(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
0.05質量%以上0.3質量%以上のTi、0.05質量%以上0.3質量%以上のZr、0.05質量%以上0.3質量%以上のCr、0.05質量%以上0.3質量%以上のVのうち少なくとも一つをさらに含む、
ことを特徴とする請求項1に記載のチューブ用アルミニウム合金材。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金は軽量で熱伝導性に優れていること、適切な処理によって高耐食性が実現できること、ならびに、ブレージングシートを利用したろう付によって効率的な接合が可能であることから、自動車用などの熱交換器用の材料として用いられている。近年、自動車の高性能化あるいは環境保護対応として、より軽量で高耐久性を有するように熱交換器の性能向上が求められており、これに対応できるアルミニウム合金材料技術が求められている。このような自動車用熱交換器の例として、ろう材、心材、犠牲防食層をクラッドした3層ブレージングシートを成形加工したチューブと、単層の外部フィン材とをコルゲート成形した外部フィンとを組み合わせて、ろう付接合した熱交換器等がある。熱交換器のチューブは冷媒などの流体を流通させる目的のものであるから、孔食によるリークが生じることを避ける必要がある。熱交換器のチューブの孔食を抑制する防食方法として、クラッド圧延やZn溶射等の方法でチューブ表面にAl−Zn層を形成し、Al−Zn層による犠牲防食効果を用いた心材の防食方法等が用いられている。
【0003】
近年、これらの技術をルームクーラーの熱交換器に用いる検討がなされている。ルームクーラーの熱交換器には、従来、銅製の内面溝付き伝熱管とアルミニウム製のフィンとを組み合わせたフィンアンドチューブタイプの熱交換器が使用されてきたが、材料費低減や軽量化の要求に対応し、さらに、ろう付による効率的な接合を目的として、ろう付接合したアルミニウム製熱交換器等を使用することが検討されている。ルームクーラーの室内機は室内に配置されるため、アルミニウムに孔食を誘起する塩化物イオン(Cl
−)の付着が自動車用の熱交換器よりも少ない。そのため孔食は起こりにくくなるが、まったく起こらないわけではなく、Cl
−が低い場合には、Al−Zn層による犠牲防食効果が働きにくくなり、自動車用の熱交換器よりもチューブの貫通寿命が短くなる場合がある。さらに、アルミニウムの腐食生成物である酸化アルミニウムや水酸化アルミニウムは、いわゆるセメント臭の原因となる場合があり、酸化アルミニウムや水酸化アルミニウムの生成量はアルミニウムの腐食量とともに増加する。Al−Zn層による犠牲防食効果はZn濃度とともに増加するが、Al−Zn層の腐食速度もZn濃度とともに増大してしまうことが知られており、酸化アルミニウムや水酸化アルミニウムの生成を抑制するためには、自動車用の熱交換器の技術をルームクーラーの熱交換器にそのまま用いることは困難であった。さらに、このセメント臭を除去するために、アルカリ性のスプレーによって熱交換器が洗浄される場合があり、アルカリ性の環境に対しても耐性の高いアルミニウム材料を用いる必要がある。こういったスプレーは強アルカリ性であり、ラジエータ等のLLC(ロング・ライフ・クーラント)の劣化による弱アルカリ性の環境よりもアルカリ性が強くなる。
【0004】
これらの事情に対応するために、特許文献1に記載されているような、熱交換器などのチューブ材として用いる弱酸性からアルカリ性に渡る広範囲のpHに対する耐食性を有するアルミニウム合金が用いられている。また、特許文献2に記載されているような、耐食性、特にクーラントなどのアルカリ性溶液に対する耐食性を有し、自動車用ラジエータ、ヒータコアなどのチューブ材、ヘッダープレート材などとして好適に使用できるアルミニウム合金クラッド材も用いられている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者は、アルミニウムの腐食に及ぼすカソード反応について鋭意検討した。腐食反応は一般に、金属が酸化、イオン化するアノード反応と、環境中の物質が還元するカソード反応とが同時に起こり、電子をやり取りすることによって進行する。アルミニウムが腐食するためにはカソード反応が起こる必要があるが、還元される物質が、置かれている環境のpHによって変化することを、鋭意検討の末、本発明者は見出した。すなわち、本発明者は、酸性では水素イオンの還元、中性では溶存酸素の還元、アルカリ性では水の還元反応が起こることを見出した。また、本発明者は、それぞれの還元反応に対して影響を与える合金中の元素が異なることも鋭意検討の末に見出した。
【0014】
すなわち、Al−Zn層のZn濃度を低くすることで酸化アルミニウムや水酸化アルミニウムの生成量を抑え、水素イオンの還元反応および溶存酸素の還元反応を活性にするFe、Ni、Cuのうち少なくとも一種を含有することによって、低いZn濃度においても犠牲防食効果を発現させ、SiおよびMnを同時に添加することによって水の還元反応を不活性にし、アルカリ性の環境における耐食性を向上させることができる。本発明者は、これらの知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0015】
以下、本発明のチューブ用アルミニウム合金材およびそれを備えるろう付熱交換器について説明する。
【0016】
はじめに、本発明のチューブ用アルミニウム合金材を構成するアルミニウム合金の成分元素を説明する。なお、本発明に係るアルミニウム合金の残部は、アルミニウムと、不可避不純物と、からなる。
【0017】
(Si)
本発明のチューブ用アルミニウム合金材においては、アルミニウム合金中のSiの含有率を、0.6質量%以上1.5質量%以下とする。Siは、マトリックスに固溶することや、Al−Mn−Si系金属間化合物を生成することによって、ろう付後のチューブ用アルミニウム合金材の強度を向上させる元素である。さらに、SiおよびMnを同時に添加することによって、アルカリ性環境における還元反応速度を大幅に低下させることができる。Siを添加することによる上述の効果を得るためには、本発明のアルミニウム合金中のSiの含有率を0.6質量%以上とすることが必要である。一方、アルミニウム合金がSiを過剰に含有すると、アルミニウム合金の融点が低下して、ろう付時に材料の溶融を招いてしまうことがある。そのため、Siの過剰な含有による悪影響を回避するために、本発明のアルミニウム合金中のSiの含有率の上限を1.5質量%とする必要がある。また、同じ理由で、アルミニウム合金中のSiの含有率を、0.8質量%以上1.2質量%以下とすることが、より好ましい。
【0018】
(Mn)
本発明のチューブ用アルミニウム合金材においては、アルミニウム合金中のMnの含有率を、0.5質量%以上1.8質量%以下とする。MnはAl−Mn系金属間化合物として晶出または析出して、ろう付加熱後のチューブ用アルミニウム合金材の強度の向上に寄与する元素である。Mnを添加することによる上述の効果を得るためには、本発明のアルミニウム合金中のMnの含有率を0.5質量%以上とすることが必要である。一方、アルミニウム合金中のMnの含有率が1.8質量%を超過すると、巨大な金属間化合物が晶出して、チューブ用アルミニウム合金材の製造性を低下させるおそれがある。そのため、本発明に係るアルミニウム合金中のMnの含有率の上限を1.8質量%とする。また、同じ理由で、アルミニウム合金中のMnの含有率を、0.8質量%以上1.4質量%以下とすることが、より好ましい。
【0019】
(Si/Mn)
本発明のチューブ用アルミニウム合金材においては、アルミニウム合金中のSi含有率/Mn含有率の比(Siの含有率を、Mnの含有率で除した数値)を、0.8以上2.0以下とすることが、より好ましい。特にアルカリ性環境においては、Al−Mn系金属間化合物よりもAl−Mn−Si系金属間化合物の方が、化合物上での還元反応速度が遅い。還元反応速度が遅いことによって、それに伴うアルミニウムの溶解を抑制することができる。Si含有率/Mn含有率の比を0.8以上とすることによって、上述の効果を、より一層得ることができる。また、Si含有率/Mn含有率の比を2.0以下とすることによって、Si単体の分布密度の増大を抑え、Si上での還元反応速度の上昇を抑制し、アルミニウムの溶解の抑制効果をより高く維持することができる。また、本発明に係るアルミニウム合金中のSi含有率/Mn含有率の比を、1.2以上1.9以下とすることが、さらに好ましい。
【0020】
(Fe、Ni、Cu)
本発明のチューブ用アルミニウム合金材においては、アルミニウム合金にFe、Ni、Cuを添加することによって、水素イオンの還元反応や溶存酸素の還元反応を活性化し、自然電位を貴化させることによって、Al−Zn層に孔食が発生しやすくなり、低いZn濃度でも犠牲防食効果を発現させることができる。この効果を得るためには、本発明に係るアルミニウム合金が、0.5質量%以上のFe、0.5質量%以上のNi、0.2質量%以上のCuのうち少なくとも一つを含むことが必要である。一方、それぞれ、Feの含有率が2.0質量%、Niの含有率が2.0質量%、Cuの含有率が1.0質量%を越えると、アルミニウム合金の腐食速度が増大し、セメント臭の原因となる酸化アルミニウムおよび/または水酸化アルミニウムが大量に生成してしまう。そのため、本発明に係るアルミニウム合金は、0.5質量%以上2.0質量%以下のFe、0.5質量%以上2.0質量%以下のNi、0.2質量%以上1.0質量%以下のCuのうち少なくとも一つを含み、Feの含有率が2.0質量%を超過せず(すなわち、2.0質量%以下(0.00質量%を含む))、かつ、Niの含有率が2.0質量%を超過せず(すなわち、2.0質量%以下(0.00質量%を含む))、かつ、Cuの含有率が1.0質量%を超過しない(すなわち、1.0質量%以下(0.00質量%を含む))。なお、本明細書において、含有率が「0.00質量%」とは、0.00質量%だけではなく、検出機器における当該元素の検出下限以下の微少な含有率をも含むものとする。
【0021】
(Mg)
本発明のチューブ用アルミニウム合金材においては、更に、アルミニウム合金中のMgの含有率が、0.05質量%以上0.5質量%以下であることが、好ましい。Mgは、Mg
2Siとして微細析出することで強度の向上に寄与する。Mgを添加することによる上述の効果を得るためには、アルミニウム合金中のMgの含有率が、0.05質量%以上であることが、より好ましい。また、アルミニウム合金中のMgの含有率の上限を0.5質量%とすることによって、ろう付性低下や粒界腐食発生を抑制することによってアルミニウム合金の耐食性をより高く保つことができる。また、同じ理由で、アルミニウム合金中のMgの含有率を、0.1質量%以上0.3質量%以下とすることが、より好ましい。
【0022】
(Ti、Zr、Cr、V)
本発明のチューブ用アルミニウム合金材においては、更に、アルミニウム合金中のTiの含有率、Zrの含有率、Crの含有率、Vの含有率のうち少なくとも一つが、それぞれ、0.05質量%以上0.3質量%以下であることが、好ましい。アルミニウム合金中のTi、Zr、Cr、Vは、アルミニウム合金の耐食性、特に耐孔食性の向上に寄与する。すなわち、アルミニウム合金中に添加されたTiは、Ti濃度の高い領域とTi濃度の低い領域とに分かれ、それらが板厚方向に交互に積層状に分布する。そして、Ti濃度、Zr濃度、Cr濃度、V濃度の低い領域が、Ti濃度の高い領域よりも優先的に腐食することによって、アルミニウム合金の腐食形態が層状となり、その結果、アルミニウム合金の板厚方向への腐食の進行が妨げられ、アルミニウム合金の耐孔食性が向上する。アルミニウム合金中のTiの含有率、Zrの含有率、Crの含有率、Vの含有率を0.05%以上とすることによって、上述の耐孔食性向上の効果を十分に得ることができる。また、アルミニウム合金中のTiの含有率、Zrの含有率、Crの含有率、Vの含有率の上限を0.3質量%とすることによって、鋳造時における粗大な化合物の生成を抑制して、製造性をより高く維持することができる。また、アルミニウム合金中のTiの含有率、Zrの含有率、Crの含有率、Vの含有率のうち少なくとも一つを、0.1質量%以上0.2質量%以下とすることが、より好ましい。
【0023】
以下、本発明のチューブ用アルミニウム合金材の表面へのZn付与について説明する。
【0024】
本発明のチューブ用アルミニウム合金材への、Znの付与方法は、本発明の効果を奏する範囲で適宜選択され、以下に限定されるものではないが、Zn溶射、Zn塗布、メッキ等を用いることができ、Zn溶射が製造性、コストの点で好ましい。溶射法には、アーク溶射法、プラズマ溶射法、ガス・フレーム溶射法、低温溶射法などが使用できる。Znには、純Znの他、Zn−Al系などのZn合金が使用できる。
【0025】
以下、チューブ用アルミニウム合金材へのZnの付与について説明する。Zn層は、ろう付処理を施すことによって、Znが拡散した層(Zn拡散層)となる。Zn拡散層は、アルミニウム合金中、Znが拡散されていない部分よりも孔食電位が卑であるため、犠牲防食効果によってアルミニウム合金を防食し、アルミニウム合金の耐久寿命を向上させることができる。本発明のチューブ用アルミニウム合金材においては、チューブ用アルミニウム合金材の表面積あたりのZn量を1g/m
2以上7g/m
2以下とする。表面積あたりのZn量は、付与前後のチューブ用アルミニウム合金材の質量変化をチューブ用アルミニウム合金材の表面積で除することによって求めることができる。上記のZn量は従来の熱交換器用のチューブ材よりも少ない量であるが、本発明のチューブ用アルミニウム合金材を構成するアルミニウム合金には、0.5質量%以上2.0質量%以下のFe、0.5質量%以上2.0質量%以下のNi、および/または、0.2質量%以上1.0質量%以下のCuが添加されているため、水素イオンの還元反応および溶存酸素の還元反応が活性化され、自然電位が貴化されることによって、Al−Zn層に孔食が発生しやすくなり、従来よりも低いZn濃度においても犠牲防食効果を発現させることができる。一方、Zn量が1g/m
2未満の場合、0.5質量%以上2.0質量%以下のFe、0.5質量%以上2.0質量%以下のNi、および/または、0.2質量%以上1.0質量%以下のCuが添加されていても犠牲防食効果が十分に発現しない。また、Zn量が7g/m
2超過の場合、アルミニウム合金の腐食速度が過度に増大し、セメント臭の原因となる酸化アルミニウムおよび/または水酸化アルミニウムが大量に生成してしまう。
【0026】
以上に説明したように、本発明のチューブ用アルミニウム合金材は、セメント臭の原因となる酸化アルミニウムおよび/または水酸化アルミニウムなどのアルミニウム腐食生成物の過度な生成を抑制しつつ、自動車用の熱交換器内のような比較的高い腐食環境だけでなく、室内用の熱交換器などの比較的低い腐食環境においても、チューブ用アルミニウム合金材の製造性および耐食性を高く維持することができる。
【0027】
以下、本発明の実施形態に係るチューブ用アルミニウム合金材の製造方法について説明する。本発明の実施形態に係るチューブ用アルミニウム合金材を用いたアルミニウム合金チューブの製造方法は、たとえば、本発明の実施形態に係る犠性陽極材層用のアルミニウム合金を半連続鋳造する半連続鋳造工程と、心材の鋳塊を必要に応じて均質化処理および面削を施す工程と、犠性陽極材層用の鋳塊をアルミニウム管の心材の内面および外面の少なくとも一方に組み合わせてビレットとする組み合わせ工程と、押出成形工程前にビレットを450℃以上570℃以下に加熱する加熱工程と、ビレットを押出成形する押出成形工程と、チューブの外径および肉厚が所定の数値になるようにする抽伸加工工程と、をこの順序で行う方法が用いられる。また、上記製造方法によって得られるクラッド押出管の機械的特性を調整するために、上記製造方法の任意の工程において、適宜熱処理を加えてもよい。これらは、本発明の効果を奏する範囲で常法から適宜選択され、限定されるものではない。
【0028】
また、本発明の実施形態に係るチューブ用アルミニウム合金材を用いた冷媒通路管を備える熱交換器の製造方法は、たとえば、以下の製造方法が用いられる。
【0029】
はじめに、両端部分をヘッダーに取り付けた本発明のチューブ用アルミニウム合金材を用いたアルミニウム合金チューブの外面にフィン材を配置して組み立てる。ついで、アルミニウム合金チューブの両端重ね合せ部分と、フィン材およびアルミニウム合金チューブの外面と、アルミニウム合金チューブの両端と、ヘッダーとを、1回のろう付加熱によって同時に接合して、冷媒通路管を備える熱交換器を製造する。なお、必要に応じて、アルミニウム合金チューブの内面にインナーフィンを配置して、これらをろう付してもよい。これらは、本発明の効果を奏する範囲で常法から適宜選択され、限定されるものではない。
【0030】
本発明の実施形態に係る熱交換器の製造方法において用いられるろう付方法は、たとえば、窒素雰囲気中でフッ化物系フラックスを用いたろう付方法(ノコロックろう付法等)や、真空中や窒素雰囲気中で材料に含有されるMgによってアルミニウム材表面の酸化膜を還元して破壊するろう付方法(真空ろう付、フラックスレスろう付)等が好適に用いられる。また、本発明の実施形態においては、ろう付は、好ましくは、590℃以上610℃以下の温度で2分間以上10分間以下の加熱によって行われる。加熱時間を590℃以上、かつ、加熱時間を2分以上とすることによって、ろう付をより良好に行うことができる。また、加熱時間を610℃以下、かつ、加熱時間を10分以下とすることによって、熱交換器の各部材の溶融を防止しつつろう付することができる。また、より好ましくは、590℃以上610℃以下の温度で2分間以上6分間以下の加熱によってろう付が行なわれる。これらは、本発明の効果を奏する範囲で常法から適宜選択され、限定されるものではない。
【0031】
ろう付加熱後の本発明の実施形態に係る熱交換器は、有機系または無機系の親水性皮膜を表面に備えることが、より好ましい。有機系や無機系の親水性皮膜の形成方法は、たとえば、アルミニウム合金製の本発明の実施形態に係る熱交換器の表面に、下地処理としてクロメート処理やベーマイト処理などを行って耐食性皮膜(下地皮膜)を形成した後、その耐食性皮膜上に有機系の塗料溶液または無機系の塗料溶液を塗装・焼付けする方法、あるいは、耐食性皮膜を設けたアルミニウム合金製の本発明の実施形態に係る熱交換器を、有機系の塗料溶液中または無機系の塗料溶液中に浸漬する方法等を用いることができる。これらは、本発明の効果を奏する範囲で常法から適宜選択され、限定されるものではない。また、有機系の塗料溶液または無機系の塗料溶液を塗装・焼付けする方法における焼付条件は、たとえば、140℃以上300℃以下の温度で5秒間以上60秒間以下にわたって焼き付け、室温で乾燥する条件などが用いられる。これらは、本発明の効果を奏する範囲で常法から適宜選択され、限定されるものではない。また、有機系の塗料溶液または無機系の塗料夜液に浸漬する方法における浸漬条件は、たとえば、塗料溶液を30℃以上、塗料溶液の溶媒の沸点以下の温度で10秒間以上200秒間以下にわたって熱交換器を浸漬し、その後、熱交換器を室温で乾燥させる条件などが用いられる。これらは、本発明の効果を奏する範囲で常法から適宜選択され、限定されるものではない。また、上記塗料溶液の溶媒は、たとえば、有機系の塗料溶液に対してはアセトンなどの有機溶媒等が好適に用いられ、無機系の塗料溶液に対しては水などが好適に用いられる。これらは、本発明の効果を奏する範囲で常法から適宜選択され、限定されるものではない。
【0032】
本発明の実施形態に係るチューブ用アルミニウム合金材を用いた熱交換器は、自動車用の熱交換器などの比較的腐食性が高い環境だけでなく、ルームクーラーの室内機などのアルカリ性が比較的腐食性が低い環境においても優れた耐食性を有する。
【0033】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲であれば種々の変形が可能である。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0035】
はじめに、表1に示す組成のアルミニウム合金(合金番号:A1〜A51)をそれぞれ溶解し、鋳造して、直径20mmのビレットを製造した。次に、ビレットを550℃、10時間保持の条件で均質化処理を行った後、面削を施した。ついで、ビレットを500℃に加熱した後に、ビレットを押出加工することによって、チューブの高さが2mm、幅が16mm、肉厚が0.3mmのアルミニウム合金チューブを作製した。
【0036】
【表1】
【0037】
次に、ろう付加熱に相当する熱処理として、窒素雰囲気下において、アルミニウム合金チューブを600℃までは40℃/分の速度で昇温し、580℃〜600℃の温度範囲に5分間保持して、ろう付を行った。ついで、室温で冷却して試験用テストピースを作製した。
【0038】
試験用テストピースを長さ120mmに切り出し、端部を絶縁テープでマスキングした。中性環境における腐食試験としては、試験用テストピースに人工海水を0.1mg/m
2付着させ、恒温恒湿槽に保持し、恒温恒湿槽内の温度を50℃、相対湿度を100%のRH(Relative Humidity:相対湿度)、保持時間を12時間とするサイクルと、恒温恒湿槽内の温度を50℃、相対湿度を50%のRH(相対湿度)、保持時間を12時間とするサイクルを繰り返す試験を6ヶ月間かけて実施した後、試験用テストピースの表面の腐食生成物を除去し、腐食深さおよび腐食量を測定した。アルカリ性環境における腐食試験として、5ppmのNaCl水溶液にNaOHを添加してpH13に調整した液を温度35℃として、1日間にわたって試験用テストピースを浸漬した後、試験用テストピースの表面の腐食生成物を除去し、腐食量を測定した。実験データを表2および表3に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
表2および表3において、中性の腐食深さについては、0μm以上150μm以下の場合を合格として「○」で示し、150μm超過の場合を不合格として「×」で示した。また、中性の腐食量については、0g/m
2以上6.0g/m
2以下の場合を合格として「○」で示し、6.0g/m
2超過の場合を不合格として「×」で示した。また、アルカリ性の腐食量については、0g/m
2以上25g/m
2以下の場合を合格として「○」で示し、25g/m
2超過の場合を不合格として「×」で示した。また、サンプルが割れる等によって評価をできなかった場合も、不合格として「×」で示した。総合評価としては、一つも「×」がないサンプルを「○」として耐食性良好とし、それ以外を「×」とした。
【0042】
実施例1〜35(合金番号:A2〜A6、A9〜A12、A15〜A17、A19〜A22、A24〜A26、A28〜A31、A38〜A47、A49〜A50)のアルミニウム合金チューブは、含有率が0.6質量%以上1.5質量%以下のSiと、含有率が0.5質量%以上1.8質量%以下のMnと、を含み、含有率が0.5質量%以上2.0質量%以下のFe、含有率が0.5質量%以上2.0質量%以下のNi、および、含有率が0.2質量%以上1.0質量%以下のCuのうち、少なくとも一つをさらに含み、Feの含有率が2.0質量%以下であり、かつ、Niの含有率が2.0質量%以下であり、かつ、Cuの含有率が1.0質量%以下であり、残部がアルミニウムおよび不可避的不純物からなり、アルミニウム合金材の表面における、表面積あたりのZnの重量が1g/m
2以上7g/m
2以下であった。そのため、中性における腐食深さ、腐食量、アルカリ性における腐食量の全てが合格で、耐食性に優れていた。
とりわけ、実施例1〜5(合金番号:A2〜A6)、実施例7(合金番号:A10)、実施例10〜35(合金番号:A15〜A17、A19〜A22、A24〜A26、A28〜A31、A38〜A47、A49、A50)のアルミニウム合金チューブは、Siの含有率をMnの含有率で除した数値が0.8以上2.0以下であったため、アルカリ性の環境におけるアルミニウムの溶解が少なかった。
また、実施例24〜25(合金番号:A38、A39)のアルミニウム合金チューブは、Mgの含有率が0.05質量%以上0.5質量%以下であったため、耐食性に優れつつ、アルミニウム合金の強度が向上した。
また、実施例26〜27(合金番号:A40、A41)のアルミニウム合金チューブは、Tiの含有率が0.05質量%以上0.3質量%以下であったため、耐食性に優れていた。
また、実施例28〜29(合金番号:A42、A43)のアルミニウム合金チューブは、Zrの含有率が0.05質量%以上0.3質量%以下であったため、耐食性に優れていた。
また、実施例30〜31(合金番号:A44、A45)のアルミニウム合金チューブは、Crの含有率が0.05質量%以上0.3質量%以下であったため、耐食性に優れていた。
また、実施例32〜33(合金番号:A46、A47)のアルミニウム合金チューブは、Vの含有率が0.05質量%以上0.3質量%以下であったため、耐食性に優れていた。
【0043】
一方、比較例1(合金番号A1)のアルミニウム合金チューブは、Siの含有率が0.6質量%未満であったため、アルカリ性における腐食速度が速く、耐食性に劣っていた。
比較例2(合金番号A7)のアルミニウム合金チューブは、Siの含有率が1.5質量%超過であったため、アルカリ性における腐食速度が速く、耐食性に劣っていた。
【0044】
比較例3(合金番号A8)のアルミニウム合金チューブは、Mnの含有率が0.5質量%未満であったため、アルカリ性における腐食速度が速く、耐食性に劣っていた。
比較例4(合金番号A13)のアルミニウム合金チューブは、Mnの含有率が1.8質量%超過であったため、鋳造時に割れが発生し、その後の評価を行うことができなかった。
【0045】
比較例5(合金番号A14)のアルミニウム合金チューブは、Fe、Ni、Cuのいずれも含有していないため、犠牲防食効果が作用せず、中性における腐食深さが深く、耐食性に劣っていた。
【0046】
比較例6(合金番号A18)、比較例9(合金番号A32)、比較例12(合金番号A35)のアルミニウム合金チューブは、Feの含有率が2.0質量%超過であったため、中性における腐食速度が速く、腐食量が大きくなり、耐食性に劣っていた。
比較例7(合金番号A23)、比較例10(合金番号A33)、比較例13(合金番号A36)のアルミニウム合金チューブは、Niの含有率が2.0質量%超過であったため、中性における腐食速度が速く、腐食量が大きくなり、耐食性に劣っていた。
比較例8(合金番号A27)、比較例11(合金番号A34)、比較例14(合金番号A37)のアルミニウム合金チューブは、Cuの含有率が1.0質量%超過であったため、中性における腐食速度が速く、腐食量が大きくなり、耐食性に劣っていた。
【0047】
比較例15(合金番号A48)のアルミニウム合金チューブは、Zn溶射がされておらず、アルミニウム合金チューブ表面における表面積あたりのZnの重量が1g/m
2未満であったため、中性環境における犠牲防食効果が作用せず、中性における腐食深さが深く、耐食性が劣っていた。
比較例16(合金番号A51)のアルミニウム合金チューブは、アルミニウム合金チューブ表面における表面積あたりのZnの重量が7g/m
2超過であったため、中性における腐食速度が速く、腐食量が大きくなり、耐食性に劣っていた。