特許第6235178号(P6235178)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6235178
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】制御材、及び、制御材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 27/20 20060101AFI20171113BHJP
   C21C 1/10 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   B22D27/20 C
   C21C1/10 102
【請求項の数】7
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-37945(P2017-37945)
(22)【出願日】2017年3月1日
【審査請求日】2017年3月1日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512178938
【氏名又は名称】石川ライト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088133
【弁理士】
【氏名又は名称】宮田 正道
(74)【復代理人】
【識別番号】100210295
【弁理士】
【氏名又は名称】宮田 誠心
(72)【発明者】
【氏名】嘉屋 幹雄
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−047808(JP,A)
【文献】 特開2014−015644(JP,A)
【文献】 特開昭54−033818(JP,A)
【文献】 特開昭49−022324(JP,A)
【文献】 特開昭53−128532(JP,A)
【文献】 特開昭50−123525(JP,A)
【文献】 特開2016−135718(JP,A)
【文献】 特開平11−092191(JP,A)
【文献】 特開2007−320805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 27/20
C21C 1/00−3/00
C22C 33/04−33/12
C04B 38/00−38/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛球状化処理を行うためのワイヤーインジェクション法において、
70〜75重量%のSiOを含む多孔質の火山性珪酸塩鉱物であることを特徴とするワイヤー内部にマグネシウム合金とともに充填される焼成された制御材。
【請求項2】
気孔率が60〜80%であることを特徴とする請求項1に記載の制御材。
【請求項3】
Ig.lossが0.5%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の制御材。
【請求項4】
比重が0.5〜1.0g/cmであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の制御材。
【請求項5】
直径5mm未満の球体の焼成体、又は、長さが5mm未満の棒体の焼成体であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の制御材。
【請求項6】
黒鉛球状化処理を行うためのワイヤーインジェクション法用の制御材の製造方法であって、
その制御材が70〜75重量%のSiOを含む多孔質の火山性珪酸塩鉱物からなり、
その制御材が、粒子径0.1mm以下で15〜35重量%の水分を含む粉末状の火山性珪酸塩鉱物をバインダーとして、粒子径が3mm以下の多孔質の火山性珪酸塩鉱物を、直径5mm未満の球体に、又は、長さが5mm未満の棒体に加工されることを特徴とする制御材の製造方法。
【請求項7】
制御材は、900〜1000℃で焼成されることを特徴とする請求項6に記載の制御材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダクタイル鋳鉄の製造において、黒鉛球状化処理を行うためのワイヤーインジェクション法のワイヤーにマグネシウム合金とともに充填される制御材、及び、その制御材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ダクタイル鋳鉄の製造において、黒鉛球状化処理を行う方法の一つとしてワイヤーインジェクション法がある。
【0003】
ワイヤーインジェクション法は、黒鉛球状化剤であるマグネシウム合金が充填されたワイヤーを専用のフィーダーで溶湯に投入する方法である。ワイヤーインジェクション法は、マグネシウム合金が充填されたワイヤーを溶湯深部に投入することができる。
【0004】
さらに、ワイヤーインジェクション法は、溶湯表面をスラグが覆っている場合であっても、マグネシウム合金が充填されたワイヤーをそのスラグを貫通させて溶湯に投入することもできる。
【0005】
ワイヤーインジェクション法は、黒鉛球状化に必要なマグネシウムの成分を安定して溶湯に添加することができるので、ダクタイル鋳鉄の製造の歩留まりを向上させることができる。
【0006】
また、ワイヤーインジェクション法は、専用フィーダーによってワイヤーの添加速度を自在に調整できるので、ダクタイル鋳鉄の品質管理、処理溶湯量の変動への対応、マグネシウム添加の自動化等を容易に実現することができる。
【0007】
このようなワイヤーインジェクション法によって溶湯にワイヤーを投入できる装置として、特許文献1に示すものがある。ワイヤーに含まれるマグネシウムは、沸点が低いために高温の溶湯と接触すると爆発的に反応する。このようなマグネシウムの爆発的な反応を制御するために、反応を制御する制御材がマグネシウム合金とともにワイヤーに充填される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016−16415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、制御材をマグネシウム合金とともにワイヤーに充填すると、ワイヤーが重くなる。このワイヤーの重量化によって、ワイヤーの搬送作業の負荷が増大し、専用フィーダーでのワイヤー投入の負荷が増大するという問題がある。
【0010】
そこで、上記点より本発明は、ダクタイル鋳鉄の製造における黒鉛球状化処理を行うためのワイヤーインジェクション法において、マグネシウムの反応を制御するとともに、軽量化が可能なワイヤーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、請求項1の制御材は、黒鉛球状化処理を行うためのワイヤーインジェクション法において、70〜75重量%のSiOを含む多孔質の火山性珪酸塩鉱物であることを特徴とするワイヤー内部にマグネシウム合金とともに充填される焼成された制御材である。
【0012】
請求項1の制御材は、ワイヤー内部にマグネシウム合金とともに充填されるので、ワイヤーのマグネシウムの濃度を低くすることができる。そのため、このワイヤーが黒鉛球状化処理を行うためのワイヤーインジェクション法で溶湯に投入された場合に、マグネシウムの反応を制御することができる。
【0013】
また、請求項1の制御材は、70〜75重量%のSiOを含む多孔質の火山性珪酸塩鉱物であるので、従来のマグネシウム合金とともにワイヤーに充填される制御材より軽量である。そのため、請求項1の制御材は、マグネシウム合金とともに充填されるワイヤーを軽量化することができる。さらに、SiOを含む多孔質の火山性珪酸塩鉱物からなる制御材は、焼成されることによって、より発泡量が安定する。
【0014】
請求項2の制御材は、請求項1の制御材において、気孔率が60〜80%である。
【0015】
ダクタイル鋳鉄は、溶湯中にドロスが発生する。ドロスが溶湯中に残留した状態で鋳込みが行われると、ダクタイル鋳鉄の鋳造欠陥が生じる。このドロスは、溶湯の液面に浮上してスラグとなる。液面に浮いたスラグは除去可能となる。
【0016】
しかしながら、スラグの量が多いと、そのスラグの除去作業の負荷が増大する。特に、高温の溶湯の液面からスラグを除去する作業は危険であるので、出来る限りスラグの除去作業の負荷を低減することが望ましい。
【0017】
SiOを含む多孔質の火山性珪酸塩鉱物からなる制御材は、溶湯の中で発泡してドロスとなる。このSiOを含む多孔質の火山性珪酸塩鉱物によって生じたドロスは、液面に浮上するとスラグとなる。
【0018】
請求項2の制御材は、請求項1の制御材と同様に作用する上に、気孔率が60〜80%と高いので、制御材としての密度が小さい。そのため、請求項2の制御材は、発泡してもドロスの体積が小さくなるので、そのドロスが浮上したスラグの量も小さくなる。したがって、請求項2の制御材は、スラグの除去作業の負荷を軽減することができる。
【0019】
請求項3の制御材は、請求項1又は2の制御材において、Ig.lossが0.5%以下である。
【0020】
SiOを含む多孔質の火山性珪酸塩鉱物からなる制御材は、Ig.lossが小さければ小さいほど、溶湯の中での制御材の発泡量が安定する。
【0021】
請求項3の制御材は、請求項1又は2の制御材と同様に作用する上に、Ig.lossが0.5%以下と十分に小さい。そのため、請求項3の制御材は、発泡した体積が安定する。したがって、請求項3の制御材は、ドロス及びスラグの発生量を細かく調節することができる。
【0022】
請求項3の制御材は、発泡量が安定しているので、溶湯中での制御材の発泡量を細かく調節することができる。溶湯中での制御材の発泡量が適正な範囲となるように調節することによって、発泡した制御材に生じる浮力が調節することができる。そのため、請求項3の制御材は溶湯中に留まる時間を調節することができ、マグネシウムの反応を効率よく制御することができる。
【0023】
一方、マグネシウムを含むワイヤーで添加された成分も溶湯内でドロスとなる。溶湯が注入される取鍋が大型の場合、このようなドロスが溶湯の液面に浮上するまでに時間がかかる。ドロスの浮上に時間がかかると、溶湯の温度低下、黒鉛球状化の効果の消失という問題が発生する。
【0024】
請求項3の制御材は、例えば、溶湯中での制御材の発泡量が適正な範囲となるように調節することによって、発泡した制御材に生じる浮力が調節することができる。そのため、請求項3の制御材は、溶湯中で発泡し、マグネシウムを含むワイヤーで添加された成分のドロスと共に溶湯の液面に浮上することによって、ドロスが溶湯の液面に浮上するまでの時間を調節することができる。
【0025】
制御材は発泡量が過大になると、取鍋の内表面に接触して付着することがある。このような、発泡した制御材の付着は、ダクタイル鋳鉄の品質に悪影響を及ぼす可能性があるとともに、取鍋の損傷を引き起こす可能性がある。
【0026】
請求項3の制御材は、例えば、溶湯中での制御材の発泡量が適正な範囲となるように調節することによって、発泡した制御材が取鍋の内表面に接触して付着する前に容易に取り除くことができる。
【0027】
請求項4の制御材は、請求項1から3のいずれかの制御材において比重が0.5〜1.0g/cmである
【0028】
請求項4の制御材は、請求項1から3のいずれかの制御材と同様に作用する上に、比重が0.5〜1.0g/cmと従来の制御材に比べて十分に小さい。そのため、請求項4の制御材は、マグネシウム合金とともに充填されるワイヤーを軽量化することができる。
【0029】
請求項5の制御材は、請求項1から4のいずれかの制御材において、直径5mm未満の球体の焼成体、又は、長さが5mm未満の棒体の焼成体である。
【0030】
SiOを含む多孔質の火山性珪酸塩鉱物からなる制御材は、焼成することによってさらに発泡量が安定する。
【0031】
請求項5の制御材は、請求項1から4のいずれかの制御材と同様に作用する上に直径5mm未満の球体の焼成体、又は、長さが5mm未満の棒体の焼成体であるので、発泡量が安定する。請求項5の制御材は、発泡量が安定しているので、溶湯中での制御材の発泡量を細かく調節することができる。したがって、請求項3の制御材と同様の作用を有する。
【0032】
請求項6の制御材の製造方法は、黒鉛球状化処理を行うためのワイヤーインジェクション法用の制御材の製造方法であって、その制御材が70〜75重量%のSiOを含む多孔質の火山性珪酸塩鉱物からなり、その制御材が、粒子径0.1mm以下で15〜35重量%の水分を含む粉末状の火山性珪酸塩鉱物をバインダーとして、粒子径が3mm以下の多孔質の火山性珪酸塩鉱物を、直径5mm未満の球体に、又は、長さが5mm未満の棒体に加工されるようになっている。
【0033】
請求項6の制御材の製造方法によって製造された制御材は、ワイヤー内部にマグネシウム合金とともに充填されるので、ワイヤーのマグネシウムの濃度を低くすることができる。そのため、このワイヤーが黒鉛球状化処理を行うためのワイヤーインジェクション法で溶湯に投入された場合に、マグネシウムの反応を制御することができる。
【0034】
また、請求項6の制御材の製造方法によって製造された制御材は、70〜75重量%のSiOを含む多孔質の火山性珪酸塩鉱物であるので、従来のマグネシウム合金とともにワイヤーに充填される制御材より軽量である。そのため、請求項6の制御材の製造方法によって製造された制御材は、マグネシウム合金とともに充填されるワイヤーを軽量化することができる。
【0035】
さらに、請求項6の制御材の製造方法によって製造された制御材は、溶湯の量、温度等の条件に合わせて、適正な制御材の溶解、及び、適正なマグネシウムによる黒鉛球状化の反応時間を実現することができる。
【0036】
請求項7の制御材の製造方法は、制御材は、900〜1000℃で焼成されるようになっている。
【0037】
請求項7の制御材の製造方法によって製造された制御材は、溶湯の量、温度等の条件に合わせて、適正なマグネシウムによる黒鉛球状化の反応時間を実現することができる。加えて、請求項7の制御材の製造方法によって製造された制御材は、焼成することによってさらに発泡量を調節することができる。したがって、請求項7の制御材の製造方法によって製造された制御材は、請求項3の制御材と同様の作用を有する。
【発明の効果】
【0038】
請求項1から5のいずれかの制御材、及び、請求項6または7の制御材の製造方法によって製造された制御材は、ダクタイル鋳鉄の製造における黒鉛球状化処理を行うためのワイヤーインジェクション法において、マグネシウムの反応を制御するとともに、軽量化が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
ワイヤーインジェクション法で使用されるワイヤーは、線径が6〜16mmである。このワイヤーは、マグネシウム合金、制御材、添加剤を金属の薄板で被覆したものである。
【0040】
本発明の一実施形態である制御材の製造方法について説明する。
【0041】
まず、第一の工程は、SiOを含む多孔質の火山性珪酸塩鉱物を篩い分ける。この篩分けによって、粒子径0.1mm以下で15〜35重量%の水分を含む粉末状の火山性珪酸塩鉱物と、粒子径が3mm以下の多孔質の火山性珪酸塩鉱物が得られる。
【0042】
次いで、第二の工程は、粒子径0.1mm以下の粉末状の火山性珪酸塩鉱物をバインダーとして、粒子径が3mm以下の多孔質の火山性珪酸塩鉱物と混ぜ合わせて、直径5mm未満の球体に造粒する。
【0043】
次いで、第三の工程は、造粒された直径5mm未満の球体を乾燥させる。
【0044】
次いで、第四の工程は、造粒された直径5mm未満の球体を900〜1000℃で焼成する。
【0045】
上記の工程を得て、本発明の一実施形態である制御材が製造される。
【0046】
このように製造された制御材を分析したところ、以下のようになった。
【0047】
制御材は、73.0重量%のSiOを含む多孔質の火山性珪酸塩鉱物である。制御材の気孔率は、60〜80%の範囲内である。制御材のIg.lossは0.33%である。制御材の比重は、0.5〜1.0g/cmの範囲内である。制御材の球体の直径は、直径5mm未満となっている。
【0048】
本実施形態の制御材の吸水率を確認するため、以下の実験を行った。制御材50gを直径120mm、深さ30mmのアルミ皿に入れて、温度105℃の乾燥炉で24時間乾燥させる。この乾燥させた制御材の質量(以下、乾燥時質量)を測定する。
【0049】
次いで、その乾燥させた制御材を、温度20℃、湿度90%RHの環境槽に入れる。環境槽内で120時間、吸水させる過程で定期的に吸水させた制御材の質量(給水時質量)を測定する。
【0050】
吸水率(%)=(給水時質量−乾燥時質量)/乾燥時質量×100として計算したところ、本実施形態の制御材は、吸水開始時から120時間経過時まで、1%未満であった。
【0051】
したがって、本実施形態の制御材は、時間経過とともに大気中からほとんど吸水することがない。そのため、この制御材は、長期間の保管が容易である。加えて、長期間の保管がされた制御材は、長期間の保管がされていない制御材を使用した場合と同様に、溶湯の中での発泡量が安定することとなる。
【0052】
上記の制御材の製造方法の実施形態では、粒子径0.1mm以下の粉末状の火山性珪酸塩鉱物をバインダーとして、粒子径が3mm以下の多孔質の火山性珪酸塩鉱物と混ぜ合わせて、直径5mm未満の球体に造粒する場合について説明したが、これに限定されることはない。粒子径0.1mm以下の粉末状の火山性珪酸塩鉱物をバインダーとして、粒子径が3mm以下の多孔質の火山性珪酸塩鉱物と混ぜ合わせて、長さが5mm未満の棒体に加工されてもよい。
【0053】
上記の制御材の実施形態制では、制御材が73.0重量%のSiOを含む多孔質の火山性珪酸塩鉱物である場合について説明したが、これに限定されることはない。鋳造条件に応じて、制御材は、70〜75重量%のSiOを含む多孔質の火山性珪酸塩鉱物であればよい。
【0054】
上記の制御材の実施形態制では、制御材のIg.lossは0.33%である場合について説明したが、これに限定されることはない。鋳造条件に応じて、制御材は、Ig.lossが0.5%以下であればよい。
【要約】
【課題】ダクタイル鋳鉄の製造における黒鉛球状化処理を行うためのワイヤーインジェクション法において、マグネシウムの反応を制御するとともに、軽量化が可能なワイヤーを提供すること。
【解決手段】黒鉛球状化処理を行うためのワイヤーインジェクション法において、70〜75重量%のSiOを含む多孔質の火山性珪酸塩鉱物であることを特徴とするワイヤー内部にマグネシウム合金とともに充填されるようになっている。
【選択図】 なし