【背景技術】
【0002】
周波数情報検出装置は、例えばプラズマエッチング、プラズマCVDを行うプラズマ処理装置等の負荷に電力を供給する高周波電源等で用いることが可能である。
【0003】
図5は、高周波電力供給システムの概略構成例である。
第1の高周波電源110及び第2の高周波電源120は、共通の発振器100から出力される高周波信号を進行波電力出力部(図略)で増幅して高周波電力を出力する。第1の高周波電源110及び第2の高周波電源120から出力された高周波電力は、負荷となるプラズマ処理装置130内の電極(131,132)の2箇所に供給される。この
図5では、電極131及び電極132のぞれぞれに高周波電力を供給する例を示したが、例えば、
図6に示すように、上側の電極131の2箇所に高周波電力を供給することも可能である。
【0004】
なお、第1の高周波電源110及び第2の高周波電源120からプラズマ処理装置130に向かう高周波電力を進行波電力といい、プラズマ処理装置130で反射されて高周波電源側に戻ってくる高周波電力を反射波電力という。
【0005】
プラズマ処理装置130では、第1の高周波電源110及び第2の高周波電源120から供給された高周波電力を用いてプラズマ133を発生させて、エッチング等を行う。
【0006】
なお、第1の高周波電源110とプラズマ処理装置130との間には、第1の高周波電源110とプラズマ処理装置130とのインピーダンスを整合させるインピーダンス整合器が用いられることがある。第2の高周波電源120とプラズマ処理装置130との間にも同様にインピーダンス整合器が用いられることがある。
【0007】
図5及び
図6の高周波電力供給システムでは、第1の高周波電源110及び第2の高周波電源120の制御が、それぞれ別の制御回路で行われることになる。制御回路が異なると、たとえ共通の発振器100から高周波信号が与えられても、第1の高周波電源110及び第2の高周波電源120の出力周波数が僅かに異なる場合がある。この原因としては、例えば、制御クロックが異なることによる誤差等が考えられる。特に、第1の高周波電源110と第2の高周波電源120とが別のメーカのものであれば、若干の違いが生じる可能性がある。
【0008】
図5及び
図6のような高周波電力供給システムにおいて、2つの高周波電源110及び120の出力周波数が僅かに異なる場合、電極(131,132)には、周波数が僅かに異なる高周波電力が供給されて混合される。すなわち、電極(131,132)に印加される2種類の高周波電圧の周波数が僅かに異なっているので、2種類の高周波電圧が重なり合って生じる電圧の波形は変調されたように振幅が周期的に変動する。例えば、2種類の高周波電圧の周波数が、13.56MHz近傍で1Hz異なっていると、約1sの周期で振幅が変動する。その結果、プラズマ処理装置130で発生するプラズマの電位も周期的に変動するため、悪影響を及ぼす。
例えば、一方の高周波電圧波形の山と他方の高周波電圧波形の山が同じ位相になると重なり合って生じる電圧の波形は最大値となるが、一方の高周波電圧波形の山と他方の高周波電圧波形の谷が同じ位相になると重なり合って生じる電圧の波形は最小値となる。この最大値と最小値との差は大きいので、2種類の高周波電圧が重なり合って生じる電圧の波形は大きな振幅の変化を伴って周期的に変動する。
【0009】
したがって、第1の高周波電源110及び第2の高周波電源120の出力周波数を同一にする必要がある。そのためには、一方の高周波電源の出力周波数を検出し、他方の高周波電源の出力周波数を検出した周波数に合わせれば、上記の問題を解決できる。そのため、高周波電力供給システムの分野においても、周波数を検出する周波数情報検出装置が必要である。また、高周波電源の出力周波数をモニタする等の用途が考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、従来と同一又は同様の構成には、同一符号を付している。
【0019】
図1は、高周波電圧の検出例を示すブロック図である。
第1の高周波電源110は、発振器100から出力される高周波信号を増幅し、無線周波数帯域の出力周波数を有する進行波電力PFを出力して負荷となるプラズマ処理装置130に供給するための装置である。高周波電源110から出力された進行波電力PFは、伝送線路140を介してプラズマ処理装置130に供給される。なお、一般にこの種の高周波電源では、数百kHz上の周波数(例えば、13MHz,40MHz等の周波数)を有する進行波電力PFを出力している。
【0020】
負荷となるプラズマ処理装置130は、加工部を備え、その加工部の内部に搬入したウエハ、液晶基板等の被加工物を加工(エッチング、CVD等)するための装置である。なお、加工部には、電極(
図5及び
図6参照)が設けられている。この加工部にプラズマ放電用ガスが導入され、電極に高周波電源110から出力された進行波電力PFが供給されると、放電が生じてプラズマが発生する。プラズマ処理装置130は、このプラズマを利用して被加工物を加工している。
【0021】
方向性結合器150は、第1の高周波電源110とプラズマ処理装置130との間に挿入されて、高周波電源110からプラズマ処理装置130に向かう進行波電圧VFを検出し、その検出信号を進行波検出信号V
fとして出力する。なお、方向性結合器150は、負荷で反射された反射波電圧を検出する機能も有するが、この例では必要ないので省略している。
【0022】
フィルタ160は、ローパスフィルタ又はバンドバスであり、方向性結合器150から出力される進行波検出信号V
fから高調波成分を除去し、基本周波数成分を通過させる。これにより、フィルタ160から出力される信号は正弦波信号となり、周波数情報検出装置1へ送られる。本明細書では、フィルタ160から出力される信号を周波数情報検出装置1への入力信号V
inとする。
なお、入力信号V
inは、アナログの電圧信号であるので、出力周波数をf、時間をt、位相オフセットをθ、角周波数をω(=2π・f)とすると、入力信号V
inは、式(1)のように表すことができる。なお、ここでは、正弦波信号の振幅を「1」としている。
V
in=sin(2π・f・t+θ)
=sin(ω・t+θ) ・・・(1)
【0023】
また、フィルタ160の後段には、後述するA/Dコンバータ10の入力範囲に適するように信号のレベルを変換するレベル変換回路を設けてもよいが、この
図1では省略している。
【0024】
フィルタ160から出力された入力信号V
inは、周波数情報検出装置1に入力される。周波数情報検出装置1では、後述するように入力信号V
inの周波数移動平均値情報F
ave[t]を出力する。出力された周波数移動平均値情報F
ave[t]は、例えば、
図5及び
図6に示した第2の高周波電源120に送られ、第2の高周波電源120の出力周波数を第1の高周波電源110の出力周波数に合わせるために用いることができる。
【0025】
図2は、周波数情報検出装置1の構成例である。周波数情報検出装置1は、
図2に示すように、A/Dコンバータ10、余弦値推定部20、位相推定部30、位相変位量演算部40、周波数推定部50及び移動平均部60を備えている。
【0026】
A/Dコンバータ10は、フィルタ160から出力されるアナログの入力信号V
inを予め定めたサンプリング周期(サンプリング周波数f
sの逆数:1/f
s)でデジタル信号に変換する。A/D変換されたサンプリングデータは、時刻[t]における入力信号V
inの瞬時値V
in[t]として順次出力される。これにより、交流のアナログ信号波形が、複数のサンプリングデータで構成されるデジタル信号波形に変換される。なお、フィルタ160から出力される入力信号V
inが正弦波信号であれば、A/Dコンバータ10から出力されるデジタル信号波形も正弦波信号となる。
【0027】
ここで、入力信号V
inの周波数をf
in、サンプリング周波数をf
s、位相オフセットをθ’、相対角周波数をω
in=2π・(f
in/f
s)とすると、時刻[t]における入力信号V
inの瞬時値V
in[t]は、式(2)のように表すことができる。なお、ここでは、正弦波信号の振幅を「1」としている。また時間データ「t」はサンプリング周期毎にインクリメントされる変数である。
V
in[t]=sin(2π・(f
in/f
s)[t]+θ’)
=sin(ω
in[t]+θ’) ・・・・・(2)
【0028】
余弦値推定部20は、時刻[t]における入力信号V
inの瞬時値V
in[t]を微分した余弦値「cos(ω
in[t]+θ’)」の推定値を、時刻[t−1]における入力信号V
inの瞬時値V
in[t−1]、時刻[t+1]における入力信号V
inの瞬時値V
in[t+1]及び既知の値を用いて演算する。推定した余弦値「cos(ω
in[t]+θ’)」は位相推定部30に送られる。以下、具体的に説明する。
【0029】
「α[t]=ω
in[t]+θ’=2π・(f
in/f
s)[t]+θ’」とすると、時刻[t]における余弦値(cos(α[t]))は、式(3)で表すことができる。
cos(α[t])
={(2sin(ω
in[t])・cos(α[t])}/(2sin(ω
in[t]))
={sin(α[t]+ω
in[t])−sin(α[t]−ω
in[t])}/(2sin(ω
in[t]))
={sin(2ω
in[t]+θ’)−sin(θ’)}/(2sin(ω
in[t])) ・・・(3)
【0030】
式(2)を参照すると、時刻[t]における入力信号V
inの瞬時値V
in[t]は「sin(ω
in[t]+θ’)」であるので、入力信号V
inの周波数f
inが変化しなければ、サンプリング周期(1/f
s)毎の相対角周波数ω
inの変位量は「ω
in[t]」で一定である。したがって、式(3)の分子は、時刻[t+1]における入力信号V
inの瞬時値V
in[t+1]から、時刻[t−1]における入力信号V
inの瞬時値V
in[t−1]を減算することを表している。
【0031】
また、式(3)の分母の「sin(ω
in[t])」は、時刻[t]における入力信号V
inの瞬時値V
in[t]から位相オフセットθ’を省略したものとなっている。
【0032】
したがって、時刻[t]における余弦値(cos(α[t]))は、時刻[t−1]、[t]及び[t+1]における3つの入力信号V
inの瞬時値V
in[t−1]、V
in[t]及びV
in[t+1]を用いて推定することができる。
【0033】
ただし、上記のように、「sin(ω
in[t])」は、時刻[t]における入力信号V
inの瞬時値V
in[t]から位相オフセットθ’を省略したものとなっているので、式(3)の分母には誤差が生じる。ここで、正弦関数の値(sinの値)は、0を中心として±1の範囲で変化するものであるから、誤差は正になることもあれば負になることもある。
【0034】
後述するように、時刻[t]における余弦値(cos(α[t]))を推定した後、位相α[t]を演算し、さらに位相α[t]のサンプリング周期毎の位相変位量Δα[t]に基づいて入力信号V
inの周波数の推定値f
est[t]又は角周波数の推定値ω
est[t]を演算する。その後、演算した周波数の推定値f
est[t]又は角周波数の推定値ω
est[t]の移動平均値を演算するので、式(3)の分母の誤差は、殆ど相殺される。
【0035】
そこで、もともと誤差のある式(3)の分母を構成する入力信号V
inの周波数f
inを、式(4)のように、設定周波数f
setに置き換えても殆ど影響はない。ここで、設定周波数f
setとは、入力信号V
inの設定周波数であるので、誤差も小さい。例えば、
図5及び
図6の例では、発振器100から出力される高周波信号の周波数である。この設定周波数f
setは、予め分かっているので、例えば余弦値推定部20に入力しておけばよい。もちろん、設定角周波数ω
set(=2π・f
in)を用いてもよい。
2sin(ω
in[t])=2sin(2π・(f
in/f
s)[t])
→ 2sin(2π・(f
set/f
s)[t]) ・・・(4)
【0036】
ここで、式(4)を構成する各要素は、全て既知の値である。そのため、「1/{2sin(2π・(f
set/f
s)[t])}」を定数Kで表すと、式(3)は式(5)のように変形できる。したがって、本来であれば、時刻[t]における余弦値(cos(α[t]))を推定する際には、式(3)を用いる必要があるので複雑な演算が必要であるが、式(5)を用いることによって、演算式を簡略化でき、演算負荷を低減できる。
cos(α[t])=K・{sin(2ω
in[t]+θ’)−sin(θ’)}
=K・{V
in[t+1]−V
in[t−1]} ・・・(5)
【0037】
上記のように、余弦値推定部20は、A/Dコンバータ10によってデジタル信号となった複数の入力信号V
inのデータを用いて時刻[t]における余弦値(cos(α[t]))を演算する。そのため、余弦値推定部20は図示しないメモリを有し、そのメモリにA/Dコンバータ10から出力された入力信号V
inの瞬時値V
in[t]を順次記憶していく。
【0038】
なお、上記のように、余弦値推定部20では、時刻[t−1]における入力信号V
inの瞬時値V
in[t−1]と、時刻[t+1]における入力信号V
inの瞬時値V
in[t+1]とを用いるが、時刻[t]における入力信号V
inの瞬時値V
in[t]を用いない。しかし、後述するように位相推定部30で行う演算には時刻[t]における入力信号V
inの瞬時値V
in[t]を用いるので、メモリには、少なくとも瞬時値V
in[t−1]、瞬時値V
in[t]及び瞬時値V
in[t+1]の連続する3つのデータを記憶しておく。
【0039】
また、上記の例では、時刻[t+1]における入力信号V
inの瞬時値V
in[t+1]が余弦値推定部20に入力された後に、時刻[t]における余弦値(cos(α[t]))を演算することができる。
【0040】
位相推定部30は、時刻[t]における入力信号V
inの瞬時値V
in[t]を正弦要素(sin要素)とし、時刻[t]における余弦値(cos(α[t]))を余弦要素(cos要素)として、式(6)に示すように、逆正接関数(tan
−1)を用いて時刻[t]における余弦値(cos(α[t]))の位相α[t]を演算する。この位相α[t]は、±π[単位:rad]の範囲で演算される。演算された位相α[t]は、位相変位量演算部30に送られる。
α[t]=tan
−1(V
in[t]/cosα[t]) ・・・(6)
【0041】
なお、上記のように、時刻[t+1]における入力信号V
inの瞬時値V
in[t+1]が余弦値推定部20に入力された後に、時刻[t]における余弦値(cos(α[t]))が演算されるので、位相α[t]も、時刻[t+1]における入力信号V
inの瞬時値V
in[t+1]が余弦値推定部20に入力された後に演算される。また、位相α[t]の演算に必要な時刻[t]における入力信号V
inの瞬時値V
in[t]は、余弦値推定部20に設けたメモリから読み出せばよい。
【0042】
位相変位量演算部30は、位相推定部30で演算された時刻[t−1]における位相α[t−1]及び時刻[t]における位相α[t]に基づいて、時刻[t]における位相変位量Δα[t]を演算する。演算された位相変位量Δα[t]は、周波数推定部50に送られる。
【0043】
ここで、位相変位量演算部30は、時刻[t−1]から時刻[t]のサンプリング周期の間に生じた位相変位量Δα[t]を演算するのであるが、位相推定部30から出力される時刻[t]における余弦値(cos(α[t]))の位相α[t]が、上記のように±π[単位:rad]の範囲で演算されるため、{「α[t]−α[t−1]}が正の場合は、位相変位量Δα[t]を式(7)を用いて演算し、{「α[t]−α[t−1]}が負の場合は、位相変位量Δα[t]を式(8)を用いて演算する。
Δα[t]=α[t]−α[t−1] ・・・(7)
Δα[t]=(α[t]−α[t−1])+2π ・・・(8)
【0044】
なお、上記のように、位相変位量演算部30は、位相推定部30によって演算された時刻[t−1]における位相α[t−1]及び時刻[t]における位相α[t]を用いて時刻[t]における位相変位量Δα[t]を演算するので、位相変位量演算部30は、図示しないメモリを有し、そのメモリに位相推定部30から出力された位相α[t]を順次記憶していく。このメモリには、少なくとも時刻[t−1]における位相α[t−1]及び時刻[t]における位相α[t]を記憶しておく。
【0045】
また、上記のように、時刻[t+1]における入力信号V
inの瞬時値V
in[t+1]が余弦値推定部20に入力された後に、時刻[t]における位相α[t]が演算されるので、位相変位量Δα[t]も、時刻[t+1]における入力信号V
inの瞬時値V
in[t+1]が余弦値推定部20に入力された後に演算される。
【0046】
周波数推定部50は、位相変位量演算部30で演算された時刻[t]における位相変位量Δα[t]に基づいて、時刻[t]における入力信号V
inの角周波数の推定値ω
est[t]又は周波数の推定値f
est[t]を演算する。演算された入力信号V
inの角周波数の推定値ω
est[t]又は周波数の推定値f
est[t]は、移動平均部60に送られる。
【0047】
ここで、位相変位量Δα[t]は、サンプリング周期の間に生じた位相変位量であるから、式(9)に示すように、位相変位量Δα[t]にサンプリング周波数f
sを乗算すると、1秒間に生じる位相変位量を求めることができる。すなわち、時刻[t]における入力信号V
inの角周波数の推定値ω
est[t][単位:rad/s]を演算することができる。また、式(10)に示すように、時刻[t]における位相変位量Δα[t]にサンプリング周波数f
sを乗算するとともに「2π」で除算することにより、時刻[t]における周波数の推定値f
est[t][単位:Hz]を演算することができる。
ω
est[t]=Δα・f
s ・・・(9)
f
est[t]=Δα・f
s/(2π) ・・・(10)
【0048】
また、角周波数の推定値ω
est[t]と設定角周波数ω
setとの差角周波数の推定値ω
dif[t]は、式(11)のように演算できる。なお、設定角周波数ω
setは、「2π・f
set」である。また周波数の推定値f
est[t]と設定周波数f
setとの差周波数の推定値f
dif[t]は、式(12)のように演算できる。そのため、周波数推定部50は、差角周波数の推定値ω
dif[t]、差周波数の推定値f
dif[t]を出力することもできる。この場合、例えば、周波数推定部50に設定周波数f
setを入力すればよい。もちろん、周波数推定部50に設定角周波数ω
setを入力してもよい。また設定周波数f
setから設定角周波数ω
setを演算してもよいし、その逆に、設定角周波数ω
setから設定周波数f
setを演算してもよい。
ω
dif[t] =ω
est[t]−ω
set[t] ・・・(11)
f
dif[t] =f
est[t]−f
set[t] ・・・(12)
【0049】
なお、本明細書では、入力信号V
inの角周波数の推定値ω
est[t]、周波数の推定値f
est[t]、差角周波数の推定値ω
dif[t]及び差周波数の推定値f
dif[t]を総称して時刻[t]における入力信号V
inの「周波数推定値情報F
est[t]」という。
【0050】
また、入力信号V
inの角周波数の推定値ω
est[t]、周波数の推定値f
est[t]、差角周波数の推定値ω
dif[t]及び差周波数の推定値f
dif[t]は、いずれか1つを出力すればよいが、複数を出力するようにしてもよい。
【0051】
なお、上記のように、時刻[t]における位相変位量Δα[t]は、時刻[t+1]における入力信号V
inの瞬時値V
in[t+1]が余弦値推定部20に入力された後に演算されるので、時刻[t]における入力信号V
inの周波数推定値情報F
est[t]も、時刻[t+1]における入力信号V
inの瞬時値V
in[t+1]が余弦値推定部20に入力された後に演算される。
【0052】
移動平均部60は、周波数推定部50から出力された時刻[t]における入力信号V
inの周波数推定値情報F
est[t]の移動平均値を演算する。移動平均値は、予め定めたデータ数を用いて演算される。
【0053】
なお、上記のように、移動平均部60は、周波数推定部50から出力された時刻[t]における入力信号V
inの周波数推定値情報F
est[t]に基づいて、予め定めたデータ数の移動平均値を演算するので、移動平均部60は、図示しないメモリを有し、そのメモリに周波数推定部50から出力された周波数推定値情報F
est[t]を順次記憶していく。このメモリには、少なくとも移動平均値の演算に必要な予め定めた数のデータを記憶しておく。
【0054】
また、上記のように、時刻[t+1]における入力信号V
inの瞬時値V
in[t+1]が余弦値推定部20に入力された後に、時刻[t]における入力信号V
inの周波数推定値情報F
est[t]が演算されるので、角周波数の移動平均値ω
ave[t]、周波数の移動平均値f
ave[t]も、時刻[t+1]における入力信号V
inの瞬時値V
in[t+1]が余弦値推定部20に入力された後に演算される。
【0055】
また、データのサンプリングを開始した直後は、移動平均値を演算するために必要な
予め定めた数のデータがメモリに保存されていない。そのため、予め定めた数のデータがメモリに保存されていない間は、予め定めた数よりも少ないデータを用いて移動平均値を演算してもよい。または、予め定めた数のデータがメモリに保存された後に、移動平均値を演算してもよい。どのように移動平均値を演算するかは、予め定めておけばよい。
【0056】
また、移動平均部60は、差角周波数の推定値ω
dif[t]の移動平均値ω
dif_ave[t]又は差周波数の推定値f
dif[t]の移動平均値f
dif_ave[t]を出力することもできる。
【0057】
また、本明細書では、時刻[t]における角周波数の推定値ω
est[t]の移動平均値ω
ave[t]、周波数の推定値f
est[t]の移動平均値f
ave[t]、差角周波数の推定値ω
dif[t]の移動平均値ω
dif_ave[t]及び差周波数の推定値f
dif[t]の移動平均値f
dif_ave[t]を総称して、時刻[t]における入力信号V
inの「周波数移動平均値情報F
ave[t]」という。
【0058】
また、角周波数の推定値ω
est[t]の移動平均値ω
ave[t]、周波数の推定値f
est[t]の移動平均値f
ave[t]、差角周波数の推定値ω
dif[t]の移動平均値ω
dif_ave[t]及び差周波数の推定値f
dif[t]の移動平均値f
dif_ave[t]は、いずれか1つを出力すればよいが、複数を出力するようにしてもよい。
【0059】
上記のようにして求めた入力信号V
inの周波数移動平均値情報F
ave[t]は、例えば、
図5及び
図6に示した第2の高周波電源120に送られ、第2の高周波電源120の出力周波数を第1の高周波電源110の出力周波数に合わせるために用いることができる。この場合、周波数情報検出装置1の制御クロックと第2の高周波電源120の制御クロックとを同一にするために、周波数情報検出装置1を第2の高周波電源120に組み込む等して、同一の制御クロックを用いればよい。
【0060】
なお、移動平均部60から出力される入力信号V
inの周波数移動平均値情報F
ave[t]をデジタルデータとするとともに、第2の高周波電源120の発振器をデジタルデータである周波数移動平均値情報F
ave[t]が示す周波数を有する高周波信号を発生できるように構成することが望ましい。このような発振器としては、ダイレクト・デジタル・シンセサイザー(DDS)を用いることができる。
【0061】
<移動平均値を演算する理由>
上記のように、時刻[t]における余弦値(cos(α[t]))には、誤差が含まれているので、位相α[t]にも誤差が含まれる。もちろん、時刻[t−1]における余弦値(cos(α)[t−1])、位相α[t−1]にも誤差が含まれる。その結果、位相変位量Δα[t]にも誤差が含まれる。そのため、時刻[t]における入力信号V
inの周波数推定値情報F
est[t]にも誤差が含まれる。
【0062】
すなわち、時刻[t]における入力信号V
inの周波数推定値情報F
est[t]に含まれる誤差は、時刻[t]における余弦値(cos(α[t]))に起因する。
この時刻[t]における余弦値(cos(α[t]))の誤差は、上記のように正になることもあれば負になることもあるので、時刻[t]における入力信号V
inの周波数推定値情報F
est[t]の誤差も正になることもあれば負になることもある。そこで、移動平均部60によって、複数のデータの移動平均を行えば、誤差が相殺するので、誤差を小さくし、精度のよい周波数情報を得ることができる。
【0063】
したがって、時刻[t]における入力信号V
inの瞬時値V
in[t]を微分した余弦値(cos(α[t]))」を推定する際に、設定周波数f
setを用い、式(5)の一部を定数とすることで、周波数情報を得るための演算負荷を低減させるとともに、精度のよい周波数情報を得ることができる。
【0064】
<シミュレーション結果>
図3は、入力信号V
inの周波数f
inが設定周波数f
setからずれていると想定した場合に、移動平均部60から出力される差周波数の推定値f
dif[t]の移動平均値f
dif_ave[t]のシミュレーション結果である。
図3(a)は、入力信号V
inの差周波数の推定値f
dif[t]のシミュレーション結果であり、
図3(b)は、入力信号V
inの差周波数の推定値f
dif[t]の移動平均値f
dif_ave[t]のシミュレーション結果であり、
図3(c)は、
図3(b)の一部拡大図である。また、
図3(a)及び
図3(b)は、サンプリング開始後、約150〜160μs間のデータであり、
図3(c)は、サンプリング開始後、約159〜160μs間のデータである。
【0065】
なお、シミュレーション条件は次のとおりである。
(1)サンプリング周波数f
s :50MHz
(2)設定周波数f
set :13.56MHz
(3)入力信号V
inの周波数f
in:13.563MHz
(設定周波数f
setと3,000Hzだけずれていると想定)
(4)移動平均値の演算に用いるデータ数:500個(10μsの移動平均値)
【0066】
図4は、入力信号V
inの周波数f
inが設定周波数f
setからずれていると想定した場合に、移動平均部60から出力される差周波数の推定値f
dif[t]の移動平均値f
dif_ave[t]の他のシミュレーション結果である。
図4(a)は、入力信号V
inの差周波数の推定値f
dif[t]のシミュレーション結果であり、
図4(b)は、入力信号V
inの差周波数の推定値f
dif[t]の移動平均値f
dif_ave[t]のシミュレーション結果であり、
図4(c)は、
図4(b)の一部拡大図である。
なお、この
図4は、入力信号V
inの周波数f
inが13.5603MHz(設定周波数f
setと300Hzだけずれていると想定)であることを除き、
図3と同じ条件でのシミュレーション結果である。
【0067】
図3(a)のように、入力信号V
inの周波数が設定周波数f
set(13.56MHz)に対して3,000Hzずれていると想定した場合、入力信号V
inの差周波数の推定値f
dif[t]は、検出すべき周波数(3,000Hz)に対して約±400Hzの範囲でばらついているが、
図3(b)及び
図3(c)に示すように、差周波数の推定値f
dif[t]の移動平均値f
dif_ave[t]は、検出すべき周波数(3,000Hz)に対して約±0.6Hzの範囲に収まっていることが分かる。
このように、入力信号V
inの周波数が設定周波数f
setに対して大幅にずれている場合であっても、移動平均部60から出力される差周波数の推定値f
dif[t]の移動平均値f
dif_ave[t]は、検出すべき周波数に対して誤差が小さい。
【0068】
また、
図4(a)のように、入力信号V
inの周波数f
inが設定周波数f
set(13.56MHz)に対して300Hzずれていると想定した場合、入力信号V
inの差周波数の推定値f
dif[t]は、検出すべき周波数(300Hz)に対して約±40Hzの範囲でばらついているが、
図4(b)及び
図4(c)に示すように、差周波数の推定値f
dif[t]の移動平均値f
dif_ave[t]は、検出すべき周波数(300Hz)に対して約±0.05Hzの範囲に収まっていることが分かる。したがって、精度良く入力信号V
inの周波数を検出できていることが分かる。
【0069】
なお、本実施例の周波数情報検出装置は、アナログの正弦波信号V
inを、予め定めたサンプリング周期(サンプリング周波数f
sの逆数:1/f
s)でデジタル信号にA/D変換することによって得られるデジタルの正弦波信号の周波数情報を検出する周波数情報検出装置であり、特に用途は限定されない。そのため、上記では、周波数情報検出装置を、例えば
図5及び
図6のような高周波電力供給システムに用いる例を示したが、これに限定されるものではない。例えば、商用周波数帯域(50Hz〜60Hz)でも適用できる。