特許第6235055号(P6235055)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 花王株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6235055
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】バイオフィルム除去方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/44 20060101AFI20171113BHJP
   A61K 8/36 20060101ALI20171113BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20171113BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   A61K8/44
   A61K8/36
   A61K8/34
   A61Q19/10
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-32681(P2016-32681)
(22)【出願日】2016年2月24日
(62)【分割の表示】特願2011-273368(P2011-273368)の分割
【原出願日】2011年12月14日
(65)【公開番号】特開2016-104810(P2016-104810A)
(43)【公開日】2016年6月9日
【審査請求日】2016年2月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】浅岡 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】磯部 和雄
【審査官】 田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−131809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00−8/99
A61Q1/00−90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アシル基の炭素数が8〜22であるアシルグリシン塩、及び、炭素数が16〜18の不飽和脂肪酸塩からなる群より選ばれる1種以上の界面活性剤〔以下、(A)成分という〕、並びに、(B)炭素数が4〜10のアルコール〔以下、(B)成分という〕を含有するバイオフィルム除去剤であって、
(B)成分のLogP値が−0.4〜0であり、
(A)成分の含有量と(B)成分の含有量の質量比が、〔(B)成分の含有量〕/〔(A)成分の含有量〕で0.9〜6であり、
界面活性剤〔但し、(A)成分及び両性界面活性剤を除く〕〔以下、その他の界面活性剤という〕の含有量と(A)成分の含有量との質量比が、〔その他の界面活性剤の含有量〕/〔(A)成分の含有量〕で0.33以下であり、かつ、
(A)成分の含有量と両性界面活性剤の含有量との質量比が、〔両性界面活性剤の含有量〕/〔(A)成分の含有量〕で0.18以下であり、
pH(25℃)が7〜11である、
バイオフィルム除去剤。
【請求項2】
皮膚用である、請求項1記載のバイオフィルム除去剤。
【請求項3】
(A)成分が、アシル基の炭素数が8〜22であるアシルグリシン塩、及び、炭素数が16〜18の不飽和脂肪酸塩である、請求項1又は2記載のバイオフィルム除去剤。
【請求項4】
(B)成分のLogP値が−0.4〜−0.2である、請求項1〜3の何れか1項記載のバイオフィルム除去剤。
【請求項5】
(B)成分が、1,3−ブチレングリコールである、請求項1〜4の何れか1項記載のバイオフィルム除去剤。
【請求項6】
その他の界面活性剤が、(A)成分以外のアニオン界面活性剤、及び、ノニオン界面活性剤から選ばれる1種以上である、請求項1〜5の何れか1項記載のバイオフィルム除去剤。
【請求項7】
両性界面活性剤が、カルボベタイン及びスルホベタインから選ばれる1種以上のベタインである請求項1〜6の何れか1項記載のバイオフィルム除去剤。
【請求項8】
水を含有する、請求項1〜7の何れか1項記載のバイオフィルム除去剤。
【請求項9】
(A)成分を1〜20質量%、(B)成分を1〜18質量%含有する、請求項1〜8の何れか1項記載のバイオフィルム除去剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚洗浄剤組成物に関する。より詳細には、微生物及び微生物産生物質からなるバイオフィルムを皮膚表面から効率的に除去し、微生物及び微生物産生物質からなるバイオフィルムに起因する危害を防止すると同時に、皮膚に対して低刺激性である皮膚洗浄剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオフィルムは生物膜やスライムとも言われ、一般に水系で微生物が物質の表面に付着・増殖することによって微生物細胞内から多糖やタンパク質、核酸などの高分子物質を産生して、微生物の生体及び死骸をもその構造の一部とする高分子フィルム状の構造体を形成したものを指す。バイオフィルムが形成されると、微生物を原因とする危害が発生して人体に様々な影響を及ぼす。
【0003】
バイオフィルムを形成した微生物集合体に対しては、水系に分散浮遊状態にある微生物に対する場合と比較して、殺菌剤・静菌剤のような微生物制御薬剤の効果が十分に出ないことも多い。
【0004】
例えば医療の面では近年、医療器具の狭い隙間や空孔内に微生物が残存してバイオフィルムを形成し、これを原因とする院内感染例が数多く報告されている。またヒト口腔内においては歯に形成するバイオフィルム、いわゆるデンタルプラーク(歯垢)がう蝕や歯周病の原因となることが知られており、これらの問題について長い間検討がなされている。さらに人の皮膚表面、特に褥瘡などの慢性皮膚創傷部位には例えば黄色ブドウ球菌、緑膿菌、レンサ球菌などからなるバイオフィルムが形成され、これが存在することにより創傷の治癒を遅延させることが知られている(非特許文献1、2)。
【0005】
特許文献1〜7にはアシルグリシンナトリウムまたはアシルグリシンカリウムと、ジプロピレングリコールや1,3−ブチレングリコールなどを含有する様々な皮膚洗浄剤組成物に関する技術が提案されている。特許文献1、5、7の組成物は、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤及び両性界面活性剤を含有する。特許文献2の組成物は、アニオン界面活性剤を含有する。特許文献3の組成物は、アニオン界面活性剤と両性界面活性剤を含有する。特許文献4の組成物は、両性界面活性剤とノニオン界面活性剤を含有する。特許文献5の組成物は、両性界面活性剤を含有する。
【0006】
特許文献8には多価アルコールを使用することによるアニオン性界面活性剤の刺激低減化方法が開示されている。
【0007】
特許文献9には脂肪酸又はその塩とアニオン性又は両性界面活性剤を含有する皮膚用液体洗浄剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−87081号公報
【特許文献2】特開2000−143497号公報
【特許文献3】特表2003−521570号公報
【特許文献4】特開2004−307260号公報
【特許文献5】特開2006−183039号公報
【特許文献6】特開2010−241740号公報
【特許文献7】国際特許公開1994−22994号公報
【特許文献8】特開2002−53457号公報
【特許文献9】特開平9−227358号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】James G. A. et al., Wound Rep. Reg., 16, 37-(2008)
【非特許文献2】S. Percivalら、“Microbiologyof Wounds"、CRC Press社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
バイオフィルムは、微生物細胞内から多糖やタンパク質、核酸などの高分子物質を産生して、微生物の生体及び死骸をもその構造の一部とする高分子フィルム状の構造体を形成したものが作られていることから、酵素や殺菌剤などの薬剤をバイオフィルムの深部まで作用させることは難しい。
【0011】
また、特許文献1、2、3、6に開示されている皮膚洗浄剤組成物は何れも皮膚に対して低刺激性であることに対して満足できるものではなく、特許文献4、5、8、9に開示されている皮膚洗浄剤組成物はバイオフィルムを効率的に除去することに対して満足できず、特許文献7は開示されている皮膚洗浄剤組成物はバイオフィルムを効率的に除去すること、皮膚に対して低刺激性であることを両立する性能を有してはいなかった。すなわち今までの技術ではバイオフィルムを効率的に除去し、かつ皮膚に対して低刺激性であることを両立する皮膚洗浄剤を達成することは困難であった。
【0012】
本発明の課題は、バイオフィルムを効率的に除去することができ、かつ、皮膚に対する刺激が低い皮膚洗浄剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、(A)アシル基の炭素数が8〜22であるアシルグリシン塩、及び、炭素数が16〜18の不飽和脂肪酸塩からなる群より選ばれる1種以上の界面活性剤〔以下、(A)成分という〕、並びに、(B)炭素数が4〜10のアルコール〔以下、(B)成分という〕を含有する皮膚洗浄剤組成物であって、
(B)成分のLogP値が−0.4〜0であり、
(A)成分の含有量と(B)成分の含有量の質量比が、〔(B)成分の含有量〕/〔(A)成分の含有量〕で0.9〜6であり、
界面活性剤(但し、(A)成分及び両性界面活性剤を除く)〔以下、その他の界面活性剤という〕の含有量と(A)成分の含有量との質量比が、〔その他の界面活性剤の含有量〕/〔(A)成分の含有量〕で0.6以下であり、かつ、
(A)成分の含有量と両性界面活性剤の含有量との質量比が、〔両性界面活性剤の含有量〕/〔(A)成分の含有量〕で0.18以下である、
皮膚洗浄剤組成物に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、バイオフィルムを効率的に除去することができ、かつ、皮膚に対する刺激が低い皮膚洗浄剤組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<(A)成分>
本発明の皮膚洗浄剤組成物は、(A)成分として、(A)アシル基の炭素数が8〜22であるアシルグリシン塩〔以下、(A1)成分という〕、及び、炭素数が16〜18の不飽和脂肪酸塩〔以下、(A2)成分という〕からなる群より選ばれる1種以上の界面活性剤を含有する。本発明の皮膚洗浄剤組成物は、(A1)成分を含有するのが好ましく、(A1)成分及び(A2)成分を含有するのがより好ましい。
【0016】
(A1)成分のアシル基は、バイオフィルム除去性の観点から、炭素数が8〜22であり、10〜22であることが好ましく、12〜18であることがより好ましく、12〜14であることがさらに好ましい。(A1)成分のアシル基はR−COで表される基である(例えば、下記一般式(A−1)参照)。(A1)成分のアシル基のRは炭化水素基であるが、該炭化水素基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。(A1)成分のアシル基の炭素数は、バイオフィルム除去性の観点から、7〜21であり、9〜21であることが好ましく、11〜17であることがより好ましく、11〜13であることがさらに好ましい。
【0017】
(A1)成分としては、下記一般式(A−1)で表される化合物〔以下、化合物(A1)という〕が好ましい。
R−CONH−CH2−COO- + (A−1)
[一般式(A−1)において、Rは炭素数7〜21の炭化水素基を示し、該炭化水素基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。M+はアルカリ金属イオン、アルカノールアンモニウムイオン、又は、正に帯電した塩基性アミノ酸を示す。]
【0018】
一般式(A−1)において、Rの炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基及びヒドロキシアルキル基が挙げられ、アルキル基、アルケニル基が好ましく、これらは直鎖でも分岐鎖でもよいが、バイオフィルム除去効果の点から、炭素数7〜21のものであり、炭素数9〜21のものが好ましく、炭素数11〜17のものが好ましく、中でも、炭素数11〜13のアルキル基、炭素数11〜17のアルケニル基が更に好ましい。また、Rは単一組成の炭化水素基であっても混合組成の炭化水素基であってもよく、天然由来(例えば、ヤシ油、パーム核油、大豆、菜種由来)の様々な鎖長のアルキル基(混合アルキル基)を有する混合組成の炭化水素基も好適に用いることができる。
【0019】
一般式(A−1)において、M+は、バイオフィルム除去効果の点から、アルカリ金属
イオン、アルカノールアンモニウムイオン、又は正に帯電した塩基性アミノ酸であり、アルカリ金属イオンが好ましい。アルカリ金属イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオンが好ましく、カリウムイオンがより好ましい。アルカノールアンモニウムイオンとしては、トリエタノールアンモニウムイオン、メチルプロパノールアンモニウムイオンが好ましく、正に帯電した塩基性アミノ酸としては、正に帯電したアルギニン、正に帯電したヒスチジン、正に帯電したリジンが好ましい。
【0020】
(A1)成分、例えば、化合物(A1)は、(ヒドロキシ)脂肪酸とグリシンを反応させることにより得られるが、製造方法は特に限定されるものではない。また、(A1)成分、例えば、化合物(A1)は、バイオフィルム除去効果を阻害しない範囲で未反応物、副生成物を含んでいてもよい。
【0021】
(A2)成分としては、下記一般式(A−2)で表される化合物〔以下、化合物(A2)という〕が好ましい。
R’−COO- M’+ (A−2)
[一般式(A−2)において、R’は不飽和結合を1つ以上含む炭素数15〜17の炭化水素基である。M’+はアルカリ金属イオン、アルカノールアンモニウムイオン、又は、正に帯電した塩基性アミノ酸を示す。]
【0022】
一般式(A−2)において、R’の炭化水素基は、直鎖でも分岐鎖でもよい。炭化水素基としては、バイオフィルム除去効果の点から、炭素数15〜17であり、工業的利用性(汎用性)の観点から炭素数17が好ましい。また炭化水素基はその水素原子がヒドロキシ基で置換されていてもよい。
【0023】
一般式(A−2)において、M’+はアルカリ金属イオン、アルカノールアンモニウムイオン、又は、正に帯電した塩基性アミノ酸である。アルカリ金属イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオンが好ましく、カリウムイオンがより好ましい。また、アルカノールアンモニウムイオンとしては、トリエタノールアンモニウムイオン、メチルプロパノールアンモニウムイオンが好ましい。また、正に帯電した塩基性アミノ酸としては、正に帯電したアルギニン、正に帯電したヒスチジン、正に帯電したリジンが好ましい。バイオフィルム除去効果の点から、M’+はアルカリ金属イオンが好ましい。
【0024】
(A2)成分は、バイオフィルム除去効果の観点から、不飽和結合を1〜3有するもの(例、リノレン酸塩)が好ましく、1〜2有するものがより好ましい。安定性の観点から、不飽和結合の数は1が好ましい。一般式(A−2)中のR’も同様である。
【0025】
(A2)成分の好適な例としては、オレイン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、リノレン酸、及び、リシノール酸から選ばれる不飽和脂肪酸の塩、例えばアルカリ金属塩、アルカノールアミン塩、塩基性アミノ酸塩が挙げられる。中でも、オレイン酸、パルミトレイン酸、及び、リノール酸から選ばれる不飽和脂肪酸の塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩が高いバイオフィルム除去性能を示すため好ましい。オレイン酸塩が好ましく、更にオレイン酸アルカリ金属塩が好ましい。さらに、オレイン酸のナトリウム塩、オレイン酸のカリウム塩が好ましく、オレイン酸のカリウム塩がより好ましい。
【0026】
本発明の皮膚洗浄剤組成物は、(A)成分として、(A1)成分及び(A2)成分の両方を含有することが好ましい。その場合、組成物中の(A1)成分の含有量と(A2)成分の含有量(A2)の質量比〔(A1)成分の含有量〕/〔(A2)成分の含有量〕は、バイオフィルム除去性能、皮膚に対する低刺激性の両立の面から20/80〜80/20が好ましく、30/70〜70/30がより好ましい。
【0027】
<(B)成分>
本発明の皮膚洗浄剤組成物は、バイオフィルム除去性能、皮膚に対する低刺激性を両立する観点から、(B)成分として、炭素数が4〜10のアルコールを含有する。(B)成分が有する水酸基の数は1〜8、更に1〜4、より更に1〜2個が好ましい。(B)成分の有機化合物のLogP値は−0.4〜0である。本発明のLogP値は、オクタノール/水分配係数であり、Chembio Office2008のChemdraw ultra 11.0(Hulinks社)による計算予測値である。(B)成分のアルコールとしては、1,3−ブチレングリコール(炭素数4、LogP=−0.37)、ジプロピレングリコール(炭素数6、LogP=−0.31)、エチルジグリコール(炭素数6、LogP=−0.25)、イソプレングリコール(炭素数5、LogP=−0.15)が挙げられる。
【0028】
バイオフィルム除去性能の観点から、(B)成分は、LogP値が−0.4〜−0.2であることが好ましく、−0.4〜−0.35であることがより好ましい。(B)成分としては、1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、及び、エチルジグリコールから選ばれる1種以上であることが好ましく、1,3−ブチレングリコール、及び、ジプロピレングリコールから選ばれる1種以上であることがより好ましい。
【0029】
<(A)成分以外の界面活性剤>
本発明の皮膚洗浄剤組成物は、(A)成分以外の界面活性剤を含有することができるが、バイオフィルム除去性能の観点から、その含有量は制限される。(A)成分以外の界面活性剤としては、(1)(A)成分及び両性界面活性剤以外の両性界面活性剤(以下、その他の界面活性剤という)、(2)両性界面活性剤が挙げられ、本発明では、後述の通り、(A)成分の含有量に対するこれら界面活性剤の含有量が所定範囲とされる。
【0030】
その他の界面活性剤としては、(A)成分以外のアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、及びノニオン界面活性剤から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0031】
また、その他の界面活性剤としては、(A)成分以外のアニオン界面活性剤、及びノニオン界面活性剤から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0032】
(A)成分以外のアニオン界面活性剤としては、不飽和脂肪酸塩以外の脂肪酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルアミドスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、オレフィンスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルエーテルスルホコハク酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸塩、アルキルアミドスルホコハク酸塩、アルキルサクシンアミド塩、アルキルスルホ酢酸塩、アシルサルコシン塩、アシルイセチオン酸塩、アルケニルコハク酸塩、アルキルエーテル酢酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル酢酸塩;アルキルリン酸塩、アルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸塩等のリン酸塩;N−アシルタウリン塩、N−アシルアラニン塩、N−アシルグルタミン酸塩、N−アシルアスパラギン酸塩等のアシル化アミノ酸塩等が挙げられる。
【0033】
カチオン界面活性剤としては、ジアルキル(炭素数10〜24)−ジメチル−アンモニウム・塩化物または臭化物、アルキル(炭素数10〜24)−ジメチル−エチル−アンモニウム・塩化物または臭化物、トリアルキル(炭素数10〜24)−トリメチル−アンモニウム・塩化物または臭化物、アルキル(炭素数10〜24)−ジメチル−ベンジルアンモニウム・塩化物または臭化物などの第4級アンモニウム塩、好ましくは炭素数10〜24のアルキル基を1〜3個有する第4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0034】
ノニオン界面活性剤としては、脂肪アルコールエトキシレート(アルキル−ポリエチレングリコール)、アルキルフェノール−ポリエチレングリコール、アルキル化ポリエチレングリコール、脂肪アミンエトキシレート(アルキルアミノポリエチレングリコール)、脂肪酸エトキシレート(アシルポリエチレングリコール)、ポリプロピレングリコールエトキシレート、脂肪酸アルキルアミド(脂肪酸アミノポリエチレングリコール)、サッカロースエステル、ソルビトールエステル、およびポリグリコールエーテル、アルキルポリグルコシド等が挙げられる。
【0035】
両性界面活性剤としては、イミダゾリン(アミドアミン)、アミドアミノ酸塩、カルボベタイン(アルキルベタイン、アルキルアミドベタイン)、スルホベタイン(アルキルスルホベタイン、アルキルヒドロキシスルホベタイン)、ホスホベタイン、アシル第3級アミンオキサイド、アシル第3級ホスフォンオキシド等が挙げられる。これらのうち、カルボベタイン(アルキルベタイン、アルキルアミドベタイン)及びスルホベタイン(アルキルスルホベタイン、アルキルヒドロキシスルホベタイン)から選ばれる1種以上の両性界面活性剤の含有量を制限することが好ましい。
【0036】
両性界面活性剤は、上記で定義されるように、「その他の界面活性剤」からは除かれる。
【0037】
<皮膚洗浄剤組成物>
本発明の皮膚洗浄剤組成物において、組成物中の(A)成分の含有量と(B)成分の含有量の質量比は、バイオフィルム除去性能と皮膚に対する低刺激性を両立する観点から、〔(B)成分の含有量〕/〔(A)成分の含有量〕で0.9〜6である。好ましくは1.5〜4であり、より好ましくは2〜4である。
【0038】
また、本発明の皮膚洗浄剤組成物において、組成物中の(A)成分の含有量とその他の界面活性剤の含有量との質量比は、バイオフィルム除去性能の観点から、〔その他の界面活性剤の含有量〕/〔(A)成分の含有量〕で0.6以下である。好ましくは0.3以下である。また、その他の界面活性剤を含有しない、つまりこの質量比が0であってもよい。
【0039】
また、本発明の皮膚洗浄剤組成物において、組成物中の(A)成分の含有量と、両性界面活性剤の含有量との質量比は、バイオフィルム除去性能の観点から、〔両性界面活性剤の含有量〕/〔(A)成分の含有量〕で0.18以下である。好ましくは0.15以下であり、より好ましくは0.09以下である。また、この質量比が0、つまり、本発明の皮膚洗浄剤組成物は両性界面活性剤を含有しなくてもよい。
【0040】
上記の各質量比を満たした上で、本発明の皮膚洗浄剤組成物は、バイオフィルム除去性能の観点から、(A)成分を2〜30質量%、更に3〜20質量%、より更に4〜10質量%含有することができる。また、(B)成分を2〜30質量%、更に5〜20質量%、より更に7〜15質量%含有することができる。
【0041】
上記の各質量比を満たした上で、本発明の皮膚洗浄剤組成物中の両性界面活性剤の含有量は、バイオフィルム除去性能の観点から、5質量%以下、さらに1質量%以下、よりさらに0.3質量%以下であることが好ましい。両性界面活性剤の含有量は0質量%、つまり、本発明の皮膚洗浄剤組成物は両性界面活性剤を含有しないことが好ましい。
【0042】
上記の各質量比を満たした上で、本発明の皮膚洗浄剤組成物中のその他の界面活性剤の含有量は、バイオフィルム除去性能の観点から、10質量%以下、さらに5質量%以下、よりさらに1質量%以下であることが好ましい。その他の界面活性剤の含有量は0質量%、つまり、本発明の皮膚洗浄剤組成物はその他の界面活性剤を含有しないことが好ましい。
【0043】
本発明の皮膚洗浄剤組成物は、水を含有することが好ましい。水は組成物の残部であるが、組成物中に98〜40質量%、更に95〜60質量%、より更に90〜70質量%含有することができる。
【0044】
本発明の皮膚洗浄剤組成物は、バイオフィルムの効率的な除去と皮膚に対する低い刺激の観点から、pH(25℃)が、7〜11であることが好ましく、7.5〜10.5であることがより好ましく、8〜10であることが更に好ましい。
【0045】
本発明の皮膚洗浄剤組成物は、バイオフィルム除去性能、皮膚に対する低刺激性の面で阻害しない限り、(A)成分、(B)成分、その他の界面活性剤、及び両性界面活性剤以外の成分を含有することができる。
【0046】
本発明の皮膚洗浄剤組成物は、そのままあるいは希釈して皮膚の洗浄に用いることができる。皮膚に適用する際の濃度としては、(A)成分が1〜20質量%、更に2〜15質量%、より更に3〜10質量%が好ましく、また、(B)成分が1〜18質量%、更に4〜15質量%、より更に6〜12質量%が好ましい。
【0047】
本発明の皮膚洗浄剤組成物は、例えば、チューブタイプ、スプレータイプ、ポンプタイプ、ジャータイプ等の容器に封入して使用される。本発明の皮膚洗浄剤組成物の使用の簡便性の観点から、ポンプタイプの容器を用いることが好ましく、さらに、ポンプタイプの容器の中でもフォーマー容器に封入して用いる方法が好ましい。よって、本発明では、本発明の皮膚洗浄剤組成物を、泡吐出機構を備えた容器に充填してなる皮膚洗浄剤物品を提供することができる。
【実施例】
【0048】
実施例1〜20及び比較例1〜22
表1、2に示す成分を用い、以下に示す方法で表に示す組成の皮膚洗浄剤組成物を調製した。下記方法により、黄色ブドウ球菌の形成するバイオフォルム(BF)の除去性能、及び、皮膚刺激性の評価を行った。
【0049】
《皮膚洗浄剤組成物の調製》
100mlのガラスビーカーに、スターラーピース(直径8mm、長さ30mm、増田理化工業製)を挿入し、さらに皮膚洗浄剤組成物の出来上がり質量が100gとなるように、表1、2に示す質量比率にて、全ての成分を投入した。ウォーターバスにて80℃まで昇温し、100rpmで30分間撹拌した。水溶液の外観が均一になったことを確認し、室温(25℃)まで冷却した。
【0050】
《pH(25℃)の測定》
皮膚洗浄剤組成物のpH(25℃)は、HORIBA pH Meter F-21((株)堀場製作所製)を用いて原液で測定した。
【0051】
《バイオフィルム除去性能の評価》
黄色ブドウ球菌(NBRC13276)1株を、25mlのTBSNo.2培地(シグマ社製)で37℃、22時間振盪培養した(得られた液を「菌液」とよぶ)。波長600nmの光により菌液の濁度を測定し(濁度計 HITACHI社製 U-2800)、濁度が0.1となるようにTBS No.2培地で菌液を希釈した(得られた液を「希釈した菌液」と呼ぶ)後、底面が平面である滅菌96ウェルプレート(ファルコン社製)の各ウェルに希釈した菌液を0.15ml添加して、37℃、24時間あるいは48時間静置培養した。また、ポジティブコントロールとして、同じプレートの異なるウェルに菌を含まないTSB No.2培地を0.15ml加えたサンプルも調製した。上澄みを廃棄後、各ウェルに0.2mlの滅菌生理食塩水(以下、生食という)を添加し、上澄みを廃棄する操作(以下、washという)を2回行った。次いで、各ウェルに0.2mlの生食を添加し、表1、2に示す各皮膚洗浄剤組成物を添加する直前まで保持した。
【0052】
上澄みの廃棄直後、特に記載がない限り、室温(25℃)で保存した表1、2に示す各皮膚洗浄剤組成物を各ウェルに添加し、室温(25℃)で1分放置した。その後上澄みを廃棄し、2回washした。また、皮膚洗浄剤組成物の代わりに生食を用いて同様の操作を行ったものをネガティブコントロールとし、ポジティブコントロールは生食で同様の操作を実施した。
その後、各ウェルに、クリスタルバイオレット(和光純薬工業(株)製)の0.1%水溶液0.2mlを添加し、室温で1時間放置した。生食で1回washした後、エタノール(シグマ社製)0.2mlを各ウェルに添加し、4℃で一晩放置した。次いで、各ウェルに関し、570nmの吸光度を測定した。得られた吸光度値を下記の式に代入し、バイオフィルム除去率を算出した。
なお、上記全ての工程は無菌状態にて実施した。
【0053】
バイオフィルム除去率(%)=100×[(An−Ap)−(As−Ap)]/(An−Ap)
【0054】
式中、
As:サンプル吸光度
An:ネガティブコントロール吸光度
Ap:ポジティブコントロール吸光度
【0055】
《皮膚刺激性の評価》
In vitro試験で皮膚刺激性を予測できることが知られている三次元皮膚モデルを用い、その生細胞率を算出して皮膚刺激性を測定した〔参考文献1:加藤ら、第22回 日本動物実験代替法学会(2009年)、参考文献2:LabCyteエピモデル取扱説明書〕。三次元皮膚モデルとして、株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(略称J-TEC)製のLabCyte EPI-MODEL 24(ラボサイト エピ・モデル 24ウェル)(以降エピモデルと略す)を用いた。
本評価の操作は無菌状態で行った。エピモデルに同封されているアッセイ培地(以降アッセイ培地と略す。)をあらかじめ37℃に加温し、24個のウェルの各ウェルに0.5(ml)分注した。エピモデルをアッセイ培地が分注された24個のウェルに移し、37℃、5% CO2の嫌気条件下で1時間以上培養した。
その後各種サンプル溶液(皮膚洗浄剤組成物の原液)をエピモデルの表面に50(μl)添加し10分放置した。このときネガティブコントロールを生食で処理したものとした。その後溶液を廃棄し、0.5(ml)の生食で5回ウォッシュした。アッセイ培地を交換し、37℃、5% CO2の嫌気条件下で42時間培養した。アッセイ培地を廃棄後、37℃にあらかじめ加温した0.5(mg / ml)MTT(3-(4,5-Dimethyl-2-thiazolyl)-2,5-diphenyl-2H-tetrazolium bromide、関東化学)/ DMEM培地(ギブコBRL)に置換し、37℃、5% CO2の嫌気条件下で3時間培養した。陰性対象のウェルが青紫色に染まっていることを確認後、ヒト表皮組織を底面のフィルムごとメスで切り取って採取した。表皮組織をマイクロチューブに加え、0.5(ml)のイソプロピルアルコール(以降IPAと略す。)(和光純薬工業(株)製)を添加し、室温、暗所で1晩放置した。抽出溶液を0.2(ml)分取り、96ウェルに加えた(ブランクにIPAを同量添加)。サンプル、ネガティブコントロール(生食)、及びブランクのそれぞれについて、570(nm)、650(nm)の吸光度を測定し、570(nm)の吸光度の値から650(nm)の吸光度の値を差し引き、下記の計算式で用いる吸光度の値(Bs、Bn、Bb)に用いた。以下の式で生細胞率を算出し、皮膚刺激性を測定した。
生細胞率(%)=100×(Bs−Bb)/(Bn−Bb)
【0056】
式中、
Bs:サンプル吸光度
Bn:ネガティブコントロール(生食)吸光度
Bb:ブランク(IPA単独)吸光度
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
以下に表1、表2に記載した化合物の説明をする。なお、表中の含有量は有効分に基づく質量%である。また、(B)成分、(B)成分のLogP値は、全て、Chembio Office2008のChemdraw ultra 11.0(Hulinks社)による計算予測値である。
(A)成分:
・ココイルグリシンカリウム塩:アミライトGCK-12K(味の素株式会社製)有効分30%(残部は水)、表には有効分のアシルグリシン塩を(A)成分として記載した。〔ココイル基の脂肪酸組成はC12:44%、C14:16%、C18:10%(飽和3%、不飽和7%の合計)、C16:8%、C8:8%、C10:6%、出典 稲葉恵一、平野二郎著 脂肪酸化学(昭和56年初版)〕
・オレイン酸カリウム塩:(試薬)有効分19%(残部は水)
(B)成分:
・1,3−ブチレングリコール:(試薬)
・ジプロピレングリコール:(試薬)
・エチルジグリコール:(試薬)
・イソプレングリコール:(試薬)
【0060】
(A)成分以外の界面活性剤:
<その他の界面活性剤>
・ラウロイルメチルタウリン塩:ニッコールLMT(日光ケミカル株式会社製)
・ラウロイルサルコシン塩:(試薬)
・ラウリン酸ナトリウム塩:(試薬)
・アシルグルタミン酸カリウム塩:アミソフトLK-11(F)(味の素株式会社製)
・ヤシ油脂肪酸ソルビタン:レオドールSP−L10(花王株式会社製)
・グリセリンモノ−2−エチルヘキシルエーテル:ペネトールGE-EH(花王株式会社製)
・ステアリン酸カリウム塩:(試薬)
<両性界面活性剤>
・アルキルヒドロキシスルホベタイン:アンヒトール20HD(花王株式会社製)
・アルキルアミドプロピルベタイン:アンヒトール20AB(花王株式会社製)
【0061】
(B’)成分〔(B)成分の比較化合物〕:
・グリセリン:化粧品用濃グリセリン(花王株式会社製)
・プロピレングリコール:化粧用プロピレングリコール (株式会社ADEKA製)
・メタノール:(試薬)
・ベンジルアルコール:(試薬)