特許第6234956号(P6234956)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6234956
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】スパークプラグの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/20 20060101AFI20171113BHJP
   H01T 21/02 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   H01T13/20 E
   H01T21/02
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-71006(P2015-71006)
(22)【出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2016-192283(P2016-192283A)
(43)【公開日】2016年11月10日
【審査請求日】2016年7月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】特許業務法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 崇順
【審査官】 段 吉享
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−146101(JP,A)
【文献】 特開昭53−018077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/20
H01T 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に伸びる中心電極と、
前記中心電極の外周に設けられた主体金具と、
棒状の接地電極であって、基端が前記主体金具に接合されると共に、先端が軸線側に屈曲された接地電極と、
を備えるスパークプラグの製造方法であって、
未屈曲の前記接地電極である未屈曲接地電極を、曲げスペーサが有する所定の曲面に押しつけることにより屈曲させる屈曲工程を備え、
前記曲げスペ−サは、前記曲げスペーサを固定治具に取付ける取付け部を含む第1の部材と、前記未屈曲接地電極と接触する前記所定の曲面を含む第2の部材と、を含む2以上の部材に分割可能に構成されている、
スパークプラグの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のスパークプラグの製造方法であって、
前記曲げスペ−サを構成する前記2以上の部材のうち、少なくとも2つの前記部材は、一方が凸部を有すると共に他方が前記凸部に嵌合する凹部を有する、スパークプラグの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のスパークプラグの製造方法であって、
前記曲げスペーサの前記第1の部材は靱性が前記第2の部材より高く、前記第2の部材は硬度が前記第1の部材より高い、スパークプラグの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のスパークプラグの製造方法であって、
前記スパークプラグの前記接地電極は、さらに、前記先端に接合されて前記中心電極と所定の間隙を有して対向して配置された電極チップを備え、
前記曲げスペーサは、
前記未屈曲接地電極と接触する前記所定の曲面に、前記電極チップを収容可能な溝部を備え、
前記溝部は、
前記曲げスペーサの前記第2の部材の先端側に配置された第1の側面と、前記第1の側面と連続する底面と、前記第1の側面と対向し前記底面と連続する第2の側面とを備え、
前記第1の側面と前記底面とは、半径R1の丸みをつけて接続され、前記第2の側面と前記底面とは、半径R2の丸みをつけて接続され、前記半径R1<前記半径R2である、
スパークプラグの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のスパークプラグの製造方法であって、
前記曲げスペーサの前記部材のいずれかが破損した場合に、前記屈曲工程の前に、
前記破損した前記部材を交換する工程を備える、
スパークプラグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガソリンエンジンなどの内燃機関の点火にはスパークプラグが用いられている。スパークプラグでは、接地電極の先端面が中心電極に対向するように中心電極の軸線に向かって屈曲加工されることにより、中心電極と接地電極との間で火花放電間隙(火花放電ギャップ)が形成される。接地電極は、主体金具に接合された状態で、曲げスペ−サを用いて中心電極に向けて屈曲加工される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−243260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたスパークプラグの製造方法において、曲げスペ−サを用いた接地電極の屈曲加工では、曲げスペーサに接地電極の屈曲に伴う荷重がかかるため、曲げスペーサの接地電極との接触部分の劣化に伴い、スパークプラグの火花放電間隙の精度が低下するおそれがある。そこで、スパークプラグの火花放電間隙の精度の低下を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することができる。
【0006】
(1)本発明の一形態によれば、軸線方向に伸びる中心電極と、前記中心電極の外周に設けられた主体金具と、棒状の接地電極であって、基端が前記主体金具に接合されると共に、先端が軸線側に屈曲された接地電極と、を備えるスパークプラグの製造方法が提供される。このスパークプラグの製造方法は、未屈曲の前記接地電極である未屈曲接地電極を、曲げスペーサが有する所定の曲面に押しつけることにより屈曲させる屈曲工程を備え、前記曲げスペ−サは、前記曲げスペーサを固定治具に取付ける取付け部を含む第1の部材と、前記未屈曲接地電極と接触する前記所定の曲面を含む第2の部材と、を含む2以上の部材に分割可能に構成されている。この形態のスパークプラグの製造方法によれば、曲げスペーサには、未屈曲接地電極を屈曲させるための曲げ荷重が作用するため、取付け部や所定の曲面では曲げ荷重に伴う応力によって破損が生じる可能性がある。曲げスペーサが、第1の部材と第2の部材を含む2以上の部材に分割可能に構成されているため、曲げスペーサにおいて破損が生じた場合に、破損箇所を含む部材のみを交換して、スパークプラグの火花放電間隙を安定して精度よく形成することができる。また、破損箇所を含む部材のみを交換することができるため、治工具交換費用を低減させることができる。その結果、このスパークプラグの製造方法によれば、スパークプラグの製造費用を低減させることができる。
【0007】
(2)上記形態のスパークプラグの製造方法であって、前記曲げスペ−サを構成する前記2以上の部材のうち、少なくとも2つの前記部材は、一方が凸部を有すると共に他方が前記凸部に嵌合する凹部を有してもよい。このようにすると、凹部を有する部材と、対応する凸部を有する部材と、の一方の部材を交換する場合に、凹部と凸部とを嵌合させることにより、容易に2つの部材を適切に組み合わせることができる。そのため、このスパークプラグの製造方法によれば、曲げスペーサが破損した場合に短時間で、部材を交換することができるため、スパークプラグの製造時間の増大を抑制することができ、生産効率の低下を抑制することができる。
【0008】
(3)上記形態のスパークプラグの製造方法であって、前記曲げスペーサの前記第1の部材は靱性が第2の部材より高く、前記第2の部材は硬度が前記第1の部材より高くしてもよい。このようにすると、第1の部材における破損の発生と第2の部材における破損発生との両方をバランスよく抑制することができる。
【0009】
(4)上記形態のスパークプラグの製造方法であって、前記スパークプラグの前記接地電極は、さらに、前記先端に接合されて前記中心電極と所定の間隙を有して対向して配置された電極チップを備え、前記曲げスペーサは、前記未屈曲接地電極と接触する前記所定の曲面に、前記電極チップを収容可能な溝部を備え、前記溝部は、前記曲げスペーサの前記第2の部材の先端側に配置された第1の側面と、前記第1の側面と連続する底面と、前記第1の側面と対向し前記底面と連続する第2の側面とを備え、前記第1の側面と前記底面とは、半径R1の丸みをつけて接続され、前記第2の側面と前記底面とは、半径R2の丸みをつけて接続され、前記半径R1<前記半径R2にしてもよい。曲げスペーサの溝部が形成された部分は、応力が集中した箇所で割れが発生しやすい。このスパークプラグの製造方法では、曲げスペーサの溝部においてより大きな応力がかかる第2の側面と底面との接続部分の丸み半径R2を、第1の側面と前記底面との丸み半径R1より大きくすることにより、応力集中を抑制して、曲げスペーサの破損を抑制することができる。その結果、スパークプラグの製造工程における曲げスペーサの部材の交換に要する費用および時間を抑制することができ、スパークプラグの製造コストの増大および、生産効率の低下を抑制することができる。
【0010】
(5)上記形態のスパークプラグの製造方法であって、前記曲げスペーサの前記部材のいずれかが破損した場合に、前記屈曲工程の前に、前記破損した部材を交換する工程を備えてもよい。この方法によれば、曲げスペーサに破損が発生した場合に、破損した部材のみを交換するため、治工具交換費用を低減させることができる。
【0011】
本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、スパークプラグの製造装置、スパークプラグ、センサ等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】スパークプラグの部分断面を示す説明図である。
図2】スパークプラグの製造方法を説明するための工程図である。
図3】予備曲げ装置の要部を拡大して示す説明図である。
図4】曲げスペ−サの構成を説明するための説明図である。
図5】曲げスペ−サの第2の部材の外観構成を示す斜視図である。
図6】予備曲げ加工を説明するための説明図である。
図7】本曲げ加工を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
A.第1実施形態
A−1.スパークプラグの構成
図1は、スパークプラグ100の部分断面を示す説明図である。図1には、スパークプラグ100の軸心である軸線CAを境界として、軸線CAより紙面左側にスパークプラグ100の外観形状が図示され、軸線CAより紙面右側にスパークプラグ100の断面形状が図示されている。本実施形態では、スパークプラグ100における図1の紙面下側を「先端側」といい、図1の紙面上側を「後端側」という。図1には、相互に直交するXYZ軸を図示した。図1に示したZ軸は、軸線CAに沿った軸である。Z軸に沿ったZ軸方向(軸線方向)のうち、+Z軸方向は、スパークプラグ100の後端側から先端側に向かう方向である。
【0014】
スパークプラグ100は、中心電極10と、絶縁体20と、主体金具30と、接地電極40とを備える。本実施形態では、スパークプラグ100の軸線CAは、中心電極10、絶縁体20および主体金具30の各部材における軸心でもある。
【0015】
スパークプラグ100は、中心電極10と接地電極40との間に形成された火花放電間隙SG(火花放電ギャップ)を先端側に有する。スパークプラグ100は、火花放電間隙SGが形成された先端側を燃焼室92の内壁91から突出させた状態で内燃機関90に取り付け可能に構成されている。スパークプラグ100を内燃機関90に取り付けた状態で高電圧(例えば、1万〜3万ボルト)を中心電極10に印加した場合、火花放電間隙SGに火花放電が発生する。火花放電間隙SGに発生した火花放電は、燃焼室92における混合気に対する着火を実現する。本実施形態における火花放電間隙SGが、請求項における所定の間隙に相当する。
【0016】
スパークプラグ100の中心電極10は、導電性を有する電極である。中心電極10は、軸線CA方向に延びた棒状を成す。中心電極10の外側面は、絶縁体20によって外部から電気的に絶縁されている。中心電極10の先端側は、絶縁体20の先端側から突出している。中心電極10の後端側は、絶縁体20の後端側に設けられた端子金具19に電気的に接続されている。
【0017】
スパークプラグ100の絶縁体20は、電気絶縁性を有する碍子である。絶縁体20は、軸線CAを中心に延びた筒状を成す。本実施形態では、絶縁体20は、絶縁性セラミックス材料(例えば、アルミナ)を焼成することによって作製される。絶縁体20は、軸線CA方向に延びた貫通孔である軸孔29を有する。絶縁体20の軸孔29には、中心電極10を絶縁体20の先端側から突出させた状態で、中心電極10が軸線CA上に保持されている。
【0018】
スパークプラグ100の主体金具30は、導電性を有する金属体である。主体金具30は、軸線CA方向に延びた筒状を成す。本実施形態では、主体金具30は、筒状に成形された低炭素鋼にニッケルめっきを施した部材である。他の実施形態では、主体金具30は、亜鉛めっきを施した部材であっても良いし、めっきを施していない部材(無めっき)であっても良い。主体金具30は、中心電極10から電気的に絶縁された状態で絶縁体20の外側面にカシメによって固定されている。主体金具30の先端側には、端面31が形成されている。端面31の中央からは、中心電極10と共に絶縁体20が+Z軸方向(先端方向)に向けて突出している。端面31には、接地電極40が接合されている。
【0019】
スパークプラグ100の接地電極40は、導電性を有する電極である。接地電極40は、棒状を成し、一端(以下、基端とも称する)が主体金具30の端面31に接合されている。接地電極40は、主体金具30の端面31から+Z軸方向に延びた後に軸線CAに向けて屈曲されている。本実施形態において、接地電極40は、先端に電極チップ45を有する。電極チップ45は、接地電極40の先端より+Y軸方向に突出して接合されており、中心電極10と対向して配置され、中心電極10との間に火花放電間隙SGを形成する。図示するように、接地電極40の先端のY軸方向の位置は、中心電極10より−Y軸側にずれている。すなわち、接地電極40の長さは、先端のY軸方向の位置が中心電極10の中心位置と一致する場合と比較して、短い。この結果、接地電極40の受熱温度を低くすることができ、受熱による接地電極40の酸化および折損の発生が抑制される。
【0020】
本実施形態では、接地電極40の材質は、ニッケル(Ni)を主成分とするニッケル合金である。本実施形態では、電極チップ45の材質は、白金(Pt)を主成分とし20質量%のロジウム(Rh)を含有する合金である。他の実施形態では、電極チップ45の材質は、火花放電に対する耐消耗性に優れた材質であればよく、純粋な貴金属(例えば、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、およびルテニウム(Ru)など)であってもよいし、ニッケル(Ni)であってもよいし、これらの金属の少なくとも1つを含有する他の合金であってもよい。
【0021】
図2は、本実施形態におけるスパークプラグの製造方法を説明するための工程図である。スパークプラグ100の構成部品は予め作製されている。
【0022】
絶縁体20に形成された軸孔29に中心電極10を挿設する(ステップS10)。具体的には、絶縁体20の内部に、中心電極10、セラミック抵抗、シール体および端子金具19を所定の順序で挿入し、ガラスシールと呼ばれる加熱圧縮工程によってこれらを一体的に形成する。
【0023】
次に、絶縁体20を組み付ける前の主体金具30の先端面に、未屈曲の接地電極40(以下、未屈曲接地電極40Aとも称する)を抵抗溶接により接合する(ステップS12)。
【0024】
主体金具30の内側に、ガラスシールによって中心電極10と一体となった絶縁体20を差し込み、主体金具30の加締部を内側に折り曲げるようにして加締めることにより、主体金具30と中心電極10とを組み付ける(ステップS14)。これによって、中心電極10の先端が主体金具30の先端側から突出した状態で、絶縁体20が主体金具30に一体的に保持される。
【0025】
主体金具30に接合された未屈曲接地電極40Aの内側側面に電極チップ45を抵抗溶接により接合する(ステップS16)。このように、主体金具30に未屈曲接地電極40Aが溶接された部材をワークともいう。
【0026】
未屈曲接地電極40Aの屈曲加工を行う(ステップS18)。屈曲工程(ステップS18)は、未屈曲接地電極40Aを曲げ半径Rで屈曲させる予備曲げ加工(ステップS182)と、中心電極10と電極チップ45との間の火花放電間隙SGを形成する本曲げ加工(ステップS184)とを含む。ステップS182では、予備曲げ装置300を利用して予備曲げ加工を行う。
【0027】
図3は、予備曲げ装置300の要部を拡大して示す説明図である。予備曲げ装置300は、曲げスペーサ位置決め機構部310と、曲げスペーサ311と、曲げ機構部330と、曲げローラ(曲げ治具)331とを有する(図3)。本実施形態における曲げスペーサ位置決め機構部310が、請求項における固定治具に相当する。
【0028】
曲げスペーサ位置決め機構部310は、スペ−サ311が取付けられ、曲げスペーサ311を中心電極10の軸線方向(図3のY軸方向)に移動させることにより、中心電極10の先端面と曲げスペーサ311との距離を所定値に調整し、曲げスペーサ311を中心電極10の先端面との間に所定の隙間を生じるように位置決めする。
【0029】
曲げ機構部330は、未屈曲接地電極40Aを曲げスペーサ311に向けて押しつけるように曲げローラ331を駆動させる。曲げスペーサ311は、後に詳述するように、接地電極40の内側側面412が押しつけられる当接面319を有する。主体金具30に未屈曲接地電極40Aが接合されたワーク150が、図示しないワーク保持部に装着され、スペーサ311が規定の位置に配置された状態で、未屈曲接地電極40Aを曲げスペーサ311の当接面319に押しつけるように、曲げ機構部330によりローラ331が駆動される。
【0030】
図4は、曲げスペ−サ311の構成を説明するための説明図である。図5は、曲げスペ−サ311の第2の部材311Bの外観構成を示す斜視図である。図6は、予備曲げ加工を説明するための説明図である。
【0031】
図4に示すように、曲げスペーサ311は、第1の部材311Aと、第2の部材311Bとが組み合わされて、ねじ320により締結されて接合されている。第1の部材311Aは、合金工具鋼鋼材SKS3(JIS G 4404:2006)を用いて形成され、第2の部材311Bは、高速度工具鋼鋼材SKH54(JIS G 4403:2006)を用いて形成されている。第1の部材311Aは、高い硬度を有するとともに、第2の部材311Bより高い靱性を有する。一方、第2の部材311Bは、靱性は第1の部材311Aより劣るものの、第1の部材311Aよりさらに高い硬度を有する。第1の部材311Aおよび第2の部材311Bを用いたロックウェル硬さ試験(JIS Z 2245:2011)による硬度は、第1の部材311A(SKS3製)がHRC20未満、第2の部材311B(SKH54製)がHRC62〜66であった。
【0032】
第1の部材311Aは、掛合部314と、雌ねじが形成されたねじ孔315,316,323と、2つの凹部322Aと、を備える。掛合部314と、ねじ孔315,316は、曲げスペーサ311を、曲げスペーサ位置決め機構部310に取付けるための構成である。曲げスペーサ311は、第1の部材311Aの掛合部314が曲げスペーサ位置決め機構部310(図3)に掛合されるとともに、ボルト312,313によって、第1の部材311Aのねじ孔315,316を介して曲げスペーサ位置決め機構部310に締結されることにより、曲げスペーサ位置決め機構部310に取付けられている。一方、ねじ孔323、および2つの凹部322Aは、第1の部材311Aと第2の部材311Bとを接合するための構成である。
【0033】
図5に示すように、第2の部材311Bは、曲面状の側面を備える略四角錘台形状を成す。第2の部材311Bは、当接面319(曲面)と、溝部317と、凹部318と、貫通孔321と、2つの凸部322Bと、を備える。貫通孔321および2つの凸部322Bは、第1の部材311Aと第2の部材311Bとを接合するための構成である。第2の部材311Bの2つの凸部322Bは、第1の部材311Aの2つの凹部322Aとそれぞれ嵌合する形状を成す。図4に示すように、第1の部材311Aの2つの凹部322Aに、第2の部材311Bの2つの凸部322Bがそれぞれ嵌合され、ねじ320が第2の部材311Bの貫通孔321を介して、第1の部材311Aのねじ孔323に螺号されることにより、第1の部材311Aと第2の部材311Bとが接合される。本実施形態では、スペーサ311が第1の部材311Aと第2の部材311Bとの2つの部材から構成されているが、第1の部材311Aと第2の部材311Bとが接合面にそれぞれ、嵌合する凹部322Aおよび凸部322Bを備える、いわゆるインロー構造を有するため、例えば、第2の部材311Bが破損して交換する場合に、凹部322Aと凸部322Bとを嵌合させれば、容易に適切な配置で接合することができる。
【0034】
図6に示すように、第2の部材311Bの当接面319は、接地電極40の内側側面412が押しつけられる面であって、接地電極40の曲げ形状に対応した曲面状を成す。凹部318は、予備曲げ加工時に、中心電極10が配置される窪みである。本実施形態における当接面319が請求項における所定の曲面に相当する。
【0035】
溝部317は、未屈曲接地電極40Aの予備曲げ加工時に、電極チップ45が曲げスペ−サ311に接触することなく溝部317に収容されるように、当接面319に形成されている。溝部317は、図5に示すように、略四角錘台形状の窪みを形成しており、底面317aと、曲げスペーサ311の先端側の第1の側面317bと、第1の側面317bと対向する第2の側面317cと、第1の側面317bと第2の側面317cとを接続する第3の側面317dと、を備える。第1の側面317bと底面317aとは、半径R1の丸みをつけて接続され、第2の側面317cと底面317aとは、半径R2の丸みをつけて接続されており、半径R1<半径R2である(図4)。本実施形態では、R1=3.0mm,R2=0.5mmとしているが、これに限定されず、応力集中を抑制可能な大きさに適宜設定することができる。
【0036】
未屈曲接地電極40Aを予備曲げ加工する際に、図6に示すように、曲げスペーサ311の第2の部材311Bの当接面319には、曲げローラ331によって未屈曲接地電極40Aを屈曲させるための荷重が付与される。第2の部材311Bにおいて、溝部317が形成された部分は、ローラ331による荷重により応力が集中すると、応力集中が生じた箇所で破損(割れ)が生じ易い。本実施形態では、溝部317において比較的高い応力がかかる第2の側面317cと底面317aとの接続箇所の丸みの半径R2を大きくすることにより、応力の集中を抑制して、第2の部材311Bの破損を抑制することができる。
【0037】
図7は、本曲げ加工(ステップS184)を説明するための説明図である。本曲げ装置250は、上下方向(Z軸方向)に駆動可能な本曲げパンチ251を備える。ステップS184(図2)において、予備曲げ加工後の接地電極40に対して、本曲げパンチ251が上方から当接し、接地電極40の先端の内側側面412が中心電極10の先端面12と平行となるように本曲げ加工を施す。本曲げ加工では、CCDカメラ253により電極チップ45と中心電極10の先端面との間隔をモニタしながら段階的に行い、所定の大きさの火花放電ギャップGを形成する。こうして、スパークプラグ100が完成する。
【0038】
上記ステップS10〜S18を繰り返し実施して、複数のスパークプラグ100を連続して製造する。複数のスパークプラグを連続して製造している最中に、曲げスペーサ311の第2の部材311Bに破損が生じた場合には、ステップS18の前に、第2の部材311Bを交換する工程を実施する。第1の部材311Aに破損が生じた場合には、同様に、ステップS18の前に第1の部材311Aを交換する工程を実施する。
【0039】
上述の通り、スパークプラグ100の未屈曲接地電極40Aを屈曲させる予備曲げ工程において、スペーサ311には曲げ荷重が作用するため、曲げスペーサ位置決め機構部310への取付け部(第1の部材311A)、または第2の部材311Bの溝部317において、破損が生じる可能性がある。本実施形態のスパークプラグの製造方法によれば、予備曲げ工程において、2つの部材(第1の部材311A,第2の部材311B)に分割可能に構成された曲げスペーサ311が用いられている。そのため、第1の部材311Aおよび第2の部材311Bのいずれか一方に破損が生じた場合には、破損が生じた部材を交換すればよく、スペーサ311全体を交換する場合と比較して治工具の交換費用を抑制することができ、スパークプラグ100の製造コストを低減させることができる。また、例えば、第2の部材311Bにおいて破損(亀裂)が生じると、スパークプラグ100の火花放電間隙の精度が低下するおそれがあるが、第2の部材311Bを交換することにより、安定して精度よく火花放電間隙を形成することができる。
【0040】
また、本実施形態のスパークプラグの製造方法において用いられるスペーサ311は、第1の部材311Aと第2の部材311Bとが、いわゆるインロー構造を有する。そのため、一方の部材を交換する場合に、第1の部材311Aの凹部322Aに第2の部材311Bの凸部322Bを嵌合させることにより、容易に第1の部材311Aと第2の部材311Bとを適切に組み合わせることができる。そのため、本実施形態のスパークプラグの製造方法によれば、曲げスペーサ311の第1の部材311Aまたは第2の部材311Bが破損した場合に短時間で適切に、部材を交換することができるため、スパークプラグの製造時間の増大を抑制することができ、生産性の低下を抑制することができる。
【0041】
本実施形態のスパークプラグの製造方法において用いられるスペーサ311は、第1の部材311Aと第2の部材311Bとが、異なる鋼材によって作製されており、第1の部材311Aは靱性が第2の部材311Bよりも高く、第2の部材311Bは硬度が第1の部材311Aより高い。曲げスペーサ311には、ローラ331によって大きな荷重が付与されるため、その荷重により破損(割れ)しない大きな硬度が必要とされている。本実施形態のスパークプラグ100は、接地電極40が従来(電極チップ45が接地電極40の先端から突出していない構成や電極チップ45を備えない構成)に比較して短いため、未屈曲接地電極40Aを予備曲げ加工する際に、スペーサ311に作用する荷重(応力)が従来よりも大きく、曲げスペーサ311において、破損が生じる可能性が高くなる。そこで、曲げスペーサ311の全体の硬度を上げることを検討したものの、全体の硬度を上げると、曲げスペーサ位置決め機構部310への取付け部分において、破損が生じる可能性が高くなった。そのため、曲げスペーサ311を分割可能に構成し、第1の部材311Aは高い硬度を有すると共に、高い靱性を備える部材とし、第2の部材311Bは、第1の部材311Aよりも靱性は劣るものの第1の部材311Aより高い硬度を有する部材とした。これにより、曲げスペーサ311はバランスのとれた治具となり、破損が生じにくくなった。そのため、治工具の交換費用が低減され、スパークプラグの製造コストを低減させることができる。
【0042】
本実施形態のスパークプラグの製造方法において用いられるスペーサ311は、第2の部材311Bの溝部317において曲げローラ331による荷重に対応する応力が集中する部分の角Rを大きく設定することにより、応力の集中を抑制して、第2の部材311Bの破損を抑制することができる。その結果、スパークプラグの製造工程における曲げスペーサ311の部材の交換に要する費用および時間を抑制することができ、スパークプラグの製造コストを抑制することができ、生産効率の低下を抑制することができる。
【0043】
B.変形例:
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。例えば、次のような変形も可能である。
【0044】
B−1.第1変形例:
上記実施形態において、接地電極40の先端に、接地電極40の先端面から突出した状態で電極チップ45が接合された構成を例示したが、これに限定されない。例えば、電極チップ45は、接地電極40の先端面より内側(−Y軸側)に接合されてもよい。この場合には、接地電極40が上記実施形態よりも長く形成される。さらに、電極チップ45を備えない構成としてもよい。
【0045】
B−2.第2変形例:
上記実施形態において、曲げスペーサ311は2つの部材(第1の部材311Aと第2の部材311B)に分割可能に構成される例を示したが、3以上の部材に分割可能に構成してもよい。曲げスペーサ311を分割可能に構成することにより、破損等が生じた場合に、破損箇所を含む部材のみを交換することにより、治工具の交換費用を低減することができる。
【0046】
B−3.第3変形例:
曲げスペーサ311の形状は、上記実施形態に限定されない。曲げスペーサ位置決め機構部310に取付ける取付け部と、接地電極40の曲げ形状に対応した曲面状を成す当接面319を備えればよい。曲げスペーサ311を分割する位置も上記実施形態に限定されず、適宜設定可能である。
【0047】
B−4.第4変形例:
第1の部材311Aおよび第2の部材311Bにそれぞれ形成された凹部322Aおよび凸部322Bの形状は上記実施形態に限定されない。互いに嵌合する形状であればよい。例えば、第1の部材311Aが凸部を備え、第2の部材311Bが対応する凹部を備えてもよい。
【0048】
B−5.第5変形例:
第1の部材311Aおよび第2の部材311Bを構成する材料は、上記実施形態に限定されない。例えば、第2の部材311Bを第1の部材311Aと同じ合金工具鋼鋼材SKS3を用いて形成してもよい。同じ材料によって構成しても、いずれか一方に破損が生じた場合に、破損が生じた部材のみ交換することができるため、治具交換費用を低減することができる。また、第2の部材311Bの未屈曲接地電極40Aが当接する部分を、さらに硬度の高い材料(例えば、超硬合金V2等)を用いて形成してもよい。
【0049】
B−6.第6変形例:
上記実施形態において、溝部317の底面と側面との接続部の丸み半径を第1の側面と第2の側面とで異なる値を用いる例を示したが、これに限定されず、同じ丸み半径にしてもよい。
【符号の説明】
【0050】
10…中心電極
12…先端面
19…端子金具
20…絶縁体
29…軸孔
30…主体金具
31…端面
40…接地電極
40A…未屈曲接地電極
45…電極チップ
50…主体金具
90…内燃機関
91…内壁
92…燃焼室
100…スパークプラグ
150…ワーク
250…本曲げ装置
251…パンチ
253…CCDカメラ
300…予備曲げ装置
310…曲げスペーサ位置決め機構部
311…曲げスペ−サ
311A…第1の部材
311B…第2の部材
312…ボルト
314…掛合部
315,316,323…ねじ孔
317…溝部
317a…底面
317b…第1の側面
317c…第2の側面
317d…第3の側面
318…凹部
319…当接面
321…貫通孔
322A…凹部
322B…凸部
330…曲げ機構部
331…ローラ
412…内側側面
CA…軸線
図1
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図7