特許第6235313号(P6235313)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6235313非水電解液及び当該非水電解液を用いたリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6235313
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】非水電解液及び当該非水電解液を用いたリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20171113BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20171113BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20171113BHJP
   H01G 11/62 20130101ALI20171113BHJP
   H01G 11/64 20130101ALI20171113BHJP
【FI】
   H01M10/0567
   H01M10/0568
   H01M10/052
   H01G11/62
   H01G11/64
【請求項の数】7
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-238090(P2013-238090)
(22)【出願日】2013年11月18日
(65)【公開番号】特開2015-99660(P2015-99660A)
(43)【公開日】2015年5月28日
【審査請求日】2016年11月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】村上 将人
(72)【発明者】
【氏名】植松 信之
【審査官】 宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−035355(JP,A)
【文献】 特開2005−259592(JP,A)
【文献】 特開2007−242545(JP,A)
【文献】 特開2004−006382(JP,A)
【文献】 特開2002−184459(JP,A)
【文献】 特開2007−242441(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103326068(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01G 11/00−11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される環状リン酸エステル化合物(A)と、
【化1】
(式(1)中、R1は、ヒドロキシ基、置換されていてもよい炭素数1以上15以下のアルコキシ基、置換されていてもよい炭素数1以上15以下のアルキル基、置換されていてもよい炭素数2以上15以下のアルケニル基、置換されていてもよい炭素数2以上15以下のアルキニル基、及び置換されていてもよい炭素数6以上15以下のアリール基からなる群より選ばれる一種の基であり、R2は、置換されていてもよい炭素数1以上10以下のアルキレン基である。)
シュウ酸構造を有さないリチウム塩化合物(B)と、
シュウ酸構造を有するリチウム塩化合物(C)と、
非水溶媒と、を含有し、
前記環状リン酸エステル化合物(A)の含有量が、前記非水電解液の総量に対して、0.01質量%以上10質量%以下である、非水電解液。
【請求項2】
前記リチウム塩化合物(B)の含有量が、前記非水電解液の総量に対して、3質量%以上30質量%以下であり、
前記リチウム塩化合物(C)の含有量が、前記非水電解液の総量に対して、0.01質量%以上10質量%以下である、請求項に記載の非水電解液。
【請求項3】
前記リチウム塩化合物(B)が、LiPF6を含む、請求項1又は2に記載の非水電解液。
【請求項4】
前記リチウム塩化合物(B)が、LiPF6と、LiPO22及び/又はLiBF4と、を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の非水電解液。
【請求項5】
前記リチウム塩化合物(C)が、LiB(C242、LiBF2(C24)、LiP(C243、LiPF2(C242及びLiPF4(C24)からなる群より選ばれる一種以上のリチウム塩化合物を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の非水電解液。
【請求項6】
前記環状リン酸エステル化合物(A)が、前記一般式(1)におけるR2がエチレン基又はプロピレン基である環状リン酸エステル化合物を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の非水電解液。
【請求項7】
正極と、負極と、請求項1〜のいずれか一項に記載の非水電解液と、を備え、満充電時の前記正極の電位が、リチウム基準で4.4V以上5.5V以下である、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液及び当該非水電解液を用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、高エネルギー密度、高耐久性といった優れた特徴を持つことから、携帯電話などのモバイル電子機器用電源として汎用されており、近年では電気自動車などの自動車用電源としても利用されている。
【0003】
現状において、リチウムイオン二次電池は広く普及しているが、モバイル電子機器や電気自動車のユーザーからは、依然として電池の高エネルギー密度化の要請がある。これに応えるべく、電池のエネルギー密度を向上させる試みが活発になされており、中でも、正極活物質の充電深度の拡大や高電位正極の開発が注目されている。特許文献1によると、リチウム−コバルト複合酸化物(LiCoO)は、正極電位がリチウム基準4.3Vになるまで充電すると、充電容量が約155mAh/gであるのに対して、4.5Vになるまで充電すると、充電容量が190mAh/g以上となる。このように、満充電時の正極の電位を引き上げることで、正極活物質の利用率が向上し、結果として電池のエネルギー密度を高めることができる。
【0004】
ところで、リチウムイオン二次電池では、非水溶媒にリチウム電解質を溶解させた非水電解液を用いている。非水溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどの環状カーボネート類と、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート類とを、特定の比率で混合してなるカーボネート溶媒が採用されている。カーボネート溶媒は、満充電時の正極電位がリチウム基準で4.3V程度の従来のリチウムイオン二次電池に適用した場合は、十分な耐酸化性及び耐還元性を併せ持ち、リチウムイオン伝導性にも優れることから、汎用されるに至った。しかしながら、従来よりも正極電位が高い電池においては、カーボネート溶媒が分解してしまうため、分解物の堆積や電池内部でのガス発生が起こり、サイクル特性などの電池特性が低下するという問題が生じる。
【0005】
上記の問題を解決するために、特許文献2では、非水溶媒として、フッ素化された非水溶媒を使用し、非水電解液の耐酸化性を向上させる方法が提案されている。具体的には、フッ素化エステル及びフッ素化エーテルを合計50体積%と高濃度で用いることにより、電解液の耐酸化性向上を図っている。
【0006】
また、特許文献3、4では、非水電解液中に、特定の環状リン酸エステルを含有させることで、電池のサイクル性能、保存性能を向上させる方法が提案されている。具体的には、特許文献3では、含フッ素環状リン酸エステルとして2,2,2−トリフルオロエチルエチレンフォスフェートを、非水溶媒に対して15体積%含有させることにより、サイクル特性の向上を図っている。また、特許文献4では、環状リン酸エステルとして2−メトキシ−1,3,2−フォスフォラン−2−オキサイドを非水溶媒に対して50体積%と高濃度で用いることで、電池の高温保存時の自己放電の抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2008/114739号
【特許文献2】国際公開第2012/132976号
【特許文献3】特開2013−157280号公報
【特許文献4】特開平10−50342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に開示されているフッ素化された非水溶媒を用いる場合、非水溶媒へのリチウム電解質の溶解性が低下すると共に、電解液のイオン伝導性が大幅に低下する。これにより、電池の入出力特性が低下し、また、電池の入出力特性が低下した結果、サイクル特性が低下する恐れがある。
【0009】
また、特許文献3に開示されている2,2,2−トリフルオロエチルエチレンフォスフェートを非水溶媒に対して15質量%非水電解液に含有させる場合、あるいは特許文献4に開示されている2−メトキシ−1,3,2−フォスフォラン−2−オキサイドを非水溶媒に対して50体積%非水電解液に含有させる場合、従来よりも高い正極電位を有するリチウムイオン二次電池において、ガスの発生抑制や、サイクル特性を向上させる効果は十分とは言えない。
【0010】
上述のように、従来技術では、高い正極電位を有するリチウムイオン二次電池において、サイクル劣化やガス発生を十分に抑制する解決策は示されていない。
【0011】
本発明は、上記した課題に鑑みてなされたものであり、従来よりも高い正極電位を有するリチウムイオン二次電池に適用した場合でもガスの発生、すなわち電解液の分解が抑制され、サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を与える非水電解液及び当該非水電解液を用いたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、非水溶媒中に、特定の環状リン酸エステル化合物(A)と、シュウ酸構造を有さないリチウム塩化合物(B)と、シュウ酸構造を有するリチウム塩化合物(C)とをそれぞれ一種以上含有する非水電解液を用いることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は下記の通りである。
〔1〕
下記一般式(1)で表される環状リン酸エステル化合物(A)と、
【化1】
(式(1)中、R1は、ヒドロキシ基、置換されていてもよい炭素数1以上15以下のアルコキシ基、置換されていてもよい炭素数1以上15以下のアルキル基、置換されていてもよい炭素数2以上15以下のアルケニル基、置換されていてもよい炭素数2以上15以下のアルキニル基、及び置換されていてもよい炭素数6以上15以下のアリール基からなる群より選ばれる一種の基であり、R2は、置換されていてもよい炭素数1以上10以下のアルキレン基である。)
シュウ酸構造を有さないリチウム塩化合物(B)と、
シュウ酸構造を有するリチウム塩化合物(C)と、
非水溶媒と、を含有し、
前記環状リン酸エステル化合物(A)の含有量が、前記非水電解液の総量に対して、0.01質量%以上10質量%以下である、非水電解液。
〔2〕
前記リチウム塩化合物(B)の含有量が、前記非水電解液の総量に対して、3質量%以上30質量%以下であり、
前記リチウム塩化合物(C)の含有量が、前記非水電解液の総量に対して、0.01質量%以上10質量%以下である、前項〔1〕に記載の非水電解液。
〔3〕
前記リチウム塩化合物(B)が、LiPF6を含む、前項〔1〕又は〔2〕に記載の非水電解液。
〔4〕
前記リチウム塩化合物(B)が、LiPF6と、LiPO22及び/又はLiBF4と、を含む、前項〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の非水電解液。
〔5〕
前記リチウム塩化合物(C)が、LiB(C242、LiBF2(C24)、LiP(C243、LiPF2(C242及びLiPF4(C24)からなる群より選ばれる一種以上のリチウム塩化合物を含む、前項〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載の非水電解液。
〔6〕
前記環状リン酸エステル化合物(A)が、前記一般式(1)におけるR2がエチレン基又はプロピレン基である環状リン酸エステル化合物を含む、前項〔1〕〜〔5〕のいずれか一項に記載の非水電解液。
〔7〕
正極と、負極と、前項〔1〕〜〔6〕のいずれか一項に記載の非水電解液と、を備え、満充電時の前記正極の電位が、リチウム基準で4.4V以上5.5V以下である、リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来よりも高い正極電位を有するリチウムイオン二次電池に適用した場合でもガスの発生、すなわち電解液の分解が抑制され、サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を与える非水電解液及び当該非水電解液を用いたリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0016】
〔非水電解液〕
本実施形態の非水電解液は、下記一般式(1)で表される環状リン酸エステル化合物(A)と、シュウ酸構造を有さないリチウム塩化合物(B)と、シュウ酸構造を有するリチウム塩化合物(C)と、非水溶媒と、を含有する。これにより、本実施形態の非水電解液は、従来よりも高い正極電位を有するリチウムイオン二次電池に適用した場合でも、ガスの発生、すなわち電解液の分解が抑制される上、優れたサイクル特性を発現することができる。
【化2】
(式(1)中、Rは、ヒドロキシ基、置換されていてもよい炭素数1以上15以下のアルコキシ基、置換されていてもよい炭素数1以上15以下のアルキル基、置換されていてもよい炭素数2以上15以下のアルケニル基、置換されていてもよい炭素数2以上15以下のアルキニル基、及び置換されていてもよい炭素数6以上15以下のアリール基からなる群より選ばれる一種の基であり、Rは、置換されていてもよい炭素数1以上10以下のアルキレン基である。)
【0017】
〔環状リン酸エステル化合物(A)〕
本実施形態において、一般式(1)中、Rは、ヒドロキシ基、置換されていてもよい炭素数1以上15以下のアルコキシ基、置換されていてもよい炭素数1以上15以下のアルキル基、置換されていてもよい炭素数2以上15以下のアルケニル基、置換されていてもよい炭素数2以上15以下のアルキニル基、及び置換されていてもよい炭素数6以上15以下のアリール基からなる群より選ばれる一種の基を表す。
【0018】
上記アルコキシ基としては、特に限定されないが、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチロキシ基、ヘキシロキシ基、ヘプチロキシ基、オクチロキシ基、ノニロキシ基、デシロキシ基などが挙げられる。これらのアルコキシ基の水素原子又は炭素原子は、必要に応じて、異種元素や置換基によって置換されていてもよい。上記異種元素としては、特に限定されないが、例えば、ホウ素、ケイ素、窒素、硫黄、フッ素、塩素、臭素を挙げることができる。また、上記置換基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、フェニル基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、ホスホノ基、エーテル基、スルフィド基、カルボニル基、スルホニル基を挙げることができる。これらの中でも、ガス発生をより効果的に抑制する観点から、フッ素原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、ホスホノ基が好ましく、フッ素原子、カルボキシ基、ホスホノ基がより好ましい。上記アルコキシ基の炭素数としては、ガス発生抑制の観点から、1以上15以下であり、好ましくは1以上10以下であり、より好ましくは1以上8以下であり、さらに好ましくは2以上6以下である。
【0019】
次に、上記アルキル基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基が挙げられる。これらのアルキル基の水素原子又は炭素原子は、必要に応じて、異種元素や置換基によって置換されていてもよい。上記異種元素としては、特に限定されないが、例えば、ホウ素、ケイ素、窒素、硫黄、フッ素、塩素、臭素を挙げることができる。上記置換基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、フェニル基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、ホスホノ基、エーテル基、スルフィド基、カルボニル基、スルホニル基を挙げることができる。これらの中でも、ガス発生をより効果的に抑制する観点から、フッ素原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、ホスホノ基が好ましく、フッ素原子、カルボキシ基、ホスホノ基がより好ましい。上記アルキル基の炭素数としては、ガス発生抑制の観点から、1以上15以下であり、好ましくは1以上10以下であり、より好ましくは1以上8以下であり、さらに好ましくは2以上6以下である。
【0020】
また、上記アルケニル基としては、特に限定されないが、例えば、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基が挙げられる。これらのアルケニル基の水素原子又は炭素原子は、必要に応じて、異種元素や置換基によって置換されていてもよい。上記異種元素としては、特に限定されないが、例えば、ホウ素、ケイ素、窒素、硫黄、フッ素、塩素、臭素を挙げることができる。上記置換基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、フェニル基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、ホスホノ基、エーテル基、スルフィド基、カルボニル基、スルホニル基を挙げることができる。これらの中でも、ガス発生をより効果的に抑制する観点から、フッ素原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、ホスホノ基が好ましく、フッ素原子、カルボキシ基、ホスホノ基がより好ましい。上記アルケニル基の炭素数としては、ガス発生抑制の観点から、2以上15以下であり、好ましくは2以上10以下であり、より好ましくは2以上8以下であり、さらに好ましくは2以上6以下である。
【0021】
また、上記アルキニル基としては、特に限定されないが、例えば、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、ヘプチニル基、オクチニル基、ノニニル基、デシニル基が挙げられる。これらのアルキニル基の水素原子又は炭素原子は、必要に応じて、異種元素や置換基によって置換されていてもよい。上記異種元素としては、特に限定されないが、例えば、ホウ素、ケイ素、窒素、硫黄、フッ素、塩素、臭素を挙げることができる。上記置換基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、フェニル基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、ホスホノ基、エーテル基、スルフィド基、カルボニル基、スルホニル基を挙げることができる。これらの中でも、ガス発生をより効果的に抑制する観点から、フッ素原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、ホスホノ基が好ましく、フッ素原子、カルボキシ基、ホスホノ基がより好ましい。上記アルキニル基の炭素数としては、ガス発生抑制の観点から、2以上15以下であり、好ましくは2以上10以下であり、より好ましくは2以上8以下であり、さらに好ましくは2以上6以下である。
【0022】
上記アリール基としては、特に限定されないが、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、ベンジル基などが挙げられる。これらのアリール基の水素原子又は炭素原子は、必要に応じて、異種元素や置換基によって置換されていてもよい。上記異種元素としては、特に限定されないが、例えば、ホウ素、ケイ素、窒素、硫黄、フッ素、塩素、臭素を挙げることができる。上記置換基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、ホスホノ基、エーテル基、スルフィド基、カルボニル基、スルホニル基を挙げることができる。この中でも、ガス発生をより効果的に抑制する観点から、フッ素原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、ホスホノ基が好ましく、フッ素原子、カルボキシ基、ホスホノ基がより好ましい。上記アリール基の炭素数としては、ガス発生抑制の観点から、6以上15以下であり、好ましくは6以上10以下であり、より好ましくは6以上8以下であり、さらに好ましくは6以上7以下である。
【0023】
としては、特に限定されないが、サイクル特性向上の観点から、好ましくは、ヒドロキシ基、置換されていてもよい炭素数1以上10以下のアルコキシ基、置換されていてもよい炭素数1以上10以下のアルキル基、置換されていてもよい炭素数2以上10以下のアルケニル基、置換されていてもよい炭素数2以上10以下のアルキニル基、及び置換されていてもよい炭素数6以上10以下のアリール基からなる群より選ばれる一種の基であり、より好ましくは、ヒドロキシ基、置換されていてもよい炭素数1以上8以下のアルコキシ基、置換されていてもよい炭素数1以上8以下のアルキル基、置換されていてもよい炭素数2以上8以下のアルケニル基、置換されていてもよい炭素数2以上8以下のアルキニル基、及び置換されていてもよい炭素数6以上8以下のアリール基からなる群より選ばれる一種の基であり、さらに好ましくは、ヒドロキシ基、炭素数2以上6以下のアルコキシ基、炭素数2以上6以下のアルキル基、炭素数2以上6以下のアルケニル基、炭素数2以上6以下のアルキニル基、及び炭素数6以上7以下のアリール基からなる群より選ばれる一種である。
【0024】
本実施形態において、一般式(1)中のRは、置換されていてもよい炭素数1以上10以下のアルキレン基を表す。上記アルキレン基としては、特に限定されないが、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基などを挙げることができる。これらのアルキレン基の水素原子又は炭素原子は、必要に応じて、異種元素や置換基によって置換されていてもよい。上記異種元素としては、特に限定されないが、例えば、ホウ素、ケイ素、窒素、硫黄、フッ素、塩素、臭素を挙げることができる。上記置換基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、フェニル基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、ホスホノ基、エーテル基、スルフィド基、カルボニル基、スルホニル基を挙げることができる。この中でも、ガス発生をより効果的に抑制する観点から、フッ素原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、ホスホノ基が好ましく、フッ素原子、カルボキシ基、ホスホノ基がより好ましい。上記アルキレン基の炭素数としては、ガス発生抑制の観点から、1以上10以下であり、好ましくは1以上8以下であり、より好ましくは1以上5以下、さらに好ましくは2以上3以下である。
【0025】
としては、ガス発生をより効果的に抑制する観点から、置換されていてもよい炭素数1以上5以下のアルキレン基が好ましく、置換されていてもよい炭素数2以上3以下のアルキレン基がより好ましく、エチレン基又はプロピレン基がさらに好ましい。
【0026】
本実施形態において、環状リン酸エステル化合物(A)の含有量は、より効果的にガス発生を抑制する観点から、非水電解液の総量に対して、好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上であり、さらに好ましくは0.3質量%以上である。また、入出力特性の観点から、環状リン酸エステル化合物(A)の含有量は、非水電解液の総量に対して、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以下である。
【0027】
本実施形態における一般式(1)で表される環状リン酸エステル化合物(A)としては、特に限定されないが、例えば、メチレンメチルホスホネート、メチレンエチルホスホネート、メチレンプロピルホスホネート、メチレンブチルホスホネート、メチレンペンチルホスホネート、メチレンヘキシルホスホネート、メチレンヘプチルホスホネート、メチレンオクチルホスホネート、メチレンエテニルホスホネート、メチレン(1−プロペニル)ホスホネート、メチレン(2−プロペニル)ホスホネート、メチレン(1−ブテニル)ホスホネート、メチレン(2−ブテニル)ホスホネート、メチレン(3−ブテニル)ホスホネート、メチレン(1−ペンテニル)ホスホネート、メチレン(2−ペンテニル)ホスホネート、メチレン(3−ペンテニル)ホスホネート、メチレン(4−ペンテニル)ホスホネート、メチレンエチニルホスホネート、メチレン(1−プロピニル)ホスホネート、メチレン(2−プロピニル)ホスホネート、メチレン(1−ブチニル)ホスホネート、メチレン(2−ブチニル)ホスホネート、メチレン(3−ブチニル)ホスホネート、メチレン(1−ペンチニル)ホスホネート、メチレン(2−ペンチニル)ホスホネート、メチレン(3−ペンチニル)ホスホネート、メチレン(4−ペンチニル)ホスホネート、メチレンフェニルホスホネート、メチレンベンジルホスホネート、エチレンメチルホスホネート、エチレンエチルホスホネート、エチレンプロピルホスホネート、エチレンブチルホスホネート、エチレンペンチルホスホネート、エチレンヘキシルホスホネート、エチレンヘプチルホスホネート、エチレンオクチルホスホネート、エチレンエテニルホスホネート、エチレン(1−プロペニル)ホスホネート、エチレン(2−プロペニル)ホスホネート、エチレン(1−ブテニル)ホスホネート、エチレン(2−ブテニル)ホスホネート、エチレン(3−ブテニル)ホスホネート、エチレン(1−ペンテニル)ホスホネート、エチレン(2−ペンテニル)ホスホネート、エチレン(3−ペンテニル)ホスホネート、エチレン(4−ペンテニル)ホスホネート、エチレンエチニルホスホネート、エチレン(1−プロピニル)ホスホネート、エチレン(2−プロピニル)ホスホネート、エチレン(1−ブチニル)ホスホネート、エチレン(2−ブチニル)ホスホネート、エチレン(3−ブチニル)ホスホネート、エチレン(1−ペンチニル)ホスホネート、エチレン(2−ペンチニル)ホスホネート、エチレン(3−ペンチニル)ホスホネート、エチレン(4−ペンチニル)ホスホネート、エチレンフェニルホスホネート、エチレンベンジルホスホネート、プロピレンメチルホスホネート、プロピレンエチルホスホネート、プロピレンプロピルホスホネート、プロピレンブチルホスホネート、プロピレンペンチルホスホネート、プロピレンヘキシルホスホネート、プロピレンヘプチルホスホネート、プロピレンオクチルホスホネート、プロピレンエテニルホスホネート、プロピレン(1−プロペニル)ホスホネート、プロピレン(2−プロペニル)ホスホネート、プロピレン(1−ブテニル)ホスホネート、プロピレン(2−ブテニル)ホスホネート、プロピレン(3−ブテニル)ホスホネート、プロピレン(1−ペンテニル)ホスホネート、プロピレン(2−ペンテニル)ホスホネート、プロピレン(3−ペンテニル)ホスホネート、プロピレン(4−ペンテニル)ホスホネート、プロピレンエチニルホスホネート、プロピレン(1−プロピニル)ホスホネート、プロピレン(2−プロピニル)ホスホネート、プロピレン(1−ブチニル)ホスホネート、プロピレン(2−ブチニル)ホスホネート、プロピレン(3−ブチニル)ホスホネート、プロピレン(1−ペンチニル)ホスホネート、プロピレン(2−ペンチニル)ホスホネート、プロピレン(3−ペンチニル)ホスホネート、プロピレン(4−ペンチニル)ホスホネート、プロピレンフェニルホスホネート、プロピレンベンジルホスホネート、メチレンメチルフォスフェート、メチレンエチルフォスフェート、メチレンプロピルフォスフェート、メチレンブチルフォスフェート、メチレンペンチルフォスフェート、メチレンヘキシルフォスフェート、メチレンヘプチルフォスフェート、メチレンオクチルフォスフェート、メチレンエテニルフォスフェート、メチレン(1−プロペニル)フォスフェート、メチレン(2−プロペニル)フォスフェート、メチレン(1−ブテニル)フォスフェート、メチレン(2−ブテニル)フォスフェート、メチレン(3−ブテニル)フォスフェート、メチレン(1−ペンテニル)フォスフェート、メチレン(2−ペンテニル)フォスフェート、メチレン(3−ペンテニル)フォスフェート、メチレン(4−ペンテニル)フォスフェート、メチレンエチニルフォスフェート、メチレン(1−プロピニル)フォスフェート、メチレン(2−プロピニル)フォスフェート、メチレン(1−ブチニル)フォスフェート、メチレン(2−ブチニル)フォスフェート、メチレン(3−ブチニル)フォスフェート、メチレン(1−ペンチニル)フォスフェート、メチレン(2−ペンチニル)フォスフェート、メチレン(3−ペンチニル)フォスフェート、メチレン(4−ペンチニル)フォスフェート、メチレンフェニルフォスフェート、メチレンベンジルフォスフェート、エチレンメチルフォスフェート、エチレンエチルフォスフェート、エチレンプロピルフォスフェート、エチレンブチルフォスフェート、エチレンペンチルフォスフェート、エチレンヘキシルフォスフェート、エチレンヘプチルフォスフェート、エチレンオクチルフォスフェート、エチレンエテニルフォスフェート、エチレン(1−プロペニル)フォスフェート、エチレン(2−プロペニル)フォスフェート、エチレン(1−ブテニル)フォスフェート、エチレン(2−ブテニル)フォスフェート、エチレン(3−ブテニル)フォスフェート、エチレン(1−ペンテニル)フォスフェート、エチレン(2−ペンテニル)フォスフェート、エチレン(3−ペンテニル)フォスフェート、エチレン(4−ペンテニル)フォスフェート、エチレンエチニルフォスフェート、エチレン(1−プロピニル)フォスフェート、エチレン(2−プロピニル)フォスフェート、エチレン(1−ブチニル)フォスフェート、エチレン(2−ブチニル)フォスフェート、エチレン(3−ブチニル)フォスフェート、エチレン(1−ペンチニル)フォスフェート、エチレン(2−ペンチニル)フォスフェート、エチレン(3−ペンチニル)フォスフェート、エチレン(4−ペンチニル)フォスフェート、エチレンフェニルフォスフェート、エチレンベンジルフォスフェート、プロピレンメチルフォスフェート、プロピレンエチルフォスフェート、プロピレンプロピルフォスフェート、プロピレンブチルフォスフェート、プロピレンペンチルフォスフェート、プロピレンヘキシルフォスフェート、プロピレンヘプチルフォスフェート、プロピレンオクチルフォスフェート、プロピレンエテニルフォスフェート、プロピレン(1−プロペニル)フォスフェート、プロピレン(2−プロペニル)フォスフェート、プロピレン(1−ブテニル)フォスフェート、プロピレン(2−ブテニル)フォスフェート、プロピレン(3−ブテニル)フォスフェート、プロピレン(1−ペンテニル)フォスフェート、プロピレン(2−ペンテニル)フォスフェート、プロピレン(3−ペンテニル)フォスフェート、プロピレン(4−ペンテニル)フォスフェート、プロピレンエチニルフォスフェート、プロピレン(1−プロピニル)フォスフェート、プロピレン(2−プロピニル)フォスフェート、プロピレン(1−ブチニル)フォスフェート、プロピレン(2−ブチニル)フォスフェート、プロピレン(3−ブチニル)フォスフェート、プロピレン(1−ペンチニル)フォスフェート、プロピレン(2−ペンチニル)フォスフェート、プロピレン(3−ペンチニル)フォスフェート、プロピレン(4−ペンチニル)フォスフェート、プロピレンフェニルフォスフェート、プロピレンベンジルフォスフェートが挙げられる。
【0028】
〔リチウム塩化合物(B)〕
本実施形態の非水電解液は、シュウ酸構造を有さないリチウム塩化合物(B)を含有する。「シュウ酸構造」とは、下記一般式(2)で表される化学構造を指し、本実施形態においては、単に「C」とも表記する。
【化3】
【0029】
シュウ酸構造を有さないリチウム塩化合物(B)としては、分子内にシュウ酸構造を有さないリチウム塩化合物であれば、特に限定されないが、例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiSbF、LiFSO、LiCFSO、LiN(SOF)、LiN(SOCF、LiN(SOCFCF、LiN(SOCF)(SOCFCF)、LiPO、LiPOF、LiPF(C、LiB(CF、LiB(CN)を挙げることができる。この中でも、リチウム塩化合物(B)としては、入出力特性及びサイクル特性の両面を考慮し、LiPF、LiBF、LiN(SOF)、LiN(SOCF、LiN(SOCFCF、LiPO、LiPOFからなる群より選ばれる一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることが好ましく、LiPFとLiBF及び/又はLiPOとを組み合わせて用いることがより好ましい。
【0030】
リチウム塩化合物(B)の含有量は、入出力特性及びサイクル特性の両面を考慮して、非水電解液の総量に対して、好ましくは3質量%以上30質量%以下であり、より好ましくは5質量%以上25質量%以下であり、さらに好ましくは8質量%以上20質量%以下である。
【0031】
〔リチウム塩化合物(C)〕
本実施形態の非水電解液は、シュウ酸構造を有するリチウム塩化合物(C)を含有する。シュウ酸構造を有するリチウム塩化合物(C)としては、分子内にシュウ酸構造を有するリチウム塩化合物であれば、特に限定されないが、例えば、Li(C)、LiB(C、LiBF(C)、LiAl(C、LiAlF(C)、LiP(C、LiPF(C、LiPF(C)を挙げることができる。この中でも、リチウム塩化合物(C)としては、非水溶媒への溶解性及びガス発生抑制の両面を考慮して、LiB(C、LiBF(C)、LiP(C、LiPF(C、及びLiPF(C)からなる群より選ばれる一種以上が好ましく、LiB(C、LiBF(C)がより好ましい。
【0032】
リチウム塩化合物(C)の含有量は、ガス発生抑制の観点から、非水電解液の総量に対して、好ましくは0.01質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上5質量%以下であり、さらに好ましくは0.3質量%以上3質量%以下である。
【0033】
本実施形態の非水電解液においては、環状リン酸エステル(A)とリチウム塩化合物(C)とを組み合わせて用いる。本実施形態の非水電解液のガス発生抑制効果(電解液の分解抑制効果)をより高める観点からは、環状リン酸エステル(A)とリチウム塩化合物(C)を、それぞれ非水電解液に対して0.01質量%以上10質量%以下の含有量で、非水電解液中に共存させることが好ましい。上記濃度範囲でガス発生抑制効果が顕著に発揮されることから、リチウム塩化合物(C)の役割は、イオン伝導を担保することよりも、むしろ、正極及び負極の改質にあると考えられる。ガス発生が顕著に抑制される理由は、必ずしも明らかではない。すなわち、本実施形態の非水電解液が発揮する効果は、本段落で説明する作用ないし原理によるものに限定されないが、リチウム塩化合物(C)に含まれるシュウ酸部位と、環状リン酸エステル(A)の環状構造部位が、正極及び負極に協同的に作用することで、ガス発生を効果的に抑制しているものと考えられる。
【0034】
〔非水溶媒〕
本実施形態の非水電解液は、非水溶媒を含有する。上記非水溶媒としては、特に限定されず様々なものを用いることができるが、非プロトン性極性溶媒が好ましい。非プロトン性極性溶媒としては、特に限定されないが、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート、2,3−ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、トリフルオロメチルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート及び4,5−ジフルオロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類;γーブチロラクトン及びγーバレロラクトンなどのラクトン類;スルホランなどのスルホン類;エチレンサルファイト、1,3−プロパンスルトンなどの亜硫酸エステル類;テトラヒドロフラン及びジオキサンなどの環状エーテル類;エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロビルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、ジブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート及びメチルトリフルオロエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート類;アセトニトリル及びプロピオニトリルなどのニトリル類;ジメチルエーテル及びジメトキシエタンなどの鎖状エーテル類;酢酸メチル及びプロピオン酸メチルなどの鎖状カルボン酸エステル類が挙げられる。これらは一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
非水溶媒としては、環状カーボネートと鎖状カーボネートを特定の比率で混合したカーボネート溶媒を用いることが好ましい。環状カーボネートと鎖状カーボネートを混合する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートの混合比は、イオン伝導性の観点から、体積比で、好ましくは1:10〜5:1であり、より好ましくは1:5〜3:1であり、さらに好ましくは1:3〜2:1である。環状カーボネートとしては、特に限定されず様々なものを用いることができるが、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネートが好ましく、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートがより好ましい。鎖状カーボネートとしては、特に限定されず様々なものを用いることができるが、例えば、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートが好ましい。
【0036】
本実施形態の非水電解液は、非水蓄電デバイス用電解液として好適に用いられる。ここで、非水蓄電デバイスとは、蓄電デバイス中の電解液として水溶液を用いない蓄電デバイスの総称であり、特に限定されないが、例えば、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、ナトリウム二次電池、ナトリウムイオン二次電池、マグネシウム二次電池、マグネシウムイオン二次電池、カルシウム二次電池、カルシウムイオン二次電池、アルミニウム二次電池、アルミニウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタなどが挙げられる。上記の中でも、実用性の観点から、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタが好ましく、より好ましくはリチウムイオン二次電池である。
【0037】
〔リチウムイオン二次電池〕
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、本実施形態の非水電解液とを備え、満充電時の上記正極の電位がリチウム基準4.4V以上5.5V以下である。ここで、「満充電時の正極の電位」とは、充電電圧に満充電時の負極の電位を加えた値を指す。例えば、満充電時の電位がリチウム基準で約0.05Vになる黒鉛を負極活物質として単独で用いる場合、正極と黒鉛負極からなる電池を充電電圧4.35Vで満充電すると、満充電時の正極の電位はリチウム基準で約4.4Vとなる。満充電時の正極の電位は、三極式セルを用いて容易に測定することができる。具体的には、満充電状態の正極を作用極、リチウム金属を参照極、満充電状態の負極を対極とする構成の三極式セルを作製した場合、作用極と参照極の電位差が「満充電時の正極の電位」となる。
【0038】
〔正極〕
本実施形態において、満充電時の正極の電位としてリチウム基準4.4V以上の十分高い水準を確保する観点から、正極は、リチウム基準4.4V以上の電位でリチウムイオンを吸蔵、放出する正極活物質を単独で、又は二種以上を組み合わせて含有することが好ましい。
【0039】
(正極活物質)
リチウム基準4.4V以上の電位でリチウムイオンを吸蔵、放出する正極活物質としては、特に限定されないが、正極活物質の構造安定性の観点から、好ましくは、一般式LiNiCoMa1−x−y〔Maは、Mn及びAlからなる群より選ばれる一種以上を表し、0≦x≦1であり、0≦y≦1であり、x+y≦1である。〕で示される層状酸化物正極活物質;一般式LiMn2−xMb〔Mbは遷移金属からなる群より選ばれる一種以上を表し、0.2≦x≦0.7である。〕で示されるスピネル型酸化物正極活物質;LiMcOとLiMdO〔Mc及びMdは、各々独立して、遷移金属からなる群より選ばれる一種以上を表す。〕との複合酸化物であって、一般式zLiMcO−(1−z)LiMdO〔0.05≦z≦0.95である。〕で示されるLi過剰層状酸化物正極活物質;LiMe1−xFePO〔MeはMn及びCoからなる群より選ばれる一種以上を表し、0≦x≦1である。〕で示されるオリビン型正極活物質、及びLiMfPOF〔Mfは遷移金属からなる群より選ばれる一種以上を示す。〕からなる群より選ばれる一種以上の正極活物質などが挙げられる。
【0040】
一般式LiNiCoMa1−x−y〔Maは、Mn及びAlからなる群より選ばれる一種以上を表し、0≦x≦1であり、0≦y≦1であり、x+y≦1である。〕で示される層状酸化物正極活物質としては、構造安定性の観点から、LiNiCoMn1−x−y〔0≦x≦1であり、0≦y≦1であり、x+y≦1である。〕又はLiNiCoAl1−x−y〔0.7≦x≦1であり、0≦y≦0.3であり、x+y≦1である。〕で示される組成を有することが好ましい。より好ましい組成としては、LiCoO、LiNiCoMn1−x−y〔0.4≦x≦1であり、0≦y≦0.4であり、x+y≦1である。〕、LiNi0.85Co0.1Al0.05を挙げることができる。
【0041】
一般式LiMn2−xMb〔Mbは遷移金属からなる群より選ばれる一種以上を表し、0.2≦x≦0.7である。〕で示されるスピネル型酸化物正極活物質としては、構造安定性の観点から、LiMn2−xNi〔0.2≦x≦0.7である。〕で示される組成を有することが好ましい。より好ましい組成としては、LiMn1.5Ni0.5を挙げることができる。スピネル型酸化物には、構造安定性、電子伝導性などの観点から、Mn原子のモル数に対して30モル%以下の範囲で、上記構造以外にさらに遷移金属又は遷移金属酸化物を含有させることができる。
【0042】
リチウムイオン二次電池を構成するための正極は、上記の正極活物質に、アセチレンブラックなどの導電助剤や、ポリフッ化ビニリデンなどの結着剤を適量加えて、正極合剤を調製し、これをアルミニウム箔などの集電材料に塗布乾燥後に加圧することで、集電材料上に正極合剤層を固着させて作製することができる。ただし、正極の作製方法は、上記例示のもののみに限定されない。
【0043】
〔負極〕
本実施形態のリチウムイオン二次電池に用いる負極は、負極活物質を含む。
【0044】
(負極活物質)
本実施形態において、リチウムイオン二次電池を構成するための負極に用いることができる負極活物質としては、リチウムやリチウムイオンの吸蔵、放出が可能な化合物を使用することができる。上記負極活物質としては、特に限定されないが、例えば、Al、Si、Snなどの合金化合物;CuO、CoOなどの金属酸化物;チタン酸リチウムなどのリチウム含有化合物;及び炭素材料などを用いることができる。
【0045】
本実施形態のリチウムイオン二次電池における負極活物質としては、電池のエネルギー密度向上の観点から、低電位でのリチウムイオンの吸蔵、放出が可能である炭素材料が好ましい。このような炭素材料としては、特に限定されないが、例えば、ハードカーボン、ソフトカーボン、人造黒鉛、天然黒鉛、熱分解炭素、コークス、ガラス状炭素、有機高分子化合物の焼成体、有機天然物の焼成体、炭素繊維、メソカーボンマイクロビーズ、カーボンブラックが挙げられる。上記コークスとしては、特に限定されないが、例えば、ピッチコークス、ニードルコークス及び石油コークスが挙げられる。また、有機高分子化合物の焼成体とは、フェノール樹脂などの高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものを指し、有機天然物の焼成体とは、コーヒー殻などの天然由来材料を適当な温度で焼成して炭素化したものを指す。
【0046】
負極活物質に炭素材料を用いる場合、該炭素材料の(002)面の層間距離d002は好ましくは0.37nm以下であり、より好ましくは0.35nm以下であり、さらに好ましくは0.34nm以下である。d002の下限値は特に限定されないが、理論的には約0.335nmである。
【0047】
また、炭素材料のc軸方向の結晶子の大きさは、好ましくは3nm以上であり、より好ましくは8nm以上であり、さらに好ましくは25nm以上である。結晶子の大きさの上限は、特に限定されないが、通例200nm程度である。そして、炭素材料の平均粒径は、好ましくは3μm以上15μm以下であり、より好ましくは5μm以上13μm以下である。また、その純度は、99.9%以上であることが好ましい。
【0048】
リチウムイオン二次電池を構成するための負極は、上記の負極活物質に、カルボキシメチルセルロースなどの増粘剤や、スチレンブタジエンゴムなどの結着剤を適量加えて、負極合剤を調製し、これを銅箔などの集電材料に塗布乾燥後に加圧することで、集電材料上に負極合剤層を固着させて作製することができる。ただし、負極の作製方法は、上記例示のもののみに限定されない。
【0049】
〔セパレータ〕
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、正負極の短絡防止などの安全性付与の観点から、正極と負極の間にセパレータを備えることが好ましい。上記セパレータとしては、特に限定されず、従来公知のリチウムイオン二次電池で採用されている各種セパレータを用いることができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;ポリエチレンテレフタラートなどのポリエステル系樹脂;ポリアラミドなどのポリアミド樹脂に代表される樹脂類を成形した微多孔膜又は不織布などが好適に用いられる。安全性付与の観点から、セパレータの厚みは、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは10μm以上である。一方、電池の入出力特性を維持する観点から、セパレータの厚みは、好ましくは30μm以下であり、より好ましくは20μm以下である。
【0050】
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、例えば、上述の正極と負極とを、セパレータを介して重ね合わせて、必要に応じて巻回して、積層電極体又は巻回電極体とした後、これを外装体に装填し、正負極と外装体の正負極端子とをリード体などを介して接続し、さらに上記本実施形態の非水電解液を外装体内に注入した後に外装体を封止して作製することができる。上記電池の外装体としては、特に限定されないが、金属製の缶容器や、金属箔ラミネートフィルムからなるラミネート容器などを好適に用いることができる。なお、リチウムイオン二次電池の形状としては、特に限定されず、一例を挙げると、円筒形、角型、コイン型、扁平形、シート状などの形状が採用される。
【0051】
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高く、実用上の耐久性にも優れることから、携帯電話などのモバイル電子機器用電源としてのみならず、様々な機器の電源として幅広く利用することができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
[実施例1]
1:正極の製造
正極活物質としてLiNi1/3Co1/3Mn1/3(日本化学工業社製)と、導電助剤としてアセチレンブラックの粉末(電気化学工業社製)と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン溶液(クレハ社製)とを、90:6:4の固形分質量比で混合し、分散溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを固形分40質量%となるように添加してさらに混合して、スラリー状の溶液を調製した。このスラリー状の溶液を厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に塗布し、溶剤を乾燥除去した後、ロールプレスで圧延して正極とした。
【0054】
2:負極の製造
負極活物質としてグラファイト粉末(大阪ガスケミカル社製)及びグラファイト粉末(TIMCAL社製)と、バインダーとしてスチレンブタジエンゴム及びカルボキシメチルセルロース水溶液を、90:10:1.5:1.8の固形分質量比で混合し、分散溶媒として水を固形分45質量%となるように添加してさらに混合して、スラリー状の溶液を調製した。このスラリー状の溶液を厚さ18μmの銅箔の片面に塗布し、溶剤を乾燥除去した後、ロールプレスで圧延して負極とした。
【0055】
3:非水電解液の調製
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比1:2で混合した混合溶媒に、エチレン(3−ブチニル)フォスフェートを0.3質量%と、LiPFを12.1質量%と、LiB(Cを1質量%と、を添加、混合して非水電解液を調製した。
【0056】
4:試験用電池の作製
上述のようにして作製した正極と負極とを、ポリプロピレン製の微多孔膜からなるセパレータ(膜厚25μm、空孔率50%、孔径0.1μm〜1μm)の両側に重ね合わせた積層体を、アルミニウム箔(厚さ40μm)の両面を樹脂層で被覆したラミネートフィルムからなる袋内に正負極の端子を突設させながら挿入した後、上述のようにして調製した非水電解液を袋内に注入し、真空封止を行って、シート状リチウムイオン二次電池を作製した。
【0057】
5:試験用電池の評価
5−1:初充放電
得られたシート状電池を、25℃の環境下、0.05Cの定電流で4.35Vの電圧に達するまで充電後(満充電時の正極電位=4.4V)、4.35Vの定電圧で2時間充電し、0.2Cの定電流で3.0Vまで放電した。これを3サイクル繰り返した。なお、1Cとは電池の基準容量を1時間で放電する電流値を表し、0.05Cとはその1/20の電流値を表す。
【0058】
5−2:サイクル試験
初充放電後の電池を、50℃の環境下、1Cの定電流で4.35Vの電圧に達するまで充電後、4.35Vの定電圧で1時間充電し、1Cの定電流で3.0Vまで放電した。上記一連の充放電を1サイクルとして、これを100サイクル実施し、100サイクル後容量維持率を測定した。その結果、100サイクル後容量維持率は90%と高かった。なお、100サイクル後容量維持率は、以下の式で求めた。
100サイクル後容量維持率(%)=(100サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100
【0059】
5−3:ガス発生試験
初充放電後の電池を、水浴中に浸して体積を測定した後、50℃の環境下、1Cの定電流で4.35Vの電圧に達するまで充電後、4.35Vの定電圧で一週間連続充電し、1Cの定電流で3.0Vまで放電した。
電池を室温まで冷却させた後、水浴中に浸して体積を測定し、連続充電前後の電池の体積変化から、連続充電後発生ガス量を求めた。その結果、連続充電後発生ガス量は0.17mLと少なかった。
【0060】
[実施例2]
実施例1の非水電解液の調製において、エチレン(3−ブチニル)フォスフェートの代わりに、エチレン(2−プロピニル)フォスフェートを用いた以外、実施例1と同様にしてシート状電池を作製し、上記サイクル試験及びガス発生試験を行った。その結果、100サイクル後容量維持率は89%と高く、連続充電後発生ガス量は0.21mLと少なかった。
【0061】
[実施例3]
実施例1の非水電解液の調製において、エチレン(3−ブチニル)フォスフェートの代わりに、エチレン(3−ブテニル)フォスフェートを用いた以外、実施例1と同様にしてシート状電池を作製し、上記サイクル試験及びガス発生試験を行った。その結果、100サイクル後容量維持率は90%と高く、連続充電後発生ガス量は0.17mLと少なかった。
【0062】
[実施例4]
実施例1の非水電解液の調製において、エチレン(3−ブチニル)フォスフェートの代わりに、エチレンヘキシルホスホネートを用いた以外、実施例1と同様にしてシート状電池を作製し、上記サイクル試験及びガス発生試験を行った。その結果、100サイクル後容量維持率は88%と高く、連続充電後発生ガス量は0.27mLと少なかった。
【0063】
[実施例5]
実施例1の非水電解液の調製において、エチレン(3−ブチニル)フォスフェートの代わりに、エチレンオクチルフォスフェートを用いた以外、実施例1と同様にしてシート状電池を作製し、上記サイクル試験及びガス発生試験を行った。その結果、100サイクル後容量維持率は89%と高く、連続充電後発生ガス量は0.23mLと少なかった。
【0064】
[実施例6]
実施例1の非水電解液の調製において、混合溶媒に、さらにLiBFを0.5質量%添加した以外、実施例1と同様にしてシート状電池を作製し、上記サイクル試験及びガス発生試験を行った。その結果、100サイクル後容量維持率は91%と高く、連続充電後発生ガス量は0.17mLと少なかった。
【0065】
[実施例7]
実施例1の非水電解液の調製において、混合溶媒に、さらにLiPOを0.5質量%添加した以外、実施例1と同様にしてシート状電池を作製し、上記サイクル試験及びガス発生試験を行った。その結果、100サイクル後容量維持率は92%と高く、連続充電後発生ガス量は0.15mLと少なかった。
【0066】
[実施例8]
実施例1の非水電解液の調製において、LiB(Cの代わりに、LiPF(Cを用いた以外、実施例1と同様にしてシート状電池を作製し、上記サイクル試験及びガス発生試験を行った。その結果、100サイクル後容量維持率は89%と高く、連続充電後発生ガス量は0.19mLと少なかった。
【0067】
[実施例9]
実施例1の非水電解液の調製において、エチレン(3−ブチニル)フォスフェートを0.3質量%添加する代わりに、1質量%添加した以外、実施例1と同様にしてシート状電池を作製し、上記サイクル試験及びガス発生試験を行った。その結果、100サイクル後容量維持率は88%と高く、連続充電後発生ガス量は0.15mLと少なかった。
【0068】
[実施例10]
実施例1の非水電解液の調製において、エチレン(3−ブチニル)フォスフェートを0.3質量%添加する代わりに、3質量%添加した以外、実施例1と同様にしてシート状電池を作製し、上記サイクル試験及びガス発生試験を行った。その結果、100サイクル後容量維持率は86%と高く、連続充電後発生ガス量は0.11mLと少なかった。
【0069】
[比較例1]
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比1:2で混合した混合溶媒に、LiPFを12.1質量%添加して非水電解液とした。実施例1の試験用電池の作製において、上記非水電解液を用いたこと以外、実施例1と同様にしてシート状電池を作製し、上記サイクル試験及びガス発生試験を行った。その結果、100サイクル後容量維持率は76%と低く、連続充電後発生ガス量は0.54mLと多かった。
【0070】
[比較例2]
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比1:2で混合した混合溶媒に、LiPFを12.1質量%と、LiB(Cを1質量%と、を添加して非水電解液とした。実施例1の試験用電池の作製において、上記非水電解液を用いたこと以外、実施例1と同様にしてシート状電池を作製し、サイクル試験及びガス発生試験を行った。その結果、100サイクル後容量維持率は88%と低く、連続充電後発生ガス量は0.34mLと多かった。
【0071】
[比較例3]
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比1:2で混合した混合溶媒に、エチレン(3−ブチニル)フォスフェートを0.3質量%と、LiPFを12.1質量%と、を添加して非水電解液とした。実施例1の試験用電池の作製において、上記非水電解液を用いたこと以外、実施例1と同様にしてシート状電池を作製し、上記サイクル試験及びガス発生試験を行った。その結果、100サイクル後容量維持率は82%と低く、連続充電後発生ガス量は0.28mLと多かった。
【0072】
[比較例4]
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比1:2で混合した混合溶媒に、LiPFを12.1質量%と、LiBFを0.5質量%と、LiB(Cを1質量%と、を添加して非水電解液とした。実施例1の試験用電池の作製において、上記非水電解液を用いたこと以外、実施例1と同様にしてシート状電池を作製し、上記サイクル試験及びガス発生試験を行った。その結果、100サイクル後容量維持率は84%と低く、連続充電後発生ガス量は0.32mLと多かった。
【0073】
[比較例5]
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比1:2で混合した混合溶媒に、LiPFを12.1質量%と、LiPOを0.5質量%と、LiB(Cを1質量%と、を添加して非水電解液とした。実施例1の試験用電池の作製において、上記非水電解液を用いたこと以外、実施例1と同様にしてシート状電池を作製し、上記サイクル試験及びガス発生試験を行った。その結果、100サイクル後容量維持率は88%と低く、連続充電後発生ガス量は0.28mLと多かった。
【0074】
[比較例6]
エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)と2,2,2−トリフルオロエチルエチレンフォスフェートを体積比42.5:42.5:15で混合した混合溶媒に、LiPFを12.1質量%添加して非水電解液とした。実施例1の試験用電池の作製において、上記非水電解液を用いたこと以外、実施例1と同様にしてシート状電池を作製し、上記サイクル試験及びガス発生試験を行った。その結果、100サイクル後容量維持率は79%と低く、連続充電後発生ガス量は0.31mLと多かった。
【0075】
[比較例7]
2−メトキシ−1,3,2−ジオキサフォスフォラン−2−オキサイドとジエチルカーボネート(DEC)を体積比1:1で混合した混合溶媒に、LiPFを12.1質量%添加して非水電解液とした。実施例1の試験用電池の作製において、上記非水電解液を用いたこと以外、実施例1と同様にしてシート状電池を作製し、上記サイクル試験及びガス発生試験を行った。その結果、100サイクル後容量維持率は58%と非常に低く、連続充電後発生ガス量は0.21mLと少なかった。
【0076】
以上の実施例1〜10、及び比較例1〜7で得られた結果を、表1に示す。表1から、実施例1〜10のリチウムイオン二次電池はいずれも、環状リン酸エステル(A)を含まない非水電解液を用いた比較例2、4、及び5、シュウ酸構造を有するリチウム塩化合物(C)を含まない非水電解液を用いた比較例3と比して、サイクル特性が向上し、ガス発生量が低減していることが明らかとなった。以上より、本実施形態の非水電解液の上記効果は、非水電解液中に環状リン酸エステル(A)とシュウ酸構造を有するリチウム塩化合物(C)を共存させた場合に、特有の効果であることが示された。
【0077】
また、実施例1〜10のリチウムイオン二次電池はいずれも、特許文献3に記載されている2,2,2−トリフルオロエチルエチレンフォスフェートを非水溶媒に対して15体積%含有させた比較例6、特許文献4に記載されている2−メトキシ−1,3,2−ジオキサフォスフォラン−2−オキサイドを非水溶媒に対して50体積%含有させた比較例7と比して、サイクル特性が大幅に向上し、ガス発生量が低減していることが明確となった。
【0078】
【表1】
【0079】
[実施例11]
1:正極活物質の製造
遷移金属元素のモル比として1:3の割合の硫酸ニッケルと硫酸マンガンとを、水に溶解し、金属イオン濃度の総和が2mol/Lになるようにニッケル−マンガン混合水溶液を調製した。次いで、このニッケル−マンガン混合水溶液を、70℃に加温した濃度2mol/Lの炭酸ナトリウム水溶液1650mL中に、12.5mL/minの添加速度で120分間滴下した。なお、滴下時には、撹拌の下、200mL/minの流量の空気を水溶液中にバブリングしながら吹き込んだ。これにより析出物質が発生し、得られた析出物質を蒸留水で十分洗浄し、乾燥して、ニッケルマンガン化合物を得た。得られたニッケルマンガン化合物と粒径2μmの炭酸リチウムとを、リチウム:ニッケル:マンガンのモル比が1:0.5:1.5になるように秤量し、1時間乾式混合した後、得られた混合物を酸素雰囲気下において1000℃で5時間焼成し、LiNi0.5Mn1.5で表される正極活物質を得た。
【0080】
2:正極の製造
上述のようにして得られた正極活物質と、導電助剤としてアセチレンブラックの粉末(電気化学工業社製)と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン溶液(クレハ社製)とを、88:6:6の固形分質量比で混合し、分散溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを固形分40質量%となるように添加してさらに混合して、スラリー状の溶液を調製した。このスラリー状の溶液を厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に塗布し、溶剤を乾燥除去した後、ロールプレスで圧延して正極とした。
【0081】
3:負極の製造
負極活物質としてのグラファイト粉末(大阪ガスケミカル社製)及びグラファイト粉末(TIMCAL社製)と、バインダーとしてのスチレンブタジエンゴム及びカルボキシメチルセルロース水溶液とを、90:10:1.5:1.8の固形分質量比で混合し、分散溶媒として水を固形分45質量%となるように添加してさらに混合して、スラリー状の溶液を調製した。このスラリー状の溶液を厚さ18μmの銅箔の片面に塗布し、溶剤を乾燥除去した後、ロールプレスで圧延して負極とした。
【0082】
4:非水電解液の調製
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比1:2で混合した混合溶媒に、エチレン(3−ブチニル)フォスフェートを0.3質量%と、LiPFを12.1質量%と、LiB(Cを1質量%と、を添加して非水電解液とした。
【0083】
5:試験用電池の作製
上述のようにして作製した正極と負極とを、ポリプロピレン製の微多孔膜からなるセパレータ(膜厚25μm、空孔率50%、孔径0.1μm〜1μm)の両側に重ね合わせた積層体を、アルミニウム箔(厚さ40μm)の両面を樹脂層で被覆したラミネートフィルムからなる袋内に正負極の端子を突設させながら挿入した後、上述のようにして調製した非水電解液を袋内に注入し、真空封止を行って、シート状リチウムイオン二次電池を作製した。
【0084】
6:試験用電池の評価
6−1:初充放電
得られたシート状電池を、25℃の環境下、0.05Cの定電流で4.8Vの電圧に達するまで充電後(満充電時の正極電位=4.85V)、4.8Vの定電圧で2時間充電し、0.2Cの定電流で3.0Vまで放電した。これを3サイクル繰り返した。なお、1Cとは電池の基準容量を1時間で放電する電流値を表し、0.05Cとはその1/20の電流値を表す。
【0085】
6−2:サイクル試験
初充放電後の電池を、50℃の環境下、1Cの定電流で4.8Vの電圧に達するまで充電後、4.8Vの定電圧で1時間充電し、1Cの定電流で3.0Vまで放電した。上記一連の充放電を1サイクルとして、これを100サイクル実施し、100サイクル後容量維持率を測定した。その結果、100サイクル後容量維持率は74%と高かった。なお、100サイクル後容量維持率は、以下の式で求めた。
100サイクル後容量維持率(%)=(100サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100
【0086】
6−3:ガス発生試験
初充放電後の電池を、水浴中に浸して体積を測定した後、50℃の環境下、1Cの定電流で4.8Vの電圧に達するまで充電後、4.8Vの定電圧で一週間連続充電し、1Cの定電流で3.0Vまで放電した。
電池を室温まで冷却させた後、水浴中に浸して体積を測定し、連続充電前後の電池の体積変化から、連続充電後発生ガス量を求めた。その結果、連続充電後発生ガス量は1.16mLと少なかった。
【0087】
[実施例12]
実施例11の非水電解液の調製において、エチレン(3−ブチニル)フォスフェートの代わりに、エチレン(2−プロピニル)フォスフェートを用いた以外、実施例11と同様にしてシート状電池を作製し、上記サイクル試験及びガス発生試験を行った。その結果、100サイクル後容量維持率は70%と高く、連続充電後発生ガス量は1.23mLと少なかった。
【0088】
[実施例13]
実施例11の非水電解液の調製において、エチレン(3−ブチニル)フォスフェートの代わりに、エチレン(3−ブテニル)フォスフェートを用いた以外、実施例11と同様にしてシート状電池を作製し、上記サイクル試験及びガス発生試験を行った。その結果、100サイクル後容量維持率は76%と高く、連続充電後発生ガス量は1.14mLと少なかった。
【0089】
[実施例14]
実施例11の非水電解液の調製において、エチレン(3−ブチニル)フォスフェートの代わりに、エチレンヘキシルホスホネートを用いた以外、実施例11と同様にしてシート状電池を作製し、上記サイクル試験及びガス発生試験を行った。その結果、100サイクル後容量維持率は69%と高く、連続充電後発生ガス量は1.31mLと少なかった。
【0090】
[実施例15]
実施例11の非水電解液の調製において、エチレン(3−ブチニル)フォスフェートの代わりに、エチレンオクチルフォスフェートを用いた以外、実施例11と同様にしてシート状電池を作製し、上記サイクル試験及びガス発生試験を行った。その結果、100サイクル後容量維持率は71%と高く、連続充電後発生ガス量は1.27mLと少なかった。
【0091】
[実施例16]
実施例11の非水電解液の調製において、混合溶媒に、さらにLiBFを0.5質量%添加した以外、実施例11と同様にしてシート状電池を作製し、上記サイクル試験及びガス発生試験を行った。その結果、100サイクル後容量維持率は75%と高く、連続充電後発生ガス量は1.15mLと少なかった。
【0092】
[実施例17]
実施例11の非水電解液の調製において、LiB(Cの代わりに、LiPF(Cを用いた以外、実施例11と同様にしてシート状電池を作製し、上記サイクル試験及びガス発生試験を行った。その結果、100サイクル後容量維持率は72%と高く、連続充電後発生ガス量は1.18mLと少なかった。
【0093】
[実施例18]
実施例11の非水電解液の調製において、エチレン(3−ブチニル)フォスフェートを0.3質量%添加する代わりに、1質量%添加した以外、実施例11と同様にしてシート状電池を作製し、上記サイクル試験及びガス発生試験を行った。その結果、100サイクル後容量維持率は73%と高く、連続充電後発生ガス量は1.09mLと少なかった。
【0094】
[実施例19]
実施例11の非水電解液の調製において、エチレン(3−ブチニル)フォスフェートを0.3質量%添加する代わりに、3質量%添加した以外、実施例11と同様にしてシート状電池を作製し、上記サイクル試験及びガス発生試験を行った。その結果、100サイクル後容量維持率は68%と高く、連続充電後発生ガス量は1.01mLと少なかった。
【0095】
[比較例8]
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比1:2で混合した混合溶媒に、LiPFを12.1質量%添加して非水電解液とした。実施例11の試験用電池の作製において、上記非水電解液を用いたこと以外、実施例11と同様にしてシート状電池を作製し、上記サイクル試験及びガス発生試験を行った。その結果、100サイクル後容量維持率は32%と低く、連続充電後発生ガス量は4.32mLと多かった。
【0096】
[比較例9]
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比1:2で混合した混合溶媒に、LiPFを12.1質量%と、LiB(Cを1質量%と、を添加して非水電解液とした。実施例11の試験用電池の作製において、上記非水電解液を用いたこと以外、実施例11と同様にしてシート状電池を作製し、上記サイクル試験及びガス発生試験を行った。その結果、100サイクル後容量維持率は64%と低く、連続充電後発生ガス量は2.62mLと多かった。
【0097】
[比較例10]
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比1:2で混合した混合溶媒に、エチレン(3−ブチニル)フォスフェートを0.3質量%と、LiPFを12.1質量%と、を添加して非水電解液とした。実施例11の試験用電池の作製において、上記非水電解液を用いたこと以外、実施例11と同様にしてシート状電池を作製し、上記サイクル試験及びガス発生試験を行った。その結果、100サイクル後容量維持率は52%と低く、連続充電後発生ガス量は1.38mLと多かった。
【0098】
[比較例11]
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比1:2で混合した混合溶媒に、LiPFを12.1質量%と、LiBFを0.5質量%と、LiB(Cを1質量%と、を添加して非水電解液とした。実施例11の試験用電池の作製において、上記非水電解液を用いたこと以外、実施例11と同様にしてシート状電池を作製し、上記サイクル試験及びガス発生試験を行った。その結果、100サイクル後容量維持率は65%と低く、連続充電後発生ガス量は2.61mLと多かった。
【0099】
[比較例12]
エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)と2,2,2−トリフルオロエチルエチレンフォスフェートを体積比42.5:42.5:15で混合した混合溶媒に、LiPFを12.1質量%添加して非水電解液とした。実施例11の試験用電池の作製において、上記非水電解液を用いたこと以外、実施例11と同様にしてシート状電池を作製し、上記サイクル試験及びガス発生試験を行った。その結果、100サイクル後容量維持率は50%と低く、連続充電後発生ガス量は1.32mLと多かった。
【0100】
[比較例13]
2−メトキシ−1,3,2−ジオキサフォスフォラン−2−オキサイドとジエチルカーボネート(DEC)を体積比1:1で混合した混合溶媒に、LiPFを12.1質量%添加して非水電解液とした。実施例11の試験用電池の作製において、上記非水電解液を用いたこと以外、実施例11と同様にしてシート状電池を作製し、上記サイクル試験及びガス発生試験を行った。その結果、100サイクル後容量維持率は4%と非常に低く、連続充電後発生ガス量は2.21mLと多かった。
【0101】
以上の実施例11〜19、及び比較例8〜13で得られた結果を、表2に示す。表2から、実施例11〜19のリチウムイオン二次電池はいずれも、環状リン酸エステル(A)を含まない非水電解液を用いた比較例9及び11、シュウ酸構造を有するリチウム塩化合物(C)を含まない非水電解液を用いた比較例10と比して、サイクル特性が向上し、ガス発生量が大幅に低減していることが明らかとなった。以上より、本実施形態の効果は、非水電解液中に環状リン酸エステル(A)とシュウ酸構造を有するリチウム塩化合物(C)を共存させた場合に、特有の効果であることが示された。
【0102】
また、実施例11〜19のリチウムイオン二次電池はいずれも、特許文献3に記載されている2,2,2−トリフルオロエチルエチレンフォスフェートを非水溶媒に対して15体積%含有させた比較例12、特許文献4に記載されている2−メトキシ−1,3,2−ジオキサフォスフォラン−2−オキサイドを非水溶媒に対して50体積%含有させた比較例13と比して、サイクル特性が大幅に向上し、ガス発生量が低減していることが明確となった。
【0103】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の非水電解液を用いたリチウムイオン二次電池は、各種民生機器用電源、自動車用電源への産業上利用可能性を有する。