特許第6235329号(P6235329)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6235329
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】シロキサン−ウレタン防汚コーティング
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/77 20060101AFI20171113BHJP
   C08G 18/62 20060101ALI20171113BHJP
   C08G 18/61 20060101ALI20171113BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20171113BHJP
   C09D 183/10 20060101ALI20171113BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20171113BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   C08G18/77 080
   C08G18/62 016
   C08G18/61
   C09D175/04
   C09D183/10
   C09D7/12
   B05D7/24 301U
   B05D7/24 302Y
【請求項の数】7
【外国語出願】
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-264148(P2013-264148)
(22)【出願日】2013年12月20日
(65)【公開番号】特開2014-129524(P2014-129524A)
(43)【公開日】2014年7月10日
【審査請求日】2016年9月14日
(31)【優先権主張番号】201210599271.4
(32)【優先日】2012年12月31日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000589
【氏名又は名称】特許業務法人センダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ポール・ジェイ・ポーパ
(72)【発明者】
【氏名】ホンユ・チェン
(72)【発明者】
【氏名】ヤンシャン・リ
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開平4−356572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/77
B05D 7/24
C08G 18/61
C08G 18/62
C09D 7/12
C09D 175/04
C09D 183/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二液型化性組成物であって、
(a)一以上の多官能アクリル系ポリオールを含む一液と、
(b)(i)二以上のイソシアネート官能基を有する一以上のポリシロキサンポリマーと、(ii)一以上のイソシアネート官能性有機化合物と、を含む二液と、
(c)溶媒と、を含むことを特徴とする、組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物であって、前記ポリシロキサンポリマーが、
(i)以下の化学式で表される二官能性ポリシロキサン
【化1】
ここでa≧1、又は(ii)以下の化学式で表される多官能性ポリシロキサン
【化2】
ここでa≧1及びb>1、であることを特徴とする、組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の組成物であって、顔料、染料、つや消し添加剤、硬化触媒、流れ及び平滑剤、脱気添加剤、接着促進剤、分散促進剤、難燃化剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、可塑剤、静電防止剤、紫外線(UV)吸収剤、潤滑剤、又はこれらの組み合わせ、のうち1以上を更に含むことを特徴とする、組成物。
【請求項4】
請求項に記載の組成物であって、前記接着促進剤は3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランであることを特徴とする、組成物。
【請求項5】
請求項2〜のいずれか1項に記載の組成物であって、
(a)前記ポリシロキサンポリマーが、前記硬化性組成物の総固体重量に対して2〜40重量%であり、数平均分子量が4,000〜15,000の範囲であり、
(b)前記多官能性ポリオールが、前記硬化性組成物の総重量に対して35〜60重量%であり、かつ、Tgが0℃〜45℃、数平均分子量が2,000g/mol〜25,000g/molのアクリル系ポリマーであり、
(c)前記イソシアネート官能性有機化合物が、前記硬化性組成物の総重量に対して8〜30重量%であり、かつ、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、メチレンビス(p−シクロヘキシルイソシアネート)(H12MDI)、メタ−テトラメチルキシレンジイソシアネート(m−TMXDI)、シクロヘキシルジイソシアネート(CHDI)、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジイソシアネートの三量体、及びこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、組成物。
【請求項6】
基板を被覆する方法であって、
(a)二液型化性組成物であって、
(i)一以上の多官能アクリル系ポリオールを含む一液と、
(ii)(A)二以上のイソシアネート官能基を有する一以上のポリシロキサンポリマーと、(B)一以上のイソシアネート官能性有機化合物と、を含む二液と、
(iii)溶媒と、を含む組成物を得る手順と、
(b)顔料、染料、つや消し添加剤、硬化触媒、流動及び平滑剤、脱気添加剤、接着促進剤、分散促進剤、難燃化剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、可塑剤、静電防止剤、紫外線(UV)吸収剤、潤滑剤、又はこれらの組み合わせ、のうち1以上を混合する任意の手順と、
(c)手順(a)及び(b)で得られた組成物を基板に塗布し硬化させる手順と、を含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項に記載の方法で製造された、被覆体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン−ポリシロキサンネットワークを構築可能な、二液型湿分硬化性コーティング組成物に関する。本コーティング組成物は、海洋防汚コーティングの分野で有用である。
【背景技術】
【0002】
生物付着は海洋環境のいかなる場所でも起こりうる現象であり、船舶等の海洋構造物における大きな問題である。微生物の堆積を制限する方法の一つとして、シリコーンエラストマーをベースとした、自浄作用を有する防汚コーティングを使用することが挙げられる。ポリジメチルシロキサン(PDMS)をベースとしたシリコーンエラストマー防汚コーティングは、ゴム様の柔軟性、低い表面エネルギー、及び滑らかな表面を有し、流体力学的抗力によって生成されたせん断応力をもって、該コーティング表面からの海洋生物の分離を容易にする。しかしながら、PDMSは柔らかく、剥がれやすく、頻繁な再塗装を必要とするため、維持に時間とコストがかかる。
【0003】
PDMSをベースとしたシリコーンコーティングの機械特性を向上させる効果的な方法として、ポリウレタン(PU)等のより優れた機械特性を有する他のポリマーをPDMSと混合することが挙げられる。ポリシロキサン及びポリウレタンは大きく異なる、大いに有用な物理特性ならびに機械特性を有することで、幅広く用いられるようになった。防汚コーティングにおいてポリジメチルシロキサンと併用された場合、ポリウレタンは、機械的強度、柔軟性、耐付着性、及び耐摩耗性の面で傑出している。しかしながら、ポリシロキサンとポリウレタンとは、両樹脂の特性が相容れず、初期混合後に相分離する傾向が顕著なために、均一に物理的混合を行うことが困難である。
【0004】
米国特許第8,299,200号(国際公開第2009/025924号に対する優先権を主張)には、ポリイソシアネートと、ポリオールと、ポリシロキサンとを含む混合物を反応させることにより調製される、ポリイソシアネートと反応可能な官能基を有するポリシロキサンで修飾されたポリウレタンコーティングが開示されている。ポリイソシアネートと反応可能な官能基は、オルガノポリシロキサン鎖の一端にのみ結合する。ポリシロキサンが一端にのみ連結したコーティングは、理論上、極めて流動性の高い表面となり、付着する生物の分離を容易にする。しかしながら、このようなシロキサンは高価であり、この方法で調製されたコーティングは海洋環境においてコーティングに求められる全ての性能パラメータを提供できない。米国特許第5,820,491号には、ポリオール成分と、イソシアネート成分と、ヒドロキシル官能性のポリエーテル修飾ポリシロキサンコポリマー成分とを含む二液型ウレタン上塗りが開示されている。この方法で調製されたコーティングは、海洋環境においてコーティングに求められる全ての性能パラメータを提供できない。PDMSとPUとの特性を融合し、海洋環境においてコーティングに求められる全ての性能パラメータを満たす、ないしはそれを超える、安価で単純、かつ均一なコーティング組成物が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、二液型湿分硬化性組成物であって、(a)一以上の多官能ポリオールを含む一液と、(b)(i)二以上のイソシアネート官能基を有する一以上のポリシロキサンポリマーと、(ii)一以上のイソシアネート官能性有機化合物と、を含む二液と、(c)溶媒と、を含むことを特徴とする、組成物を提供する。本発明は更に、基板を被覆する方法であって、(a)二液型湿分硬化性組成物であって、(i)一以上の多官能ポリオールを含む一液と、(ii)(A)二以上のイソシアネート官能基を有する一以上のポリシロキサンポリマーと、(B)一以上のイソシアネート官能性有機化合物と、を含む二液と、(iii)溶媒と、を含む組成物を得る手順と、(b)顔料、染料、つや消し添加剤、硬化触媒、流動及び平滑剤、脱気添加剤、接着促進剤、分散促進剤、難燃化剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、可塑剤、静電防止剤、紫外線(UV)吸収剤、潤滑剤、又はこれらの組み合わせ、のうち1以上を更に混合する任意の手順と、(c)手順(a)及び(b)で得られた組成物を基板に塗布し硬化させる手順と、を含むことを特徴とする方法を提供する。
【0006】
本発明は更に、二液型湿分硬化性組成物であって、(a)(i)一以上の多官能ポリオールと、(ii)二以上のメルカプト官能基を有する一以上のポリシロキサンポリマーと、を含む一液と、(b)一以上のイソシアネート官能性有機化合物を含む二液と、(c)溶媒と、を含むことを特徴とする、組成物を提供する。本発明は更に、基板を被覆する方法であって、(a)二液型湿分硬化性組成物であって、(i)(A)一以上の多官能ポリオールと、(B)二以上のメルカプト官能基を有する一以上のポリシロキサンポリマーと、を含む一液と、(ii)一以上のイソシアネート官能性有機化合物を含む二液と、(iii)溶媒と、を含む組成物を得る手順と、(b)顔料、染料、つや消し添加剤、硬化触媒、流動及び平滑剤、脱気添加剤、接着促進剤、分散促進剤、難燃化剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、可塑剤、静電防止剤、紫外線(UV)吸収剤、潤滑剤、又はこれらの組み合わせ、のうち1以上を更に混合する任意の手順と、(c)手順(a)及び(b)で得られた組成物を基板に塗布し硬化させる手順と、を含むことを特徴とする方法を提供する。
【0007】
「ポリオール」は、複数のヒドロキシル基を含むアルコール分子を指す。「多官能ポリオール」は、架橋可能な反応性部位を複数有するポリオールを指す。「ポリウレタン」は、ポリマー単位がウレタン結合(例:−O−CO−NH−)及び/又は一以上の尿素結合(例:−NH−CO−NH−)によって結合されている樹脂を指す。「イソシアネート」は、式−N=C=Oで表される官能基を指す。「メルカプト」は、式−SHで表される官能基を指し、チオール基とも呼ばれる。
【0008】
本発明のポリシロキサンポリマーは次の式で表される。
【化1】
ここでR、R、R、R、R、R、R、R、R、又はR10基の各々は、(i)R〜R10基のうち1以上がイソシアネート官能基又はメルカプト基で置換されており、(ii)上記ポリシロキサンポリマーは2以上のイソシアネート又はメルカプト官能基を有する、という条件において、置換された又は置換されないC〜C60の炭化水素基から個別に選択される。好ましくは、上記R〜R10基のうち1以上がイソシアネート官能基で置換され、上記ポリシロキサンポリマーが2以上のイソシアネート官能基を有する。m及びnのそれぞれは独立して0以上の整数であり、m+n≧1である。好ましくは、上記イソシアネート官能性ポリシロキサンの数平均分子量が4,000〜15,000、更に好ましくは6,000〜10,000である。数平均分子量は、GPC Viscotek VE2001にてMixed Dカラムおよびポリスチレン標準物を用いて測定される。適切なイソシアネート官能性ポリシロキサンの例としては、限定されないが、以下の式で表される線形二官能性ポリシロキサンであるSiltech社製Silmer(登録商標)Di−50及びD−100材料
【化2】
(ここで、a≧1)、ならびに、以下の式で表される多官能性ポリシロキサンであるSiltech社製Silmer(登録商標)C50
【化3】
(ここで、a≧1かつb>1)、が挙げられる。
【0009】
本発明の上記ポリシロキサンポリマーは、上記硬化性組成物の総固体重量(すなわち、上記硬化性組成物に用いられている溶媒を除いた重量)のうち2〜40重量%を占める。好ましくは、ポリシロキサンポリマーは、上記硬化性組成物の総固体重量のうち5〜30重量%を占め、最も好ましくは、上記硬化性組成物の総固体重量のうち10〜25重量%を占める。
【0010】
本発明の多官能性ポリオールは、アクリル系ポリオール、天然油ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオール、及びこれらの混合物、の中から選択される。中でも、アクリル系ポリオールが好ましい。適切なアクリル系ポリオールの例としては、Tgが0〜45℃、好ましくは10〜40℃、最も好ましくは20〜35℃であり、数平均分子量(Mn)が2,000〜25,000g/mol、好ましくは3,000〜15,000g/mol、最も好ましくは4,000〜8,000g/molであるアクリル系ポリマーが挙げられる。市販されている適切なアクリル系ポリオールの例としては、ダウ・ケミカル・カンパニー社製Paraloid(商標) AU−750、ダウ・ケミカル・カンパニー社製Paraloid(商標)AU−830、バイエルマテリアルサイエンス社製Desmophen(登録商標)A365、及びBASF社製Joncryl(登録商標)500が挙げられる。本発明の多官能性ポリオールは、上記硬化性組成物の総重量のうち35〜60重量%を占める。好ましくは、上記多官能性ポリオールは上記硬化性組成物の総重量のうち40〜55重量%、最も好ましくは40〜50重量%である。上記アクリル系ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、ティー・エイ・インスツルメント社製DSC、型名Q100 V9.8 Build 296で、標準セルFCを用いて測定される。
【0011】
適切な天然油ポリオール(NOP)としては、天然種子油ジオールモノマー等の非変性NOP、及び、ダウ・ケミカル・カンパニー社から市販されているGen 1 NOP DWD 2080等の変性NOPが挙げられる。後者は約32%、38%、28%、及び2%の重量比で、飽和モノヒドロキシル、ビヒドロキシル、及びトリヒドロキシルメチルエステルのモノマーを含む再構築されたNOP分子である。別の例としては、市販のGen 4 NOPが、Unoxol(商標)ジオールと、種子油モノマーから分離された種子油ジオールモノマーとを反応させて得られる。Unoxol(商標)ジオールは、シス、トランス−1,3−及びシス、トランス−1,4−シクロヘキサンジメタノールの混合物で、ダウ・ケミカル・カンパニー社から市販されている。Gen 4 NOPは、ヒドロキシル当量170g/molで、以下のような構造を有する。
【化4】
【0012】
上記の天然油由来ポリオールは、天然及び/又は遺伝子組み換え植物の種子油及び/又は動物性脂肪等の、再生可能原料をベースとする、又はこれに由来するポリオールである。このような油脂及び/又は脂肪は、一般に、トリグリセリドからなる。トリグリセリドは、グリセロールで互いに結合された脂肪酸である。トリグリセリド中に不飽和脂肪酸を約70%以上含む植物性油が好ましい。天然油脂には、不飽和脂肪酸が約85%以上含まれ得る。好適な植物性油の例としては、ヒマシ油、大豆油、オリーブ油、ピーナッツ油、ナタネ油、コーン油、ゴマ油、綿実油、キャノーラ油、ベニバナ油、アマニ油、ヤシ油、グレープシード油、黒キャラウェー油、カボチャ種子油、ボラージ種子油、木の胚芽(wood germ)油、杏仁油、ピスタチオ油、アーモンド油、マカダミアナッツ油、アボカド油、シーバックソーン油、大麻油、ヘーゼルナッツ油、月見草油、ノバラ油、アザミ油、クルミ油、ヒマワリ油、ジャトロファ種子油、又はこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0013】
更に、海草のような生物から得られる油脂も用いることができる。動物性油脂の例としては、ラード、ヘット、魚油、及びこれらの組み合わせが挙げられる。植物性及び動物性の油/脂肪の組み合わせも用いることができる。
【0014】
上記NOPの平均ヒドロキシル官能価は、1〜10の範囲内であり、好ましくは2〜6の範囲内である。上記NOPの数平均分子量は、100〜3,000であり、好ましくは300〜2,000であり、最も好ましくは350〜1,500である。
【0015】
適切なイソシアネート官能性有機化合物の例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、メチレンビス(p−シクロヘキシルイソシアネート)(H12MDI)、メタ−テトラメチルキシレンジイソシアネート(m−TMXDI)、シクロヘキシルジイソシアネート(CHDI)、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、及び1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等の脂肪族又は脂環式ポリイソシアネート、Desmodur(登録商標)N−3390としてバイエルマテリアルサイエンス社から市販されるヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)の三量体、Tolanate(登録商標)IDT−70としてPerstorp Polyols社から市販されるイソホロンジイソシアネート(IPDI)の三量体等のジイソシアネートの三量体、及びこれらの混合物が挙げられる。好ましくは、上記イソシアネート官能性有機化合物は、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)及びイソホロンジイソシアネート(IPDI)の三量体、最も好ましくはヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)の三量体である。本発明のイソシアネート官能性有機化合物は、上記硬化性組成物の総重量のうち8〜30重量%を占める。好ましくは、上記イソシアネート官能性有機化合物は上記硬化性組成物の総重量のうち10〜30重量%を占め、最も好ましくは、上記硬化性組成物の総重量のうち15〜25重量%を占める。
【0016】
適切なウレタングレードの溶媒としては、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素類、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、アセトン等のケトン類、酢酸ブチル、酢酸ヘキシル等のエステル類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルエステル類、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル等のエステル、及びこれらの混合物が挙げられる。上記溶媒は、上記硬化性組成物の総重量のうち10〜60重量%を占める。好ましくは、上記溶媒は上記硬化性組成物の総重量のうち15〜50重量%を占め、最も好ましくは、上記硬化性組成物の総重量のうち20〜40重量%を占める。
【0017】
上記硬化性組成物は、コーティングとして有用であり、同様の組成物に通常含まれる種々の添加剤を含んでよい。添加剤の例としては、顔料、染料、つや消し添加剤、硬化触媒、流動及び平滑剤、脱気添加剤、接着促進剤、分散促進剤、難燃化剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、可塑剤、静電防止剤、紫外線(UV)吸収剤、潤滑剤、又は上記添加剤のうち1以上を含む組み合わせ、が挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
適切な接着促進剤としては、中塗りやタイコートを必要とせずに防汚上塗りのウェット接着力を向上できる、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のシラン系接着促進剤が挙げられる。好ましくは、上記シラン系接着促進剤の添加量は、上記硬化性組成物の総重量のうち0.5〜3重量%の範囲内であり、より好ましくは上記硬化性組成物の総重量のうち1〜3重量%であり、最も好ましくは上記硬化性組成物の総重量のうち1.5〜3重量%である。
【0019】
本発明の硬化性コーティング組成物は、無顔料の透明コーティングであってもよく、プライマー、下塗り、上塗りの塗装用の顔料入りシステムであってもよい。上記顔料は、一般的な有機又は無機顔料であってよい。特定の用途で望まれる色を得るには、複数の異なる顔料が必要となる場合もある。適切な顔料としては、二酸化チタン、バライト、粘土、炭酸カルシウム、酸化第二鉄、CI Pigment Yellow 42、CI Pigment Blue 15、15:1、15:2、15:3、15:4(銅フタロシアニン)、CI Pigment Red 49:1、CI Pigment Red 57:1、及びカーボンブラックが挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
得られるコーティング組成物は、スプレー法、ドローダウン法、ロールコーティング法等の当該技術分野において公知の方法で基板に塗布されてよい。上記コーティングの呼び乾燥被覆厚さ(DFT)は、2ミル以上、好ましくは2.5ミル以上、より好ましくは3ミル以上である。コーティング可能な基板の例としては、プラスチック、木、アルミニウム、鋼、亜鉛めっき鋼板、スズめっき鋼板等の金属、コンクリート、ガラス、複合材料、ウレタンエラストマー、下塗りされた(塗装された)基板等が挙げられるが、これらに限定されない。上記コーティングは室温で硬化可能であり、また、熱風乾燥機やその他の加熱源において高温で硬化も可能である。
【実施例】
【0021】
以下に記載する実施例は本発明の例示にすぎない。
実験方法
実施例に用いられる原材料を以下に示す。
【0022】
【表1-1】
【表1-2】
【0023】
試験手順:
擬似フジツボ引き剥がし強度試験
本試験は、参考文献(Kohl JG&Singer IL、Pull−off behavior of epoxy bonded to silicone duplex coatings、Progress in Organic Coatings、1999、36:15−20)に記載の手順に変更を加えて、Instron社製の機器(商品名Instron(商標) Model 1122)を用いて実施した。直径10ミリメートルのアルミニウム製の鋲を、エポキシ系接着剤(Henkel Loctite Americas社(www.loctite.com)製、Hysol(登録商標)1C)を用いてコーティング済みパネルの表面に貼付した。約1時間の硬化後、はみ出したエポキシを除去した。次いで上記エポキシ系接着剤を、3日間以上室温で硬化させた。その後、上記鋲を、Instronによってコーティング済み表面から引き剥がした。各試験において、2つ以上、好ましくは3つの反復試験片を用い、引き剥がし強度(単位MPaで測定した)の平均値を求めた。擬似フジツボ引き剥がし強度の閾値は0.6MPaであった。
【0024】
接触角試験
AST Products社製VCA Optima接触角測定器を用いて、上記コーティングの水接触角を測定した。0.5〜1μLの水滴を、コーティング済み表面に載置した。平衡時間の後、接触角を測定した。接触角が大きいほど、コーティング済み表面の疎水性は高い。防汚コーティングには、100°以上の接触角が必要となる。
【0025】
耐衝撃性試験
Gardner社製衝撃試験機を用い、ASTM D2794に従って、上記コーティングの耐衝撃性を求めた。本試験では、コーティングの表面に静置された圧子の上に錘を落下させる。上記錘は既知の高さから落下され、上記圧子がコーティング済みパネルに凹みを形成する。上記凹み又はその周辺における、コーティングのひび割れや剥離を観察する。ひび割れや剥離を起こした力を、インチポンド(in−lb)で記録する。160in−lbsまでの範囲で、コーティング破損を起こさなかった最大の力を記録する。本試験は、コーティングを上向きにし、コーティングに直接的に(直接)衝撃を与えて行われる。耐衝撃性の閾値は80in−lbsであった。
【0026】
交差接着力試験
ASTM D3359に従って、交差接着力を測定した。許容可能な接着力と見なされるのは、評価4B又は5Bである。
【0027】
接着力試験(熱湯浸漬)
硬化後のパネルを、5日間熱湯(80℃)に浸漬した。湯浴からパネルを引き揚げ、乾燥させた後、実験室温度まで冷却した。交差接着力試験の際にマーキングされた領域で、コーティングの剥離、膨れ、発泡等を目視で確認した。破損が確認されなかった場合、上塗りは接着力の面で合格とした。
【0028】
コーティングの塗布と硬化
ワイヤーバー又は8面式ウェットフィルムアプリケーターを用いて、クロメート処理されたアルミニウム、及びリン酸処理された鋼の4インチ×12インチのパネルにコーティングを塗布した。これらのパネルは、糸くずの出ない布とIPAで拭き取ることで油分を除去し、圧縮空気又は窒素で乾燥させた。コーティング後のパネルは、試験前に相対湿度(RH)50%、実験室温度(約24℃)の条件で7日間以上硬化させた。
【0029】
組成
実施例1〜29、比較例1〜3
二重非対称遠心分離機FlackTek SpeedMixwer(商標)(型名DAC 150 FV−K、FlackTek社製)を用いてコーティングを調製した。配合は以下のように行った。
1.組成表に別の溶媒が指定されていない限り、MIBKと、プロピオン酸n−ブチルと、プロピオン酸n−プロピルと、を同重量部ずつ配合し、溶媒混合物を調製した。
2.上記の溶媒混合物と、1%DBTDLとを用いて、1%の触媒溶液を調製した。
3.上記のポリオールと、溶媒と、触媒溶液と、(組成に記載があれば)接着促進剤とをSpeedMixerのカップに投入した。
4.これらを約3000rpmで30秒混和した。
5.イソシアネート官能性成分をSpeedMixerのカップに投入した。
6.これらを約3000rpmで30秒混和した。
7.パネルに塗布し、上述の通り硬化させた。
【0030】
【表2】
【0031】
【表3】
【0032】
これらの結果から、ガラス転移温度の異なるアクリル系ポリオールを複数用いることで、耐衝撃性試験の結果で示される通り強度が高く、分離特性に優れたコーティングが得られることが分かる。さらに、PDMSポリマーにおけるイソシアネート官能性のレベルが異なる(Silmer C50は三官能性、Silmer Di−100は二官能性)場合にも同様の結果が得られることが分かる。これらの実施例におけるイソシアネート官能性PDMSの割合は、組成の総固体重量の10%である。
【0033】
【表4】
【0034】
【表5】
【0035】
これらの結果から、イソシアネート官能性PDMSの割合が異なることで、強度(耐衝撃性)が高く、分離特性に優れたコーティングが得られることが分かる。これらの組成におけるイソシアネート官能性PDMSの範囲は、組成の総固体重量の5〜20%である。さらに、異なる分子量のイソシアネート官能性PDMSポリマーを用いてよいことが分かる。すなわち、Silmer NCO Di−50(分子量4300g/mol)及びSilmer NCO Di−100(分子量8000g/mol)である。
【0036】
【表6】
【0037】
【表7】
【0038】
これらの結果では、強度(耐衝撃性)が高く、分離特性に優れたコーティングを得るためのイソシアネート官能性PDMSの範囲がさらに広い。これらの組成におけるイソシアネート官能性PDMSの範囲は、組成の総固体重量の20〜30%である。
【0039】
【表8】
【0040】
【表9】
【0041】
このデータでは、20および25%のイソシアネート官能性PDMSを配合し、アクリル系ポリオールAを用いた上述のデータにおいて、標識アクリル系ポリオールD(OH当量がやや多い)でも高い強度(耐衝撃性)と優れた分離特性を示すことが確認される。
【0042】
【表10】
【0043】
【表11】
【0044】
このデータでは、アクリル系以外のポリオールを使ってよいことが確認される。ただし、アクリル系ポリオールが好ましい。
【0045】
【表12】
【0046】
【表13】
【0047】
実施例20〜25は、許容可能な防汚特性とプライマーへの接着性を得るうえで、タイコートや中塗り層が不要であることを示す実施例である。上述の方法で調製した実施例20〜25を、市販の海洋用エポキシ系プライマー(International Paint社製Interguard 264)を製造者が推奨するとおりに塗布した処理済金属パネルに塗布した。上記のプライマーは、パネルに塗布された後それぞれ24時間、48時間、72時間、96時間、168時間(実施例20〜25(実施例24と25は168時間後に塗布)はシリコーンのレベルが異なる)かけて上述の通りに硬化させた。
【0048】
これらの実施例は、プライマーと防汚上塗りとの間にタイコートや中塗りを塗布しなくても、優れた分離特性が得られることを示す。さらに、熱湯による接着力試験で優れた接着力が示されるためには、プライマーを塗布してから上塗りを塗布するまでの好ましい待機時間は、24〜144時間であり、好ましくは24〜120時間であり、更に好ましくは48〜96時間である。
【0049】
【表14】
【0050】
【表15】
【0051】
実施例26〜29は、中塗りやタイコートを用いずに上記防汚上塗りの湿式接着力を更に向上させる目的でシラン系接着促進剤を使ってよいことを示すものである。上述の方法で調製した実施例24〜27を、市販の海洋用エポキシ系プライマー(International Paint社製Interguard 264)を製造者が推奨するとおりに塗布した処理済金属パネルに塗布した。上記のプライマーは、パネルに塗布された後それぞれ24時間、48時間、72時間、96時間(実施例24〜27)かけて硬化させた。上記プライマーの呼び上乾燥被覆厚さ(DFT)は、4〜4.5ミルである。上記上塗りは、DFTが2.5ミルよりも大きくなるよう塗布され、上述の通りに硬化される。
【0052】
以上の実施例から、上塗りの組成にシラン系接着促進剤を追加することで、プライマーと防汚上塗りとの間にタイコートや中塗りを塗布しなくても、熱湯による接着力試験で示されるとおり、優れた分離特性と優れた接着力が得られることが分かる。熱湯による接着力試験の後実施例26〜29のパネルを目視で評価した結果、実施例20〜23のパネルよりも外観が優れていた。シラン系接着促進剤の割合は、0.5〜3重量%、好ましくは1〜3重量%、より好ましくは1.5〜3重量%とすべきである。
【0053】
比較例
以下の比較例は、2Kウレタンシステムである。ただし、比較例は、性能と、硬化したコーティングの組成とが本発明と異なる。
【0054】
【表16】
【0055】
【表17】
【0056】
いずれもの接触角も、防汚コーティングの水接触角≧100°という閾値に達しなかった。各比較例では、シロキサン成分の粉ふきが激しく、表面から容易に拭き取れ、コーティング品質が極めて低かった。擬似フジツボの付着に関しては要件を満たしたが、熱湯浸漬後の接着力試験では基板からの剥離及び亀裂を生じ、いずれのコーティングも合格とならなかった。以上の比較例によって、2Kウレタン防汚技術と比較した場合に、中塗りやタイコート無しでより高い接着力を有し、かつコーティング品質も高い本発明の優位性がより明確に示される。