加する請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記懸濁液を短循環する白水で希釈する前に、前記中間生成物を前記繊維質懸濁液に添加する請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記繊維質懸濁液中への前記中間生成物の組込み前又は組込み後に、1つ又は複数の更なる製紙用薬品を製紙用の前記繊維質懸濁液中に組み込む請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ヘッドボックスに入れる前に、前記繊維質懸濁液を、最大でも1.2重量%の稠度になるまで希釈する請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記中間生成物を前記繊維質懸濁液に注入する前に、前記フィブリル化セルロース繊維を前記製紙用薬品と混合して前記中間生成物を形成するミキサーの使用によって、前記製紙用薬品を前記スラリーに添加する請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ミキサーが噴射ジェットミキサーである請求項12に記載の方法。
【請求項14】
セルロース系スラリー又はリグノセルロース系スラリーからなる中間生成物であって、製紙に使用される繊維質懸濁液に添加される、フィブリル化セルロース繊維と、該フィブリル化セルロース繊維上に吸着する少なくとも1つの、疎水性サイズ剤である製紙用薬品とを含み、前記中間生成物中のフィブリル化セルロース繊維の重量が、前記生成物中の1つ又は複数の製紙用薬品の総量よりも大きい、中間生成物。
【請求項15】
前記スラリーがミクロフィブリル化セルロース繊維(MFC)を含む請求項14に記載の中間生成物。
【請求項16】
製紙用繊維質懸濁液に添加される中間生成物を作製するための、疎水性製紙サイズ剤用の吸着媒としてのミクロフィブリル化セルロース繊維(MFC)の使用方法であって、前記中間生成物中のフィブリル化セルロース繊維の重量が、前記生成物中の1つ又は複数の製紙用薬品の総量よりも大きい、使用方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙プロセスにおいてフォーミングファブリックに関する歩留り(retention)を制御する方法に関する。本発明の他の課題は、製紙に使用される繊維質懸濁液に添加するよう意図される中間生成物、及び該中間生成物のための材料の使用である。
【背景技術】
【0002】
製紙プロセスでは、プロセス制御のため、及び紙に必要な特性を与えるために数ある製紙用薬品が使用されている。製紙用薬品は、水性繊維懸濁液をヘッドボックスからフォーミングファブリックへと供給する前に水性繊維懸濁液中に組み込むことによって、製紙機のウェットエンドに投与される。その目的は薬品を静電気力によって繊維の表面上に吸着させることである。
【0003】
同様の機械によって繊維表面上に吸着する幾つかの製紙用薬品を併用する上での主な問題点は、歩留量及び更には繊維表面上の均一な分布をいかに実現するかである。ほぼ全ての添加剤が、繊維表面上のフリー結合(アニオン性、カチオン性及び中性)部位を奪い合う必要に迫られている。ほとんどの場合、これにより、不完全な歩留り及び/又は繊維表面上における薬品の不均一な分布が起こる。結果として、完成紙の品質が低下し、抄紙機においては運転性の問題が起こると考えられる。不十分な歩留り及び分布に加えて、幾つかの反応性添加剤の併用は、様々な製紙用薬品間の有害な相互作用反応を起こすため、それらの機能性及び効果を低下させることがある。
【0004】
製紙用薬品の歩留り、及び繊維質懸濁液中に存在する微細物(形成されるウェブ中に保持される材料の量)を改善するために、数ある特殊な製紙用薬品(歩留向上薬(retention chemicals))が従来使用されてきた。繊維表面への歩留りが小さい製紙用薬品は白水システム内に蓄積され、夾雑物として抄紙機表面に付着されるか、又は相互に付着して集塊が形成されることがある。かかる集塊は、ウェブの破壊及び汚点を、製造される紙に生じさせるおそれがある。それに反して、良好な歩留りは、抄紙機の短循環を通過するとともにプロセスシステムに蓄積する、繊維、フィラー及び他の薬品の量を低減させる。
【0005】
大量に使用される製紙用薬品は、抄紙機における有害な沈降夾雑物、及び派生する運転性及び品質の問題に関する主な原因となっている。かかる製紙用薬品としては、例えば、サイズ剤、フィラー、並びに湿潤紙力及び乾燥紙力を付与する薬品が挙げられる。
【0006】
薬品歩留りのメカニズムは、フォーミングファブリック上の湿潤繊維ウェブが維持し得る、より大きい凝集粒子として、小粒子(例えば、フィラー粒子)を結合させることにある。この凝集は、ほとんどの場合、水溶性ポリマー、すなわち高分子電解質である種々の歩留向上薬の使用によって実現することができる。
【0007】
デュアルポリマーシステムでは、2つの高分子電解質を同時に使用する。実用面でのそれらの問題点は、最適条件を見つけづらく、小さいプロセス変化が大きく影響するおそれがあることにある。かかるデュアルシステムは、より短い鎖長ポリマーを、フィラー粒子の表面に吸着させることにより、長鎖ポリマーのための結合点を形成することによって作用する。第1の段階ではモザイクの形成を介して凝集が起こり、第2の段階では架橋により凝集が起こる。
【0008】
典型的な微小粒子系は例えば、
カチオン性デンプン/ポリアクリルアミド+コロイドシリカ(例えば、「Compozil」という商標で販売されているもの)、
ポリアクリルアミド+ベントナイト(例えば、「Hydrocol」という商標で販売されているもの)、
である。
【0009】
このような従来技術プロセスの第1の工程として、カチオン性ポリマーを製紙パルプに添加した後、ヘッドボックス直前で、極めて微細な物質(粒径250nm〜10μm)及びほとんどの場合、高次に負に帯電した(約1meq/g)微小粒子を添加する。このようにして微小凝集粒子が形成され、これらは、凝集粒子が破壊された後であっても強力な凝集傾向を有する。これは、白水が強い凝集能を有することで見ることができる。形成される凝集粒子は(これまでの歩留向上薬に比べ)極めて小さく、この効果は凝集後に更に増大する。ミクロスケールでの凝集は、高い多孔性をウェブにもたらすため、脱水を改善し、プレスセクション後の固形分を増大させて、乾燥エネルギー需要を低減させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、製紙プロセスにおいて、フォーミングファブリック上に形成される繊維質ウェブに、繊維及び製紙用薬品の歩留りの全体的な改善をもたらすことである。このような改善は、短循環を通過する繊維及び薬品の量、循環経路に沿う管及びチャンバの表面上の堆積物、及び最終的に製造される紙のしみ汚れとなる凝集物を減らすと考えられる。さらに、本発明の目的は、相互に関連する、製紙用懸濁液に含まれる複数の薬品の歩留りの制御を可能にするように、特定の製紙用薬品の歩留りを制御することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による解決策は、少なくとも、
製紙用の繊維質懸濁液を調製する工程;
微細セルロース繊維を含むスラリーを調製する工程であって、該微細セルロース繊維の比表面積が上記繊維質懸濁液の繊維の比表面積よりも大きい工程;
少なくとも1つの製紙用薬品を上記スラリーに添加する工程であって、該製紙用薬品を上記微細セルロース繊維上に吸着させて中間生成物を形成する工程;
該中間生成物を製紙用の上記繊維質懸濁液中に組み込む工程;及び
上記中間生成物を含む上記繊維質懸濁液をフォーミングファブリック上に供給する工程を含む方法である。
【0012】
フォーミングファブリック上及びその後のプレス加工セクションにおける繊維及び製紙用薬品の歩留りの改善は、抄紙機/板紙抄紙機の短循環における繊維及び製紙用薬品の濃度の低下として、それ故、循環系の管及び他のパーツにおける浮遊性の凝集物形成及び固体物質の堆積の低下として現れる。
【0013】
いかなる理論にも拘束されるものではないが、基本の製紙用懸濁液に使用される叩解パルプと比較して、中間生成物に使用される細繊維の比表面積が大きいほど、より大量の製紙用薬品、特にカチオン性製紙用薬品を、繊維の表面に吸着させることが可能になると考えられる。これはとりわけ、大きく開かれた(huge open)活性表面を有するミクロフィブリル化セルロース(MicroFibrillated Cellulose:MFC)繊維等の極めて微細な繊維に当てはまるため、特に本発明における使用において有益である。
【0014】
本発明の教示によれば、1つ又は複数の製紙用薬品の吸着/吸収のために大きい自由表面を準備する。これは、繊維の水性スラリーに大きい比表面積をもたらすことによって為される。これらは、乾燥切削物、又はより有益には、約200nm未満、好ましくは約50nm未満、最も好ましくは約20nm未満の繊維直径、及び100nm〜200μm、好ましくは100nm〜10μmの繊維長を有する繊維又はフィブリルとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ここで、ミクロフィブリル化セルロース(MFC)の定義は、個々のミクロフィブリル又はミクロフィブリル凝集物が相互に分離した、セルロース繊維からなる繊維材料を指す。MFCの繊維は通常非常に薄く、繊維直径が約20nmであり、繊維長は通常100nm〜10μmである。本明細書中で使用される場合、MFCの定義は、いわゆるナノフィブリル化セルロース(NanoFibrillated Cellulose:NFC)も含む。しかしながら、上述の通り、本発明は、フィブリルが200nm以上までのより大きい直径及び200μm以上までのより長い繊維長を有することを可能とする。製造方法によっては、更に長く厚い繊維が若干量残っていてもよい。
【0016】
使用され得る、本明細書中で微細物と称するより長い繊維は、Bauer−McNett装置の200メッシュのスクリーンを通過する繊維である。ほぼ全ての繊維が0.2mmよりも短い。通常、かかる微細物を含有するパルプスラリーはまた、不定量のMFC又はNFCを含有する。
【0017】
上述の通り、乾燥切削物という用語は、乾燥状態で木質材料から切削された木質繊維を指す。これらは、製紙用薬品を吸着させることができる大きく開かれた活性表面を有する。この方法により得られるパルプスラリーは、乾燥切削繊維を含み、例えば、
(whiley mill型装置による)乾式切削法、
コンパクタ切削法、
コニカル押出法、
によって得ることができる。
【0018】
このようにして得られたパルプスラリーは、平均長が1mm未満である繊維を含む。この種の比較的粗い微細物画分は通常、より微細な繊維も含む。
【0019】
基本の製紙用懸濁液の比表面積よりも大きい比表面積を有する各種の繊維又はフィブリルは更に、混合物として使用することもできる。さらに、製紙用薬品用の吸着媒マトリックスとして使用されるパルプスラリーの有効性は、このパルプスラリー中におけるMFC、繊維微細物及び乾燥切削物の割合に応じて決まる。パルプスラリー中におけるMFC、繊維微細物及び乾燥切削物の相互の割合は例えば、パルプスラリーの原料(セルロース系原材料又はリグノセルロース系原材料)及び製造方法(化学パルプ、ケミメカニカルパルプ又は機械パルプ)に応じて決まる。
【0020】
本発明の一実施形態によれば、フィブリル化セルロース繊維の適用可能面を被覆するように、単一の製紙用薬品を吸着させる。別の方法としては、第1の製紙用薬品を、フィブリル化セルロース繊維の適用可能面の一部に吸着させてもよく、その後、第2の製紙用薬品を、フィブリル化セルロース繊維の適用可能面の残る部分に吸着させる。これにより、中間生成物中に含まれる薬品と、フォーミングファブリック上に最終的に維持される薬品との相対量を制御することが可能である。
【0021】
概して、フィブリル化セルロース繊維が中間生成物の主成分を形成する。重量を測定すると、それらの量は、上記生成物中における、疎水性サイズ剤、湿潤紙力増強サイズ剤及び乾燥紙力増強サイズ剤、凝集改良薬及びフィラーから選択される製紙用薬品(複数の場合もあり)の総量と少なくとも同程度であり、好ましくはそれよりも大きくなり得る。
【0022】
中間生成物中における、吸着するセルロース繊維と、1つ又は複数の製紙用薬品との重量比が20:1〜1:1で変動することが好ましい。
【0023】
製紙用薬品をパルプスラリー中の繊維に吸着させた後、高分子電解質又は類似の作用機構を有する薬品の使用によって繊維を凝集させることが可能である。この凝集は、本発明で使用される繊維、とりわけMFC繊維の寸法及び活性表面に起因して、極めて効果的である。この後、事前に凝集された繊維を含む中間生成物を、抄紙機のウェットエンドで繊維質製紙用懸濁液に投与することができる。
【0024】
本発明の別の実施形態によれば、上記中間生成物を製紙用の繊維質懸濁液中へ組み込む前又は組み込んだ後に、1つ又は複数の更なる製紙用薬品を、該製紙用の繊維質懸濁液中に組み込む。この方法では、中間生成物及び上記更なる製紙用薬品中に導入される製紙用薬品間の望ましくない化学相互作用が低下するか又は完全に回避され得る。また、上記更なる製紙用薬品の歩留量が結果的に増大し得る。
【0025】
従来技術の方法に優る本発明の重大な利点は、製紙機のウェットエンドにおいて以前よりかなり大量の製紙用薬品を繊維質懸濁液上に吸着させることが可能である点である。これは、一方では、微細セルロース繊維(吸着質(adsorbate))の表面上にかかる製紙用薬品(吸着媒(adsorbants))を吸着させた後に、これを製紙機のウェットエンドにおいて中間生成物として繊維質懸濁液に添加することによって、又は他方では、それらの薬品が、中間生成物の一部として導入される薬品と相互作用しないように、それらの薬品を別個の工程で繊維質懸濁液に添加することによって、可能となった。
【0026】
これは、標準的な製紙プロセス中に大量に有利に使用される製紙用薬品にとって重要である。これらの製紙用薬品としては、疎水性サイズ剤(例えば、アルキルケテンダイマー(alkyl Ketene Dimer:AKD)又はアルケニル無水コハク酸(正:Alkenyl Succinic acid Anhydride:ASA))等のサイズ剤;カチオン性高分子電解質又はカチオン性デンプン、アニオン性ポリアクリルアミド、ベントナイト等の凝集促進剤;デンプン又は樹脂等の湿潤紙力増強薬又は乾燥紙力増強薬;並びに、クレイ、PCC(沈降炭酸カルシウム)及びCaCO等のフィラーが挙げられる。
【0027】
概して、本明細書中の製紙用薬品は、製紙プロセス中に使用される全ての非繊維質物質を指す。製紙用薬品としてはプロセス薬品及び機能性薬品が挙げられる。製紙用薬品は、カチオン性、中性又はアニオン性であってもよい。機能性製紙用薬品は、調製される紙/板紙の特性に影響を与えるものである。限定されるものではないが、これらとしては、サイズ剤、湿潤紙力又は乾燥紙力を紙/板紙ウェブに付与する薬品、フィラー、薬品、顔料、特殊顔料、ベントナイト、染料カラー、蛍光染料、耐脂性のフルオロケミカル等が挙げられる。製紙プロセス薬品としては、紙/板紙製造プロセスのウェットエンド又はドライエンドにおける紙/板紙ウェブ又は繊維質ファブリックの運転性を改善させ、通常間接的に、調製される紙/板紙の特性を改善させる薬品が挙げられる。限定されるものではないが、これらとしては、アラム、歩留向上薬、水を除去する薬品、分散を促す薬品、ガム又は泡の形成を阻害する薬品が挙げられる。
【0028】
本発明において特に好ましい製紙用薬品は、疎水性サイズ剤、例えば、アルキルケテンダイマー(AKD)又はアルケニル無水コハク酸(ASA)等のサイズ剤、及び湿潤紙力増強サイズ剤及び/又は乾燥紙力増強サイズ剤、例えば、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン(PolyAmidoAmine Epichlorohydrin:PAAE)である。
【0029】
中間生成物を主となる製紙用懸濁液と組み合わせる好ましい方法は、懸濁液をヘッドボックスからフォーミングファブリックへと供給する前に、懸濁液を希釈させるのに循環する白水を使用することを含む、抄紙機の短循環に中間生成物を添加することである。最も好ましくは、中間生成物を、ヘッドボックスの直前で希釈済み懸濁液に添加することである。概して製紙用懸濁液の希釈については、繊維質懸濁液を、ヘッドボックスへ入れる前に、最大でも1.2重量%、好ましくは0.1重量%〜0.8重量%の範囲の稠度になるまで希釈することができる。
【0030】
しかしながら、中間生成物を、短循環とは別に繊維質懸濁液に添加することも可能である。この場合、中間生成物を、循環する白水の注入口より前で未希釈のより粘度の高い紙料に添加してもよい。
【0031】
中間生成物の調製に関して、ミキサー、有益には噴射ジェットミキサーの使用によって、製紙用薬品を、MFC又は他の微細セルロース繊維のスラリーに添加して、中間生成物を形成してもよい。混合は、中間生成物を繊維質懸濁液に注入する前又はそれと同時に行うことができる。好ましくは、短循環する白水による懸濁液の希釈後に、ジェットミキサーの使用によって中間生成物を懸濁液に注入する。
【0032】
高剪断を作り出して、中間生成物を主となる繊維質懸濁液のフロー中に分散させることができるため、噴射ジェットミキサー、例えばTrumpjet型ミキサーが本発明における使用に有益である。これは、適切な混合を実現するとともに、他の場合には極めて急速に起こると考えられるMFCの凝集を回避することにとって重要である。
【0033】
中間生成物を形成するように1つ又は複数の製紙用薬品を添加する前の、水性スラリー中の繊維含有率は、1重量%〜5重量%、好ましくは2重量%〜3重量%とすることができる。
【0034】
代替的に、繊維質懸濁液を希釈するのに白水を使用する前に、中間生成物を、循環する白水に添加してもよい。白水の繊維含有率は、0.05重量%〜0.2重量%と低い値をとることがあり、中間生成物の添加によっても目に見えて増大しない。本実施形態でも混合及び射出に噴射ジェットミキサーを使用してもよい。
【0035】
繊維を湿潤形態で製紙用薬品と組み合わせるのが好ましい。例えば、AKDを、MFCの水性スラリーに添加することができる15重量%の水性分散液として適用可能である。しかしながら、MFC又は他の微細セルロース繊維は、乾燥形態で製紙用薬品と混合させた後、水を添加することにより該混合物をスラリーに変えることもできる。
【0036】
主となる製紙用の繊維質懸濁液は、単独で又は混合物中に使用される、クラフトパルプ若しくは亜硫酸パルプ等の化学パルプ、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、機械パルプ又は再生パルプ等を含んでいてもよい。紙、製紙、製紙プロセス及び製紙機という用語はそれぞれ、紙だけでなく、板紙及び厚紙も指す。
【0037】
本発明による中間生成物は、フィブリル化セルロース繊維と、該フィブリル化セルロース繊維上に吸着する少なくとも1つの製紙用薬品とを含む、セルロース系スラリー又はリグノセルロース系スラリーからなる。中間生成物は、懸濁液を製紙機のヘッドボックスに入れる前に繊維質懸濁液に添加するように意図される。
【0038】
重量を測定すると、中間生成物中におけるフィブリル化セルロース繊維の量は、好ましくは中間生成物中における製紙用薬品の総量と少なくとも同程度であり、より好ましくはそれよりも大きい。
【0039】
中間生成物はミクロフィブリル化セルロース繊維(MFC)を含むことが好ましい。スラリー中の好ましい製紙用薬品としては、AKD又はASA等の疎水性製紙サイズ剤、PAAE等の湿潤紙力増強製紙サイズ剤、紙の乾燥紙力を改善させるための紙サイズ剤、例えばデンプン、並びにカチオン性高分子電解質及びカチオン性デンプン等の凝集改良薬が挙げられる。
【0040】
規定した通り、上記の本発明による方法の特徴及び実施形態も、本発明による中間生成物にかかわるものである。
【0041】
本発明は更に、製紙用薬品のための吸着媒としてミクロフィブリル化セルロース繊維(MFC)を使用して、繊維質製紙用懸濁液に添加される中間生成物を作製することを含む。好ましい製紙用薬品の例は、AKD又はASA等の疎水性製紙サイズ剤、PAAE等の湿潤紙力増強製紙サイズ剤、紙の乾燥紙力を改善させるための紙サイズ剤、例えばデンプン、並びにカチオン性高分子電解質及びカチオン性デンプン等の凝集改良薬である。
【実施例】
【0042】
実施例における共通する特徴は、
MFC、大きく開かれた表面領域を(極端に)大量のAKDで予め処理した、乾燥切削繊維又は繊維微細物である。繊維質材料に予め装填されるサイズ剤を、ジェット式噴射(例えば、TrumpJet(商標))型計量装置によってプロセス内に導入する。歩留り助剤を含む処理された繊維質材料を事前に加熱すると、効果的な歩留りがもたらされるとともに、板紙の紙力特性も増大する。
【0043】
ジェット式噴射は、ヘッドボックスの直前で起こり、PMプロセスの機械剪断力によって生じる維持される薬品の溶解傾向を低減させる。上記の方法は、ミクロ繊維質及び/又はミクロ粒子により形成される、高疎水性(hydrophobicity)を有するプラグを、板紙構造に導くことも可能とする。これらの疎水性プラグは、高疎水性によって開いた細管構造を遮蔽することもできる。高疎水性及び立体障害を有する繊維粒子のこの組合せは、嵩高い板紙のサイジングに関係する問題(REP)を排除することができる。
【0044】
その一方で、AKDの大部分が、プロセス内に導入される前に、繊維担体凝集粒子に結合しており、これは自動的に総AKD歩留りを大いに増大させると考えられる。
【0045】
サイズ剤を事前に装填したMFC繊維を、純粋な化学的に未処理の繊維表面上に施して、最大可能サイズ剤歩留りを確認し、サイズ剤と他の化学添加剤との間の生じ得る有害な相互作用を最小限に抑える。
【0046】
板紙のZ軸紙力及び乾燥紙力は、サイズ剤(湿潤紙力増強剤/乾燥紙力増強剤)で予め処理されたMFC、乾燥切削パルプ又は他の特有の(ridiculous)繊維材料によって発生する。これらの繊維質粒子の表面は、紙力増強サイズ剤によって高次に装填されるため、強い繊維−繊維結合を生じさせることができる。
【0047】
これらの「予め処理された粒子」の三次元構造は、これまでの紙力増強サイジング法よりも良好に、嵩高い繊維網目構造中に架橋(cross bondings)を形成することができる。この方法を用いることによって、繊維網目構造材料の一部のみを、湿潤紙力増強剤又は乾燥紙力増強剤によって処理する。自由な繊維領域の残りは、例えば疎水性サイジングにより良好に使用してもよい。
【0048】
高投与量の有効な紙力増強剤を、高(結合)表面積を有する選択された繊維粒子に集めるために、結合強度を増大させるとともに、繊維網目構造の最も重要な領域に集めることが可能である。
【0049】
実施例1.
板紙をパイロット板紙抄紙機で作製した。
完成紙料100%CTMP、150gsm
典型的な液体包装用板紙用の薬品(デンプン、二成分系の歩留向上薬等)
参照例;厚みのある紙料(レベリングボックス)へのAKDの投与、ワイヤ歩留り91%、AKD歩留り23%
試験1;AKDをMFCと予備混合させ(比率1:9)、ヘッドボックスの直前で投与した(TrumpJet(商標))、ワイヤ歩留り93%、AKD歩留り29%
試験2;投与直前に、AKDをT形材でMFCと混合させ(比率1:9)、ヘッドボックスの直前で投与した(TrumpJet(商標))、ワイヤ歩留り94%、AKD歩留り32%
試験3;AKDをMFCと予備混合させ(比率1:9)、これを投与直前にC−PAM 100g/tと混合させた(TrumpJet(商標))、ワイヤ歩留り93%、AKD歩留り54%
)ここでTrumpJet(商標)とは、Wetend Technologiesにより販売されている商用の高速噴射型薬品混合/投与システムを指す。
【0050】
実施例2.
薄紙面をパイロット抄紙機で作製した。
完成紙料100%さらしカバノキクラフト、65gsm
薄紙完成紙料に使用される典型的な薬品(フィラー、二成分系の歩留向上薬等)
参照例;短循環(混合パルプ)に投与されるASA;ワイヤ歩留り50%
試験1. 0.5kg/t ASA+0.5kg/t MFC(T形材を備えるTrumpJet(商標))+100g/t C−PAM(TR2)、ワイヤ歩留り64%。
試験2. 0.5kg/t ASA+5kg/t MFCプレミックス(TrumpJet(商標)による)、及び100g/t T2:ワイヤ歩留り64%
試験3. 0.5kg/t ASA+35kg/t 乾燥切削パルププレミックス(TrumpJet(商標)による);(?)C−PAM添加なし:ワイヤ歩留り70%