特許第6234968号(P6234968)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6234968
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】流体回収再生充填装置
(51)【国際特許分類】
   F25B 49/02 20060101AFI20171113BHJP
   F25B 45/00 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   F25B49/02 570Z
   F25B45/00 A
   F25B49/02 510A
   F25B49/02 510F
   F25B49/02 510Z
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-142621(P2015-142621)
(22)【出願日】2015年7月17日
(65)【公開番号】特開2017-26182(P2017-26182A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2016年2月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】597095120
【氏名又は名称】株式会社岡常歯車製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100080746
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 武嗣
(72)【発明者】
【氏名】野田 一行
(72)【発明者】
【氏名】高部 義幸
【審査官】 伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/063645(WO,A1)
【文献】 特開平07−019676(JP,A)
【文献】 特開2004−012005(JP,A)
【文献】 特開平09−297085(JP,A)
【文献】 実開昭56−107475(JP,U)
【文献】 特開2008−037363(JP,A)
【文献】 特開2007−040690(JP,A)
【文献】 特開平09−152234(JP,A)
【文献】 特開2006−138523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 49/02
F25B 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両空調装置から冷媒を回収して再生する回収再生工程を行った後に、回収再生した冷媒を該車両空調装置に充填する流体回収再生充填装置に於て、
上記車両空調装置が正常状態か異常状態かを上記回収再生工程前に判定して判定結果を表示する診断手段を備え、
上記診断手段は、外気温度を測定するための外気温度センサ(E1)と、上記車両空調装置の高圧側配管内の圧力を測定するための高圧側圧力センサ(E2)と、上記車両空調装置の低圧側配管内の圧力を測定するための低圧側圧力センサ(E3)と、を備え、
上記診断手段は、上記外気温度センサ(E1)の測定結果に基づいて、外気温度に応じた所定の高圧正常値範囲及び所定の低圧正常値範囲を決定する正常値範囲決定処理を行い、さらに、上記車両空調装置の低圧側配管内の圧力が上記所定の低圧正常値範囲よりも低く、かつ、上記車両空調装置の高圧側配管内の圧力が上記所定の高圧正常値範囲よりも低い場合に、上記冷媒を回収再生して充填することで改善される可能性があるという注意状態と判定して表示し、
上記診断手段は、上記低圧側配管の表面に結露があるか否かを検知するための水分センサ(E5)を、備え、
さらに、上記診断手段は、上記車両空調装置の低圧側配管内の圧力が上記所定の低圧正常値範囲よりも高く、かつ、上記車両空調装置の高圧側配管内の圧力が上記所定の高圧正常値範囲よりも高い場合において、上記水分センサ(E5)の検知結果に基づいて上記低圧側配管の表面に結露がないと判定すると、上記注意状態と判定して表示することを特徴とする流体回収再生充填装置。
【請求項2】
上記診断手段は、判定結果を視認させるための表示部(5)を備え、
上記表示部(5)は、上記正常状態と判定した場合に点灯又は点滅する第1ランプ(51)と、上記注意状態と判定した場合に点灯又は点滅する第2ランプ(52)と、上記異常状態と判定した場合に点灯又は点滅する第3ランプ(53)と、を備えている請求項1記載の流体回収再生充填装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体回収再生充填装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両空調装置から冷媒を回収して不要な機械油を除去する回収再生工程を行い、その後、再生した冷媒を、車両空調装置に充填する流体回収再生充填装置(例えば、特許文献1参照)があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−117719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来は、上記回収再生工程を行う前に、エアコンチェック用圧力計等の空調診断装置を車両空調装置に接続して、内圧を目視で確認して、車両空調装置に異常が無いか診断を行っていた。そのため、流体回収再生充填装置と空調診断装置を夫々所有する必要があり、保守管理に手間やコストがかかるといった問題があった。また、診断作業と流体回収再生充填作業との準備や操作等に手間と時間がかかるといった問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、空調診断装置を所有する必要が無く、容易かつ迅速に診断作業と流体回収再生充填作業が行える流体回収再生充填装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の流体回収再生充填装置は、車両空調装置から冷媒を回収して再生する回収再生工程を行った後に、回収再生した冷媒を該車両空調装置に充填する流体回収再生充填装置に於て、上記車両空調装置が正常状態か異常状態かを上記回収再生工程前に判定して判定結果を表示する診断手段を備え、上記診断手段は、外気温度を測定するための外気温度センサと、上記車両空調装置の高圧側配管内の圧力を測定するための高圧側圧力センサと、上記車両空調装置の低圧側配管内の圧力を測定するための低圧側圧力センサと、を備え、上記診断手段は、上記外気温度センサの測定結果に基づいて、外気温度に応じた所定の高圧正常値範囲及び所定の低圧正常値範囲を決定する正常値範囲決定処理を行い、さらに、上記車両空調装置の低圧側配管内の圧力が上記所定の低圧正常値範囲よりも低く、かつ、上記車両空調装置の高圧側配管内の圧力が上記所定の高圧正常値範囲よりも低い場合に、上記冷媒を回収再生して充填することで改善される可能性があるという注意状態と判定して表示し、上記診断手段は、上記低圧側配管の表面に結露があるか否かを検知するための水分センサを、備え、さらに、上記診断手段は、上記車両空調装置の低圧側配管内の圧力が上記所定の低圧正常値範囲よりも高く、かつ、上記車両空調装置の高圧側配管内の圧力が上記所定の高圧正常値範囲よりも高い場合において、上記水分センサの検知結果に基づいて上記低圧側配管の表面に結露がないと判定すると、上記注意状態と判定して表示するものである。
【0007】
また、上記診断手段は、判定結果を視認させるための表示部を備え、上記表示部は、上記正常状態と判定した場合に点灯又は点滅する第1ランプと、上記注意状態と判定した場合に点灯又は点滅する第2ランプと、上記異常状態と判定した場合に点灯又は点滅する第3ランプと、を備えているものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、流体回収再生充填装置1台で、車両空調装置の空調診断作業と、流体回収再生充填作業とを行うことができ、空調診断装置を所有する必要が無く、保守管理の手間やコストを削減できる。作業に応じて、空調診断装置と流体回収再生充填装置を使い分ける必要がなく、容易かつ迅速に、診断作業と流体回収再生充填作業とを行うことができる。熟練者でなくとも容易かつ正確に診断できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の一形態を示す正面図である。
図2】状態判定処理を説明するためのフローチャート図である。
図3】状態判定処理を説明するためのフローチャート図である。
図4】状態判定処理を説明するためのフローチャート図である。
図5】状態判定処理及び判定表示処理を説明するためのフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図示の実施形態に基づき本発明を詳説する。
本発明に係る流体回収再生充填装置は、図1に示すように、車両空調装置(カーエアコン)の高圧側サービスバルブに着脱自在な高圧用継手部材11aを先端側に有する高圧用ホース11と、車両空調装置の低圧側サービスバルブに着脱自在な低圧用継手部材12aを先端側に有する低圧用ホース12と、車両空調装置から回収した冷媒(流体)を貯えるための回収タンクTと、を備え、車両空調装置に充填されている冷媒(流体)を回収して、オイル混じりの冷媒からオイルを除去する回収再生工程を行い、再生した冷媒を回収タンクTに貯えた後に、車両空調装置に充填するためのものである。
【0011】
また、図示省略するが、オイル缶を接続可能な複数のオイル用チャージバルブと、補充用冷媒缶を接続可能な補充冷媒用チャージバルブと、高圧用ホース11の基端側と低圧用ホース12の基端側に接続されると共に電磁弁や逆止弁を有する配管回路部と、真空ポンプと、配管回路部の各電磁弁やコンプレッサ等の被制御部材を制御するためのCPUやシーケンサ等の制御部と、制御部に指示信号を送るボタンやタッチパネル等の操作部とを、本体ケーシング10に備えている。
【0012】
上記配管回路部は、高圧用ホース11の基端側と接続された第1配管部と、低圧用ホース12の基端側と接続された第2配管部と、第1配管部及び第2配管部に合流部を介して接続された合流配管部と、合流配管部に接続されると共に回収タンクTに接続される回収再生配管回路部と、オイル用チャージバルブと合流配管部を接続するオイル供給配管部と、補充冷媒用チャージバルブと合流配管部を接続する補充冷媒供給配管部と、回収タンクT内に一端側が接続されると共に他端側が高圧用ホース11の基端側に接続される再生冷媒充填配管部と、を有している。
【0013】
また、回収再生配管回路部は、車両空調装置から回収したオイル(冷凍機油)混じりの冷媒流体を、オイルと冷媒に分離し、オイルが分離された冷媒を液化させて、回収タンクTへ送る配管回路であって、具体的には、オイルセパレータと、ドライフィルタと、コンプレッサと、熱交換器(コンデンサ)と、液化器(フィンコンデンサ)と、を有している。また、ゴミ等の異物も除去できる。
【0014】
さらに、本発明の流体回収再生充填装置は、車両空調装置の状態を、正常状態か、異常状態か、後述の注意状態であるか、の3つの状態に判定して判定結果を表示する診断手段を備えている。
【0015】
また、診断手段は、判定結果を表示する表示部5と、各センサEからの測定結果に基づいて車両空調装置の状態を判定する状態判定処理等を行うCPUやマイコン等の演算処理部6と、測定結果や判定結果等を記憶可能なRAMやROM、フラッシュメモリやハードディスク(HD)等の記憶部7と、を備えている。
【0016】
演算処理部6は、車両空調装置が正常な状態で回収再生充填工程(作業)を行っても問題が無いことを意味する正常状態と、車両空調装置が異常な状態で修理や点検の必要があることを意味する異常状態と、車両空調装置に不具合がある(正常でないが)冷媒を回収再生して充填する(回収再生充填工程を行う)ことで正常状態に改善される可能性があることを意味する注意状態(改善可能状態)と、に判定する状態判定処理を行う。さらに、表示部5に判定結果を表示させる判定表示処理を行う。
【0017】
表示部5は、本体ケーシング10に設けられ、正常状態と判定した場合に点灯又は点滅する青又は緑色の第1ランプ51と、注意状態と判定した場合に点灯又は点滅する黄色の第2ランプ52と、異常状態と判定した場合に点灯又は点滅する赤色の第3ランプ53と、を備えている。
なお、表示部5として、測定結果や判定結果等を文章(コメント)や数字や図表にて診断内容として表示する液晶モニターを設けても良い。
また、上記診断内容を記録用紙に印刷して出力可能なプリンタ(印刷出力手段)を設けるのも望ましい。
【0018】
さらに、診断手段は、本体ケーシング10近傍の外気温度を測定するための外気温度センサE1と、車両空調装置の高圧側配管内の圧力(内圧)を測定するための高圧側圧力センサE2と、車両空調装置の低圧側配管内の圧力(内圧)を測定するための低圧側圧力センサE3と、低圧側配管の表面温度を測定するための配管温度センサE4と、配管温度センサE4で測定する低圧側配管近傍の外気温度を測定するための比較用温度センサE40と、低圧側配管の表面に結露があるか否かを検知するための水分センサE5と、を備えている。
【0019】
演算処理部6は、本体ケーシング10に設けた外気温度センサE1の測定結果に基づいて、外気温に応じた所定の高圧正常値範囲と、所定の低圧正常値範囲とを決定する正常値範囲決定処理を行う。
つまり、測定した外気温度において、車両空調装置の高圧側配管が正常であれば、高圧側配管の内圧(冷媒の圧力)がどれくらいの圧力範囲であるべきかと、測定した外気温度において、低圧側配管の内圧(冷媒の圧力)がどれくらいの圧力範囲であるべきかを、予め記憶部7に記憶させている。つまり、気温と適正な圧力正常値範囲(温度と圧力正常値)を関連づけて記憶部7に記憶させて、演算処理部6が演算又は抽出できるように構成している。
【0020】
外気温度に応じた所定の高圧正常値範囲及び低圧正常値範囲は、車両メーカーや車種、冷媒などにより異なる場合があるが、例えば、冷媒がHFC−134aガスの場合は、外気温が10℃であれば、高圧正常値範囲は、0.54〜0.64Mpaであり、低圧正常値範囲は、0.04〜0.08Mpaである。外気温が15℃であれば、高圧正常値範囲は、0.69〜0.93Mpaであり、低圧正常値範囲は、0.06〜0.13Mpaである。外気温が20℃であれば、高圧正常値範囲は、0.98〜1.27Mpaであり、低圧正常値範囲は、0.08〜0.18Mpaである。外気温が25℃であれば、高圧正常値範囲は、1.27〜1.67Mpaであり、低圧正常値範囲は、0.11〜0.23Mpaである。外気温が30℃であれば、高圧正常値範囲は、1.44〜1.96Mpaであり、低圧正常値範囲は、0.14〜0.27Mpaである。外気温が35℃であれば、高圧正常値範囲は、1.86〜2.25Mpaであり、低圧正常値範囲は、0.17〜0.31Mpaである。外気温が40℃であれば高圧正常値範囲は、2.25〜2.65Mpaであり、低圧正常値範囲は、0.20〜0.39Mpaである。
或いは、外気温度に応じた所定の高圧正常値範囲を、例えば、冷媒がHFC−134aガスの場合は、外気温度(℃)の値を、約1/25〜約1/15とした数値範囲とし、単位はメガパスカル(MPa)とするも良い。
外気温度に応じた所定の圧正常値範囲を、例えば、冷媒がHFC−134aガスの場合は、外気温度(℃)の値を、約1/270〜約1/100とした数値範囲とし、単位はメガパスカル(MPa)とするも良い。
【0021】
高圧側圧力センサE2は、本体ケーシング10の内部に設けられ、高圧用ホース11の高圧用継手部材11aを車両空調装置の高圧サービスバルブに接続することで車両空調装置の高圧側配管と連通する本体ケーシング10の内部配管の内圧又は高圧用ホース11の内圧を測定する。
【0022】
演算処理部6は、高圧側圧力センサE2の測定結果に基づいて、高圧正常値範囲内であるか否かの判定と、高圧正常値範囲よりも高いか低いかを判定する。
【0023】
低圧側圧力センサE3は、本体ケーシング10の内部に設けられ、低圧用ホース12の低圧用継手部材12aを車両空調装置の低圧サービスバルブに接続することで車両空調装置の低圧側配管と連通する本体ケーシング10の内部配管又は低圧用ホース12の内圧を測定する。
【0024】
演算処理部6は、低圧側圧力センサE3の測定結果に基づいて、低圧正常値範囲内であるか否かの判定と、低圧正常値範囲よりも高いか低いかの判定と、所定時間内で測定圧力が低圧正常値範囲内と負圧の間を変化するか否かの判定と、内圧が正圧か否か(負圧か)の判定を行う。
【0025】
配管温度センサE4は、車両空調装置の低圧側配管に着脱自在なクリップ部材等の温度センサ用取着具に一体状に設けられ、その温度センサ用取着具を低圧側配管に取着することで低圧側配管の表面温度を測定可能としている。
比較用温度センサE40は、配管温度センサE4の近傍に設けている。上記センサ用取着具を低圧側配管に取着した際に、低圧側配管近傍の外気を測定可能に設けている。
【0026】
演算処理部6は、配管温度センサE4の測定結果が比較用温度センサE40の測定結果よりも高いか否か(高いか低いか)を判定する。
或いは、記憶部7に本体ケーシング10近傍の外気温度と比較基準温度を関連づけて予め記憶させ、演算処理部6が、本体ケーシング10近傍の外気温に基づいて比較基準温度を決定し、その決定した比較基準温度よりも配管温度センサE4の測定結果が、高いか否かを判定するように設けても良い。
【0027】
水分センサE5は、車両空調装置の低圧側配管に着脱自在なクリップ部材等の水分センサ用取着具に一体状に設けられ、その水分センサ用取着具を低圧側配管に取着することで低圧側配管の表面の水分(霜や水滴等)を検知(測定)可能に設けている。
演算処理部6は、水分センサE5の検知結果(測定結果)に基づいて、低圧側配管の表面に水分が付着しているか否か、即ち、結露しているか否かを判定する。
【0028】
配管温度センサE4と比較用温度センサE40と水分センサE5は、車両空調装置に接続可能に本体ケーシング10から突出するコード部材の先端側に設けている。
【0029】
次に、本発明の流体回収再生充填装置の使用方法(作用)と処理について説明する。
先ず、高圧用ホース11の高圧用継手部材11aを車両空調装置の高圧サービスバルブに接続すると共に、低圧用ホース12の低圧用継手部材12aを車両空調装置の低圧用サービスバルブに接続する。
【0030】
そして、車両空調装置から冷媒を回収して再生する回収再生工程の前に、空調診断工程を開始する。
空調診断工程にて、外気温度センサE1が本体ケーシング10近傍の外気温度を測定する。また、高圧側圧力センサE2が高圧側配管の内圧を測定すると共に低圧側圧力センサE3が低圧側配管の内圧を測定する。
演算処理部6が、測定した外気温度に基づいて、高圧正常値範囲と低圧正常値範囲を決定する正常値範囲決定処理を行う。
【0031】
次に、図2乃至図4に示すように、状態判定処理と判定表示処理を行う。
なお、図2の※1は図3の※1に続き、図2の※2は図4の※2に続き、図2の※Aと※C、図3の※Bと※C、図4の※Bと※Cは、夫々、図5の※A,※B,※Cに続く。
また、各ステップの名称の数字「第1」や「第12」等、符号「S1」や「S12」等は、説明を容易にするために付与したものであって、処理の順番を意味するものでは無い。
【0032】
先ず、車両空調装置が正常状態である場合の処理ルートについて説明する。
図2の第1のステップS1において、所定時間内で、低圧側配管の内圧が低圧正常値範囲内と負圧の間を変化するか否かを判定する。変化しないので(No)、第2のステップS2に進む。
【0033】
第2のステップS2において、低圧側配管の内圧が低圧正常値範囲内か否かを判定する。範囲内であるので(Yes)、第3のステップS3に進む。
第3のステップS3において、高圧側配管の内圧が高圧正常値範囲内か否かを判定する。範囲内であるので、図5の※Aに進む。正常状態と判定し、さらに、第1ランプ51を点灯させる。
【0034】
使用者は、車両空調装置が正常と確認できる。続いて、車両空調装置から冷媒を回収して再生し、その後、回収再生した冷媒を充填する回収再生充填工程(作業)を行う。
【0035】
次に、車両空調装置に不具合がある(正常でない)が冷媒を回収再生して充填する(回収再生充填工程を行う)ことで正常状態に改善される可能性があることを意味する注意状態の判定ルートについて説明する。
【0036】
図2の第1のステップS1から第2のステップS2に進む、そして、低圧側配管の内圧が、低圧正常値範囲内でないので(No)、第4のステップS4に進む。
第4ステップS4において、低圧側配管の内圧が低圧正常値範囲よりも低いので、図3の※1に進む。
【0037】
図3の第5のステップS5において、高圧側配管の内圧が高圧正常値範囲内でないので(No)、第6のステップS6に進む。
第6のステップS6において、高圧側配管の内圧が高圧正常値範囲よりも低いので第7のステップS7に進む。
第7のステップS7において、低圧側配管の内圧が正圧の場合も負圧の場合も、図5の※Bに進む。
そして、図5の第12のステップS12において、回収再生工程の前であるので(つまり、回収再生充填工程の前の最初の空調診断工程なので)、注意状態と判定し、第2ランプ52を点灯させる。
【0038】
ここで、図3の第7のステップS7において、低圧側配管の内圧が正圧(Yes)の場合は、高圧側配管及び低圧側配管の両方の内圧が、正常値範囲よりも低く、かつ、低圧側配管の内圧が正圧という状態である。
このような状態(症状)は、冷媒の充填量が少ない又は冷媒が漏れている可能性がある。つまり、冷媒の充填量が少ない場合であれば、回収再生充填工程において冷媒は適量に充填するため、回収再生充填工程を行うことで正常状態に改善される可能性がある。
【0039】
また、図3の第7のステップS7において、低圧側配管の内圧が負圧(No)の場合は、高圧側配管及び低圧側配管の両方の内圧が、正常値範囲よりも低く、かつ、低圧側配管の内圧が負圧という状態である。
このような状態(症状)は、凍結やゴミの付着により、エアコンサイクルが詰まっている可能性がある。
つまり、回収再生充填工程において冷媒は再生される(フィルタ等を通過させ異物を除去する)ので、回収再生充填工程を行うことで正常状態に改善される可能性がある。
即ち、第7のステップS7の判定(正圧か負圧か)によらず点灯させるランプは同じであるが、診断内容を液晶モニターに表示する場合や、印刷出力する場合に、診断内容(コメントや図表、数値)を異ならせ、より詳細な診断内容を作業者や車両使用者に確認させることができる。
【0040】
次に、注意状態と判定する別の処理ルートについて説明する。
図2の第1のステップS1から、第2のステップS2を通って第4のステップS4へ進む。
第4のステップS4において、低圧側配管の内圧が低圧正常値範囲よりも高いので、第8のステップS8に進む。
第8のステップS8において、高圧側配管の内圧が高圧正常値範囲内でないので(No)、図4の※2に進む。
【0041】
図4の第9のステップS9において、高圧側配管の内圧が高圧正常値範囲よりも高いので第10のステップS10に進む。
第10のステップS10において、低圧側配管の表面温度が低圧側配管近傍の外気温度(又は所定の比較基準温度)よりも高いので(Yes)、図5の※Bに進む。
そして、回収再生充填工程の前であるので(1回目の空調診断工程なので)、注意状態と判定し、第2ランプ52を点灯させる。
【0042】
即ち、高圧側配管及び低圧側配管の両方の内圧が、正常値範囲よりも高く、かつ、低圧側配管の温度が高い(冷たくない)という状態(場合)である。
このような状態は、エアコンサイクル内に空気が混入している可能性がある。
つまり、回収再生充填工程において冷媒を充填する際に空気の混入はほとんどなくなるので、回収再生充填工程を行うことで正常状態に改善される可能性がある。
【0043】
また、図4の第10のステップS10において、低圧側配管の表面温度が低圧側配管近傍の外気温度(又は所定基準温度)よりも高くない(No)の場合は、第11のステップS11に進む。
第11のステップS11において、低圧側配管に結露がない場合は、図5の※Bに進む。そして、回収再生工程(回収再生充填工程)の前であるので、注意状態と判定し、第2ランプ52を点灯させる。
【0044】
即ち、高圧側配管及び低圧側配管の両方の内圧が、正常値範囲よりも高く、かつ、低圧側配管の温度が低く、結露はない、という状態である。
このような状態(症状)は、冷媒の充填量が多い又はコンデンサの能力が低下している可能性がある。
つまり、冷媒の充填量が多い場合であれば、回収再生充填工程において冷媒は適量に充填するため、回収再生充填工程を行うことで正常状態に改善される可能性がある。
【0045】
また、図2乃至図4において、処理ルートが※Cへ進む状態は、図5に示すように、異常状態と判定し、第2ランプ52を点灯させる。
例えば、第11のステップS11において、低圧側配管に結露がある場合は、図5の※Cに進む。異常状態と判定し、第2ランプ52を点灯させる。
即ち、高圧側配管及び低圧側配管の両方の内圧が、正常値範囲よりも高く、かつ、低圧側配管の温度が低く、低圧側の配管に霜や水滴が付着しているという状態である。
このような状態(症状)は、エキスパンジョンバルブでの圧力調整が適切に行われていない可能性がある。
つまり、回収再生充填工程を行うことで正常状態に改善される可能性は非常に低く、修理・点検の必要がある。
【0046】
また、図2の第1のステップS1において、低圧側配管の内圧が低圧正常値範囲内と負圧の間を変化する場合(Yes)は、図5の※Cに進む。異常状態と判定し、第3ランプ53を点灯させる。
このような状態(症状)は、エアコンサイクルに水分が混入し、エキスパンジョンバルブが凍結している可能性がある。つまり、回収再生充填工程を行うことで正常状態に改善される可能性は非常に低く、修理・点検の必要がある。
【0047】
また、図4の第9のステップS9において、高圧側配管の内圧が高圧正常値範囲よりも低い場合は、図5の※Cに進み、異常状態と判定し、第3ランプ53を点灯させる。
このような状態(症状)は、車両空調装置のコンプレッサに不具合がある可能性がある。
つまり、回収再生充填工程を行うことで正常状態に改善される可能性は非常に低く、修理・点検の必要がある。
なお、異常状態と判定した場合は、回収再生充填工程を行うことを禁止する(不可能にする)ように設けるのが望ましい。
【0048】
そして、注意状態と判定後に、使用者が操作部を所定操作行うことで、回収再生充填工程が開始する。
車両空調装置から冷媒を回収して異物等を除去して再生し(回収再生工程)、再生冷媒及び補充冷媒を車両空調装置に適量に充填する(充填工程)。
【0049】
そして、回収再生充填工程後に、再度(2回目の)、空調診断工程が開始され、正常値範囲決定処理と、状態判定処理と、判定表示処理と、を行う。
2回目の状態判定処理において、処理ルートが図5の※Bへ続くと、回収再生充填工程の前ではない(後である)ので、異常状態と判定し、第3ランプ53を点灯する。
即ち、注意状態と判定後に回収再生充填工程(作業)を行ったが、不具合が改善されなかったという判定(診断)となり、修理・点検が必要である。
【0050】
なお、図2乃至図5に図示したフローチャート図は、処理順序の一例であって、各ステップの順番(工程)を入れ替えても良い。例えば、高圧側配管が高圧正常値範囲内か否かを判定した後に、低圧側配管が正常値範囲内か否かを判定しても良い。あるいは、低圧側配管の結露を判定した後に、低圧側配管の温度判定を行っても良い。また、第7のステップS7を省略しても良い。
【0051】
また、図示省略するが、所定の高圧正常値範囲よりも低く、かつ、所定の低圧正常値範囲から外れている場合に、注意状態と判定するも良い。
また、図5の※Cに向うルートの内いくつかを、図5の※Bに向うように構成して、回収再生充填工程前であれば注意判定とするように処理するも良い。つまり、図2乃至図4において、いくつかの※Cを※Bに置き換えても良い。例えば、図2の第3のステップS3の「No」のルート、第8のステップS8の「Yes」のルートや、図3の第5のステップS5の「Yes」のルート、第6のステップS6の「高い」ルート、図4の第9のステップS9の「低い」ルート等を、図5に※Bに続くようにして、回収再生充填工程前であれば注意判定とするように処理するも良い。
【0052】
なお、本発明は、設計変更可能であって、車両室内の前面上部(ダッシュボード)の空調吹出口の近傍に配設(取着)可能な、車内温度センサを設けて、車内温度を診断の要素(パラメータ)とするも良い。各ランプ51,52,53を点滅させても良く、色も自由である。また、配管温度センサE4や水分センサE5のセンサ用取着具は、クリップ式(洗濯ばさみ型)に限らず、巻き付けベルト式等自由である。
【0053】
以上のように、本発明の流体回収再生充填装置は、車両空調装置から冷媒を回収して再生する回収再生工程を行った後に、回収再生した冷媒を車両空調装置に充填する流体回収再生充填装置に於て、車両空調装置が正常状態か異常状態かを回収再生工程前に判定して判定結果を表示する診断手段を備えているので、流体回収再生充填装置1台で、車両空調装置の空調診断作業と、流体回収再生充填作業とを行うことができ、空調診断装置を所有する必要が無く、保守管理の手間やコストを削減できる。作業に応じて、空調診断装置と流体回収再生充填装置を使い分ける必要がなく、容易かつ迅速に、診断作業と流体回収再生充填作業とを行うことができる。熟練者でなくとも確実かつ正確な診断結果を得ることができる。
【0054】
また、診断手段は、空調装置の高圧側配管内の圧力が所定の高圧正常値範囲よりも低く、かつ、空調装置の低圧側配管内の圧力が所定の低圧正常値範囲よりも低い場合に、冷媒を回収再生して充填することで改善される可能性があるという注意状態と判定して表示するので、空調診断工程後に回収再生充填工程を行って不具合を改善でき、修理や点検の頻度を削減できる。判断の難しい症状(状態)を客観的データ(測定結果)に基づいて診断でき、経験や知識がなくても正確かつ細かな診断を行うことができる。
【0055】
また、上記診断手段は、上記空調装置の高圧側配管内の圧力が所定の高圧正常値範囲よりも低く、かつ、上記空調装置の低圧側配管内の圧力が所定の低圧正常値範囲から外れた場合に、上記冷媒を回収再生して充填することで改善される可能性があるという注意状態と判定して表示するので、空調診断工程後に回収再生充填工程を行って不具合を改善でき、修理や点検の頻度を削減できる。判断の難しい症状(状態)を客観的データ(測定結果)に基づいて診断でき、経験や知識がなくても正確かつ細かな診断を行うことができる。
【0056】
また、診断手段は、判定結果を視認させるための表示部5を備え、表示部5は、正常状態と判定した場合に点灯又は点滅する第1ランプ51と、注意状態と判定した場合に点灯又は点滅する第2ランプ52と、異常状態と判定した場合に点灯又は点滅する第3ランプ53と、を備えているので、また、容易に診断結果を視認でき、作業効率を向上できる。また、製造を容易かつ迅速に行える。
【0057】
また、診断手段は、外気温度を測定するための外気温度センサE1と、車両空調装置の高圧側配管内の圧力を測定するための高圧側圧力センサE2と、車両空調装置の低圧側配管内の圧力を測定するための低圧側圧力センサE3と、低圧側配管の表面温度を測定するための配管温度センサE4と、低圧側配管の表面に結露があるか否かを検知するための水分センサE5と、備えているので、車両空調装置を様々なパラメータ(要素)で判定して、状態(症状)を細かく分析でき、適正かつ正確な診断(判定)を行うことができる。正常状態と異常状態の間の微妙な注意状態(改善可能状態)を判定できる。
【符号の説明】
【0058】
5 表示部
51 第1ランプ
52 第2ランプ
53 第3ランプ
E1 外気温度センサ
E2 高圧側圧力センサ
E3 低圧側圧力センサ
E4 配管温度センサ
E5 水分センサ
図1
図2
図3
図4
図5