特許第6234979号(P6234979)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6234979
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】転石分布表示方法
(51)【国際特許分類】
   G01D 21/00 20060101AFI20171113BHJP
   G06T 17/05 20110101ALN20171113BHJP
【FI】
   G01D21/00 D
   !G06T17/05
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-206875(P2015-206875)
(22)【出願日】2015年10月21日
(65)【公開番号】特開2017-78649(P2017-78649A)
(43)【公開日】2017年4月27日
【審査請求日】2017年10月4日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593153428
【氏名又は名称】中日本ハイウェイ・エンジニアリング東京株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000213909
【氏名又は名称】朝日航洋株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134647
【弁理士】
【氏名又は名称】宮部 岳志
(72)【発明者】
【氏名】町田 靖
(72)【発明者】
【氏名】西田 直也
(72)【発明者】
【氏名】大窪 克己
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 研一
(72)【発明者】
【氏名】前田 明仁
(72)【発明者】
【氏名】江藤 稚佳子
(72)【発明者】
【氏名】中野 陽子
(72)【発明者】
【氏名】安海 高明
【審査官】 深田 高義
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−83237(JP,A)
【文献】 特開2015−143803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 21/00
G06T 17/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空レーザ計測により取得される計測データに基づいてグラウンドデータを作成する工程においてオリジナルデータから取り除かれたデータのうち、転石に対応するデータを、前記転石の高さに基づき設定された閾値との比較に基づいて抽出する転石データ抽出工程と、
前記グラウンドデータと前記転石データ抽出工程で抽出された転石抽出データに基づき、転石を含む数値地形モデルを作成する工程と、
前記グラウンドデータに基づき得られた地形データを平滑化処理し斜面の基準面を作成する基準面作成工程と、
前記転石を含む数値地形モデルにおける前記基準面の法線方向の高さを算出し、前記法線方向の高さに基づき環状等高線を作成する法線方向等高線作成工程と、
前記環状等高線を、前記地形データに基づき作成された、斜面の等高線図に重ね合せ、転石分布図を作成する工程と、
を有することを特徴とする転石分布表示方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路や建物に近接する斜面の落石の危険性の有無の判定において、落石の素因となる転石の分布を把握するために用いられる転石分布表示方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のゲリラ豪雨や地震などによる自然災害の発生により、防災に係る点検・調査の強化が求められている。そして、高速道路における災害発生の素因を調査する手法として、既存の災害履歴の調査、現地踏査が行われている。
【0003】
ところが、既存の災害履歴の調査は、災害履歴の無い場所について行うことができない。また、現地踏査は、広範囲にわたる調査が必要になる等の理由から、人力のみによる詳細調査は困難なものとなっている。そこで、これらの手法を補助する役割として、近年、航空レーザ計測が利用されている。
【0004】
例えば、特開2013−221886には、航空レーザを利用して得られたデータから斜面の不安定箇所を抽出する方法が提案されている。この方法では、対象の測定点の垂直断面が窪んでいるか或いは突出しているかを示す指標(縦断曲率)を利用して、斜面の不安定箇所が抽出されている。
【0005】
また、非特許文献1において、長谷川らは、延長の長い土構造物を持つ鉄道に対して、航空レーザ計測により得られたデータから作成したDTM(Degital Terrain Model)をもとに地形条件を数値化し、「落石発生源」や「斜面崩壊発生要危険箇所」の抽出を行う手法を提案している。この手法では、落石発生源を傾斜50度以上で地形が凸状と定義し、その条件にあうメッシュを色付けして図示している。
【0006】
更に、非特許文献2において、増田らは、航空レーザ計測によるデータをPCの3Dビューア内の3次元形状として表示し、そこから落石の要因となる浮石・転石を判読する手法を提案している。この手法では、航空レーザ計測によるデータで作成されたDTMに、DTMの標高に対して±1m程度の計測データを加えた数値地形モデル、もしくは点群を、PCの3Dビューア内で鳥瞰的に表現し、落石・転石の判読が形状による目視で行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−221886
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】長谷川淳,太田岳洋,斜面災害の要注意箇所を空から見つける,RRR第69巻11号(2012年11月)
【非特許文献2】増田仁,沢田和秀,小野貴稔,転石調査のための高密度航空レーザ計測による斜面の可視化,第23回調査・設計・施工技術報告会(2014年6月20日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、航空レーザ計測により得られたデータに基づいて作成された数値地形モデルを、従来の手法で表示した図や画像では、転石であるかどうかの判別が難しく、斜面における転石の分布状態を把握するために手間や時間を要する問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、航空レーザ計測により得られたデータに基づいて、斜面における転石の分布状況を容易に把握できる態様で表現できる転石分布表示方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る転石分布表示方法は、転石データ抽出工程と、転石を含む数値地形モデルを作成する工程と、基準面作成工程と、法線方向等高線作成工程と、転石分布図を作成する工程と、を有する。
【0012】
転石データ抽出工程では、航空レーザ計測により取得される計測データに基づいてグラウンドデータを作成する工程においてオリジナルデータから取り除かれたデータのうち、転石に対応するデータを、前記転石の高さに基づき設定された閾値との比較に基づいて抽出する。
【0013】
転石を含む数値地形モデルを作成する工程では、前記グラウンドデータと前記転石データ抽出工程で抽出された転石抽出データに基づき、転石を含む数値地形モデルを作成する。
【0014】
基準面作成工程では、前記グラウンドデータに基づき得られた地形データを平滑化処理し斜面の基準面を作成する。
【0015】
法線方向等高線作成工程では、前記転石を含む数値地形モデルにおける前記基準面の法線方向の高さを算出し、前記法線方向の高さに基づき環状等高線を作成する。
【0016】
転石分布図を作成する工程では、前記環状等高線を、前記地形データに基づき作成された、斜面の等高線図に重ね合せ、転石分布図を作成する。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る転石分布表示方法では、航空レーザ計測により得られたデータに基づいて数値地形モデルを作成する場合に、フィルタリング処理によって除去されてしまう可能性の高い、転石に対応するデータが、フィルタリング処理において除去されたデータ群の中から抽出される。また、斜面の基準面を作成し、基準面の法線方向について転石に対応するデータの高さを算出するとともに、法線方向の高さに基づいて環状等高線を作成する。そして、転石を、斜面の等高線図に重ね合せた環状等高線によって、その存在が容易に把握できる態様で表示する。すなわち、航空レーザ計測により得られたデータに基づいて、斜面における転石の分布状況を容易に把握できる態様で表現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る転石分布表示方法の実施形態のフローチャート図である。
図2】オリジナルデータとグラウンドデータを示す概念図である。
図3】標準モデルと転石含モデルを比較して示す概念図である。
図4】数値地形モデルを示し、(a)は標準モデルの陰影図、(b)は転石含モデルの陰影図である。
図5】転石含モデルを従来の方法で作成した等高線により示した等高線図である。
図6】基準面上に存在する凸地形を示し、(a)は基準面に直交する方向から見た図、(b)は基準面に平行する方向から見た図である。
図7】基準面を、標準モデル及び転石含モデルと比較して示す概念図である。
図8】転石に対応するデータと基準面上に存在する点の位置関係を示す概念図である。
図9】分割された基準面における複数の分割面と転石に対応するデータの位置関係を示す概念図である。
図10】本発明に係る転石分布表示方法により作成された転石分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1〜10を参照しながら、本発明に係る転石分布表示方法の実施形態を説明する。
この実施形態において、転石の分布状況は、航空レーザ計測により得られた三次元計測データに基づいて、調査対象となる斜面の等高線図に表示される。以下に、その手順を説明する。
【0020】
<航空レーザ計測>
調査対象となる斜面の等高線図を作成するための基となる三次元計測データは、ヘリコプターやセスナなどの航空機を用いた航空レーザ計測システムを用いて取得することができる。公知のシステムを用いることができ、例えば、航空機に搭載される空中GNSS受信装置、レーザスキャナ(走査型レーザ測距儀)及び慣性計測装置(IMU)と地上固定局で構成されるシステムを使用することができる。
【0021】
航空レーザ計測システムを用いた航空レーザ計測工程S1では、国土交通省告示第413号「作業規定の準則」第7章の手順に従い、三次元計測データを取得する。
1)空中GNSS受信装置で機体の三次元位置を連続計測し、後処理でレーザの発射位置を算出する。
2)IMUで航空機の姿勢(回転角)を計測し、後処理によりレーザ発射時の姿勢を算出する。
3)レーザスキャナで、航空機におけるレーザ発射基準位置から地上までの距離とレーザの照射角度を計測する。
4)計測で得られた各データを解析処理し、計測点の地上座標(三次元座標)を求める。
【0022】
三次元計測データは、国土交通省告示第413号「作業規定の準則」第7章の手順に従って、調整用基準点を用いた比較点検の結果に基づき、較差を目標値の範囲とするために必要な補正が施され、オリジナルデータD1とされる
【0023】
<グラウンドデータ作成>
オリジナルデータD1は、国土交通省告示第413号「作業規定の準則」第7章の手順に従い、続くグラウンドデータ作成工程S2において、ノイズ処理及びフィルタリング処理が施される。ノイズ処理では、マルチパス(乱反射)等により極端に低い若しくは高い標高で示される標高点が、ノイズとみなされ、除去される。また、フィルタリング処理では、起立体、例えば、交通施設(道路橋、鉄道橋、プラットフォーム、駐車車両、鉄道車両など)、建築物、小物体(貯水槽、給水塔、輸送管など)、植生(樹木、生垣など)に起因する、地表面以外のデータが除去される。そして、グラウンドデータD2とされる。
【0024】
<標準DTM作成>
グラウンドデータD2は、続く地形面作成工程S3において、内挿補間により、所定間隔(例えば、0.5m間隔)の地形データD3とされる。以下の説明において、この地形データD3により作成された斜面の数値地形モデル(DTM)を標準モデルM3とする。なお、内挿補間の手法に制限はなく、例えば、IDW法を使用することができる。
【0025】
<転石の追加処理>
グラウンドデータ作成工程S2においては、記述のように、地表面以外のデータを除去するフィルタリング処理が施されるが、このフィルタリング処理では、図2に示すように、転石に対応するデータもフィルタリング対象FD1に含まれ、除去されてしまう。そこで、転石の追加処理工程S4(本発明の転石データ抽出工程に相当する)において、フィルタリング処理でオリジナルデータD1から除去されたデータ(以下、オリジナル除去データとする)から、転石に対応するデータD4(本発明の転石抽出データに相当し、以下抽出データD4とする)を抽出する。
【0026】
抽出データD4は、転石の高さに対応して設定した閾値を用いることにより、オリジナル除去データから抽出することができる。閾値は、例えば、検出対象となる転石の高さが50cm、オリジナルデータD1作成時の較差目標値が30cmの場合、標準モデルM3に対して法線方向に1.3mとすることができる。
【0027】
<転石を含む数値地形モデルの作成>
図3に示すように、抽出データD4は、転石を含む地形データを作成する工程S5(本発明の転石を含む数値地形モデルを作成する工程に相当する)において、グラウンドデータD2に追加される。そして、内挿補間処理が施され、転石を含むDEM(Degital Elevation Modelの略称であり、本発明の転石を含む数値地形モデルに相当し、以下、転石含モデルM5とする)が作成される。
【0028】
図4に示すように、転石含モデルM5(図4(b))では、標準モデルM3(図4(a))において表現されない小さな凸部が表現される。ただし、図4に示すような陰影図であれば、これら凸部を転石として認識することは可能であるが、等高線図において、これら凸部は、図5に示すような等高線の斜面下部方向への変形として表現されてしまい、転石と判定することは難しい。そこで、以下の手順により、転石の存在の有無を容易に判定できる、環状等高線による表示とする。
【0029】
<基準面の作成>
図6(b)に示すように、基準となる平面B(以下、基準面Bとする)上に微小な凸地形C(例えば大きな石)がある場合、凸地形Cは、図6(a)に示すように、等高線図において環状等高線により表現される。なお、図6(b)上段における基準面Bは水平となっているが、図6(b)下段に示すように、基準面Bが傾斜している場合であっても、基準面Bの法線方向N(基準面Bに対しての直交方向)から見た場合の凸地形Cは、環状等高線により表現される。すなわち、対象となる転石が接地している斜面の法線方向における、その転石の高さより低い標高の等高線を用いることで、斜面上の転石を環状等高線により表現できる。そこで、まず、基準面作成工程S6において、対象となる斜面の法線方向における等高線を作成するための基準面M6を作成する。
【0030】
基準面M6は、一定の斜面である必要はないが、なだらかな面である必要がある。標準モデルM3がなだらかな面であれば基準面M6にできるが、標準モデルM3は、図7に示すように、自然斜面の露岩等による凹凸に起因する凹凸部Fを含むものとなる。そこで、標準モデルM3の基となる地形データD3を平滑化し基準面M6を作成する。平滑化には、公知の方法を採用すればよく、例えば、移動平均による平滑化手法や、メディアンフィルタによる平滑化手法を採用することができるが、メディアンフィルタによる平滑化手法が好ましい。
【0031】
<法線方向の等高線作成>
法線方向等高線作成工程S7では、基準面M6作成後、転石含モデルM5の転石を基準面M6の法線方向Nの環状等高線により表現する。基準面M6の法線方向Nの等高線は、転石に対応するデータの法線方向Nの高さhに基づいて作成される。法線方向Nの高さhは、公知の手法で算出することができ、例えば、図8に示すように、転石に対応するデータXの法線方向Nの高さhは、基準面M6上に存在する3点P0、P1、P2の座標に基づき、次式(1)により算出することができる。
【数1】
【0032】
高さhを算出する対象となるデータXの基準面M6上の投影点Pxを含む領域が、傾きの異なる面の連結である場合、基準面M6上に存在する点の選択により法線方向Nが変わってしまう。そこで、そのような場合には、投影点Pxを含む領域を複数の三角形に区分し、区分された面毎に高さを算出し、最も小さい値を採用する。
【0033】
例えば、図9に示すように、高さhを算出する対象となるデータXの投影点Pxを含む領域を、8つの三角形領域R1〜R8に区分し、三角形領域R1〜R8毎に、データXの高さを算出する。そして、算出された複数の高さのうち、絶対値が最も小さい高さを、基準面D6の法線方向Nに対するデータXの高さhとすればよい。
【0034】
基準面M6の法線方向Nの高さhが得られたら、その高さhに基づいて、法線方向Nの環状等高線を作成することができる。なお、転石を示す環状等高線を斜面の等高線図上に表すためには、環状等高線の間隔を検出対象となる転石の高さよりも低いものとすればよい。斜面の等高線図上に表示する転石を決めるための転石定義データD7に応じて適宜設定すればよく、例えば、転石定義データD7で設定された転石の高さの半分としてもよい。
【0035】
<重ね図作成>
基準面M6の法線方向Nの環状等高線は、重ね図作成工程S8において、等高線図として表現された標準モデルM3に重ね合される。そして、転石分布図M8が作成される。図10に、転石分布図M8の一例を示す。この転石部分布図M8によれば、検査対象となる斜面の等高線図において、転石は環状等高線により表現される。そのため、斜面における転石の分布状況を容易に把握できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10