特許第6234954号(P6234954)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6234954フタロシアニン化合物及び近赤外線吸収材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6234954
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】フタロシアニン化合物及び近赤外線吸収材料
(51)【国際特許分類】
   C07D 487/22 20060101AFI20171113BHJP
   C09B 47/04 20060101ALI20171113BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   C07D487/22CSP
   C09B47/04
   C09K3/00 105
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-51762(P2015-51762)
(22)【出願日】2015年3月16日
(65)【公開番号】特開2016-169195(P2016-169195A)
(43)【公開日】2016年9月23日
【審査請求日】2016年12月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】井口 和紀
(72)【発明者】
【氏名】小熊 尚実
【審査官】 清水 紀子
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第01764235(EP,A1)
【文献】 BIKRAM, Chandra K. C. et al.,Journal of Physical Chemistry C,2012年,116(22),p.11964-72
【文献】 遠畑優輝ら,日本化学会第94春季年会(2014)講演予稿集III,2014年,p.772 1E4-16
【文献】 GALMICHE, L. et al.,New J. Chem.,2001年,Vol.25,p.1148-51
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C09B 47/04
C09K 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるフタロシアニン化合物。
(前記一般式(1)中、R1〜R8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアミノ基、又は置換基を有してもよいカルバゾリル基を示し、R1とR2、R3とR4、R5とR6、及びR7とR8のうちの少なくとも1組が、置換基を有してもよいカルバゾリル基であり、Mは、2つの水素原子、又は2価、3価、若しくは4価の金属を示す)
【請求項2】
前記一般式(1)中、R1とR2、R3とR4、R5とR6、及びR7とR8のうちの少なくとも2組が、置換基を有してもよいカルバゾリル基である請求項1に記載のフタロシアニン化合物。
【請求項3】
前記一般式(1)中、R1〜R8が、いずれも置換基を有してもよいカルバゾリル基である請求項1に記載のフタロシアニン化合物。
【請求項4】
前記一般式(1)中、R1〜R8が、いずれも、置換基を有してもよい同一のカルバゾリル基である請求項1に記載のフタロシアニン化合物。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか一項に記載のフタロシアニン化合物からなる近赤外線吸収顔料を含有する近赤外線吸収材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フタロシアニン化合物、及びそれを用いた近赤外線吸収材料に関する。
【背景技術】
【0002】
フタロシアニン骨格を有する化合物(フタロシアニン化合物)は、青〜緑味を呈し、染料・顔料として古くから利用されている。また、構造を修飾することで吸収波長が近赤外線領域までシフトすることが知られており、近赤外線吸収性のフタロシアニン化合物が数多く提案されている。例えば、環を拡大して吸収波長を長波長化したナフタロシアニンなどの化合物や、パラジウムやバナジウムなどの特殊な金属を中心金属として有する化合物などが提案されている(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5288360号公報
【特許文献2】特許第5046515号公報
【特許文献3】特許第3565071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1〜3で提案されたフタロシアニン化合物等の近赤外線吸収性などの性質については、未だ改良の余地があった。本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、新規な骨格を有する近赤外線吸収性に優れたフタロシアニン化合物、及びそれを用いた、近赤外線吸収皮膜等を形成可能な近赤外線吸収材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明によれば、以下に示すフタロシアニン化合物が提供される。
[1]下記一般式(1)で表されるフタロシアニン化合物。
【0006】
(前記一般式(1)中、R1〜R8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアミノ基、又は置換基を有してもよいカルバゾリル基を示し、R1とR2、R3とR4、R5とR6、及びR7とR8のうちの少なくとも1組が、置換基を有してもよいカルバゾリル基であり、Mは、2つの水素原子、又は2価、3価、若しくは4価の金属を示す)
【0007】
[2]前記一般式(1)中、R1とR2、R3とR4、R5とR6、及びR7とR8のうちの少なくとも2組が、置換基を有してもよいカルバゾリル基である前記[1]に記載のフタロシアニン化合物。
]前記一般式(1)中、R1〜R8が、いずれも置換基を有してもよいカルバゾリル基である前記[1]に記載のフタロシアニン化合物。
]前記一般式(1)中、R1〜R8が、いずれも、置換基を有してもよい同一のカルバゾリル基である前記[1]に記載のフタロシアニン化合物。
【0008】
また、本発明によれば、以下に示す近赤外線吸収材料が提供される。
]前記[1]〜[]のいずれかに記載のフタロシアニン化合物からなる近赤外線吸収顔料を含有する近赤外線吸収材料。
【発明の効果】
【0009】
本発明のフタロシアニン化合物は、新規な骨格を有しており、近赤外線吸収性に優れた化合物である。また、本発明のフタロシアニン化合物を用いれば、近赤外線吸収皮膜等を形成可能な近赤外線吸収材料を調製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】フタロシアニン化合物(A)の希薄分散液の吸収波長スペクトルを示す図である。
図2】フタロシアニン化合物(E)の希薄水溶液の吸収波長スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明のフタロシアニン化合物は、下記一般式(1)で表される構造を有する。以下、本発明のフタロシアニン化合物の詳細について説明する。
【0012】
(前記一般式(1)中、R1〜R8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアミノ基、又は置換基を有してもよいカルバゾリル基を示し(但し、R1〜R8のうちの少なくとも1つは、置換基を有してもよいカルバゾリル基である)、Mは、2つの水素原子、又は2価、3価、若しくは4価の金属を示す)
【0013】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子を挙げることができる。置換基を有してもよいアルキル基としては、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基を挙げることができる。置換基を有してもよいアルコキシ基としては、1以上の酸素原子を含む、炭素数1〜20のアルコキシ基を挙げることができる。また、置換基を有してもよいアミノ基としては、1以上の窒素原子を含む、炭素数1〜20のアミノ基を挙げることができる。
【0014】
中心金属Mは、フタロシアニン骨格が形成されうる2価、3価、又は4価の周知の金属であれば特に限定されない。このような金属の具体例としては、鉄、マグネシウム、ニッケル、ケイ素、銅、亜鉛、アルミニウム、チタン、スズ、マンガンなどを挙げることができる。なお、中心金属Mに、ヒドロキシ基、オキソ基、又はハロゲン原子が配位していてもよい。
【0015】
カルバゾリル基は高い電子供与性を有する基であるとともに、耐熱性も良好であるため、有機ELの分野でビルディングブロックとして多く用いられている。このため、フタロシアニンのペリフェラル位(β位)にカルバゾリル基を導入すると、吸収波長が大きくシフトし、近赤外線吸収性を有するフタロシアニン化合物となる。また、隣接するペリフェラル位にカルバゾリル基をそれぞれ導入すると、その嵩高さのため、カルバゾール環はフタロシアニン環と同一平面上に存在できず、アキシアル方向に大きく歪む。
【0016】
例えば、Gaussian09[*B3LYP/6−311G(2d,p)]を用い、以下に示す式で表されるフタロシアニン化合物(A)の構造最適化を行うと、カルバゾール環は、両隣に存在するカルバゾリル基との立体障害によってすべて同旋方向に傾き、フタロシアニン環と約55°の二面角を形成することが分かる。このため、カルバゾリル基はパラレル方向のみならず、アキシアル方向にも大きな立体障害を形成する。この立体障害により、フタロシアニン化合物の分子間相互作用は弱くなり、鋭い吸収帯を持つようになる。なお、下記式中の太線を含むベンゼン環は、紙面手前に存在していることを示している。
【0017】
【0018】
置換基を有してもよいカルバゾリル基の具体例としては、カルバゾリル基、3−メチルカルバゾリル基、3,6−ジメチルカルバゾリル基、3,6−ジ−t−ブチルカルバゾリル基、3,6−ジクロロカルバゾリル基、3−フルオロカルバゾリル基、3−ブロモカルバゾリル基、3,6−ジブロモカルバゾリル基、3−ヨードカルバゾリル基、3,6−ジヨードカルバゾリル基、3,6−ジフェニルカルバゾリル基、4−ヒドロキシカルバゾリル基などを挙げることができる。
【0019】
本発明のフタロシアニン化合物の具体例としては、下記式で表される化合物を挙げることができる。
【0020】
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
一般式(1)中、R1とR2、R3とR4、R5とR6、及びR7とR8のうちの少なくとも1組が、置換基を有してもよいカルバゾリル基であることが好ましく、R1とR2、R3とR4、R5とR6、及びR7とR8のうちの少なくとも2組が、置換基を有してもよいカルバゾリル基であることがさらに好ましい。また、一般式(1)中のR1〜R8が、いずれも置換基を有してもよいカルバゾリル基である場合、深色効果と立体障害のいずれもが最大となる。さらに、一般式(1)中のR1〜R8が、いずれも置換基を有してもよい同一のカルバゾリル基であると、対称性が良好となるため、化合物の安定性が向上する。本発明のフタロシアニン化合物のさらなる具体例として、下記式で表される化合物を挙げることができる。
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
一般式(1)で表されるフタロシアニン化合物は、例えば、下記一般式(2)で表される化合物を、塩基性触媒下、中心金属の金属塩とともに環化反応させることで合成することができる。なお、上記の環化反応によって得られる一般式(1)で表されるフタロシアニン化合物の一分子中のカルバゾリル基の数は、最大で8個となる。下記一般式(2)で表される化合物と、適当なフタロニトリルとを混合して環化反応させれば、得られるフタロシアニン化合物の一分子中のカルバゾリル基の数を適宜調整することができる。
【0031】
(前記一般式(2)中、Cz1及びCz2は、それぞれ独立に、置換基を有してもよいカルバゾリル基を示す)
【0032】
なお、カルバゾリル基の3位及び6位は、求電子反応に対して活性である。このため、ハロゲン化、ニトロ化、及びスルホン化などにより、環化反応によって得られたフタロシアニン化合物(1)のカルバゾリル基の3位や6位に、ハロゲン原子、ニトロ基、及びスルホン基などの置換基を導入することができる。
【0033】
合成中間体である一般式(2)で表される化合物の合成方法を、下記式(3)で表される化合物の合成例を示して説明する。下記式(3)で表される化合物は、例えば、特許第5366106号公報に記載の方法に準拠し、4,5−ジフルオロフタロニトリルとカルバゾールを反応させることによって合成することができる。このため、置換基を有するカルバゾールを適宜選択して反応させることで、一般式(2)で表される化合物を合成することができる。
【0034】
【0035】
<近赤外線吸収材料>
本発明の近赤外線吸収材料は、前述のフタロシアニン化合物からなる近赤外線吸収顔料を含有する。本発明の近赤外線吸収材料は、画像表示用、画像記録用、印刷インキ用、筆記用インキ用、プラスチック用、顔料捺染用、及び塗料用などの材料として広範な分野で用いることができる。
【0036】
本発明の近赤外線吸収材料は、通常、前述のフタロシアニン化合物からなる微細化した粒子状の近赤外線吸収顔料と、皮膜形成材料とを含有する。近赤外線吸収材料中のフタロシアニン化合物(近赤外線吸収顔料)の量は、皮膜形成材料100質量部に対して、0.1〜500質量部であることが好ましく、1〜100質量部であることがさらに好ましい。フタロシアニン化合物の量を上記の範囲とすることで、より良好な近赤外線吸収性能を有するとともに、さらに強靭な強度を有する皮膜を形成することができる。フタロシアニン化合物の量が0.1質量部未満であると、近赤外線の吸収性能が不十分になる場合がある。一方、フタロシアニン化合物の量が500質量部超であると、形成される皮膜の強度が低下して脆くなる場合がある。
【0037】
本発明の近赤外線吸収材料は、例えば、前述のフタロシアニン化合物からなる微細化した近赤外線吸収顔料と、樹脂((共)重合体)、オリゴマー、又はモノマーなどの皮膜形成材料とを混合することで調製することができる。また、本発明の近赤外線吸収材料は、微細化した近赤外線吸収顔料と、上記の皮膜形成材料を含有する塗工液とを混合することでも調製することができる。皮膜形成材料を含有する塗工液としては、感光性の皮膜形成材料を含有する塗工液、又は非感光性の皮膜形成材料を含有する塗工液を用いることができる。感光性の皮膜形成材料を含有する塗工液の具体例としては、紫外線硬化性インキ、電子線硬化インキなどに用いられる感光性の皮膜形成材料を含有する液などを挙げることができる。また、非感光性の皮膜形成材料を含有する塗工液の具体例としては、凸版インキ、平版インキ、グラビアインキ、スクリーンインキなどの印刷インキに使用するワニス;常温乾燥又は焼き付け塗料に使用するワニス;電着塗装に使用するワニス;熱転写リボンに使用するワニスなどを挙げることができる。
【0038】
感光性の皮膜形成材料の具体例としては、感光性環化ゴム系樹脂、感光性フェノール系樹脂、感光性ポリアクリレート系樹脂、感光性ポリアミド系樹脂、感光性ポリイミド系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、ポリエポキシアクリレート系樹脂、ポリウレタンアクリレート系樹脂、ポリエーテルアクリレート系樹脂、ポリオールアクリレート系樹脂などの感光性樹脂を挙げることができる。これらの感光性樹脂を含有する液には、反応性希釈剤として各種のモノマーを添加してもよい。
【0039】
感光性樹脂を皮膜形成材料として含有する近赤外線吸収材料に、ベンゾインエーテル、ベンゾフェノンなどの光重合開始剤を添加し、従来公知の方法により練肉すれば、光硬化性の近赤外線吸収材料とすることができる。また、上記の光重合開始剤に代えて熱重合開始剤を用いれば、熱硬化性の近赤外線吸収材料とすることができる。
【0040】
非感光性の皮膜形成材料の具体例としては、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル系共重合体、可溶性ポリアミド系樹脂、可溶性ポリイミド系樹脂、可溶性ポリアミドイミド系樹脂、可溶性ポリエステルイミド系樹脂、水溶性アミノポリエステル系樹脂、これらの水溶性塩、スチレン−マレイン酸エステル系共重合体の水溶性塩、(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸系共重合体の水溶性塩などを挙げることができる。
【0041】
フタロシアニン化合物(近赤外線吸収顔料)は、近赤外線吸収材料中において単分子で存在していることが好ましい。フタロシアニン化合物が単分子で存在していることにより、形成される皮膜中に均一にフタロシアニン化合物が配置されるので、近赤外線をより効率的に吸収することが可能な皮膜を形成することができる。
【0042】
また、近赤外線吸収顔料は、近赤外線吸収材料中で粒子の状態で存在していることも好ましい。一般的な近赤外線吸収色素は、粒子の状態で存在すると、分子間の強い相互作用によって近赤外領域の吸収能力が低下する場合がある。これに対して、本発明の近赤外線吸収材料に用いる近赤外線吸収顔料を構成するフタロシアニン化合物は、カルバゾリル基によって分子間の相互作用が調整されている。このため、本発明の近赤外線吸収材料は、近赤外線吸収顔料が粒子の状態で存在していても効率よく近赤外線を吸収することができるとともに、耐光性にも優れている。
【0043】
フタロシアニン化合物からなる近赤外線吸収顔料の動的光散乱法による拡散係数相当径(分布基準は光強度)は、20nm〜10μmであることが好ましく、50nm〜1μmであることがさらに好ましい。近赤外線吸収顔料の拡散係数相当径(分布基準は光強度)を上記の範囲とすることで、近赤外線をより効率よく吸収できるとともに、耐光性及び平滑性に優れた皮膜を形成することができる。近赤外線吸収顔料の拡散係数相当径(分布基準は光強度)が20nm未満であると、近赤外線を効率よく吸収できるが、耐光性がさほど向上しない。一方、近赤外線吸収顔料の拡散係数相当径(分布基準は光強度)が10μm超であると、近赤外線吸収材料中で近赤外線吸収顔料が沈降しやすくなり、安定して皮膜を形成することが困難になるとともに、形成される皮膜の平滑性が低下する場合がある。
【0044】
フタロシアニン化合物からなる粒子状の近赤外線吸収顔料は、例えば、色素を顔料化する一般的な方法によって調製することができる。具体的には、(i)フタロシアニン化合物を溶媒に溶解させて得た溶液を貧溶媒で希釈して顔料粒子を析出させる方法;(ii)フタロシアニン化合物を溶媒中で加熱処理するソルベント法;(iii)ソルベントミリング法などを挙げることができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0046】
<中間体の合成>
(フタロニトリル(4)の合成)
特許第5366106号公報の記載を参考にして、4,5−ジフルオロフタロニトリルとカルバゾールを反応させて、下記式(4)で表される化合物(フタロニトリル(4))を合成した。
【0047】
【0048】
<フタロシアニン化合物の合成>
(実施例1)
エチルセロソルブ150部に、式(3)で表されるフタロニトリル(3)10部、ジアザビシクロウンデセン4部、及び塩化銅(II)1部を加え、110℃で7時間加熱した。冷却後にろ過し、エチルセロソルブ、メタノール、及び水で洗浄した。80℃で乾燥して、下記式(A)で表されるフタロシアニン化合物(A)8部を得た。
【0049】
【0050】
(実施例2)
塩化銅(II)1部に代えて、塩化亜鉛1部を使用したこと以外は、前述の実施例1と同様にして下記式(B)で表されるフタロシアニン化合物(B)7部を得た。
【0051】
【0052】
(実施例3)
フタロニトリル(3)10部に代えて、フタロニトリル(4)14部を使用したこと以外は、前述の実施例1と同様にして下記式(C)で表されるフタロシアニン化合物(C)8部を得た。
【0053】
【0054】
(実施例4)
フタロニトリル(3)10部に代えて、フタロニトリル(3)5部及びフタロニトリル(4)7部の混合物を使用したこと以外は、前述の実施例1と同様にして下記式(D)で表されるフタロシアニン化合物(D)8部を得た。
【0055】
【0056】
(実施例5)
98%硫酸150部にフタロシアニン化合物(A)10部を加え、2時間撹拌して硫酸溶液を得た。得られた硫酸溶液を水に少しずつ加えて希釈し、水酸化ナトリウムを加えてpH10〜11とした。一晩静置して生じた沈殿をろ過し、希水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した。80℃で乾燥して、下記式(E)で表されるフタロシアニン化合物(E)11部を得た。
【0057】
【0058】
得られた各化合物について質量分析(MALDI)を行ったところ、以下の分子量に相当するピークが検出された。使用した原材料及び質量分析の結果から、目的とする組成のフタロシアニン化合物が得られたことを確認した。
・フタロシアニン化合物(A):分子量1895
・フタロシアニン化合物(B):分子量1896
・フタロシアニン化合物(C):分子量2439
・フタロシアニン化合物(D):分子量2173
・フタロシアニン化合物(E):分子量2306
【0059】
<評価>
以下に示す配合で各成分を混合し、ペイントシェイカーを用いて90分間分散させて、動的光散乱法による拡散係数相当径が約250nmであるフタロシアニン化合物(A)の希薄分散液を調製した。調製したフタロシアニン化合物(A)の希薄分散液を測定用試料として吸収波長スペクトルを測定した。結果を図1に示す。また、フタロシアニン化合物(E)の希薄水溶液を調製し、吸収波長スペクトルを測定した。結果を図2に示す。
・フタロシアニン化合物(A):1.0部
・水/1−ブタノール(3/2(質量比))混合溶剤:15.0部
・ジルコニアビーズ(直径1mmφ):100部
図1
図2