(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6234931
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】血圧を測定する方法および装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/022 20060101AFI20171113BHJP
A61B 5/02 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
A61B5/02 634F
A61B5/02 310Z
【請求項の数】18
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-537733(P2014-537733)
(86)(22)【出願日】2012年10月29日
(65)【公表番号】特表2014-534023(P2014-534023A)
(43)【公表日】2014年12月18日
(86)【国際出願番号】GB2012052683
(87)【国際公開番号】WO2013061089
(87)【国際公開日】20130502
【審査請求日】2015年10月21日
(31)【優先権主張番号】1118644.2
(32)【優先日】2011年10月27日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】514259680
【氏名又は名称】サンテック メディカル,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100113608
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 明
(74)【代理人】
【識別番号】100123098
【弁理士】
【氏名又は名称】今堀 克彦
(72)【発明者】
【氏名】コヴィエンチク,フィリップ ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ギルシェ,アントワーヌ イヴ マリー
(72)【発明者】
【氏名】ブレット,サリー エマ
(72)【発明者】
【氏名】ローソン,クリストファー パトリック
【審査官】
九鬼 一慶
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−000176(JP,A)
【文献】
特開2003−000555(JP,A)
【文献】
特表2012−509123(JP,A)
【文献】
特開平07−275214(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オシロメトリック測定から導出される末梢脈波形を処理して対応する動脈内波形を推定する方法であって、
前記末梢脈波形をそれぞれのフィルタを用いてフィルタリングして複数の波形を提供するステップと、
前記複数の波形を心周期の時相に応じて結合することで前記複数の波形を時分割多重化して、前記推定された動脈内波形を表す結合波形を提供するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記末梢脈波形が、第1周波数でフィルタリングされて第1フィルタリング波形を提供し、第2周波数でフィルタリングされて第2フィルタリング波形を提供し、
前記第1周波数が前記心周期の第1時相に関連し、前記第2周波数が前記心周期の第2時相に関連する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複数の波形のうちの少なくとも1つが、結合される前に変換されるか、および/または、
前記複数の波形のうちの少なくとも1つが、結合される前に増幅される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1時相が、前記心周期の収縮期または前記心周期の収縮期を開始する急な立上りの少なくともいずれかであり、および/または、
前記第2時相が、前記心周期の拡張期である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記第1周波数が、前記心周期の収縮期の最高周波数、3Hzと20Hzとの間の周波数、または、およそ3.2Hzの少なくともいずれかであり、
前記第2周波数が、前記心周期の拡張期の最高周波数、1.5Hzと20Hzとの間の周波数であるか、または、およそ1.75Hzの少なくともいずれかである、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記末梢脈波形が、第1ハイパスフィルタによってフィルタリングされて前記第1フィルタリング波形を提供し、
第2ハイパスフィルタによってフィルタリングされて前記第2フィルタリング波形を提
供する、請求項2、4、5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1ハイパスフィルタが、前記第2ハイパスフィルタより高次であるか、
前記第1ハイパスフィルタが7次フィルタであるか、および/または、
前記第2ハイパスフィルタが4次フィルタである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
平滑化フィルタを用いて前記結合波形を平滑化するステップをさらに含み、
前記平滑化フィルタが20Hzを超える周波数を減衰させる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記平滑化フィルタが、カットオフ周波数がおよそ6Hzであるローパスフィルタである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記平滑化フィルタが、前記第1ハイパスフィルタおよび前記第2ハイパスフィルタより低次であるか、または、前記平滑化フィルタが3次フィルタである、請求項6に従属する請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記結合波形が全心周期である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記末梢脈波形が、対象となるヒトから収集された測定データのものであり、
前記対象となるヒトの末梢収縮期血圧および拡張期血圧が得られ、
前記方法が、前記推定された動脈内波形、前記末梢収縮期血圧および前記拡張期血圧を使用して真の平均動脈内圧を計算するステップと、前記真の平均動脈内圧を使用して推定された中心圧力波形を計算するステップと、をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記複数のフィルタのうちの少なくとも1つがバターワースフィルタである、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
オシロメトリック測定から導出される末梢脈波形を処理して対応する動脈内波形を推定する装置であって、
前記末梢脈波形を受け取る入力と、
前記末梢脈波形を第1周波数でフィルタリングして第1フィルタリング波形を提供するように構成された第1フィルタと、
前記末梢脈波形を第2周波数でフィルタリングして第2フィルタリング波形を提供するように構成された第2フィルタと、
時分割マルチプレクサと、
前記推定された動脈内波形を出力する出力と、
を具備し、
前記時分割マルチプレクサが、前記第1フィルタリング波形および前記第2フィルタリング波形を結合して、前記推定された動脈内波形を生成する、装置。
【請求項15】
前記第1周波数が、3Hzと20Hzとの間の周波数またはおよそ3.2Hzの少なくともいずれかであり、
前記第2周波数が、1.5Hzと20Hzとの間の周波数またはおよそ1.75Hzの少なくともいずれかである、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記第1フィルタおよび前記第2フィルタがハイパスフィルタであり、
前記第1フィルタが前記第2フィルタより高次であり、
前記推定された動脈内波形をフィルタリングする平滑化フィルタをさらに具備し、
前記平滑化フィルタが、20Hzを超える周波数を減衰させる、請求項14または15
に記載の装置。
【請求項17】
前記平滑化フィルタが、カットオフ周波数がおよそ6Hzであるローパスフィルタである、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記推定された動脈内波形が、前記第1フィルタリング波形、前記第2フィルタリング波形およびフィルタリングされていない末梢脈波形の時分割多重を含む、請求項16または17に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象の血圧を測定し推定する方法および装置に関し、より詳細には、対象の動脈内血圧波形を推定する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血圧(BP:blood pressure)は、循環血液が血管の壁に及ぼす力を指し、主な生命徴候のうちの1つを構成する。循環血液の圧力は、血液が動脈、細動脈、毛細血管および静脈を通って移動するに従って低下する。血圧という用語は、一般に、動脈圧、すなわち相対的に大きい動脈内の圧力を指す。動脈は、心臓から血液を運び出す血管である。
【0003】
動脈内の血圧は、概して振動して変化し、波形(時間に対する圧力のグラフ)として表示することが可能である。動脈内のピーク圧力は、収縮期血圧(SBP:systolic blood pressure)として知られ、心周期の開始の近くで発生する。心周期の休止期に発生する、動脈内の最低圧力は、拡張期血圧(DBP:diastolic blood pressure)として知られている。心周期を通しての平均圧力は、平均動脈圧(MAP:mean arterial pressure)として知られており、脈圧(PP:pulse pressure)は、収縮期圧と拡張期圧との差である。
【0004】
既存の血圧モニタは、末梢動脈、たとえば腕における収縮期血圧および拡張期血圧の測定を行う。しかしながら、上腕動脈、橈骨動脈または指動脈で測定される収縮期血圧は、大動脈基部における中心収縮期血圧(cSBP:central systolic blood pressure)を超え、それは、収縮期血圧は、反射圧力波の結果として上肢の末梢動脈に沿った伝播により心臓の近くの中心収縮期血圧を超えて増幅されるためである、ということが長く認識されてきた。これにより、末梢脈圧と比較した中心脈圧の差ももたらされる。心拡張中の圧力の変化は低速であるため、拡張期血圧は、中心部位および末梢部位において同様である。平均動脈圧もまた、中心部位および末梢部位で同様である。cSBPは、心臓に対する負荷をより適切に表すことができるので、末梢収縮期血圧(pSBP:peripheral systolic blood pressure)よりも心疾患により密接に関連することが予測される。
【0005】
血圧は、通常、オシロメトリック法によって上腕において上腕の周囲で膨らませたカフを用いて測定される。カフ内の圧力を、腕内の収縮期血圧(末梢収縮期血圧、pSBP)を超える圧力まで膨張させ、その後、腕における拡張期血圧(DBP)未満の圧力まで低速で収縮させる。収縮中のいずれの時点においても、1心周期中の平均カフ圧(MCP)がpSBP未満に低下すると、カフ圧は、MCPの周囲でわずかな量で振動する。pSBPおよびDBPを、カフ内の圧力振動の振幅から推定することができる。
【0006】
平均動脈血圧(MAP)およびDBPは、大動脈と腕の導管動脈との間でほとんど差がないが、上肢で測定されるpSBPは、反射による増幅をもたらす上肢に沿った伝播により、大動脈の中心収縮期血圧(cSBP)を超えて増幅されることが知られている。cSBPは、pSBPより心血管イベントのリスクのより適切な推定を可能にすると考えられる。さらに、pSBPには同様の影響を与えるがcSBPには特異な影響を与える降圧薬計画を比較した場合、低いcSBPほど、転帰の改善に関係した。したがって、cSBPの非侵襲性推定方法が必要とされている。
【0007】
最も一般的に採用される方法は、アプラネーショントノメトリ(applanation tonometry)(橈骨動脈の上に圧力センサを保持してそれを下にある骨に対して緩やかに押し付ける)によって、橈骨動脈からの末梢血圧波形を測定することを含む。そして、この圧力波形を、pSBPおよびDBPのオシロメトリック法による測定値から校正することができる。そして、この末梢カフ圧波形に対して「一般化圧伝達関数」(GTF:generalised transfer function)を適用して、その末梢カフ圧波形を、cSBPを推定することができる中心波形に変換する。GTFを、周波数領域において高速フーリエ変換を使用して、または時間領域においてパラメトリック関数を使用して導出することができる。GTFは、中心波形の所与の形状または周波数成分に対して、上腕が、年齢および他の個体内特性とは無関係に波形に対して比較的一定の影響を及ぼすという事実を利用する。アプラネーショントノメトリは、訓練された観察者によって行われる必要があり、行うために数分間かかり、比較的高価な機器を必要とし、オシロメトリック法または血圧の他の測定法が必要である。
【0008】
トノメトリに基づく方法の進歩により、血圧のオシロメトリック測定で使用される上腕カフから血圧波形を直接導出するようになる。カフが(通常、DBPとpSBPとの間の圧力まで)膨張すると、カフから記録された圧力波形は、腕内の動脈内の圧力波形(およびトノメトリによって取得された圧力波形)に幾分か類似している。カフを、最高収縮期圧(suprasystolic pressure)(pSBPを超える)まで膨張させることができるが、これは、患者には不快であり、また、本方法が、血圧の定期的なオシロメトリック測定中に適用することがより困難であることも意味する。こうした測定中、目的は、pSBPからDBPへの収縮中、カフ圧振動に関する情報を最大化するために、カフ圧がpSBPを超える時間を最小限にすることである。
【0009】
トノメータから得られた末梢波形を中心波形に変換するために使用されるGTFは、カフ波形を中心波形に変換するために使用することはできない。しかしながら、代替的なGTFを使用して、カフ波形を中心波形に変換することができる。GTFの特徴は、カフ波形の取得中のカフ内の平均圧力によって決まる。カフ波形は動脈内波形またはトノメータから得られた波形とは異なるため、pSBPおよびDBPから校正することができない。カフ波形にGTFを適用することから得られる中心波形を、中心部位および末梢部位におけるMAPおよびDBPが等しいためにMAPおよびDPBから校正することができる。MAP値およびDBP値を、オシロメトリック法によって得ることができる。
【0010】
したがって、上記方法により、オシロメトリック血圧の従来の測定中に(または測定の直前あるいは直後に)、患者または観察者に対して従来の血圧の測定以上の面倒をかけない方法で、血圧カフからcSBPを求めることができる。この血圧カフ手法の第1の不都合は、MAPおよびDBPから波形を校正する要件である。目下、オシロメトリック法によって導出されるようなMAPの精度を確認するために合意された規格はない。第2の不都合は、MAPおよびDBPからの校正は、オシロメトリック法によるDBPの推定の誤差によってより著しく影響を受ける可能性がある、ということである。逆に、pSBPおよびDBPによる校正が行われる場合、pSBPの推定の誤差により、cSBPに同様の誤差が発生する。したがって、オシロメトリック法が幾分かの誤差を受け易い場合であっても、推定されたcSBPとpSBPとの間の差は、真のcSBPとpSBPとの間の差の正確な尺度であり続ける。
【0011】
中心波形に変換する前の、pSBPおよびDBPによるカフから得られた波形の校正は、同様の手続きがトノメータから得られた波形に適用される場合に比較して相対的に不正確である。これは、トノメータから得られた波形とは異なり、カフ波形の形状および形態は、真の動脈内圧力波形のものと一定の関係を有していないためである。カフ波形は、MCPと動脈内圧力との差と、心周期の時相とによって決まる量によって歪められる。pS
BPを超える圧力までカフを膨張させることによって動脈内圧力により近似させることができるが、これには上述した不都合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
オシロメトリック法を用いて測定される、すなわちカフ圧力装置を用いて得られる末梢脈波形を、対応する動脈内波形に変換する一方法は、一般的伝達関数を使用する。本方法は、完全には正確ではなく、したがって、末梢脈波形を動脈内波形に変換する方法の精度を向上させるという動機がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の実施形態は、末梢脈波形が波形を構成する別個の異なる位相にフィルタリングされる、改善された変換方法を提供する。別個の位相は、再結合されて推定された動脈内伝達関数を提供する前に変換される。たとえば、一実施形態では、末梢脈波形は第1ハイパスフィルタによってフィルタリングされ、末梢脈波形のコピーは、カットオフ周波数の異なる第2ハイパスフィルタによってフィルタリングされる。そして、2つのフィルタリング波形を、たとえば元の波形に再度加算することによってさらに処理することができ、その後、それら波形は、時分割式に合わせて多重化されて最終波形を提供する。たとえば、収縮期に対応する第1フィルタリング波形の部分を、拡張期に対応する第2フィルタリング波形の部分と結合して、最終波形を生成することができ、心臓のそれぞれの時相の特徴を抽出するように、それぞれのフィルタカットオフ周波数を選択することができる。
【0014】
本発明の第1態様によれば、オシロメトリック測定から導出される末梢脈波形を処理して対応する動脈内波形を推定する方法が提供され、本方法は、末梢脈波形をそれぞれのフィルタを用いてフィルタリングして複数の波形を提供するステップと、複数の波形を時分割多重化して、推定された動脈内波形を表す結合波形を提供するステップとを含む。
【0015】
オシロメトリック測定を使用することにより、必要な技能レベルが低い単純な装置を用いてデータを収集することができ、それにより、装置は、訓練されていない人が使用するのに対してかつ自動患者家庭モニタリングに対して適したものとなる。時間領域において波形を多重化することにより、個々の波形を相互干渉なしに再結合することができる。
【0016】
末梢脈波形を、第1周波数でフィルタリングして第1フィルタリング波形を提供し、第2周波数でフィルタリングして第2フィルタリング波形を提供することができ、第1周波数は心周期の第1時相に関連し、第2周波数は心周期の第2時相に関連する。
【0017】
複数の波形のうちの少なくとも1つを、結合する前に変換し、任意選択的に、結合する前に増幅することができる。フィルタリング波形は、その対応する動脈内波形を最も適切に再構成するために増幅を必要とする場合がある。増幅は正の場合も負の場合もある。
【0018】
第1時相は、心周期の収縮期、または心周期の収縮期を開始する急な立上りであり得る。第2時相は、心周期の拡張期であり得る。本発明の上記態様を使用して心周期の所定成分を隔離することにより、別個の成分を別個に変換して対応する動脈内波形を推定することができる。
【0019】
第1周波数は、3Hzと20Hzとの間の周波数、好ましくは3.2Hzであり得る。これらの周波数は、心周期の収縮期に関連する。第2周波数は、1.5Hzと20Hzとの間の周波数、好ましくはおよそ1.75Hzであり得る。これらの周波数は、心周期の拡張期に関連する。
【0020】
末梢脈波形は、第1ハイパスフィルタによってフィルタリングされて第1フィルタリング波形を提供し、第2ハイパスフィルタによってフィルタリングされて第2フィルタリング波形を提供する。所定の周波数をフィルタリングするために個々のフィルタが使用される場合、その個々のフィルタをより容易に同調させることができる。
【0021】
第1フィルタは第2フィルタより高次であり得る。この構成により、複数の周波数のフィルタリングが可能になるとともに、回路またはソフトウェアを提供する構成の複雑性も最小限になる。第1フィルタを7次フィルタとすることができ、第2フィルタを4次フィルタとすることができる。フィルタのこうした次数は、本発明を実施するために特に有利であることが分かった。
【0022】
結合波形を、平滑化フィルタを用いて平滑化することができる。好ましくは、平滑化フィルタは、20Hzを超える周波数を減衰させる。平滑化フィルタは、カットオフ周波数がおよそ6Hzであるローパスフィルタであり得る。平滑化フィルタは、第1フィルタリング波形および第2フィルタリング波形が結合された時に導入される、結合波形の望ましくない部分を除去する。最も重要な周波数は20Hz未満であり、6Hzが、フィルタに対して最適な応答を提供する好ましいカットオフ周波数であることが分かった。
【0023】
平滑化フィルタは、第1フィルタおよび第2フィルタより低次であり得る。これにより、本発明のより単純な実施が可能になるとともに、推定された動脈内波形の精度が維持される。3次フィルタが、好適な周波数応答を提供することにより、平滑化フィルタとして有用であることが示された。
【0024】
結合波形は全心周期であり得る。これにより、波形からより多くの情報を得ることができる。
【0025】
動脈内心臓波形を使用して、正確な動脈内平均動脈血圧(MAPavwave)を推定することができる。末梢血圧測定を使用するカフ測定装置を使用して対象から取得されたオシロメトリック測定値のみを使用して、正確なMAPavwaveを達成することができる。
【0026】
MAPavwaveの推定には、中心波形を校正するためにpSBPおよびDBPが必要である。これは、(本発明によって行われるように)カフ波形を動脈内波形に変換することによって可能である。そして、この動脈内波形を、pSBPおよびDBPから校正し、この動脈内波形の平均としてMAPavwaveを得るために使用することができる。これは、MAPを推定するオシロメトリック法ではなく、オシロメトリック法によって得られる収縮期圧および拡張期圧に依存する。そして、元の末梢カフ波形を中心動脈波形に変換してMAPavwaveおよびDBPから校正することができる。
【0027】
本発明の第2態様によれば、オシロメトリック測定から導出される末梢脈波形を処理して対応する動脈内波形を推定する装置が提供され、本装置は、末梢脈波形を受け取る入力と、末梢脈波形を第1周波数でフィルタリングして第1フィルタリング波形を提供するように構成された第1フィルタと、末梢脈波形を第2周波数でフィルタリングして第2フィルタリング波形を提供するように構成された第2フィルタと、時分割マルチプレクサと、推定された動脈内波形を出力する出力とを備え、時分割マルチプレクサは、第1フィルタリング波形および第2フィルタリング波形を結合して、推定された動脈内波形を生成する。
【0028】
第1周波数は、3Hzと20Hzとの間であり得るが、好ましくはおよそ3.2Hzであり得る。第2周波数は1.5Hzと20Hzとの間であり得るが、好ましくはおよそ1
.75Hzであり得る。第1フィルタおよび第2フィルタをハイパスフィルタとすることができ、第1フィルタを第2フィルタより高次とすることができる。本装置は、出力波形をフィルタリングする平滑化フィルタをさらに備えることができる。いかなる平滑化フィルタも、20Hzを超える周波数を減衰させることができ、特に、平滑化フィルタは、カットオフ周波数がおよそ6Hzであるローパスフィルタであり得る。これらの特徴の利点は、上記対応する方法の特徴の利点に対応する。
【0029】
時分割マルチプレクサはまた、フィルタリングされていない末梢脈波形を第1フィルタリング波形および第2フィルタリング波形と結合することができる。これにより、元の末梢脈波形の一部を使用して推定された動脈内波形のより適切な再構成が可能になる。
【0030】
フィルタは、本発明の少なくとも1つの態様では、好適な位相および周波数応答を提供するためバターワースフィルタであるものとして明示的に挙げられている。本発明のいずれかの態様または実施形態のフィルタのうちの1つまたはすべてを置き換えるように、または本発明の実施形態のうちのいずれかのフィルタのうちのいずれかに加えて、他のタイプのフィルタを使用することができる。こうした他のタイプのフィルタとしては、パッシブフィルタおよびアクティブフィルタを含むアナログフィルタ、および電子部品を使用して実装されるデジタルフィルタまたはマイクロプロセッサを使用して実装されるソフトウェアフィルタが挙げられる。他のフィルタの例としては、チェビシェフ型フィルタ、ベッセル型フィルタおよび楕円型フィルタが挙げられる。フィルタの選択された次数は、特に好適であることがわかったが、フィルタの他の実数を使用することができる。
【0031】
ここで、本発明の実施形態を、添付図面を参照して単に例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図2】本発明の実施形態による信号を結合する方法を示す。
【
図4】本発明のさらなる実施形態のブロック図を示す。
【
図6】
図5のデータセットの平均および標準偏差のグラフを示す。
【
図7】従来技術の方法と比較して本発明の実施形態に従って実行される方法例の結果の線形単回帰グラフを示す。
【
図8】
図8のデータセットの平均および標準偏差のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
ここで、本発明の実施形態について説明する。
【0034】
図1は、入力1として末梢脈波形を受け入れ、出力2として推定された対応する動脈内波形を提供する信号処理ブロック図を示す。入力1を受け入れる3つのフィルタF
1、F
2、F
nが示されている。フィルタのうちの1つF
nおよびその関連する構成要素A
n、8は任意選択的であり、これは、それらが破線を用いて描かれていることによって示されている。各フィルタF
1、F
2、F
nは、末梢脈波形の所定位相に関連する異なる周波数に同調される。各フィルタの出力信号f
1、f
2、f
nは増幅され、増幅されたフィルタ出力信号の各々は入力信号に加算される。増幅器A
1、A
2、A
nが、その関連するフィルタ出力f
1、f
2、f
nを、1を超える、1に等しいまたは1未満の増幅率で増幅することができる。増幅されたフィルタ出力は、構成要素6、7、8を用いて入力信号と結合される。結合構成要素の出力は、出力2において推定された動脈内波形を形成するように再構成される。出力信号は入力信号に対応するが、脈波形の所定の位相に対応する入力波形の各成分は、フィルタ処理および増幅プロセスによって変換される。
【0035】
図1の任意選択的な構成要素および接続を、3つのフィルタリング経路を提供するように含めることができる。本発明のこの実施形態はまた、図示する任意選択的なフィルタ経路に加えて他のフィルタリング経路も含むことができる。図示するものおよび図示するものに対する追加であるものとして記載されるものとを含む各フィルタ経路は、信号処理回路への末梢位相波形入力の所定の位相をフィルタリングし増幅するように配置されている。増幅器A
1、A
2、A
nは、フィルタF
1、F
2、F
nに対して別個であるものとして示されているが、実際にはフィルタと結合されることが可能であり、それにより、各フィルタF
1、F
2、F
nは、増幅率も提供するように配置される。
【0036】
出力2信号処理回路において追加のフィルタ(図示せず)を設けることができる。この追加のフィルタは、出力2に提供される再構成された信号を平滑化するように配置される。
【0037】
図1の、フィルタリングされかつ増幅された信号を、混合により、または多重化により再構成することができる。
図2(a)〜(e)は、こうした変調プロセスがいかに作用するかを示す。
図2(a)は、
図1の入力1に提供される入力信号例を示す。(a)〜(e)のグラフの各々の垂直軸は、入力信号の大きさを表し、水平軸は時間を表す。
【0038】
図2(a)は、3つの位相p
1、p
2、p
3に分割された入力信号を示す。各位相p
1、p
2、p
3は、末梢脈波形の位相に対応する。各位相p
1、p
2、p
3は、その特定の位相に対して特有の他の位相と比較して異なる周波数特性を有する。
【0039】
図2(b)、
図2(c)および
図2(d)は、
図1の結合モジュール6、7、8からのそれぞれの信号出力を表す。結合構成要素6の出力を
図2(b)によって示し、結合構成要素7の出力を
図2(c)によって示し、結合構成要素8の出力を
図2(d)によって示す。各フィルタおよび増幅器対のフィルタリング特性および増幅特性が異なるため、出力は、各結合構成要素6、7、8に対して異なる。結合された出力信号は、再構成ブロック9によって再構成され、再構成ブロック9は、この実施形態では、出力を多重化することにより推定された動脈内波形を生成する。再構成ブロック9の出力2を
図2(e)に示す。
図2(e)の信号は、
図2(a)〜(d)の信号と同様に3つの位相a
1、b
2、n
3を有し、それにより各位相は、異なるフィルタ−増幅器対によって提供される。この多重化プロセスを無期限に繰り返して、
図1の信号処理回路の出力2に連続波を提供することができる。
図1の信号処理装置の経路の数を増加させることができ、刺激された動脈内波形に再構成される前に別個に処理することができる、末梢脈波形の別個の位相の数は、対応して増加する。
【0040】
再構成ブロック9の出力を受け取るフィルタを含めることができる。このフィルタは、多重化信号出力の間のいかなる不連続性も平滑化する。
【0041】
図3は、
図1に示すものに類似する信号処理回路の実施形態を示す。
図1のものに対応する機能を含むブロックおよび特徴には、同一の番号を付している。この実施形態では、増幅器A
1、A
2、A
nの出力は、再構成ブロック9により元の入力1と結合される。
図1の回路とは異なり、
図9の回路は、入力1を再構成ブロック9に結合する追加の接続を有している。
【0042】
図4は、より複雑なフィルタFを利用する、本発明の実施形態による信号処理回路の別の実施形態を示す。フィルタFは、入力1から入力信号を受け取り、後に増幅される複数の信号f
1、f
2、f
nを出力する。この実施形態では、単一フィルタのみが必要である。フィルタFは、ソフトウェアによってプログラムされる電子フィルタであり得る。フィ
ルタリングされた各信号は、別個の増幅器A
1、A
2、A
nによって増幅されているように示されているが、フィルタリングされた信号f
1、f
2、f
nの増幅を、フィルタFによって提供することができる。そして、フィルタリングされかつ増幅された信号と元のフィルタリングされていない信号とは、再構成ブロック9によって再構成される。
【0043】
図5および
図6は、カフ波形から推定されたcSBPとトノメトリ波形から推定されたcSBPとの比較を示し、カフ波形は、(1)GTFを使用して最初にこの波形を局所末梢動脈内波形に変換し、(2)局所末梢動脈内波形をpSBPおよびDBPのオシロメトリック測定値を用いて校正し、(3)この校正された局所末梢動脈内波形からMAPavwaveを取得し、(4)MAPavwaveおよびDBPを使用して、元のカフ波形を変換することから得られる中心血圧波形を校正することによって、校正される。
【0044】
図6は、カフから推定されたcSBPとトノメトリ法から推定されたcSBPとの間の2.2(±5.2)mmHgの平均差(±SD)を示す。図の上方の破線および下方の破線は、平均差±(2Dの2倍)、すなわち±10.4を表す。
【0045】
この手法は、代替的な手法より精度が低いことが示されている。これは、心周期の時相内で異なるカフ波形の歪みによる可能性がある。動脈内波形の部位(たとえば中心対末梢)による変化は、主に収縮期中に発生し、拡張期では主に指数関数的減衰として残り、動脈内波形からのカフ波形の偏差もまた、拡張期中に発生する。拡張期中のカフ波形のこの予測できない偏差は、特に拡張期の再構成に対し、GTFを使用する場合のカフ波形の動脈内波形への変換の精度に影響を与える。
【0046】
図7および
図8は、本発明の実施形態のようにカフ波形を局所動脈内波形に変換する好ましい方法による方法の例の結果を示す。本方法は、対象から収集されたカフ圧力測定値を使用して、カフ圧力波形から収縮期波形位相および拡張期波形位相を抽出することによって動脈脈波形を再構成する。
【0047】
図7は、カフから推定されたcSBPとトノメトリ法から推定されたcSBPとの間の1.62(±4.47)mmHgの平均差(±SD)を示す。図の上方の破線および下方の破線は、平均差±(SDの2倍)、すなわち±8.94を表す。
【0048】
特に、
図7および
図8は、(1)後述する時分割多重方法を使用してカフ波形を局所末梢動脈内波形に変換し、(2)局所末梢動脈内波形をpSBPおよびDBPのオシロメトリック測定値で校正し、(3)この校正された局所末梢動脈内波形からMAPavwaveを取得し、(4)MAPavwaveおよびDBPを使用して、元のカフ波形を変換することから得られる中心血圧波形を校正することによる、カフ波形から推定されたcSBPとトノメトリ波形から推定されたcSBPとの比較を示す。
【0049】
ここで、実行される具体的な処理例と得られる結果とに関連して、本発明の具体的な実施形態について説明する。
【0050】
方法
収縮期中に発生する末梢動脈内脈波の急な立上りを再構成するために必要な、収縮期中に発生する高周波特徴を抽出するために、カフ圧波形Aに第1フィルタが適用される。フィルタリングの結果は波形Bである。
【0051】
波形Bは、増幅され波形Aに加算されて、波形Cが得られる。波形Cは、カフ波形で喪失される動脈内波形の収縮期の高周波成分を組み込むように再構成されたカフ波形である。
【0052】
末梢動脈内脈波の拡張期部分を再構成するために必要な高周波特徴を抽出するために、カフ圧波形Aに第2フィルタが適用される。フィルタリングの結果は波形Dである。
【0053】
波形Dは、増幅され波形Aに加算されて、波形Eが得られる。波形Eは、カフ波形で喪失される動脈内波形の拡張期の指数関数的減衰およびあり得る拡張期ピークを組み込むように再構成されたカフ波形である。
【0054】
脈波形CおよびEはまとめられ、再構成された動脈脈波が得られる。脈波Cの収縮期部分を使用して、末梢動脈内脈波の収縮期部分が再構成され、脈波Eの拡張期部分を使用して、末梢動脈内脈波の拡張期部分が再構成される。
【0055】
そして、再構成された動脈脈波の不連続性のいかなる点も除去するように、第3フィルタが適用される。第3フィルタは、好ましくはゼロ位相フィルタである。
【実施例】
【0056】
以下の実施例を、上記方法に従って行った。実施例方法および序文で記載したトノメトリ法を、100の対象から収集されたデータに対して行った。両方法を使用して各対象から3つの測定値が得られた。
【0057】
実施例は、MAPにMAPとpSBPとの差の50%を足したものに等しい単一MCPを使用し、心周期の2つの時相、すなわち収縮期および拡張期に対して逐次フィルタリングを適用した。
【0058】
カットオフ周波数が3.2Hzである7次バターワースフィルタを第1フィルタとして使用して、収縮期中の最高周波数を特定した。収縮期の最高周波数成分を、元の脈波に戻される前に1.75倍増幅した。
【0059】
カットオフ周波数が1.75Hzである4次のバターワースフィルタを第2フィルタとして使用して、拡張期中の最高周波数を特定した。拡張期の最高周波数成分を元の脈波に加算した。
【0060】
2つの別個のフィルタリング操作からもたらされる2つの脈波の収縮期位相および拡張期位相を、単一脈波にまとめた。
【0061】
第3フィルタは、カットオフ周波数が6Hzである3次のバターワースローパスフィルタであった。
【0062】
結果
図7および
図8において、白い点は、実施例のフィルタ特性を導出するために使用されたデータのセットを表す。黒い菱形は、本方法を検証するために使用されたデータのセットを表す(このデータのセットは、フィルタ特性を導出するために使用されたデータのセットを含み、したがって、図の菱形のうちのいくつかの上には対応する円がプロットされている)。
【0063】
カフ圧波形から推定されるcSBPとトノメトリ法を介して得られるcSBPとの間に、両タイプの波形がpSBPおよびDBPのオシロメトリック値を使用して校正される時に、密な関係を見ることができる。
【0064】
上述した実施形態に対して、追加として、置換としてまたは削除としてでも、さまざま
な変更を行うことができ、それらは添付の特許請求の範囲の範囲内にあるように意図されている。たとえば、1つの代替実施形態では、末梢脈波形を、いかなるフィルタ処理または他の信号処理も適用される前に、収縮期位相および拡張期位相等、その異なる位相に時分割することができる。そして、それぞれの分割された位相信号を、必要に応じて、たとえば適切にフィルタリングし、その後、多重式に再結合することによって処理することができる。