特許第6235375号(P6235375)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6235375
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】自動車の車体構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/04 20060101AFI20171113BHJP
   B62D 25/20 20060101ALI20171113BHJP
   B62D 25/06 20060101ALI20171113BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   B62D25/04 B
   B62D25/20 F
   B62D25/06 A
   B32B5/28 A
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-37066(P2014-37066)
(22)【出願日】2014年2月27日
(65)【公開番号】特開2015-160524(P2015-160524A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2016年11月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002192
【氏名又は名称】特許業務法人落合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100071870
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 健
(74)【代理人】
【識別番号】100097618
【弁理士】
【氏名又は名称】仁木 一明
(74)【代理人】
【識別番号】100152227
【弁理士】
【氏名又は名称】▲ぬで▼島 愼二
(72)【発明者】
【氏名】飛田 一紀
【審査官】 須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−129611(JP,A)
【文献】 特開2010−247789(JP,A)
【文献】 特開2007−196545(JP,A)
【文献】 特開平06−101732(JP,A)
【文献】 特開2014−233999(JP,A)
【文献】 特開2009−178997(JP,A)
【文献】 特開2005−225364(JP,A)
【文献】 特開2009−014175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/04
B32B 5/28
B62D 25/06
B62D 25/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体外部からの荷重の入力時に引張側となる金属製の中空フレーム(11,13,16)の壁部(18b)にCFRP製の補強材(19)を接着する自動車の車体構造であって、
前記補強材(19)は前記中空フレーム(11,13,16)の長手方向に沿って配向された厚さが0.8mm以上の連続炭素繊維層(22)を含み、かつ前記補強材(19)は前記中空フレーム(11,13,16)の長手方向に直交する方向に配向された直交連続炭素繊維層(23)を含み、前記連続炭素繊維層(22)は前記直交連続炭素繊維層より厚さを大きくし、前記連続炭素繊維層(22)は前記直交連続炭素繊維層(23)を挟んで厚さ方向に対称に配置されることを特徴とする自動車の車体構造
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体外部からの荷重の入力時に引張側となる金属製の中空フレームの壁部にCFRP製の補強材を接着する自動車の車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
金属板とCFRP板とをエポキシ系発泡樹脂で接着することで、短期間で製造が可能であり、加熱硬化後のそりの発生を抑制することができ、かつ補強効果に優れた金属樹脂複合構造体を得るものが、下記特許文献1により公知である。
【0003】
また未硬化繊維強化樹脂(プリプレグ)と鋼板とを貼り合わせたものを所定形状にプレス成形し、次いでプリプレグを挟んで鋼板に被溶接物を溶接した後にプリプレグを硬化させることで、プリプレグのプレス成形および鋼板のプレス成形を一工程で完了させるものが、下記特許文献2により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−196545号公報
【特許文献2】特開2009−178997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1、2に記載されたものは、鋼板に貼り合わされるCFRPの連続炭素繊維の配向方向やCFRPの厚さについて開示しておらず、引張強度に優れた連続炭素繊維の特性を充分に活かしきれないだけでなく、更なる強度増加や軽量化の余地を残している。
【0006】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、車体外部からの荷重の入力時に引張側となる金属製の中空フレームの壁部をCFRP製の補強材で効果的に補強することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、車体外部からの荷重の入力時に引張側となる金属製の中空フレームの壁部にCFRP製の補強材を接着する自動車の車体構造であって、前記補強材は前記中空フレームの長手方向に沿って配向された厚さが0.8mm以上の連続炭素繊維層を含み、かつ前記補強材は前記中空フレームの長手方向に直交する方向に配向された直交連続炭素繊維層を含み、前記連続炭素繊維層は前記直交連続炭素繊維層より厚さを大きくし、前記連続炭素繊維層は前記直交連続炭素繊維層を挟んで厚さ方向に対称に配置されることを特徴とする自動車の車体構造が提案される
【0008】
尚、実施の形態のサイドシル11、Bピラー13およびフロントルーフアーチ16は本発明の中空フレームに対応し、実施の形態の車幅方向内壁部18bは本発明の壁部に対応する。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の構成によれば、車体外部からの荷重の入力時に引張側となる金属製の中空フレームの壁部に接着されるCFRP製の補強材は、中空フレームの長手方向に沿って配向された厚さが0.8mm以上の連続炭素繊維層を含むので、厚さ1.8mm、引張強度980MPaの高張力鋼と同等の耐荷重を薄くて軽量なCFRP製の補強材で得ることができるだけでなく、引張荷重が集中する場所だけに補強材を貼り付ければよいので、高価な炭素繊維の使用量を減らしてコストおよび重量の増加を最小限に抑えることができる。
【0010】
しかも補強材は中空フレームの長手方向に直交する方向に配向された直交連続炭素繊維層を含み、連続炭素繊維層は直交連続炭素繊維層より厚さを大きくし、連続炭素繊維層は直交連続炭素繊維層を挟んで厚さ方向に対称に配置されるので、直交連続炭素繊維層により中空フレームの長手方向に直交する方向の引張荷重を支持できるだけでなく、連続炭素繊維層を構成する連続繊維がばらばらにならないように拘束して強度低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】自動車の車体フレームの部分斜視図。(第1の実施の形態)
図2図1の2部分解斜視図。(第1の実施の形態)
図3】補強材の連続炭素繊維層および直交連続炭素繊維層の積層状態の説明図。(第1の実施の形態)
図4図1の4−4線拡大断面図。(第1の実施の形態)
図5】Bピラーの曲げ強度を示すグラフ。(第1の実施の形態)
図6図1の6−6線断面図。(第1の実施の形態)
図7図4に対応する図。(第2の実施の形態)
【発明を実施するための形態】
【第1の実施の形態】
【0012】
以下、図1図6に基づいて本発明の第1の実施の形態を説明する。尚、本明細書において、前後方向、左右方向(車幅方向)、上下方向とは、運転席に着座した乗員を基準として定義される。
【0013】
図1に示すように、自動車の車体フレームは、左右一対のサイドシル11,11を備えており、サイドシル11,11の前端から左右一対のAピラーロア12,12が立ち上がるとともに、サイドシル11,11の前後方向中間部から左右一対のBピラー13,13が立ち上がる。Aピラーロア12,12の上端に接続された左右一対のAピラーアッパー14,14の後端から後方に延びる左右一対のルーフサイドレール15,15にはBピラー13,13の上端が接続され、左右のルーフサイドレール15,15の前端間が車幅方向に延びるフロントルーフアーチ16の両端に接続される。
【0014】
図1および図2に示すように、Bピラー13はハット状断面の鋼板よりなるアウターパネル17と、ハット状断面の鋼板よりなるインナーパネル18とを、それらの接合フランジ17a,17a,18a,18aどうしを溶接Wすることで閉断面に構成される。そしてインナーパネル18の車幅方向内壁部18bにCFRP(カ−ボン繊維強化樹脂)製の補強材19がエポキシ樹脂系の発泡性接着剤20で貼り付けられる。
【0015】
図3および図4に示すように、補強材19は、連続炭素繊維21…を一方向に引き揃えてシート状にしたUDを未硬化の熱硬化性マトリクス樹脂内に埋設したプリプレグを10層に積層して構成される。10層のプリプレグのうち、積層方向両側の各4層は連続炭素繊維21…の配向方向がBピラー13の長手方向(上下方向)に沿っており、これらの8層は連続炭素繊維層22…を構成する。積層方向中央の2層は連続炭素繊維21…の配向方向がBピラー13の長手方向(上下方向)に対して直交しており、これらの2層は直交連続炭素繊維層23,23を構成する。連続炭素繊維層22および直交連続炭素繊維層23の各層の厚さは0.1mmであり、よって補強材19のトータルの厚さは1.0mmとなり、連続炭素繊維層22…と直交連続炭素繊維層23,23との厚さの比率は4:1となる。
【0016】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用を説明する。
【0017】
Bピラー13のインナーパネル18の車幅方向内壁18bに、プリプレグが未硬化の状態の補強材19を発泡性接着剤20の粘着性を利用して仮止めする。このとき、未硬化のプリプレグは柔軟性を有するため、曲面よりなるインナーパネル18の車幅方向内壁18bに容易に馴染ませることができる。次に、車体を乾燥炉に入れて加熱するとプリプレグが硬化して補強材19が所定形状に成形されると同時に、発泡性接着剤20が硬化してインナーパネル18の車幅方向内壁部18bに補強材19を強固に接着する。このように、Bピラー13のインナーパネル18の車幅方向内壁部18bに接着した未硬化の補強材19を乾燥炉の熱で硬化させるので、曲面よりなるインナーパネル18の車幅方向内壁部18bに沿う形状の補強材19を特別の金型を必要とせず容易に成形することが可能となって生産性が向上する。
【0018】
鋼板製のインナーパネル18の熱膨張率aは、CFRP製の補強材19の熱膨張率bよりも大きいため、温度変化に伴うインナーパネル18および補強材19の熱膨張量の差によってインナーパネル18から補強材19が剥がれ易くなるが、本実施の形態によれば、硬化後も柔軟性を失わない発泡性接着剤20によって前記熱膨張量の差を吸収することで、インナーパネル18からの補強材19の剥がれを確実に防止することができる。
【0019】
さて、車両が側面衝突を受けてBピラー13に衝突荷重が入力すると、Bピラー13が車室側に湾曲するように変形するため、車幅方向外側のアウターパネル17に圧縮荷重が作用し、車幅方向内側のインナーパネル18に引張荷重が作用する。引張荷重が作用するインナーパネル18の車幅方向内壁部18bは長手方向に引き延ばされるように変形するが、その車幅方向内壁部18bに貼り付けた補強材19は連続炭素繊維21…を前記長手方向に配向した8層の連続炭素繊維層22…を備えるため、引張荷重に強い連続炭素繊維21…でインナーパネル18の伸び変形を阻止することで、衝突荷重によるBピラー13の車室側への変形を最小限に抑えることができる。
【0020】
また補強材19が連続炭素繊維層22…だけを備えると、連続炭素繊維21…がばらばらになって強度が低下する可能性があるが、補強材19の厚さ中央に2層の直交連続炭素繊維層23,23を挟んだので、直交連続炭素繊維層23,23によって連続炭素繊維層22…の連続炭素繊維21…がばらばらになるのを防止して補強材19の強度を確保することができるだけでなく、Bピラー13のインナーパネル18の長手方向に直交する方河の伸び変形を直交連続炭素繊維層23,23によって効果的に阻止することができる。特に、中央の直交連続炭素繊維層23,23と、その両側の各4層の連続炭素繊維層22…とは補強材19の厚さ方向に対称に配置されるので、少ない層数の直交連続炭素繊維層23,23で連続炭素繊維層22…の連続炭素繊維21…がばらばらになるのを効果的に防止することができる。
【0021】
図5は、補強材19の補強効果を示すグラフであり、横軸はBピラー13の変形ストローク、縦軸はBピラー13の曲げ強度である。破線は補強部材を持たない第1比較例のBピラー13に対応し、鎖線は厚さ1.8mm、引張強度980MPaの高張力鋼の補強材をインナーパネル18に貼り付けた第2比較例のBピラー13に対応し、実線は本発明の補強材19を貼り付けた実施の形態のBピラー13に対応する。
【0022】
実施の形態のBピラー13の曲げ強度は、補強材を持たない第1比較例のBピラー13よりも高く、厚さ1.8mmの高張力鋼の補強材を持つ第2比較例のBピラー13と同等であることが分かる。
【0023】
以上のように、本実施の形態によれば、厚さ0.8mm以上の連続炭素繊維層22…を含む補強材19により、厚さ1.8mm、引張強度980MPaの高張力鋼の補強材と同等の耐荷重を得ることができるので、車体重量の増加を最小限に抑えながらBピラー13を効果的に補強することができる。しかも引張荷重が集中する場所だけに補強材19を貼り付ければよいので、高価な炭素繊維の使用量を減らしてコストおよび重量の増加を最小限に抑えることができる。
【0024】
このような構造の補強材19は、上述したBピラー13のインナーパネル18以外に、車体フレームの各部に取り付けることができる。
【0025】
例えば、図1において、サイドシル11の前後方向中央部の車幅方向内壁部に、連続炭素繊維21…を前後方向に配向した連続炭素繊維層22…を有する補強材19を貼り付ければ、サイドシル11に側面衝突の衝突荷重が入力して車幅方向内壁部に引張荷重が作用したときに、その引張荷重を補強材19で支持してサイドシル11の変形を最小限に抑えることができる。
【0026】
またフロントルーフアーチ16の車幅方向両端部の下壁部に、連続炭素繊維21…を車幅方向に配向した連続炭素繊維層22…を有する補強材19を貼り付ければ、車両が横転して車体上部から入力する荷重によりフロントルーフアーチ16の下壁部に引張荷重が作用したときに、その引張荷重を補強材19で支持してフロントルーフアーチ16の変形を最小限に抑えることができる。
【0027】
また図1および図6から明らかなように、フロントルーフアーチ16の車幅方向外端およびAピラーアッパー14の後端に接続されるルーフサイドレール15は、アウターパネル24およびインナーパネル25をスチフナ26を挟んで溶接した閉断面に構成され、インナーパネル25の内壁部に連続炭素繊維層22…を前後方向に配向した補強材19が貼り付けられる。これにより、車両が横転して車体上部から入力する荷重によりルーフサイドレール15の内壁部に引張荷重が作用したときに、その引張荷重を補強材19で支持することで、Aピラーアッパー14の後端から後方に延びるルーフサイドレール15の変形を最小限に抑えることができる。
【第2の実施の形態】
【0028】
次に、図7に基づいて本発明の第2の実施の形態を説明する。
【0029】
第1の実施の形態では、Bピラー13のインナーパネル18と補強材19とを発泡性接着剤20を介して接着しているが、第2の実施の形態は、補強材19の10層のプリプレグのうち、Bピラー13のインナーパネル18に近い側の任意数のプリプレグの連続炭素繊維21…に対する含浸樹脂(マトリクス樹脂)の比率を高くし、この含浸樹脂が熱硬化する際の接着力でインナーパネル18に接着するものである。このように、プリプレグの含浸樹脂を接着剤として利用することで、特別の接着剤が不要になって製造コストが削減される。
【0030】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0031】
例えば、実施の形態の補強材19は8層の連続炭素繊維層22…および2層の直交連続炭素繊維層23,23を備えているが、連続炭素繊維層22…および直交連続炭素繊維層23,23の層数は実施の形態に限定されず、連続炭素繊維層22…のトータルの厚さが0.8mm以上であれば高張力鋼の補強材と同等以上の補強効果を得ることができる。
【0032】
また本発明が適用可能な中空フレームは、実施の形態のBピラー13、サイドシル11およびフロントルーフアーチ16に限定されるものではない。
【0033】
また実施の形態では補強材19を中空フレームの車幅方向内壁部の外面(閉断面の外側面)に貼り付けているが、それを内面(閉断面の内側面)に貼り付けても良い
【符号の説明】
【0034】
11 サイドシル(中空フレーム)
13 Bピラー(中空フレーム)
16 フロントルーフアーチ(中空フレーム)
18b 車幅方向内壁部(壁部)
19 補強材
20 発泡性接着剤
22 連続炭素繊維層
23 直交連続炭素繊維層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7