(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
下記式から求められる直線度が0.70以上1.0未満であり、長さが1.0〜15.0mmである、捲縮されたセルロースアセテートフィラメントのトウからなる短繊維。
直線度=捲縮状態の繊維長/実際の繊維長
(捲縮状態の繊維長:捲縮された1本の繊維の末端2点をつなぐ直線距離。
実際の繊維長:前記の捲縮状態の1本の繊維において、目視で確認できる1つの屈曲点から次の屈曲点の距離を測定し、同様にして全ての屈曲点間距離を測定し、それらを合計した長さ。)
【背景技術】
【0002】
紙オムツなどに使用されている吸収部材はフラッフパルプからなるものが多いが、厚みが厚く、装着時の違和感がある。
また、フラッフパルプで軽量化及び薄型化をすると装着時に型崩れするなど形状を維持できない。
そこで、糸に膨らみをもたせ、紡績作業を容易にするため、捲縮が付与されたアセテート繊維トウを用いた吸収体が提案されている。
【0003】
特許文献1には、短繊維及び長繊維を含むウエブを備えた吸収体であって、該短繊維及び該長繊維が何れも吸収体の長手方向に配向しており、且つ該ウエブの構成繊維全体の配向度が1.2以上である吸収体が開示されている。
【0004】
特許文献2には、繊維ウエブを含む吸収性コアを具備し、該繊維ウエブは、合成又は半合成繊維を主体として構成されており、合成又は半合成繊維である構成繊維を、該吸収性コアの全長に対する繊維長の比に応じて、該比が1/4未満である第1の繊維群と、該比が1/4以上2/4未満である第2の繊維群と、該比が2/4以上3/4未満である第3の繊維群と、該比が3/4以上である第4の繊維群とに区分したとき、第1〜第4の繊維群のうちの3以上の繊維群の繊維を含んでいる、吸収性物品の吸収体が開示されている。
【0005】
特許文献3には、トウから得られた長繊維のウエブと該ウエブ中に含まれる塊状の粒子とを有する吸収体であって、前記ウエブの平面方向における前記粒子が分布する範囲の少なくとも一部に、該ウエブを構成する長繊維が切断されて生じた、合成又は半合成繊維である多数の短繊維が存在している吸収体が開示されている。
【0006】
特許文献1〜3の発明は、繊維長が異なる繊維を組み合わせて使用する必要があることから、製造方法が複雑化であり、様々な条件下における形状維持性においても改善の余地がある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<短繊維とその製造方法>
本発明の短繊維について説明する。
本発明の短繊維は、捲縮されたセルロースアセテートフィラメントのトウ(以下、単に「セルロースアセテートトウ」と称する)からなるものであり、所定の直線度と長さを有しているものである。
【0013】
直線度は下記式から求められるものであり、0.70以上1.0未満であり、好ましくは0.70〜0.85である。
直線度=捲縮状態の繊維長/実際の繊維長
(捲縮状態の繊維長:捲縮された1本の繊維の末端2点をつなぐ直線距離。
実際の繊維長:前記の捲縮状態の1本の繊維において、目視で確認できる1つの屈曲点から次の屈曲点の距離を測定し、同様にして全ての屈曲点間距離を測定し、それらを合計した長さ。)
【0014】
直線度は、次のようにして測定することができる。
測定サンプルは、まずほぐれた状態の短繊維サンプルをスライドガラス上に置き、上部からカバーガラスを被せ、繊維がガラス面に対して平行な状態として、作成する。
繊維長の測定は、繊維マイクロスコープCCDカメラ(キーエンス社製VH−5000、倍率20〜60倍)を用いて繊維を観測する。CCDカメラ撮影画像内での繊維長の測定には、市販されている長さ測定用アプリケーション(キーエンス社製CCDカメラ内臓品)を使用する。画像内の長さを測定できるものであればその他の手段でも構わない。
測定は、繊維の「捲縮状態の繊維長」と「実際の繊維長」を測定する。
「捲縮状態の繊維長」は、捲縮状態の1本の繊維の末端2点をつなぐ直線距離である。
「実際の繊維長」は、前記の捲縮状態の1本の繊維において、目視で確認できる1つの屈曲点から次の屈曲点の距離を測定し、同様にして全ての屈曲点間距離を測定し、それらを合計した長さである。
これらの「捲縮状態の繊維長」と「実際の繊維長」はバラツキが生じるため、無作為に選出した10本の繊維の平均値とする。これらの「捲縮状態の繊維長」と「実際の繊維長」から上記の計算式で直線度を算出する。
また、短繊維の長さは1.0〜15.0mmであるが、直線度は誤差を小さくするため、1本の繊維長さを10cm程度またはそれ以上として測定することが望ましい。
【0015】
短繊維の長さは、1.0〜15.0mmであり、好ましくは4.0〜10.0mmである。
【0016】
次に本発明の短繊維の製造方法の好ましい2つの実施形態について説明する。
<第1の短繊維の製造方法>
(第1工程)
第1工程では、捲縮されたセルロースアセテートトウに対して水を含浸させる。
このときの水の含浸量は、水含浸後のセルロースアセテートトウの質量中30〜70質量%の量であり、好ましくは40〜60質量%の量である。
【0017】
第1工程における水の含浸方法は、トウを水中に浸漬する方法、トウに対して水を噴霧する方法、トウに対して水を塗布する方法、またはこれらを組み合わせた方法などを適用することができる。
【0018】
(第2工程)
第2工程では、水を含浸させた捲縮されたセルロースアセテートトウを捲縮がなくなるまで延伸した状態で所望長さに切断する。
ここで「捲縮がなくなるまで延伸した状態」は、捲縮されたセルロースアセテートトウが直線状態になるまでである。
「捲縮がなくなるまで延伸した状態」にする方法としては、例えば、水を含浸させた捲縮されたセルロースアセテートトウの一端側を固定した状態で他端側を引っ張る方法などを適用することができる。
切断長さは、1.0〜15.0mmであり、好ましくは4.0〜10.0mmである。
このようにして得られたセルロースアセテートトウの短繊維は、上記したとおり、直線度は0.70以上1.0未満であり、好ましくは0.70〜0.85である。
【0019】
<第2の短繊維の製造方法>
(第1工程)
第1工程では、捲縮されたセルロースアセテートトウに対して、2対以上のローラ間を通過させて幅方向に押し広げて開繊する。
第1工程において2対のローラを使用するときは、2対のローラ間の圧力はそれぞれが0.10〜0.20MPaが好ましく、1番目のローラと2番目のローラを通すときの圧力は同じ圧力にすることが好ましい。
【0020】
また第1工程において2対のローラを使用するときは、開繊し易くするため、1番目のローラを通すときの線速度よりも、2番目のローラを通すときの線速度を大きくすることが好ましい。
例えば、
1番目のローラ(上流側のローラ)を通すセルロースアセテートトウの線速度は50〜80m/分が好ましく、60〜75m/分がより好ましく、
2番目のローラ(下流側のローラ)を通すセルロースアセテートトウの線速度は110〜160m/分が好ましく、120〜150m/分がより好ましい。
【0021】
(第2工程)
第2工程では、開繊された状態のセルロースアセテートのトウを所望長さに切断する。
切断長さは、1.0〜15.0mmであり、好ましくは4.0〜10.0mmである。
このようにして得られたセルロースアセテートトウの短繊維は、上記したとおり、直線度は0.70以上1.0未満であり、好ましくは0.70〜0.85である。
【0022】
<短繊維シートおよびその製造方法>
次に上記の短繊維を使用した短繊維シートについて説明する。
本発明の短繊維シートは、上記したセルロースアセテートトウからなる短繊維からなるものである。
短繊維シートの坪量は用途に応じて調整することができるものであるが、0.05〜0.04g/cm
2が好ましく、0.01〜0.03g/cm
2が好ましい。
短繊維シートの厚みは用途に応じて調整することができるものであるが、1〜25mmが好ましく、5〜15mmがより好ましい。
【0023】
次に本発明の短繊維シートの製造方法について説明する。
上記した第1の短繊維の製造方法、または第2の短繊維の製造方法によって、所定の直線度でかつ所定長さの短繊維を製造する。
【0024】
次に、短繊維を成形してシート状にする。
このときのシート状にする方法は特に制限されるものではなく、公知のプレス法を適用できるほか、例えば、次の方法を適用することができる。
まず、筒の一端開口部をメッシュ部材で覆う。なお、他端開口部は開放状態に維持する。
筒の断面形状は、目的とする短繊維シートの平面形状に応じて、円形、楕円形、三角形、四角形以上の多角形などから選択することができる。
メッシュ部材の目開きは0.05〜0.15mm程度(試験用篩では100〜200メッシュ)が好ましい。
【0025】
次に、筒の一端開口部を覆うメッシュ部材に対して短繊維を気流と共に吹き付ける。このときの気流の速度は1〜5m/秒が好ましい。
さらに短繊維を気流と共に吹き付けることと並行して、筒の他端開口部から吸引することもできる。このときの吸引速度は吹き付け速度と同程度にすることができる。
このようにしてメッシュ部材上に短繊維を積層することで、目的とする短繊維シートを得ることができる。
短繊維シートは、必要に応じて一面または両面を紙などで覆うことができる。
【0026】
本発明の短繊維シートは、使い捨ておむつ、生理用ナプキン、失禁パッドなどの吸収性物品の製造材料として好適である。
【実施例】
【0027】
実施例1(短繊維の製造)
第1の短繊維の製造方法を適用して製造した。
(第1工程)
捲縮されたセルロースアセテートトウ((株)ダイセル製 FD:3.0、TD:30000、CN:300、Y字状断面)を水槽中に浸漬して、約50質量%含水状態とした。
(第2工程)
次に、含水状態のセルロースアセテートトウの一端側を固定した状態で他端側を引っ張ることで延伸して直線状にした状態で、回転刃型切断機(株式会社中部コーポレーション社製)を用いて繊維長約4mmに切断して短繊維を製造した。直線度は0.82であった。繊維の切断は回転刃切断機に限らず、ギロチン刃切断機等を使用しても良い。
【0028】
実施例2(短繊維の製造)
第2の短繊維の製造方法を適用して製造した。
(第1工程)
セルロースアセテートトウを1対の第1のローラ(ローラ圧力0.15MPa,線速度67m/分)に通した後、第1のローラの下流側に配置された1対の第2のローラ(ローラ圧力0.15MPa,線速度140m/分)を通して、過開繊状態とした。
(第2工程)
次に、回転刃型切断機を用いて過開繊状態のトウを繊維長約4mmに切断して短繊維を製造した。直線度は0.70であった。
【0029】
実施例3(短繊維の製造)
実施例2と同様の方法で短繊維を製造した。但し、繊維長は約10mmであり、直線度0.74であった。
【0030】
比較例1(比較用短繊維の製造)
実施例1の第2工程に代えて、セルロースアセテートのTgを超える温度下(約70℃)湿熱状態にて含水状態のセルロースアセテートトウを維持することで直線状にした状態で、回転刃型切断機を用いて繊維長約4mmに切断した。直線度は1.00であった。
【0031】
比較例2(比較用短繊維の製造)
セルロースアセテートトウを1対の第1のローラ(ローラ圧力0.15MPa,線速度87m/分)に通した後、第1のローラの下流側に配置された1対の第2のローラ(ローラ圧力0.15MPa,線速度140m/分)を通して、予備開繊した。
次に第2のローラの下流にて、特開2004−244794号公報の
図1〜
図7に示された開繊ジェット240を用いてトウを溜め込んだ。その状態で回転刃型切断機を用いて繊維長約4mmに切断した。直線度は0.61であった。
【0032】
比較例3(比較用短繊維の製造)
捲縮のかけられたセルロースアセテートトウを開繊することなく、そのままの状態で回転刃型切断機を用いて繊維長約4mmに切断した。直線度は0.31であった。
【0033】
比較例4(比較用短繊維の製造)
比較例1と同様の方法で繊維長約10mmの短繊維を製造した。直線度は1.00であった。
【0034】
比較例5、6(フラッフパルプ)
繊維長に分布のあるフラッフパルプ(繊維長分布1mm〜3mm程度)を使用した。
【0035】
実施例および比較例(短繊維シートの製造)
上記の実施例1〜3、および比較例1〜6の短繊維を用いて坪量0.01g/cm
2(比較例6のみ0.03g/cm
2)の短繊維シート(またはフラッフパルプシート)を製造した。シートは、次の方法で製造した。
密閉状態の円筒(直径10cm、長さ約1m)の一端開口部にメッシュ(目開き0.15mm)を固定した。
次に、メッシュ上部からエアーガンを用いて短繊維をメッシュに吹き付け(風速2〜3m/s)、同様に円筒下部より同様のジェットで吸引(風速2〜3m/s)を行い、メッシュに短繊維を積層させて各シート(厚さ10mm)を得た。
【0036】
(測定方法)
以下の方法で使用した繊維シートは、実施例1〜3、および比較例1〜6で得られた短繊維またはフラッフパルプからなる、半径50mm、坪量0.01g/cm
2(比較例6のみ0.03g/cm
2)の円形状シートである。
【0037】
評価1(外観評価)
シートサンプルの表面滑らかさ、凹凸を目視で評価した。
○:シート表面の凹凸や繊維の塊がなく滑らかである。
△:部分的に凹凸、また繊維の塊が存在している、
×:全体的に凹凸が存在、あるいは繊維の塊が分散して存在している。
【0038】
評価2(柔軟性・弾力性評価)
シートサンプルに対して垂直方向から指で押えた際の柔軟性・弾力性を評価した。
○:全体的に柔軟、かつ、弾力がある。
△:シートの一部で柔軟性が低い(繊維の塊等での硬い感触がある)、あるいは、弾力性が低い(加圧後の復元力が弱い)。
×:全体的に柔軟性・弾力性が低い。
【0039】
評価3(形状維持試験)
シートサンプルの端から1cmの位置をピンセットで挟み持ち上げ、崩れ性を評価した。
○:変化無し(崩れない)。
△:持ち上げることはできたが、その後で崩れた。
×:持ち上げようとすると崩れた。
【0040】
評価4(振動試験)
シートサンプルの端から1cmの位置をピンセットで挟み持ち上げ、振幅1cm、100min
-1で振動させ、崩れ落ちるまでの時間で評価した。60secを上限とした。
【0041】
評価5(割れ試験)
シートサンプルを両面から包装紙で挟み、中央部を両手で10回擦り合わせたときの、繊維体の割れ性を評価した。
○:割れなかった。
△:割れなかったが、ひびが入った。
×:割れた。
【0042】
評価6(吸水時の形状維持試験)
シートサンプルを完全に水中に浸漬した状態で、端から1cmの位置をピンセットで挟み持ち上げ、崩れ性を評価した。
○:変化無し(崩れない)。
△:持ち上げることはできたが、その後で崩れた。
×:持ち上げようとすると崩れた。
【0043】
評価7(吸水時割れ試験)
シートサンプルを完全に水中に浸漬した状態で、端から1cmの位置をピンセットで押さえながら、水平に引いたときの割れ性を評価した。
○:割れなかった。
△:割れなかったが、ひびが入った。
×:割れた。
【0044】
評価8(引張試験)
シートサンプル(坪量0.05g/cm
2)の引張強度(最大点応力)を測定した。
【0045】
【表1】
【0046】
本発明の短繊維およびそれからなる短繊維シートは、柔軟性や弾力性が良く、外力が加えられたときや湿潤状態における形状維持性が優れていた(即ち、崩れたり、割れたりし難い)。
このため、使い捨ておむつ、生理用ナプキン、失禁パッドなどの吸収性物品の製造材料として使用した場合には、従来品よりも厚みを薄くした場合であっても同等以上の品質を維持することができる。